ブランフォードの東京録音盤
最近、ブランフォード・マルサリス(Branford Marsalis)の活動の噂を聞かない。リーダー作も「The Secret Between the Shadow and the Soul」(2019年)以降、出ていない。確か、1960年8月生まれなので、今年で62歳。コロナ禍もあるし、体調を崩したりしていなければ良いが、何だか心配な今日この頃である。
Branford Marsalis『Random Abstract』(写真左)。1987年8月12ー13日、東京の「Sound City Studios」での録音。ちなみにパーソネルは、Branford Marsalis (sax), Kenny Kirkland (p), Lewis Nash (ds), Delbert Felix (b)。弟のデルフィーヨ・マルサリスがプロデュース。ブランフォード・マルサリスのワンホーン・カルテットになる。
真摯で硬派なネオ・ハードバップな音が満ちている。基本はモード・ジャズ。確かに、マルサリス兄弟は、当時、新伝承派のリーダー格とされたので、ジャズは「1960年代のハードバップ、いわゆるアコースティックなモード・ジャズが一番良い」として、モード・ジャズをやるのは判るが、ブランフォードは、モード・ジャズの焼き直しで留まっていないことが、この盤を聴けば良く判る。
全てが成功しているかどうかは別として、この盤のモーダルな演奏は、1960年代の流行を踏襲していない。一工夫も二工夫もして、1987年時点で「新しい」モード・ジャズを表現している。ブランフォードのモード・ジャズは、いつ聴いても、1960年代の,モード・ジャズを想起することは無い。聴いて「おっ、これは面白いアプローチやな」とか「これは新しいアレンジやな」とか、1960〜70年代のモード・ジャズには無かった「響き」がそこかしこに満ちあふれている。
加えて、ブランフォードのサックスは「上手い」。テクニックは上々、歌心もあり、ピッチもリズム感もバッチリ合っている。歴代のテナー・タイタンである、ロリンズ、コルトレーン、ショーター等と比較しても、勝るとも劣らないサックス。アレンジや曲想とバッチリ合った時のブランフォードのサックスは、それはそれは見事にフレーズを吹き上げる。
バックのリズム・セクションも、ブランフォードの考えるモード・ジャズを十分に理解し、素晴らしいサポートを繰り広げる。特に。ケニー・カークランドのピアノが素晴らしい。ブランフォードの吹き上げる個性的でモーダルなフレーズを受けて、そのモーダルな展開のイメージを踏襲しつつ、その別のバリエーションのモーダルなフレーズを叩き出す。ブランフォードの「影」の様な存在が、カークランドのピアノである。
曲によってはチャレンジが成功していたり、スベったりしているが、この辺がブランフォードらしいと言えば、ブランフォードらしい。しかしながら、この盤のセッションが、来日公演の「ついで」の東京録音で、ほぼ一発録りに近いイメージなので、この盤の「負」のイメージについては敢えて追求しない。
この盤、ジックリ腰を据えて、演奏をしっかりと「推敲」しながら、良いイメージの演奏だけで固めていたら、後世に残る名盤になっていたかもしれない。そんな「伸びしろ」をしっかり感じさせてくれる好盤である。
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