2024年7月 4日 (木曜日)

「後半のペッパー」の最初の傑作

天才アルト・サックス奏者、アート・ペッパー。1972年だったか、シナノンを正式に出所、ペッパーの「活動後期」が始まる。

そして、1975年8月、このケーニッヒ率いるコンテンポラリー・レーベルと契約を交わし、復帰後初のスタジオ録音を行う。『Living Legend』である。復帰後第一弾であるが故、慎重に誠実に着実にアルト・サックスを吹き進めていて、「後半のペッパー」の実力の半分くらいしか出ていないのがもどかしい。それでも、復帰後第一弾のリーダー作としては及第点。

Art Pepper『The Trip』(写真左)。 September 1976年9月15–16日の録音。1977年のリリース。ちなみにパーソネルは、Art Pepper (as), George Cables (p), David "Happy" Williams (b), Elvin Jones (ds)。

前作『Living Legend』から、バックのリズム・セクションは総入れ替え。目立つところでは、ピアノは後に”盟友”となるジョージ・ケイブルス。ドラムはポリリズミックなレジェンド・ドラマー、エルヴィン・ジョーンズ。

この「活動後期」のリーダー作第2弾で「後半のペッパー」のスタイル全開。「活動前期」のスタイルに比べて、覇気溢れアグレッシヴ、硬派で力感溢れるアドリブ展開、そして、時々、フリーにアブストラクトにブレイクし、スピリチュアルな響きを振り撒いたりする。

が、この盤での演奏については、決して感情のままに吹きまくるのでは無い。しっかり感情をコントロールし、抑制を効かせたフリーなブレイクダウン。端正でモーダルで、ハードバップな要素とフリーな要素が程よくハイブリッドした、当時のハードバップな演奏のトレンドにしっかり追従した、メインストリーム志向の純ジャズな展開。
 

Art-pepperthe-trip

 
基本はハードバップ、モーダルに展開し、時々、フリーにスピリチュアルにブレイクする。モーダルな展開は流麗でペッパーならではの展開。以前、どこかで聴いたモーダルな展開ではない。明らかに、ペッパーのオリジナル。フリーにスピリチュアルにブレイクするところは、しっかり感情コントロールされ、抑制が効いたもの。

ケイブルスのピアノとの相性が抜群に良い。「後半のペッパー」の特質を咄嗟に理解し、ペッパーと同様に「覇気溢れアグレッシヴ、硬派で力感溢れるアドリブ展開、そして、時々、フリーにアブストラクトにブレイクし、スピリチュアルな響きを振り撒く」ケイブルスのピアノは見事。

そこに、エルヴィンのポリリズミックはドラムが、様々なニュアンスのアクセントを付けていく。この盤でのエルヴィンのドラミングの貢献度は高い。

我が国の評論家筋から、なぜか「コルトレーンの物真似」なんていう難癖をつけられ、何かと問題にされる「後半のペッパー」盤だが、選曲も良く、それぞれの曲想に応じた、様々な表現を聴かせてくれるペッパーのアルト・サックスは「本物」である。

端正で、モーダルな展開のいマージネーションがユニークで豊か、抑制の効いたフリーなブレイク。この盤のペッパーのアルト・サックスは唯一無二であり、コルトレーンの物真似では決して無い。どこがコルトレーンの物真似なのか、良く判らない。

「後半のペッパー」は、「前半のペッパー」に、覇気溢れアグレッシヴ、硬派で力感溢れるアドリブ展開を付加し、モーダルで、ハードバップな要素とフリーな要素が程よくハイブリッドした、「前半のペッパー」からアップグレードしたペッパーである。そんな「後半のペッパー」の最初の成果が、この盤に溢れている。
 
 

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2024年7月 2日 (火曜日)

復帰後ペッパーの初リーダー作

天才アルト・サックス奏者、アート・ペッパーの活動時期について、薬物中毒者の為のリハビリテーション施設シナノンで過ごしたブランクの時期を境に、シナノン出所後を「後半のペッパー」とするのだが、確か、シナノンを正式に出所したのは1972年だったか、それでも出所後、そんなには世の中は甘く無かった訳で、すぐにはジャズ・シーンに戻れなかった。

それでも、シナノン療養所に入っていた時に、コンテンポラリー・レーベルの総帥プロデューサー、レスター・ケーニッヒがペッパーを訪問、復帰するよう励ました、という逸話が残っている。そして、ペッパーはその恩義に報いる様に、1975年8月、このケーニッヒ率いるコンテンポラリー・レーベルと契約を交わし、復帰後初のスタジオ録音を行う。

