2026年7月 1日 (水曜日)

再び, マイルス『Bags’ Groove』

 

レコード・コレクターズ・2026年7月号は「マイルス・デイヴィス・アルバム/名演ランキング」。今年、生誕100年を迎えるマイルス。その偉大な功績を偲び、1950年代のアコースティックな演奏から、ファンクやロックに接近したエレクトリック期、そして晩年に至るまでの長い活動期間に残されたアルバムと、それに含まれる名高い名演の数々をランキング。その記事を読んでいて、僕の「マイルス盤のランキング」を記事にしてみようかと想った。

Miles Davls『Bags' Groove』(写真左)。プレスティッジ・レーベルお得意の2つのセッションの寄せ集め。しかも、この盤のリリースは1957年12月。なんと3年も録音以来「お蔵入り」。CBSに移籍して、人気ジャズマンとなったマイルス人気に完全に乗っかったリリースだろう。ちなみに録音日とパーソネルは以下の通り。

LPのA面は1954年12月24日の録音。「Bags' Groove" (Take 1)」「Bags' Groove" (Take 2)」の2曲のみ。どちらも収録時間10分前後と、ハードバップらしい、かなりのロングプレイである。ちなみにパーソネルは、Miles Davis (tp), Milt Jackson (vib), Thelonious Monk (p), Percy Heath (b), Kenny Clarke (ds)。ミルトの参加していた、初代MJQ(Modern Jazz Quartet)のメンバーから、ピアノのジョン・ルイスをセロニアス・モンクに代えたもの。

LPのB面は1954年6月29日の録音。「Airegin」「Oleo」「But Not for Me (Take 2)」「Doxy」「But Not for Me (Take 1)」の5曲。それぞれの収録時間は4〜5分程度。ソニー・ロリンズ作の曲が3曲を占める。ちなみにパーソネルは、Miles Davis (tp), Sonny Rollins (ts), Horace Silver (p), Percy Heath (b), Kenny Clarke (ds)。LPのA面のパーソネルから、ピアノがホレス・シルヴァーになっている。
 

Bags_groove_2

 
なにを隠そう、この『Bags' Groove』、ジャズを本格的に聴き始めて、マイルスに心底、感じ入って、永遠のアイドルになった、記念すべきアルバムなのだ。この盤では、やはりLPのA面を占めるタイトル曲「Bags' Groove」が白眉の出来。何回聴いても飽きがこない、ハードバップ時代の名曲名演の一つである。

「Bags' Groove" (Take 1)」「Bags' Groove" (Take 2)」の2テイクが続けて収録されているのだが、これが「ジャズは即興の音楽」、「二度と同じアドリブが演奏されることは無い」というジャズの定番評価が、しっかりと比較リスニング出来る。ジャズを本格的に聴き始めた時、この2曲を繰り返し繰り返し聴いた。これが何度、繰り返し聴き返しても飽きない。繰り返す度に新しい発見がある。マイルスも良い、バグスも良い、モンクも良い、ヒースも良い、クラークも良い、皆、良い。

LPのB面は、実は10" LP時代の『Miles Davis with Sonny Rollins』の収録曲を、そっくりそのまま持ってきたもの。「But Not for Me」のみ、未収録の別テイクを持ってきている。CBSに移籍して、人気ジャズマンとなったマイルス人気に完全に乗っかったリリースをするための「帳尻合わせ」。プレスティッジらしい仕業である(笑)。

しかし、僕が凄く感じ入ったのは、このA面のマイルスのトランペットと、バグス(ミルト・ジャクソンの渾名)のヴァイブとの共演に凄く感じ入った訳で、この「Bags' Groove" (Take 1)」「Bags' Groove" (Take 2)」の2テイクしかないのか、と思ったら、実は、他の演奏は、別のアルバム『Miles Davis and the Modern Jazz Giants』に収録されているのに、後日、気がついた。

とにかく、マイルスのトランペットと、バグスのヴァイブとの共演は絶品。気がついたすぐに『Miles Davis and the Modern Jazz Giants』の入手に走ったのは言うまでも無い。
 
 

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2026年6月 7日 (日曜日)

早すぎた精神的ジャズ・ファンク

ブルーノートの4300番台。ここまでくると、胸を張って「ジャズ」とは言いにくい。しかし、バックの演奏は上質のジャズ・ファンク。本作は、1970年代初頭、ホレス・シルヴァーが展開した三部作プロジェクト『The United States of Mind』の「Phase 2(第2章)」にあたる意欲作。ファンキー・ジャズの巨匠がソウルやファンク、ボーカル・ジャズへと大胆に接近した、レア・グルーヴ視点から、極めて評価の高い好盤として評価されている。

