2025年7月31日 (木曜日)

ダブル・フルートの異色の好盤

ベツレヘムは1953年、株のディーラーだったガス・ウィルディという人物とプロ・ドラマーだったジェームズ・クライドがNYにて設立した「ポップスのシングルを扱うレーベル」。しかし、設立の翌年、1954年には早々にジャズ専門レーベルへと衣替え。

このレーベルの一番の特色は、米国の東海岸と西海岸の両方にオフィスを構え、偏ること無く、双方のジャズマンのリーダー作をリリースしたこと。ハードバップ期の黒人中心の東海岸ジャズと、白人中心の西海岸ジャズを偏ること無くピックアップし、記録していった珍しいジャズ・レーベルといえます。カタログを見渡せばそれがハッキリ判る。

活動期間は1953~61年と短いのだが、ちょうど、ハードバップ初期から60年代のハードバップ多様化が始まった頃まで、ハードバップ期をほぼ網羅した活動期間なのも興味深い。今回、このベツレヘム・レーベルのアルバムの中から、最近、聴いた盤の中から何枚か、記事にしてご紹介したい。

『Herbie Mann & Sam Most Quintet』(写真)。1955年10月の録音。ちなみにパーソネルは、Herbie Mann, Sam Most (fl), Joe Puma (g), Jimmy Gannon (b), Lee Kleinman (ds)。ハービー・マンとサム・モストの2フルートがフロント、ジョー・ピューマのギター、ジミー・ギャリソンのベース、リー・クラインマンのドラムの、ピアノレスのギター・リズム・セクションがバックに控えている。
 

Herbie-mann-sam-most-quintet

 
ダブル・フルートのフロントは、珍しくも素敵な組みあわせ。どちらのフルートもその力量は高く、しかも、同等でなければ、ダブル・フルートのフロントは実現しない。ハービー・マンとサム・モスト、両者とも当時25歳、甲乙付けがたい、テクニック&歌心溢れるフルートで、このダブル・フルートのフロントは成功している。

2本のフルートが流麗。スタンダード中心の選曲で、明るくスイングするフルートが躍動的だが、喧しくは無い。耳に心地良い。とにかく、バトルもので無いのが良い。2本のフルートが、魅力的なユニゾン&ハーモニーを奏で、魅力的なアドリブ・パフォーマンスを繰り広げる。2本のフルートが奏でるアンサンブル。これがこの盤を「異色盤」として、格調の高いものにしている。

バックの、ジョー・ピューマのギター、ジミー・ギャリソンのベース、リー・クラインマンのドラムの、ギターメインのリズム・セクションもなかなか良いサポートをしていてグッド。特にジョー・リピューマは、ところどころで「おっ」と思う、小粋なバッキングを展開する。ダブル・フルートには、ギターメインのリズム・セクションが良く似合う。

ベツレヘムには、こういった、他の有名ジャズ・レーベルには無い「異色盤」が多々あるのが、レーベルの個性。セッションで採用するジャズマンの中に、ほぼ無名のジャズマンを上手く活用するのも、レーベルの特徴。この『Herbie Mann & Sam Most Quintet』は、その好例だろう。異色の好盤です。
 
 

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2025年7月 5日 (土曜日)

音は悪いが、好盤の『Nirvana』

以前、このアルバムは、エヴァンス・トリオについては、ベースがラファロからイスラエルズに代わって、バンドのグレードが一段落ちたとか、ラファロを失って、エヴァンスのピアノは暗くて不調だとか、評論家筋からとかく評判が悪く、確かにちょっと暗めのジャケットと相まって、ジャズを本格的に聴き始めた、ジャズ者初心者の頃は触手が伸びなかった。

Herbie Mann and The Bill Evans Trio『Nirvana』(写真左)。1961年12月8日、1962年5月4日の録音。ちなみにパーソネルは、Bill Evans (p), Herbie Mann (fl), Chuck Israels (b), Paul Motian (ds)。ビル・エヴァンスが、ベースのスコット・ラファロを事故で失った後、チャック・イスラエルズを迎えて結成したトリオの旗揚げ盤。フロントにファンキー・フルートの名手、ハービー・マンが参加している。

が、それから10年ほど経って、思い切って聴いてみたら、なんとなかなかの内容の良さで、以前の悪評は何だったんだ、と咄嗟に思った。恐らく、冒頭の2曲、「Nirvana」「Gymnopedie」が、エヴァンス・トリオとして、耽美的/印象派的志向な演奏の側に目一杯に振れた演奏で、この静的で墨絵の様な音の淡い広がりがメインのスローな演奏が、「暗い、不調」と曲解されたのだろう。
 

