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2026年7月26日 (日曜日)

弦と鉄琴のポップ・ファンク

後期オールド・ブルーノートの看板アーティストの一人として、モーダルで前衛的なアプローチ、いわゆる新主流派ジャズを牽引してきたが、1970年代に入ると、コンテンポラリーなニュー・ジャズを模索、しっかりとした成果を上げたにも拘わらず、レーベル全体の商業的方針の転換もあり、よりキャッチーなソウル・ジャズやクロスオーバー路線への転身を図る。それの最初の成果がこのアルバムである。

Bobby Hutcherson『Natural Illusions』(写真左)。1972年3月2–3日の録音。ちなみにパーソネルは、Bobby Hutcherson (vib), Hank Jones (p), Gene Bertoncini (g), George Duvivier, Ron Carter (b), Jack DeJohnette (ds), Phil Bodner, Hubert Laws, Romeo Penque, Daniel Trimboli (fl), George Marge (oboe), John Leone (bassoon), Eugene Bianco (harp), Irving Spice, Aaron Rosand (vln), Julian Barber, Seymour Berman (viola), Seymour Barab (cello)。

今までの新主流派の最先端を行く、限りなくモーダルな自由度の高いジャズ、そして、それを発展させた、コンテンポラリーなニュー・ジャズを展開してきたボビー・ハッチャーソンが、いきなり、壮大でメロウなストリングスやフルートなどを大胆にフィーチャーした、ポップで聴きやすいイージー・リスニング〜ジャズ・ファンク路線へとシフトした異色作。音の雰囲気は、まるで当時の「CTIサウンド」である(笑)。
 

Bobby-hutchersonnatural-illusions

 
このアルバムの最大の特徴は、成功したかどうかは良く判らないが、ジャズ・ヴィブラフォンと豪華なストリングス(弦楽オーケストラ)、さらにはフルートやオーボエ、ファゴットといった木管楽器を大胆に融合させた点にある。サウンド的には、変則編成のオーケストラをバックにしたフュージョン(融合)・ジャズの趣きである。制作志向としては、当時のCTIレーベルのサウンドに酷似しているが、オーケストラのアレンジが旧来然としていて、垢抜けないフュージョン・ジャズに陥っているところが惜しい。

冒頭「When You're Near」は、耽美的なヴァイブとピアノが美しく響く、スローな純ジャズ志向な演奏なのだが、2曲目の「The Thrill Is Gone」から、ストリングスが優美に拡がり、流麗なヴィブラフォンのメロディが美しく響く、本作の方向性を決定づける演奏に度肝を抜かれる。しかし、4曲目「Rain Every Thursday」は、そのストリングスをバックに、ビートの効いたイージーリスニングなジャズ・ファンクが展開されてビックリする。しかし、直ぐにポップで聴きやすいイージー・リスニング志向に戻る。

当時のアルバム評としては、あまりに商業的、音楽はしばしばありきたりに聞こえる、と劣悪な評価が並ぶ。1980〜90年代以降のクラブ・ジャズやレア・グルーヴシーンにおいて再評価されはするが、純粋にモダン・ジャズのアルバム内容としては、あまり良い評価は下せない。演奏はハイレベルなのだが、いかんせん、アレンジとプロデュースが古すぎる。そこが、CTIレーベルとの差として現れた。このアルバム以降、ブルーノートは急速に勢いを失い、1970年代末に新規録音が途絶えて一時休眠状態となる。
 
 

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2026年7月 6日 (月曜日)

東西の精鋭が紡ぐ知的なジャズ

1950年代前半にアメリカ西海岸で巻き起こった「ウエストコースト・ジャズ」の精鋭たちと、独自の音楽理論を展開していたテディ・チャールズの音楽性が融合した異色盤である。

Teddy Charles『Collaboration West』(写真左)。1953年8月21, 31日、ハリウッドでの録音。Prestigeの7028番。ちなみにパーソネルは、Teddy Charles (vib, p), Shorty Rogers (tp), Jimmy Giuffre (ts, bs), Curtis Counce (b), Shelly Manne (ds)。西海岸のトップ・ミュージシャンとの出会いと、テディ・チャールズの音楽的実験が交錯した非常に興味深い背景を持ったアルバムである。

当時のプレスティッジは、1953年に録音された2枚の10インチLP(『New Directions 3』および『New Directions 4』)の音源を1本に統合し、12インチ盤『Collaboration West』(型番:PRLP 7028)として1956年に再編集・リリースしている。これが、オリジナル・アルバムの位置付け。

