2024年9月25日 (水曜日)

次を見据えるマクリーン、である

いきなり涼しくなった千葉県北西部地方。今日の最高気温なんざぁ、23℃。先週の水曜日の最高気温が36℃だったから、一週間で、一気に13℃下がったことになる。これだけ涼しくなると、ハードなジャズもOK。モードだろうが、フリーだろうが、これだけ涼しくなれば大丈夫。ということで、いきなり、純ジャズ、モード・ジャズに走る。

Jackie Mclean『Right Now!』(写真左)。1965年1月29日の録音。ちなみにパーソネルは、Jackie McLean (as), Larry Willis (p), Bob Cranshaw (b), Clifford Jarvis (ds)。前作、前々作のメンバーを一新し、それでも、ピアノのウィリスは録音当時23歳、クランショウは録音当時32歳、ドラムのジャーヴィスは録音当時24歳。マクリーンが録音当時34歳で最年長。若手中心のメンバー構成は変わらない。

この盤では、マクリーン流のモード・ジャズを完全に自家薬籠中のものとしている。迷いや澱みは全く無い。マクリーン自ら確信を持って吹きまくる「マクリーン流モーダル・フレーズ」の数々。特にこの盤、マクリーンのワンホーン・カルテットなので、「マクリーン流モーダル・フレーズ」の個性がとてもよく判る。明らかに、コルトレーンの物真似でないことは明白。

冒頭の「Eco」が典型的なモード・ジャズ。この演奏で、マクリーンの目指した「マクリーンの考えるモード・ジャズ」の姿が良く判る。ハードバップのコードをベースとしたアドリブ・パフォーマンスそのままに、ベースをモードに変えたイメージの、ハードバップから聴いても違和感のない、モーダルなパフォーマンス。
 

Jackie-mcleanright-now

 
モードになって、イメージがガラッと変わるコルトレーンとは、この辺りがちょっと違う。どちらかといえば、マイルスのアプローチに近いが、マクリーンはマイルスに比べて、かなりエモーショナル。マイルスはあくまでクールでヒップ。激情にかられて、エモーショナルにトランペットを吹くことは無い。

2曲目の「Poor Eric」は、静的で淡く広がる様なモーダル・フレーズを駆使したスローな演奏。音が無限に広がっていく様なフレーズは、モードで無いと表現できない。この静的で淡く広がる様な音のイメージは、モードならでは、である。モード奏法を採用することで獲得出来た、新しい吹奏表現。ジャズの表現の幅がグッと広がったんやなあ、と実感する。

CDでのリイシューでは、4曲目の「Right Now」のAlternate Versionが追加されているが、この演奏が興味深い。バックは懸命にモーダルな演奏で、マクリーンをサポートするのだが、当のマクリーンは、半分、完璧フリーな吹奏でアドリブ・フレーズを展開する。一生懸命モードをやってるバック置き去りの「掟破り」(笑)。録音当時、未発表音源となったのが良く判る。が、マクリーンは、完全にフリーな吹奏にチャレンジしている。

マクリーンは進化するアルト・サックス奏者というが、この盤では、マクリーン流モード・ジャズを自家薬籠中のものにした、どころか、フリー・ジャズな吹奏にも、チャレンジし始めているところが垣間見える。進化するアルト・サックス奏者であるマクリーンが、既に次のステップを見据えていることを示唆する、興味深いアルバムである。
 
 

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2024年9月24日 (火曜日)

「進化する人」の面目躍如な盤

ジャキー・マクリーンは「進化の人」。一つのジャズの演奏トレンドで実績を上げたからと言って、その演奏トレンドに安住することは無かった。メンバーを厳選し、若手からも新しいアイデアを学び、自分のものとしつつ、ジャズの新しい演奏トレンドに挑戦し、自分の演奏スタイルに取り入れていく。1960年代のマクリーンは「モード・ジャズへ挑戦し、自家薬籠中のものとする」が目標。

Jackie Mclean『Action Action Action』(写真左)。1964年9月16日の録音。ブルーノートの4218番。ちなみにパーソネルは、Jackie McLean (as), Charles Tolliver (tp), Bobby Hutcherson (vib), Cecil McBee (b), Billy Higgins (ds)。

マクリーンのアルト・サックスと、当時、新進気鋭のチャールズ・トリヴァーのトランペットがフロント2管のクインテット編成。ハッチャーソンのヴァイブがいるので、モードからフリーをやるには、ピアノはフレーズがぶつかる可能性がある。だからピアノレス。