Herbie-mann-and-the-bill-evans-trionirva

 
逆に、ファンキー&ソウルフルなフルートのハービー・マンが、耽美的/印象派的志向なフルートにチャレンジした好演奏として、高く評価して良いパフォーマンス。バックのエヴァンス・トリオの演奏は淀みが無く、ハービー・マンのフルートを好サポートで支えている。特に、イスラエルズのベースが、ソリッドで歯切れの良いフレーズで印象的。全編に渡って、イスラエルズのベースは、ラファロのベースと比べて遜色無い、と僕は見ている。

3曲目「I Love You」から「Willow Weep for Me」「Lover Man」のスタンダード曲、そして、ラストのマン作の「Cashmere」については、エヴァンス・トリオは、メリハリ、ビートが効いたバップな演奏で、フロントのファンキー&ソウルフルナなハービー・マンのフルートを盛り立てている。

ピアノの音が割れていたり、ドラムの音の切れ味が不足していたり、と録音に何かと問題のある盤ではあるが、それはオーディオ的に評価すると「減点ポイント」ではあるが、バンド演奏のパフォーマンスを聴き取るという点ではあまり問題にはならない。この盤は、耽美的/印象派志向のフルートと、バップなフルートを吹きまくるハービー・マンと、イスラエルズを迎えた、新しいエヴァンス・トリオの「伴奏上手」を聴く盤だろう。オーディオ的な評価には目を瞑りたい。良いアルバムです。
 
 

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2025年1月 7日 (火曜日)

ロウズを心ゆくまで愛でる盤

CTIレーベルのアルバムを聴き直している。CTIレコードは、クロスオーバー&フュージョンの代表的レーベル。イージーリスニング・ジャズ志向のエレ・ジャズが多く、特に「ソフト&メロウ」な音の味付けがなされたフュージョン盤は、硬派なジャズ者の方々から毛嫌いされている(笑)。

だが、今の耳で聴き直しても、その内容、演奏テクやアレンジ、は充実している。1970年代を代表するジャズのスタイル、クロスオーバー&フュージョンの良いところが満載である。

Hubert Laws『The Chicago Theme』(写真左)。1975年1-4月の録音。ちなみにパーソネルは、以下の通り。どうも、当時のクロスオーバー&フュージョンのアルバムは、登場人物が多くて困る。

Hubert Laws (fl, arr), Randy Brecker (tp), Michael Brecker (ts), David Sanborn (as), Bob James (key, arr, cond), Don Grolnick (p, clavinet), Joe Beck, George Benson, Eric Gale, Richie Resnicoff, Phil Upchurch (g), Doug Bascomb, Ron Carter (ac-b), Stanley Clarke (el-b), Steve Gadd, Andrew Smith (ds), Ralph MacDonald (perc)。バックにストリングスが入る。

リーダーは、フルート奏者のヒューバート・ロウズ。ジャズ・フルート奏者として頭角を現したのが、1960年代半ば。活躍したジャンルとしては、イージーリスニング志向のファンキー・ジャズ。いわゆる1970年代のクロスオーバー&フュージョン・ジャズに直結した音作りをしていて、純ジャズ者、ハードバップ至上主義のジャズ者の方々からは、全く注目されない存在。
 

Hubert-lawsthe-chicago-theme

 
しかし、ロウズのフルートはかなりのレベルで、ジャズ・フルート奏者の中では上位の、歴代のジャズ・フルート奏者の中ではベスト3の中に位置するくらいの「ジャズ・フルートのバーチュオーゾ」である。

そんなロウズが、ボブ・ジェームスのアレンジに乗って、クロスオーバー&フュージョン志向のCTIサウンドに包まれて、極上のファンキー&ソウルフルなフルートを吹き続ける。ロウズのフルートは、クラシック仕込みでテクニックは上々、歌心は抜群、ウォームで芯のあるファンキー&ソウルフルなフルート。

加えて、この盤では、バックのリズム隊が結構強力で、タイトでファンクネス漂うリズム&ビートが実に心地良い。そんなリズム隊とロウズのファンキー&ソウルフルなフルートが絡みまくって、こってこてファンクに、キメにキメる「I Had A Dram」。フィリー・ソウルの名曲、スタイリスティックスの「You Make Me Feel Brand New」や、マリア・マルダーのヒット曲「Midnight At The Oasis」のカヴァーが格好良い。