Horace Silver Quintet/Sextet With Vocals『Total Response』(写真左)。1970年11月15日 (#1, 2, 6, 9), 1971年1月29日 (#3–5, 7, 8) の録音。ブルーノートの4368番。ちなみにパーソネルは、Horace Silver (el-p), Cecil Bridgewater (tp, flh), Harold Vick (ts), Richie Resnicoff (g), Bob Cranshaw (el-b), Mickey Roker (ds), Salome Bey (vo, 1, 2, 5–7, 9), Andy Bey (vo, 3, 4, 8)。

それまでのハード・バップ〜ファンキー・ジャズ路線から一転、シルヴァーがエレクトリック・ピアノ(フェンダー・ローズ)を本格的に導入、アンディ・ベイとサロメ・ベイという実力派シンガーを起用、メッセージ性の強い歌詞を歌わせて、瞑想や精神の統一といった精神世界、そして当時の米国社会へのメッセージが融合した、コンセプチュアルで政治的な時期の作品である。

冒頭「Acid, Pot or Pills」は、ドラッグ依存への警告。2曲目「What Kind of Animal Am I?」は、人間の本質への問いかけ。3曲目「Won't You Open Up Your Senses」は、五感の解放。4曲目「I've Had a Little Talk」は、内省と自己との対話。5曲目「Soul Searchin'」は、自己探求。
 

Horace-silver-quintetsextet-with-vocalst  

 
6曲目「Big Business」は、巨大企業・資本主義への批判。7曲目「I'm Aware of the Animal Within Me」は、人間の野蛮性の自覚。8曲目「Old Mother Nature Counts Her Children」は、大自然への回帰。9曲目の「Total Response」は、精神と肉体の完全なる調和。

シルヴァーのフェンダー・ローズは、浮遊感とサイケデリックな響き。しかし、伝統のファンキー・リフは健在。コードのボイシングには独特のジャジーな緊張感があり、単なるポップスに流されないジャズマンとしての矜持が演奏に表れているところが、やはり、この盤は「コンテンポラリーなジャズ」である。楽器として機能するベイ兄妹の圧倒的な歌唱も、単に「メロディを歌う」だけでなく、「アンサンブルの一部」として完璧に機能している。

クランショウのエレベと、ローカーのドラムのファンク・グルーヴがこれまた良い。レスニコフのカッティングと彩りを与えるギターの系かな推進力。ブリッジウォーターのトランペットと、ヴィックのテナーの2管フロントは、1960年代の爆発するようなハード・バップのソロ回しとは異なる、「楽曲のメッセージ(歌詞)を支えるための知的なアンサンブル」に徹して、これもまた見事。

アルバムのサブタイトルにある『The United States of Mind(人心連合)』とは、「人間の精神(Mind)の中にある様々な要素が、アメリカ合衆国(United States)のように一つに団結・調和しなければならない」というシルバー独自の哲学。1970年代初頭の混沌とした米国社会(ベトナム戦争、ドラッグの蔓延、物質主義の台頭)に対し、シルバーは「精神性の回復」「心と身体の健康」「平和」を音楽で訴えようとした。その成果の一つがこのアルバムである。
  
 

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2026年1月23日 (金曜日)

ソウル志向のシルヴァー・ジャズ『That Healin' Feelin'』

このジャケをみたら、ほとんどの人が「ビビる」だろう。どう見ても、ジャズのアルバムのジャケとは思えない(笑)。この奇妙な恰好をして写っているのは、ホレス・シルヴァー本人。「THE UNITED STATES OF MIND」という思想に入れ込んでいた時期のシルヴァー本人。内容的には、決して「危ない」「怪しい」類の音楽では無いのでご安心を。

Horace Silver Quintet『That Healin' Feelin'』(写真左)。1970年4月8日と6月18日の録音。ブルーノートの4352番。サブタイトルが「The United States of Mind Phase 1」。当時、シルヴァーが入れ込んでいた思想の名称がサブタイトルにあるので、スピリチュアルな側面もあるのか、と警戒するが、これが全く無い(笑)。

