2024年11月30日 (土曜日)

プレヴィンの爽快ライヴ盤

ジャズとクラシックの「2足の草鞋を履く男」、アンドレ・プレヴィンのピアノを聴き直している。クラシック・ピアノをベースにした、流麗で端正でダイナミックでドライブ感溢れるスインギーなピアノは、プレヴィンの身上。クラシック出身のピアノでありながら、出てくる音は実に「ジャジー」。聴いていて、スッキリ爽快な気分になれる極上の「米国ウエストコースト・ジャズ」なジャズ・ピアノ。

Andre Previn『Live at the Jazz Standard』(写真左)。2000年10月のライヴ録音。Deccaレコードからのリリース。ちなみにパーソネルは、André Previn (p), David Finck (b)。ドラムレス、ピアノとベースのデュオ。プレヴィン71歳での録音になる。レジェンドの域に達した「2足の草鞋を履く男」の絶妙で爽快なジャズ・ピアノを聴くことが出来る。

NYでのライヴ録音。タイトル通り、従来のジャズ・スタンダート曲と、ミージシャンズ・チューンなスタンダード曲で固められた、小粋なライヴ録音。プレヴィンのジャズ・ピアノは、トリオ演奏が多いのだが、このライヴ盤では、デヴィッド・フィンクのベースとのデュオ演奏になっている。ドラムがいない分、プレヴィンのピアノがパーカッシヴなリズム楽器を代替していて、プレヴィンのジャズ・ピアノとしての能力の高さがよく判る。
 

Andre-previnlive-at-the-jazz-standard

 
プレヴィン独特の「クラシックとジャズの両性具有」の様なピアノを存分に楽しめる。プレヴィンのピアノは、ジャズをやる場合、あくまで「ジャズ・ピアノ」なフレーズを叩き出すのだが、速い弾き回しで流麗に展開する時、クラシックのタッチ&弾き回しが、ひょっこり顔をだす瞬間がある。これが、意外と「たまらない」のだ。他のジャズ・ピアニストにはない、プレヴィン独特の個性である。

スタンダード曲集とはいえ、全12曲中、超有名なスタンダード曲は「My Funny Valentine」「Chelsea Bridge」「I Got Rhythm」くらいしかない。残りは、どちらかと言えば「玄人好み」のスタンダード曲が選ばれている。が、超有名なスタンダード曲について穂、玄人好みのスタンダード曲についても、アレンジが秀逸で、とにかく全曲、聴いていて、とても楽しい。

とても趣味の良いジャズ・ピアノが主役のライヴ音源。ファンクネスは希薄、オフビートはしっかりジャジーなプレヴィンのピアノが良い方向に作用して、スッキリとした爽快感溢れる弾き回しで、演奏そのもの、楽曲そのものを、リラックスして楽しめる、極上のジャズ・ピアノのライヴ盤に仕上がっている。良い意味で耳あたりが良いので、ながら聴きにも最適。好ライヴ盤です。
 
 

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2024年11月18日 (月曜日)

ジャズ・ベース2本のデュオ名盤

技巧派ジャズ・ベーシストがよくやる裏技に「ボウイング」がある。「ボウイング」とは、弦楽器で弓を弦に当てて上げ下げして音を出す演奏技法。旋律楽器として、旋律を取りにくいベースという楽器で、滑らかな旋律を取る方法の一つ「ボウイング」。

しかし、この「ボウイング」が曲者で、かなり高度なテクニックと音感を要する。つまり、技巧派ジャズ・ベーシストのボウイングについては、押し並べて「良くない」。クラシックのチェロやコントラバスのボウイングの旋律は、ピッチが合っていて、ボウイングのテンポが合っている。これが「ボウイング」なのだが、ジャズ・ベーシストのボウイングは、ピッチが合っていなくて、ボウイングのテンポが外れている。

それなのに、技巧派ジャズ・ベーシストは「ボウイング」をやりたがる。思いついただけでも、ポール・チェンバース、ロン・カーター、この二人のボウイングは酷い。レイ・ブラウンについては可もなく不可もなく。ニールス=ヘニング・エルステッド・ペデルセン、ジョージ・ムラーツなど、欧州系のジャズ・ベーシストは、クラシックの影響もあるのだろう、ボウイングはまずまず良好。

