2022年11月 7日 (月曜日)

傑作ライヴ盤『8:30』を聴き直す

このライヴ盤は売れた。内容的にも充実している。ウェザー・リポートのメンバーが、やっと、テナー・サックスのワンホーンに、キーボード+ベース+ドラムのリズム・セクションの4人について、最適のメンバーが顔を揃え、最適なメンバーで固定された記念すべきライヴ盤である。

Weather Report『8:30』(写真)。1979年のリリース。ちなみにパーソネルは、Joe Zawinul (key), Wayne Shorter (ts,ss), Jaco Pastorius (el-b), Peter Erskine (ds)。 ほとんどの曲がザヴィヌル作であり、大ヒットアルバム『Heavy Weather』の人気曲をメインに、他のアルバムから、同傾向の音志向の人気曲が選曲されている。WRが一番、フュージョン・ジャズに接近したライヴ盤である。

このライヴ盤は売れた。選曲は『Heavy Weather』と他のアルバムの人気曲が選ばれており、ポップでキャッチャーな楽曲ばかりが並んでいる。そりゃ〜当時は売れただろうな、と思う。しかし、今の耳で聴き直せば、ジャズとしての即興演奏の妙は、ジャコのベース・ソロ曲と、ショーターのサックス・ソロ曲だけに留まっていて、他の楽曲は既定路線に乗った、金太郎飴の様な聴き馴れたアレンジで統一されている。

前作の『Mr,Gone』からの選曲は全く無く、如何に前作がセールス的に「問題作」だったかが窺い知れる。が、このライヴ盤で、このライヴ盤『8:30』をジャズの範疇に留めているのは、ジャコのベースとアースキンのドラムである。このライブ盤の全編に渡って、この二人のリズム&ビートは半端ない。それまでのWRの人気曲に躍動感を与え、ジャジーな自由度を拡げている。どの曲もオリジナルよりもテンポが速く、ベースラインもドラミングも複雑極まりない。
 

Wr-830

 
加えて、何時になく、ショーターがサックスを吹きまくっている。吹きまくり、とはこのこと。しかも、誰にも真似できない、ショーターならではの宇宙人的に捻れたフレーズが満載。どの収録曲もザヴィヌルの楽曲で、ショーターの音志向である「エスニック&ミステリアス」な音は希薄でありながら、である。恐らく、ジャコとアースキンのリズム隊の「賜物」だろうと思う。ジャコとアースキンが、ショーターの「ジャズ魂」に火を付けたのだ。

一方、ザヴィヌルのキーボードは安全運転、というか、聴き馴れたフレーズばかりで、可も無く不可も無く。まるでスタジオ録音の演奏を聴いているようだ。せっかくのライブ音源なのに、もっと自由度を拡げて、もっと魅力的なフレーズを弾きまくって欲しかった。

なお、LP時代のD面のスタジオ録音については、発売当時、1980年代のジャズを予言するものとして、持てはやされたものだが、今の耳で聴くと、完成度は「道半ば」、ブラッシュアップ中の未完な雰囲気が漂っていて、僕はあまり評価していない。これをLP時代のLP2枚目のD面に入れるのなら、他の曲のライヴ音源を追加して欲しかった。今となっては、このLP時代のD面の存在意義が良く判らなくなっている。

ショーターとジャコ、アースキン。この3人の卓越したテクニックの下、ジャジーで自由度の高い、変幻自在な演奏が、このライヴ盤を「ジャズ」の範疇に留め、未だ、エレ・ジャズの傑作ライヴ盤の1枚としての評価を維持しているのだ。
 
 

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2022年11月 6日 (日曜日)

今の耳で『Mr.Gone』を聴き直し

Weather Report(ウェザー・リポート)というバンドについて、その本質となる音の志向はなんだったんだろう、と思うことがある。レコード会社の意向の翻弄されて、売らなければならないというプレッシャーの中では、なかなか、その本質となる音の志向を、バンドのメンバーが思うとおりに追求するのは、なかなか難しかったと思われる。

Weather Report『Mr.Gone』(写真左)。1978年の作品。ちなみにパーソネルは、Joe Zawinul (key, syn), Wayne Jaco Pastorius (b, ds (tracks 1,2))。アディショナル・メンバーとして、Peter Erskine (ds (tracks 1 and 7), Tony Williams (ds (tracks 5 and 6)), Steve Gadd (ds (tracks 3 and 8)), Manolo Badrena, Jon Lucien (vo (track 1)), Deniece Williams, Maurice White (vo (track 8))。