1970年代のメインストリーム・ジャズで活躍する、トランペットのチャールス・トリヴァー(録音当時22歳)と、ベースのセシル・マクビー(録音当時29歳)が参加している。ドラムのビリー・ヒギンスも録音当時28歳。ヴァイブのハッチャーソンだって、録音当時まだ23歳。リーダーのジャキー・マクリーンだって、録音当時33歳。実に若い、新進気鋭のクインテットである。

このメンバーの中で、年齢的に、ハードバップの洗礼をガッツリ受けているのは、マクリーンだけ。ヒギンスはかすっている程度。残りのトリヴァー、マクビー、ハッチャーソンについては、ハードバップは二十歳前で、その成果を聴いて学ぶ立場。ハードバップの流行の中で、実際にバリバリ演奏していた訳ではない。
 

Jackie-mcleanaction-action-action  

 
この盤の演奏は「モード・ジャズ」なんだが、新主流派のモード・ジャズとはちょっと異なる、完璧にモーダルな演奏なのだ。というのも、新主流派のモード・ジャズは、担い手は、ハードバップで活躍していた一流ジャズマン。

ハードバップに相対するモード・ジャズという表現がメインで、ハードバップとモード・ジャズが混在しつつ、そんな中でモード・ジャズの特質を全面に押し出す、という演奏傾向があると僕は感じる。モード・ジャズに相対するハードバップが必ず存在するのだ。

しかし、このマクリーン盤は、ハードバップの影が相当に薄い。テーマ部から、モーダルなフレーズを流しつつ、アドリブ部では純粋なモーダルな展開をベースに、純粋なアドリブ・フレーズを吹きまくる。それも、限りなく自由度の高いモーダルなフレーズを連発、時に、フリーに傾くこともある、当時としては、先進的なモード・ジャズがこの盤に詰まっている。

前作『Destination... Out!』で、「マクリーンの考えるモード・ジャズ」のほぼ完成を見た訳だが、この『Action Action Action』では、それをさらに一歩進めて、「マクリーンの考えるモード・ジャズ」を自家薬籠中のものとしている。「進化する人」の面目躍如。やはり、ジャキー・マクリーンは「進化の人」である。
 
 

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2024年8月20日 (火曜日)

夏はボサノバ・ジャズ・その37

ボサノバ・ジャズとは、ボサノバの要素を取り込んだ「ジャズ」。リズム&ビートはボサノバのリズム&ビートをジャジーに仕立て直した「ボサノバ・ジャズ」のリズム&ビート。旋律はボサノバの旋律をそのまま取り込み、即興演奏は、ボサノバの持つ個性的なコード進行を取り込んで、ボサノバの響きを宿したアドリブ展開を繰り広げる。

ボサノバ・ジャズは「ジャズ」で、ボサノバでは無い。正統なボサノバを聴きたければ、ボサノバ・ミュージックの名盤を聴くことをお勧めする。

Lee Konitz & The Brazilian Band『Brazilian Serenade』(写真左)。1996年3月、NYでの録音。ちなみにパーソネルは、Lee Konitz (as), Tom Harrell (tp), Romero Lubambo (g), David Kikoski (p), David Finck (b), Duduka Dafonseca (ds), Waltinho Anastacio (perc)。

リーダーはアルト・サックスの即興演奏の求道者、リー・コニッツと、現代のバップなトランペッター、トム・ハレルがフロント2管、ボサノバに欠かせないアコギ、そして、キコスキーのピアノがメインのトリオがバックに控える、7人編成でのセッション。

1曲目「Favela」、2曲目「Once I Loved」、5曲目「Dindi」、6曲目「Wave」、7曲目「Meditation」が、アントニオ・カルロス・ジョビン作のブラジリアン・ミュージックの名曲。3曲目に、ボサノバ・ジャズの名曲「Recado Bossa Nova」。残り2曲、4曲目「September」はハレル作、、8曲目の「Brazilian Serenade」はコニッツ作。
 

Lee-konitz-the-brazilian-bandbrazilian-s

 
ジョビンの名曲、ボサノバ・ジャズの名曲、録音メンバーの自作曲、それぞれ、なかなか小粋な曲をしっかりと選んでいる。そして、それぞれの曲に対するアレンジも実に良い。アレンジの方針は「ホサノバ・ジャズ」。ボサノバの持つ雰囲気をしっかり踏襲しつつ、ボサノバに迎合することなく、しっかりとした純ジャズなアレンジがなかなか秀逸。