とはいえ、総じて、ジャズ・ベーシストのボウイング、どう聴いても、クラシックのそれと比べて、あまりにも見劣りがする。

Christian McBride & Edgar Meyer『But Who's Gonna Play The Melody?』(写真左)。2024年の作品。ちなみにパーソネルは、Christian Mcbride, Edgar Meyer (b, p)。クリスチャン・マクブライドとエドガー・メイヤー、2 人のグラミー受賞ベーシストによる、ベーシストだけのジャズ演奏。

タイトルが良い。「But Who's Gonna Play The Melody?」=「だれがメロディを弾くんだい?」。ベーシスト2人だけのデュオ・パフォーマンス。ベーシスト二人、それぞれがピアノを弾くが、それも全15曲中、それぞれ2曲だけ。残り11曲は、純粋にベース2本だけのパフォーマンス。
 

Christian-mcbride-edgar-meyerbut-whos-go
 

ベース2本だけのパフォーマンスとしては、Niels-Henning Ørsted Pedersen & Sam Jones『Double Bass』(2012年7月11日のブログ記事・左をクリック)が浮かぶが、かなり珍しいデュオ・フォーマットであることは間違いない。

しかし、である。これが絶品なのだ。恐らく、ジャズ・ベーシストがメインのパフォーマンスの極上のもの。タイトル「But Who's Gonna Play The Melody?」=「だれがメロディを弾くんだい?」の問いに応える様に、マクブライドとメイヤーの2人が、ピッチ奏法でリズム&ビートを弾き出し、アルコ奏法(ボウイング)で旋律を奏でる。

二人とも、とりわけ優れたベーシストであり、ピッチ奏法は極上なのは当たり前。しかし、この盤で素晴らしいのは、二人のベーシストのボウイング。ピッチはバッチリ合っていて、ボウイングのテンポもバッチリ合っている。その上、弾き出されるリズム&ビートは躍動感溢れ、グイグイと推進力抜群。そして、ボウイングの旋律は歌心溢れ流麗至極。クラシックのボウイングと比べても全く遜色無い。

これだけ、優れた内容のジャズ・ベースのボウイングは聴いたことが無い。今回のこのアルバムが、ジャズ・ベーシストのパフォーマンスの中で、ピカイチの内容のボウイングだろう。いわんや、ピチカートによる旋律のつまびきについても絶品極まりない。バックに回ったウォーキング・ベースも素晴らしい推進力。

いやはや、素晴らしいベース2本のデュオ。両者ともテクニック、歌心、イマージネーション、いずれをとっても遜色ない。現代のジャズ・ベースのバーチュオーゾ二人の極上のパフォーマンス。ジャズ・ベースがリーダーの名盤として、上位にランクしても良い傑作だと思う。

タイトルの問い「But Who's Gonna Play The Melody?」=「だれがメロディを弾くんだい?」。その答えは、このデュオ盤そのものの中にある。
 
 

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2024年9月20日 (金曜日)

ジョンアバとジョンスコの共演

ジョン・アバークロンビー(John Abercrombie、以降「ジョンアバ」と略)。基本、ECMレーベルのハウス・ギタリスト的位置付け。欧州ジャズらしい、彼しか出せない叙情的なサスティーン・サウンドが、とにかく気持ち良い。

ジョン・スコフィールド(John Scofield、以降「ジョンスコ」と略)。不思議に「ねじれた」というか、ちょっと外れた、というか、とにかく一聴するだけで「ジョンスコ」と判る、とても個性的なギター。時には「変態ギター」とも言われる。でも悪い意味での「変態」では無い。良い意味での「変態」である。

John Abercrombie & John Scofield『Solar』(写真)。1982年5月と1983年12月の録音。ちなみにパーソネルは、John Abercrombie (g, el-mandolin (track: 3, 5)). John Scofield (g), George Mraz (b (track: 3, 5, 7)), Peter Donald (ds (track: 3, 5, 7))。ジョンアバとジョンスコのデュオと、ジョンアバ・ジョンスコの2フロント・ギターの変則カルテット編成の2パターンを収録している。

ジョンアバとジョンスコ、どちらも米国出身のギタリストだが、ジョンアバは欧州的な抒情的なギターが個性、ジョンスコは個性的な、良い意味での「捻れた変態エレギ」を駆使して、新しいジャズ・ギターのイメージを拡げてきた。恐らく、現代のジャズ界の中での、コンテンポラリーな「エレクトリック・ジャズ・ギター」の最高峰の二人だと思う。