それでも、後に『The United States of Mind』としてCDにまとめられた3部作アルバムの最初のもの。ファンキー・ジャズ一本槍のホレス・シルヴァーが、ソウル・ミュージックに一番接近したアルバムの一枚である。

ちなみにパーソネルは、4月8日の録音が、Horace Silver (p, el-p), Randy Brecker (tp, flh), George Coleman (ts), Bob Cranshaw (el-b), Mickey Roker (ds), Andy Bey (vo, 2-5)。6月18日の録音が、Horace Silver (p, el-p), Randy Brecker (tp, flh), Houston Person (ts), Jimmy Lewis (el-b), Idris Muhammad (ds), Gail Nelson (vo, 6), Jackie Verdell (vo, 7–9)。
 

Horace-silver-quintetthat-healin-feelin

 
基本は、シルヴァー印のファンキー・ジャズ。しかし、この盤で「耳を引く」のが、シルヴァーのエレクトリック・ピアノ。シルヴァーの弾くエレピが凄く良い。シルヴァー印のファンキー・ジャズにピッタリのエレピの音、エレピの弾きっぷり。このシルヴァーの弾くエレピが、このアルバムの「キモ」になっている。

このアルバムでは、大々的にボーカルの導入に踏み切っている。3人のボーカリストが分担して、ボーカルを担当しているが、そうなると、このアルバムは「R&B」志向のソウル・ジャズになるのか、と思いきや、そうはならない。あくまで、ソウル・ミュージック志向の、シルヴァー印のファンキー・ジャズ。

大胆なボーカルの導入とエレピの導入で「ソウル・ミュージック志向」を実現している。演奏の基本は、その時その時のシルヴァー印のファンキー・ジャズ。それが証拠に、ソウル・ミュージック志向の割に、粘るファンクネスはライト。ライト仕様のソウル・ミュージック志向なのが、このアルバムの個性であり、シルヴァー印のファンキー・ジャズのバリエーションである。

へんちくりんな恰好をしてジャケに収まっているシルヴァーだが、このアルバムでの音は、ボーカルを抜けば、とても硬派でアーティスティックな、シルヴァー印のファンキー・ジャズである。モード・ジャズにも、ソウル・ジャズにも柔軟に適応し、自らのファンキー・ジャズに昇華させている。ジャケに惑わされずに手にすれば、1970年当時のシルヴァー印のファンキー・ジャズの最前線が体感できる。そんな好盤である。
 
 

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2025年9月27日 (土曜日)

1968年のシルヴァーの好盤です『Serenade to a Soul Sister』

パーソネルの違いはあるが、2セッションを通じて、しっかりとした統一感があるのは、さすがにホレス・シルヴァー御大。素晴らしいリーダー・シップを発揮している。この盤の音世界は、ホレス・シルヴァーのファンキー・ジャズ。時代は「ソウル・ジャズ全盛」なのだが、シルヴァーは「ブレない」。シルヴァーはあくまで「ファンキー・ジャズ」。

Horace Silver『Serenade to a Soul Sister』(写真左)。1968年2月23日、3月29日の録音。ブルーノートの4277番。ちなみにパーソネルは、Horace Silver (p), Charles Tolliver (tp) は、2月23日と3月29日と共通。残りの3人が録音日によって変わる。2月23日が、Stanley Turrentine (ts), Bob Cranshaw (b), Mickey Roker (ds)。3月29日が、Bennie Maupin (ts), John Williams (b), Billy Cobham (ds)。

8ビートのエレクトリックなファンキー・ジャズあり、ノリの良い正統派ファンキー・ジャズあり、新主流派モーダルなファンキー・ジャズあり、ソウル・ジャズっぽくなるところもあるが、収録されたどの演奏も根っこは「ホレス・シルヴァーのファンキー・ジャズ」。言い換えると、1968年の「シルヴァーが考えるファンキー・ジャズ」が、ぎっしり詰まっている。
 

Horace-silverserenade-to-a-soul-sister

 
しかし、パーソネルを見渡すと、モーダルなトランペッターのチャールズ・トリヴァー、漆黒な「どファンキー」テナーのスタンリー・タレンタイン、そして、ドラムに、モーダルなドラミングが得意なミッキー・ローカー、後のマシンガン・ファンキー・ドラミングのビリー・コブハム等々、おおよそ、ホレス・シルヴァーのファンキー・ジャズをやるメンバーでは無い。しかし、このメンバーが、1968年の「シルヴァーが考えるファンキー・ジャズ」を完璧にやるのだから堪らない。