そして、ベタなジャズ・カヴァーで失笑を買いがちな、クラシックの有名曲「Goin' Home」、いわゆるドヴォルザークの「家路」であるが、これがまあ、ボブ・ジェームスの秀逸なアレンジで、思いっきりソウルフルなジャズ・ファンク曲にカヴァーされている。これだけ、思いっきりソウルフルなジャズ・ファンク曲にアレンジされた、ドヴォルザークの「家路」は聴いたことが無い。

ストリングスのバックも耳につかず、良いアレンジを施されて良好。CTIレーベルのアルバムの中でもちょっと地味な存在ですが、ロウズのフルートを心ゆくまで愛でるには最適なアルバムの一枚です。ロウズのみならず、クロスオーバー&フュージョン・ジャズの佳作です。
 
 

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2024年10月 7日 (月曜日)

60年代後半の「新しいジャズ」

1960年代半ば以降、ビートルズをはじめとするロック・ミュージックの台頭によって、ジャズのシェアは下降線を辿り始めた。一般聴衆は、聴き易く分かり易く適度な刺激のある「ロック&ポップス」を好んで聴くようになる。ジャズは「古い時代の音楽」として、その人気は徐々に衰え始めていた。

一方、ジャズは多様化の中で、ハードバップから派生した大衆志向なファンキー&ソウル・ジャズ、そして、ハードバップの反動から派生した難解なフリー・ジャズ、と両極端な深化を遂げつつあった。が、ファンキー&ソウル・ジャズは、ハードバップを基本としている為、8ビートを採用しても、全体のリズム&ビート自体が、ロック&ポップスと比べて「古い」。ましてや、フリー・ジャズは聴き手を選び、その聴き手は少数だった。

ジャズ界の一部は、これではいかん、と「新しいジャズ」の追求を始める。その一つが、聴き易さと分かり易さと適度な刺激を追求した、ロック&ポップスとジャズとの融合を前提とした「クロスオーバーなイージーリスニング・ジャズ」である。その牽引役を担ったのが「A&Mレコード」。

Soul Flutes『Trust In Me』(写真左)。1968年の作品。A&Mレコードからのリリース。ちなみにパーソネルは、以下の通り。

Herbie Mann, Hubert Laws (fl), ”Soul Flutes Ensemble & Piccolo” George Marge, Joel Kaye, Romeo Penque, Stan Webb (fl), Herbie Hancock (p, org,harpsichord), Paul Griffin (org), Bucky Pizzarelli, Eric Gale (g), Henry Watts (vib, marimba), Eric Gale, Herbie Hancock (kalimba), Ron Carter (b), Grady Tate (ds), Ray Barretto (perc), Don Sebesky (arr), Creed Taylor (prod)。プロデュースは「クリード・テイラー」。
 
Soul-flutestrust-in-me

 
おそらく、ジャズ・フルートの名手であるハービー・マンが、当時アトランティックと契約していた為、プロデューサーのクリード・テイラーは、ジャケットとライナーからマンの名前を完全に省き、ハービー・マンとヒューバート・ロウズ、この二人のフルートの名手と「Soul Flutes Ensemble & Piccolo」の4人を「Soul Flutes」という名義で、この『Trust In Me』をリリースしている。つまり、実質上のリーダーは「ハービー・マン」。

内容はグループ名の通り、フルートがメインの「クロスオーバーなイージーリスニング・ジャズ」。シンプルでファンキーなフルートのアンサンブルが心地良い響き。マンとロウズのソウルフルなフルートの流麗な吹き回しが印象的。ドン・セベスキーのアレンジが実に効果的。ユルユルの心地良い響きが満載の、分かり易く聴き心地の良い、どこか官能的な「クロスオーバーなイージーリスニング・ジャズ」。

哀愁感溢れるメロウなボサノバ曲「Bachianas Brasileiras」、マンとロウズが絶妙なユニゾン&ハーモニーを奏でる「Cigarettes & Coffee」など、南国を想起させる、流麗で官能的なアレンジ。S&Gのフォーク・ポップス「Scarborough Fair」、ハリー・ベラフォンテの「Day-O(バナナ・ボート)」など、当時流行のポップス曲も、優れたアレンジで、洒落て趣味の良いカヴァー演奏に仕立て上げられている。