そんな二人がデュオをやり、フロント2ギターを二人で張って、ドラムとベースを従えたカルテット演奏をやる。これが絶品。ジョンアバとジョンスコ、二人のエレギが、こんなに相性が良いとは思わなかった。
 

John-abercrombie-john-scofieldsolar

 
まず、ジョンスコが「ねじれた」ギターを控えた形でジョンアバと相対しているのが、良い効果を生んでいる。ジョンアバの抒情的なギターは基本は「バップ」。ジョンスコは、このジョンアバの基本である「バップ」に適合して、素晴らしい二人のパフォーマンスを生み出している、と僕は思っている。

ジョンスコがバップに適合すると、そのギターの雰囲気はジョンアバに近しいものになる。近しいものになると、二人のデュオは「極上」なものに昇華する。どちらかのギタリストが他方のギタリストに合わせると、音色も似通ったものになって、デュオとしては失敗に近い形にあるのだが、この二人はそうはならない。

ジョンアバの「バップ」は、抒情的でダンディズム溢れるギターで、ジョンスコの「バップ」は、ジャズ・ファンク、そして、ワールド・ミュージック志向なフレーズが見え隠れするワールド・ワイドなギター。この二人のギター、雰囲気は似ているが、そのパフォーマンスは「似て非なるもの」。この二人のデュオの共演が大成功している。

演奏されるそれぞれの曲については、哀愁があってメロディアスに展開していくもの、フォーキーで爽快感のある米国の広大なプレーリーを想起するようなもの、ウェス風の流麗でファンキーでハードバップなもの、お得意の浮遊感が素敵な静かなバラード、ロック・ビートを活かしたシンプルでクールな感覚、落ち着いたメロディアスなエレギを弾き上げていく様な素敵な展開など、バラエティーに富んでいる。

コンテンポラリーなエレクトリックなジャズ・ギター好き、ひいてはジャズ・ギターを弾きたい人まで、広く「ジャズ・ギターの必聴盤」の一枚だと思います。そうそう、この盤、ジャケットのバージョンが複数あるので、気をつけてくださいね。
 
 

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2024年6月27日 (木曜日)

スポルディングとハーシュの邂逅

「2023年度 Jazz Life グランプリ」も貴重な情報源。この月刊誌 Jazz Life のグランプリ記事も、雑誌ジャズ批評の「オーディオ・ディスク大賞」と並んで、昨年度のジャズの新盤の振り返りになり、落穂拾いにもなる。Jazz Life のグランプリも、ジャズ批評のディスク大賞も、コマーシャルな裏の事情など関係なく、評論家の方々やショップの店員さんが、忌憚ないところでアルバムを選出しているようなので、本当に参考になる。

Fred Hersch & Esperanza Spalding 『Alive at the Village Vanguard』(写真左)。2018年10月19–21日、NYの老舗ライヴハウス「Village Vanguard」でのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Fred Hersch (p), Esperanza Spalding (vo)。

その独特の奏法と創造のアイデアのユニークさで「ピアノの詩人」などと評され、1980年代以降のピアニストの中で、最もエヴァンスイズムを受け継いだと言われる。耽美的でリリカルなピアノの最右翼の一人「フレッド・ハーシュ」と、稀有な、唯一無二な若手女性ベーシスト&ボーカリストの「エスペランザ・スポルディング」のデュオ演奏。

ハーシュにとってビレバガでのライヴ録音は今回で6度目らしい。そして、ベーシスト&ボーカリストのスポルディングは、潔くヴォーカルのみの参加。女性ベーシストとして、かなりユニークな個性の持ち主なので、スポルディングのベースが聞けないのは残念だが、ボーカルに専念出来る分、このデュオ・ライブ盤でのスポルディングのボーカルは、さらに迫力と捻じ曲がり度合いが増しており、現代の新しい、最新の女性ボーカルというか、ジャズ・ボーカルの新しい響きが実に芳しい。
 

Fred-hersch-esperanza-spalding-alive-at-

 
スポルディングのボーカルはこれまでに無かったユニークなもの。その雰囲気は「枠に囚われない」「野趣溢れる」「アフリカン・ネイティヴな」ワールド・ミュージック志向のボーカル。その表現の自由度は高く、伝統的な女性ボーカルをこよなく愛する方々からすると、これは「由々しき」女性ボーカルなんやろうな、なんて思ったりする。とにかく「自由」、そして、時折、織り交ぜられる「小粋なワード」が、スポルディングのエンタテインメント性を引き立てる。

