2024年7月29日 (月曜日)

ギルの「ジミヘンへのオマージュ」

久しぶりに、サイケデリックなジャズ・ロックとして、ジョン・マクラフリンの『Devotion』(1970年)を聴いて、確か、この盤って、マクラフリンによる「ジミ・ヘンドリックス(ジミヘン)へのオマージュ」を表明した企画盤だったことを思いました。

ジミヘンと言えば、マイルス・デイヴィスと一緒にプレイする可能性があったことは有名な話で、ただ、1970年9月18日に、ジミヘンが麻薬のオーヴァードーズが原因で急逝してしまったので、ジミヘンとマイルスの共演は実現しなかった。

そんなマイルスとジミヘンの間を取り持っていたのが、「音の魔術師」と形容されたジャズ・コンポーザー&アレンジャーのギル・エヴァンスだったらしい。間を取り持つくらいにジミヘンのサウンドに強い興味を持っていたギル・エヴァンス、ジミの楽曲のジャズ・オーケストラへのアレンジの構想も具現化しつつあって、いつか発表したいと目論んでいた節がある。

ギル・エヴァンスは、1974年、カーネギー・ホールにて、ギル・エヴァンス・オーケストラを率いて、ジミヘンの曲だけのコンサートを行い、その後直ぐに、ジミヘン曲がメインのスタジオ録音に臨んでいる。

『The Gil Evans Orchestra Plays the Music of Jimi Hendrix』(写真左)。1974年6月の録音。ちなみにパーソネルは、以下の通り。

Gil Evans (ac-p, el-p, arr, cond), Hannibal Marvin Peterson (tp, vo), Lew Soloff (tp, flh), Peter Gordon (French horn), Pete Levin (French horn, syn), Tom Malone (tb, fl, syn, arr), Howard Johnson (tuba, b-cl, el-b, arr), David Sanborn (sax, fl), Billy Harper (ts, fl), Trevor Koehler (sax, fl, arr), John Abercrombie, Ryo Kawasaki (el-g), Keith Loving (g), Don Pate, Michael Moore (b), Bruce Ditmas (ds), Warren Smith (vib, marimba, chimes, perc), Sue Evans (ds, congas, perc)。

錚々たるメンバーで固めたギル・エヴァンス・オーケストラである。ハンニバル・ピーターソン、ルー・ソロフのトランペット、デイヴィッド・サンボーン、ビリー・ハーパーのサックス、ジョン・アバークロンビーと川崎遼のエレギ、これだけでも、このオーケストラが、どれだけ先鋭的でいマージネーション豊かなサウンドを出すか、が想像できる。
 

The-gil-evans-orchestra-plays-the-music-  

 
そして、ジャズ・オケとして、ユニークな管楽器のフレンチ・ホルン、チューバが入って、ヴァイブも入って、通常のジャズ・オケとは異なる、幽玄で神秘的な響きを伴った、ギル・エヴァンス・オーケストラならではの音世界が広がっている。そんな個性的でユニークなギル・エヴァンス・オケの音で、ジミヘンの自作曲を演奏していく。オーケストラのアレンジ能力の高さが窺い知れる。

印象的なジミヘン曲「Angel」から入る。これが「痺れる」。楽曲の持つ美しくR&Bな旋律を上手にアレンジして、ジャズ・オケで聴かせる。「Foxy Lady」や「Voodoo Chile」のアレンジも優秀。ジミヘン曲のジャズ化が大成功を収めている。

逆に「Castle Made Of Sand」「Up From The Skies」「Little Wing」あたりは、原曲のイメージが判らなくなるくらいデフォルメされているが、ジミヘン曲のユニークなコード進行やフレーズの捻れをうまく、ジャズ・オケにアレンジしている。

アルバム全曲を聴き通して感じるのは、アレンジ担当が、ギル・エヴァンスだけではなくて、オケ・メンバーの3人くらいがアレンジを担当している。曲によって、与える印象やニュアンスが異なるのは、それが原因だろう。ただ、アレンジの基本路線はギル・エヴァンス親分のイメージを踏襲しているので、大きくイメージが逸脱することは無い。逆に、親分以外のアレンジは、判りやすくシンプルなアレンジが多く、聴きやすいという「副産物」も感じられるところが良い。

ジミヘン曲へのオマージュという点では、ジョン・アバークロンビーと川崎遼のエレギが「エグい」音で、ジミヘンのエレギに対するオマージュを捧げている。ジミヘンがエレ・ジャズの中で、ジャズのリズム&ビートに乗ったら、こういう音を出したのかなあ、と想像しながら聴くと、とても楽しい。

