2025年5月29日 (木曜日)

D.バードの最後の純ジャズ志向

ドナルド・バードは「機を見て敏なる」トランペッター。テクニックは優秀、端正でブリリアントで理知的な吹奏。破綻無く、激情に駆られて吹きまくることなく、理知的な自己コントロールの下、常に水準以上のバップなトランペットを吹き上げる。そして、その時代その時代のジャズの演奏トレンドへの適応力が抜群。ハードバップ、ファンキー・ジャズ、ジャズ・ロック、ソウル・ジャズ、それまでのジャズの演奏トレンドに完全適応する。

Donald Byrd『The Creeper』(写真左)。1967年10月5日の録音。ブルーノートのLT1096番。ちなみにパーソネルは、Donald Byrd (tp), Sonny Red (as, tracks 1, 3–7), Pepper Adams (bs, tracks 1, 3–7), Chick Corea (p), Miroslav Vitouš (b), Mickey Roker (ds)。

ドナルド・バードのトランペット、ソニー・レッドのアルト・サックス、ペッパー・アダムスのバリトン・サックスがフロント3管のセクステット編成。バックのリズム隊には、新チック・コリアのピアノ、ミロスラフ・ビトウスのベース、という、新進気鋭の「ポスト・新主流派」なメンバーが座り、ミッキー・ローカーのドラムがリズム隊をガッチリ支えている。

出てくる音はといえば、当時、ドナルド・バードが追求していたジャズ・ロックでもなければ、ソウル・ジャズでも無い。ましては、ジャズ・ファンクでは全く無い。聴けば判るが、実に硬派な、当時の最先端を行く、メインストリーム志向の純ジャズ、モーダルなフレーズをメインとした新主流派の一歩先を行く、「ポスト・新主流派」な音が詰まっている。これには、とにかくビックリである。
 

Donald-byrdthe-creeper

 
まず、バックのリズム隊の新進気鋭の二人のバッキングがエグい。モーダルなフレーズで攻めに攻めているのだが、それまでのモーダルなフレーズとは似ても似つかない、新しい響きに満ちたバッキング。この二人の新進気鋭な、新しいモーダルなバッキングを得て、バンド全体が新しい響きに満ちたモーダルな演奏に仕上がっているのだから、ジャズって、本当に面白い。

なんせ、ハードバップ全盛期から第一線を走ってきた、ソニー・レッドのアルト・サックス、ペッパー・アダムスのバリトン・サックスがフロント3管が、こってこてなハードバップらしさをかなぐり捨て、ポスト・バップでモーダルなユニゾン&ハーモニーを吹き上げ、どこか新しい響きのするモーダルなアドリブ・フレーズを展開している。一流のジャズマンって懐が深い。ハードバップの第一線で活躍してきたにも関わらず、こんなにモーダルな演奏にも完全適応するのだ。

しかし、1967年当時は、ドナルド・バードからして、ジャズ・ロックからソウル・ジャズをメインに好盤を連発していた頃。この『The Creeper』の音世界は、完全ストイックで、当時の最先端を行く、メインストリーム志向の純ジャズ、モーダルなフレーズをメインとした新主流派の一歩先を行く、「ポスト・新主流派」な音。あまりに落差がありすぎる。

恐らく、それが、録音当時「お蔵入り」になった理由かもしれない。実はこの『The Creeper』、録音時点では、ブルーノートお得意の「理由が判らない、なぜかお蔵入り」盤。発掘リリースされたのは1981年。しかもしばらく再発されなかった。しかし、内容は素晴らしい。ドナルド・バードの、新進気鋭のメンバーを交えた、渾身の最後の純ジャズ志向盤。一聴の価値のある好盤である。
 
 

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2025年5月28日 (水曜日)

バードの考える ”ポスト・バップ”

前作『Blackjack』は、それまでの純ジャズの演奏トレンドの数々を上手くブレンドした、ブルーノート志向の「硬派なソウル・ジャズ」だった。その『Blackjack』から僅か4ヶ月後の録音。再び、ブルーノート志向の「硬派なソウル・ジャズ」を連発するのか、と訝しく思ったが、聴いてみて「これはちょっと違うぞ」。