即興演奏の求道者コニッツのアルト・サックスは切れ味の良いブリリアントな音色で、決して甘くない、純ジャズ志向の堅実硬派なボサノバ・フレーズを吹きまくる。

トランペットのトム・ハレルも同様。正統派なバップ・トランペットで、バップなボサノバ・フレーズを吹き上げる。コニッツもハレルも、ボサノバ・ジャズ志向の吹奏が見事である。

キコスキーのピアノをメインとしたリズム・セクションも良い音を出している。このリズム隊の供給するリズム&ビートは、ボサノバのリズム&ビートをジャジーに仕立て直した「ボサノバ・ジャズ」のリズム&ビートそのもの。上手いなあ。

ホメロ・ルバンボのアコギも地味ながら良い味を出している。やはり、ボサノバ・ジャズにはアコギは必須やなあ。

21世紀を見据えた、ブラジリアンな、ボサノバ基調の夜曲集(セレナーデ)。1962年から、1960年代、1970年代、1980年代と弾き継がれてきた、コンテンポラリーな「ボサノバ・ジャズ」の好例がこの盤に詰まっている。

ヴィーナス・レコードだからと避けて通ってはならない。日本のレーベルが好プロデュースしたボサノバ・ジャズ盤の好盤がここにある。 
 
 

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2024年8月15日 (木曜日)

ボサノバ曲の米国西海岸ジャズ化

明日は台風7号が関東地方に再接近する予報。ここ千葉県北西部地方から見ると、東の太平洋上を北上するらしいので、吹き込みの強い暴風は避けられると思うので、ちょっと安心。逆に台風の強雨域が台風の西側に広がっていて、これがこの辺りにもかかってくる可能性があるので、大雨だけは細心の注意を払う必要はある。

ということで、明日は一日、台風通過の一日となるので、自宅に引き篭もりである。まあ、今年は猛暑日続きで、外出は控え気味なので、今さら引き篭もりも特別では無いのだが、エアコンをしっかり付けて、ジャズ盤鑑賞の一日になるだろうな。

Bud Shank and Clare Fischer『Bossa Nova Jazz Samba』(写真)。1962年9月の録音。ちなみにパーソネルは、Bud Shank (as, fl), Clare Fischer (p), Larry Bunker (vib), Ralph Pena (b), Larry Bunker, Frank Guerrero, Milt Holland, Bob Neel (perc)。

このところの「引き篭もり」状態の日々の中で、よく聴くジャズが「ボサノバ・ジャズ」。ということで、今回の選盤は、米国西海岸ジャズの名アルト・サックス奏者であるバド・シャンクと、ピアニスト兼アレンジャーのクレア・フィッシャーによるボサノバ・ジャズ盤。いかにも米国西海岸ジャズらしい、ボサノバ・ジャズが展開されていて興味深い。

恐らく、クリア・フィッシャーのアレンジだと思うのだが、パーカッションを充実させて、ボサノバのリズムを産み出しつつ、演奏全体をボサノバ・ジャズらしい音作りに仕立て上げるというアレンジが成功している。
 

Bud-shank-and-clare-fischerbossa-nova-ja

 
楽器の選択を見ても、軽快で爽やかなフルートやヴァイブの音が良いアクセントになって、ボサノバな雰囲気を増幅している。

聴き手にしっかり訴求するアレンジ重視の「聴かせるジャズ」という、西海岸独特のジャズの音世界の中で、ボサノバ曲を取り込み、演奏するという、いかにも西海岸ジャズらしいボサノバ・ジャズが展開されている。

と言って、米国西海岸ジャズのメインとなっていたジャズマン達が、ボサノバ・ミュージックに迎合するということは全く無く、ボサノバ曲を選曲することで、ボサノバ独特のフレーズ展開を自家薬籠中のものとし、リズム&ビートはボサノバ志向ではあるが、根っこと響きは、あくまでジャズのリズム&ビート。

シャンクのアルト・サックスは、ボサノバ曲だからと言って、ゲッツの様に、何か特別な吹き回しをすること無く、通常の西海岸ジャズにおけるシャンクの吹き回しそのものでボサノバ曲を吹きまくっている。

クレア・フィッシャーのピアノは、硬質でスクエアにスイングする。どう聴いても、ボサノバに迎合しているとは思えない(笑)。

ボサノバ曲を題材にした米国西海岸ジャズ。そういう捉え方が、この盤に相応しい。演奏の内容、雰囲気を聴いていると、米国西海岸ジャズとボサノバ・ミュージックは相性が良いと感じる。西海岸ジャズの特徴である、聴き手にしっかり訴求するアレンジが、ボサノバ曲を上手く取り込んで、上手く西海岸ジャズ化している。
 
