2024年11月17日 (日曜日)

ブルーノートらしい「バレル盤」

創立以降、ジャズの潮流が変わりつつあった1968年までにリリースされたアルバムから、レコード・コレクターズ誌の執筆陣が選んだ「ブルーノートのベスト100」。レコード・コレクターズ 2024年11月号に載った特集記事なんだが、これがなかなかに興味深くて、順に聴き直してみようと思い立った。今日は「第5位」。

Kenny Burrell『Midnight Blue』(写真左)。1963年1月8日の録音。ブルーノートの4123番。ちなみにパーソネルは、Kenny Burrell (g), Stanley Turrentine (ts), Major Holley (b), Bill English (ds), Ray Barretto (conga)。リーダーのバレルのギターとタレンタインのテナーがフロント2管の、コンガ入り、キーボードレスのクインテット編成。

やっと「第5位」で、何から何までブルーノート・レーベルらしいアルバムがランクインした。まずタイトルの「Midnight Blue」と、このタイトルを印象的なタイポグラフィーであしらった、デザイン・センス抜群のジャケット。タイトルもジャケットもとにかく、とても「ブルーノートらしい」。

アルフレッド・ライオンがブルーノートの総帥プロデューサーだった時代、ブルーノートのアルバムには必ず「ブルース曲」が入っていた。ライオンの指示である。ブルーノートの音の基本は「ブルース」。
 

Kennyburrellmidnightblue_1

 
このケニー・バレルのリーダー作には、「洗練されたブルース・フィーリング」が横溢している。そして、そのブルース・フィーリングが、伝説の録音技師、ルディ・ヴァン・ゲルダーの手になる「ブルノート仕様の音」に映えに映える。

ブルージーでアダルト・オリエンテッドなファンキー・ジャズ。バレルの漆黒ギターとタレンタインの漆黒テナーが、アーバンな夜の雰囲気を醸し出す。コンガが良いアクセントとなった小粋な曲もあって、アルバム全体を通して、大人のファンキー・ジャズをとことん楽しむ事が出来る名盤。

ブルーノートのハウス・ミュージシャンの二人、バレルのギターとタレンタインのテナーの相性が抜群で、このフロント2管の相乗効果で、漆黒ファンクネスがだだ漏れ。どこか洗練された都会的な雰囲気が底に流れている。都会の深夜のブルージーで漆黒な雰囲気がアルバム全体を覆っている。

ブルーノートらしい演奏良し、ブルーノートらしい録音良し、ブルーノートらしいジャケット良し。「三方良し」のブルーノートらしい、ブルーノートらしさ満載のケニー・バレルの名盤。「ブルーノートのベスト100」の第5位は納得、である。
 
 

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2024年10月 1日 (火曜日)

これ、意外とグリーンの名盤かも

ブルーノート御用達、独特のシングルトーンで、パッキパキ硬派で、こってこてファンキーなギタリスト、グラント・グリーン。グリーンのリーダー作に「ハズレ」は無い。どのリーダー作も水準以上の出来で、特に、オルガン、ドラムとのトリオの演奏でのグリーンは、とりわけ「弾けている」。

Grant Green『Iron City』(写真左)。 1967年の録音、1972年のリリース。ちなみにパーソネルは、Grant Green (g), "Big" John Patton (Hammond B3 organ), Ben Dixon (ds)。グラント・グリーンが一番得意とする、オルガン、ドラムとのトリオ編成。コブルストーン・レーベルという、聞いたことがないレーベルからのリリース。

ジョン・パットンのオルガンって、実はラリー・ヤングじゃないのか、という議論もあるみたいだが、まず、リーダーのグラント・グリーンのギターについては絶好調。どころか、最高にグルーヴィーな、独特のシングルトーンで、パッキパキ硬派で、こってこてファンキーなギターを聴かせてくれる。そして、ディクソンの巧みなドラミングが、ギターとオルガンのリズム&ビートとガッチリと支える。
 

Grant-greeniron-city

 
冒頭のタイトル曲だけが、グラント・グリーンの自作曲で、残りはスタンダード曲。スタンダード曲中心なので、俗っぽい、イージリスニングっぽい雰囲気になるのか、と危惧するが、そうはならないところが、グラント・グリーンのリーダー作の優れたところ。まず、アレンジが良い。そして、その良質はアレンジに乗って弾きまくる、グラント・グリーンのギターが、これまたブルージーで、ファンキーで、ソウルフルで、ガッチリと純ジャズに軸足を残している。