LP時代のA面の「Variations on a Motive by Bud」「Wailing Dervish」「Further Out」、そして、B面の「Etudiez le Cahier」(ここまでが、1953年8月21日録音)、「Margo」「Bobalob (I & II)」(ここまでが、1953年8月31日録音)の全6曲。
 

Teddy-charlescollaboration-west 

 
A面の1曲目の「Variations on a Motive by Bud」は、バド・パウエルへのオマージュである。ジャズ・ピアニストのバド・パウエルのモチーフ(名曲『Get Happy』のコード進行など)をベースに構築された知的な楽曲。

B面の3曲目の「Bobalob」は、完全なスタジオの即興(ジャムセッション)からその場で生まれた楽曲。あまりの出来の良さに現場が盛り上がり、レコードには別テイク(複数のテイク)が残される形になっている(アルバムでは、テイク1と2が採用されている)。

ニューヨークを拠点に、前衛的なジャズ理論を学んでいたテディ・チャールズは、自らの音楽的な不満や変化への渇望から1953年にカリフォルニアへ旅に出ている。そこで彼を迎えたのが、当時ウエストコースト・ジャズの顔役だった、ショーティ・ロジャースやシェリー・マンたち。

東海岸の難解なモダン理論と、西海岸の軽快で知的、かつ洗練されたアンサンブル能力がガッチリと噛み合い、この歴史的なコラボレーションが実現した。その成果がこのアルバム。モダン・ジャズの「融合」の良い成果としての好盤である。
 
 

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2026年7月 2日 (木曜日)

再びマイルスのXmasセッション

レコード・コレクターズ・2026年7月号は「マイルス・デイヴィス・アルバム/名演ランキング」。1950年代のアコースティックな演奏から、ファンクやロックに接近したエレクトリック期、そして晩年に至るまでの長い活動期間に残されたアルバムと、それに含まれる名高い名演の数々をランキングしたもの。これに触発されて、僕の「マイルス盤のランキング」を記事にしてみようかと想った。

『Miles Davis And The Modern Jazz Giants』(写真左)。昨日ご紹介した「Bags' Groove (Take 1)」「Bags' Groove (Take 2)」の2曲と同じ、1954年12月24日の録音が、1曲目「The Man I Love (Take 2)」、2曲目「Swing Spring」、4曲目「Bemsha Swing」とラストの「The Man I Love (Take 1)」。以上この6曲が、いわゆる「マイルスのXmasセッション」である。

この『Miles Davis And The Modern Jazz Giants』の、3曲目の「'Round Midnight」だけが、1956年10月26日の録音。これは、かの有名なプレスティッジ・レーベルでの「マイルスのマラソンセッション」の音源からの1曲。なんでこんなところに収録したのか。これ、CBSからのリリースの同曲とアレンジはほぼ一緒。演奏レベルは少し落ちる。なぜここに収録したのか。謎である。

ということで、3曲目の「'Round Midnight」は省いて、残りのXmasセッションの4曲が聴きもの。「Bags' Groove (Take 1)」「Bags' Groove (Take 2)」の流れを汲む、マイルス・デイヴィスとミルト・ジャクソンの、珠玉の名セッションの記録である。ちなみにパーソネルは、Miles Davis (tp), Milt Jackson (vib), Thelonious Monk (p), Percy Heath (b), Kenny Clarke (ds)。
 

Milesdavisandthemodernjazzgiants

 
僕はこのアルバムの1曲目「The Man I Love (Take 2)」の出だしのたっぷりエコーのかかった、ミルト・ジャクソンのどっぷり耽美的でリリカルで叙情的なヴァイヴと、マイルスの繊細でリリカル、クールでヒップなトラペットの前奏部分が大好き。そして、アドリブ部に入ってのミルトのヴァイヴとマイルスのトランペットのパフォーマンスは筆舌に尽くしがたい。この1曲だけでも、僕はこのアルバムをランキングの上位に持ってきたい。

今では作り話とされる「クリスマス・セッションでの喧嘩セッション」の証拠とされていた「The Man I Love (Take 2)」。この録音に入る前に、マイルスはモンクに、彼が作曲した「ベムシャ・スイング」以外は、自分の即興パートでのピアノのバッキングはやめてくれと言ったという。モンクはそれを忠実に守っただけ。そう解釈すると、この演奏は名演である。