 

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2024年8月 6日 (火曜日)

小洒落たファンキー・ジャズ

ファンキー・アルト・サックスのレジェンド、キャノンボール・アダレイについては、どうも我が国では人気がイマイチ。「ファンクの商人」なんて酷いあだ名をつけられて、ファンキー・ジャズやジャズ・ファンクをベースに、商業主義に走ったジャズマンの烙印を押されている。酷い話である。

ファンキー・ジャズ&ジャズ・ファンクは俗っぽくて、芸術としてのジャズでは無い、との評価で、しかも、キャノンボールのリーダー作は、米国ではそのセールスは好調だったのだが、この「売れる」ジャズをやるキャノンボールはけしからん、という論理である。

キャノンボールの名誉の為に言っておくと、生涯、彼のリーダー作は水準以上で、ほぼ駄作が無い。内容的にもしっかりしたファンキー・ジャズ、ジャズファンクのリーダー作が目白押しなんだが、我が国では、1960年代から70年代にかけてのリーダー作については、評論の対象に上がることがほとんど無い。

当然、我が国のレコード会社が国内リリースに踏み切ることもなく、21世紀になって、音楽のおサブスク・サイトで音源がアップされる様になって、やっと我々のレベルでも、1960年代から70年代にかけてのキャノンボールのリーダー作を鑑賞できる様になった。自分の耳で、キャノンボールのリーダー作を評価できるようになった。喜ばしいことである。

Cannonball Adderley Quintet『Plus』(写真左)。1961年5月11日の録音。ちなみにパーソネルは、Cannonball Adderley (as), Nat Adderley (cornet), Wynton Kelly (p, tracks 2–5), Victor Feldman (p tracks 1,6, vib), Sam Jones (b), Louis Hayes (ds)。
 

Cannonball-adderley-quintetplus

 
キャノンボール兄弟がフロント2管、フェルドマンのヴァイブが一部フロント参加、ピアノについては、ケリーとフェルドマンが分担する変則セクステット(6人編成)。

冒頭の「Arriving Soon」から、小粋なファンキー・ジャズ全開。キャノンボールのアルトも、ナットのトランペットも適度に抑制が効いた、小粋なブロウが好感度良好。

2曲目の「Well You Needn't」は、ファンクネス強調のモンク・ミュージック。フェルドマンのヴァイブがお洒落にアドリブをかまし、キャノンボール兄弟のユニゾン&ハーモニーがファンクネスを増幅する。とてもお洒落でファンキーなモンク・ミュージック。いい感じだ。 

この小粋で小洒落たファンキー・ジャズに貢献しているのが、フェルドマンとケリーのピアノの存在。フェルドマンのピアノは、西海岸出身らしく、小洒落て乾いたファンクネスを忍ばせたピアノ、ケリーのピアノは、ハッピースイングで、洒落たファンクネスを湛えたピアノ。二人のピアノが、このキャノンボールのファンキー・ジャズを小粋で小洒落たものにしている。

5曲目の「Star Eyes」などは、そんな小粋で小洒落たファンキー・ジャズが全開。ここまでくると、小粋で小洒落た、というより、ファンクネス全開の大ファンキー・ジャズ大会。それでも、フェルドマンのお洒落な響きのヴァイブが良いアクセントになっていて、通り一辺倒の、ありきたりなファンキー・ジャズにはなっていない。

良好な内容のファンキー・ジャズ。フェルドマンとケリーの存在によって、いつものどっぷりファンキーなジャズを、小粋で小洒落たファンキー・ジャズに変身させているところが、この盤の聴きどころだろう。選曲も良い。キャノンボールの秀作の一枚。
 
 

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2024年8月 4日 (日曜日)

初めて、エスコフェリーを聴く

Smoke Sessions Records は、コンスタントに、現代のネオ・ハードバップ、現代のコンテンポラリー・ジャズの好盤をリリースしている。今まで、影の存在に甘んじていた、優れた資質を持つジャズマンをスカウトして、専属のリーダー人材とするのに長けている。

今まで、Smoke Sessions Records からリリースされたアルバムのリーダーの中で、この人は誰、というジャズマンも多くいた。しかも、その、それまで無名に近かったジャズマンがリーダーを張ったアルバムについて、どれもが水準以上の優れた内容なのだから隅におけない。Smokeからの新盤については、折につけ、しっかりと内容確認をしている。