そんなスポルディングのボーカルに、寄り添うが如く、絡むが如く、ハーシュのピアノが疾走する。現代のジャズ・ピアニストの中でも「耽美的でリリカルなピアノの最右翼」とされるハーシュのピアノであるが、耽美的どころか、アグレッシヴで躍動感溢れるバップなピアノで、スポルディングのボーカルの伴奏をガンガンやっている。恐らく、スポルディングの自由闊達なボーカルに合わせた、ハーシュの職人肌的パフォーマンスなんだろう。

しかし、スポルディングのボーカルとハーシュのピアノが、こんなに相性が良いと思わなかった。最初は「水と油」かなあ、と思ったのだが、聴いてみて、あらビックリ。スポルディングのボーカルは従来からの個性的なものなんだが、その伴奏に回ったハーシュのピアノが半端ない。抒情的にしっとり展開したりするところあるが、基本的にはアグレッシヴで躍動感溢れるバップなピアノ。ハーシュの今までとは違った側面を聴くこと出来て、感心することしきり、である。

スポルディングの唯一無二の「今までにない」新しいボーカルと、ハーシュの「新しい引き出し」を聴くかの如き、スインギーでアグレッシヴなバップな弾き回し。一期一会の、奇跡のようなデュオのライヴ音源。現代の、今のジャズのトピック的アルバムの成果として、高く評価されるべき好盤である。
 
 

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2024年6月10日 (月曜日)

セクステットのための抒情組曲

チック・コリアのピアノとゲイリー・バートンのヴァイブは凄く相性が良い。ジャズ特有のファンキー色を限りなく押さえ、ブルージーでマイナーな展開を限りなく押さえ、硬質でクラシカルな響きを前面に押し出し、現代音楽の様なアブストラクトな面を覗かせながら、メロディアスで流麗なフレーズを展開する。楽器は違えど、音の性質は同類の二人。

Chick Corea & Gary Burton『Lyric Suite For Sextet』(写真左)。1982年9月の録音。ECMレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Chick Corea (p), Gary Burton (vib), ここに「弦楽四重奏団」がバックにつく。ECMレーベルらしい、即興演奏をベースにした、欧州ジャズらしい、透明度の高いリリカルな「ニュー・ジャズ」志向のデュオ演奏。

邦題が「セクステットのための抒情組曲」。これがいけない。バックに「弦楽四重奏団」がついているので、余計にクラシック音楽の匂いがプンプンする。僕も最初、このアルバムがリリースされた時には、コリア&バートンのデュオはクラシックに手を染めたのか、と思った。よって、リリース当時はこのアルバムを聴くことは無かった。

が、リリース後10年。やっと聴いたら、あらまあ、しっかりと、コリア&バートンの「ニュー・ジャズ」志向のデュオ演奏が展開されている。
 

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「弦楽四重奏団」は、コリア&バートンのデュオ演奏をさらに引き立てる、優れたアレンジによるサポートの役割を担っている。この「弦楽四重奏団」のサポートが非常に優れていて、コリア&バートンのデュオ・パフォーマンスを更なる高みに誘っている。

パート1〜7まで、7つのパートに分かれた「組曲」風の収録曲も、クラシック音楽を想起させて、これもいけない。しかし、何か確固たるテーマを持った、一連の曲の連続という風でも無い。

チックの手になる、バートンとのデュオを前提とした秀曲の数々。どう聴いても、クラシックの「組曲」を想起するものではないだろう。透明度の高いリリカルな「ニュー・ジャズ」志向のデュオ演奏を引き立てる秀曲揃い。

ECMレーベルだからこそ成し得た、即興演奏をベースにした、欧州ジャズらしい、透明度の高いリリカルな「ニュー・ジャズ」志向のコリア&バートンの優れたデュオ演奏。

欧州ジャズらしい、というところに、「クラシック」っぽい響きを感じるかもしれないが、このデュオ演奏は、ECMレーベルの「ニュー・ジャズ」のジャンル内の優れたパフォーマンスの記録。意外と好盤です。
 
 

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チャーラップとロスネスのデュオ

ちょっと「デュオ」づいている。ジャズのユニットの最小単位の「デュオ」。双方のテクニックと音楽性のバランスがバッチリ取れると、一人では出せない、スケールの広い、ダイナミズム溢れる、奥行きのある即興演奏を実現することが出来る演奏編成。二人というシンプルな編成なので、音が重なるのは最小限。個々の音の一つ一つをしっかり確認できるのも「デュオ」の良いところ。

