2021年6月25日 (金曜日)

切々と叙情的な変則トリオ

ジャズの演奏形態って、これが絶対という「定型」が無い。例えば「ピアノ・トリオ」を例に取ってみても、基本は「ピアノ+ベース+ドラム」なんだが、「ピアノ+ベース+ギター」というのもあるし、「ピアノ+ベース+サックス」というものある。基本的には楽器同士の相性をベースに編成するが、相性の悪い楽器同士で編成を組むケースもある。つまりは「何でもアリ」なんですね(笑)。

Carla Bley, Andy Sheppard & Steve Swallow『Trios』(写真左)。2013年4月の録音。ECMレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、’Carla Bley (p), Andy Sheppard (sax)、Steve Swallow (b)。ピアノ・トリオ編成とはいっても、ピアノ+ベース+サックスという、ECMレーベルらしい、捻った編成のトリオである。

自由度の高いピアノを弾くカーラ・ブレイという印象が強いが、この盤でのカーラのピアノは、意外ではあるが、とても叙情的でリリカル。欧州ジャズらしい響きであり、ECMらしい響きでもある。収録曲5曲全て、カーラ・ブレイの作曲。それぞれの曲の出来が良く、作曲者本人、自らがピアノを弾くので、やはり、当然のことながら内容が良い。
 

Trios-carla

 
カーラのピアノに、アンディ・シェパードのサックスが効果的に絡む。シェパードのサックスの響きも実に「欧州的でリリカル」。そんなピアノとサックスの相乗効果で、このアルバム全体の雰囲気である「切々と叙情的で欧州的な」響きが増幅される。ドラムが無い分、このピアノとサックスの絡みが詳細に渡って聴き取ることが出来るので、この盤の全体に漂う「切々と叙情的で欧州的な」響きを十分に堪能することが出来る。

そして、カーラとシェパードのサックスの絡みをガッチリとサポートするのが、スワローのベース。スワローのベースは「エレクトリック」。カーラのピアノのタッチが硬質で切れ味が良く、そして、シェパードのサックスも同様に音が固くて切れ味が良い。そんなピアノ&サックスを、スワローのエレベ(エレクトリック・ベース)が包み込む様にサポートする。このピアノとサックスをサポートするベースはやはり「エレベ」が最適だろう。

ドラムレスの「ピアノ+ベース+サックス」という変則ピアノ・トリオであるが、ドラムレスが正解だし、ベースは「エレベ」が正解。プロデュースは「マンフレート・アイヒャー」。へ〜っ、カーラ・ブレイのセルフ・プロデュースやないんや。ということは、アイヒャーのプロデューサーとしての手腕、まだまだ衰えていない、ということになる。凄いなあ、アイヒャー。
 
 
 

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Matsuwa_billboard

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2019年3月17日 (日曜日)

ECMを感じるに絶好の一枚 『Dreams So Real』

欧州ジャズの老舗レーベルであるECM。ECMには独特の音の傾向がある。西洋クラシック音楽の伝統にしっかりと軸足を置いた「ECMの考える欧州ジャズ」。極力、電化サウンドを排除し、アコースティックな表現を基本とし、限りなく静謐で豊かなエコーを個性とした録音。

米国のブルーノート・レーベルの「統一感」に勝るとも劣らない、芸術という観点でのレーベル運営をECMに感じることが出来る。アイヒャーの監修・判断による、アイヒャー独裁による強烈な「美意識」。"The Most Beautiful Sound Next to Silence" この「沈黙に次いで最も美しい音」を基本とするECMレーベルの「音の統一感」は、"Produced by Manfred Eicher" のクレジットの下に徹底されている。

そんなECMレーベルには、専属、もしくは専属に近いミュージシャンが多くいる。例えば、ヴァイブのゲイリー・バートン(Gary Burton)などは、ECMの「お抱えミュージシャン」の代表格。当然、ECM時代のバートンの数々のリーダー作の音は、典型的なECMレーベルの音世界で充満している。
 