ザヴィヌルとジャコの双頭プロデュース。音の志向としては、ジャコ主導のプロデュースで、この盤は成立している。というのも、このアルバム、それまでのWRの音志向とは全く異なるもので、アーティスティックな雰囲気に彩られた、エスニックでアーシーで、ワールド・ミュージック的な音世界。前作のヒット・アルバム『Heavy Weather』のポップでフュージョンな音世界の微塵も無い。

しかしながら、このジャコの音志向が、WRのバンドとしての本質な音志向のひとつにヒットしているのだから面白い。エスニックで呪術的で限りなく自由度の高いモード・ジャズの音世界。これが、もともと、ザヴィヌルとショーターとヴィトウスが描いていた「WRの音世界」のひとつである。ザヴィヌル、ショーター抜きのジャコ主導のプロデュースで、この音世界が表現された訳だから、ジャコのプロデュースの才能は凄い。

よくこんな「ジャコの冒険」をザヴィヌルが許したもんだと感心する。冒頭の「Pursuit of the Woman With the Feathered Hat(貴婦人の追跡)」を聴くだけで判る。このアルバムが、ジョー・ザビヌルのものでないことを。ボーカルの使い方、キーボードの重ね方、サックスの使い方、どれをとっても「ザヴィヌルの音」では無い。これは「ジャコの音」である。
 

Wrmrgone

 
面白いのは、この「ジャコの音」に乗って、ショーターがサックスを喜々として吹いているところ。ジャコのエスニックで呪術的な音志向が、ショーターのサックスの音志向にバッチリ合うのだろう。この盤で、ショーターは、メインストリーム志向の、実に魅力的なモーダルなフレーズを連発する。そして、このショーターのサックスが、この盤を「メインストリームな純ジャズ」志向の音世界に染め上げている。

ジャコのベースは大活躍。とりわけ、6曲目のジャコ作『Punk Jazz』が凄い。ザビヌルも、ポリフォニック・シンセで真っ向から応戦しているのだが、あまりにもジャコのインプロビゼーションが凄すぎて、他のメンバーが目立たなくなるほど。凄まじきジャコのエレベである。他の曲でも凄まじき、自由度の高い、ファンキービートの効いたエレベの乱舞。

WRは、この盤で、唯一、WRの音志向に合致したドラマー、ピーター・アースキンに出会う。ちなみにこの盤では、まだドラマーは固定されていない。苦し紛れにトニー・ウィリアムスを持って来たり、スティーヴ・ガッドを持って来たり、果ては、またまた、ジャコ自身がドラムを叩いたりしている。しかし、今の耳で聴くと、アースキンのドラムが一番、WRの音世界にフィットしている。

僕はこの『Mr.Gone』の音世界が大好きだ。でも、リリースされた当時は、評論家筋の評価は全く思わしく無かった。でも、今の耳で聴いても、この『Mr.Gone』の音世界は、Weather Reportのアルバムの中でもトップクラスである。当時、何故、あんなに評価が低かったのかが理解しかねる。この盤は、歴史的な成果を誇る、WRの代表作の1枚である。
 
 

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2022年10月 2日 (日曜日)

今の耳に『Heavy Weather』

さて、Weather Report(以下、WRと略す)のアルバムを今の耳で聴き直すシリーズ。いよいよ佳境である。前作『Black Market』で、エレベのイノベーター、ジャコ・パストリアスを発見し、正式メンバーとした。そして次作。あのWRの大ヒットしたアルバムの登場である。

Weather Report『Heavy Weather』(写真)。1977年の作品。ちなみにパーソネルは、Joe Zawinul (key), Wayne Shorter (sax), Jaco Pastorius (b, ds : Teen Town), Alex Acuña (ds), Manolo Badrena (perc)。 前作で課題だった「ドラマー問題」は解決しておらず、前作でパーカッションを担当していたアレックス・アクーナがドラムを担当している。この盤でもドラムについてはウィーク・ポイントになっているが次作を待つしか無い。

