2025年6月 9日 (月曜日)

傑作・Gong『Gazeuse!』である

1960年代終わりから1970年代後半にかけて、ロック界を席巻した「プログレッシヴ・ロック(以降「プログレ」と略)」。クラシック音楽やジャズ、現代音楽などの他ジャンルの要素を取り入れ、複雑なサウンド構成や変拍子の積極採用、長尺な楽曲が多い、などが特徴。高度な演奏技術や実験的な音楽性を追求し、それまでのロックとは異なる「進歩的=プログレッシヴ」な音楽性を目指したロック。

プログレは英国で隆盛を極めたが、何もプログレは英国だけのものでは無い。欧州では、イタリア、フランス、オランダへと飛び火し、それぞれの国で、幾つかの代表的なバンドが生まれ出でている。「ゴング(Gong)」もその1つで、ゴングは、フランスを代表するプログレッシヴ・ロックバンド。元「ソフト・マシーン」のデヴィッド・アレンを主宰に結成。サイケデリック・ロックを原点に様々なスタイルに変化。時期によってメンバー、音楽性が変わり、派生グループも多い。

Gong『Gazeuse!』(写真左)。1976年の作品。ちなみにパーソネルは、Pierre Moerlen (ds, vib, marimba, timpani, glockenspiel), Didier Malherbe (ts, fl), Allan Holdsworth (g, vln, pedal steel), Mireille Bauer (vib, marimba, glockenspiel, toms), Benoît Moerlen (vib), Francis Moze (b, p, gong), Mino Cinelu (perc)。

1976年、バンドは残留したドラマーのピエール・ムーランを中心に再編成。この時代のバンドは「ピエール・ムーランズ・ゴング」と分類される。脱退したデヴィッド・アレン時代の「サイケデリック色」を一掃、ニューエイジやアンビエントなどの要素を取り入れたジャズ・ロック&ュージョン・バンドとして音志向をチェンジする。その最初の成果がこの『Gazeuse!』である。

ここでも、英国同様、プログレッシヴ・ロックと、ジャズ・ロック&クロスオーバー/フュージョン・ジャズとの曖昧な境界線が存在する。
 

Gonggazeuse

 
この『Gazeuse!』は、明らかに、ジャズ・ロック&クロスオーバー/フュージョン・ジャズの範疇にバンドである、ということを証明する様な内容。上質のジャズ・ロック&クロスオーバー/フュージョン・ジャズの音世界が展開されているから驚きである。

ギターに「アラン・ホールズワース」の名前がある。ジャズ・ロック&クロスオーバー/フュージョン畑の良い意味での「変態ギター」の代表格。まず、ホールズワースのギターが大活躍。バンド・サウンドのメインフレーズを「ジャズ・ロック&クロスオーバー/フュージョン」色に染め上げている。

加えて、このバンド・サウンドの特徴が「打楽器」の活躍。ドラム言うに及ばず、マリンバ、ティンパニの活用で、リズム&ビートが前面に出て、アーシーでジャジーな雰囲気を濃厚にしている。言い換えると、打楽器の積極活用が、前のバンド・サウンドのイメージ「サイケデリック色」の一掃を実現している。

演奏的には、英国プログレッシヴ・ロックの「ジャズ・ロック&クロスオーバー/フュージョン」なサウンドと同様。英国のサウンドよりも流麗で色彩豊か。フレーズを担うギター、サックスの音色は「定石」として、このアルバムでは、ヴァイブ、グロッケンシュピールといった鍵盤打楽器を活用して、他の「ジャズ・ロック&クロスオーバー/フュージョン」のフレーズ・サウンドとの差別化を、「ピエール・ムーランズ・ゴング」の音の個性の確立を後押ししている。

アルバム全体を通じて、メロディックで流麗なフレーズ展開、複雑なポリリズミックなリズム&ビート。テクニック優秀、リーダーのピエール・ムーランのドラミングが、バンド・サウンドを推進し統率する。フランスのプログレ・グループが奏でる「ジャズ・ロック&クロスオーバー/フュージョン」なサウンド。傑作である。
 
