マルの『Left Alone』の聴き方
レコード・コレクターズ2026年2月号の特集「この曲のピアノを聴け! ジャズ/フュージョン編」を楽しんでいるのだが、アルバムの中の「一曲」だけを聴いて、そのピアニストの個性と特徴を捉えろ、というのは、ちょっと乱暴である。ということで、当ブログでは、「この曲を」を「このアルバムを」に拡大して、レココレに紹介されているアルバムを聴き直している。
Mal Waldron『Left Alone』(写真左)。1959年2月24日の録音。ちなみにパーソネルは、Mal Waldron (p), Jackie McLean (as :track 1のみ), Julian Euell (b), Al Dreares (ds)。マル・ウォルドロンのビリー・ホリディ追悼盤。基本はピアノのマルがリーダーのトリオ。1曲目の「Left Alone」のみ、アルト・サックスのジャッキー・マクリーンが客演している。
この盤、冒頭のマクリーンの無きのアルト・サックスが入ったタイトル曲「Left Alone」だけがクローズアップされるばかりの盤だが、案の定、レココレの「この曲のピアノを聴け」でも、この1曲の「Left Alone」を上げている。しかも、解説には、マクリーンの「泣きのアルト」とこの曲が録音された経緯の説明があるばかりで、マルのピアノの個性と特徴については、ほとんど有益なコメントは無い。
だから、アルバムの中の「一曲」だけを聴いて、そのピアニストの個性と特徴を捉えろ、というのは、ちょっと乱暴だって、僕は指摘するんだよなあ。で、話を戻すと、この「Left Alone」は、マルのピアノは伴奏に徹していて、マルはもともと伴奏上手なピアニストではあるが、この「Left Alone」では、それが聴きとれるほどではない。確かに伴奏上手ではあるけれど。
マル・ウォルドロンのタッチは硬質で端正。しかし、硬質なタッチの底に、もやっとした黒いブルージーな雰囲気が横たわっている。そして、端正な弾きこなしの端々にラフな指さばきが見え隠れする。この「黒い情感と適度なラフさ」がマルの特徴。このマルのピアニストとしての個性と特徴は、2曲目以降のトリオ演奏を聴けば、それが良く判る。
ブルージーでミッドテンポな、2曲目「Cat Walk」の前奏部分のゴツゴツ感豊かで、ちょっとアブストラクトな、マルのピアノの特徴が溢れている。3曲目の有名なバラード曲「You Don't Know What Love Is」ですら、マルのゴツゴツ感豊かなピアノのフレーズで、パキパキ硬質な黒さが演奏の底に漂う。
4曲目以降「Minor Pulsation」からラストの「Airegin」などは、お得意の速いテンポの曲で、マルの「硬質なタッチ」のピアノが縦横無尽に展開されている。どの曲にも、マルのピアノの特徴である「黒い情感と適度なラフさ」が見え隠れしていて、聴いていてとても興味深い。
クローズアップされ過ぎて、後に巷で有名になってしまった冒頭のタイトル曲以外の2曲目以降の演奏に、マルの特徴的なピアノがぎっしりと詰まっている。この『Left Alone』の2曲目以降にマルのピアノの真骨頂がある。マルのピアノを感じ、マルのピアノを愛でるのであれば、この『Left Alone』の2曲目以降を聴け、である。
なお。余談になるが、CDでのラスト・トラックである「The Way He Remembers Billy Holiday」は、マルのインタビューでの談話である。演奏曲ではない。聴いてビックリしないで欲しい。有り体に言うと、これは蛇足だろう。
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