ジョン・パットンとドラマーのベン・ディクソンとのインタープレイも聴きもの。アルバムの大半で、3人のアップテンポのグルーヴ感が、爽快感溢れ、猛烈な疾走感で駆け抜ける。グリーンの演奏はいつもより指が躍動的で、リラックスして聴き手を虜にする「ヴァンプやリードライン」を奏でるパットンのオルガンに乗って、ファンキーでソウルフルなソロを披露する。意外と、この盤、グラント・グリーンの絶好調を捉えた名盤ではないのか、とふと思ったりする。

録音年月日やパーソネルなど、未確定な要素をはらんでいるので、グラント・グリーンの名盤の一つとして挙げられることは無いが、意外とこの盤を評価する「グリーン者」の方々が、ネット上に結構いる。この『Iron City』、グラント・グリーンの絶好調を捉えた好盤として、もっともっと評価しても良いだろう。
 
 

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2024年9月 8日 (日曜日)

ヴァーヴのグラント・グリーン

9月になった。それでも、真夏日の日々は変わらない。まだまだ、長時間の外出は控えねばならない。熱中症の警戒しての昼下がりの「引き籠もり」の日は続く。引き篭もりの折には、ジャズを聴く。8月は「ボサノバ・ジャズ」だったが、9月になっても、ボサノバ・ジャズはなあ、ということで、なぜか「ファンキー・ジャズ」である(笑)。

Grant Green『His Majesty King Funk』(写真左)。1965年5月26日の録音。ちなみにパーソネルは、Grant Green (g), Harold Vick (ts), Larry Young (org), Ben Dixon (ds), Candido Camero (bongo, congas)。グラント・グリーンといえば、キャリアのほぼ大半がブルーノート所属の、ブルノートのハウス・ギタリスト的な存在だった。パーソネルだけを見れば、ブルノートからのリリースかと思う。

が、この盤は、パーソネルはブルノートのイメージを借りているが、当時の大手レコード会社であった「ヴァーヴ」からのリリースである。グラント・グリーンの1950年代〜1960年代のディスコグラフィーの中で、この版だけがヴァーヴ・レコードからのリリース。プロデューサーは、後のフュージョン・ジャズの仕掛け人「クリード・テイラー」である。

ブルーノートでのグラント・グリーンのリーダー作においては、独特のシングルトーンで、パッキパキ硬派で、こってこてファンキーなギターを弾きまくるのが、グリーンの身上。しかし、この盤については、聴き易さを追求した様な、ポップで親しみ易く判り易い、一般大衆向け、イージーリスニング志向のファンキー・ジャズに仕立て上げられている。これは、プロデューサーのクリード・テイラーの仕業であろう。
 

Grant-greenhis-majesty-king-funk

 
この盤と同様な「イージーリスニング志向のファンキー・ジャズ」のコンセプトで、同時期にブルーノートからは『I Want to Hold Your Hand』が出ているが、こちらは、レノン=マッカートニーの「I Want to Hold Your Hand(抱きしめたい)」の、ビートルズ・ナンバーのカヴァーを目玉にした、グリーンのギターの力量とテクニックの素晴らしさが実感できる秀逸な内容だった。これは、やはり、ブルーノートの総帥プロデューサー、アルフレッド・ライオンの優れた手腕の賜物だろう。

さて、この『His Majesty King Funk』、ヴァーヴのクリード・テイラーとしては、二匹目のドジョウならぬ「二人目のウエス・モンゴメリー」を、グラント・グリーンに求めたのではないだろうか。しかしながら、グリーンは自らの「身上」の根底を曲げることはなかった様で、クリード・テイラーの指導よろしく、ちょっとポップでイージーリスニング志向に傾いてはいるが、独特のシングルトーンで、パッキパキ硬派で、こってこてファンキーなギターを弾きまくるスタイルは変えていない。

しっかり耳を傾ければ、グリーンのギター自体は、ブルーノート時代と変わっていないことが判るのだが、ちょっとポップでイージーリスニング志向の雰囲気が漂う分、この盤は、一部では「聴く価値無し」と酷評されている。が、ポップでイージーリスニング志向に傾いた「独特のシングルトーンで、パッキパキ硬派で、こってこてファンキー」なグラントのギターは、意外と聴き心地が良い。こういうグリーンもたまにあっても良いのでは、と僕は気軽に思っている。