「ホレス・シルヴァーのファンキー・ジャズ」とは言っても、1950年代を振り返った「懐古趣味」なファンキー・ジャズでは無い。1968年時点の最先端のモダン・ジャズの音を踏まえて反映した、その時代の最先端の「ホレス・シルヴァーのファンキー・ジャズ」をパーフォーマンスしていることろが素晴らしい。さすが、レジェンド級のジャズマンが違う。

ラストの「Next Time I Fall in Love」は、シルヴァーにしては珍しいピアノ・トリオによる小粋なバラード。底に流れるファンクネスに、シルヴァーの矜持を感じる。「Mr.ファンキー・ジャズ」なホレス・シルヴァーの好盤。ジャズ紹介本やジャズのアルバム紹介などは、そのタイトルが上がらない、しかも、ホレス・シルヴァーの代表盤にも、まず、上がらない盤だが、僕は、この盤の内容については一目置いている。いつの時代にも「ブレない」シルヴァーは頼もしい。
 
 

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2025年8月12日 (火曜日)

シルヴァー流 ”ソウルの色づけ”『The Jody Grind』

前作『The Cape Verdean Blues』は、ファンキー仕立てのモーダルなフレーズ。そして、そこにワールド・ミュージック風のエキゾチックなメロディーが乗っかって、モード・ジャズの代表的展開を聴かせてくれた。次作のこの『The Jody Grind』も、その路線を踏襲するかと思いきや、ワールド・ミュージック風のエキゾチックなメロディーを薄めて、ソウル・ジャズの要素を導入してきた。

Horace Silver『The Jody Grind』(写真左)。1966年11月2日の録音。ブルーノートの4250番。ちなみにパーソネルは、Horace Silver (p), Woody Shaw (tp), Tyrone Washington (ts), James Spaulding (as), Larry Ridley (b), Roger Humphries (ds)。ウディ・ショウのトランペットとタイロン・ワシントンのテナー・サックス、ジェームス・スポルディングのアルト・サックスがフロント3管のセクステット編成のホレス・シルヴァーのリーダー作。

基本は、モードを導入した、ハードバップとモードのハイブリッドなファンキー・ジャズ。リズム&ビートはファンキー・ジャズそのままに、フロント2管とシルヴァーのピアノのソロ・パフォーマンスに「ソウル・ジャズ」の要素を忍ばせる、そんな「慎重な」アプローチを採用している。そうそう、ジャケもちょっと「ソウル・ジャズっぽく」しているところが可愛い(笑)。
 

Horace-silverthe-jody-grind  
 

どっぷりソウル・ジャズに迎合せず、シルヴァー流の「ハードバップとモードのハイブリッドなファンキー・ジャズ」に、流行の色づけにソウル・ジャズの要素を忍ばせている、そんな感じの内容。奥ゆかしいと言ったらよいのか、なんと言ったら良いのか(笑)。どっぷりソウル・ジャズに転身しないところが、シルヴァーの「矜持」だし、といって、趣味良く、当時の流行だったソウル・ジャズの要素を小粋に添加する。これもまたシルヴァーの「矜持」。

冒頭のタイトル曲「The Jody Grind」は、シルヴァー流ファンキー・ジャズの雰囲気を踏襲したジャズロック。ショウとワシントンの2管フロントが良い感じで飛ばす。2曲目の「Mary Lou」、続く「Mexican Hip Dance」辺りが、シルヴァー流の「ハードバップとモードのハイブリッドなファンキー・ジャズ」に、流行の色づけにソウル・ジャズの要素を忍ばせている、の部分。

俗っぽくなく、ソウルにどっぷり浸かること無く、シルヴァー流のファンキー・ジャズの「矜持」を持って、ソウル・ジャズの要素を趣味良く忍ばせる。これが、実にシルヴァーらしくて良い。ファンキー・ジャズを離れたシルヴァーはシルヴァーでは無い。このアルバムの様に、シルヴァー流ファンキー・ジャズに、奥ゆかしくソウル・ジャズの色づけをして、当時の流行に反応する。これが実に「粋」。
 
 

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2025年7月17日 (木曜日)

ホレス・シルヴァーの傑作の1枚『The Cape Verdean Blues』

ブルーノートの4200番台。ハードバップを基本として、聴き手のニーズに合わせた「ジャズ多様化」の時代は去り、1964年2月にビートルズが米国に上陸して以降、ロックやポップスが聴き手の心を掴む反面、その反動で、聴き手の「ジャズ離れ」が始まりだした時代に、4200番台は録音され、リリースされている。