前作では「エスニック&ユートピア」志向のザヴィヌル、「黒魔術的な音世界」志向のショーター、「ファンキー&パンク」志向のジャコと3者の音志向のバランスが取れ始めていたが、この『Heavy Weather』では、この3者の良きバランスが見事に定着している。が、盤全体の雰囲気は「フュージョン・ジャズ」。耳当たりの良いキャッチャーな、聴き味の良いフレーズ満載の「ソフト&メロウ」な楽曲が目白押し。

冒頭の「Birdland」は、ザヴィヌルの「エスニック&ユートピア」志向の楽曲で、ビートの効いた、明るくポジティブでキャッチャーなフレーズ満載の傑作。即興演奏の妙は皆無。フュージョン・ジャズの強烈な味付け。続く「A Remark You Made」は、珍しい、ショーターの「フュージョン・バラード」。この曲も即興演奏の妙は無く、フュージョン系のイージーリスニング・ジャズな趣き。この2曲を聴いて判る通り、この盤は、ザヴィヌル&ショーターからすれば「売りたい」盤だったことが窺い知れる。
 

Weather-reportheavy-weather

 
1人気を吐いているのがジャコ。3曲目の「Teen Town」でのエレベの即興は見事。ドラムについても、アクーナのドラムを排除して自らがドラムを叩く気合いの入れよう。この曲はジャコの代表的パフォーマンスの1曲。ラストの「Havona」も、変に捻れたテーマを持つ不思議な雰囲気を持つ曲。ストレート・アヘッドなエレ・ジャズ。この「Havona」でのバンドのテンションは凄い。これぞ、ウェザー・リポートの真骨頂だ。

5曲目の「Rumba Mamá」の存在は今もって全く理解不能。アフリカンな打楽器メインの短いパフォーマンス。このフュージョン志向のWR盤に、この曲が何故入っているのか、未だに理解出来ない。打楽器担当にもスポットライトを当てたかったのかもしれないが、この曲は、この『Heavy Weather』の音志向からすると、全くの「不要な曲」だろう。

この盤は、ザヴィヌルとジャコの共同プロデュース。ジャコはプロデュース面で、ザヴィヌル&ショーターの「この盤を売りたい」という意向に協調している。「売れる」為のプロデュース。この面でも、ジャコの加入の貢献度は高い。

そして、どの曲においても、ジャコのエレベのベースラインが突出している。実に独創性の高い、実にテクニカルなベースラインをガンガン供給する。フレットレス・エレベの粘りのビートがビンビンに効いている。ソフト&メロウなフュージョン志向の楽曲を質の良いジャズに留めているのは、ひとえにこのジャコの天才的なベースラインのお陰だろう。

この盤は、どちらかと言えば、WRのバンドの音志向からすると、ちょっと外れた「異質のアルバム」だと思う。言い換えると、一番、フュージョン・ジャズに接近した盤と言えるだろう。バンドの課題であった「打楽器隊」も解決には至っておらず、この盤は、エレ・ジャズの「名盤」とするには、ちょっと疑問符が付く。ただ、この盤は売れに売れた。WRとして、大ヒットした「佳作」と僕は評価した。
 
 

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2022年9月29日 (木曜日)

今の耳で聴く『Black Market』

1970年代から1980年代前半のジャズ界を駆け抜けた、伝説のスーパー・バンド『Weather Report』(以降、WRと略)。僕はほぼリアルタイムでWRを聴いてきた訳だが、リアルタイムで聴いていた当時と、あれから約50年が経って、年齢を重ね、様々なジャズを聴き進めてきた「今のジャズ耳」で聴くのと、ある部分、印象が全く異なる部分があるのに気がついた。WRのアルバムを順に聴き直してみると、意外とこの「印象が異なる部分」が、かなり興味深く聴けるのが面白い。

Weather Report『Black Market』(写真)。1976年の作品。ちなみにパーソネルは、Joe Zawinul (key), Wayne Shorter (sax), Alphonso Johnson (el-b), Jaco Pastorius (el-b, tracks 2 & 6), Narada Michael Walden (ds, tracks 1 and 2), Chester Thompson (ds, track 1, tracks 3–7), Alex Acuña (perc, tracks 2–5, track 7), Don Alias (perc, tracks 1 and 6)。WRの第2期黄金時代の幕開けを告げる、マイルストーン的な名盤である。