モンク自身の作で、マイルスも気合を入れて吹いている「Bemsha Swing」も良い出来だし、話題に上がらない2曲目「Swing Spring」も、ミルトのヴァイブもマイルスのトランペットも、思いっ切りバップしていて、良い出来だと思う。「The Man I Love (Take 1)」も、Take 2には劣るが及第点。こうやって聴いていると、マイルスとミルトの相性は抜群に良い。

前にも書いたが、『Miles Davis And The Modern Jazz Giants』は、同一パーソネルの『Bags' Groove』のタイトル曲の2テイクと合わせて聴くと、このセッションが如何に優れた内容のセッションなのかが良く判る。但し、『Miles Davis And The Modern Jazz Giants』のど真ん中にいる「'Round Midnight」は必ず「除いて」、である(笑)。
 
 

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2026年6月21日 (日曜日)

ジャス喫茶で流したい・327

ブルーノート4300番台の後半のアルバムなので、過度な期待をせずに、恐らく、べったべたのソウル・じゃずか、新主流派のパフォーマンスを推し進めた、限りなく自由度の高い、ほぼフリー・ジャズか、と予想して聴いたのだが、いやはや、ビックリ。冒頭の「At the Source: Ashes & Rust/Eucalyptus/Obsidian」を聴いて、これは、と思わず身を乗り出した。

Bobby Hutcherson『Head On』(写真左)。1971年7月1ー3日、ロサンゼルスの「Poppi Recording Studios」での録音。ブルーノートの4376番。ちなみにパーソネルは、以下の通り。米国のジャズ・ヴィブラフォン奏者であるボビー・ハッチャーソンが、1971年に録音した、当時の独創的なニュー・ジャズの一枚。メインストリームな展開に、フリー、アヴァンギャルドな展開が見え隠れする、トータル・ジャズである。

Bobby Hutcherson (vib, marimba), Todd Cochran (p, arr), Oscar Brashear (tp, flh), George Bohanon, Louis Spears (tb), Willie Ruff (French horn), Fred Jackson, Jr. (piccolo), Harold Land (ts, fl), Delbert Hill, Charles Owens, Herman Riley, Ernie Watts (reeds), William Henderson (el-p), Reggie Johnson, James Leary III (b), Leon "Ndugu" Chancler, Nesbert "Stix" Hooper, Woody Theus (ds), Warren Bryant (congas, bongos), Donald Smith (vo)。
 

Bobby-hutchersonhead-on

 
1960年代の新主流派的なアプローチから一歩踏み出し、アフロ・スピリチュアル、フリー・ジャズ、クラシカルな現代音楽の要素を融合させた、非常に尖った内容の「異色かつ野心的な傑作」である。いわゆる1970年代、チック・コリアやキース・ジャレットらが推進した、コンテンポラリーなメインストリーム志向の硬派な純ジャズと同じ音の響きが、音の輝きが充満している。

アルバムには、1960年代に無い、新しいモダン・ジャズの響きが満ち満ちている。映画音楽のようでもあり、クラシカルで前衛的なインプロヴィゼーション、混沌としたフリー・ジャズの色合いが濃厚ディープな展開、ソリッドなリズムと特異なアフロ・キューバン調のビートが絡み合うスピリチュアル・ジャズ。洗練された耽美な響きの中に、鋭い緊張感が走る、1970年代のモード・ジャズ。

東海岸のジャズの、限りなく自由度の高い、マイルス&マイルス門下生を中心とする、エレクトリック前提のクロスオーバーな音世界と、西海岸ジャズから引き継がれた洗練されたキャッチーな展開が融合した、1970年代の先端を行く、コンテンポラリーなメインストリーム志向の硬派な純ジャズの萌芽がこのアルバムに溢れている。ブルーノートの4300番台の後半という位置づけで、ちょっとばかし「損をしている」隠れ名盤である。
 
 

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2026年6月 1日 (月曜日)

ジャズ喫茶で流したい・324

1960年代終盤、大手レコード会社の傘下に入ったブルーノートは、いわゆる、売らんが為の「明らかに聴き手に迎合した、売れ筋を意識した、ライトで聴き易いジャズ」の制作に舵を切る。イージーリスニング志向の「ファンキー&ソウル・ジャズ」、そして「軽快で優しいジャズ・ファンク」なアルバムを制作する。そんな中で、時折、メインストリーム志向のポスト・バップなアルバムも作ったりしていたけど。