旧来のハードバップ・ジャズとは、完全に一線を画した「新しいジャズ」の響き。こうやって、振り返って聴き直すと、このクリード・テイラーが目指した、聴き易さと分かり易さと適度な刺激を追求した「クロスオーバーなイージーリスニング・ジャズ」は、それまでのジャズとは全く異なるものであることが判る。ジャズのマナーに則ったインストがメインの「新しいジャズ」。

聴き易さと分かり易さと適度な刺激を追求した、ロック&ポップスとジャズとの融合。それがこの「新しいジャズ」。これが、後のクロスオーバー&フュージョン・ジャズの興隆に繋がっていく。
 
 

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2024年5月14日 (火曜日)

ハービー・マンのヒット作ライヴ

ジャズの世界で、ソロ演奏にあんまり向かないフルートを専門楽器に、数々の名演を残した、ジャズ・フルート演奏家の一人がハービー・マン。

フルートという楽器は、音色が甘く、音の強弱・濃淡がつけにくくて、演奏の幅とバリエーションが限定されてしまう傾向にあり、ジャズの世界では、あんまり、ソロ演奏に向かない楽器。

ただし、フルートは、息をちょっと強く吹くことで、エモーショナルで、ファンキーな音色を出すことができる。この「エモーショナルで、ファンキーな」フルートの音色の特性を最大限に活かして、コテコテの「ファンキー&ソウル・ジャズ」で勝負したのが、ハービー・マンである。

『Herbie Mann at the Village Gate』(写真左)。1961年11月17日、NYのライブ・スポット「ヴィレッジ・ゲイト」でのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Herbie Mann (fl), Hagood Hardy (vib), Ahmed Abdul-Malik (b), Ray Mantilla (conga, perc), Chief Bey (african-ds and perc), Rudy Collins (ds)。冒頭1曲目の「Comin' Home Baby」にだけ、作曲者のBen Tucker (b) が追加で入っている。

この邦題『ヴィレッジ・ゲイトのハービー・マン』は、僕がジャズを本格的に聴き始めた1970年代後半、マンの圧倒的な「代表的名盤」とされていた。しかし、僕は、ジャズを本格的に聴き始めた頃は、担当楽器が「フルート」というだけで敬遠。このライヴ盤を初めて聴いたのは、1990年代に入ってから。代表的名盤というだけに、ワクワクしながらCDプレイヤーのスイッチを押した。

と、冒頭の「Comin' Home Baby」のイントロから「あれれ」。静かなベース・ソロから始まり、抑制の効いたドラムが加わる。出てくるリズム&ビートは、熱量は温和、雰囲気は爽やかなファンキー・ビート。録音年は1961年、まだ、ファンキー・ジャズの「ノリノリの娯楽性」は発展途上だった様である。

聴く前は、ホットでノリノリなコテコテのファンキー・ジャズをイメージしていたのだが、意外と大人しくて温和な、聴きやすくて爽やかなファンキー・ジャズが出てきたので、ちょっと戸惑う。
 

Herbie-mann-at-the-village-gate

 
マンのソロも、そこはかとなくファンキーではあるが、熱量は温和、雰囲気は爽やかで聴きやすいフルートを吹き進める。そう、この『ヴィレッジ・ゲイトのハービー・マン』に入っているファンキー・ジャズって、熱い演奏、思いっきりノリノリのコッテコテなファンキー・ジャズではなくて、どこか爽快感溢れる、聴き心地の良い、イージーリスニング志向のファンキー・ジャズでなのだ。

しかし、続く、有名スタンダード曲の「Summertime」におけるハービー・マンのフルートが凄い。演奏の雰囲気は、そこはかとなくファンキーではあるが、熱量は温和、雰囲気は爽やかで聴きやすいファンキー・ジャズなのだが、そんな爽やかなファンキー・ビートに乗って、マンのフルート・ソロが炸裂する。

特に、アドリブ展開におけるマンのフルートのパフォーマンスは絶品。マンのフルートの実力を遺憾無く発揮している。この「Summertime」の存在が、この盤をマンの代表作の一枚としている、と言い切って良いくらいの絶品パフォーマンス。

ラストの、これも有名スタンダード曲の「It Ain't Necessarily So」については、約20分弱の長尺ライヴ・パフォーマンスなんだが、真ん中あたりで、長々とベース・ソロが流れる。これが、音が小さくて、ベース音が聴き取り難く、ノリも良くない。