Art Pepper『Living Legend』(写真左)。1975年8月9日の録音。ちなみにパーソネルは、Art Pepper (as), Hampton Hawes (ac-p, el-p), Charlie Haden (b), Shelly Manne (ds)。ペッパーのワンホーン・カルテット。バックのリズム・セクションは、ウエストコースト・ジャズのレジェンド・ミュージシャンで固めている。ペッパーからすると、この人選はリラックス出来ただろう。ケーニッヒの粋な計らいである。

ここでのペッパーの吹奏は「後半のペッパー」のスタイル。覇気溢れアグレッシヴ、硬派で力感溢れるアドリブ展開、しかし、フリーにアブストラクトにブレイクダウンはしない。復帰後第一弾、しかも、有力ジャズレーベルのコンテンポラリーでの録音。失敗は許されない。と言って、「昔の名前で出ています」風に、ウエストコースト・ジャズのマナーに則った、流麗で歌心溢れる、聴いていて心地良く、心地良くスイングする「前半のペッパー」は、プロとして出来ない。
 

Art-pepperliving-legend

 
昔の「前半のペッパー」の雰囲気を少し漂わせながら、慎重に誠実に着実に、覇気溢れアグレッシヴ、硬派で力感溢れるアドリブ展開という「後半のペッパー」のスタイルで吹き進めるペッパーが愛おしい。本当は、フリーにアブストラクトにブレイクダウンし、スピリチュアルな響きを振り撒いたりしたいのだが、復帰後初のリーダー作である。とても慎重に吹き進めるペッパー。気持ちは判るなあ。

慎重に誠実に着実に、覇気溢れアグレッシヴ、硬派で力感溢れるアドリブ展開しているが、そのパフォーマンスの内容は良い。テクニック的にも「前半のペッパー」と比べて遜色は無いし、アドリブ・フレーズの流麗さについては、「前半のペッパー」を彷彿とさせる部分も多々登場する。ブロウが覇気溢れアグレッシヴ、硬派で力感溢れる内容に変化しているので、「前半のペッパー」をなぞっているのでは無い。この辺りにペッパーの矜持を強く感じる。

バックのリズム・セクションも「後半のペッパー」のスタイルを理解して、なかなか躍動感溢れるパフォーマンスで、ペッパーを支え鼓舞する。ホーズのエレピもなかなか味があって、そのホーズのエレピに絶妙に絡む、ベースの哲人ヘイデンのパフォーマンスも聴きもの。ドラムのマンは変幻自在なドラミングで、ペッパーの様々な表現に対して、的確に最適なリズム&ビートを供給する。

シナノン出所後、有力レーベル下での初のリーダー作なので、ペッパーは、とにかく慎重に誠実に着実にアルト・サックスを吹き進めていて、「後半のペッパー」の実力の半分くらいしか出ていないのがもどかしいが、テクニック含めて、水準以上のブロウをキープしているところは、さすが、天才アルト・サックス奏者、アート・ペッパーである。復帰後第一弾のリーダー作としては及第点だろう。
 
 

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2024年7月 1日 (月曜日)

ペッパーの復活直前のライヴ音源

さて、いよいよ、後期のアート・ペッパーのリーダー作を記事に上げていこうかと思う。

アート・ペッパーの活動時期は大きく2つに分かれる。1960年代後半、薬物中毒者の為のリハビリテーション施設シナノンで過ごしたブランクの時期を境に、1950年代~1960年代前半の「前半のペッパー」とする。そして、麻薬禍からの復活、後半のカムバック後、1970年代~亡くなる1982年までを「後半のペッパー」としている。

Art Pepper 『I'll Remember April : Live at Foothill College』(写真左)。1975年2月14日、Los AltosのFoothill Collegeのジムでの録音。ちなみにパーソネルは、Art Pepper (as), Tommy Gumina (polychord), Fred Atwood (b), Jimmie Smith (ds)。アート・ペッパーのワンホーン・カルテット。ペッパーのパフォーマンスの様子が良く判る演奏編成。

1960年代の終わりには、麻薬禍からの回復ステージに入ってはいたが、現在、正式盤として残された音源は、1968年11月録音の『Live at Donte's, 1968』。その後、この1975年の『I'll Remember April』まで、6年以上、残された録音は無い。このロスアルトスのフットヒル・カレッジのジムでの録音は、コンテンポラリー・レコードと契約する直前のライヴ録音になる。