Donald Byrd『Slow Drag』(写真左)。1967年5月12日の録音。ブルーノートの4292番。ちなみにパーソネルは、Donald Byrd (tp), Sonny Red (as), Cedar Walton (p), Walter Booker (b), Billy Higgins (ds, vocals on "Slow Drag")。前作『Blackjack』(1967年1月録音)から、わずか4ヶ月後に録音されたドナルド・バードのリーダー作。ソニー・レッド、別名シルベスター・カイナーと組んだ3枚目の作品。

まず「Drag」は、”麻薬”では無い。”麻薬”は「Drug」。調べてみると「Drag」とは、ラグのメロディ(=これを ”Drag” というらしい。足を引き摺るように踊るラグタイムの踊りのメロディ)。「Slow Drag」で、ゆったりとしたラグタイムの踊りのメロディ、って感じでしょうか。とにかく「麻薬」では無いので(笑)。

ドナルド・バードは「機を見て敏なる」変化するトランペッター。バランス感覚と方向感覚に優れ、その時代毎の大衆の音のニーズ、その時代毎のジャズの演奏トレンドを敏感に察知し、それを自らのジャズに反映させてきた。その優れた適応力と表現力がこの盤にも溢れている。いわゆる、当時の「ポスト・バップ」の最先端の音世界の一つ。
 

Donald-byrdslow-drag

 
もうここには「硬派なソウル・ジャズ」は無い。緩やかな、ユルユルで粘りのあるファンクネスが横溢するソウル・ジャズ。ジャズ・ファンク一歩手前の、ブラック・ファンクを小粋に取り込んだソウルフルなジャズ。そして、そのグルーヴに、そこはかと漂う、ちょっと怪しげな「サイケデリック」な響き。そして、ブラック・ファンクの重要な音要素「アーシー」な響きがビートにしっかり反映されている。

そう、この『Slow Drag』の音世界は、フレーズはソウル・ジャズ、リズム&ビートは、ファンクネス濃厚+アーシーなファンク・ビート、ブラック・ファンクなリズム&ビートに、ソウルフルなジャズが乗っかった、ゆったりとした、ちょっと退廃的な雰囲気がする音世界。そこに、当時のロック&ポップスに漂い始めていた「サイケデリック」な音要素を忍ばせている。当時の「ポスト・バップ」な音世界として、かなり野心的な内容だと僕は感じる。

ドナルド・バードのトランペットとソニー・レッドのアルト・サックスのフロント2管は好調を維持、バードのアーシーかつブルージー、ブリリアントで端正な吹き回しは安定のパフォーマンス。辛辣なトーンのレッドのアルト・サックスはまさに「ポスト・バップ」。

モードとフリーとソウル・ジャズが混在したフレーズを、ブラック・ファンクなリズム&ビートが底から支える。不思議な響きの、一旦ハマったらとことん癖になる、ドナルド・バードの「ポスト・バップ」な音世界である。
 
 

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2025年5月27日 (火曜日)

D.バードの硬派なソウル・ジャズ

1960年代後半、ジャズの多様化がさらに進む一方、ビートルズのアメリカ公演後、大衆音楽としてジャズの人気が下降線を辿り出した頃である。そんな時代の中、前作『Mustang』(1966年)はジャズ・ロック。当時、ヒットしたらしい。パーソネルを見渡すと、ハードバップど真ん中からモード・ジャズが得意なメンバーだが、なかなかノリの良いジャズ・ロックをかましていた。

Donald Byrd『Blackjack』(写真左)。1967年1月9日の録音。ブルーノートの4259番。ちなみにパーソネルは、Donald Byrd (tp), Sonny Red (as), Hank Mobley (ts), Cedar Walton (p), Walter Booker (b), Billy Higgins (ds)。ドナルド・バードのトランペットと、ソニー・レッドのアルト・サックス、ハンク・モブレーのテナー・サックスがフロント3管のセクステット編成。

今回はCDリイシュー時のボートラ「All Members」は、録音日時もパーソネルも、オリジナルの『Blackjack』自体とは全く異なるので、今回は割愛して話を進める。と言うことで、録音日、パーソネルは上記の通り。

さて、前作『Mustang』(2024年6月14日のブログ参照)はジャズ・ロックだった。今回の『Blackjack』はソウル・ジャズ。ドナルド・バードのソウル・ジャズといえば、1964年に大手ヴァーヴからリリースされた『Up with Donald Byrd』(2025年5月17日のブロ参照)があるが、これは「売らんがため」の「一般ウケ」するアレンジが施された、ながら聴きに向いた、イージーリスニング・ジャズ志向の「R&Bテイストを交えたソウル・ジャズ」だった。
 