当時として、かなり先進的、先鋭的なアレンジと響きを持ったギル・エヴァンス・オーケストラの音は、なかなか一般ウケは難しく、セールスには繋がり難かったみたいだが、その内容は、現代の「今の耳」で聴いても、かなり優れている。ジミヘンの曲の採用については成功していて、この盤、ギル・エヴァンス・オーケストラの名盤の一枚と高く評価して良い。僕の大好きなギル・エヴァンス・オーケストラの名盤の一枚です。
 
 

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2024年2月21日 (水曜日)

菊池雅章+ギル・エヴァンス

ジャズ・オーケストラの演奏の中で一番のお気に入りは「ギル・エヴァンス」。音の魔術師「ギル・エヴァンス」の主宰するビッグ・バンドの演奏はどれもお気に入り。ギル・エヴァンスのアレンジが大好きで、ギル・エヴァンスのアレンジのジャズオケがバックの演奏であれば「なんでも通し」である。

特に、1970年代に入って以降、電気楽器を導入、8ビートをメインにアレンジされたジャズオケの演奏が堪らない。ギルのアレンジの最大の魅力は、1950年代から、従来のジャズオケでは珍しい、木管楽器を縦横無尽に駆使した幽玄なサウンドにある。そんなギルの唯一無二の有限な響きの中で、エレピ、エレギが乱舞する。これは堪らない。

そして、もう一つ、ギル・エヴァンスのアレンジの特徴が、ソロイストのアドリブ展開に相当なスペースを与える、というもの。ギルのアレンジをバックに、一流ジャズマンのアドリブ・パフォーマンスがふんだんに展開される。圧巻である。

そんなギル・エヴァンスが、我が国に残してくれた音源がある。NYで、ギル・エヴァンスが菊地雅章と意気投合、菊地雅章が日本に招き、全国4都市でコンサートをやった後、スタジオ・レコーディングされたアルバム。

我が国にて、ギル・エヴァンスのアレンジに見合う本格的なジャズオケを組む中で、メンバーには、日本のトップ・ジャズメンのほか、NHK交響楽団から木管楽器奏者とフレンチ・ホルン奏者が加わっている。

菊地雅章 with Gil Evans Orichestra『Masabumi Kikuchi + Gil Evans』(写真)。1972年7月5日の録音。ちなみにパーソネルは以下の通り。ビッグバンド編成なので、かなりの大人数になる。

Gil Evans (arr, cond, p), 菊地雅章 (el-p),Billy Harper (ts, fl, chime), Marvin Peterson (tp, flh), 峰厚介 (as, ss),鈴木重男 (as, fl), 多戸幾久三 (tuba),山本直 (fr-h),松原千代繁 (fr-h),篠原国利 (tp, flh),鈴木武久 (tp, flh),宗清洋 (tb),中沢忠孝 (b-tb),衛藤幸雄 (piccolo, a-fl, b-fl), 中川昌三 (piccolo, a-fl, b-fl),旭孝 (piccolo, a-fl, b-fl),高柳昌行 (g),中牟礼貞行 (g),江藤勲 (el-b),鈴木良雄 (b),山口浩一 (timpani),高橋みち子 (marimba, vib),宮田英夫 (perc),中村よしゆき (ds),富樫雅彦 (ds)。
 

Masabumi-kikuchi-gil-evans  

 
ギル・エヴァンスが米国から連れてきたのが、テナー・サックスのビリー・ハーパーと、トランペットのハンニバル・マーヴィン・ピーターソンの二人。それ以外は全員日本人ミュージシャンで固められたジャズオケ。これが、ギル・エヴァンスのアレンジのもと、素晴らしいパフォーマンスを展開しているのだから堪らない。

演奏のベースは、電気楽器と8ビートを導入したクロスオーヴァー・ジャズ&ジャズ・ロック。それをギル・エヴァンスのアレンジのもと、ジャズオケでやるのだから、参加した各ミュージシャンも相当な演奏テクニックを求められる。

しかし、この日本人主体の日米合同のジャズオケは、素晴らしい演奏をやってのけている。何度聴いても実に爽快。聴き終えた後、清々しい気持ちになる、素晴らしい演奏である。

ジャズオケ全体のアンサンブルやハーモニーもずば抜けて良い。ギル・エヴァンスのアレンジ独特のグルーヴ感、音の響きも的確に表現されていて、このジャズオケの充実度が相当に高かったことが窺い知れる。

