1960年代終わりのデックス名盤 『More Power!』
デクスター・ゴードン(以降、デックス)は、1962年に渡欧、主にパリとコペンハーゲンで活動している(1976年には米国に戻るが)。米国でのレーベル契約を "ブルーノート" から "プレスティッジ" に切り替えていた為、この盤は、プレスティッジ・レーベルでの録音になっている。プレスティッジでの録音と聞くと、お得意の「ジャムセッション一発録り」と「複数セッションからの直感的な選曲」を想起して、内容について不安になるが、この盤は大丈夫だ。
Dexter Gordon『More Power!』(写真左)。1969年4月、NYでの録音。Prestigeレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Dexter Gordon (ts), James Moody (ts, "ensemble tracks 1 & 5"), Barry Harris (p), Buster Williams (b), Albert Heath (ds)。デックスのテナー、ワン・ホーン・カルテットに、ジェームス・ムーディーが、アンサンブル中心に客演している。
録音当時、渡欧し活躍していたデックスが、一時、米国に帰国した際に録音したセッションからの1枚。同一セッションからもう一枚『The Tower Of Power!』がリリースされていて、こちらは、ムーディーとのダブル・テナーは1曲のみだったが、この『More Power!』では2曲収録されている。これが「古き良き時代のハードバップ」な雰囲気で、なかなか良い感じなのだ。
デックスのテナーは「大らかで骨太で誠実でどこか哀愁感漂う」テナー。この生涯、変わらないスタイル・奏法がこの盤に溢れている。1969年という純ジャズの人気下落の時代に、この絵に描いた様な、骨太でダンディズム溢れるハードバップな演奏は素晴らしいの一言。特に、デックス同様、男性的でよく歌うテナーが持ち味のムーディーのテナーが絡むと魅力倍増。デックス単独でも、哀愁感溢れる美しいフレーズをデックスが情感豊かに吹き上げて、殊のほか素晴らしい。
『The Tower Of Power!』の記事でも書いたことだが、バックのリズム・セクションは、ピアノはバリー・ハリス、ベースはバスター・ウィリアムス、ドラムスはアルバート・ヒース。バックのリズム・セクションも純ジャズの人気が落ちてきた当時としてはかなり充実していて、デックスの好調さと併せて、実に気持ちの良いハードバップな演奏が繰り広げている。
同一セッションからのもう一枚『The Tower Of Power!』と併せて、この『More Power!』は、1960年代終わりの「純ハードバップ」な名盤だと思う。商業主義にも染まっていない、聴き手にも迎合していない、純粋にジャズマンとして、最高のハードバップな演奏をやり遂げる、ただそれだけの為に、自らの個性を踏まえて、極上のパフォーマンスを繰り広げる。往年の良質なハードバップが、デックスのテナーがこの盤に詰まっている。
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