2024年11月24日 (日曜日)

ブルーノートの ”先取気質” を聴く

ブルーノートの、創立以降、ジャズの潮流が変わりつつあった1968年までにリリースされたアルバムから、レココレ誌の執筆陣が選んだ「ベスト100」。ブルーノートらしい内容、音、響き。そんな三拍子揃ったブルーノート盤の「ベスト100」。今日はその「第7位」。

Thelonious Monk 『Genius of Modern Music Vol.1』。1947年10月15日、1947年10月24日、1947年11月21日、1948年7月2日の4セッションからのピックアップ。パーソネルは以下の通り。

1947年10月15日は、Thelonious Monk (p), Idrees Sulieman (tp), Danny Quebec West (as), Billy Smith (ts), Gene Ramey (b), Art Blakey (ds)。演奏曲は、7曲目「Thelonious」、12曲目 「Humph」。

1947年10月24日は、Thelonious Monk (p), Gene Ramey (b), Art Blakey (ds)。演奏曲は、2曲目「Off Minor」、3曲目「Ruby My Dear」、5曲目「April In Paris」、10曲目「Well You Needn't」、11曲目「Introspection」。

1947年11月21日は、Thelonious Monk (p), George Taitt (tp), Sahib Shihab (as), Bob Paige (b), Art Blakey (ds)。演奏曲は、1曲目「 'Round About Midnight」、6曲目「 In Walked Bud」。

1948年7月2日は、Milt Jackson (vib), Thelonious Monk (p), John Simmons (b), Shadow Wilson (ds)。演奏曲は、4曲目「I Mean You」、8曲目「Epistrophy」、9曲目「Misterioso」。

セロニアス・モンクのピアノの強烈な個性をいち早く見出し、録音したブルーノート・レーベル。初録音は1947年に遡る。ブルーノート・レーベルの設立が1939年だから、設立後8年でモンクの音を記録している。

1947年と言えば、ビ・バップ創生期。そんな時代にあまりに個性的なモンクのピアノ。まだ、レーベル経営が軌道に乗っていない時期に、そんな「個性的でユニーク過ぎる」モンクの音を記録しているのだから、ブルーノートの総帥プロデューサー、アルフレッド・ライオンの慧眼と判断力&行動力「恐るべし」である。
 

Monkgeniusofmodernmusicvol1

 
モダン・ジャズの最高の奇才、セロニアス・モンク。モンクのピアノの個性は強烈かつユニーク。スクエアにスイングし、フレーズは幾何学的に飛ぶ。そして、独特のタイム感覚。休符の置き方、テンポ、どれもがユニーク。クラシックの理路整然とした音とは「正反対の音」。クラシックからの影響は微塵も無い。ジャズだけ、から生まれた、モダン・ジャズの最高の個性。

このブルーノート盤では、そんなモンクの強烈かつユニークな個性のピアノを確実に誠実に記録している。一曲一曲の収録時間は短い。しかし、モンクのピアノは既にその個性を確立していることが直ぐに判る。

4つのセッションの寄せ集めだが、この盤は「モンクのピアノだけを聴くべき」アルバムである。そういう意味では、どのセッションでも、モンクの個性は平準化されているので、セッション毎について、セッション間についての違和感は全く無い。モンクの強烈かつユニークな個性のピアノで、アルバム全体の統一感をバッチリ出している。

収録曲はモンクの自作曲で統一され、モンク独特のアレンジで統一されている。このモンクの自作曲が実に個性的で、ジャズ的に「美しい」。収録された自作曲を見渡すと、後のミュージシャンズ・チューンとなって、最終的にはスタンダード曲化する。この盤では、モンクの自作曲の中でも特に有名となる曲が軒並みチョイスされている。

そして、モンクの独特かつユニークな個性のピアノには、やはり、モンク自身のアレンジが一番映える。モンク自身が、自身の個性を理解しつつ、その個性を際立たせる、自身によるアレンジ。この盤は「モンクの作曲力とアレンジ力を聴くべき」アルバムでもある。

ただし、この盤に記録された、モンクの独特かつユニークな個性のピアノは、その出来栄えとしては「原石レベル」であり、これから磨きがかかってさらに輝きを増す直前の「原石レベル」の音の個性。モンクの決定的名演は、のちのリヴァーサイド・レーベルの諸作を待たなければならない。