 

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2025年5月23日 (金曜日)

BN5000番代のユタ・ヒップ

レココレ誌の執筆陣が選んだ「ベスト100」。ブルーノート創立の1939年以降、ジャズの潮流が変わりつつある1968年までにリリースされたアルバムから、ブルーノートらしい「内容と音と響き」、そんな三拍子揃ったブルーノート盤の「ベスト100」を順に聴き直していく企画。

このベスト100のアルバムを順に聴き直してブログにアップしていこう、なんて思っていたら、すでに感想をアップしているアルバムが結構あって、以前聴いた感想と今、聴いた感想が一致しているのは、聴き直しの感想をアップする必要が無いことに気がついた。

と言うことで、まずは、このレココレ誌が選んだ「ベスト100」のアルバムの中で、当ブログで扱ったことが無いアルバムをピックアップして聴き直していくことにした。

Jutta Hipp Quintet『New Faces - New Sounds From Germany』(写真左)。1954年4月24日、フランクフルトでの録音。ブルーノートの5056番。ちなみにパーソネルは、Jutta Hipp (p), Joki Freund (ts), Emil Mangelsdorff (as), Hans Kresse (b), Karl Sanner (ds)。テナー・サックスとアルト・サックスの2管フロント、バックに、ユタ・ヒップのピアノ、ベース、ドラムのリズム隊が控える、クインテット編成。

ユタ・ヒップ(Jutta Hipp)は、1925年、ドイツ・ライプチヒ生まれの女性ジャズ・ピアニスト。ドイツにて戦時下に青春時代を過ごし、1946年、米国に移住、30歳でニューヨークに移り住む、という経歴も持つ。
 

New-faces-new-sounds-from-germany  

 
ジャズ奏者としては、1958年、早々に第一線を退き、活動期間は短かった。本当かどうかは判らないが、よく言われる話としては、彼女は人前での演奏について極度に緊張するタイプで、ライヴ演奏に向かなかった為、早々にシーンから姿を消したというものである。

当盤は70年前の欧州ジャズ、独ジャズの音。ユタ29歳の録音。彼女が米国に渡る前、彼女ユタの欧州ジャズ時代を捉えたフランクフルト録音の1枚。ブルーノートの5000番代のレコードになる。米国東海岸NYでは、ビ・バップからハードバップへの変革期。

このユタのアルバムの音は、トリスターノ率いる「クール・ジャズ」的な音が蔓延している。テナーのヨキ・フロイント、アルトのエミス・マンゲルスドルフも、トリスターノ派のテナーのワーン・マーシュ、アルトのリー・コニッツの様な音で吹きまくっている。なるほど、ドイツでは、クール・ジャズが米国から伝播していたとみえる。

この後、ユタは、NY在住の英国人評論家、レナード・フェザーの誘いを受け、大西洋を渡り、NYに移住し、短い間ではあったが、NYのジャズ・シーンで、ドイツから来た女性ジャズ・ピアニストとして活躍することになる。そして、ブルーノートに『Jutta Hipp At The Hickory House Volume 1&2』(1515, 1516番)、『Jutta Hipp With Zoot Sims』(1530番)の3枚を残して、早々にシーンから姿を消す。

この『New Faces - New Sounds From Germany』は、ユタのピアノの個性の源を確認できること、そして、1954年のドイツのジャズ・シーンのトレンドが確認できこと、この2点について意義のある記録である。
 
 

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2025年3月31日 (月曜日)

1980年代のタウナー・サウンド

月刊誌レココレの2024年11月号の特集「ECMレコーズ」にある「今聴きたいECMアルバム45選」。この特集のアルバム・セレクトが興味深く、掲載されているアルバムを順番に聴き直し&初聴きをしている。どの盤にも新しい発見があって、実に楽しい。今回の盤は「1980年代のタウナー・サウンド」の最初の成果。

Ralph Towner『Blue Sun』(写真左)。1982年12月の録音。翌年のリリース。ECMの1250番。ちなみにパーソネルは、Ralph Towner (12-string guitar, classical-g, p, Prophet 5 syn, French Horn, cornet, perc)。ECMのハウス・ギタリスト、ラルフ・タウナーのソロ・アルバム。