ソロイストそれぞれのパフォーマンスも聴きどころ満載。とりわけ、米国から参加の二人、テナーのビリー・ハーパーと、トランペットのハンニバル・マーヴィン・ピーターソンが大活躍。

ハーパーもピーターソンも独特なビル・エヴァンスのアレンジをバックに、自由度の高いモーダルなフレーズを流麗に吹きまくり、時折、フリーキーに、時折、アブストラクトに展開する。堂々の吹きっぷりは見事。

1970年代以降のギル・エヴァンスのジャズオケの原点となる、このアルバムに詰まっているパフォーマンスは、今の耳で聴いても新しく響く、素晴らしい演奏の数々。「音の魔術師」ギル・エヴァンスの面目躍如である。
 
 

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2023年12月16日 (土曜日)

Miles Davis At Carnegie Hall

アコースティック・マイルスの正式盤のブログ記事のフォローアップをしている。

『Miles Davis At Carnegie Hall』(写真左)。1961年5月19日、NYのカーネギー・ホールでのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Miles Davis (tp), Hank Mobley (ts), Wynton Kelly (p), Paul Chambers (b), Jimmy Cobb (ds) のマイルス・クインテットのバックに、Gil Evans (arr, cond) のジャズ・オーケストラが付く。

NYの音楽の殿堂「カーネギー・ホール」にて、デイビスが通常のクインテットを演奏し、ギル エヴァンスと21人編成のオーケストラの伴奏をバックに、マイルス・ディヴィスのクインテットがフロントで演奏するライヴ音源。

初出のLPでは、マイルスの有名オリジナル曲2曲とジャズ・スタンダード曲4曲の全6曲。CDリイシューでは、CD2枚組となって全11曲。LP収録曲に追加された曲の中での目玉は「アランフェス組曲」のライヴ収録。カーネギー・ホールでのマイルスとギルとのコラボの全貌、という点では、「アランフェス組曲」のライヴ収録を含めたCD2枚組が良いだろう。

まず、ギルのアレンジが冴渡る、マイルスの有名オリジナル曲とジャズ・スタンダード曲の演奏が良い。ウィズ・ジャズオケのアルバムは多々あれど、このギルのユニークで内容の濃いアレンジで演奏されたものは無い。

このギルのアレンジは、どこから聴いても「ギルのアレンジ」で、これがまた、マイルスのトランペットを大いに引き立て、マイルスの音世界に独特の彩りを添える。

ウィントン・ケリーのハッピーで快調なピアノが演奏全体に明るい躍動感を与えている。モブレーのテナーは少し優しいが、この盤では、ケリーのピアノに煽られるようにスインギーに吹きまくる。モブレーのテナーの優しさは、ジャズオケとの共演においては相性が良い。
 

Miles-davis-at-carnegie-hall

 
ジャズオケ含めたジャジーな演奏に推進力を与えているのがポール・チェンバースのベース、ジミー・コブのドラムのリズム隊。このリズム隊の醸し出す熱気は、ケリーの明るい躍動感溢れるピアノと相まって、演奏全体に独特のグルーヴを与えている。

もちろん、演奏の内容について、一番はマイルス・ディヴィス。特に、このライヴ音源では、ギル・エヴァンス独特のアレンジを得て、マイルスの好調なトランペットが映えに映える。

演奏メンバーにの中で、マイルスのパフォーマンスの充実度は抜きん出ている。演奏全体の雰囲気は「マイルスの考えるハードバップ」だが、マイルスのハードバップなトランペットは、1950年台から比べると、確実にステップアップしているのは見事だ。

CDリイシュー時に追加収録された、目玉の「アランフェス組曲」については、この難曲をジャズオケ込みのライヴ演奏で再現出来るとは思っていなかったので、このライヴ演奏のクインテット+ジャズオケの演奏力は素晴らしいものがある。

マイルス・クインテットだけによる演奏もあり、これがまた溌剌として良し。当時のマイルス・クインテットの充実度合いの高さが窺い知れいる。特に、ケリー・ポルチェン・コブのリズム・セクションが絶好調。このリズム・セクションの好調度合いが、演奏全体に好影響を与えている。

マイルスとギルのコラボのライヴ音源。スタジオ録音の精緻さ・精巧さも良いが、このライヴ音源における、マイルスの有名曲、ジャズ・スタンダード曲の演奏の躍動感と溌剌としたマイルスのトランペットも捨て難い。

マイルスのリーダー作の中で「地味」な部類に入る盤だが、内容はとても良い。地味盤だからと言って、聴かず嫌いは無いだろう。このライヴ盤でのマイルスのトランペットは一聴の価値あり、である。
 