Donald-byrdblackjack

 
さて、ブルーノートに戻っての、ドナルド・バードのソウル・ジャズはどうなのか。プロデューサーは、当然、総帥アルフレッド・ライオン。この『Blackjack』を聴き終えて、思う。ドナルド・バードはブルーノートの音と志向を良く理解し、それを明確に具現化している、と。この『Blackjack』には、ブルーノート仕様の、純ジャズ志向のなドナルド・バード流ソウル・ジャズが展開されている。

ジャズ・ファンクまでには至らない、純ジャス志向で硬派なソウル・ジャズが展開される。アドリブ展開ではモーダルなフレーズで展開しまくる面も多々あり、女性コーラスの登場などという、俗っぽくポップな仕掛けは皆無。あくまで硬派に、あくまでアーティステックに、ソウルフルなジャズを展開している。これが、実にブルーノートらしく、ドナルド・バードはジャズの演奏志向において、適応力が幅広で適応力が抜群、ということを再認識する。

ドナルド・バードのトランペットと、ソニー・レッドのアルト・サックス、ハンク・モブレーのテナー・サックスがフロント3管は、分厚く重厚、ファンクネス芳しく、唄うが如くソウルフル。バードのアーシーかつブルージー、ブリリアントで端正な吹き回しが良い。モブレーが迫力はる魅力的な、ファンクネス溢れるモーダルなフレーズを連発している。レッドのフリーキーな吹き回しも凄い。

1967年という時代に、それまでの純ジャズの演奏トレンドの数々を上手くブレンドして、硬派なソウル・ジャズに仕立て上げられた『Blackjack』の音世界。それは、紛れもなく、ブルーノートの音であり、ブルーノートの考えるソウル・ジャズの具現化でもある。ブルーノートのハウス・トランペッター、ドナルド・バードの面目躍如である。
 
 

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2025年5月17日 (土曜日)

バードのポップなソウル・ジャズ

ドナルド・バードは「機を見て敏なる」変化するトランペッター。ハードバップ初期の頭角を表し、ハードバップの優れた内容のリーダー作を幾枚もリリース。1960年前後、ハードバップが成熟して、ジャズの多様化の時代に移行する際、いち早く、ファンキー・ジャズに手を染める。

モード・ジャズにもチャレンジして、硬派な純ジャズ志向トランペッターとして名をあげたと思ったら、ソウル・ジャズにどっぷりハマっていく。そんな1964年のドナルド・バード。コッテこての「R&Bテイストを交えたソウル・ジャズ」のリーダー作を連発していく。

Donald Byrd『Up with Donald Byrd』(写真左)。1964年の10月6日、11月2日、12月16日の録音。 大手のVerveレーベルからのリリースながら、録音場所は「Van Gelder Studios」。

ちなみにパーソネルは、Donald Byrd (tp), Jimmy Heath (ts, tracks 2–5), Stanley Turrentine (ts, tracks 7 & 8), Herbie Hancock (p), Kenny Burrell (g), Bob Cranshaw (b, tracks 1–6), Ron Carter (b, tracks 7–9), Grady Tate (ds), Candido Camero (perc, tracks 7 & 8), The Donald Byrd Singers なる女性ボーカル隊が付く。

録音場所といい、パーソネルを見渡すと、セッションの参加メンバーは、ごっそりと当時のブルーノート・レーベルから借りてきた様な、一流人気ジャズマンが名を連ねている。前半の1–6曲目のアレンジは、当時の人気アレンジャー「クラウス・オガーマン」。さすが、大手のジャズ・レーベルのヴァーヴ。金に糸目はつけない、ゴージャスなアルバム制作である。
 

Donald-byrdup-with-donald-byrd

 
さすが大手のジャズ・レーベルのヴァーヴ、このアルバム、ドナルド・バードのコッテこての「R&Bテイストを交えたソウル・ジャズ」を捉えているのだが、とにかく、ポップで俗っぽい。つまりは、ジャズのアーティスティックな面は横に置いて、確実に「一般ウケ」する「売れる」音作りをしている。プロデューサーは誰か、と見たら、のちのフュージョン・ジャズの仕掛け人の代表格「クリード・テイラー」だった。