Wayne Escoffery『Like Minds』(写真左)。2022年3月31日、NYの「Sear Sound Studio」での録音。ちなみにパーソネルは、Wayne Escoffery (ts, ss), David Kikoski (p), Ugonna Okegwo (b), Mark Whitfield Jr (ds) のワンホーン・カルテットが基本。ゲストに、Gregory Porter (vo, on 4, 5), Tom Harrell (tp, on 2, 4),
Mike Moreno (g, on 1, 3, 8, 9), Daniel Sadownick (per, on 5), が入っている。
 
Wayne Escoffery(ウエイン・エスコフェリー)は、1975 年イギリスにて生まれ、後にアメリカに移住。
以降ニューヨークで活動し、グラミー賞受賞歴もあるサックス奏者/作曲家。リーダー作は、2001年の『Times Change』を手始めに、今回の2023年の『Like Minds』まで、11枚を世に出しているのだが、僕は彼のリーダー作に触れたことが無かった。
 

Wayne-escofferylike-minds

 
この新作『Like Minds』は、現代のネオ・ハードバップど真ん中な内容。非常に充実した、硬派で正統派な演奏内容は好感度アップ。リーダーのアルト・サックス担当のエスコフェリー、ピアニストとして評価の高いキコスギ、堅実ベースのウゴナ・オケゴ、躍動感溢れるドラミングで、演奏全体を鼓舞するマーク・ホワイトフィールドJr。まず、カルテットのメンバーが充実している。

エスコフェリーのアルト・サックスは、正統派でテクニック良好、突出した個性は無いが、総合力勝負の優れたもの。録音時47歳。テクニック優秀な中堅アルト・サックス奏者である。まず、このエスコフェリーのアルト・サックスが全編に渡って、良い味を出している。聴き応え十分のブリリアントで流麗で大らかなアルト・サックス。

キコスギのピアノが効いている。キコスギの柔軟度の高い、適応範囲の広い、現代のネオ・バップなピアノが良い。要所要所で、気の利いたフレーズを弾き回して、フロントのエスコフェリーのアルトを支え、オケゴのベース、ホワイトフィールドJrのドラムと共に、演奏全体のリズム&ビートを変幻自在に供給する。

ゲストの存在も良いアクセントになっている。現代のレジェンド級のバップ・トランペッターであるトム・ハレル、革新的なギタリストの マイク・モレノ、上質パーカッションの ダニエル・サドーニック、そして、 グラミー級ボーカリストの グレゴリー・ポーター。これらのゲストが、要所要所で極上にパフォーマンスを提供していて、このエスコフェリーのリーダー作の内容を更に充実させている。

4ビートを含むコンテンポラリ系の演奏がメインの、充実した内容のネオ・ハードバップ盤。特に現代のモード、ネオ・モーダルな演奏が秀逸です。破綻の無い、力感溢れ、流麗でコンテンポラリーな内容の演奏は、聴いていてとても心地の良いもの。本盤も、Smoke Sessions Recordsからの好盤の一枚です。
 
 

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2024年7月28日 (日曜日)

マクリーン流ハードバップの完成

1961年のジャキー・マクリーンは、マクリーン流のハードバップを完成させた年。アルト・サックスの吹きっぷり、演奏のイメージとアレンジ、どれもがマクリーン流にこなれて、マクリーン独特のアルト・サックスの音色と相まって、一聴してすぐに判る「マクリーン流」ハードバップな演奏を確立している。

Jackie Mclean『A Fickle Sonance』(写真左)。1961年10月26日の録音。ブルーノートの4089番。ちなみにパーソネルは、Jackie McLean (as), Tommy Turrentine (tp), Sonny Clark (p), Butch Warren (b), Billy Higgins (ds)。

マクリーンのアルト・サックスと、珍しく、トニー・タレンタインのトランペットがフロント2管、これまた珍しくソニー・クラークがピアノを担当、ベースのワーレンとドラムのヒギンスはこのところの、マクリーンのお気に入りリズム隊。

1961年の録音なので、マクリーンは、まだ、モードやフリーには傾倒してはいない。アルト・サックスの吹きっぷりは、コルトレーンのストレートな吹き方を踏襲、シーツ・オブ・サウンドにも似た高速アドリブ・フレーズも吹きまくる、先進的なハードバップ志向の演奏。演奏内容の傾向としては、前リーダー作の『Bluesnik』の内容を継承している。そう、この『A Fickle Sonance』は、前リーダー作の『Bluesnik』と併せて、兄弟盤の様な位置付けで、一気に聴き通した方が判り易いかもしれない。