1965年から1969年までのリリースになる。しばらくは、当ブログで記事にしていないアルバムの「落ち穂拾い」である。

Horace Silver『The Cape Verdean Blues』(写真左)。1965年10月1, 22日の録音。ブルーノートの4220番。

ちなみにパーソネルは、Horace Silver (p), Woody Shaw (tp), Joe Henderson (ts), J. J. Johnson (tb, tracks 4–6), Bob Cranshaw (b), Roger Humphries (ds)。10月22日のセッションでは、ジャズ・トロンボーンのレジェンド、J.J.ジョンソンがセッション参加している。

ワールド・ミュージック風のエキゾチックなメロディーをファンキー・ジャズにアレンジするのが得意なホレス・シルヴァー。僕はこのシルヴァーの「エキゾチックなメロディー」が大好きで、ジャズを本格的に聴き始めて頃以来、長年ずっと、お気に入りのピアニストの1人である。

前作『Song for My Father』同様、カーボベルデ生まれのシルヴァーの父、ジョン・タバレス・シルバにインスピレーションを得た、自身のルーツに立ち返った音世界を展開した企画盤的内容。
 

Horace-silverthe-cape-verdean-blues

 
例えば、冒頭のタイトル曲「The Cape Verdean Blues(ヴェルデ岬のブルース)」。シルヴァーの父君の出身地、カーボヴェルデ共和国に伝わる「ポルトガル民謡」をサウンドスケープをベースに、ブラジルのサンバと米国のブルースを掛け合わせたアレンジで整えられた、躍動感溢れる楽曲。異国情緒溢れる秀曲。

次の2曲目「The African Queen」は、アフリカ民謡からヒントを得て作曲された1曲とのこと。この曲では、若かりし頃のウディ・ショウのトランペットが印象的。ファンキーでブリリアントで骨太なブロウで、既にこの時点でショウのオリジナリティは確立されている。ファンキーな独特なモード・フレーズで応戦するジョーヘンも良い音を出している。

LP時代のB面、CDで4曲目から3曲は、ジャズ・トロンボーンのレジェンド、J.J.ジョンソンがセッション参加して、フロントが3管に増強されている。しかし、ビ・バップ時代からのトロンボーンのヴァーチュオーゾ、J.J.ジョンソンが、シルヴァー独特のファンキーでモーダルなフレーズを、いとも容易く演奏するとは思ってもみなかった。最初は誰か、さっぱり判らず、ライナーノーツをみて、J.J.ジョンソンの名前を見つけて驚いた次第。

4曲目の「Nutville」から、3管フロントの威力、重厚なユニゾン&ハーモニーが炸裂。アンサンブルも見事、シルヴァーのピアノが旋律楽器で参入すると、まるで「4管フロント」様に、更に重厚なユニゾン&ハーモニーが響き渡る。

クランショウのベース、ハンフリーズのドラムのリズム&ビートは、シルヴァーの考えるファンキーなモード・ジャズを鼓舞し、引き立てる。ファンキー仕立てのモーダルなフレーズ。そして、そこにワールド・ミュージック風のエキゾチックなメロディーが乗っかって、モード・ジャズの代表的展開の1つを聴かせてくれる。

この『The Cape Verdean Blues』、音楽的な個性と密度という点で、シルヴァーのアルバムの中で屈指の出来だと評価しています。良いアルバムです。
 
 

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2025年4月 3日 (木曜日)

BNらしい ”バードランドの夜”

レココレ誌の執筆陣が選んだ「ベスト100」。ブルーノート創立の1939年以降、ジャズの潮流が変わりつつある1968年までにリリースされたアルバムから、ブルーノートらしい「内容と音と響き」、そんな三拍子揃ったブルーノート盤の「ベスト100」を順に聴き直していく企画。今日はその「第21位」。

Art Blakey『A Night at Birdland vol.1』(写真)。邦題『バードランドの夜』。1954年2月21日、NYのジャズクラブ、バードランドでのライヴ録音。パーソネルは、Clifford Brown (tp), Lou Donaldson (as), Horace Silver (p), Curly Russell (b), Art Blakey (ds)。クリフォード・ブラウンのトランペット、ルー・ドナルドソンのアルト・サックスがフロント2管、シルヴァー=ラッセル=ブレイキーのリズム隊、併せて、クインテット編成。