名盤とは言え、リズム・セクションの迷走は続いていた。ドラムは2人、パーカッションも2人が分担して叩いている。それぞれの曲における打楽器系の音を聴いても、決定力にかけるパフォーマンス。悪くは無いんだが、躍動感に欠けるというか、迫力に欠けるというか。こういったドラム系の人選はマイルス・ティヴィスが一番。1970年代のマイルス・バンドのドラム系の人選の成果を思うと、どうにもこの時点でのWRのドラム系の人選はイマイチな感じが拭えない。

そして、ベースである。前作『幻祭夜話』で、アルフォンソ・ジョンソンに恵まれたWR。アルフォンソのエレベは、WRとして申し分無く、ビトウスの抜けた穴をやっとこさ埋めた感じたしていた。そんなところに「俺は世界で最高のベーシストさ、俺を雇う気はないか」と、とんでもないベーシストが自らをWRに売りにやってきた。伝説のエレベのイノベーター、ジャコ・パストリアスである。

ジャコはこの盤では「Cannon Ball」と「Barbary Coast」の2曲のみで、エレベを弾いているのだが、これが凄い。それまでに聴いたことの無いエレベに我々は驚愕した。
 

Weather-reportblack-market

 
リズム&ビートを供給するリズム隊としてのベースとしてのパフォーマンスについても、音がソリッドで太っとく、躍動感溢れ、破綻の無い滅茶苦茶テクニカルなベースラインが凄い。しかし、もっと凄いのが、ソロ・パフォーマンス。まるでエレギを弾くかのようにエレベを弾く。つまり、リズム隊ばかりで無く、エレベでフロント楽器の役割を担うベーシストが出てきたのだ。

当時のWRは、フロント楽器を真っ当に担えるのは、ウェイン・ショーターのサックスのみ。ザヴィヌルのキーボードは伴奏力に優れるが、フロント楽器としてのソロ・パフォーマンスは苦手にしていたフシがあって、WRはフロント楽器の華やかさに欠けるところがあった。が、ジャコの登場で、その弱点は一気に克服されている。「Cannon Ball」と「Barbary Coast」の2曲における、ジャコの「リズム&ビートを供給するリズム隊としてのエレベ」と「フロント楽器の役割を担うエレベ」は傑出している。

ソング・ライティングについても充実してきた。今までは「エスニック&ユートピア」志向のザヴィヌル、「黒魔術的な音世界」志向のショーター、この2人の作曲がほとんどだったが、ここにジャコの「ファンキーで高速フロント・ベース」を活かした楽曲が加わって、収録曲の内容もバッチリ充実している。この『Black Market』では秀曲揃いで、そういう意味でも、この盤は聴き応えがある。

全体的には、キャッチャーでアーシーな曲がずらりと並ぶ。そんな曲のリズム&ビートをしっかり支え、濃厚なファンクネスを供給するリズム・セクションが是非とも必要になるのだが、ジャコを発見することにより、エレベの目星は付いた。あとはドラム。だがWRに最適なドラマーについては、課題として次作に持ち越すことになる。

それでも、この『Black Market』での混成リズム隊は意外と健闘している。だからこそ、この盤はWRの第2期黄金時代の幕開けを告げる、マイルストーン的な名盤として評価できるのだ。もっと最適なリズム隊を得た時のWRの音世界はどんなものになるのか。WRのポテンシャルは相当に高いことをこの盤を聴いて再認識する。
 
 

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2020年12月11日 (金曜日)

Jaco Pastorius『In New York』

最近、Weather Reportのアルバムを聴き直しているんだが、やはり『Black Market』から『Weather Report(1981)』までのアルバムが一番充実している。とりわけ、リズム・セクションの固定化が実現した『8:30』から『Weather Report(1981)』の3枚は、今のジャズと照らし合わせても「無敵」。群を抜いた内容の素晴らしさである。

特に、エレベの革新者、ジャコ・パストリアスの出現は度肝を抜かれた。『Heavy Wrather』の「Teen Town」でのエレベ・ソロは凄かった。僕は最初、ザヴィヌルがシンセでベース・ラインを弾いているんだと思った。せっかくベース奏者がいるのに無体なことするなあ、とザヴィヌルを疑った。が、これがジャコのエレベ・ソロだと知った時、唖然とした。

そして、彼の弾くベース・ラインについても明らかに革新的。ベース弦を弾くテクニックがずば抜けているが故に実現出来る、明らかに今までに無い、高速なベース・ライン。ベース・ラインにおける「シーツ・オブ・サウンド」。エレベがギターと共に、旋律楽器としてフロントを張ることだって出来る様になった。これは明らかにジャコのお陰である。
 