 

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2022年12月24日 (土曜日)

僕なりのジャズ超名盤研究・19 〜 『Sketches of Spain』

僕は、マイルス・デイヴィスとギル・エヴァンスのコラボレーションが大のお気に入りだ。Columbiaレコード移籍後の(レコーディングは前だが)『'Round About Midnight』から『Miles Ahead』『Milestones』『Porgy and Bess』『Kind of Blue』『Sketches of Spain』まで、ギルが直接関与したものから、間接的なものまで、マイルスとギルのコラボの成果はどのアルバムを聴いても、今でも惚れ惚れする。

時期的には、1955年から1960年初頭、ジャズでいうと「ハードバップ全盛期」である。そんな「ハードバップ全盛期」に、マイルスはいち早く、ポスト・ハードバップを打ち出し、モード・ジャズへのチャレンジと確立に取り組んでいる。この辺が、魔王ルスの「先取性」であり「革新性」の優れたところなんだが、マイルスが「ジャズの帝王」と呼ばれる所以だろう。

『'Round About Midnight』で、いち早く、ハードバップの演奏フォーマットを確立させ、次作の『Miles Ahead』から、ギルとのコラボで、モード・ジャズに取組み始める。最初の明確な成果が『Milestones』、そして、そのモード・ジャズを確立し、奏法的にも「けりを付けた」のが『Sketches of Spain』だろう。

Miles Davis『Sketches of Spain』(写真左)。1959年11月、1960年3月の録音。ちなみにパーソネルは、と言いたいところだが、細かいメンバー紹介は割愛する。
 

Sketches_of_spain_1
 

なんせ、この盤の演奏は、Miles Davis (tp) が主役、Gil Evans (arr, cond) とのコラボで、バックに錚々たるメンバーのジャズ・オーケストラ。それもフレンチ・ホルン,バスクラ、オーボエ、チューバ、バズーン、加えて、ハープが入る、ギル・エヴァンスならではの楽器構成。

スペインの作曲家ロドリーゴの人気曲をギル独特のアレンジで再編した、アルバム冒頭を飾る「Concierto De Aranjuez(アランフェス協奏曲)」の人気でこの盤は評価されるが、それは違う。この盤は、マイルス=ギルのコラボがモード・ジャズに「けりを付けた」、モード・ジャズを確立させた、ジャズの歴史的にも意義のある名盤である。

このアルバムに収録された曲は、殆どがいわゆるスパニッシュ・モードによる演奏。マイルスのスパニッシュ・モードの的確な解釈とギルの個性的なアレンジと共に、スパニッシュ・モードをベースとした演奏によって、モード・ジャズを「ものにしている」。この盤での、淀みの無いマイルスのモーダルな演奏は素晴らしいの一言。

それまでのジャズは「猥雑、庶民的、アクロバット的」で「クラシックの様な芸術性には無縁」という定評を覆し、ジャズというフォーマット、ジャズという音楽ジャンルが、モード・ジャズの確立によって、アーティスティックな側面を全面に押し出し、芸術性の高い音楽的成果を残すことが出来る、それを証明できる最高の一枚である。
 
 

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2022年7月 4日 (月曜日)

ギルの考えるビッグバンド・ジャズ

「音の魔術師」の異名を取った。伝説のアレンジャー、ギル・エヴァンス(ギル・エヴァンス)。アレンジのベースは「ビッグバンド」。しかし、そのビッグバンドの楽器の編成、音の重ね方、ユニゾン&ハーモニー、どれもがユニーク。他のビッグバンドには無い音が個性。そして、ソロイストの演奏スペースの広さ。アドリブ展開の自由度の高さが二つ目の個性。

『The Individualism of Gil Evans』(写真左)。1963年9月、1964年4月6日、5月25日、7月9日、10月29日の録音。パーソネルは、録音日によって大きく異なり、この盤は、ギル・エヴァンスのアレンジの妙を堪能するアルバムなので、ここでは割愛する。ちなみに邦題は『ギル・エヴァンスの個性と発展』。直訳は『ギル・エヴァンスの個人主義』。

Individualism = 個人主義、については、個人の自立を重く見た、個人の権利や自由を尊重するスタンスの意。よく日本語訳にある「自分勝手な」という含意はない。後方の日本語訳に「個性」があるので、それを取って「個性と発展」の和訳を充てたのだろう。