ここで先に一言。この盤については、どのジャズ盤紹介本でも「ジャズの代表的な演奏トレンドであるハードバップの始まりを記録した盤」としている。いわゆる「ハード・バップ誕生の瞬間」を記録した歴史的名盤と評価されている。が、売り文句としては実にキャッチーな表現だが、この盤が記録したライヴ・パフォーマンスを境目に、ハードバップが一気に展開されていった訳ではない。

録音当時、この盤の様なハードバップな演奏が、NYの様々なライヴ・スポットで、演奏され始めていたのだろう。そんな、ビ・バップからハードバップへの「演奏トレンド」の進化を、ブルーノートの総帥プロデューサー、アルフレッド・ライオンはいち早く感じ取り、いち早く記録に留めたい、と思ったのだろう。そして、その企みは「大成功」。

まず、この盤、ライヴ盤というところが素晴らしい。スタジオ録音だと、何度か録り直しをして完成度を高めることができるので、どうしても「作り出した」感がつきまとう。しかし、ライヴ盤は違う。演奏の「一発録り」なので、臨場感が半端無く、やり直しができないので、この記録された音がその場で演奏された音そのもの、というリアリティーと説得力がある。
 

Art-blakeya-night-at-birdland-vol1  

 
しかし、このライヴ音源、どう聴いても、パッと集まってパッと演奏する、いわゆるジャム・セッション的な演奏では無い。演奏の完成度がとても高い。スタジオ録音に匹敵する完成度の高さ。

ブルーノートはスタジオ録音の場合、リハーサルを十分積むことを義務付けていて、しかもそのリハーサルにもギャラを払う、という徹底ぶり。そうやって、演奏の完成度の高さを担保しているのだが、この『バードランドの夜』も、ライヴではあるが、事前にリハーサル的なライヴを積み上げた結果である様に思う。

恐らく、バンドとしても、ブルーノートとしても、満を持してのライヴ録音だっただろう。録音隊のルディ・ヴァン・ゲルダーも、相当、気合を入れてのライヴ録音に感じる。ダイナミックレンジも申し分なく、楽器の音の生々しさも申し分無い。バードランドの会場の臨場感、空間の広がりも感じる絶妙な録音。音の響きは「ブルーノート・オリジナル」。

ビ・バップからハードバップへの「演奏トレンド」の進化を、スタジオ録音ではなくライヴ録音とし、臨場感とリアリティーと説得力を獲得(ブルーノートらしい内容)。そして、リハーサルを積んだ後の完成度の高い演奏を捉え(ブルーノートらしい音)、ルディ・ヴァン・ゲルダー本気のブルーノート・オリジナル」な音で記録する(ブルーノートらしい響き)。

このライヴ盤は、ブルーノートらしい「内容と音と響き」が、最高の形で整っている、モダン・ジャズの名盤の一枚である。そういう意味で、レココレ誌のブルーノート盤「ベスト100」の「21位」というのはいかがなものか。僕は、このライヴ盤は「第1位」でも良いと思っているし、せめて、ベスト10には必ず入る名盤と評価している。
 
 

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  ・イタリアン・プログレの雄「PFM」のアルバム紹介と
   エリック・クラプトンの一部のアルバム紹介を移行しました。

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2025年3月29日 (土曜日)

ブルーノートの専属ピアニスト

レココレ誌の執筆陣が選んだ「ベスト100」。ブルーノート創立の1939年以降、ジャズの潮流が変わりつつある1968年までにリリースされたアルバムから、ブルーノートらしい「内容と音と響き」、そんな三拍子揃ったブルーノート盤の「ベスト100」を順に聴き直していく企画。今日はその「第18位」。

Horace Silver『Song for My Father』(写真左)。1963年10月31日、1964年10月26日 の2回のセッションの寄せ集め。ちなみにパーソネルは、当然、以下の2つの編成に分かれる。

1963年10月31日の録音(#3, 6)が、Horace Silver (p), Blue Mitchell (tp), Junior Cook (ts), Gene Taylor (b), Roy Brooks (ds)。1964年10月26日(#1. 2. 4. 5)の録音が、Horace Silver (p), Carmell Jones (tp), Joe Henderson (ts), Teddy Smith (b), Roger Humphries (ds)。