Bobby Hutcherson Featuring Harold Land『San Francisco』(写真左)。1970年7月15日、ロサンゼルスの「United Artists Studios」での録音。ブルーノートの4362番。ちなみにパーソネルは、Bobby Hutcherson (vib, marimba, perc), Harold Land (ts fl, oboe), Joe Sample (p, el-p), John Williams (b, el-b), Mickey Roker (ds)。

1970年代に入って、ブルーノートのアルバム制作の方向性が変わっていく。大衆向けの「売れ筋を意識したライトで聴き易いジャズ」は控えめに、当時の音楽のトレンドであった、サイケデリック、スペーシー、アーシーな、ジャズ・ロック&ジャズ・ファンクなアルバムの制作に方向転換する。このアルバムはその最初の一枚といっていいかもしれない。

サイケデリック、スペーシー、アーシーな音要素を取り入れたことにより、単なるジャズ・ファンクに留まらない、スピリチュアルな深みを獲得している。その深みの中で展開される、限りなく自由度の高いモーダルなインプロビゼーションが、純ジャズっぽく、メインストリーム志向に映えに映える。
 

Bobby-hutcherson-featuring-harold-landsa

 
冒頭「Goin' Down South」では、アーシーでファンキーな演奏が展開される。まるで、1970年代前半のキース・ジャレットの様な、ゲイリー・バートンの様な、アーシーでファンキーな音世界。この演奏に「売らんが為」のバイアスは感じ無い。ハッチャーソンのヴァイブ、ハロルド・ランドのテナーのアドリブ展開はモードそのもの。アーシーなリズム&ビートを敬遠してはならない。1970年代を台憑依する、純ジャズの音世界の一つである。

2曲目の「Prints Tie」では、がらっと変わって、サイケデリックで、妖艶で耽美的、そして、スペーシーな「ニュー・ジャズ」な演奏が展開される。まるで、1970年代のECMレーベルの様な音世界。現代音楽的要素も見え隠れし、リズム&ビートの取り方は、あきらかにニュー・ジャズ志向。とても米国ジャズの音世界とは思えない、絶妙な名演である。

この冒頭からの2曲が、このアルバムの全体の雰囲気を決定付けている。1970年代の新しいジャズの音世界がこの盤に展開されている。ジャズ・レーベルの老舗、ブルーノート・レーベルの面目躍如。クルセイダーズ(当時はジャズ・クルセイダーズ)のメンバーとして知られるジョー・サンプルのエレピと、フェンダー・エレベースの使い手、ジョン・ウィリアムスのエレベのグルーヴが明らかに「新しい」。

この「新しい」リズム&ビートのグルーヴに乗って、ハッチャーソンのヴァイブと、ランドのサックスが飛翔し疾走する。モーダルに、限りなく自由に、時にフリーに展開するインタープレイは見事という他は無い。1970年代ジャズの「隠れ名盤」である。
 
 

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2026年5月23日 (土曜日)

ECMバートン・サウンドの転換点

1978年当時のゲイリー・バートンのバンドとしては、ユニークな編成になっている。それまでは、フロントのパートナーとして、ギタリスト(パット・メセニーやジョン・スコフィールド)を採用してきたが、このアルバムでは、日本出身のトランペッターであるタイガー大越を抜擢している。ギターの代わりにトランペットが入ったことで、従来のバートン・クァルテットとは異なるサウンドが生まれている。

Gary Burton『Times Square』(写真左)。1978年1月、NYでの録音。ECMの1111番。ちなみにパーソネルは、ary Burton (vib), Tiger Okoshi (tp), Steve Swallow (b), Roy Haynes (ds)。ゲイリー・バートンのヴィブラフォン、タイガー大越のトランペットがフロントのカルテット編成。

ベースとドラムのリズム隊がユニーク。ジャズ界のレジェンド・ドラマーであるロイ・ヘインズと、バートンの長年の盟友であるベーシスト、スティーヴ・スワロウによる、実に豪華な、実に当時のジャズのスタンダードな、どこか米国ジャズ的な強靱なグルーヴが、ECMレーベルのサウンドからするとユニーク。

アタック感の強いタフでエネルギッシュな推進力については、ロイ・ヘインズのドラミングに依るところが大きい。このレジェンド・ドラマーの叩き出すリズム&ビートが、この盤の演奏全体に「タフでエネルギッシュな推進力」を与えていることが判る。
 

