『Miles Davis Vol.2』の聴き直し
マイルスの全く仕事が入らなくなった麻薬禍真っ只中の1952年、実は、ブルーノートの総帥プロデューサーのアルフレッド・ライオンは、麻薬禍のマイルスに、本格的なリーダー作を録音する機会を提供し、彼の生活を助け、彼を支援した。
そして、ライオンがマイルスに提供した録音機会は、全部で1952年3月9日、1953年4月20日、1954年3月6日、の3セッション。1952年は麻薬禍真っ只中、1953年は麻薬禍を克服して間もない頃、1954年はほぼ完全に復調した頃。
この3セッションの音源、10-inch LPバージョン、12-inch LPバージョン、2001年リイシューCDバージョンと3通りの音源収録のパターンがあって注意が必要。ざっと、以下の様な3通りの内容になっている。
10-inch LPが一番判りやすくて、1952年の録音は『Young Man With A Horn』で、1953年の録音は『Miles Davis Vol. 2』、1954年の録音は『Miles Davis Vol. 3』と3枚のアルバムに、ちゃんと分けて収録されている。
が、12-inch LPについては、『Miles Davis Volume 1』には、1952年と1953年の録音が、但し、LPの収録時間の関係上、A面とB面1曲が、1952年録音の曲と1953年録音の曲がテレコで入っている。『Miles Davis Volume 2』には、1954年の録音がメインではあるが、1952年、1953年、1954年の録音が混在。
2001年にリイシューされたCDはスッキリしている。『Miles Davis Volume 1』は、1952年と1954年の録音が、『Miles Davis Volume 2』には1953年の録音が収められていて、『Miles Davis Volume 1』は、9曲目の「Woody 'n' You」と、10曲目「Take Off」では、明らかに演奏の雰囲気が変わるので、1952年と1954年の録音の境目はよく判る。
そこで、今回は『Miles Davis Volume 2』(写真左)の2001年リイシューCDバージョンで、1953年4月20日のセッションを聴く。ちなみにパーソネルは、Miles Davis (tp), J. J. Johnson (tb), Jimmy Heath (ts), Gil Coggins (p), Percy Heath (b), Art Blakey (ds)。マイルスのトランペット、ジェイジェイのトロンボーン、ジミー・ヒースのテナーの3管フロントのセクテット編成。
1953年4月20日のセッションは、マイルスは麻薬禍を克服して間もない頃。明らかに麻薬禍を克服しているのがよく判る、ハードバップのプロトタイプの様な、当時として「新しい」響きと内容が素晴らしい。ブルーノートでの録音ということもあるだろう。
ブルーノートはリハーサルにもギャラを払って、ジャズマンにしっかりリハを積ませて演奏のレベルを引き上げ、本番でレベルの高い、内容のある演奏をさせて録音する、ということを常にやっていた。この盤でもそうだったんだろう。
特に、マイルス=ジェイジェイ=ヒースの3管フロントのユニゾン&ハーモニーが「キマッて」いる。バンド全体のアンサンブルも整然としていて緩みが無い。それぞれのアドリブ展開は創造性に富む。この盤の演奏が「マイルスによるハードバップの萌芽」と評価される所以である。
この1953年4月20日録音は、溌剌とした度合いが高く、フレーズも明るめで健康的。総じて、流麗で張りのある力強い演奏で統一されている。演奏の展開は全く「ビ・バップ」では無い。演奏をしっかり聴かせる、クールでモダンなアレンジが施され、一人一人のアドリブ展開の長さも、そのジャズマンの力量と歌心を推しはかるに十分。いわゆる「ハードバップ」な展開である。
メンバーそれぞれが、この演奏のアレンジとスタイルが「新しいもの」と感じているみたいで、実に神妙にテクニックよろしく、しっかりと楽器を演奏している様が伝わってくる。とりわけ、マイルスのトランペットは素晴らしい。クールでリリカルで訴求力ある展開は、当時のジャズ・シーンの中で、最高レベルのトランペットである。
マイルスはライオンの恩義に報いるかの様に、麻薬禍と戦いながら、素晴らしい録音をブルーノートに残した。時代はビ・バップの流行が下火になり、ハードバップの萌芽を感じられる録音がちらほら出だした頃。マイルスは、ブルーノートの録音に、いち早く、ポスト「ビ・バップ」な、後のハードバップの先駆けとなる音を残した。そして、麻薬禍を克服する。
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