Dreams_so_real

 
Gary Burton『Dreams So Real - Music of Carla Bley』(写真)。1975年12月の録音。ちなみにパーソネルは、Gary Burton (vib), Mick Goodrick (g), Pat Metheny (g), Steve Swallow (b), Bob Moses (ds)。ギターは若き日のパット・メセニーとバークリーの師匠格のグッドリックとが、曲によって弾き分けている。副題を見れば「カーラ・ブレイの作品集」であることが判る。

典型的なECMの音世界である。バートンの革新的な4本マレット・ヴァイブが効いている。硬質で透明度の高いクリスタルな響き。転がる様に流麗なアドリブ・フレーズ。若き日のパット・メセニーのエレクトリック12弦ギターも良い。ファンクネスは皆無、切れ味の良い、西洋クラシックの香りのするストローク・プレイ。「静謐な熱気」を伴った、適度なテンションが心地良いインプロビゼーションの数々。

この盤、どの収録曲についても演奏のレベルが高い。1曲たりとも「緩演」や「駄演」が無い。「静謐な熱気」と「適度なテンション」を伴ったグループの個性とメロディアスなカーラの曲とのマッチングが絶妙。現代芸術的なECMオリジナルの統一感を強く感じるアルバム・ジャケットのアートワークも良好。ECMの音世界を感じるに絶好の好盤です。
 
 
 
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2018年4月15日 (日曜日)

カーラ・ブレイのデビュー盤

今まで、なかなかまとめて聴くことが出来なかったミュージシャンに「カーラ・ブレイ(Carla Blay)」がいる。昔から、カーラのアルバムのコレクションがし難かったこともあるし、ビッグバンドがメインのカーラなので、どうしても後回しになってしまう、ということもあった。とにかく、21世紀の今日の至るまで、有名で手に入り易い盤を2〜3枚しか聴いたことが無かった。

しかし、最近、ダウンロード・サイトの充実もあり、カーラの諸作がまとめて入手出来る様になった。いよいよ、カーラ・ブレイの諸作をデビュー盤から順に聴き通すに足る環境が整ったことになる。ということで、今年はカーラ・ブレイの諸作を聴き通すことを目標の1つにしている。しかし、カーラを知ってから約30年。やっとこの日が来たことになる。気の長い話ではある。

Carla Bley & Paul Haines『Escalator Over the Hill』(写真左)。1971年のリリース。リリース当時はLP3枚組の大作である。LPについては、片面が約25分以内という制約があったのと、恐らく、この盤の収録曲には厳格な収録順があったのだろう、曲順を入れ替えて詰めればLP2枚分に収まっただろうに、敢えてそれを避けているところに、カーラ・ブレイのこだわりと頑固さが見て取れる。
 

Escalator_over_the_hill_1  

 
カーラ・ブレイは米国出身のジャズ・ピアニストであり、作編曲家。一言で言うと「鬼才」の作編曲家である。カーラのキャリアの面白いところは、1957年、ポール・ブレイとの結婚以降、個性的な楽曲を作り出すようになったカーラはその音楽を広く認められ、一躍ジャズ界を代表するトップ・コンポーザーの地位を手に入れている。つまりは、夫の伝手を活用して、そのユニークな楽曲をたの大物ジャズメンに採用させ、その才能を広く認めさせたのだ。

さて、この大作、カーラ・ブレイのデビュー盤になる。詩人ポール・ハインズとの共作にしてLP3枚組の大作で、この作品は実験作的色合いが濃厚。それまでのジャズ・ビッグバンドの演奏概念を全く無視しつつ、新しい表現方法を提示、一定レベルの成果を収めている。内容的には、ジャズベースの「ジャズ・オペラ」といった内容で、ポール・ハインズの詩を基にした歌で展開していく。

旧来のジャズを聴く向きには拒絶反応が起きそうな内容なのだが、意外と、1960年代後半から1970年代前半に流行った「プログレッシブ・ロック」を好む耳には意外とフィットする。カーラはフリー・ジャズ、という固定概念があるが、これは当たらない。プログレッシブなニュー・ジャズを基調としている、と捉えた方が、このアルバムを聴くにはしっくりくる。今の耳にも結構ぶっ飛んだ「怪作」ではあるが、一聴の価値は大いにあると思料。

 
 

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