『A Fickle Sonance』の演奏自体の雰囲気は「先進的」。マイルスやコルトレーンが提示した「先鋭的」なハードバップを自分なりに消化して、従来のハードバップの成果を踏襲することなく、精度の高い、内容充実の「先進的」なハードバップを展開していて立派。モードに展開する前に、しっかりと自分なりのスタイルを固めた、マクリーン流のハードバップを確立して様は見事である。
 

Ficklesonance_2

 
サイドマンの演奏も充実している。トニー・タレンタインのトランペットはブリリアントでリリカルで切れ味の良い力感溢れるトランペットを聴かせてくれる。

ピアノのソニー・クラークも、マクリーンの志向に応じて、新しい響きのハードバップなバッキング・フレーズをガンガン繰り出している。これが、マクリーンの「先進的」なハードバップ・フレーズと相まって、爽快感溢れる、躍動感抜群のパフォーマンスを演出する。

マクリーンのアルト・サックスと、タレンタインのトランペットとのユニゾン&ハーモニー、そして、チェイス、コール・アンド・レスポンス、どれをとっても極上の響き。ワーレンのベースとヒギンスのドラムも、通常のハードバップにはない、一癖も二癖もある、新しい響きを宿したリズム&ビートを供給していて「隅に置けない」。

マクリーン流の「先進的」ハードバップが詰まった名盤。マクリーンはこの盤を置き土産に、次作『Let Freedom Ring』で、モード&フリーに「挑戦」していく。マクリーンのハードバップの「マイルストーン的位置付け」の一枚。

実はこの『A Fickle Sonance』、2021年12月28日に鑑賞記事をアップしているのですが、今回、聴き直した折、印象がかなり違ったんで、今回、改めて鑑賞記事をアップし直しました。今回のこの鑑賞記事を最新としてお読みいただければ幸いです。
 
 

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2024年7月25日 (木曜日)

マクリーンの果敢な挑戦の記録

ブルーノートには「ボツになった理由不明」の未発表音源がゴロゴロしていた。そんなブルーノートの未発表音源を「Blue Note LTシリーズ」として、1979〜1981年にLP40数タイトルでリリースした。どのアルバムも聴いてみて、「どこがお蔵入りなんや」「どこが気に入らなかったんや」と思ってしまう優秀な音源ばかりなのだ。

Jackie McLean『Vertigo』(写真左)。1959年5月2日、1963年2月11日の録音。ここでは、1980年リリースの「Original LP」の収録曲(全6曲)に絞ってコメントする。ちなみにパーソネルは以下の通り。

1959年5月2日の録音(3曲目: 「Formidable」のみ)については、Jackie McLean (as), Donald Byrd (tp), Walter Davis Jr. (p), Paul Chambers (b), Pete LaRoca (ds)。

1963年2月11日の録音(3曲目以外: 「Marney」「Dusty Foot」「Vertigo」「Cheers」「Yams」)については、Jackie McLean (as), Donald Byrd (tp), Herbie Hancock (p), Butch Warren (b), Tony Williams (ds)。

2セッション共通で、ジャキー・マクリーンのアルト・サックスとドナルド・バードのトランペットの2管フロント。リズム・セクションは総入れ替え。

3局目の「Formidable」だけが、マクリーンの『New Soil』(ブルーノートの4013番)録音時のボツテイク。この曲だけは、この『New Soil』収録曲と同列で評価されたい(2021年5月3日のブログ参照)。ここでは、3局目の「Formidable」以外の1963年2月11日の録音についてコメントする。

パーソネルを見渡すと、リズム・セクションの3人に目がいく。ピアノに若かりし頃のハービー・ハンコック、ベースにブッチー・ワーレン、そして、ドラムに、当時弱冠17歳のトニー・ウィリアムス。そう、この音源、トニー・ウィリアムスの初録音である。
 

Jackie-mcleanvertigo  

 
録音は、正式盤でリリースされた『One Step Beyond』(2016年1月8日のブログ参照)の約2ヶ月前の録音で、トニー・ウィリアムスだけが、『One Step Beyond』にも、ドラム担当としてチョイスされている。

さて、1963年2月11日のセッションについては、成熟したハードバップと、当時、マクリーンが取り組んでいた「モード・ジャズ」が良い塩梅でミックスされたユニークな内容。テーマ部のフロントのユニゾン&ハーモニーは、成熟したハードバップの響き、アドリブ展開部は、少しハードバップのコードな展開が見え隠れするマクリーンなりのモーダルなフレーズ。

