ジャズ喫茶で流したい・324
1960年代終盤、大手レコード会社の傘下に入ったブルーノートは、いわゆる、売らんが為の「明らかに聴き手に迎合した、売れ筋を意識した、ライトで聴き易いジャズ」の制作に舵を切る。イージーリスニング志向の「ファンキー&ソウル・ジャズ」、そして「軽快で優しいジャズ・ファンク」なアルバムを制作する。そんな中で、時折、メインストリーム志向のポスト・バップなアルバムも作ったりしていたけど。
Bobby Hutcherson Featuring Harold Land『San Francisco』(写真左)。1970年7月15日、ロサンゼルスの「United Artists Studios」での録音。ブルーノートの4362番。ちなみにパーソネルは、Bobby Hutcherson (vib, marimba, perc), Harold Land (ts fl, oboe), Joe Sample (p, el-p), John Williams (b, el-b), Mickey Roker (ds)。
1970年代に入って、ブルーノートのアルバム制作の方向性が変わっていく。大衆向けの「売れ筋を意識したライトで聴き易いジャズ」は控えめに、当時の音楽のトレンドであった、サイケデリック、スペーシー、アーシーな、ジャズ・ロック&ジャズ・ファンクなアルバムの制作に方向転換する。このアルバムはその最初の一枚といっていいかもしれない。
サイケデリック、スペーシー、アーシーな音要素を取り入れたことにより、単なるジャズ・ファンクに留まらない、スピリチュアルな深みを獲得している。その深みの中で展開される、限りなく自由度の高いモーダルなインプロビゼーションが、純ジャズっぽく、メインストリーム志向に映えに映える。
冒頭「Goin' Down South」では、アーシーでファンキーな演奏が展開される。まるで、1970年代前半のキース・ジャレットの様な、ゲイリー・バートンの様な、アーシーでファンキーな音世界。この演奏に「売らんが為」のバイアスは感じ無い。ハッチャーソンのヴァイブ、ハロルド・ランドのテナーのアドリブ展開はモードそのもの。アーシーなリズム&ビートを敬遠してはならない。1970年代を台憑依する、純ジャズの音世界の一つである。
2曲目の「Prints Tie」では、がらっと変わって、サイケデリックで、妖艶で耽美的、そして、スペーシーな「ニュー・ジャズ」な演奏が展開される。まるで、1970年代のECMレーベルの様な音世界。現代音楽的要素も見え隠れし、リズム&ビートの取り方は、あきらかにニュー・ジャズ志向。とても米国ジャズの音世界とは思えない、絶妙な名演である。
この冒頭からの2曲が、このアルバムの全体の雰囲気を決定付けている。1970年代の新しいジャズの音世界がこの盤に展開されている。ジャズ・レーベルの老舗、ブルーノート・レーベルの面目躍如。クルセイダーズ(当時はジャズ・クルセイダーズ)のメンバーとして知られるジョー・サンプルのエレピと、フェンダー・エレベースの使い手、ジョン・ウィリアムスのエレベのグルーヴが明らかに「新しい」。
この「新しい」リズム&ビートのグルーヴに乗って、ハッチャーソンのヴァイブと、ランドのサックスが飛翔し疾走する。モーダルに、限りなく自由に、時にフリーに展開するインタープレイは見事という他は無い。1970年代ジャズの「隠れ名盤」である。
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