このヴァーヴの『His Majesty King Funk』は、ブルーノートの『I Want to Hold Your Hand』と併せて、ポップでイージーリスニング志向に傾いた「独特のシングルトーンで、パッキパキ硬派で、こってこてファンキー」なグラントのギターを楽しむ、グリーンの「企画盤」の一枚だと僕は評価している。「気軽に聴けるグリーン盤」の一枚でしょう。
 
 

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2024年9月 6日 (金曜日)

僕なりのジャズ超名盤研究・27

この盤は、僕がジャズ者初心者の頃、よく聴いた。確か、当時、大手レコード屋が、ジャズ者初心者向けにアルバム紹介の冊子を配っていて、それをもらって、片っ端から「購入しては聴く」を繰り返していた。全40枚あったと思う。

そんな中に、このアルバムはあった。ジャケは「秋の公園のベンチで日向ぼっこをして寛ぐ老人の男性」の写真をあしらっていて、ちょっと違和感があったが、思い切って購入したのを覚えている。

Horace Silver『Song for My Father』(写真左)。1963年10月31日、1964年10月26日 の2回のセッションの寄せ集め。ここでは、CDリイシュー時のボートラの扱いは割愛する。ちなみにパーソネルは、当然、以下のの2つの編成に分かれる。

1963年10月31日の録音(#3, 6)が、Horace Silver (p), Blue Mitchell (tp), Junior Cook (ts), Gene Taylor (b), Roy Brooks (ds)。1964年10月26日(#1. 2. 4. 5)の録音が、Horace Silver (p), Carmell Jones (tp), Joe Henderson (ts), Teddy Smith (b), Roger Humphries (ds)。

この盤の大ヒット・チューン、冒頭のタイトル曲「Song for My Father」は、1964年10月26日のパーソネルでの演奏。併せて、2曲目「The Natives Are Restless Tonight」、4曲目「Que Pasa」、5曲目「Que Pasa」も同じパーソネルでの演奏。カーメル・ジョーンズのトランペットが効いている。ねじれたモーダルな演奏に走らない、ストレートアヘッドなファンキー・テナーを聴かせるヘンダーソンも聴き逃せない。
 

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一方、3曲目「Calcutta Cutie」と5曲目は「Lonely Woman」は、1963年10月31日の録音で、パーソネルは、お馴染みの、ミッチェルのトランペット、クックのテナーがフロントの、伝説のシルバー・クインテット。手慣れた、聴き慣れた、シルバー流ファンキー・ジャズな音世界が広がる。

どちらのセッションの演奏も、どこか理知的な雰囲気が漂う、シルバー流のファンキー・ジャズなんだが、ファンキー度合いは、1964年のセッションの方が濃い。併せて、1964年のセッションは、ポップでメジャーな雰囲気で開放感がある。同じクインテットの演奏でも、1964年のセッションの演奏では、いわゆる「イメチェン」に成功している。

冒頭の「Song for My Father」が、かなりポップでコマーシャルなファンキー・ジャズなんだが、2曲目以降は、ジャズ者初心者が聴いても判り易い、理知的なシルバー流のファンキー・ジャズが続くので、アルバム全体に統一感もあって、よくまとまったシルバーのリーダー作だと思う。やはり、この盤は、ジャズ者初心者にピッタリのファンキー・ジャズ盤だと言える。

ちなみに、本作のタイトル曲「Song For My Father」はホレス・シルバーが自分の父親に捧げたもの。この盤のジャケ写の「帽子を被った葉巻のおじいさん」が実はホレス・シルヴァーの父君そのものである。

ブルーノート・レーベルって、モダン・ジャズの硬派でならしたレーベルなんだが、こういうジャケ写での「粋な計らい」をする、お茶目なレーベルでもある。
 
 

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2024年8月 6日 (火曜日)

小洒落たファンキー・ジャズ

ファンキー・アルト・サックスのレジェンド、キャノンボール・アダレイについては、どうも我が国では人気がイマイチ。「ファンクの商人」なんて酷いあだ名をつけられて、ファンキー・ジャズやジャズ・ファンクをベースに、商業主義に走ったジャズマンの烙印を押されている。酷い話である。