で、ピアノのハンコックは、と問えば、意外とモード・ジャズしていない、ハードバップなバッキングをメインにしているのが面白い。ハンコックなりのモーダルなフレーズを封印して、マクリーンならではのモーダルな展開を優先させていることがよく判る。サイドマンの鏡の様なバッキング。

トニーのドラムも同様。後の細かくシンバルを叩きまくりつつ、フロント管を煽りに煽る攻撃的なドラミングは全く無し。神妙にハードバップなビートを正確に叩き出している。が、これが意外と「老獪」。弱冠17歳にして、トニーのハードバップなドラミングは完成されている。

この1963年2月11日のセッションの内容については、ボツとした理由が判らない。モードに適用する過渡期のマクリーンの独特の個性をしっかり捉えている。恐らく、この日のセッションについては、ここに収録された5曲のだった様で、LPにしてリリースするには、収録時間を考えると、曲が1曲、足らなかったのだろう。ブルーノートは、プレスティッジの様に、やっつけのアルバム編集はしない。

3曲目をちょっと横に置いて、残りの5曲は意外と聴き応えのある内容です。モードに果敢にチャレンジするマクリーンの奮闘ぶりが良く判る佳作だと思います。
 
 

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2024年7月 4日 (木曜日)

「後半のペッパー」の最初の傑作

天才アルト・サックス奏者、アート・ペッパー。1972年だったか、シナノンを正式に出所、ペッパーの「活動後期」が始まる。

そして、1975年8月、このケーニッヒ率いるコンテンポラリー・レーベルと契約を交わし、復帰後初のスタジオ録音を行う。『Living Legend』である。復帰後第一弾であるが故、慎重に誠実に着実にアルト・サックスを吹き進めていて、「後半のペッパー」の実力の半分くらいしか出ていないのがもどかしい。それでも、復帰後第一弾のリーダー作としては及第点。

Art Pepper『The Trip』(写真左)。 September 1976年9月15–16日の録音。1977年のリリース。ちなみにパーソネルは、Art Pepper (as), George Cables (p), David "Happy" Williams (b), Elvin Jones (ds)。

前作『Living Legend』から、バックのリズム・セクションは総入れ替え。目立つところでは、ピアノは後に”盟友”となるジョージ・ケイブルス。ドラムはポリリズミックなレジェンド・ドラマー、エルヴィン・ジョーンズ。

この「活動後期」のリーダー作第2弾で「後半のペッパー」のスタイル全開。「活動前期」のスタイルに比べて、覇気溢れアグレッシヴ、硬派で力感溢れるアドリブ展開、そして、時々、フリーにアブストラクトにブレイクし、スピリチュアルな響きを振り撒いたりする。

が、この盤での演奏については、決して感情のままに吹きまくるのでは無い。しっかり感情をコントロールし、抑制を効かせたフリーなブレイクダウン。端正でモーダルで、ハードバップな要素とフリーな要素が程よくハイブリッドした、当時のハードバップな演奏のトレンドにしっかり追従した、メインストリーム志向の純ジャズな展開。
 

Art-pepperthe-trip

 
基本はハードバップ、モーダルに展開し、時々、フリーにスピリチュアルにブレイクする。モーダルな展開は流麗でペッパーならではの展開。以前、どこかで聴いたモーダルな展開ではない。明らかに、ペッパーのオリジナル。フリーにスピリチュアルにブレイクするところは、しっかり感情コントロールされ、抑制が効いたもの。

ケイブルスのピアノとの相性が抜群に良い。「後半のペッパー」の特質を咄嗟に理解し、ペッパーと同様に「覇気溢れアグレッシヴ、硬派で力感溢れるアドリブ展開、そして、時々、フリーにアブストラクトにブレイクし、スピリチュアルな響きを振り撒く」ケイブルスのピアノは見事。

そこに、エルヴィンのポリリズミックはドラムが、様々なニュアンスのアクセントを付けていく。この盤でのエルヴィンのドラミングの貢献度は高い。

我が国の評論家筋から、なぜか「コルトレーンの物真似」なんていう難癖をつけられ、何かと問題にされる「後半のペッパー」盤だが、選曲も良く、それぞれの曲想に応じた、様々な表現を聴かせてくれるペッパーのアルト・サックスは「本物」である。