まだ、有力なジャズ・レーベルと契約していない状態。ペッパー自体、ジャズ・シーンからも忘れられた存在なので、バックのメンバーはほぼ無名のミュージシャンばかり。よって、バッキングの演奏レベルは酷くは無いが中程度。
 

Art-pepper-ill-remember-april-live-at-fo  

 
キーボードはシンセで弾きまくっていて、1970年代の純ジャズの悪いところが揃っている。そして、録音場所が大学のジムらしく、録音状態は良くない。雑音が、というよりは、音がモワンと変に広がって、変なエコーがかかっている状態。

しかし、である。フロント1管のアート・ペッパーのアルト・サックスのパフォーマンスが素晴らしく良いのだ。やはり、シャバの空気はウマかったのか(笑)、覇気に満ちたノリノリの吹奏を聴かせてくれる。但し、活動時期の前半、ウエストコースト・ジャズのマナーに則った、流麗で歌心溢れる、聴いていて心地良く、心地良くスイングするペッパーの吹奏では全く無い。

覇気溢れアグレッシヴ、硬派で力感溢れるアドリブ展開、そして、時々、フリーにアブストラクトにブレイクダウンし、スピリチュアルな響きを振り撒いたりする。これを、以前では「コルトレーンの物真似」と切り捨てられているが、それは極端な評価だろう。フリーにアブストラクトにブレイクダウンはするが、そのフレーズもコルトレーンとは異なる。加えて、特にテーマ部の吹奏では、活動期前半の流麗で歌心溢れるフレーズもしっかり出てくる。

コルトレーンの物真似、というよりは、プレイする時点での感性に正直に従い、硬派にアグレッシヴに、フリーにアブストラクトに展開する側面を、活動期前半の「流麗で歌心溢れる、聴いていて心地良く、心地良くスイングする」ペッパーにアドオンしたとした方がしっくりくる。コルトレーン流に宗旨替えしたのではなく、アルト・サックス奏者としてアップグレードして、表現の幅が大きく広がった、と評価すべきかと思う。

そして、1975年8月、コンテンポラリー・レコードと契約し、活動期後期の最初のスタジオ録音盤『Living Legend』をリリースし、ペッパーは、やっと麻薬禍からの復活を遂げることになる。
 
 

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2024年3月19日 (火曜日)

未知のジャズ好盤 『Collections』

アート・ペッパーは、僕のお気に入りのアルト・サックス奏者の一人。ジャズを本格的に聴き始めた頃、 『Art Pepper Meets The Rhythm Section』に出会って以来、長年、ずっと「お気に入り」。

最近、当ブログにアルバム評をアップしたリーダー作を、ディスコグラフィーに照らし合わせてチェック。今回、この盤で、ペッパー前期(麻薬禍で収監され活動を停止した時期以前)の盤をほぼ押さえることができた。

Red Norvo, Art Pepper, Joe Morello and Gerry Wiggins『Collections』(写真左)。1957年1月3日、ロスでの録音。Red Norvo (vib), Art Pepper (as,on tracks 2, 5, 7 & 10, ts on track 1), Howard Roberts (g), Gerry Wiggins (p), Ben Tucker (b), Joe Morello (ds)。パーソネルを見渡し、この盤の音を聴けば、基本的に米国西海岸ジャズである。

この盤は一般的には知られていない盤だと思う。が、昔のジャズ本を紐解くと、スイングジャーナル1974年4月臨時増刊『幻の名盤読本』に、この盤の紹介がある。ただし、デイヴ・ブルーベックの相棒、名ドラマーの「ジョー・モレロ」の初リーダー作として、である。

演奏を聴いていて、そうかなあ、と思う。この盤のセッションにはリーダーはいなかったのではないか。演奏者が平等にソロ・パフォーマンスのスペースを与えられていて、演奏の基本は西海岸ジャズ。しっかりアレンジされ、そのアレンジに則った演奏である。モレロのリーダーとしての「音の方向性」の指示の結果とは思えない。
 

Red-norvo-art-pepper-joe-morello-and-ger

 
レッド・ノーボのヴァイブ、ハワード・ロバーツのギター、ジェリー・ウィギンスのピアノ、ベン・タッカーのベース、ジョー・モレロのドラムのクインテットに、アート・ペッパーがサックスでフロント参加、収録全10曲中、5曲に参加するという構成。