ファンキー・ジャズ&ジャズ・ファンクは俗っぽくて、芸術としてのジャズでは無い、との評価で、しかも、キャノンボールのリーダー作は、米国ではそのセールスは好調だったのだが、この「売れる」ジャズをやるキャノンボールはけしからん、という論理である。

キャノンボールの名誉の為に言っておくと、生涯、彼のリーダー作は水準以上で、ほぼ駄作が無い。内容的にもしっかりしたファンキー・ジャズ、ジャズファンクのリーダー作が目白押しなんだが、我が国では、1960年代から70年代にかけてのリーダー作については、評論の対象に上がることがほとんど無い。

当然、我が国のレコード会社が国内リリースに踏み切ることもなく、21世紀になって、音楽のおサブスク・サイトで音源がアップされる様になって、やっと我々のレベルでも、1960年代から70年代にかけてのキャノンボールのリーダー作を鑑賞できる様になった。自分の耳で、キャノンボールのリーダー作を評価できるようになった。喜ばしいことである。

Cannonball Adderley Quintet『Plus』(写真左)。1961年5月11日の録音。ちなみにパーソネルは、Cannonball Adderley (as), Nat Adderley (cornet), Wynton Kelly (p, tracks 2–5), Victor Feldman (p tracks 1,6, vib), Sam Jones (b), Louis Hayes (ds)。
 

Cannonball-adderley-quintetplus

 
キャノンボール兄弟がフロント2管、フェルドマンのヴァイブが一部フロント参加、ピアノについては、ケリーとフェルドマンが分担する変則セクステット(6人編成)。

冒頭の「Arriving Soon」から、小粋なファンキー・ジャズ全開。キャノンボールのアルトも、ナットのトランペットも適度に抑制が効いた、小粋なブロウが好感度良好。

2曲目の「Well You Needn't」は、ファンクネス強調のモンク・ミュージック。フェルドマンのヴァイブがお洒落にアドリブをかまし、キャノンボール兄弟のユニゾン&ハーモニーがファンクネスを増幅する。とてもお洒落でファンキーなモンク・ミュージック。いい感じだ。 

この小粋で小洒落たファンキー・ジャズに貢献しているのが、フェルドマンとケリーのピアノの存在。フェルドマンのピアノは、西海岸出身らしく、小洒落て乾いたファンクネスを忍ばせたピアノ、ケリーのピアノは、ハッピースイングで、洒落たファンクネスを湛えたピアノ。二人のピアノが、このキャノンボールのファンキー・ジャズを小粋で小洒落たものにしている。

5曲目の「Star Eyes」などは、そんな小粋で小洒落たファンキー・ジャズが全開。ここまでくると、小粋で小洒落た、というより、ファンクネス全開の大ファンキー・ジャズ大会。それでも、フェルドマンのお洒落な響きのヴァイブが良いアクセントになっていて、通り一辺倒の、ありきたりなファンキー・ジャズにはなっていない。

良好な内容のファンキー・ジャズ。フェルドマンとケリーの存在によって、いつものどっぷりファンキーなジャズを、小粋で小洒落たファンキー・ジャズに変身させているところが、この盤の聴きどころだろう。選曲も良い。キャノンボールの秀作の一枚。
 
 

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2024年7月20日 (土曜日)

オルガン入りギター盤の秀作です

グラント・グリーンは、ほとんど「ブルーノートのお抱え」ギタリストと思って良いと思う。グラント・グリーンの秀作は、当時のブルーノート・レーベルに集中している。ブルーノートの総帥プロデューサーのアルフレッド・ライオンが、グラント・グリーンのギターの個性について、いかに造詣が深かったか、が非常に良く判る。

Grant Green『Street of Dreams』(写真左)。1964年11月16日の録音。ブルーノートの4253番。ちなみにパーソネルは、Grant Green (g), Bobby Hutcherson (vib), Larry Young (org), Elvin Jones (ds)。グラント・グリーンのギターと、ボビー・ハッチャーソンのヴァイブがフロントの、オルガン入り変則カルテット。ベースはラリー・ヤングのオルガンが代替している。

