ヒルの初期の名盤の1枚 『Point Of Departure』
ブルーノートの4100番台は、ジャズの演奏スタイル、演奏トレンドについて、バリエーションに富んでいる。ブルーノートは弱小ジャズ・レーベルだったので、売れ筋の演奏スタイル、演奏トレンドに絞ってアルバムをリリースしても良かったと思うんだが、実際、ブルーノートはそうならない。
ジャズをどこよりも理解した、ジャズ・シーンを牽引する老舗レーベルとしての矜持があったのだろう。1960年代前半、アーティスティックなジャズの1つのスタイルとして進化した「モード・ジャズ」の範疇のアルバムもかなりの数がリリースされている。ブルーノートの諸作を聴くと、モード・ジャズのバリエーションって、かなりの拡がりがあって、様々な内容のモード・ジャズがあったんやなあ、ということが良く判る。
Andrew Hill『Point Of Departure』(写真左)。1964年3月21日の録音。ブルーノートの4167番。ちなみにパーソネルは、Kenny Dorham (tp), Eric Dolphy (as on1, 2, 3, b-cl on 3, 4, 5, fl on 3),Joe Henderson (ts, fl on 3), Andrew Hill (p), Richard Davis (b), Tony Williams (ds)。ドーハムのトランペット、ドルフィーのアルト、ジョーヘンのテナーのフロント3管のセクステット編成。ベースにリチャード・デイヴィス、ドラムにトニー・ウィリアムスが担当しているのが目を引く。
リーダーのアンドリュー・ヒルは、モンクの如く幾何学的にスイングするモーダルなピアニスト。このリーダー作はブルーノートでの4作目。さすがにそのピアノ・パフォーマンスは落ち着いたもので、「判り易い平易で明るいモンクの様な幾何学的にスイングし音飛びするピアノ」という個性をしっかり表現している。基本はモーダルなピアノ。時々、アブストラクトにブレイクダウンする。
ハードバッパーなドーハムがフロントにいるのにちょっと違和感を感じるが、既に『Una Mas』(1963年4月の録音)で、モード・ジャズに手を染めているので、その延長線上での参加だと推測する。そして、なんとドルフィーとジョーヘンがいるではないか。これは、もう絶対に「モード・ジャズ」をやるんやなあ、って予測出来る。そして、ベースがデイヴィス、ドラムがトニー。モードのみならず、フリーだっていけるリズム隊である。
この盤で、ヒルの「モード・ジャズ」が完成し、そのアプローチが確立した様に思う。もともと、セロニアス・モンクのフォロワー的ピアノでデビューし、よくよく聴けば、モンクの様に幾何学的にスイングし、音飛びするが、モンクとは全く異なる「平易さ」と「明るさ」を有しており、モンクよりも判り易く、モンクよりも疾走感がある。新しいモーダルなピアニストの出現であった。
この盤では、参加しているバックのジャズマンが、ヒルのモード・ジャズをしっかり理解し、自分達の個性と照らし合わせて、ヒルのモード・ジャズを的確に表現し、リーダーのヒルのピアノを引き立て、盛り立てている。当然、ヒルはそんなバックの演奏に触発されて、ヒルならではのモーダルなフレーズをバンバン連発する。流麗な幾何学的スイング、理解出来る範囲で不意に出る音飛び、明るいアブストラクトな響き。ヒルの個性的なモーダルなピアノが実に良く鳴っている。
ドーハムとドルフィー、そして、トニーとの一期一会の出会いが「良き化学反応」を醸し出したのであろう。もしかしたら、ヒルのリーダー作の中では異色盤かもしれないが、この盤でのヒルのモーダルなピアノは見事。ヒルの初期の名盤の1枚だろう。
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