Gary-burtontimes-square

 
加えて、タイガー大越のトランペットも米国ジャズ的な音。このヘインズとタイガー大越の参加が、バートンのバンドに、米国的なサウンド要素「トランペットの鋭く都会的なファンキーさ」を付加して、欧州ジャズ+米国ジャズな、グローバルなジャズ・サウンドを創出している。

この「ギターの代わりにトランペット」という大胆な方針転換によって、それまでの「クールで浮遊感のあるモダンなサウンド」が、ECMレーベルらしい透明感のある耽美的なサウンドに加え、アタック感の強いタフでエネルギッシュな推進力、そうどこか米国ジャズ的な躍動感が付加された、グローバルなポストバップ&ニュージャズな演奏内容になっている。

バートンのヴァイブは変わらない。従来通りのピアノのように、どこまでも滑らかでクリスタルな4本マレット奏法。その音色は濁りがなく、水晶(クリスタル)のようにどこまでもクリア。ピアノのように複雑なコード(和音)とメロディを同時に、しかも超高速で弾きまくる。

バートンのヴァイブはそのままに、アルバムタイトルの通り、ニューヨークの「タイムズ・スクエア」の喧騒やエネルギーを、そのままECMの耽美的で洗練されたサウンドに持ち込んだような、バートンの作品群の中でも最もパワフルでファンキーな一枚になっている。
 
 

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2026年5月21日 (木曜日)

ECMでないと作れない音世界

ECMレーベルでないと作れない、リリース出来ない音世界。オープニングのタイトル曲「Patience」の抽象性は、ほとんど「現代音楽」の世界。無調でノン・ビートの世界。パフォーマンスは「即興演奏とフリーなインタープレイ」。欧州のニュー・ジャズ独特の、現代音楽との融合+「即興演奏とフリーなインタープレイ」の音がこの盤に蔓延している。

Tom Van Der Geld and Children at Play『Patience』(写真左)。May 1977年5月、Tonstudioでの録音。ECMの1113番。ちなみにパーソネルは、Tom van der Geld (vib, perc), Roger Jannotta(ss, bs, fl oboe, b-cl), Kent Carte (b), Bill Elgart (ds, perc)。ボストン出身のジャズヴィブラフォン奏者Tom Van Der Geldの初リーダー作。

即興演奏とフリーなイ現代音楽志向のインタープレイ。この個性的な音世界で、この盤の音世界は「ジャズ」の範疇に軸足を置いている。欧州ジャズの音であるが故、ファンクネスは皆無。しかし、どこかクラシックの理路整然とした構築美を忍ばせたフリーな演奏は聴き応え十分。激情のままに吹きまくる嘶きの様なフリー・ジャズよりも、よっほどスリリングである。
 

Tom-van-der-geld-and-children-at-playpat  

 
本作はピアノを排除した「ピアノレス・カルテット」の編成で録音されており、楽器の音と音の間の「隙間」が非常に美しく活かされている。クリスタルのように透明でクールな、美しいヴァイブの響きと、その「隙間」を活かした独特のアンサンブルも見事。

ベースのケント・カーターとドラムのビル・エルガートによるリズム隊は、単にリズムをキープするだけでなく、フロントの2人と対話するように抽象的かつスリリングなインタープレイを展開する。ノン・ビートを基本に、インタープレイのフリーなインプロビゼーションの中で紡ぎ出されるリズム・キープ。高度な即興演奏の展開。

トム・ヴァン・ダー・ゲルドが奏でる、透明感あふれる美しいヴァイブと、マルチリード奏者ロジャー・ジャノッタの多彩な管楽器の音の伸びを活かした、空間的な広がりとそれに伴う静寂が醸し出されている。まさに、ECMレーベル独特の音世界であり、欧州のニュー・ジャズの音世界である。
 
 

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2026年5月 5日 (火曜日)

ボーカル入りのハッチャーソン

ハッチャーソンのヴァイブはハードバップなヴァイブでは無い。ハッチャーソンのヴァイブは「新主流派」のヴァイブである。モーダルであり、フリーであり、アーティステックである。ハッチャーソンは意外と硬派なミュージシャンで、この「新主流派のジャズ・ヴァイブ」のスタイルを生涯貫き通した。が、このアルバムで、とんでもない寄り道をする。

