「後半のペッパー」の最初の傑作
天才アルト・サックス奏者、アート・ペッパー。1972年だったか、シナノンを正式に出所、ペッパーの「活動後期」が始まる。
そして、1975年8月、このケーニッヒ率いるコンテンポラリー・レーベルと契約を交わし、復帰後初のスタジオ録音を行う。『Living Legend』である。復帰後第一弾であるが故、慎重に誠実に着実にアルト・サックスを吹き進めていて、「後半のペッパー」の実力の半分くらいしか出ていないのがもどかしい。それでも、復帰後第一弾のリーダー作としては及第点。
Art Pepper『The Trip』(写真左)。 September 1976年9月15–16日の録音。1977年のリリース。ちなみにパーソネルは、Art Pepper (as), George Cables (p), David "Happy" Williams (b), Elvin Jones (ds)。
前作『Living Legend』から、バックのリズム・セクションは総入れ替え。目立つところでは、ピアノは後に”盟友”となるジョージ・ケイブルス。ドラムはポリリズミックなレジェンド・ドラマー、エルヴィン・ジョーンズ。
この「活動後期」のリーダー作第2弾で「後半のペッパー」のスタイル全開。「活動前期」のスタイルに比べて、覇気溢れアグレッシヴ、硬派で力感溢れるアドリブ展開、そして、時々、フリーにアブストラクトにブレイクし、スピリチュアルな響きを振り撒いたりする。
が、この盤での演奏については、決して感情のままに吹きまくるのでは無い。しっかり感情をコントロールし、抑制を効かせたフリーなブレイクダウン。端正でモーダルで、ハードバップな要素とフリーな要素が程よくハイブリッドした、当時のハードバップな演奏のトレンドにしっかり追従した、メインストリーム志向の純ジャズな展開。
基本はハードバップ、モーダルに展開し、時々、フリーにスピリチュアルにブレイクする。モーダルな展開は流麗でペッパーならではの展開。以前、どこかで聴いたモーダルな展開ではない。明らかに、ペッパーのオリジナル。フリーにスピリチュアルにブレイクするところは、しっかり感情コントロールされ、抑制が効いたもの。
ケイブルスのピアノとの相性が抜群に良い。「後半のペッパー」の特質を咄嗟に理解し、ペッパーと同様に「覇気溢れアグレッシヴ、硬派で力感溢れるアドリブ展開、そして、時々、フリーにアブストラクトにブレイクし、スピリチュアルな響きを振り撒く」ケイブルスのピアノは見事。
そこに、エルヴィンのポリリズミックはドラムが、様々なニュアンスのアクセントを付けていく。この盤でのエルヴィンのドラミングの貢献度は高い。
我が国の評論家筋から、なぜか「コルトレーンの物真似」なんていう難癖をつけられ、何かと問題にされる「後半のペッパー」盤だが、選曲も良く、それぞれの曲想に応じた、様々な表現を聴かせてくれるペッパーのアルト・サックスは「本物」である。
端正で、モーダルな展開のいマージネーションがユニークで豊か、抑制の効いたフリーなブレイク。この盤のペッパーのアルト・サックスは唯一無二であり、コルトレーンの物真似では決して無い。どこがコルトレーンの物真似なのか、良く判らない。
「後半のペッパー」は、「前半のペッパー」に、覇気溢れアグレッシヴ、硬派で力感溢れるアドリブ展開を付加し、モーダルで、ハードバップな要素とフリーな要素が程よくハイブリッドした、「前半のペッパー」からアップグレードしたペッパーである。そんな「後半のペッパー」の最初の成果が、この盤に溢れている。
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