端正で、モーダルな展開のいマージネーションがユニークで豊か、抑制の効いたフリーなブレイク。この盤のペッパーのアルト・サックスは唯一無二であり、コルトレーンの物真似では決して無い。どこがコルトレーンの物真似なのか、良く判らない。

「後半のペッパー」は、「前半のペッパー」に、覇気溢れアグレッシヴ、硬派で力感溢れるアドリブ展開を付加し、モーダルで、ハードバップな要素とフリーな要素が程よくハイブリッドした、「前半のペッパー」からアップグレードしたペッパーである。そんな「後半のペッパー」の最初の成果が、この盤に溢れている。
 
 

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2024年7月 2日 (火曜日)

復帰後ペッパーの初リーダー作

天才アルト・サックス奏者、アート・ペッパーの活動時期について、薬物中毒者の為のリハビリテーション施設シナノンで過ごしたブランクの時期を境に、シナノン出所後を「後半のペッパー」とするのだが、確か、シナノンを正式に出所したのは1972年だったか、それでも出所後、そんなには世の中は甘く無かった訳で、すぐにはジャズ・シーンに戻れなかった。

それでも、シナノン療養所に入っていた時に、コンテンポラリー・レーベルの総帥プロデューサー、レスター・ケーニッヒがペッパーを訪問、復帰するよう励ました、という逸話が残っている。そして、ペッパーはその恩義に報いる様に、1975年8月、このケーニッヒ率いるコンテンポラリー・レーベルと契約を交わし、復帰後初のスタジオ録音を行う。

Art Pepper『Living Legend』(写真左)。1975年8月9日の録音。ちなみにパーソネルは、Art Pepper (as), Hampton Hawes (ac-p, el-p), Charlie Haden (b), Shelly Manne (ds)。ペッパーのワンホーン・カルテット。バックのリズム・セクションは、ウエストコースト・ジャズのレジェンド・ミュージシャンで固めている。ペッパーからすると、この人選はリラックス出来ただろう。ケーニッヒの粋な計らいである。

ここでのペッパーの吹奏は「後半のペッパー」のスタイル。覇気溢れアグレッシヴ、硬派で力感溢れるアドリブ展開、しかし、フリーにアブストラクトにブレイクダウンはしない。復帰後第一弾、しかも、有力ジャズレーベルのコンテンポラリーでの録音。失敗は許されない。と言って、「昔の名前で出ています」風に、ウエストコースト・ジャズのマナーに則った、流麗で歌心溢れる、聴いていて心地良く、心地良くスイングする「前半のペッパー」は、プロとして出来ない。
 

Art-pepperliving-legend

 
昔の「前半のペッパー」の雰囲気を少し漂わせながら、慎重に誠実に着実に、覇気溢れアグレッシヴ、硬派で力感溢れるアドリブ展開という「後半のペッパー」のスタイルで吹き進めるペッパーが愛おしい。本当は、フリーにアブストラクトにブレイクダウンし、スピリチュアルな響きを振り撒いたりしたいのだが、復帰後初のリーダー作である。とても慎重に吹き進めるペッパー。気持ちは判るなあ。

慎重に誠実に着実に、覇気溢れアグレッシヴ、硬派で力感溢れるアドリブ展開しているが、そのパフォーマンスの内容は良い。テクニック的にも「前半のペッパー」と比べて遜色は無いし、アドリブ・フレーズの流麗さについては、「前半のペッパー」を彷彿とさせる部分も多々登場する。ブロウが覇気溢れアグレッシヴ、硬派で力感溢れる内容に変化しているので、「前半のペッパー」をなぞっているのでは無い。この辺りにペッパーの矜持を強く感じる。

バックのリズム・セクションも「後半のペッパー」のスタイルを理解して、なかなか躍動感溢れるパフォーマンスで、ペッパーを支え鼓舞する。ホーズのエレピもなかなか味があって、そのホーズのエレピに絶妙に絡む、ベースの哲人ヘイデンのパフォーマンスも聴きもの。ドラムのマンは変幻自在なドラミングで、ペッパーの様々な表現に対して、的確に最適なリズム&ビートを供給する。

シナノン出所後、有力レーベル下での初のリーダー作なので、ペッパーは、とにかく慎重に誠実に着実にアルト・サックスを吹き進めていて、「後半のペッパー」の実力の半分くらいしか出ていないのがもどかしいが、テクニック含めて、水準以上のブロウをキープしているところは、さすが、天才アルト・サックス奏者、アート・ペッパーである。復帰後第一弾のリーダー作としては及第点だろう。
 
 

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