しかし、この盤での、それまでの「ビッグバンド」に無い、ギル・エヴァンス独特の楽器編成、音の重ね方、ユニゾン&ハーモニー、演奏スペースの割り振り等を考えると、その唯一無二の個性ゆえに、「Individualism = 個人主義」の意の方が、すんなり入ってくる。従来のアレンジとはあまりにかけ離れた、あまりに個性的なアレンジではあるが、このギル・エヴァンスのアレンジも確実に「ジャズ・ビッグバンドのアレンジ」なのだ。
 

The-individualism-of-gil-evans_1

 
この盤で気をつけなければならないのは、CDの収録曲は9曲あるが、LP時代のオリジナル盤の収録曲は「The Barbara Song(1964/7/9)」「Las Vegas Tango(1964/4/6)」「Flute Song / Hotel Me(1963/9 + 1964/4/6)」「El Toreador(1963/9)」の4曲だけだということ。1963年9月、1964年4月6日、7月9日の録音から厳選されていて、5月25日と10月29日の録音からは採用されていない。

聴けば判るのだが、ギル・エヴァンスのアレンジの「Individualism = 個人主義」については、この4曲を聴けば良く理解出来る。それほど、この4曲は出来が良い。アレンジの優秀性と参加ミュージシャンのパフォーマンス、両者のバランスが取れた、絶妙な演奏の記録がこの4曲に詰まっている。楽器の編成、音の重ね方、ユニゾン&ハーモニー、いずれも、ギル・エヴァンスにしか為し得ない音世界である。

この盤は、ギル・エヴァンスのビッグバンドの楽器の編成、音の重ね方、ユニゾン&ハーモニーなど、彼のオーケストレーションの成熟を記録した名盤である。「ギル・エヴァンスの考えるビッグバンド・ジャズ」がこの盤に詰まっている。

アコースティック楽器を使用した「ギル・エヴァンスの考えるビッグバンド」としては、これ以上のアレンジは無いのだろう。この盤は、ギル・エヴァンスを理解する上で、絶対の「必聴盤」である。まずは、CDの2〜5曲目から、しっかりと聴いていただきたい。
 
 
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2022年7月 3日 (日曜日)

「音の魔術師」の初リーダー作

ビッグバンドについては、実はこの人のビッグバンドが一番のお気に入り。ギル・エヴァンス(Gil Evans)である。「音の魔術師」の異名を取った。伝説のアレンジャーである。生前は「清貧のアーティスト」だったそうで、その才能と実績に見合う収入は確保されていなかった、と聞く。しかし、彼のアレンジ&オーケストレーションは限りなくアーティスティック。

ギル・エヴァンスのアレンジについては、まず、各楽器のハーモニーの組み立て方、楽器の編成に独特なものがある。チューバやバス・クラリネット、フレンチ・ホルンなど、他のビッグバンドでは採用しない楽器(特に木管楽器)を取り入れて、ギル・エヴァンス独特のユニゾン&ハーモニーの響きを実現している。この「響き」が独特。

そして、ソロ楽器のアドリブ・スーペスをしっかり確保していること。このアドリブ・スペースの存在が、多人数のビッグバンドでありながら、演奏の自由度が高い、モーダルなアドリブ展開を可能にしている。つまり「即興演奏」を旨とする、ジャズとしてのビッグバンドが、ギル・エヴァンスのアレンジで実現しているのだ。

『Gil Evans & Ten』(写真左)。1957年9月9 & 27日、10月10日の録音。ギル・エヴァンスの初リーダー作。ちなみにパーソネルは、Gil Evans (p), Steve Lacy (ss), Jack Koven (tp), Jimmy Cleveland (tb), Bart Varsalona (b-tb), Willie Ruff (French horn), Lee Konitz (as), John Carisi (tp (1)), Louis Mucci (tp (2–7)), Dave Kurtzer (bassoon), Jo Jones (ds (1)), Nick Stabulas (ds (2–7)), Paul Chambers (b)。
 

Gil-evans-ten

 
パーソネルを見れば、楽器編成のユニークさが良く判る。まず、他のビッグバンドでは採用されない、ベース・トロンボーン、フレンチ・ホルン、バズーンの存在が目を引く。そして、このユニークな楽器編成が、ギル・エヴァンスのアレンジ独特の音の響きを現出している。そして、その音の響きが重なって、ギル・エヴァンス楽団独特のユニゾン&ハーモニーが実現している。このギル・エヴァンス楽団の音の響きのユニークさは1曲聴けば直ぐに判る個性的なものなのだ。