ECMのニュー・ジャズの具現化の筆頭。ECMの音志向である「耽美的で、音の「間」と「拡がり」を活かした、即興演奏をメインとした、限りなく自由度の高いインタープレイ」の担い手の一人。欧州ギターの吟遊詩人、ラルフ・タウナーのソロ・アルバム。1980年代仕様のラルフ・タウナーがここにある。

1970年代の「硬質でシャープで耽美的で、少しマイナー志向の思索的なアコギ」がトレード・マークだったタウナー。そう、2枚目のリーダー作『Diary』のジャケット写真の様な、明るい鉛色の、どこか硬質でシャープな、海の風景の様なギター。そんなタウナーのギターが、このアルバムでは、少し明るく、温かみのあるメジャーな響きが加わって、とてもカラフルな、ポジティヴでバリエーション豊かな音に変化している。
 

Ralph-townerblue-sun

 
しかも、このアルバムでは、マルチ・プレイヤーとして、お得意の12弦ギターに加え、クラシック・ギター、ピアノ、プロフェット5・シンセ、フレンチ・ホルン、コルネット、パーカッションを、一人でこなしている。そして、それぞれの楽器の演奏を多重録音にて、一つの作品に仕立て上げている。

タウナーのギターの音は「硬質でシャープで耽美的で、少しマイナー志向の思索的なアコギ」。1970年代の音と変わらない。しかし、そこにメジャーな響きのピアノの音やシンセの音が絡んで、硬質でシャープなギターの音を少しラウンドさせ柔和な雰囲気を醸し出し、フレンチ・ホルンとコルネットの管楽器が硬質なギターの音を包みこみ、1970年代のタイナー・サウンドに、明るさと温かみを加味している。

タウナーは「OREGON」というグループの一員として活動していたが、オレゴンの音志向は「実生活と音楽を切り離すのではなくて、あくまで自然の=海、川、風=リズムを基盤にしたアース・ミュージックの具現化」。このOREGONが志向する「アース・ミュージック」の音要素を、効果的に、自らのソロ・アルバムの音世界に反映している様に感じる。それが「少し明るく、温かみのあるメジャーな響き」なのだろう。

ラルフ・タウナーのディスコグラフィーの中で、ほとんど話題に上がらないアルバムなので、内容はイマイチなのかな、と思って敬遠した時期もあったが、初聴してビックリ。1980年代のタイナー・サウンドの最初の成果がこの盤に詰まっている。マイナーな存在のアルバムだが、これはタイナーの傑作、ECM名盤の一枚だと僕は思う。
 
 

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2025年3月 8日 (土曜日)

傑作 Jan Garbarek ”Eventyr”

昨年の「レコード・コレクターズ 11月号」の特集に「ECMレコーズ」がある。これは「創設者マンフレート・アイヒャーのコンセプトと55年の歴史の概説」と「今聴きたいECMアルバム45選」の2本立ての特集。

特に、後半の「今聴きたいECMアルバム45選」のアルバム・セレクトが実に気に入った。ということで、この45枚のアルバムについて、ブログ記事としてアップしようと思い立った。ということで、久しぶりの「今聴きたいECMアルバム45選」の聴き直し記事、である。

Jan Garbarek『Eventyr』(写真左)。1980年12月の録音。ちなみにパーソネルは、Jan Garbarek (ss, ts,fl), John Abercrombie (g), Naná Vasconcelos (berimbau, talking drum, perc, voice)。ノルウェーのジャズ・サックス奏者で作曲家のヤン・ガルバレクが、ECMからリリースした変則トリオ盤。

この変則トリオには、ヤン・ガルバレクのサックス&フルートに、ギタリストのジョン・アバクロンビーとパーカッショニストのナナ・ヴァスコンセロスが参加している。ピアノ&ベースレス。ピアノとベースがいない、そして、ドラム・セットが無い。