Bill Charlap & Renee Rosness『Double Portrait』(写真)。2009年12月27-29日、NYのKaufmann Concert Hall でのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Bill Charlap, Renee Rosness (p)。現代のバップ・ピアニストの第一人者の一人、ビル・チャーラップと女流ジャズ・ピアニスト最高峰の1人、リニー・ロスネスとのピアノの連弾デュオ。

ピアノの連弾デュオにはコツがあると思っている。同じ楽器同士なので、相手の音をしっかり聴いておれば、次に出てくるフレーズは予測が付き易い。フロントのフレーズ弾きとバックのリズム&ビート弾きの役割分担と分担交代のタイミングさえ、しっかりと意識合わせしておれば、音がぶつかることは無い。ただ、必要なのは、ピアノの個性と音楽性が似通っていないと連弾は成立しない。つまり、バップなピアノとフリーなピアノとは連弾が成立しない、ということ。

さて、このピアノ連弾のデュオ、チャーラップとロスネス、この二人は実生活では「夫婦」。夫婦だからということは無いが、相手のことを良く判っている同士なので、次に出てくるフレーズは予測が付き易いし、お互いの役割分担と分担交代のタイミングの意識合わせがし易いことこの上ない。
 

Bill-charlap-renee-rosnessdouble-portrai  

 
そして、双方の「ピアノの個性と音楽性」なのだが、チャーラップは「バップなピアノ」、ロスネスは「モーダルなピアノ」。連弾するには、ちょっと合わないところが出てくるよなあ、と思うのだが、このデュオ盤を聴けば良く判るのだが、双方、しっかりと歩み寄った「バップでモーダルなピアノ」で着地させている。

つまり、アプローチはモードが基本なのだが、フレーズの弾き回しは音の拡がりをメインとしたモード弾きではなく、バップ・ピアノの様な音符の多いフレーズを活用したモード弾きで、二人は意思統一している様なのだ。聴けば、チャーラップでもなく、ロスネスでも無い。ロスネスの様に弾くチャーラップと、チャーラップの様に弾くロスネス。そんな二人が連弾デュオにチャレンジする。

出てくる音は、キース・ジャレットを想起させる、耽美的でリリカルな音だが、出て来るフレーズはバップでモーダル。キースの様にマイナー調をところどころぶっ込んでくるのでは無く、どこまでも明るく健康的な「バップでモーダルなピアノ」。どこか端正なクラシックな響きもするが、伴奏に回ったピアノのリズム&ビートはジャズ。そんなピアノを腕4本で、スケールの広い、ダイナミズム溢れる、奥行きのある即興演奏を弾きまくる。

しかも、感心するのはライヴ音源であるということ。これは二人の演奏テクニックと演奏勘がずば抜けて優れている、という証。一発勝負、やり直しの効かないライヴで、これだ淀みなく流麗に連弾デュオの即興演奏を弾きまくる、とは。疾走感も適度、スイング感も適度、チャーラップとロスネスの「バップでモーダルなピアノ」での連弾デュオは大成功である。
 
 

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2024年1月27日 (土曜日)

ジェリとカートの孤高のデュオ盤

形体が全く異なるのだが、ピアノとギターは良く似た性格の楽器である。ピアノとギターは音のスケールも似通っている。

ギターについては、単音のみならず和音も出る。アルペジオも出来る。弦を掻きむしることもできるし、和音をストロークで連続することで、リズム楽器としての機能を果たすことも出来る。

ピアノについては、和音と単音を右手と左手に分けて別々に同時に出せるし、リズム部と旋律部を同時に奏でることが出来る。つまりは、ピアノ一台で楽器表現の全てを出すことが出来る訳で、ピアノは「一人オーケストラ」という異名を持つくらいである。

良く似た楽器同士のデュオ演奏は難度が高い。演奏者同士が我を出すと音がぶつかったり、伴奏と旋律との役割分担がスムースに行かなくなる。音のコンフリクト(ぶつかり)を瞬時に感じて、それを回避するには、演奏者に相当のテクニックが必要になるし、何より、相手の音をしっかり聴き分ける高い能力が必要になる。

ピアノとギターのデュオは難度が高い。双方の演奏家としての力量のバランスが取れていないと成立しないし、お互いに演奏家としての人間性の高さが要求される。とにかく、俺が私がと「我を出しては」ピアノとギターのデュオは成立しない。

