ジャズテットの隠れた魅力
ジャズ盤コレクションを振り返りながら、小粋なジャズ盤をピックアップしては聴き直している。初心者向けのジャズ紹介本で、常に挙げられる「名盤」も良いが、何も、その「名盤」だけがジャズ盤ではない。ジャズ盤は世の中に「ごまん」とある。ジャズ紹介本に取り上げられない盤にも「名盤」に負けない内容の「小粋なジャズ盤」が沢山ある。これを探し当て、聴き込む。これが「当たり」であれば、それはもう至福の時である。
『The Jazztet and John Lewis』(写真左)。1960年12月20–21日、1961年1月9日の録音。ちなみにパーソネルは、Art Farmer (tp), Benny Golson (ts), Tom McIntosh (tb), Cedar Walton (p), Tommy Williams (b), Albert Heath (ds), John Lewis (arr)。ジャズテットとしての3枚目のアルバムである。
ファンキー・ジャズの人気グループとして旗揚げした「ジャズテット」。1959年にトランペット奏者のアート・ファーマーとテナーサックス奏者のベニー・ゴルソンによって結成されたジャズ・セクステット。双頭リーダーのファーマーとゴルソンは変わることはないが、リズム・セクションを中心に、メンバーはコロコロ変わる。そして、そのバンド・サウンドもアレンジャーが変わると、そのアレンジャーの志向コロっと変わる。
このジャズテットとしての3枚目のアルバムは、室内楽ジャズの仕掛け人、ジョン・ルイスが、作曲家兼編曲家としてジャズテットと組んだ、いわゆる企画盤。ハードバップなアンサンブルを旨とするファンキー・ジャズが「売り」のジャズテットが、ルイスのアーティステックで室内楽ジャズ志向のアレンジを採用して、理知的でスマートなモダン・ジャズに変身しているのだから興味津々である。
冒頭の「Bel」から、ジョン・ルイスの個性溢れるアレンジ全開である。まず、この曲、ジョン・ルイスが、このアルバムの為に直々に書き下ろしたもの。オープニングの、メロディアスで、クラクションのように機能する3管フロントのテーマの響き自体、すでに「ジョン・ルイス」の音世界である。
そして、びっくりするのが、3曲目の「Django」。このMJQの耽美的でブルージーな名曲名演を、レコード史上最も激しくスウィングする演奏で、ガンガンにすっ飛ばす。しかし、このアレンジは、ジャズテットの「ハイテクニックで疾走感溢れる、スインぎーなアンサンブル」という個性を、効果的に全面的にアピールするもので、ジャズテットの演奏力のずば抜けた高さを証明してみせる。
「ミラノ」や「ニューヨーク19」のような緩やかで牧歌的な曲とアレンジは、ゴルソンのテナーの、意外というか「暖かく息づくような音色」とファーマーのトランペットの「叙情的なスタイル」を引き出し、これらの曲には、バックに、穏やかでブルージーで印象的なハーモニーがふんだんに盛り込まれている。
ジョン・ルイスのアレンジによって、ジャズテットの新しい魅力が発掘された、そんなジャズテットのサード・アルバム。この盤では、ジャズテットは「単純なファンキー・ジャズなバンド」ではなく、様々なアレンジに完全対応する「能力の高いプロフェッショナルなバンド」だということが良く判る。ジャズテットのアーティスティックな隠れた魅力が出た好盤だと思う。
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