 
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Jaco Pastorius『In New York』(写真左)。1985年11月、NYでのギグのライヴ録音。CD2枚組。ちなみにパーソネルは、Jaco Pastorius (el-b, vo), Hiram Bullock (el-g), Michael Gerber (ac-p), Alex Foster, Butch Thomas (sax), Delmar Brown (syn, vo), Kenwood Dennard (ds), Jerry Gonzalez (tp, congas)。

ジャコのブートレグ盤。音はまずまずで最後まで聴ける。演奏内容については、曲によっては「トホホ」なものもあるが、押し並べてまずまずの出来。ジャコのエレベについては、しっかりと楽しめる。「俺のベースについてこい」と言わんばかりに、強引に突っ走るような高速ベースライン。他のメンバーに合わせる気なぞ、さらさら無い。しかし、創造性溢れる「これしかない」的なベース・ライン。このライヴ盤、ジャコのエレベを愛でるには十分の内容になっている。

ハイラム・ブロックのエレギも凄い。以前、マイルスがエレ・ジャズをやる際に、ギタリストに耳打ちした指示が「ジミ・ヘンドリックスの様に弾け」。このライヴ盤でのハイラム・ブロックは、1970年代前半のマイルスが聴いたら喜ぶであろう、
本当にジミヘンの様に弾いている。部分的には「トホホ」な演奏もあるが、押し並べて、この盤のハイラム・ブロックのエレギは充実している。

ジャコのエレベとハイラムのエレギが突出している。ギクなので荒いところもあるが、生々しくて、意外と聴き応えのあるライブ盤である。
 
 
 

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  ・『Middle Man』 1980

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  ・僕達はタツローの源へ遡った

 

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2020年1月21日 (火曜日)

意味深なジャコとメセニーの共演 『Jaco』

このアルバムは、パット・メセニーのディスコグラフィーを紐解くと必ず最初に出てくるのだ。メセニーのリーダー作でも無いのに、何故か必ず出てくるが、メセニーのリーダー作では無いので、ずっとうっちゃっておいた。しかし、やはり気になる。今回、メセニーのアルバムを聴き直す中で、やっとこの盤を聴くことが出来た。

Jaco Pastorius, Pat Metheny, Bruce Ditmas, Paul Bley『Jaco』(写真)。1974年の録音。メセニーもジャコもまだ単独でリーダー作を出していない頃。ちなみにパーソネルは、Paul Bley (el-p), Jaco Pastorius (b), Bruce Ditmas (ds), Pat Metheny (el-g)。並列名義のアルバムだが、目立った順に並べると以上の様になる。ジャズ・ピアノの鬼才、ポール・ブレイがアコピではなく、全編エレピを弾いている。

このブレイのエレピが「エグい」。自由度の高い、切れ味の良い、メロディアスなエレピ。フリーキーなフレーズも見え隠れしつつ、モーダルでちょっと前衛に傾いた、テンションの高いエレピ。このブレイのエレピが、アルバム全編に渡ってグイグイ迫ってくる。このブレイのエレピを聴いていると、このアルバムの主導権はブレイが握っていたと思われる。
 
 
Jaco  
 
 
さて、気になるメセニーと言えば、ちょっと目立たない。しかし、メセニーのギターの音が出てくると、まだ単独でリーダー作を出していないのに、既に音の個性は完全に確立されているのにビックリする。逆に、メセニーのギターの個性は、ブレイのエレピとは相性が良くないことが聴いて取れる。水と油の様で上手く融合しない。この盤では、メセニーはブレイが前面に出て弾きまくっている時、そのフレーズに絡むことはほとんど無い。

逆に、ジャコのベースはブレイのエレピに適応する。ジャコについても、まだ単独でリーダー作を出していないのに、既に音の個性は完全に確立されているのにビックリする。フリーキーなフレーズにも、モーダルなフレーズにも、前衛に傾いたテンションの高いフレーズにも、クイックに対応する。それどころか、ブレイの自由度の高い弾き回しに、絡むようにエレベのラインを弾き回す。ブレイのエレピとの相性は良い。