録音年は1961年なので、エレべはまだ一般的で無く、アコベ一本で、コッテコテなファンキー&ソウルフルなベース・ソロを展開するのは無理がある。この部分の冗長さが惜しい。ここはちょっと短く編集した方が良かったと思う。

この『ヴィレッジ・ゲイトのハービー・マン』は、マンの圧倒的な「代表的名盤」、ファンキー・ジャズの「代表的名盤の一枚」とされているが、マンのジャズ・フルートとしてのパフォーマンスが優れているが、ファンキー・ジャズとしては、ちょっと物足りなさが残る。

しかし、このライヴ盤はヒットした。そして、マンは、「エモーショナルで、ファンキーな」フルートの音色の特性を最大限に活かして、コテコテの「ファンキー&ソウル・ジャズ」を推し進めていく。
 
 

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2024年5月13日 (月曜日)

マンの傑作盤『Glory Of Love』

フュージョン・ジャズの源はどの辺りにあるのだろう。僕は、1960年代後半、A&Mレコードの諸作が、その源の一つだと思っている。

A&Mレコードは、元々は1962年にハーブ・アルパートとジェリー・モスが設立したレコード・レーベル。ジャズのジャンルについては、ファンキー&ソウル・ジャズのエレ化をメインに、当時、ポピュラーな楽曲のカヴァーなど、ポップでジャジーなフュージョン・ジャズの先駆けな音作りで人気を獲得した。

Herbie Mann『Glory Of Love』(写真左)。1967年7, 9, 10月の録音。ちなみにパーソネルは以下の通り。

Herbie Mann (fl), Hubert Laws (fl, piccolo), Ernie Royal, Burt Collins (tp, flh), Benny Powell (tb), Joseph Grimaldi (sax), Leroy Glover (p, org), Paul Griffin (p), Roland Hanna (org), Jay Berliner, Eric Gale (g), Ron Carter (b), Herb Lovelle, Grady Tate (ds), Teddy Sommer (vib, perc), Ray Barretto, Johnny Pacheco (perc), Earl May (b), Roy Ayers (vib)。

手練れの豪華絢爛なパーソネル。予算をしっかり充てた充実の録音セッション。出てくる音は、エレトリック&8ビートなファンキー&ソウル・ジャズ。アニマルズがヒットさせたポップス曲「The House of the Rising Sun」や、レイ・チャールズがヒットさせたソウル曲「Unchain My Heart」など、当時の流行曲を見事なアレンジでカヴァーしている。
 

Herbie-mannglory-of-love

 
ポップス曲のカヴァーと聞くと、イージー・リスニング志向のジャズか、と思うのだが、このマンのA&M盤は、演奏自体が実にしっかりしている。リズム&ビートは、切れ味良く、ジャジーでソウルフルでファンキー。このリズム・セクションのリズム&ビートはとても良く効いている。

そのジャジーでソウルフルでファンキーなリズム&ビートに乗って、ハービー・マンのソウルフルなフルートが、爽やかなファンクネスを湛えて飛翔する。「In and Out」でのヒューバート・ローズとのダイアローグはとても楽しげ。フランシスレイの「Love is stronger far than we」では、ムーディーなマンのフルートが印象的。この盤でのマンのパフォーマンスは素晴らしい。

当時のA&Mレコードのジャズについては「質の高いリラックス出来るBGM」がコンセプト。しかし、このマンのA&M盤はBGMどころか、イージー・リスニング志向のエレ・ジャズでも無い、ソウルフルでファンキーなコンテンポラリー・ジャズとして成立している優れた内容。

アルバム全体を覆う適度なテンション、切れ味の良いジャジーでソウルフルでファンキーなリズム&ビート。マンを始めとするソウルフルなフロント隊の演奏。この盤には、1960年代前半から進化してきた、ファンキー&ソウル・ジャズの成熟形を聴くことが出来る。ハービー・マンの傑作の一枚であり、最高傑作と言っても良いかもしれない。

クリード・テイラーの優れたプロデュースの下、アレンジも良好、録音はルディ・バン・ゲルダー手になる「良好な音」。この盤がほとんど忘れ去られた存在で、廃盤状態が長く続いている。実に遺憾なことであるが、最近、ストリーミングで聴くことが出来るようになったみたいで、これは喜ばしいことである。
 
 

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2023年1月25日 (水曜日)