ここでは、ブルーノートらしい「内容と音と響き」という切り口で、この『Song for My Father』を聴き直したのだが、このアルバムでは、ホレス・シルヴァーの「新しいファンキー・ジャズ」が存分に楽しめる。

ホレス・シルヴァーは、ブルーノート・レーベルの「ハウス・ピアニスト」。デビュー作『New Faces New Sounds (Introducing the Horace Silver Trio)』から、1980年リリースの『Silver 'n Strings Play the Music of the Spheres』まで、全リーダー作の37枚中26枚、約7割をブルーノートからリリースしている。
 

Songformyfather_1

 
シルヴァーの活動期のほとんどをブルーノートの「ハウス・ピアニスト」として君臨した訳で、ブルーノートのファンキー・ピアノは、シルヴァーのピアノが筆頭。1952年の録音から1978年の録音まで、シルヴァーのファンキー・ピアノの進化と変遷、バリエーションの全てが、ブルーノートのリーダー作を聴くことで把握することが出来る。

特に、1964年のセッションでは、シルヴァーのファンキー・ジャズの成熟を感じることが出来る。ポップでメジャーな雰囲気で開放感のあるファンキー・ジャズで、いわゆる「聴かせる」ファンキー・ジャズである。そして、その「聴かせる」ファンキー・ジャズの筆頭が、冒頭のタイトル曲「Song for My Father」。

一度聴いたら忘れない、とてもキャッチャーでポップで躍動感溢れるテーマが格好良い。この曲は「売れた」。ちなみに、このタイトル曲「Song For My Father」は、シルヴァーが自分の父親に捧げたもの。この盤のジャケ写の「帽子を被った葉巻のおじいさん」が、シルヴァーの父君そのものである。

ブルーノートは、ハウス・ミュージシャンに対して、彼らが望む、彼らがチャレンジするジャズを認めて、それを全面的に支援し、彼らの進化と変遷、バリエーションを実現する、ハウス・ミュージシャン・ファーストなレーベルだった。

そして、ハウス・ミュージシャンは、その恩義に報いる為、ブルーノートの収入の為にヒット曲を供給する。ホレス・シルヴァーをはじめとして、リー・モーガン然り、ジミー・スミス然り、アート・ブレイキー然り。つまりは、ブルーノートはジャズマン・ファーストなレーベル。だからこそ、1500番台から4000番台、4100番台、4200番台と、数々の名盤が好盤が生まれたのだ。
 
 

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2024年9月 6日 (金曜日)

僕なりのジャズ超名盤研究・27

この盤は、僕がジャズ者初心者の頃、よく聴いた。確か、当時、大手レコード屋が、ジャズ者初心者向けにアルバム紹介の冊子を配っていて、それをもらって、片っ端から「購入しては聴く」を繰り返していた。全40枚あったと思う。

そんな中に、このアルバムはあった。ジャケは「秋の公園のベンチで日向ぼっこをして寛ぐ老人の男性」の写真をあしらっていて、ちょっと違和感があったが、思い切って購入したのを覚えている。

Horace Silver『Song for My Father』(写真左)。1963年10月31日、1964年10月26日 の2回のセッションの寄せ集め。ここでは、CDリイシュー時のボートラの扱いは割愛する。ちなみにパーソネルは、当然、以下の2つの編成に分かれる。

1963年10月31日の録音(#3, 6)が、Horace Silver (p), Blue Mitchell (tp), Junior Cook (ts), Gene Taylor (b), Roy Brooks (ds)。1964年10月26日(#1. 2. 4. 5)の録音が、Horace Silver (p), Carmell Jones (tp), Joe Henderson (ts), Teddy Smith (b), Roger Humphries (ds)。

この盤の大ヒット・チューン、冒頭のタイトル曲「Song for My Father」は、1964年10月26日のパーソネルでの演奏。併せて、2曲目「The Natives Are Restless Tonight」、4曲目「Que Pasa」、5曲目「Que Pasa」も同じパーソネルでの演奏。カーメル・ジョーンズのトランペットが効いている。ねじれたモーダルな演奏に走らない、ストレートアヘッドなファンキー・テナーを聴かせるヘンダーソンも聴き逃せない。
 

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一方、3曲目「Calcutta Cutie」と5曲目は「Lonely Woman」は、1963年10月31日の録音で、パーソネルは、お馴染みの、ミッチェルのトランペット、クックのテナーがフロントの、伝説のシルバー・クインテット。手慣れた、聴き慣れた、シルバー流ファンキー・ジャズな音世界が広がる。