しかし、ブレイのエレピは従来のブレイのアコピの延長線上にあるが、ジャコのベースとメセニーのギターはそれまでに無い新しい「何か」である。それまでのジャズには無いフレーズと弾き回し。アドリブ・フレーズに対する取り回しが「新しい」。つまり、ジャコやメセニーにとって、ブレイのエレピでは「変革」は起きない、ということ。後に、ジャコ、メセニー共に、それぞれの新しい個性を増幅させてくれるキーボード奏者と出会って、大ブレイクしていくのだ。
 
 
 
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2018年7月30日 (月曜日)

ブロンバーグの「ジャコ称賛」盤

ベーシストがリーダーのアルバムは面白い。ベーシストがリーダーのアルバムには、テクニックを重視した、その特徴的な演奏テクニックを全面に押し出した内容のものも多くある。テクニックの多彩さを追求するものもあれば、ベースの楽器自体のバリエーション(ピッコロ・ベースやチェロなどの活用)を追求したものもあって、聴いてみるとなかなかに面白い。

Brian Bromberg『Portrait of Jaco』(写真左)。2002年のリリース。当時のファーストコール・ベーシストの一人、ブライアン・ブロンバーグの「ジャコ・パストリアス名演作品集」。ジャコはエレベのイノベーターであり、早逝のレジェンドである。そんなジャコの作品をメインに、ブロンバーグがベースを弾き倒したアルバムである。

これだけ徹底的にジャコの作品を弾き倒したトリビュート盤はあまりない。ブロンバーグの優れたところは、ジャコの作品をジャコ風にベースを弾くのでは無く、自分流に置き換えて、ジャコのそれぞれの作品を弾き倒している。この自分流に置き換えて、というところがミソ。ジャコの作品を取り上げることで、ジャコをトリビュートしつつ、自分流のベースを弾くことで、ちゃっかり、ブロンバーグのベースを全面に押しだして、アピールしている。
 

Portrait_of_jaco_1  

 
ブライアンは様々なタイプのベースを駆使している。ピッコロ・ベースをはじめ各種ベースを採用して、それぞれのタイプのベースの可能性を改めて引き出している。テクニックは申し分無い。ジャコはエレベのイノベーターであったが、ここでのブロンバーグはアコベも弾いているところが面白い。アコベならではの響きや音が、ジャコのエレベとは違ったニュアンスに聴こえて、とっても興味深い。

バックを支えるミュージシャンも、Bob Mintzer (sax)、Alex Acuna (per)、Jeff Lorber(el-p) などの名手もゲスト参加していて、コンテンポラリーな純ジャズな、端正で締まった内容の演奏が繰り広げられている。グループ・サウンドとしても質が高く、聴き応えがある。単なるベーシストのテクニックのショーケース的な盤に留まっていないところが、好感度ポイントである。

このアルバム、「低音シリーズ」の一枚らしく、ベースについては、しっかりとした質の良いの良い重低音で録音されている。ベースを弾き倒しているアルバムなので、これだけしっかりとベースの音が録音されていると、ベースの音色、テクニック双方を十分に堪能できる。ジャズ・ベースの音に魅力を感じるジャズ者の方々にお勧めの好盤。

 
 

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2018年6月 8日 (金曜日)

見事な技、見事な表現力 『Shadows And Light』

パット・メセニーがサイドマンのアルバムを聴いている。パットは伴奏上手。パットのギターは自らがリーダーのアルバムとサイドマンで参加したアルバムとで、雰囲気がガラッと変わる。特にサイドマンの時は、参加したそのセッションのリーダーの楽器を惹き立てるように、また、同じ雰囲気でユニゾン&ハーモニーをかまし、アドリブ・フレーズを紡ぎ上げる。

その好例がこのアルバム。Joni Mitchell『Shadows And Light』(写真)。1979年9月、カルフォルニアはSanta Barbara Bowlでのライブ録音。ジョニ・ミッチェルは米国の女性シンガーソングライターの草分けで、その浮遊感と神秘性のある歌詞と曲が彼女の最大の個性。その音楽性は複雑で高難度。通常のロック畑のスタジオ・ミュージシャンではちょっと不足な面が出てしまう。

そこで、ジョニは思い切って、ジャズ畑の一流ミュージシャンを招聘することを思い立つ。1970年代、1972年リリースの『For the Roses』から、クロスオーバー・ジャズ畑から、ジャズメンを採用し始める。そして、1979年の『Mingus』では、参加ミュージシャンは全てがジャズ畑からの招聘となった。確かに、彼女の複雑で高難度な音楽性を的確に表現出来るのは、ジャズ端のミュージシャンをおいて他に無い、と思う。
 