Bobby Hutcherson『Now!』(写真左)。1969年10月3日 (#2–3)、11月5日(#1, 4–5) の録音。ちなみにパーソネルは、以下のとおり。2004年のCDリイシュー時、1977年8月13日の録音がボートラとして4曲追加されているが、今回は、オリジナルの5曲に絞ってのみ、この記事をまとめている。

1969年10月3日 (#2–3)は、Bobby Hutcherson (vib, marimba), Harold Land (ts), Kenny Barron (p), Wally Richardson (g), Herbie Lewis (b), Joe Chambers (ds), Candido Camero (congas), Gene McDaniels (lead vocals), Hilda Harris, Albertine M. Robinson, Christine Spencer (backing vocals)。

1969年11月5日(#1, 4–5) はBobby Hutcherson (vib), Harold Land (ts), Stanley Cowell (p, el-p), Wally Richardson (g), Herbie Lewis (b), Joe Chambers (ds), Candido Camero (congas, bongo), Gene McDaniels (lead vocals), Eileen Gilbert, Christine Spencer, Maeretha Stewart (backing vocals)。

このアルバムの最大の特徴は、ハッチャーソンのリーダー作として初めてボーカル(合唱)を全面的に取り入れたこと。というか、それまでの「新主流派」ヴァイブの雄、モード&フリーなヴァイブを誇ったハッチャーソンが、いきなりボーカルを取り入れた。
 

Bobby-hutchersonnow

 
それは、冒頭の「Slow Change」の出だしから始まる。いきなり、男性ボーカルが、それも、ソウルフルな、R&Bなボーカルが入って、ゴスペルな女声コーラスがバックで唄う。

しかし、バックの演奏はと耳を傾けると、ハッチャーソンのヴァイブ以下、ハロルド・ランドのテナーなど、かなり硬派は新主流派ジャズをやっている。モード、時々フリーなアドリブ部の展開は水準以上の優れた演奏。

それを思うと、そもそも、このアルバムにボーカルが必要だったのか、と思ってしまう。歌詞の内容は、社会的メッセージがメインで、当時のアフリカ系アメリカ人の権利意識や精神的連帯を反映していて、かなり直接的なアジテーションで、ジャズには向かないと僕は思う。

ボーカルが入ったお陰で、当時、流行中のスピリチュアル・ジャズな雰囲気や、サイケデリック・ジャズな音要素が吹かされてはいるが、ここまで、場違いなボーカルを充てられると、このアルバムをどう聴いてよいのかが判らなくなる。ただ、ラテン・パーカッションやファンキーな要素を融合させた「レア・グルーヴ」的な側面も持っているので、そちらの方面に興味が強いジャズ者の方々には興味深い内容になるだろう。

ただ4曲目の「The Creators」だけは、ハロルド・ランドのテナーとハッチャーソンのヴァイブ、スタンリー・カウエルのエレピが大活躍、モーダルでスピリチュアルな整然とした即興演奏的な展開で、ゴスペルチックな呪術的な女性コーラスと相まって、スピリチュアルなモード・ジャズの演奏として、抜群の成果を上げている。この1曲だけは聴き逃せない。
 
 

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2026年5月 3日 (日曜日)

ライオネル・ハンプトン健在

1982年と言えば、フュージョン・ジャズが全盛期を越えて、下降線を辿り始めた頃。それでも、その人気はまだまだ維持されていて、純ジャズ、ましてや、スイング・ジャズの入り込む余地は無かった。が、フージョン・ジャズの全盛のアンダーグラウンドで、純ジャズは生き存えていた。そして、このライヴ・アルバムでは、スイング・ジャズもしっかりと継承されていたことが確認出来る。

Lionel Hampton And His Orchestra『Made In Japan』(写真左)。1982年6月1日は新宿厚生年金会館、6月3日は渋谷公会堂でのライヴ録音。ちなみにパーソネルは以下の通り。スイング・ヴァイブの雄、ライオネル・ハンプトン率いるジャズ・オーケストラの東京のおけるライヴ録音。

Lionel Hampton (vib), John Colliainni (p), Todd Coolman (b), Duffy Jackson (ds), Sam Turner (perc)。以下はブラス・セクション、Glen Wilson, Yoshi Malta, Paul Jeffrey, Ricky Ford, Tom Chapin (sax), Trombone – Charles Stephens, Chris Gulhaugen, John Gordon (tb), Trumpet – Barry Ries, John Marshall, Johnny Walker, Vince Cutro (tp)。