どちらのセッションの演奏も、どこか理知的な雰囲気が漂う、シルバー流のファンキー・ジャズなんだが、ファンキー度合いは、1964年のセッションの方が濃い。併せて、1964年のセッションは、ポップでメジャーな雰囲気で開放感がある。同じクインテットの演奏でも、1964年のセッションの演奏では、いわゆる「イメチェン」に成功している。

冒頭の「Song for My Father」が、かなりポップでコマーシャルなファンキー・ジャズなんだが、2曲目以降は、ジャズ者初心者が聴いても判り易い、理知的なシルバー流のファンキー・ジャズが続くので、アルバム全体に統一感もあって、よくまとまったシルバーのリーダー作だと思う。やはり、この盤は、ジャズ者初心者にピッタリのファンキー・ジャズ盤だと言える。

ちなみに、本作のタイトル曲「Song For My Father」はホレス・シルバーが自分の父親に捧げたもの。この盤のジャケ写の「帽子を被った葉巻のおじいさん」が実はホレス・シルヴァーの父君そのものである。

ブルーノート・レーベルって、モダン・ジャズの硬派でならしたレーベルなんだが、こういうジャケ写での「粋な計らい」をする、お茶目なレーベルでもある。
 
 

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2022年3月25日 (金曜日)

ホレスの「日本贔屓 (びいき)」盤

Horace Silver(ホレス・シルヴァー)ほど、ファンキーなピアノを弾き続けたピアニストはいないだろう。ファンキーなピアノというよりは、もはや「ホレス節」というほどの、マイナーでファンキーでダンサフルなピアノを弾きまくる訳で、ホレスのピアノは1曲聴けば「ああ、これはホレス・シルヴァー」のピアノと判る位に個性的なもの。これが「ホレス者(ホレス・シルヴァーのファン)」にとっては堪らないのだ。

Horace Silver『The Tokyo Blues』(写真左)。1962年7月13–14日の録音。ブルーノートの4110番。ちなみにパーソネルは、Horace Silver (p), Blue Mitchell (tp), Junior Cook (ts), Gene Taylor (b), Joe Harris (ds)。ミッチェルのトランペット、クックのテナー・サックスが2管フロントのクインテット編成。ホレス・シルヴァー・クインテットの黄金時代の一枚である。

ホレスは1962年1月、初来日公演を敢行、全国19もの会場で大成功を収め、以降、すっかり「日本贔屓(びいき)」になったらしい。この盤はその初来日公演の半年後の録音なので、その興奮冷めやらぬまま、タイトルも明確に「東京ブルース」。収録曲も「Too Much Sake(日本酒が過ぎる)」「Sayonara Blues(さよならブルース)」「The Tokyo Blues(東京ブルース)」「Cherry Blossom(桜)」「Ah! So(あっそう)」と日本を想起させるタイトルばかり。
 

The-tokyo-blues_horace-silver

 
洒脱なファンキー・ジャズが良い感じに響いている。「The Tokyo Blues」のエキゾティックな響きも良い感じだし、どの曲も大胆な展開をしつつも、要所要所は繊細にキメているところがこの盤の特徴的なところ。ホレス・シルヴァー・クインテットの演奏のレベルが一段上がった様な感じがする。曲のラストに、そこはかとなく「オリエンタルなフレーズ」が出てきたりするが、これがまったく違和感が無いところがホレスの作曲&アレンジの優れたところ。

ホレスの優れた作曲&アレンジによって、フロントのミッチェルのトランペット、クックのテナー・サックスも実に気持ち良く、吹きまくっている。溌剌として明るくて、それでいて、しっかりキメるとことはキメる、テクニック良く、メリハリの効いたブロウが実に良い感じ。ジーン・テイラーのベース、ジョー・ハリスのドラムのリズム隊も、ファンキーなリズム&ビートをキメにキメていて、とても良い感じのファンキー・ジャズ盤に仕上がっている。

1962年1月、初訪日した印象をホレスならではの解釈で、鯔背に粋にファンキーにキメてくれている盤。ジャケット写真も思いっ切り「日本風」に、しかもカラーでキメている。この盤、ホレスの初来日時の「感謝」をそこはかとなく感じるなあ。ちなみに、ジャケット写真の左側の女性は、出光佐三の四女で映像作家の出光真子さんです。NYの日本庭園での撮影とのこと。良いジャケットですね。
 
 

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