Shadows_light

 
さて、このジョニのライブ盤『Shadows And Light』の、バックバンドのパーソネルは、Pat Metheny (g), Jaco Pastorius (b), Don Alias (ds, perc), Lyle Mays (el-p, syn), Michael Brecker (sax)。いやはや、錚々たるメンバーでは無いか。録音当時、ジャズ界では、これらのメンバーは、人気&実力、共に既に超一流。そんなメンバーがバックを務めるのだ。悪かろう筈が無い。

そんなサイドメンの中で、特筆すべきは、ギターのパットとエレベのジャコ。この2人のテクニックと表現力は群を抜いている。ジョニの複雑で高難度な音楽性を、高度なテクニックと表現力で、的確に表現していく。特に彼女の楽曲が持つ浮遊感と神秘性をパットはギターシンセで、ジャコはフラットレスのエレベで表現していく。これがこのライブ盤での最大の聴きもの。ジョニの楽曲を惹き立て、ジョニのボーカルを浮き立たせるバッキング。

パットもジャコも自分たちの音を出すより、ジョニの楽曲にあった、ジョニの楽曲が表現する音世界を具現化するような音を選び、フレーズを紡ぎ上げる。見事な技であり、見事な表現力である。さぞかし、フロント・ボーカルを張ったジョニは唄いやすかっただろう。このライブ盤でのパットとジャコのバッキングは何度聴いても飽きないし、聴く度に感動する。
 
 
 
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2016年8月12日 (金曜日)

ジャコの個性と凄みを再認識する

ジャズ・ベースの革命児、特にエレキ・ベースの革命児であり、決定的レジェンドの存在が「ジャコ・パストリアス(Jaco Pastorius)」である。彼のベース・プレイは明らかに天才のそれであり、明らかに伝説として語り継がれるべきものである。

そんなジャコの貴重なインタビュー集である「ワード・オブ・マウス ジャコ・パストリアス魂の言葉」が文庫本で発売されたので、本屋で見つけ次第、即ゲット。なかなか興味深い内容で思わず読み進めてしまう。そのBGMとして、ジャコのライブ盤を聴いたのだが、このブートの様なライブ盤の内容もなかなか興味深かった。

そのブートの様なライブ盤とは、Jaco Pastorius『Live in Italy』(写真左)。1986年12月、イタリアはローマでのライブ録音。ジャコは1987年9月に事故で亡くなっているので、無くなる約1年前のライブ・パフォーマンスになる。

ブートの様なライブ盤と書いたが、今までリリースされたジャコのCDを見渡して見ると、1986年暮れから1987年にかけてのBireli Lagreneとのヨーロッパ・ツアー時の音源は、1987年にJacoが亡くなって以降、何種類かリリースされている。この『Live in Italy』は、そんな中の一枚。

このBireli Lagreneneというギタリストとのコラボレーションが、ジャコのエレベの特質を判り易く伝えてくれている様で、僕はジャコのエレベの個性を確かめる際、この『Live in Italy』を良く聴く。好不調の差の激しさはあるものの、ジャコのエレベならではの素晴らしさは、他のベーシストとは明らかにその次元が異なります。
 

Jaco_live_in_italy

 
1曲目の「Improvisation, No. 1/Teen Town」を聴けば、ジャコのエレベの個性が如実に感じ取ることが出来ます。Bireli Lagreneneというギタリストは明らかにロック系で、ジャズ系の音や個性は微塵も無い、単純なプレイです。Deep Purpleの「Smoke On The Water」のリフを弾くおふざけから、下手くそなジミヘンという感じの脳天気でヘヴィなロック・テイストには思わず閉口します。

しかし、ジャコのエレベが入ってくると、その音世界は一変。演奏全体の雰囲気はジャコの個性のみに塗り替えられます。脳天気なBireli Lagreneneというギタリストの音はしていますが、全く影響はありません。「Teen Town」の部分のエレベの弾き回しが凄くて、ユニゾン&ハーモニーの部分では、逆にロック・ギタリストの方が、ジャコのエレベに引っ張られている感じがあります。