フルート主役のジャズ・ファンク

ジャズ・ファンクにジャズ・フルートをマッチさせた、ジャズ・フルートのレジェンドの一人「Hubert Laws(ヒューバート・ロウズ)」。その最初のアルバムと思われる『Romeo & Juliet』以降、フュージョン・ジャズ全盛期、1970年代後半から1980年代円半、ロウズは「ソフト&メロウなジャズ・ファンク」志向をメインとする。

Hubert Laws『Family』(写真)。1980年の作品。ちなみにパーソネルは、Hubert Laws (fl, piccolo), Nathan East (b), Leon Ndugu Chancler (ds), Chick Corea, Bobby Lyle (key), Earl Klugh (g), David T. Walker (g) Debra Laws (vo) 等、そこにストリングスがバックに入る。ロウズの「ソフト&メロウなジャズ・ファンク」の代表盤。

内容的には、ライトでアーバンな雰囲気の「ソフト&メロウなジャズ・ファンク」。演奏全体に漂うファンクネスとグルーヴ感が半端ない。とにかく聴いていて自然と足が動き、腰が動く(笑)。そんなグルーヴィーなフュージョン・ジャズ満載で、これまでカヴァーからサンプリング・ネタに至るまで幅広い世代に支持され、特に、フリーソウル、ヒップ・ホップ方面から再評価の高い1枚である。

冒頭はクラシック曲のカヴァー「Ravel's Bolero」から始まるので「あれ〜っ」と思うのですが、この「ラベルのボレロ」も意外とファンキーでライトなグルーヴ感が漂う「ジャズ・ファンク仕様」。クラシックにも精通するロウズならではの選曲であり演奏であるかも、と意外と納得して次の曲にいく。
 

Hubert-lawsfamily

 
次曲「What a Night」から「ソフト&メロウなジャズ・ファンク」に突入。この曲はサンプリング・ソースとしても人気のソフト&メロウなフュージョン・ジャズ。ミディアム・テンポの曲調にロウズのフルートが心地良く吹き進む。続いて「Wildfire」は、ファンキーなブラジリアン・フュージョン。疾走感が半端ない。ネイザン・イーストのベース・ラインが決まっている。

そして、極めつけは、やはり、タイトル曲の「Family」。ロウズの妹、デボラ・ロウズの魅力的なヴォーカルをフューチャーした、アーバンな雰囲気溢れる、ソフト&メロウなディスコ・フュージョン。フリーソウル・クラシックとしても人気の楽曲で、カヴァーやサンプリング・ソースの扱い多数。

あと「Memory of Minnie (Riperton) 」は、ゲスト参加のチック・コリアのピアノ・ソロが秀逸。そして、ラストの「Say You're Mine」は、バラードと思わせておいて、一気にファンキー・モードへ突入する、こってこての「ジャズ・ファンク曲」。

この盤、ジャケットが赤ん坊の写真をあしらったものなので、家庭で流せる優しいイージーリスニング・ジャズな盤なのか、という印象を持つんですが、とんでもない(笑)。中身は、アーバンで、むっちゃファンキーでグルーヴ感溢れる「ソフト&メロウなジャズ・ファンク」が満載。ジャケットに惑わされずに、フルートがメインのジャズ・ファンクを堪能して下さい。
 
 

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2023年1月22日 (日曜日)

ジャズ喫茶で流したい・257

最近、ジャズ・フルートのアルバムを聴き直している。フルートって楽器、基本的にはジャズに向かないと、ずっと思ってきた。それでも、ジャズ者初心者の頃、『Opus de Jazz』のフルートを聴いて「フルートの音ってファンキーやな〜」と感じ入ったりして、フルートって、吹き手によってはジャズに向くのかな、と思って以来、幾年月。しばらく、ジャズ・フルートに拘ること無く、ジャズ盤を聴いてきた。

ボブ・ジェームスの初期のリーダー作を聴き直していて、ヒューバート・ロウズのフルートって「やっぱ、ええなあ」と感じ良った。サックスのサブ楽器としてのフルートって、ジャズではよくあるが、さすが、サブ楽器だけあって、本格的なフロント楽器とは言い難い。では、ジャズ・フルートをメインにしている、フロント楽器として成立するジャズマンって、どれくらいいたのかなあ、と思って調べ始めて、ジャズ・フルートの好盤を聴き直す様になった。

