バードの考える ”ポスト・バップ”
前作『Blackjack』は、それまでの純ジャズの演奏トレンドの数々を上手くブレンドした、ブルーノート志向の「硬派なソウル・ジャズ」だった。その『Blackjack』から僅か4ヶ月後の録音。再び、ブルーノート志向の「硬派なソウル・ジャズ」を連発するのか、と訝しく思ったが、聴いてみて「これはちょっと違うぞ」。
Donald Byrd『Slow Drag』(写真左)。1967年5月12日の録音。ブルーノートの4292番。ちなみにパーソネルは、Donald Byrd (tp), Sonny Red (as), Cedar Walton (p), Walter Booker (b), Billy Higgins (ds, vocals on "Slow Drag")。前作『Blackjack』(1967年1月録音)から、わずか4ヶ月後に録音されたドナルド・バードのリーダー作。ソニー・レッド、別名シルベスター・カイナーと組んだ3枚目の作品。
まず「Drag」は、”麻薬”では無い。”麻薬”は「Drug」。調べてみると「Drag」とは、ラグのメロディ(=これを ”Drag” というらしい。足を引き摺るように踊るラグタイムの踊りのメロディ)。「Slow Drag」で、ゆったりとしたラグタイムの踊りのメロディ、って感じでしょうか。とにかく「麻薬」では無いので(笑)。
ドナルド・バードは「機を見て敏なる」変化するトランペッター。バランス感覚と方向感覚に優れ、その時代毎の大衆の音のニーズ、その時代毎のジャズの演奏トレンドを敏感に察知し、それを自らのジャズに反映させてきた。その優れた適応力と表現力がこの盤にも溢れている。いわゆる、当時の「ポスト・バップ」の最先端の音世界の一つ。
もうここには「硬派なソウル・ジャズ」は無い。緩やかな、ユルユルで粘りのあるファンクネスが横溢するソウル・ジャズ。ジャズ・ファンク一歩手前の、ブラック・ファンクを小粋に取り込んだソウルフルなジャズ。そして、そのグルーヴに、そこはかと漂う、ちょっと怪しげな「サイケデリック」な響き。そして、ブラック・ファンクの重要な音要素「アーシー」な響きがビートにしっかり反映されている。
そう、この『Slow Drag』の音世界は、フレーズはソウル・ジャズ、リズム&ビートは、ファンクネス濃厚+アーシーなファンク・ビート、ブラック・ファンクなリズム&ビートに、ソウルフルなジャズが乗っかった、ゆったりとした、ちょっと退廃的な雰囲気がする音世界。そこに、当時のロック&ポップスに漂い始めていた「サイケデリック」な音要素を忍ばせている。当時の「ポスト・バップ」な音世界として、かなり野心的な内容だと僕は感じる。
ドナルド・バードのトランペットとソニー・レッドのアルト・サックスのフロント2管は好調を維持、バードのアーシーかつブルージー、ブリリアントで端正な吹き回しは安定のパフォーマンス。辛辣なトーンのレッドのアルト・サックスはまさに「ポスト・バップ」。
モードとフリーとソウル・ジャズが混在したフレーズを、ブラック・ファンクなリズム&ビートが底から支える。不思議な響きの、一旦ハマったらとことん癖になる、ドナルド・バードの「ポスト・バップ」な音世界である。
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