Geri Allen, Kurt Rosenwinkel『A Lovesome Thing』(写真左)。2012年9月5日、フィルハーモニー・ド・パリでのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Geri Allen (p), Kurt Rosenwinkel (g)。2017年に惜しくも逝去した、女流ジャズ・ピアニスト最高峰の1人、ジェリ・アレンと、現代ジャズ・ギターの雄の一人、カート・ローゼンウィンケルとのデュオでのライヴ音源。
 

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ジェリ・アレンのピアノは「男勝り」の力強いタッチのモーダルなピアノ、というイメージがあるが、それは彼女のピアノの「一面」。このデュオでは柔軟で繊細なタッチで、相棒のギターに寄り添うが如く、語らうが如く、囁くが如く、リリカルで耽美的なピアノを弾き進めている。

ローゼンウィンケルのギターは、オーソドックスなトーンでありながら「新しい」響きとフレーズが芳しい、現代ジャズ・ギターの正統派で繊細な弾き回しで、ジェリのリリカルで耽美的なピアノに相対する。ギターの暖かい丸いエッジと、ピアノの切れ味の良い硬質のタッチとの対比が美しい。

1〜2曲目のスタンダード曲でも、双方、攻めに攻めているが、お互い、相手の音をしっかり聴き、持ち味はしっかり出しているのが良く判る。しかも、お互いの持ち味をしっかり確認して、二人共通の「音の個性」を紡ぎ出している様に感じる。双方の音の個性の底が「似通っている」ことが良く判る。

そして、双方の技術の高さは、5曲目の「Ruby My Dear」で良く判る。このセロニアス・モンクの難曲をジェリとカートは二人で見出した、二人共通の「音の個性」で、二人なりのモンク曲の解釈で、ガンガンに攻めまくる。この難曲をリリカルに耽美的に、難なく弾き進めるデュオ。素晴らしいパフォーマンスである。

素晴らしいピアノとギターのデュオ演奏。これがライヴで演奏された音源だとは。あのピアノとギターのデュオ演奏の名作、ビル・エヴァンス&ジム・ホールの『Undercurrent』に匹敵する、すばらしいデュオ盤の登場である。

ジェリは生前、このカートとのデュオ演奏によるスタジオ・アルバムの制作を熱望していたそうだが、このライヴ音源を聴けば、それが実感できる。しかし、こんなに素晴らしいデュオ演奏のライヴ音源が約10年もの間、お蔵入りだったとはなあ。今回、よくリリースされたなあ。その幸運を素直に喜びたい。
 
 

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2024年1月24日 (水曜日)

デュオ盤『Crystal Silence』再び

『Return To Forever』と『Light As A Feather』の名盤2枚で、リリカルでメロディアスなユートピア志向のサウンドをメインとした「クロスオーバーなエレ・ジャズ」を表現したチック・コリア。

しかし、音楽性のバリエーションが豊かなチックは、その傍らで、メインストリーム系の純ジャズにも、しっかりと手を染めている。ただし、チックは旧来のハードバップをなぞることは無い。必ず、新しい「何か」にチャレンジする。この時点で、チックが手がけたのは「デュオ」。あの名デュオ、コリア&バートンの誕生である。

この名デュオの結成の経緯については以下の通り。1972年、ミュンヘンで開催されたジャズ・フェスで、コリアとバートンはデュオによるジャム・セッションを披露する。それを聴いていたECMの総帥プロデューサーのマンフレート・アイヒャーが、コリアとバートンに「デュオ盤」の制作を持ちかけた。つまりは、この名デュオは、アイヒャーの提案によって結成されたらしい。

Chick Corea & Gary Burton 『Crystal Silence』(写真左)。1972年11月6日、オスロ、タレント・スタジオで録音。ちなみにパーソネルは、Chick Corea (p), Gary Burton (vib)。ECMレコードからのリリース。プロデューサーは当然、マンフレート・アイヒャー。以降、チックが亡くなるまで、不定期にアルバムをリリースしライヴを敢行した「名デュオ」のファースト盤である。

透明な響きとロマンティシズム。チックとバートンの「共通の音の質と志向」が、この盤で出会った。デュオというフォーマットは、簡単そうに見えて難しい。まず「音の質と志向」が同質のものでないと苦しい。また、お互いの音が重なったり被ったりしてはいけないし、フロントに出るタイミングとバッキングに回るタイミングが一致していなければ、バラバラな演奏になる。
 