とにかく、コッテこてファンキーな、聴きやすい「R&Bテイストを交えたソウル・ジャズ」。ドナルド・バードのトランペットは、モードも交えて、意外と正統派なトランペットを吹いているんだが、ピアノのハンコック、ギターのバレルなどは、徹底的にソウル・ジャズ志向濃厚なフレーズをこれでもかと連発している。キャンディドのパーカッションが、ファンキー度、ソウルフル度をさらに濃厚にする。

The Donald Byrd Singers なる女性ボーカル隊のコーラスが出てくると、一気に「俗っぽさ」が濃厚になる。この濃厚となる「俗っぽさ」をどう聴くかで、この盤の評価は変わるだろう。但し、その時代の響きを忠実に記録しているので、この音はこの音で意味のあるものではある。頭ごなしに否定するものでもないだろう。

ドナルド・バードの「R&Bテイストを交えたソウル・ジャズ」。ブルーノート・レーベルでは、しっかり純ジャズの要素を押さえていて、意外とアーティスティックな雰囲気が漂うソウル・ジャズに仕上がっているのだが、この大手のヴァーヴ・レーベルでは、明らかに「売らんがため」の「一般ウケ」するアレンジが施されていて、ポップで俗っぽいソウル・ジャズになっているのが面白い。

ながら聴きに向いた、イージーリスニング・ジャズ志向の「R&Bテイストを交えたソウル・ジャズ」だろう。真剣に対峙して聴き込む類の盤ではないが、何かし「ながら」の邪魔にならない、ポップで心地良いソウル・ジャズとして、さりげなく聴き流すには良好な盤ではある。
 
 

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2024年6月14日 (金曜日)

1966年のドナルド・バード

ドナルド・バードは「機を見て敏なる」トランペッターだった。トランペッターとして、テクニックは優秀、端正でブリリアントで理知的な吹奏。破綻無く、激情に駆られて吹きまくることなく、理知的な自己コントロールの下、常に水準以上のバップなトランペットを吹き上げる。

そんなドナルド・バード、ハードバップ初期の頭角を表し、ハードバップの優れた内容のリーダー作を幾枚もリリース、その後、ファンキー・ジャズに手を染め、モード・ジャズにもチャレンジする。そうこうしているうちに、ジャズロック、ソウル・ジャズに移行し、最終的にはジャズ・ファンクを推し進める。常に時代毎のジャズのトレンド、流行を敏感に察知して、その音志向を変化、転化させていった。

Donald Byrd『Mustang!』(写真左)。1966年6月24日の録音(ボートラは除く)。ブルーノートの4238番。ちなみにパーソネルは、Donald Byrd (tp), Sonny Red (as), Hank Mobley (ts), McCoy Tyner (p), Walter Booker (b), Freddie Waits (ds)。リーダーのバードのトランペットと、珍しいソニー・レッドのアルト・サックス、そして、モブレーのテナー・サックスの3管フロントのセクステット編成。

録音年は1966年。ジャズの多様化が進み、ビートルズのアメリカ公演後、大衆音楽としてジャズが下降線を辿り出した頃である。冒頭のタイトル曲「Mustang」はジャズ・ロック。当時、ヒットしたらしい。パーソネルを見渡すと、ハードバップど真ん中からモード・ジャズが得意なメンバーだが、なかなかノリの良いジャズ・ロックをかましている。ソニー・レッドの作曲とはちょっと驚く。

ジャケの雰囲気からして、この盤、ジャズ・ロック集か、と思いきや、2曲目からは、硬派でメインストリームな純ジャズが展開されている。2曲目の「Fly Little Bird Fly」は、出だしからマッコイ・タイナーのピアノが、バンド演奏全体を牽引するスピード感溢れる演奏。
 

Donald-byrdmustang

 
3曲目の「I Got It Bad And That Ain't Good」はスタンダード曲。タイナーのピアノが美しいフレーズを弾き進めていて立派。タイナーの優れたバッキングの下、ドナルド・バードのトランペット、ハンク・モブレーのテナー・サックスが、美しく味わい深くリリカルなバラード・フレーズを吹き上げていく。やはり、なんといっても、タイナーのピアノが素晴らしい。

以降、LPのB面の1曲目、CDでは4曲めの「Dixie Lee」は、再び、こってこてのジャズ・ロック。こちらは、ドナルド・バードの作曲。ノリの良いキャッチーなフレーズの連発で、思わず、足が動き、体が揺れる。俗っぽいが、聴いて楽しいジャズ・ロック。