オルガン入りのグリーンのリーダー作。まず、グリーンのギターはシングル・トーンでありながら、音がとても太い。普通、シングル・トーンのギターは音が細くて、オルガンの太い音色に負けることが多いのだが、グリーンのシングル・トーンはとても太いので、オルガンの太い音色に負けず、オルガンと対等にフレーズを奏で、ユニゾン&ハーモニーを奏でることが出来る。

しかも、オルガンは、当時、新進気鋭のラリー・ヤング。いわゆるオルガンの新主流派、と形容される、スマートな音色が個性。つまり、従来のオルガンの様に、例えば、ジミー・スミスなどの様に、ファンクネスが濃厚では無い。そんな「オルガンのコルトレーン」と形容されるヤングが、ファンキー・ジャズなオルガンを弾きまくる。
 

Grant-greenstreet-of-dreams

 
これが「ミソ」で、グリンのギターとオルガンが絡む時、グリーンの持つ濃厚なファンクネスが前面に推し出てくるのだ。ヤングのオルガンにも、そこはかとなくファンクネスは漂うのだが、この盤での濃厚なファンクネスは、絶対のグリーンのギターから醸し出るファンクネスなのだ。

ハッチャーソンのヴァイブの存在も見逃せない。ハッチャーソンのヴァイブも、いわゆるヴァイブの新主流派、と形容されるモーダルでスマートなヴァイブが身上。例えば、ファンキー・ヴァイブのレジェンド、ミルト・ジャクソンのヴァイブだと、グリーンのギターの濃厚なファンクネスと相まって、オーバー・ファンクな演奏になって、確実に「耳にもたれる」。

が、ハッチャーソンのヴァイブだとそうならない。逆にハッチャーソンのスマートなヴァイブがグリーンのギターの持つ濃厚なファンクネスを際立たせる効果を産んでいる。グリーンのファンクネス濃厚なギターの音色を、洗練したスマートなファンクネスの音色に変化させ際立たせる。ハッチャーソンのヴァイブの存在も、この盤での「キモ」である。

あとは、リズム&ビートを推進するドラマーの存在。この盤では、エルヴィンがいつになくファンキーなドラミングでバンド全体の演奏をコントロールし鼓舞する。この盤でのエルヴィンのファンキーなドラミング。エルヴィンって器用で引き出しの多いドラマーなんだ、ということを再認識する。

グリーンのファンクネス濃厚でホーンライクな弾き回しも魅力的で、バンド全体のリラックス度の高い、ファンキーな演奏も、このメンバーでは異色。ジャケットも良好。実にスマートでリラクゼーション溢れる、グルーヴィーなオルガン入りギター盤の秀作です。
 
 

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2024年5月17日 (金曜日)

A&Mの ”カイとJ.J.” の名演

「K. and J.J. 」とは、ジャズ・トロンボーンの名手の二人、J.J.ジョンソンとカイ・ウィンディング。ハードバップ時代には「KAI & J.J.」というユニットを組んで、聴き心地の良いファンキー・ジャズの好盤を連発していた。その「KAI & J.J.」の再結成風のA&M盤。単なる「懐メロ同窓会」的雰囲気で終わるのではないか、という危惧を覚える。

K. and J.J. 『Israel』(写真左)。1968年2, 3, 4月の録音。A&Mレコードからのリリース。ちなみにパーソネルは、J. J. Johnson, Kai Winding (tb), Herbie Hancock (p), Ross Tompkins (p, harpsichord), Eric Gale, Bucky Pizzarelli (g), Ron Carter, Richard Davis (b), Grady Tate (ds) がメイン・メンバー。ここにハープ入りの管楽器メインのジャズオケがバックに入っている。

が、聴いてみると、まず、カイとJ.J.のトロンボーンが「イケる」。しっかりとしたテクニックで、しっかりとしたブロウで、しっかりとしたピッチでトロンボーンを吹きまくっている。トロンボーンのブラスの鳴りがスピーカーから伝わってくるほどのブリリアントなトロンボーンの響き。このカイとJ.J.の好調な「本気トロンボーン」の吹奏を聴くだけで、この盤は「懐メロ同窓会」的な企画盤で無いことが判る。

もともと、A&Mレコードの音作りが「上質なイージーリスニング志向のジャズ」を目指しているだけあって、この盤でも、特に、ハープ入りの管楽器メインのジャズオケのアレンジが優れている。陳腐なところは全く無い。とても良く練られた、ドン・セベスキーのアレンジである。
 