Crystal_silence_1  

 
片方が目立ちすぎてもいけないし、引っ込み思案でもいけない。その辺の「あうん」の呼吸と、相手の音を聴きながらの、機微を心得た、臨機応変なインプロが重要になる。それって、双方に高度なテクニックと音楽性が備わっていないと出来ない仕業。このチックとバートンのデュオは、その「デュオ」に関する必要な事柄が、奇跡的に全て双方に揃った、稀有なデュオ・ユニットである。

チックとバートンは、いとも簡単に、この難度の高い「デュオ」のフォーマットを征服する。この盤を聴けば、恐らくたいていの人は「デュオって意外と簡単やん」と感じるに違いない。それほど、チックとバートンは、自然にシンプルに、ポジティヴに柔軟に、ピアノとヴァイヴのデュオ演奏を紡ぎ上げていく。

さて、チックとバートンのデュオ盤と言えば、この1972年の『Crystal Silence』にとどめを刺す、と言って良い位の素晴らしい出来、奇跡的に充実した内容となっていて、収録されたどの曲も素晴らしい出来。

とりわけ、冒頭の「Senor Mouse」、5曲目の表題曲「Crystal Silence」、そしてラストの「 What Game Shall We Play Today」の出来が際立っている。適度な緊張感に包まれた、とてもスリリングでリリカルな、躍動感溢れるデュオ演奏。即興の妙が芳しく、ロマン溢れるフレーズがとても美しい。

聴けば判る。素晴らしい不滅のデュオ盤。両人フロントに立ってのユニゾン&ハーモニーは絶妙。フロントに立ったチックのソロもバートンのソロも素晴らしい。バックに回ったチックもバートンも、絶妙に機微を心得た、ハイ・テクニックで切れ味の良いバッキングを聴かせてくれる。

ちなみに、このデュオという演奏フォーマットについては、特にバートンは当初、「リズム・セクション無しで、ヴァイブとピアノだけの演奏を1時間も聴きたがるオーディエンスなんているのだろうか」と猜疑心を抱いていたという。しかし、そのパフォーマンスは歴史に残るほどの素晴らしさで「大当たり」。ECMという欧州ジャズのレーベルだからこそ出来た盤であり、アイヒャーの慧眼の成せる技であった。
 
 

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2023年12月27日 (水曜日)

モンテローズとフラナガンと。

ジャズの演奏フォーマットの中で、意外と聴き応えがあるのが「デュオ」だと思っている。個人的にずっとデュオ盤を追いかけていることもあるのだが、デュオは聴いていて思うのだが、演奏上の様々な問題をクリアして名演を生み出す努力は涙ぐましいものがある。

二人だけでジャズをやるので、まず、ジャズとして重要なリズム&ビートは誰が担うのか、という問題がある。演奏を進める中で、どちらがフロントに立ち、どちらがバックに回るのか、そして、その交代タイミングは、など、演奏の進め方についての問題がある。当然、演奏する二人の演奏テクニックなど、力量のバランスに関する問題もある。これらを全て良い方向に解決して、ジャズ演奏として、即興演奏として成立させる。これって、結構、大変な作業だと常々思うのだ。

J.R. Monterose & Tommy Flanagan『A Little Pleasure』(写真)。1981年4月6, 7日、NYでの録音。ちなみにパーソネルは、J.R.Monterose (ts,ss), Tommy Flanagan (p)。テナー・サックスとピアノのデュオ演奏である。デュオ演奏をするモンテローズとフラガナンとしては、モンテローズの1959年のリーダー作『The Message』以来の再会セッションになる。
 

Jr-monterose-tommy-flanagana-little-plea

 
骨太で素直でシンプルでストレート、素性正しき正統派のモンテローズのテナー・サックス。伴奏上手、フロントで演奏する演奏者の個性の応じて、最適の伴奏パフォーマンスを提供する、燻銀な職人ピアニスト、フラナガンのピアノ。モンテローズは1927年生まれで、録音当時は54歳、フラナガンは1930年生まれで、録音当時は51歳。双方、ジャズマンとして、円熟の境地に達した時期、圧倒的に滋味溢れる、ジャジーで奥深いデュオ演奏を聴かせてくれる。