演奏全体の雰囲気は「現代音楽&現代クラシック」。演奏形態は即興演奏。現代音楽&現代クラシック志向の即興演奏に、パーカッションのリズム&ビートを添えて「ジャズ」として捉え、それが、ECMの考えるニュー・ジャズであり、現代の欧州ジャズとした、そんな雰囲気がビンビンに伝わる傑作。
 

Jan-garbarekeventyr

 
ECMの創立者、マンフレート・アイヒャーの音の美意識、ECMの標榜する音世界を具現化した、その大成功例の一つ。西洋クラシック音楽の伝統にしっかりと軸足を置いた「ECMの考える欧州ジャズ」、限りなく静謐で豊かなエコーを個性とした録音、そんな、アイヒャー自らの監修・判断による強烈な「美意識」を、このアルバムはしっかりと捉えている。

一曲目「Soria Maria」の冒頭、ガルバレクのソプラノ・サックスが、ピューッと伸びて飛翔するだけで、この盤の音世界は『ECMのニュー・ジャズ」。そして、ガルバレクに寄り添う様に絡む、アバークロンビーのエレギ。演奏が進むにつれ、曲が進むにつれ、その二人の演奏の音志向はどんどん「現代音楽&現代クラシック志向の即興演奏」になっていく。もはやこれはジャズでは無いなあ、と思いきや・・・。

ナナ・ヴァスコンセロスの、トーキング・ドラムをはじめとする、ワールド・ミュージック志向&エスニック志向のリズム&ビートが、ガルバレクとアバークロンビーの「現代音楽&現代クラシック志向の即興演奏」を「ジャズ」の音世界に連れ戻してくれる。欧州ジャズらしからぬ、アフリカン・ネイティヴなリズム&ビートは、ガルバレクとアバークロンビーの「現代音楽&現代クラシック志向の即興演奏」を、モーダルな音世界に瞬間移動させてくれる。

のちのECMレコードが標榜する「ワールド・ミュージック志向のニュー・ジャズ」を、思いっきり先取した、素晴らしいECMレコード志向のニュー・ジャズ盤である。ガルバレクとアバークロンビー、そして、ヴァスコンセロスの途方もない音の「バリエーションと表現力」。欧州ジャズ、ECMジャズの傑作です。

ちなみにタイトルの「Eventyr(イベントュル)」は、ノルウェー語で「冒険」を意味する単語だそうです。 
 
 

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2025年1月 5日 (日曜日)

ECMニュー・シリーズの一枚

ECMレコードには幾つかの「傍系」シリーズが存在する。その一つが「ECMニュー・シリーズ」。西洋クラシック音楽の作品を収録するために1984年に創設。現代作曲家の作品をメインにリリース。多くのリリースにおいて、ECMのジャズとクラシック音楽への志向が組み合わされている。

Steve Reich Ensemble『Reich: Music for 18 Musicians』(写真左)。1978年の録音。邦題「18人の音楽家のための音楽」。ECMニュー・シリーズにてのリリース。スティーヴ・ライヒが1974年から1976年にかけて作曲したミニマル・ミュージックの作品。演奏者はタイトル通り18名で、18のパートに分かれている。

現代作曲家、スティーヴ・ライヒの作曲。スコア上では演奏時間は約55分。しかし、反復の回数が多ければ1時間を超える。「反復」演奏が基本だが、その「反復」の中で、旋律のパターンの変化、新しい演奏モチーフの開始などは、ヴィブラフォン奏者はの聴覚による合図、第1クラリネット奏者の視覚による合図(キュー)を全プレイヤーに送ることで行われる。

指揮者無しの「アンサンブル」で演奏される。ミニマル・ミュージック(音の動きを最小限に抑え、パターン化した音型を反復させる音楽)の「反復」が基本となっており、旋律のパターンやセクションの交換と変化、フェードアウトの開始、新しい演奏モチーフの開始は、プレイヤーの合図(キュー)によって行われる。
 

Steve-reich-ensemblereich-music-for-18-m

 
ECMニュー・シリーズの中では「クラシック部門」にあるが、クラシックの様な、完全に譜面通りの演奏ではなく、「反復」の展開は柔軟に行われるので、ある程度の自由度が与えたれた現代音楽で、厳密に言うと「クラシック」とは特性が異なる。