ちなみにギル・エヴァンスは、この盤以前に、Claude Thornhill Orchestraの『クールの誕生』のアレンジ、そして、マイルス・デイヴィスとのコラボ作品である『Miles Ahead』のアレンジで、既に独自のアレンジ&オーケストレーションを確立しており、この盤はギル・エヴァンスの初リーダー作ではあるが、その完成度は高い。ギル・エヴァンスのアレンジ&オーケストレーションの原点を堪能出来る。

実はこの盤、タイトルやジャケが二転三転してややこしい。まず、オリジナルは1957年にPrestigeレーベルから『Gil Evans & Ten』としてリリースされた。しかし、1959年、何故かジャケットとタイトルを変えて、Prestigeの傍系レーベル New Jazzから『Big Stuff』として再プレス。1973年には、ジャケットを『Gil Evans & Ten』に戻し、タイトルは『Big Stuff』のまま、Prestigeレーベルから再リリースされている。ここでは、オリジナルの『Gil Evans & Ten』のジャケットとタイトルを引用している。

ギル・エヴァンスの「音の魔術師」たる所以を知るには、この初リーダー作は避けて通れない。ジャズのアレンジの極意を感じるには「マスト」の名盤である。
 
 

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2021年10月28日 (木曜日)

ジャズ喫茶で流したい・221

1980年代、我が国ではバブル景気の追い風を受けて、お洒落で聴き心地の良いジャズがもてはやされた。そんな流行に乗って、我が国発のジャズ・レーベル、例えば「Electric Birdレーベル」などが、お洒落で聴き心地の良いコンテンポラリーな純ジャズ、フュージョン・ジャズをリリースしていた。

が、意外と内容的には平凡なものが多く、しばらくの間(20年ほどかな)、リイシューされること無く、ほぼ全ての盤が廃盤状態になっていた。探すにも流通在庫を探すほか無かったが、2014年、やっとまとめてCDリイシューがなされた。

Lew Soloff『Yesterdays』(写真左)。1986年9月15 &16日、NYのClinton Studiosでの録音。キングレコードの「Electric Bird」からのリリース。ちなみにパーソネルは、Lew Soloff (tp), Mike Stern (g), Charnett Moffett (b), Elvin Jones (ds) のピアノレスでトランペットがワンホーンのカルテット構成。デヴィッド・マシューズがプロデュース、そして、スーパーヴァイザーとして、ギル・エヴァンスが名を連ねている。

「Electric Bird」のリイシューの一枚。「Electric Bird」なので、フュージョン・ジャズかな、とも思うんだが、パーソネルを見ると、これは、コンテンポラリーな純ジャズ、基本はネオ・ハードバップである。ピアノレスなので、ワンホーンのルー・ソロフのトランペットが心ゆくまで楽しめる。ルー・ソロフはメインストリームなトランペッターなのだが、リーダー作が僅少。この盤は貴重なソロフのリーダー作になる。
 

Yesterdays-lew-soloff

 
ハイノート・ヒッターであり、バイタルなトランペッターであるルー・ソロフ。あまりにダイナミックで切れ味の良い吹きっぷりなので、時に耳に五月蠅く響く時があるが、テクニックは優秀、歌心もあるトランペットで聴き応えは十分。冒頭のタイトル曲であり、有名スタンダード曲「Yesterdays」での吹きっぷりは見事。この盤では抑制もしっかり効いていて、耳に付く瞬間は全く無い。安心して聴き耳を立てることが出来るのが嬉しい。

アレンジがとても雰囲気があって、どこかギル・エヴァンスを想起させるのだが、パーソネルを確認したら、スーパーヴァイザー兼ミュージカル・アドバイザーとして「ギル・エヴァンス」の名があった。恐らく、アレンジにも関与していると思われる音作り。これがまた良い。アルバムに収録されたどの曲にも、しっかりアレンジされた、独特の「ギル節」が底に流れていて、しっかりと演奏がまとまっている。

モフェットのベース、エルヴィンのドラムのリズム隊もガッチリしていて、演奏全体のリズム&ビートが安定していて安心して聴ける。そして、1番ビックリしたのが、マイク・スターンのエレギ。コンテンポラリーな純ジャズ風の弾き回しには、ほとほと感心した。

凡盤が多く、ちょっと辟易するくらいの1980年代の国内レーベルのジャズ盤であるが、この盤は違う。バンドサウンドの充実度合いも高く、ルー・ソロフの代表作の一枚と評価しても良いと思う。隠れ名盤の一枚。
 
 
 
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2017年1月16日 (月曜日)