続く「On The Trail」は、グローフェの「グランド・キャニオン組曲」の中の1曲で、スタンダード化された秀曲。ユニゾン&ハーモニー、コール・アンド・レスポンスにチェイス、小粋でセンスの良い3管フロントのパフォーマンスが良い。特にレッドとモブレーが元気に飛ばしまくっているのが印象的。

ラストは「I'm So Excited By You」で、明確にストレート・アヘッドなハードバップ・チューン。このハードバップな、流麗な演奏を聴いていると、ハードバップな演奏って、この時点では既に洗練し尽くされ、極められ尽くされた感を強く感じる。

改めて、この盤を振り返ってみると、1966年という録音年で、ジャズ・ロックと洗練されたハードバップのカップリングな内容というのが面白い。ハードバップな演奏には、ファンキー・ジャズな雰囲気は見え隠れするが、モード・ジャズは影も形もない。まあ、このパーソネルだと、タイナー以外、モーダルな演奏は苦手そうなんで、この演奏構成が一番フィットしたんだろう。

今の耳で聴いて、単純に楽しく聴ける佳作だと思う。難しいことを考えずに「古き良きジャズを感じることが出来る」好盤です。
 
 

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2024年5月26日 (日曜日)

D・バードの活動前期の名盤です

ドナルド・バードは、ジャズ・トランペットのレジェンド。バードのトランペットは、端正で流麗でブリリアント、ピッチやフレーズにブレは無く、アドリブ・フレーズのイマージネーション豊か、ジャズ・トランペットの教科書の様なパフォーマンスが個性。

この端正で流麗で「教科書の様なパフォーマンス」が良くないらしく、我が国では、ドナルド・バードの人気はイマイチ。綺麗すぎる、うますぎる、破綻がなくて面白くない、と、何だか、ピアノのピーターソンが、我が国で人気がイマイチな理由と同じ。

しかし、僕は、この偏った評価は以前から「疑問」である。ブラウニーもそうじゃないか、と思うのだが、ブラウニーは早逝した悲劇のトランペッターだから良いのだそうだ。偏った評価も甚だしい(笑)。

Donald Byrd 『Free Form』(写真左)。1961年12月11日の録音。ブルーノートの4118番。ちなみにパーソネルは、Donald Byrd (tp), Wayne Shorter (ts), Herbie Hancock (p), Butch Warren (b), Billy Higgins (ds)。リーダーのドナルド・バードのトランペットとウェイン・ショーターのテナーが2管フロントのクインテット編成。バックのリズム隊は、ハービー・ハンコックをピアノに、新主流派志向。

この盤は、ジャズロックなファンキー・チューンから、静的でジャジーなバラードから、バリバリ硬派なハードバップから、新主流派モード・ジャズから、ライトなフリー・ジャズまで、それまでのメインストリームなジャズの演奏スタイルを網羅した、バラエティーに富んだ内容になっている。
 

Donald-byrd-free-form

 
そんなバラエティーに富んだ演奏スタイルを、ドナルド・バードは、いともたやすく、しっかりと吹き分けていく。しかも、どのスタイルでも「端正で流麗でブリリアント、ピッチやフレーズにブレは無く、アドリブ・フレーズのイマージネーション豊か、ジャズ・トランペットの教科書の様なパフォーマンス」は変わらない。ドナルド・バードのトランペットの力量とテクニックの高さがよく判る。

バックの新主流派志向のメンバーは、といえば、このドナルド・バードのリーダー作の「それまでのメインストリームなジャズの演奏スタイルを網羅した、バラエティーに富んだ内容」にしっかりと追従している。

感心するのは、新主流派志向のメンバーなので、ジャズロックだろうが、硬派なハードバップだろうが、どの演奏のアドリブ部では、モーダルな演奏に走りそうなものだが、そんな無粋なことは絶対にしない。どの演奏スタイルでも、その演奏スタイルならではのパフォーマンスで、リーダーのドナルド・バードのトランペットに追従している。さすが、若手の中でも一流の「選りすぐり」のメンバーである。

特に、フロント管の相棒、若きウェイン・ショーターのテナーが絶好調。どの演奏スタイルでも吹きこなす適応力はさすが。得手不得手の差は全く感じられない。そして、どの演奏スタイルでも、統一の個性で演奏スタイルを弾き分ける、伴奏ピアノの達人の面目躍如、ハービー・ハンコックのバッキングが素晴らしい。どの演奏スタイルでも、的確で、フロントを引き立てる、絶妙のバッキングを供給している。見事である。