クインテットのみの演奏についても溌剌とした、内容充実な西海岸ジャズであるが、5曲のペッパーの参加が、さらにこの盤の演奏内容を充実させている。それほどに、ペッパーのパフォーマンスは充実している。

1曲目のペッパーの自作曲「Tenor Blooz」では、ペッパーはテナー・サックスを吹いている。ペッパーがテナーを吹くのか、とも思うのだが、出てくるフレーズは明らかに「ペッパー節」。ただ、テナーの音程での「ペッパー節」はちょっとうるさく響いて、僕には「トゥー・マッチ」(笑)。張り切っているんでしょうが、ねえ。

しかし、本業のアルト・サックスに持ち替えた残りの参加4曲、「You're Driving Me Crazy」「Pepper Steak」「Yardbird Suite」「Straight Life」では、流麗でユニーク、聴き応えのある、素晴らしいアドリブ・フレーズを展開する。とりわけ、スタンダード曲でのパフォーマンスは秀逸。十八番の「Straight Life」は見事。

「イントロ」というマイナー・レーベルからのリリースで、典型的な西海岸ジャズのジャム・セッション盤だが、ペッパー参加が素晴らしいところから「幻の名盤」して、以前、注目されていた盤。ペッパーのディスコグラフィーにも、リーダー作の範疇に当盤のタイトルが上がっているものが多い。

今回、久々に見つけて聴き直してみたが、「名盤」というほどではないにしろ、内容充実の典型的な西海岸ジャズに、ペッパーのサックスが秀逸。「未知のジャズ好盤」として、鑑賞に十分耐える内容。楽しめました。
 
 

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2024年2月24日 (土曜日)

復活直後の『Live at Donte’s』

1960年代後半、薬物中毒者の為のリハビリテーション施設シナノンで過ごしたブランクの時期を境に、1970年代〜亡くなる1982年までの活動期間を「後半のペッパー」 とするが、このライヴ音源は「後半のペッパー」の予告編的な演奏内容が記録されている。

Art Pepper Quintet『Live at Donte's, 1968』(写真)。1968年11月24日、ハリウッド「Donte」でのライヴ音源。ちなみにパーソネルは、Art Pepper (as), Joe Romano (ts), Frank Strazzeri (p), Chuck Berghofer (b), Nick Ceroli (ds)。

このライヴ録音の時期は、ペッパーはシナノンを出て、バディ・リッチ楽団で演奏を始めたところ、脾臓破裂の大手術を受け生死を彷徨った後、そんなに時間が経っていない頃ではないかと思われる。

確かに、ペッパーの吹き回しは、ちょっと元気が無い。逆に、フロント管の相方、ジョー・ロマーノのテナー・サックスがやけに元気一杯で、自由奔放、豪快でアグレッシヴな吹き回しは五月蝿いくらい。

演奏途中でのフェードアウトや,若干の音の欠落等もあって、音源の完成度としては「イマイチ」だが、テープ音源でありながら、音質はそこそこのレベルを維持しているので、「後半のペッパー」の特徴である、力強いバップで流麗なフレーズと、ややフリーキーなアグレッシヴでエモーショナルなフレーズが混在する吹き回しが良く判る。
 

Art-pepper-quintetlive-at-dontes-1968

 
ややフリーキーなアグレッシヴでエモーショナルなフレーズは、明らかにコルトレーンの影響が明らかなんだが、意外とこなれていて、コルトレーンのコピーには陥っていない。既に、ペッパー流のアグレッシヴな吹き回しになっているところが流石だなあ、と感心するところ。

もともと、メロディアスに流麗に吹き回すテクニックについては、「前半のペッパー」の最大の特徴だったのだが、「後半のペッパー」では、前半の「メロディアス」の部分が「力強いバップ」な吹き回しになっている。

ただ「流麗」なところは変わらないので、「後半のペッパー」は突如、演奏スタイルを180度変えた訳ではない。テクニック優秀、流麗な吹き回しの部分は「前半のペッパー」と変わらない。

つまりは「前半のペッパー」は、米国ウエストコースト・ジャズの音世界でのペッパーのパフォーマンスで、「後半のペッパー」は、コルトレーン後の、1970年代のモード・ジャズの音世界でのペッパーのパフォーマンスだった、ということで、「前半のペッパー」と「後半のペッパー」との優劣をつけることはナンセンス。どちらもペッパーで、どちらも僕からすると優れたペッパーである。