この盤を演奏を聴いていると、1970年代より活躍した、欧州のテクノ・ミュージック、テクノ・ロックのタンジェリン・ドリームやクラフト・ワークの演奏を想起する。タンジェリン・ドリームやクラフト・ワークの演奏展開は、この「ミニマル・ミュージック」を応用していて、そういう観点で、スティーブ・ライヒの現代音楽に通じるものがあると感じる。

このスティーヴ・ライヒの現代音楽の響きは、クラシック音楽の基本の上に成り立ち、進化していて、いかにも「欧州」らしい音に満ちている。キューによる旋律のパターンやセクションの交換と変化は、どこかクロスオーバー・ジャズの即興展開に通じるものがあって、聴いていて実に心地良い。
 
 

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2024年12月 6日 (金曜日)

ダニエルソンの変則トリオの秀作

晩秋から初冬にかけて、徐々に気温は下がり、北の地方から雪の便りがやってくる。いよいよ、北欧ジャズの鑑賞に一番適した季節がやってくる。晩秋から冬の終わりまで、暖かくした部屋の中、外の「紅葉の景色から冬の景色」を眺めながら聴く、北欧ジャズは絶品である。今年も先日から、この季節から冬の終わりまでに聴きたい「北欧ジャズ」のアルバムを物色している。

Lars Danielsson『Palmer Edition II: Trio』(写真左)。2024年11月のリリース。ちなみにパーソネルは、Lars Danielsson (b), Verneri Pohjola (tp), John Parricelli (g)。フランス有数のワイナリーで録音されたACTレコードからの新作。美しい「音の色彩感覚」に満ちたトリオ演奏。トリオとはいえ、このトリオにはドラムとピアノがいない。ベース、トランペット、ギターの変則トリオ。

スタジオではなく、ボルドーワイン地方の人里離れた一角にある木製パネルのサロンで録音されたアルバム。スウェーデンのベーシストのラーシュ・ダニエルソン(Lars Danielsson)、イギリスのギタリストのジョン・パリチェッリ(John Parricelli)、そしてフィンランドのトランペッターのヴェルネリ・ポホヨラ(Verneri Pohjola)の変則トリオ。録音された音の「残響音」が印象的で、それぞれの音の間に「温かい静寂」を感じる。
 

Lars-danielssonpalmer-edition-ii-trio

 
トリオ3人並列リーダーとして名を連ねているが、実質のリーダーはベーシストのラーシュ・ダニエルソン。ラーシュはスウェーデン出身なので、この盤の音の基本は「北欧ジャズ」。トランペットのポホヨラもフィンランド出身なので、北欧ジャズ独特のフレーズ、音の響きが「金太郎飴の様に」出できそうなものなのだが、この盤にはそれが希薄。フレーズの流れは北欧ジャズ風でフォーキーなものだが、印象的な北欧独特のフレーズは控えめ。

それでも、繊細で抒情的で耽美的でフォーキーなサウンドは印象的で、どう聴いてもこれは欧州ジャズであり、北欧ジャズである。演奏の展開、フレーズの作りは「シンプル」。難解なことは全くしていない。それでいて、変則トリオによるインタープレイは高度なもので、この変則トリオのレベルの高さが窺い知れる。そして、それぞれの楽器の音が素晴らしく良い。テクニックの高さ、楽器の音の素晴らしさ、この二つが、このアルバムの演奏の「躍動感」につながっている。

我が国では、なかなか話題に上がらない北欧ジャズだが、1950年代から着実に「進化〜深化」し、現代においても、まだまだ勢いは衰えず、意気盛ん。このダニエルソンのトリオ盤も、従来からの北欧ジャズのパターンから脱して、新しい北欧ジャズの音を創造している様に感じる。但し、北欧ジャズの「コア」はしっかりと保持され、北欧ジャズの良心である「繊細で抒情的で耽美的でフォーキーなサウンド」は健在。この変則トリオ盤は、2024年の北欧ジャズの秀作の一枚だろう。
 