我が国では、謂れのない理由で、人気イマイチのドナルド・バードであるが、この盤を聴けば、ジャズ・トランペッターとして一流であり、一目置かれる存在であることが良く判る。

この盤は、飛び立つ鳩をあしらったジャケがジャズっぽくなくて損をしているけど(笑)、これまでのD・バードの、トランペッターとしてのパフォーマンスの集大成の様な構成で、彼の活動前期の名盤としても良い内容である。
 
 

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2024年5月25日 (土曜日)

ドナルド・バードの初リーダー作

ドナルド・バード(Donald Byrd)は、デトロイト出身のモダン・ジャズ・トランペッターのレジェンド。ハードバップ初期から頭角を表し、1958年には、バリトン・サックス奏者のペッパー・アダムスと共同でレギュラー・グループを持っている。ハードバップから始まり、ファンキー・ジャズ、ソウル・ジャズ、ジャズ・ファンクと演奏スタイルを変えつつ、ジャズ・シーンの第一線を走り続けた。

バードのトランペットは、端正で流麗でブリリアント、ピッチやフレーズにブレは無く、アドリブ・フレーズのイマージネーション豊か、ジャズ・トランペットの教科書の様なパフォーマンスが個性。生涯、この教科書の様なパフォーマンスを貫いた、モダン・ジャズ・トランペッターのレジェンドである。

Donald Byrd 『Byrd Jazz』(写真左)。1955年8月23日、デトロイトの「New World Stage Theatre」でのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Donald Byrd (tp), Bernard McKinney (euphonium), Yusef Lateef (ts), Barry Harris (p), Alvin Jackson (b), Frank Gant (ds)。ドナルト・バードの初リーダー作。出身地のデトロイトでのライヴ録音。
 

Donald-byrd-byrd-jazz

 
ジャズにおいては、初リーダー作で、そのリーダーの個性と特徴の全てが判る、というが、このドナルド・バードの初リーダー作もその例に漏れることは無い。バードのトランペットについては、「端正で流麗でブリリアント、ピッチやフレーズにブレは無く、アドリブ・フレーズのイマージネーション豊か」という個性と特徴が、このライヴ音源に詰まっている。

録音がちょっとナローなので、ライヴ音源としては大人し目なのだが、若き日の溌剌としたバードのトランペットはバッチリ捉えられている。フロント管のラティーフのテナーもよく唄い、ジャズには不向きなマッキンニーのユーフォニウムも、なかなか健闘、そんなフロント管パートナー達と、楽しげにハードバップをやるバードのトランペットはブリリアント。

渋いバップ・ピアニスト、バリー・ハリスを中心とするリズム隊も、明確にハードバップなバッキングを供給していて、バードは、どこかクリフォード・ブラウンを想起させる様な、端正で流麗でブリリアントで溌剌としたアドリブ・フレーズを吹きまくる。バードのトランペットの個性と特徴の「源」を確認するには、格好のライヴ盤。以前は「幻の名盤」扱いでしたが、今では、サブスク・サイトでも聴くことができます。有難いことです。
 
 

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2024年2月19日 (月曜日)

Jazz Lab と The Cecil Taylor 4

ドナルド・バードのリーダー作の落穂拾い、当ブログで「未記事化」のアルバムをピックアップしていて、不思議なアルバムに再会した。ハードバップど真ん中とフリー・ジャズの先駆け、2つの全く志向の異なる演奏スタイルのユニットの不思議なカップリング。どういう感覚で、こういうカップリング盤を生み出したのやら。

The Gigi Gryce-Donald Byrd ”Jazz Laboratory” & The Cecil Taylor Quartet『At Newport』(写真)。1957年7月5–6日、ニューポート・ジャズフェスでのライヴ録音。

パーソネルは、以下の通り。1〜3曲目が「The Cecil Taylor Quartet」で、Cecil Taylor (p), Steve Lacy (ss), Buell Neidlinger (b), Denis Charles (ds)。 4〜6曲目が「Jazz Laboratory」で、Donald Byrd (tp), Gigi Gryce (as), Hank Jones (p), Wendell Marshall (b), Osie Johnson (ds)。