冒頭の「Never Let Me Go」から、カラッとした独特の哀愁感を醸し出しながら、ストレートに吹き上げるモンテローズのテナーと、それに呼応する様に、ジャジーでマイナーなフレーズでバッキングするフラガナン。しかし、フラガナンのピアノの表現&バッキングにおける「引出しの多様さ」には感心することしきり。「Central Park West」での透明感溢れるデュオ演奏も、シンプルで音数も少なく、曲と演奏の良いところだけが耳に届く感じ。この二人のデュオは、円熟期を迎えたジャズマンのベスト・パフォーマンスとして、もっと評価されても良いのでは、と感じます。

ルディ・ヴァン・ゲルダーの手になる録音で音も良い。こんなに素敵な純ジャズ系のデュオ盤が、フュージョン・ジャズ全盛の1981年に録音され、リリースされていたなんて。いやはや、ジャズの懐の深さにはつくづく感心します。この盤、デュオの名盤として、もっと広く聴かれても良い盤だと思います。
 
 

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2023年10月31日 (火曜日)

ジャズ喫茶で流したい・267

グローバル・レベルで見ると、ジャズ・ギタリストについては、新しい世代の「跡を継ぐもの」として、それぞれの時代でメジャー・デビューする新進気鋭のギタリストが現れ出てくる。が、我が国では、それぞれの時代でメジャー・デビューしてくる新進気鋭のジャズ・ギタリストの数は少ない。

日本のジャズ・ギタリストは、と問われたら、まず頭に浮かぶのが、渡辺香津美、増尾好秋、川崎燎、井上銘、小沼ようすけ、くらい。圧倒的に数が少ない。現在、第一線で活躍しているメジャーな存在は、井上銘、小沼ようすけ、辺りかな。

しかし、地方やライブハウスをメインに活動している「マイナーな存在」に目を向けると、我が国の中でも意外と多くのジャズ・ギタリストが存在する。ネットのアルバムのニュー・リリースの情報を見ていると、時々、単発でリーダー作をリリースしたりするので、その存在をキャッチでき、そのリーダー作を拝聴できたりする。良い時代になったものだ。

竹田一彦『St. Louis Blues』(写真左)。2022年6月2日、京都「BF Garden Studio」での録音。ちなみにパーソネルは、竹田 一彦 Kazuhiko Takeda (g), 神田 芳郎 Yoshirou Kanda (b)。実に渋い内容のギターとベースのデュオ演奏。

竹田一彦は、1936年奈良県天理市生まれ。関西地方をメインに、1950年代後半から現在まで、65年に渡り活躍を続けてきた関西ジャズ界の重鎮ジャズマン、ベテラン・ギタリスト。今年で87歳。今回、新リリースの『St. Louis Blues』は、昨年の録音なので、86歳でのパフォーマンスになる。今回は、たまたま、この新リーダー作をアップル・ミュージックで見かけて、即日、拝聴した。
 

St-louis-blues

 
一言で言うと「凄くクールで渋い」ジャズ・ギターが堪能できる優秀盤。コクのある味わい深いトーン、切れ味よく微妙にノイジーでジャズっぽいフレーズ。テクニックは確か、アドリブ展開は流麗かつアーシー&ブルージー。極上の本格派、メインストリーム志向のジャズ・ギター。冒頭のタイトル曲「St. Louis Blues」を聴くだけで、この竹田と神田のデュオ演奏の世界に引き込まれる。

ソリッドで鋼性の高い、弾力あふれる重低音のアコースティック・ベースがイントロを担う。そこに、適度なテンションを張った、切れ味よく、芯の入った、アーシーでブルージーな竹田のギターが絡んでくる。凄くクールで渋いフレーズの連発。

ギターとベースのデュオなので、演奏の基本は「静謐の中のダイアローグ」。時にユニゾン&ハーモニー、時にウォーキング・ベースをバックにギターのソロ、時にギターのリズムをバックにベースのソロ。職人芸よろしく、高いテクニックに裏打ちされた充実のフレーズ展開。

シンプルでリリカルでアーシーでブルージー、こんな魅力的なジャズ・ギターがあるんや、と感心を通り越して「感動」した。小粋なスタンダード曲をメインに、竹田のアーシーでブルージーなギターが、唄うがごとく、囁くがごとく、語るがごとく、弾き進んでいく。そこにピッタリ寄り添い、フレーズの「底」を押さえ支える神田のベース。

これはこれは、素晴らしい内容のギター&ベースのデュオである。今は晩秋、晩秋の夜に一人耳を傾けるジャズ盤に最適な一枚。良いアルバムに出会えた。心がほっこり暖かくなる。
 
 

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