ハンプトンの十八番である「Air Mail Special」や、ハンプトンおなじみのメドレー「Stardust - Moonglow」、フレディ・ハバード作曲の難曲「Jodo」を高速テンポで演じ切ったり、素晴らしいパフォーマンスがてんこ盛り。
 

Lionel-hampton-and-his-orchestramade-in-

 
それほどまでに内容の濃い、ライオネル・ハンプトンのヴァイブを始めとするスイング・ジャズの名演の数々がこのライヴ盤に記録されている。さらに素晴らしいのは、パーソネルを見渡すと、若手実力派を揃えたビッグバンドを率いていること。当時若手だった リッキー・フォード や、日本を代表するサックス奏者の MALTA(ヨシ・マルタ)、トム・チェイピンらが参加している。

当時70代半ばだったハンプトンであるが、その演奏は驚くほどパワフル。一糸乱れぬビッグバンドのアンサンブルと相まって、素晴らしいパフォーマンスを披露している。

若手実力派を揃えたビッグバンドということもあって、伝統的なスイングだけに留まらず、ハードバップやモードなど、当時として、モダンなジャズの感覚も反映されていて、懐古趣味などどこ吹く風、当時として、現代的でモダンなスイング志向のビッグバンドの音が実に良い。

単なる「ベテランの来日記念盤」を超えた、単なる来日記念公演という「お祭り騒ぎ」に留まらない、スイング志向の、モダンな感覚を融合させたビッグバンド・ジャズの傑作として評価して良い内容。かつてハンプトン率いるオーケストラが世界中を席巻した「スウィングの力」が、衰え知らずなことを証明した好ライヴ盤です。
 
 

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2026年2月25日 (水曜日)

ジャズ喫茶で流したい・314

この盤は、以前から有名盤で、LP時代から、廉価盤で再発されたり、CDの時代になってからも、CTI レーベル爺代のCDリイシューの時には、必ずと言って良いほど、そのタイトル名が挙がる名盤である。

Stanley Turrentine With Milt Jackson『Cherry』(写真左)。1972年5月17–18 & 24日の録音。CTI 6017番。ちなみにパーソネルは、Stanley Turrentine (ts), Milt Jackson (vib), Bob James (sc-p, el-pi, arr), Cornell Dupree (g), Ron Carter (b), Billy Cobham (ds)。

スタンリー・タレンタイン、ミルト・ジャクソン(バグス)、コーネル・デュプリー、ビリー・コブハムという、ファンキー&ソウル・ジャズの強者に、クロスオーバー&フュージョンの仕掛け人、ボブ・ジェームス。今から見れば、レジェンド級の凄いメンバーが大集合である。

極上のクロスオーバー志向のファンキー&ソウル・ジャズである。ファンキー&ソウル・ジャズの強者ジャズマンに、仕掛け人キーボーダー&アレンジャー、当時として、無敵の組みあわせ、パーソネルである。フロントを張る2人、タレンタインとバグスのファンクネスが実にモダン。そこに、R&B思考のファンキー&ソウルフルなデュプリーンのエレギが絡むのだからたまらない。
 

Stanley-turrentine-with-milt-jacksoncher

 
しかも、ボブ・ジェームスのエレピ、ロン・カーターのアタッチメント付きベース、ビリー・コブハムのファンキー千手観音ドラムのトリオが叩き出すリズム&ビート、8ビートのジャズロックなビートが、それまでに無い疾走感を叩き出す。そして、チェンジ・オブ・ペースで、R&B志向のファンキーなビートや、エレクトリックなソウルフルなビートに心地良く変化する。

そんなホットでヒップなクロスオーバー・ビートに乗って、タレンタインが骨太でダンディズム溢れ、ファンクネスだだ漏れ、ソウルフルなテナーを吹きまくり、バグスは、転がる様な流麗ヴァイブを弾きまくり、硬質で透明感のあるファンクネスを撒き散らし、爽快感を醸し出す。

ファンキー&ソウルジャズを展開しているが、手垢の付いた感は皆無、ノスタルジーはどこ吹く風、この盤には、1970年代の上質な純ジャズ志向の、コンテンポラリーなファンキー&ソウルジャズが展開されている。
 
CTIレーベル盤だから、聴き心地優先のイージーリスニング志向のフュージョンでしょ、なんて「聴かず嫌い」はノーサンキュー。この盤の「1970年代の純ジャズ志向」は一聴に値する。1970年代のジャズの名盤の一枚だろう。
 
 

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