Frank Wess『Opus in Swing』(写真左)。 1956年6月20日の録音。ちなみにパーソネルは、Frank Wess (fl), Kenny Burrell, Freddie Green (g), Eddie Jones (b), Kenny Clarke (ds)。ジャケ・デザインを見たら直ぐに判る、サヴォイ・レーベルからのリリースである。1956年の録音であるが、アルバム全体の雰囲気は、ちょっとレトロな「スイング・ジャズ」。
 

Frank-wessopus-in-swing

 
しかし、このレトロな「スイング・ジャズ」がとても良い雰囲気。スイングするリズム隊に乗って、フランク・ウエスのフルートが唄う様に吹き進む。芯の入った、ストレートに力強く伸びたフルートのフレーズ。ウエスのフルートは、しっかりとフロント楽器として成立している。そして、ウエスのフルートは、どこか黒くてファンキー。ウエスのフルートにその黒いファンクネスが、そこはかとなく小粋に忍んでいるのが実に洒脱で、実にジャジー。

ソロ・ギターに、駆け出し新人自体のケニー・バレル、リズム・ギターに名手フレディー・グリーン。この二人のギターが抜群に聴いている。バレルのソロ・ギターはブルージーでファンキー、グリーンのリズム・ギターは小粋に躍動的でファンキー。この二人のギターが演奏全体のファンクネスな雰囲気を醸し出している。二人の小粋にファンキーなギターと、そこはかとなくファンキーなウエスのフルート。とっても「ジャズ」な演奏が小気味良い。

バリバリのハードバップでは無い、軽やかで耳に優しい「スイング・ジャズ」。しかし、ハードバップ・マナーなアレンジが、この「スイング・ジャズ」な演奏に古さを感じさせない。とても洒脱でモダンなジャズな演奏が、この盤に詰まっている。そして、この盤は、ジャズ・フルートが、やはり吹き手によって、フロント楽器として十分成立することを我々に教えてくれる。
 
 

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2023年1月21日 (土曜日)

ジャズ・ファンクに「フルート」

ジャズ・フルートについては、フルートという楽器が、元来、音が丸くて、線が細い印象があって、ジャズのフロント楽器としてはちょっと弱くて、ジャズでのフルートの活用は、当初は、クラシックのジャズ化やライトなラテン・ジャズなど、イージーリスニング・ジャズ志向がほとんどだった。

Hubert Laws『Romeo & Juliet』(写真左)。1976年の作品。Columbiaレーベルからのリリース。プロデュース&アレンジはボブ・ジェームスが担当している。当時、CTIレーベルの専属アレンジャーだったボブ・ジェームス。よくまあ、Columbiaレコードのこの盤の制作に協力できたもんだ、と感心する。恐らく、この後、ボブ・ジェームスはCBSに移籍するので、CTIとCBSの契約の端境期だったのかもしれない。

ちなみにパーソネルは、主だったジャズマンとして、Hubert Laws (fl), Bob James (key, Fender Rhodes), Mark Gray (key), Eric Gale, Richie Resnicoff, Barry Finnerty, Steve Khan (g), Gary King (b), Andy Newmark, Steve Gadd (ds), Ralph MacDonald (perc), Alan Rubin, Randy Brecker, Jon Faddis, Marvin Stamm, Bernie Glow (tp, flh), Allen Ralph, David Taylor, Wayne Andre (tb)。ここに豪華なストリングスとボーカル・グループが加わる。

いきなり冒頭ストリングスが大々的に入ってくるので、この盤って、ウィズ・ストリングス系のイージーリスニング・ジャズなのか、と思わず身構える。しかし、ボブ・ジェームスがプロデュースを担当している。それも、1970年半ば、ボブ・ジェームスは、フュージョン・ジャズの仕掛け人として、日の出の勢いの時期。で、程なくストリングスが去って、極上のファンク・グルーヴを伴ったタイトなリズム隊が出てきて、力強いロウズのグルーヴィーなフルートが絡んでくる。
 

Hubert-lawsromeo-juliet

 
それまで、クラシックのジャズ化、ファンキーなクロスオーバー・ジャズ、時々、ライトなラテン・ジャズで、どちらかと言えば、イージーリスニング・ジャズ志向の活躍をしてきたロウズが、ジャズ・ファンクにジャズ・フルートをマッチさせた優秀盤である。パーソネルも、ボブ・ジェームスのジャズ・ファンクなフュージョン・ジャズに欠かせない、ボブ・ジェームス御用達のリズム隊が集結している。