K-and-jjisrael

 
演奏自体のアレンジも良い。収録曲を見渡せば、「"My Funny Valentine」「Django」などの人気スタンダード曲あり、「Israel」「Am I Blue」「St. James Infirmary」などの渋いスタンダード曲あり、どちらも、一捻りしたアレンジが優秀で、「上質なイージーリスニング志向のジャズ」として、絶大な効果を発揮している。

「上質なイージーリスニング志向のジャズ」を目指しているからと言って、演奏自体が聴き心地優先の甘々な演奏では全く無い。それぞれの楽器のパフォーマンスは、とても充実している。それぞれの楽器担当の「本気」を感じる。

カイとJ.J.のトロンボーンのユニゾン&ハーモニー、そして、チェイス。これが、どの曲でもバッチリ効いている。とにかく、トロンボーン独特のユニゾン&ハーモニーが前面に出てくる。これがどれもが印象的に耳に響く。カイとJ.J.のトロンボーンのソロも良い。充実した本気な吹き回しで、ダレたところは微塵も無い。本気で聴かせるジャズ・トロンボーン。

ハンコックのピアノもそこはかとなくファンキーで、カイとJ.J.のトロンボーンを引き立てる。伴奏上手のハンコックの面目躍如。ゲイルとピザレリのギター隊のリフ、カッティング、バッキングが小粋でこれまたファンキー。トロンボーンの柔らかな音色との対比が良い。

ロン、ディヴィスのベースはハードパップなウォーキング・ベースで、テイトの小粋で趣味の良いドラミングで、「上質なイージーリスニング志向のジャズ」のリズム&ビート支えている。

ハードバップ時代の「KAI & J.J.」の再結成盤。どうなることやら、と思いきや、当時の流行のど真ん中、ハードバップでファンキーでモダン、ジャズオケ+エレ楽器入りの「上質なイージーリスニング志向のジャズ」が展開されていて立派。とりわけ、カイとJ.J.のトロンボーンの、新鮮な「ハードバップ志向の力演」が印象に残る。
 
 

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2024年5月14日 (火曜日)

ハービー・マンのヒット作ライヴ

ジャズの世界で、ソロ演奏にあんまり向かないフルートを専門楽器に、数々の名演を残した、ジャズ・フルート演奏家の一人がハービー・マン。

フルートという楽器は、音色が甘く、音の強弱・濃淡がつけにくくて、演奏の幅とバリエーションが限定されてしまう傾向にあり、ジャズの世界では、あんまり、ソロ演奏に向かない楽器。

ただし、フルートは、息をちょっと強く吹くことで、エモーショナルで、ファンキーな音色を出すことができる。この「エモーショナルで、ファンキーな」フルートの音色の特性を最大限に活かして、コテコテの「ファンキー&ソウル・ジャズ」で勝負したのが、ハービー・マンである。

『Herbie Mann at the Village Gate』(写真左)。1961年11月17日、NYのライブ・スポット「ヴィレッジ・ゲイト」でのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Herbie Mann (fl), Hagood Hardy (vib), Ahmed Abdul-Malik (b), Ray Mantilla (conga, perc), Chief Bey (african-ds and perc), Rudy Collins (ds)。冒頭1曲目の「Comin' Home Baby」にだけ、作曲者のBen Tucker (b) が追加で入っている。

この邦題『ヴィレッジ・ゲイトのハービー・マン』は、僕がジャズを本格的に聴き始めた1970年代後半、マンの圧倒的な「代表的名盤」とされていた。しかし、僕は、ジャズを本格的に聴き始めた頃は、担当楽器が「フルート」というだけで敬遠。このライヴ盤を初めて聴いたのは、1990年代に入ってから。代表的名盤というだけに、ワクワクしながらCDプレイヤーのスイッチを押した。

と、冒頭の「Comin' Home Baby」のイントロから「あれれ」。静かなベース・ソロから始まり、抑制の効いたドラムが加わる。出てくるリズム&ビートは、熱量は温和、雰囲気は爽やかなファンキー・ビート。録音年は1961年、まだ、ファンキー・ジャズの「ノリノリの娯楽性」は発展途上だった様である。