 

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2024年10月25日 (金曜日)

ECM流クロスオーバーの名盤

レコード・コレクターズ 2024年11月号の特集「ECMレコーズ」にある「今聴きたいECMアルバム45選」。この「今聴きたいECMアルバム45選」のアルバム・セレクトが気に入って、掲載されているアルバムを順番に聴き直し&初聴きしている。今回のアルバムは、実は初めて聴く「初聴き」盤である。

Barre Phillips『Three Day Moon』(写真左)。1978年3月の録音。ECM 1123番。ちなみにパーソネルは、Barre Phillips (b), Terje Rypdal (g, g-syn), Dieter Feichtner (syn), Trilok Gurtu (tabla, perc)。米国のジャズベーシスト、バレ・フィリップスがECMに録音した、ECM+JAPOで、通算4枚目のリーダー・アルバム。

このアルバムの印象はズバリ「プログレッシヴ・ロック(プログレ)とモード+フリー+スピリチュアル・ジャズとの融合」。リズム&ビートがはっきりしている演奏部分は「プログレ」。ボ〜っと聴いていたら「あれ、このプログレ、誰だっけ」と思ってしまうほど、プログレの要素が入っている。タブラの音が効果的、バイオリンの音の様なギター・シンセが、プログレ的な雰囲気を増幅する。
 

Barre-phillipsthree-day-moon  

 
リズム&ビートの供給が途絶えた途端、今度は、フリー・ジャズ志向、スピリチュアル・ジャズ志向に展開する。この展開は、ギターを担当するテリエ・リピダルの真骨頂で、リピダルのエレギ、ギター・シンセは、縦横無尽、変幻自在に浮遊し、突進し、拡散する。パーカッションのフリーな打ち込みがスピリチュアルな雰囲気を増幅する。

そして、フィリップスのベース音がフリーでスピリチュアルな展開を規律あるものに仕立て上げているのは立派だ。プログレ的な展開も、フリーでスピリチュアルな展開も、チェンジ・オブ・ペースを促したり、ブレイクを誘ったり、調性と無調のチェンジを指し示したり、さすがリーダー、フィリップスのベースが要所要所で「いい仕事」をしている。

タイトルが「Three Day Moon」=三日月。なんかどこか、ピンク・フロイドの名盤「Dark Side of The Moon」を想起したりして、これって、ECMレコード流のクロスオーバー・ジャズなのかしら、と直感的に感じてしまう。昔々、プログレ小僧だった僕としては、この盤の内容は全く違和感なく聴くことが出来ました。ECM流クロスオーバーの名盤だと思います。
 
 

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2024年10月24日 (木曜日)

ラヴァの『Quotation Marks』

今月発売の「レコード・コレクターズ 11月号」の特集「ECMレコーズ」にある「今聴きたいECMアルバム45選」。この「今聴きたいECMアルバム45選」のアルバム・セレクトが実に気に入って、掲載されているアルバムを順番に聴いている。

以前聴いたことがあって、今回聴き直しのアルバムもあれば、初めて聴くアルバムもある。どちらも「今の耳」で聴くので、意外と新鮮に感じるから面白い。

Enrico Rava『Quotation Marks』(写真左)。1973年12月、NYでの録音と1974年4月、ブエノスアイレスでの録音。JAPO 60010番。ちなみにパーソネルは、Enrico Rava (tp)は、NYとブエノスアイレス共通。以降は、録音地毎のパーソネルは以下の通り。

NY録音のパーソネル:Herb Bushler (b), Jack DeJohnette (ds), John Abercrombie (g), Warren Smith (marimba, perc), Ray Armando (perc), David Horowitz (p, syn), Jeanne Lee (vo)。

ブエノスアイレス録音のパーソネルは、Rodolfo Mederos (bandoneon), El Negro Gonzales (b), Nestor Astarita (ds), Ricardo Lew (g), El Chino Rossi (perc), Matias Pizarro (p), Finito Bingert, (ts, fl, perc)。