演奏曲はスタンダード曲がメインだが、このスタンダード曲についても、ペッパー流のアグレッシヴな吹き回しが、コルトレーン後の、1970年代のモード・ジャズな吹き回しで、決して懐メロ風には陥らず、当時として、時代の先端を行く、挑戦的な展開になっているのは立派。

このライヴ音源を聴くと、ペッパーは進化するタイプのジャズマンだったことが良く判る。
 
 

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2024年2月 7日 (水曜日)

常態のペッパー『Smack Up』

伝説のアルト・サックスの天才奏者「アート・ペッパー(Art Pepper)」。彼のキャリアの最大の特徴は「ジャンキー(麻薬中毒者)」であったことだろう。ペッパーのディスコグラフィーを振り返ってみると、初リーダー作が1956年の録音。それから1960年の録音までが、アート・ペッパーの活動前期と定義して良い。

アート・ペッパーの活動前期は、1950年代半ばから薬物関連の懲役刑のため何度も活動が中断、刑務所から出てきた時にリーダー作を録音するといった状況で、1960年代半ばにはシーンから姿を消すことになる。そして、1960年代後半は麻薬更正施設「シナノン療養所」に入所している。

Art Pepper『Smack Up』(写真左)。1960年10月24–25日の録音。Contemporaryレーベルからのリリース。トナミにパーソネルは、Art Pepper (as), Jack Sheldon (tp), Pete Jolly (p), Jimmy Bond (b), Frank Butler (ds)。ペッパーのアルト・サックスとシェルダンのトランペットが2管フロントのクインテット編成。

このアルバムは録音時点でほどなく正式リリースされている、アート・ペッパーの活動前期の最後に位置するリーダー作。収録曲は正式には全6曲。ペッパーの自作曲は1曲のみ。渋めのスタンダード曲が1曲。他の4曲は当時の「ミュージシャンズ・チューン」。1960年の録音で、オーネット・コールマンの曲「Tears Inside」を収録しているところが興味深い。この1960年時点で、ペッパーはフリー・ジャズに興味を示していた、とも捉えられる。
 

Art-peppersmack-up 

 
さて、このアルバムでのペッパーのアルト・サックスは好調。クールにエモーショナルに流麗にアルト・サックスを吹き進めている。落ち着いたアドリブにも、ペッパーらしいセンスの良さが感じられるし、楽器も良くなっているし、テクニックも揺るぎがない。恐らく、刑務所から出てきた時のペッパーは「常態」にあったのだろう。そんな「常態」での落ち着いた、天才の閃きの様なアドリブ・フレーズを披露している。

この「常態」でのペッパーを「沈滞している」と評する向きもある。が、元々、名盤の誉高い『Surf Ride』や『Meets the Rhythm Section』での「躁状態」にある様な根明で強烈な吹き回しについては、ペッパーは麻薬を「ばっちりキメて」吹いていたのでないか、と疑っているので、僕はそれらがペッパーの「真のベスト」とは感じていない。確かに凄い吹き回しではあるのだが....。「常態」での根明で強烈な吹き回しについては、アート・ペッパーの活動後期の特徴になる。これについては、また後日に語りたい。

さて、この『Smack Up』に話を戻すと、この盤のセッションについては、バックのリズム・セクションについても、なかなか好調なパフォーマンスを聴かせてくれる。特に、ピート・ジョリーのピアノが好調。ボンドのベース、バトラーのドラムも堅実なサポート。そうそう、フロント管の相棒、シェルダンのトランペットもなかなか。そう思って聴きながらパーソネルを改めて見渡すと、当時、ウエストコースト・ジャズの代表的ジャズマンが一堂に会しているではないか。良いはずである。

この『Smack Up』、ペッパーの活動前期の「最後の佳作」。「常態のペッパー」の落ち着いたクールな吹き回しを「沈滞している」として遠ざけるには勿体無い。ペッパーの活動前期の「常態のペッパー」のアルト・サックスを十分に楽しめる好盤です。
 
 

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2023年6月18日 (日曜日)

ペッパーとペイチのジャズ・オケ 『Art Pepper + Eleven』

アート・ペッパーの活動時期は2つに分かれる。1960年代後半、薬物中毒者の為のリハビリテーション施設シナノンで過ごしたブランクの時期を境に、1950年代〜1960年代前半の「前半のペッパー」と、後半のカムバック後、1970年代〜亡くなる1982年までの「後半のペッパー」とに分かれる。