聴く前は、ホットでノリノリなコテコテのファンキー・ジャズをイメージしていたのだが、意外と大人しくて温和な、聴きやすくて爽やかなファンキー・ジャズが出てきたので、ちょっと戸惑う。
 

Herbie-mann-at-the-village-gate

 
マンのソロも、そこはかとなくファンキーではあるが、熱量は温和、雰囲気は爽やかで聴きやすいフルートを吹き進める。そう、この『ヴィレッジ・ゲイトのハービー・マン』に入っているファンキー・ジャズって、熱い演奏、思いっきりノリノリのコッテコテなファンキー・ジャズではなくて、どこか爽快感溢れる、聴き心地の良い、イージーリスニング志向のファンキー・ジャズでなのだ。

しかし、続く、有名スタンダード曲の「Summertime」におけるハービー・マンのフルートが凄い。演奏の雰囲気は、そこはかとなくファンキーではあるが、熱量は温和、雰囲気は爽やかで聴きやすいファンキー・ジャズなのだが、そんな爽やかなファンキー・ビートに乗って、マンのフルート・ソロが炸裂する。

特に、アドリブ展開におけるマンのフルートのパフォーマンスは絶品。マンのフルートの実力を遺憾無く発揮している。この「Summertime」の存在が、この盤をマンの代表作の一枚としている、と言い切って良いくらいの絶品パフォーマンス。

ラストの、これも有名スタンダード曲の「It Ain't Necessarily So」については、約20分弱の長尺ライヴ・パフォーマンスなんだが、真ん中あたりで、長々とベース・ソロが流れる。これが、音が小さくて、ベース音が聴き取り難く、ノリも良くない。

録音年は1961年なので、エレべはまだ一般的で無く、アコベ一本で、コッテコテなファンキー&ソウルフルなベース・ソロを展開するのは無理がある。この部分の冗長さが惜しい。ここはちょっと短く編集した方が良かったと思う。

この『ヴィレッジ・ゲイトのハービー・マン』は、マンの圧倒的な「代表的名盤」、ファンキー・ジャズの「代表的名盤の一枚」とされているが、マンのジャズ・フルートとしてのパフォーマンスが優れているが、ファンキー・ジャズとしては、ちょっと物足りなさが残る。

しかし、このライヴ盤はヒットした。そして、マンは、「エモーショナルで、ファンキーな」フルートの音色の特性を最大限に活かして、コテコテの「ファンキー&ソウル・ジャズ」を推し進めていく。
 
 

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2024年5月13日 (月曜日)

マンの傑作盤『Glory Of Love』

フュージョン・ジャズの源はどの辺りにあるのだろう。僕は、1960年代後半、A&Mレコードの諸作が、その源の一つだと思っている。

A&Mレコードは、元々は1962年にハーブ・アルパートとジェリー・モスが設立したレコード・レーベル。ジャズのジャンルについては、ファンキー&ソウル・ジャズのエレ化をメインに、当時、ポピュラーな楽曲のカヴァーなど、ポップでジャジーなフュージョン・ジャズの先駆けな音作りで人気を獲得した。

Herbie Mann『Glory Of Love』(写真左)。1967年7, 9, 10月の録音。ちなみにパーソネルは以下の通り。

Herbie Mann (fl), Hubert Laws (fl, piccolo), Ernie Royal, Burt Collins (tp, flh), Benny Powell (tb), Joseph Grimaldi (sax), Leroy Glover (p, org), Paul Griffin (p), Roland Hanna (org), Jay Berliner, Eric Gale (g), Ron Carter (b), Herb Lovelle, Grady Tate (ds), Teddy Sommer (vib, perc), Ray Barretto, Johnny Pacheco (perc), Earl May (b), Roy Ayers (vib)。

手練れの豪華絢爛なパーソネル。予算をしっかり充てた充実の録音セッション。出てくる音は、エレトリック&8ビートなファンキー&ソウル・ジャズ。アニマルズがヒットさせたポップス曲「The House of the Rising Sun」や、レイ・チャールズがヒットさせたソウル曲「Unchain My Heart」など、当時の流行曲を見事なアレンジでカヴァーしている。
 