ビッグバンド・ジャズは楽し・41

久し振りに、ジャズ・オーケストラが聴きたくなった。ジャズ・オケが聴きたくなったら、まずは「ギル・エバンス(Gil Evans)」。マイルスが認め、一目置き続けた「音の魔術師」。木管楽器をも駆使した独特のユニゾン&ハーモニーを醸し出し、「間」と「拡がり」を活かした独特の音世界が個性。僕には堪らない個性である。

木管楽器をも駆使した独特のユニゾン&ハーモニーを醸し出し、「間」と「拡がり」を活かした独特の音世界、これを体感するのにピッタリなアルバムがこれ。Gil Evans『Svengali』(写真左)。1973年の録音。NYのトリニティ協会での録音。なるほど、魅力的で好適なエコーがかかっているのは、協会での録音だからなのか、などと感心する。

タイトルは「Svengali」=スベンガリと読むらしい。「人の心を操る人物」の意味らしく、とある小説の中では「ヒロインを催眠術でたぶらかす音楽家の名前」とある。ギル・エバンスは「音の魔術師」と呼ばれるので、この「スベンガリ」というタイトルは意外と言い得て妙では無いか、と感じている。加えて、ギルの名のアナグラムでもあるらしい。面白いタイトルだ。
 

Svengali1

 
さて、このアルバムは、1973年の録音なので、エレピ、シンセ、エレギも積極的に導入している。加えて、木管楽器などを特別に取り入れた、ギル独特のユニゾン&ハーモニー。「ギル・エバンス」のジャズ・オケ独特の響きと流れを惜しげも無く展開している。冒頭のビリー・ハーパー作「Thoroughbred」を聴けば、それが良く判る。何処から聴いても「ギル・エバンス」印のジャズ・オケの音。独特である。

バンド・メンバーのソロも魅力的で、ハンニバル・マーヴィン・ピーターソンの熱く燃えるようなトランペット、若き日のデイヴィッド・サンボーンのストレートで切れ味良く尖ったアルト・サックス、激しく熱く硬派なビリー・ハーパーのテナー・サックスなどなど。オケの総帥、ギル・エバンスはソロイストに限りなく自由を与えている。それに呼応して、いずれのソロもどれもが素晴らしい。

ジャズ・オーケストラの伝統的な部分をしっかり踏まえながら、その時その時のジャズのトレンドを大胆に導入、木管楽器などを特別に取り入れ、ギル独特のユニゾン&ハーモニーをベースに展開するジャズ・オケな演奏は実に見事。ジャケット・デザインはイマイチですが、ギル・エバンスの入門盤として、ジャズ者初心者の方々にもお勧めの好盤です。
 
 
 
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2014年5月22日 (木曜日)

ビッグバンド・ジャズは楽し・30

ジャズ・オーケストラには、ジャズ・オーケストラを惹き立たせる専用の楽曲が用意されていることが多いのであるが、ジャズ・オーケストラの鬼才ギル・エバンス(Gil Evans)は、ジャズ・スタンダード曲をジャズ・オーケストラでの演奏にアレンジするのが実に上手い。

スタンダード曲の持つ美しい旋律を浮き立たせる様に、ジャズ・オーケストラのユニゾン&ハーモニーがバックに漂う。そして、スタンダードを素材にアドリブを展開する楽器を主役に惹き立てる。

そんなジャズ・スタンダード曲をジャズ・オーケストラでの演奏にアレンジした優れものアルバムが2枚ある。ギル・エバンスのスタンダード集、一枚目は1959年録音の『Great Jazz Standards』(写真左)、そして、もう一枚が1958年録音の『New Bottle Old Wine』(写真右)。

どちらのアルバムも、ギル・エバンス独特の幻想的なユニゾン&ハーモニーの響きが、見事にスタンダード曲の旋律を惹き立てている。ギル・エバンスのアレンジは、構築美というよりは、ソロイストの演奏を全面に押し出す、シンプルなアレンジが特徴。

ソロイストの演奏を全面に押し出すギルのアレンジは、やはり実力十分の一流ジャズメンがメンバーに配された時、更に映える。そういう点では、一枚目の『Great Jazz Standards』はメンバー的にも申し分無い。ちょっと眺めただけでも、Johnny Coles(tp), Curtis Fuller(tb), Elvin Jones(ds), Cannonball Adderley(as), Paul Chambers(b) 等々、錚々たるメンバーではないか。   
 