「前半のペッパー」は、米国ウエスコトースト・ジャズの全盛期、米国西海岸を中心に活動している。当時のウエストコースト・ジャズの特徴は「聴かせるジャズ」。優れたアレンジを施し、ユニゾン&ハーモニー、アンサンブルは小粋に流麗に響く。

そんな「聴かせる」プロフェッショナルな演奏をバックに、フロント管はハイ・テクニックで歌心溢れる即興ソロをとる。聴き手に訴求する、聴き心地良く、聴き応えがあるジャズである。

『Art Pepper + Eleven』(写真左)。1959年3月と5月の録音。米国西海岸ジャズの主力レーベル、コンテンポラリー・レコードからのリリースになる。

ちなみにパーソネルは、Art Pepper (as, ts, cl), Pete Candoli, Al Porcino, Jack Sheldon (tp), Dick Nash (tb), Bob Enevoldsen (valve-tb, ts), Vincent DeRosa (french horn), Herb Geller, Bud Shank, Charlie Kennedy (as), Bill Perkins, Richie Kamuca (ts), Med Flory (bs), Russ Freeman (p), Joe Mondragon (b), Mel Lewis (ds), Marty Paich (arr, cond)。
 

Art-pepper-plus-eleven

 
マーティ・ペイチのアレンジの下、11人の共演者のをジャズ・オーケストラに、ビ・バップからクール・ジャズまで、ジャズ・スタンダード曲をメインに、アート・ペッパーがアルト・サックスを吹きまくった傑作。といっても、パーソネルを見ると、共演者は15人ほどいるみたいだが、マーティ・ペイチのアレンジによるジャズ・オーケストラをバックにしているのには変わりは無い。

アート・ペッパーのアルト・サックスは、マーティ・ペイチのバンド・アレンジと相性が良い。というか、ペイチがペッパーのアルト・サックスを最大限に引き立てるアレンジを考え抜いて、音にしたのではないか、と思えるほど、見事にペッパーのアルト・サックスを引き立てている。

「前半のペッパー」は、流麗かつメロディアスで歌心溢れるアドリブ・フレーズを吹きまくる、孤高のアルト・サックスといった風情がとても格好良かった。この盤でも、有名なジャズ・スタンダード曲を、ペイチの優れたアレンジのジャズ・オーケストラの演奏に乗って、素晴らしいパフォーマンスを聴かせてくれている。

米国ウエストコースト・ジャズの精鋭達が集ったバックのジャズ・オーケストラの演奏が霞んでしまうほど、この盤でのペッパーのアルト・サックスは唄っている。ペッパーお決まりのアクセント、そして、スッと伸びたブリリアントなトーンで聴く者を魅了する。
 
 

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2023年6月10日 (土曜日)

前半のペッパーの名盤の1枚 『The Art of Pepper』

アート・ペッパーは、1960年代後半、薬物中毒者の為のリハビリテーション施設シナノンで過ごした。この長いブランクを境に、1950年代〜1960年代前半の「前半のペッパー」と、後半のカムバック後、1970年代〜亡くなる1982年までの「後半のペッパー」とに分かれる。最近、この「前半のペッパー」のリーダー作を聴き直している。

Art Pepper『The Art of Pepper』(写真左)。1957年4月の録音。ちなみにパーソネルは、Art Pepper (as), Carl Perkins (p), Ben Tucker (b), Chuck Flores (ds)。バックのリズム・セクションに、米国ウエストコースト・ジャズの名手が集う、アート・ペッパーのアルト・サックスの1管フロントの「ワンホーン・カルテット」編成。

オリジナル盤は、アラジン・レーベルへ録音されたものの同社の倒産により、オメガ・レコードより「オープンリール・テープ」で発売という形でリリースされた、とても珍しい音源。当然、リリースされた盤の数も少なく、当時から「幻の名盤」扱いだった珍品。我が国では、トリオ・レコードから、LP2枚に分けてリリースされ、CDでのリイシューでコンプリート盤が出されて、今では我々一般でも入手可能なっている。