脳天気なロック・ギタリストが作ったヘビメタなロックの雰囲気を、ジャコのエレベのフレーズが、ガラッとジャズの音世界に変換させてしまう。それだけ、ジャコのエレベの個性は強烈です。あまり評判の良く無い、このLagreneとのヨーロッパ・ツアーのライブ音源ですが、ジャコのエレベの個性と凄みを再認識出来て、ジャコ者としては意外と楽しめます。

演奏全体の雰囲気は確かに課題の多い内容ですが、ジャコの個性を確認する分には格好のライブ音源だと思います。一般のジャズ者に対してはお勧め出来ませんが、ジャコ者(ジャコのファン)のジャズ者ベテラン方々に対しては一聴をお勧めしています。
 
 
 
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2013年12月24日 (火曜日)

一期一会な「融合の音楽」 『Shadows and Light』

どっぷり浸かるほどのファンではないのだが、部分部分でディープな好みのアルバムがある女性シンガー・ソングライターがいる。その名は「ジョニ・ミッチェル(Joni Mitchell)」。

ジョニ・ミッチェルとは、米国を代表する女性シンガー・ソングライターの一人。カナダ・アルバータ州生まれ。母はスコットランド及びアイルランド系で、父はノルウェー系。1943年生まれだから、今年で70歳になる。1969年のセカンド盤『青春の光と影』の成功により、メジャーな人気を獲得するようになった。

独特な響きを宿した複雑なコードをベースに、エキゾチックでルーツ・ミュージック的な旋律を宿した、彼女独特の歌曲が素晴らしく個性的だ。

どの曲もどこかアーティスティックな雰囲気を宿し、どこかロマンティシズム漂うところが、これまた個性的で、アーシーでフォーキーな雰囲気も芳しく、ジョニの曲は一聴するだけで、それと判るものが多い。

そんなジョニが、ジャズ・ミュージシャンとの邂逅を果たし、一期一会なフュージョン・ミュージックを創造した、そんな一期一会な成果の記録がここにある。Joni Mitchell『Shadows and Light』(写真左)。1979年9月のライブ録音。初出は1980年、LP2枚組でリリースされた。

ちなみにパーソネルは、Joni Mitchell (el-g, vo), Pat Metheny (g), Jaco Pastorius (b), Don Alias (ds), Lyle Mays (key), Michael Brecker (ts, ss)。うむむむ、凄いメンバー構成じゃ。なんというメンバー構成じゃ。このパーソネルの組合せだけで「一期一会」である。このボーカルのジョニのバックを務めるクインテットって、いや〜凄い。

パット・メセニー・グループの双頭リーダーの二人に、後のジャコ・パストリアス率いるワード・オブ・マウス・ビッグバンドのリズム・セクションの二人に、ブレッカー・ブラザースの兄弟2管の弟のテナー&ソプラノのクインテット。こんな組合せ、この時以外にあり得ない。
 

Shadows_and_light

 
コンテンポラリー・ジャズ畑からのジャズメンをバックに侍らせて、ジョニは、ジャジーにフォーキーに、そして、R&Bにゴスペルチックに、そしてロックっぽく「融合の音楽」を創造し,唄い上げていく。

一言で言うと「アメリカン・ルーツ・ミュージック」をベースとした「フュージョン(融合)な音楽」である。コンテンポラリー・ジャズ畑からのジャズメン達のクインテットな音が、素晴らしく柔軟性と応用性の高いフュージョン・ミュージックを表現していく。その様が、このライブ盤では見事に捉えられている。

異種格闘技という言葉があるが、このジョニのライブ盤は、異種格闘技というよりは、異種コラボレーションと表現したらよいだろうか。お互いの個性とテクニックを尊重しつつ、良い意味でのコラボレーションが、奇跡的に成立している。コンテンポラリー・ジャズ畑の強者達が、「ジョニの為に」の一言の下に結集している。

このライブ盤の音世界は筆舌に尽くしがたい。コンテンポラリー・ジャズ者、及び、フュージョン・ジャズ者の方々はもとより、米国西海岸のシンガー・ソングライターの音世界のファンの方々に聴いていただきたい、奇跡の様な「フュージョン(融合)な音楽」の記録である。

どこか敬虔な響きを宿していて、僕にとっては、このライブ盤は冬の季節によく聴くアルバムの代表格ですね。ライブのエコー感も程良く心地良く、こんなライブ盤が録音されたこと自体が「一期一会」な出来事と言えるでしょう。
 
 
 
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