この盤の印象はズバリ「欧州系のモード・ジャズとアルゼンチンタンゴとの融合」。ラテン音楽との融合では表現が緩すぎる。雰囲気を正確に伝えるには「モード・ジャズとアルゼンチンタンゴとの融合」が一番ニュアンスが伝わりやすい。
 

Enrico-ravaquotation-marks

 
米国フュージョンで、ここまであからさまに「アルゼンチンタンゴ」との融合を図ったフュージョン・ジャズ盤は、このラヴァのアルバム以外は見当たらない。ラテン音楽という表現に逃げず、ズバリ「アルゼンチン・タンゴ」との融合にトライしたエンリコ・ラヴァは凄い。

しかも、ソフト&メロウなフュージョン・ジャズ志向の音作りではなく、あくまで、ストイックで硬派なコンテンポラリー・ジャズ志向の音作りがメインなのは、ラヴァの矜持を感じる。

NY録音では女性ヴォーカルを起用し、ブエノスアイレス録音ではバンドネオンを起用。エキゾチックな雰囲気でラテン・サウンドど真ん中なアルゼンチンタンゴ。ジャンヌリーのスキャットが入る、モーダルなスピリチュアル・ジャズ、そして欧州風なリリカルでクールなジャズロック、アブストラクト&フリー・ジャズな展開まで、このすべてが効果的に融合されている。

ECMレコードの音志向とはちょっと異なる感じのEnrico Rava『Quotation Marks』。欧州モード・ミーツ・アルゼンチンタンゴな内容なので、ECMっぽくないなあ、と思っていたら、この盤、ECMの傍系レーベル「JAPO」(※) からのリリースでした。

※「JAPO」とは、アイヒャーがECMを興す以前に主催していたレーベル。制作ポリシーがECM以前なので、ECMとは雰囲気が全く異なる「こんなアルバムあったんや」レベルのアルバムも多々あります。このエンリコ盤は、JAPOでの録音なので、ECMとはちょっと音志向が異なる。JAPO時代の各タイトルはECMに引き継がれてリリーされている。
 
 

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2024年10月23日 (水曜日)

Wolfgang Dauner『Output』

今月発売の「レコード・コレクターズ 11月号」の特集に「ECMレコーズ」があった。これは「創設者マンフレート・アイヒャーのコンセプトと55年の歴史の概説」と「今聴きたいECMアルバム45選」の2本立ての特集。特に、後半の「今聴きたいECMアルバム45選」のアルバム・セレクトが実に気に入った。ということで、この45枚のアルバムについて、ブログ記事としてアップしようと思い立った。

Wolfgang Dauner『Output』(写真)。ECM 1006番。1970年9月15日, 10月1日, 「the Tonstudio」での録音。ちなみにパーソネルは、Wolfgang Dauner (p, Ringmodulator, Hohner Electra-Clavinet C), Fred Braceful (perc, vo), Eberhard Weber (b,cello, g)。

カタログ番号が「ECM 1006」なので、ECMレコードがアルバムをリリースし始めて、僅か6枚目の、ECMの初期も初期のアルバムである。実はこのジャケットにビビって、購入をずっと控えてきた「逸品」である(笑)。ジャケットの印象から、電子ノイズ満載の無調の現代音楽の垂れ流しではないのか、という間違った先入観が、さらに購入意欲を削いでいた。
 

Wolfgang-dauneroutput

 
実際に聴いてみると、意外とカッチリまとまった印象の即興演奏集で、電子楽器を積極活用した、しっかりとリズム&ビートに乗った即興演奏。ブレースフルのパーカションとウェーバーのベースが、演奏全体のリズム&ビートをしっかりとキープしているところがこのアルバムの「キモ」の部分。このパーカッションとベースの存在が、この盤の即興演奏を上質なものにしている。

演奏の旋律はダウナーのキーボード類が担っている訳だが、雰囲気としては、電子楽器を活用して、現代音楽風の響きとフレーズで即興演奏をかます、という感じで、フリーにアブストラクトに展開するが、リズム&ビートがしっかりしているので、散漫になったり冗長になったりするところは無い。電気楽器を活用しているが、電気楽器の偶然性を頼ること無く、電気楽器の音の特性をしっかりとコントロールしながらの前衛的演奏に、ダウナーの良質な「センス」を感じる。