ペッパーのアルト・サックスについては、名盤『Modern Art』に良く似た雰囲気。ペッパーのアルト・サックスは流麗そのもの。アドリブ・フレーズも創造性に富んでいて、聴いていてとても楽しい。特にブルース曲における、ペッパーのブルース・フィーリングは秀逸。ペッパーのアルト・サックスは、ファンキーというよりは「ブルージー」。ペッパーのアルト・サックスの個性を強烈に感じる。
 

Art-pepperthe-art-of-pepper

 
バックのリズム・セクションのパーソネルを見ると、米国ウエストコースト・ジャズの名手が控えていて、パーキンスのピアノ、タッカーのベース、フローレスのドラムと、西海岸ジャズらしい、洗練されて小粋で「聴かせる」リズム&ビートを繰り出している。そんな西海岸ジャズ独特のリズム&ビートに乗って、流麗で歌心溢れる「聴かせる」アルト・サックスを、ペッパーは吹きまくる。

ワンホーン・カルテットという編成もあって、この盤でのペッパーは、バックのリズム・セクションとの小粋なインタープレイを楽しむというよりは、自分自身のアルト・サックスを、西海岸ジャズがベースの中で、如何に流麗に、如何にテクニック良く、如何に「聴かせる」か、のみを追求している様に感じる。それだけ、このワンホーン・カルテット盤では、ペッパーのアルト・サックスが目立ちに目立っている。

ジャズ者ベテランの方々が言う「前半のペッパー」は円熟した流麗なメロディストなので良い、というのは、ペッパーは米国ウエストコースト・ジャズをメインに活動〜録音していたので、ウエストコースト・ジャズの個性である、しっかりアレンジされた、流麗で小粋で、聴衆に「聴かせる」ジャズ、を、ペッパーはアルト・サックスで実践していたからなのでは、と僕は思うのだ。

とにかく、この当時の「幻の名盤」であった『The Art of Pepper』は、幻ではなくなった今では「名盤」。米国ウエストコースト・ジャズの名手がリズム・セクションを担っている分、僕は、東海岸のリズム・セクションと組んだ、名盤の誉れ高い『Meets the Rhythm Section』よりも僕は内容は濃い、と思っている。ペッパーのみならず、バックのリズム・セクションも含めて、この盤は「前半のペッパー」を代表する名盤の1枚だと思う。 
 
 

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  ・『AirPlay』(ロマンチック) 1980

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2023年6月 9日 (金曜日)

前半のペッパーの成熟を感じる 『Intensity』

ジャズを本格的に聴き始めた頃、今を去ること40年以上前から、アート・ペッパーがずっとお気に入りのジャズマンである。振り返れば『Art Pepper Meets the Rhythm Section』(1957年, Contemporary)を聴いて、一発でお気に入りになった。そして『Among Friends』(1978年, Interplay)で確信に変わり、以来「ペッパー者」として、リーダー作を追いかけてきた。

アート・ペッパーは、1960年代後半を薬物中毒者のためのリハビリテーション施設シナノンで過ごした。この長いブランクを境に、前半のペッパーと後半のカムバック後のペッパーとに分かれる。

前半のペッパーは「米国ウエストコーストのハードバップ」で、後半のペッパーは「コルトレーン・マナーなモード・ジャズ」。ただし、流麗でハイテクニックな吹き回しは前後半共通で、どちらが優れているか、なんていう不毛な議論もあった様だが、前半のペッパーも、後半のペッパーも「ペッパーそのもの」。

Art Pepper『Intensity』(写真左)。1960年11月23–25日の録音。Contemporaryレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Art Pepper (as), Dolo Coker (p), Jimmy Bond (b), Frank Butler (ds)。米国西海岸ジャズ時代、いわゆる「前半のペッパー」。ペッパーがフロント1管の「ワンホーン・カルテット」である。
 

Art-pepper_intensity

 
「前半のペッパー」は押し並べて、ペッパーのブロウだけを楽しめる内容のリーダー作が多いのだが、この盤はまさに「それ」。もともと「ワンホーン・カルテット」なので、ペッパーのアルト・サックスが目立つが、ピアノ以下のリズム隊は米国西海岸ジャズ畑からのメンバーだが少し地味なので、聴きどころは「ペッパーのアルト・サックス」のみ、な内容。

冒頭の「I Can't Believe That You're in Love with Me」を聴けば、ベースをバックにペッパーのアルト・サックスがスッと入ってきて、すぐにドラムが加わり、やがてピアノも加わり、バンド全体で、米国西海岸ジャズ独特の、聴き応えのあるアンサンブルへ展開。その後、ペッパーの流麗で力強く軽快なアドリブ・フレーズがブワーッと吹き上げられる。ペッパーのアルト・サックスの印象が強く残るアレンジと構成が見事。