Herbie-mannglory-of-love

 
ポップス曲のカヴァーと聞くと、イージー・リスニング志向のジャズか、と思うのだが、このマンのA&M盤は、演奏自体が実にしっかりしている。リズム&ビートは、切れ味良く、ジャジーでソウルフルでファンキー。このリズム・セクションのリズム&ビートはとても良く効いている。

そのジャジーでソウルフルでファンキーなリズム&ビートに乗って、ハービー・マンのソウルフルなフルートが、爽やかなファンクネスを湛えて飛翔する。「In and Out」でのヒューバート・ローズとのダイアローグはとても楽しげ。フランシスレイの「Love is stronger far than we」では、ムーディーなマンのフルートが印象的。この盤でのマンのパフォーマンスは素晴らしい。

当時のA&Mレコードのジャズについては「質の高いリラックス出来るBGM」がコンセプト。しかし、このマンのA&M盤はBGMどころか、イージー・リスニング志向のエレ・ジャズでも無い、ソウルフルでファンキーなコンテンポラリー・ジャズとして成立している優れた内容。

アルバム全体を覆う適度なテンション、切れ味の良いジャジーでソウルフルでファンキーなリズム&ビート。マンを始めとするソウルフルなフロント隊の演奏。この盤には、1960年代前半から進化してきた、ファンキー&ソウル・ジャズの成熟形を聴くことが出来る。ハービー・マンの傑作の一枚であり、最高傑作と言っても良いかもしれない。

クリード・テイラーの優れたプロデュースの下、アレンジも良好、録音はルディ・バン・ゲルダー手になる「良好な音」。この盤がほとんど忘れ去られた存在で、廃盤状態が長く続いている。実に遺憾なことであるが、最近、ストリーミングで聴くことが出来るようになったみたいで、これは喜ばしいことである。
 
 

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2024年1月 4日 (木曜日)

心地良きハリスのエレ・グルーヴ

今年の冬は暖冬傾向だとは言うが基本的には冬、当然、寒い日が続く。寒い日には暖かい部屋でジャズを聴く、と言うのが定番なんだが、聴くジャズもクールなジャズは心までがクールになりそうでちょっと。ファンキーでソウルフルなジャズが温まって良い。と言うことで、この冬は「エディ・ハリス」を集中して聴き直している。

「趣味が悪いなあ」と言う声が聞こえてきそうなんだが、それもそのはず。エディ・ハリスは、ソウルフルでグルーヴィーなエレ・ジャズがメイン。電気増幅サックスを導入したことでも知られ、それ故、我が国では「キワモノのテナー奏者」扱いされる傾向がある。彼のテナーは素性が良く、彼の奏でるソウルフルなジャズ・ファンクは今の耳にもしっかりと訴求する優れものである。

Eddie Harris『Plug Me In』(写真左)。1968年3月14 & 15日の録音。ちなみにパーソネルは、Eddie Harris (ts, varitone), Melvin Lastie, Joe Newman, Jimmy Owens (tp), Garnett Brown (tb), Haywood Henry (bs), Jodie Christian (p), Ron Carter, Melvin Jackson (b), Chuck Rainey (el-b), Richard Smith, Grady Tate (ds)。
 

Eddie-harrisplug-me-in  

 
前作『Mean Greens』で、ソウルフルでグルーヴィーなエレ・ジャズへ転身。この盤では、セルマー社が開発した「ヴァリトーン」を大々的に導入している。「ヴァリトーン」とは、サックスのネック部分にピックアップを取り付け、アンプを通して変調させたり、エフェクターのオクターバーやコーラスのようなことができる代物。

冒頭の「 Live Right Now」は、エレクトリック・サックスが炸裂、渋〜いジャズ・ファンクが心地よい。4曲目の「Lovely Is Today」はエレベの絡みが実にファンキー。そして、面白いのは、5曲目の「Theme In Search Of A T.V. Commercial」。ダイナミックでスリリングなアレンジのビッグバンド・ジャズ・ファンクで、ビッグバンドをバックに、ソウルフルなハリスのテナーが乱舞する。

この盤の収録曲、現代においてサンプリングされているものが多い。それだけ、ソウルフルでファンキーで魅力的なフレーズが詰まっている。加えて、自在に音色を変化させ、ノリに乗ったブロウを吹き上げる、エレクトリック・サックスのグルーヴの心地よさ。クロスオーバー・ファンクとして、十分に楽しめる好盤です。
 
 

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