いかにも欧州らしい、現代音楽志向の電子楽器を活用した、フリー&アバンギャルドがメインの即興演奏集、と形容できるかと思う。フリー&アバンギャルドがメインとは言いつつ、ジャズロック的な8ビートな旋律展開や、しっかりモーダルな旋律展開もあり、こういう即興演奏的な展開が、この盤を「ジャズ」のジャンルに留めているように思う。意外としっかりとした内容は、初期も初期の作品とはいえ、「さすがECM」である。
 
 

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2024年8月22日 (木曜日)

ECMのハーシュのソロ・ピアノ

暑い日が続く。というか、酷暑の日が続いていて、我々としては「命を守るため」の部屋への引き篭もりの日が続く。外は酷暑、気温が35度を超えているので、部屋はエアコンは必須。エアコンをつけて窓を閉め切っているので、部屋の中は静か。こういう時、僕はジャズの「ピアノ・ソロ」盤を選盤することが多い。

Fred Hersch『Silent, Listening』(写真左)。2023年5月 スイスにて録音。ECMレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Fred Hersch (p) のみ。現代の「ピアノの詩人」、フレッド・ハーシュのソロ・ピアノ盤である。ソロ・ピアノとしては2020年リリースの『Songs From Home』以来4年ぶり。また、ECMレーベルからは本作がソロ・デビュー作。

冒頭「Star-Crossed Lovers」は、期待通り、耽美的でロマンティシズム漂う、リリカルで流麗なタッチのソロ・パフォーマンスが繰り広げられる。なるほど、ハーシュっぽいよね、と思っていたら、2曲目の「Night Tide Light」の現代音楽っぽい、静的でアブストラクトな演奏に度肝を抜かれる。こういう面もハーシュは持っているのか、と興味深く耳を傾ける。

この静的でアブストラクトでフリーな演奏傾向は、3曲目「Akrasia」、4曲目「Silent, Listening」にも踏襲されるが、演奏の展開の中で、リリカルで耽美的でスピリチュアルなフレーズがスッと出てくるところが印象的。以降、ラストの「Winter of my Discontent」まで、アブストラクトでフリーな演奏と、静的でアブストラクトな演奏の邂逅の中で、リリカルで耽美的でスピリチュアルなフレーズが即興に浮遊する。実に欧州らしい、ECMらしい音世界。
 

Fred-herschsilent-listening

 
収録曲もなかなか捻りが効いていて、ストレイホーン作の「Star-Crossed Lovers」、ジークムント・ロンベルグの定番スタンダード曲 「Softly, As In A Morning Sunrise」、アレック・ワイルダー「Winter Of My Discontent」、ラス・フリーマン作「The Wind」など、意外と捻りの効いたスタンダード曲を選曲して、ソロ演奏のベースとしているところが「ニクい」。

スタンダード曲の中では「Softly, As In A Morning Sunrise」のソロ・パフォーマンスが凄い。聴き馴染みのあるテーマをリリカルで耽美的に弾き始めるが、進むにつれ、徐々に即興演奏に突入、現代音楽の様なカッチカチ硬質で尖ったタッチで、フリーにアブストラクトに傾きつつ、リリカルにスピリチュアルに展開、そんな中で、耽美的に浮遊するアドリブ・フレーズは圧巻。

ハーシュらしさ満載。ハーシュしか出せない即興フレーズ、ハーシュ独特の音の重ね方、ハーシュのフリーでアブストラクトな展開、硬質なタッチで展開する耽美的でリリカルなアドリブ・フレーズ。適度なテンションのもと、ECMエコーで耽美的に響くハーシュのピアノ。

「ジャズにおけるソロ・ピアノの芸術に関しては、演奏家には2つのクラスがある。フレッド・ハーシュとそれ以外の人たちだ」という賛辞も大袈裟でなく納得できる、素晴らしいハーシュのソロ・パフォーマンスがこの盤に詰まっている。
 
 

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