このライヴ盤は20年ほど前に初めて聴いたのだが、前半1〜3曲目の「セシル・テイラー・カルテット」のフリー・ジャズの先駆け的な、反ハードバップ的なちょっとフリーな演奏の「毒気」にやられて、後半の「ジャズ・ラボ」の純ハードバップな演奏もそこそこに、このライヴ盤は我が家の「お蔵入り」と相なった。
 

The-gigi-grycedonald-byrd-jazz-laborator

 
が、今の耳で聴き直すと、まずこの「セシル・テイラー・カルテット」が面白い。テイラーのピアノが、硬質でスクエアに高速スイングするセロニアス・モンクっぽくて、意外と聴き易い。レイシーのソプラノ・サックスは、テイラーのピアノのフレーズをモチーフにした、擬似モーダルなフレーズっぽくて、これも意外と聴き易い。反ハードバップな、ちょっとアブストラクトな演奏だが、整っていて、しっかりジャズしている。意外と聴ける。

逆に初めて聴いた時にはしっかり聴かなかったジジ・グライスとドナルド・バードの「ジャズ・ラボ」の演奏だが、これは、このライヴ盤の前、ジャズ・ラボのデビュー盤『Jazz Lab』(2024年2月18日のブログ参照)の内容、ライヴなので、スタジオ録音よりも演奏はアグレッシヴ。演奏レベルと寸分違わない、それまでにない響きとフレーズの「新鮮なハードバップ」が展開されている。

フリーの先駆け的な、反ハードバップで、ちょっとアブストラクトな「The Cecil Taylor 4」。それまでにない響きとフレーズが新鮮なハードバップの「Jazz Lab」。当時はどちらも新しいジャズの響きだったのだろう。

今回、改めて聴いてみると、当時の先進的なハードバップの好例として、この2つのユニットの演奏は違和感無く聴ける。今回も、ジャズ盤って、時を経ての聴き直しって必要やな、と改めて感じた。
 
 

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2024年2月18日 (日曜日)

意外とイケる新鮮な『Jazz Lab』

ジャズ・トランペットのプロフェッサー & レジェンド、ドナルド・バードの落穂拾いをしている。

FMから流れてくるモダン・ジャズ、マイルス・デイヴィスのトランペットに触れて、ジャズを意識して聴き始めて早50年。ドナルド・バードのリーダー作については一通り聴き終えてはいるが、当ブログに記事でアップしていないリーダー作はまだまだある。追々記事にしていっているのだが、その記事にする時、おさらいに対象盤を聴き直している。

Donald Byrd & Gigi Gryce『Jazz Lab』(写真)。1957年2月4–5日と3月13日の録音。アルト・サックスの職人ジジ・グライスとトランペットのドナルド・バードが組んで立ち上げたユニット「Jazz Lab」のデビュー盤。

ちなみにパーソネルは、Gigi Gryce (as), Donald Byrd (tp), Jimmy Cleveland (tb, tracks 5 & 7), Benny Powell (tb, tracks 1 & 3), Julius Watkins (French horn, tracks 1, 3, 5 & 7), Don Butterfield (tuba, tracks 1, 3, 5 & 7), Sahib Shihab -(bs, tracks 1, 3, 5 & 7), Tommy Flanagan (p, tracks 1-3 & 6), Wade Legge (p, tracks 4, 5 & 7), Wendell Marshall (b), Art Taylor (ds)。

ユニット名の「Jazz Lab」。訳すと「ジャズ実験室」。どんな実験をやるんだ、と思って聴き始めると、意外と真っ当なハードバップ。なんだハードバップやん、と思って聴き進めると、アレンジやアドリブの取り方に色々と工夫があって、それまでにない響きとフレーズの「新鮮なハードバップ」になっていて、「手垢が付いた」感が無くて感心する。
 

Donald-byrd-gigi-grycejazz-lab

 
この盤でも、1曲目「Speculation」、3曲目「Nica's Tempo」、5曲目「Little Niles」、7曲目「I Remember Clifford」では、トロンボーン、チューバ、フレンチ・ホルン、バリトン・サックスを入れた、分厚いブラス・セクションを前提とした、捻りの効いたアレンジで、それぞれの曲をまるで新曲の様に聴かせる。「ジャズ実験室」の面目躍如である。