Great_jazz_new_bottle

 
『New Bottle Old Wine』も演奏するメンバーについては申し分無い。というか、聴いていて、アルト・サックスは誰かが直ぐ判る。そう、キャノンボール・アダレイが実に気持ちよさそうに吹きまくっているのだ。ドラムにはArt Blakeyが控えている。

このアルバム、選曲が魅力的で、サッチモからモンク、パーカーに至る、古めの渋いポピュラーな曲を取り上げている。これが聴き応え満点。ジャズ・オーケストラをバックにした大スタンダード大会である。

楽器の低音を上手く活かした、独特のアンサンブルの響きが凄く心地良く響く。面白いのは、金管楽器が中心のユニゾン&ハーモニー。シャープさが際立ち、独特の響きを獲得している。

このギル・エバンスのスタンダード集は、聴いていて飽きが来ない。スタンダードの旋律を全面に押し出し、ソロイストのパフォーマンスを主役に仕立てる。オーケストラはあくまで脇役。それでも、このギル・エバンスのジャズ・オーケストラのバックが無いと、この独特の響きを愛でることが出来ない。

ギル・エバンスのジャズ・オーケストラのアレンジの個性がとても良く判る2枚のアルバムです。どちらも甲乙付け難い。僕は、キャノンボール・アダレイの大活躍とジャケット・デザインのセンスで、『New Bottle Old Wine』の方が好みです。でも、『Great Jazz Standards』良いですよ。ジャケット・デザインがちょっと稚拙なのが玉に瑕です。
 
 
 
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2014年4月24日 (木曜日)

ビッグバンド・ジャズは楽し・28

2014年4月19日のブログ(左をクリック)で、Gil Evansの『Out of the Cool』をご紹介した。今日は、その『Out of the Cool』と対を成すアルバム『Into The Hot』(写真左)をピックアップ。

『Into The Hot』は不思議なアルバム。構成としては、John Carisi(ジョン・キャリシ)のオーケストラとCecil Taylor(セシル・テイラー)のクインテット/セプテットの2つのユニットが、それぞれ3曲ずつ演奏し、それが交互に配置されている。収録曲でいうと以下の通りになる。

1. Moon Taj (John Carisi)
2. Pots (Cecil Taylor)
3. Angkor Wat (Carisi)
4. Bulbs (Taylor)
5. Barry's Tune (Carisi)
6. Mixed (Taylor)

1961年の録音なんだが、どうして、この様な構成になったのかが判らない。しかも、アルバムのオーナーであるギル・エバンスの役割と立ち位置が良く判らない。ネットでの情報を見ていても諸説紛々。「Supervised and Conducted by GIL EVANS」と書かれているものもある。つまり「監督&指揮」である。しかし、アルバムのクレジットにはアレンジ、プロデューサーとしてのギル・エバンスの名前は無い。

でも、1曲目から6曲目聴き通すと、しっかりとギル・エバンスのアレンジの響きがずっと漂っているのだから不思議。ジョン・キャリシのオーケストラのアレンジはジョン・キャリシの手になるものとクレジットされている。それでも、ユニゾンの音の重ね方や低音が豊かに響く楽器(トロンボーンなど)の採用など、ギル・エバンスの個性そのものの響きがする。
 

Into_the_hot

 
しかも、さらに面白いのが、セシル・テイラーのユニット。セシル・テイラーと言えば、フリー・ジャズのピアニスト。その自由でアブストラクトでありながら、演奏全体の構築美が素晴らしい、唯一無二なピアニスト。1961年の録音なので、演奏もかなりフリーキーで自由な演奏なんだが、まだ完全フリー・ジャズしている訳では無い。

かなり自由度の高いハードバップという感じの演奏なんだが、これまた不思議なことに、セシル・テイラーのユニットに演奏にも拘わらず、しっかりとギル・エバンスのアレンジの響きがずっと漂っているのだから不思議。アドリブを取る楽器を全面に押し出し、そのアドリブ・ラインを際立たせる。そんなギル・エバンスのアレンジの個性が感じられるから面白い。

ジョン・キャリシのオーケストラとセシル・テイラーのクインテット/セプテットの2つのユニットが、それぞれ3曲ずつ演奏し、それが交互に配置されているという、なんだか滅茶苦茶な構成なんだけど、これが全く違和感無く、一貫性のある演奏の流れになっている。これもまた不思議。

ジョン・キャリシのアレンジがギル・エバンスの影響を受けていることは明白であるけど、セシル・テイラーはどうなんだろう。このギル・エバンスとセシル・テイラーの関係を知りたいなあ。どういう関係で、このレコーディングに臨んだんだろう。
 
 
 
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