他の曲でもペッパーのアルト・サックスは好調。お洒落で小粋で軽快なフレーズをバンバン吹き上げている。フレーズについては、ペッパーの手癖に近いものがメインなので、聴けば直ぐにペッパーだと判るし、この1960年の録音時点で、「米国ウエストコーストのハードバップ」なペッパーのアルト・サックスは成熟し切っている。

この盤を録音した頃は、ペッパーは既に重度の麻薬中毒状態で、さんざんな生活を送っていた時期。それでも、録音の時には何とかシャンとしていた様で、この盤でも、麻薬禍などという状況は微塵も感じさせること無く、お洒落で小粋で軽快なフレーズを好調に吹きまくっている。「前半のペッパー」の演奏家としての成熟を感じ取ることが出来る好盤だと思います。
 
 

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  ・『AirPlay』(ロマンチック) 1980

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2021年8月17日 (火曜日)

僕なりのジャズ超名盤研究・3 『Surf Ride』

「僕なりの超名盤研究」の第3回目。僕はジャズを聴き始めた頃から、アルト・サックスと言えば「アート・ペッパー(Art pepper)」がお気に入り。1925年、米国カリフォルニア出身、破滅型のジャズ・レジェンド。麻薬禍との葛藤の中、刑務所に出たり入ったり。そんな劇的な人生の中で、多くのジャズ名盤を残しつつ、1982年6月、56歳で鬼籍に入っている。

ペッパーのアルト・サックスは「力強くて流麗」。力感溢れる、しっかりとした吹きっぷりだが、出てくるアドリブ・フレーズは「流麗」。アルト・サックスがフルフルで良く鳴っている。ペッパーのアルト・サックスによる「力強くて流麗」なアドリブ・フレーズは、何時聴いても「惚れ惚れ」する。

1960年代後半、薬物中毒者のためのリハビリテーション施設シナノンに収監されるが、その前後で、ペッパーの演奏スタイルは180度変わるとされるが、僕はそうとは思わない。

シナノン収監前は、典型的な米国西海岸ジャズ、西海岸のハードバップなスタイル。シナノン収監後は、コルトレーンのフォロワーとして、フリーキー&スピリチュアルな吹奏が加わるが、どちらの演奏スタイルも根っ子は「力強くて流麗」なアルト・サックス。シナノン収監後は、演奏スタイルの幅が広がったと解釈すべきだろう。
 

Surf_ride

 
そんなペッパーのシナノン収監前の名盤が、Art Pepper『Surf Ride』(写真左)。1952年3月の録音。アート・ペッパーの初リーダー作である。ちなみにパーソネルは、Art Pepper (as), Hampton Hawes (p), Joe Mondragon (b), Larry Bunker (ds)。アート・ペッパーのアルトのワンホーン作である。

アルバムの内容は聴けば判る、典型的な米国西海岸ジャズ。ほど良いアレンジが施された「聴かせるジャズ」である。ペッパーの「力強くて流麗」なアルト・サックスが、この米国西海岸ジャズの特徴である「聴かせるジャズ」に拍車をかける。収録された全ての曲において、ペッパーのアルト・サックスの「力強くて流麗」な吹きっぷり、「力強くて流麗」なアドリブ・フレーズが印象に強く残る。

加えて、このアルバムの演奏を聴くと、米国西海岸ジャズの特徴と個性がとてもよく判る。良くアレンジされた構成。響きが心地良いユニゾン&ハーモニー。演奏の質は中音域を十分に活かして「軽やか」。アドリブ・フレーズは「小粋で洒脱」。ポップで聴き心地の良いアンサンブル。米国西海岸ジャズの好例としてもお勧め。

『Surf Ride』=「波乗り」=黄色ビキニのお嬢さん、的なイラスト・ジャケット。いや〜、飛び切り「アメリカン」である。初めて目にした時には「ドン引き」したなあ。が、このジャケットに臆すること無く、この盤はジャズ者万民の方々に聴いて欲しい超名盤である。
 
 
 
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  ・The Brothers Johnson『Light Up the Night』&『Winners』

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  ・『ヘンリー8世と6人の妻』を聴く

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  ・伝説の和製プログレ『四人囃子』

 
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