そして、聴き直して、ちょっとビックリしたのが、ジジ・グライスのアルト・サックス。ちょっと小難しい施策的なアルトを吹く人だと思っていたのだが違った。力感溢れるテクニック確かな、正統派アルト・サックス。これが、アレンジやアドリブの取り方に色々と工夫がある楽曲をスイスイ吹き進めるのだからビックリ。

相棒のドナルド・バードのトランペットはやはり「上手い」。テクニックも上々、フレーズは流麗で力感溢れ歌心も抜群。グライスのアルト・サックスとの相性は抜群。さすがパーマネントなユニットを組もうと思ったのも頷ける。このフロント2管の存在感が抜群なのが、この「ジャズ実験室」の最大の「ウリ」。

そうそう、1曲目〜3曲目、そして6曲目にピアノを担当しているトミー・フラナガンも実に良い。力感溢れるテクニック上々で歌心溢れるフロント2管のバックで、これは相手に不足無し、ってな感じで、トミフラ節全開のバップ・ピアノをガンガン弾いている。アドリブ・フレーズもイマージネーション豊かに様々な展開を弾きまくる。

久しぶりのこの盤で、アグレッシヴなジジ・グライスのアルト・サックスを聴いて、グライスのアルト・サックスを見直した。というか、完全に誤解していた。ドナルド・バードとトミー・フラナガンは好調を維持。聴き直してみて、意外と「イケる」ハードバップ盤。ジャズ盤って、時を経ての聴き直しって必要やな、と改めて感じた。
 
 

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2023年9月13日 (水曜日)

機を見るに敏なバードの器用さ 『Free Form』

ドナルド・バードというトランペッターは「機を見るに敏」なトランペッターだった。ジャズのその時代毎の流行、トレンド、志向を機敏に読み取り、リーダー作に反映した。もともと器用なトランペッターが故、採用した流行、トレンド、志向を深く掘り下げて極めるほど、深く追求せず、次から次へ、流行、トレンド、志向を乗り換えていったので、意外と決定打にかけるところが玉に瑕である。

ドナルド・バードのトランペットは素姓が非常に良い。テクニックも上々、拠れたり外したりすることが全く無い。音も大きく伸びが良く、ブリリアントに響く音色は、とにかくとても素姓が良い。どの流行、トレンド、志向の下でも、ドナルド・バードのトランペットは映える。とても、モダン・ジャズらしいトランペットである。

Donald Byrd『Free Form』(写真左)。1961年12月11日の録音。ブルーノートの4118番ちなみにパーソネルは、Donald Byrd (tp), Wayne Shorter (ts), Herbie Hancock (p), Butch Warren (b), Billy Higgins (ds)。リーダーのドナルド・バードのトランペットとショーターのテナーの2管フロント。バックのリズム隊は、ハンコック率いる新主流派志向のリズム隊。

前リーダー作『Royal Flush』で、それまで進めていた理知的なファンキー・ジャズのファンキー度を更に上げ、「ファンク度が増した理知的なモード・ジャズ」な演奏志向にチャレンジした。そして、当盤である。
 

Donald-byrdfree-form

 
パーソネルを見渡して、「これは本格的な、新主流派のモード・ジャズを本格追求やな」と思って聴き始めると、冒頭の「Pentecostal Feelin」のジャズロックに思わず仰け反る。しかも、こってこてのジャズロックをショーターが吹いている。あらら、と思う(笑)。

しかし、2曲目のハンコックが書いたバラード「Night Flower」では、ハードバップ時代に戻った様な、リリシズム溢れるブリリアントなバードのトランペットが鳴り響く。あれれ、モードは何処へ行ったと思ったら、3曲目からこってこての「新主流派志向のモード・ジャズ」が展開される。

しかし、バードのモード・ジャズって、ショーターとハンコックに任せっぱなし、な印象。ハンコックとショーターが喜々としてモダールなフレーズを連発する中、バードが器用さにまかせて、癖の無い平易なモーダル・フレーズで、ショーターやハンコックに追従する、って感じの展開で終始している。

内容的には「機を見るに敏」なトランペッターの面目躍如的内容だが、ドナルド・バード流のモード・ジャズ、という切り口が希薄なのが残念。器用に新主流派なモード・ジャズを展開するのは「機敏」だが、借りてきた様な内容に終始するのはどうだろう。

モード・ジャズの好例として、この『Free Form』が話題に上ったことが無いのは、そういうことなんだろう。演奏内容は結構良いのに、「機を見るに敏」なバードの器用さだけが印象に残る残念な盤である。
 
 

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