冒頭の「Undecided」は、ボブ・ジェームスのアレンジ志向が色濃い、CTIレーベルぽいジャズ・ファンク。メロウで渋いエレピ&ベース・フレーズに乗ったロウズのフルートが素敵な「Tryin To Get The Feeling」。「What Are We Gonna Do」「Guatemala Connection」のソフト&メロウなフュージョン・ファンクは魅力的。

バリー・マニロウ「歌の贈り物」(1975年11月リリースの大ヒット曲)や、クラシックのチャイコフスキーの「ロミオとジュリエット」をカヴァーしているが、ボブ・ジェームスの手によって、グルーヴィーなアレンジが施され、ファンキーでグルーヴィーなロウズのフルートが素晴らしいインプロビゼーションを披露している。アレンジとしては「ボブ・ジェームス色」濃厚。

この盤、ボブ・ジェームズのアレンジ&キーボードとヒューバート・ロウズのフルートの相性がとても良いことが良く判る。Columbiaレーベルからのリリースだが、音だけ聴くと、この盤は「CTIレーベル」からのリリースと勘違いするくらいだ。但し、このジャケのデザインはイマイチ。CTIレーベルとは似ても似つかない酷いもので、ジャケをみるだけでは、この盤には直ぐには触手は伸びないだろう(笑)。
 
 

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2023年1月17日 (火曜日)

ジャズ・フルートのレジェンド

ヒューバート・ロウズのジャズ・フルートを聴いていて、他のジャズ・フルート奏者について、気になるようになった。もともと、ジャズ・フルート奏者は数が少ない。

サックス奏者のサブ楽器としてのフルートはまずまず思い当たるのだが、ジャズ・フルートがメインのジャズマンといえば、本当に数が少ない。今までの記憶の中で、思い当たったのが、ロウズに加えて、ブランク・ウエス、ハービー・マン。これ位やなあ〜。

そこで、フランク・ウエス(Frank Wess)である。1922年1月4日生まれ。米国カンサスシティーの出身。2013年10月、91歳で鬼籍に入っている。もともとは、カウント・ベイシー楽団のメンバーである。ジャズでは稀少なフルート奏者であり、1959年から1964年まで、ダウンビート誌の評論家投票で一位を獲得している。いわゆる「ジャズ・フルートのバーチュオーゾ」である。

The Frank Wess Quartet『Moodsville Volume 8: But Beautiful』(写真左)。1960年5月9日、 Van Gelder Studioでの録音。ちなみにパーソネルは、Frank Wess (fl, ts), Tommy Flanagan (p), Eddie Jones (b), Bobby Donaldson (ds)。ベースのエディー・ジョーンズとドラムのボビー・ドナルドソンは「カウント・ベイシー楽団」つながり。ウエス=ジョーンズ=ドナルドソンの「カウント・ベイシー」とながりに、何故かピアノはフラナガン。
 

The-frank-wess-quartetmoodsville-volume-

 
「Moodsville」は、Prestige傘下の傍系レーベルで、スタンダード曲のバラード演奏中心で雰囲気が良いアルバムを制作していて、このThe Frank Wess Quartet盤も、小粋でムーディーな名演がてんこ盛り。

このこのThe Frank Wess Quartet盤は、スローからミディアムテンポの心地よいスタンダード集(1曲だけウエスの自作曲があるが)。リーダーのウェスは、曲によりフルートとテナー・サックスを使い分けていて、特にフルートが熱演につぐ熱演。当時、ジャズ・フルートの第一人者だったことが良く判る。フルートの音は、音が丸くて線が細い印象があるのだが、ウエスのフルートは意外と力強く音が太め。テクニックは優秀で吹き回しは流麗。

そして、この盤、バックのリズム・セクションが良い。特に、ピアノのフラナガンが絶品。端正で歯切れの良いバップなピアノで格調高く、センス良く、ウエスのフルートをサポートする。特にスローバラードの伴奏は絶品で「But Beautiful」のイントロ、アドリブ・ソロは典雅で見事。バックに回って、バッキングの上手さを最大限発揮する「名盤請負人」の面目躍如である。

ジャズ盤紹介本やジャズ雑誌のジャズ盤紹介記事に、まず、タイトルが上がることが無い盤ですが、これがまあ、なんと「小粋な隠れ名盤」。Van Gelder Studioでの録音で音も良い。実に聴き応えのあるハードバップ盤です。
 
 

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