セロニアス・モンクの最初期の名盤である。セロニアス・モンクの個性の原石を強烈に感じること出来る、ブルーノートの素晴らしい「お仕事」。この盤は、ブルーノート・レーベルが持つ、独特の「先取気質」を強烈に感じ取ることが出来る盤と言える。
 
 

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2024年3月 9日 (土曜日)

Genius of Modern Music Vol.2

セロニアス・モンク(Thelonious Monk)。モダン・ジャズの最高の才能、最高の奇才。モンクのピアノは強烈な個性。スクエアにスイングし、フレーズは幾何学的に飛ぶ。クラシック・ピアノの正反対の「音」。クラシック・ピアノの影響は微塵も無い。ジャズから生まれた、ジャズの最高の個性。

Thelonious Monk 『Genius of Modern Music Vol.2』(写真左)。録音日とパーソネル、演奏曲は以下の通り。

1947年10月15日は、Thelonious Monk (p), Idrees Sulieman (tp), Danny Quebec West (as), Billy Smith (ts), Gene Ramey (b), Art Blakey (ds)。演奏曲は、5曲目「Suburban Eyes」、6曲目「Evonce」。

1947年10月24日は、Thelonious Monk (p), Gene Ramey (b), Art Blakey (ds)。演奏曲は、9曲目「Nice Work」。

1947年11月21日は、Thelonious Monk (p), George Taitt (tp), Sahib Shihab (as), Robert Paige (b), Art Blakey (ds)。演奏曲は、10曲目「Monk's Mood」、11曲目「Who Knows」。

1951年7月23日は、Thelonious Monk (p), Sahib Shihab (as, except "Ask Me Now"). Milt Jackson (vib, except "Ask Me Now"), Al McKibbon (b), Art Blakey (ds)。演奏曲は、7曲目「Straight No Chaser」、8曲目「Four In One」、12曲目「Ask Me Now」。

1952年5月30日は、Thelonious Monk (p), Kenny Dorham (tp), Lou Donaldson (as), Lucky Thompson (ts), Nelson Boyd (b), Max Roach (ds)。1曲目「Carolina Moon」、2曲目「Hornin' In」、3曲目「Skippy」、4曲目「Let's Cool One」。
 

Monk-genius-of-modern-music-vol2

 
Vol .1に続いて、こちらは、5つのセッションからの曲の寄せ集め、しかも、大体がクオリティの落ちがちな「Vol.2」。今度こそ、統一感とかトーンの整合性とか、全く無視しているんじゃないか、と思うんだが、この「Vol.2」も、アルバム全体に統一感がバッチリ、演奏のトーンや内容も違和感は全く無い。

Vol.1と同様に、モンクのピアノの突出した個性、モンク独特のアレンジが、アルバム全体の統一感、演奏のトーンや内容を決定づけている。モンクの強烈個性のピアノとアレンジだけが、演奏の全面に出てきて、他の演奏者の音や個性に、アルバム全体の統一感、演奏のトーンや内容が影響されることが全く無い。

この「Vol.2」は、Vol .1と同様、収録曲はモンクの自作曲、モンク独特のアレンジで統一されている。曲名を見渡すと、Vol .1に比べるとマイナーな曲が多くなっているが、それでも「Monk's Mood」「Straight No Chaser」など、最終的にはスタンダード曲化する、モンクの自作曲の中でも特に有名となる曲も散見される。

マイナーな曲が多いとはいえ、そこは「モンクの自作曲」、ちょっと不思議なフレーズ、幾何学的に飛ぶ音、耳あたりの良い不協和音、不規則に現れる絶妙な間、がどの曲にも反映されていて、モンクの有名曲とマイナーな曲との間に相違点は無いし、一緒に収録されていても違和感が全く無い。どころか、確固たる「統一感」を醸し出している。

「Vol.2」は、Vol .1と同様、演奏の形態は、1曲の収録時間が3分前後の「ビ・バップ」ライクなもの。モンクの数々の難曲は、セッションに参加した演奏者からすると、アドリブを取りやすい、アドリブを取ると楽しい、らしく、皆、嬉々として演奏している。「Vol.2」は結構、無名なジャズマンも多数参加しているが、演奏全体の内容はどの曲も充実している。思わず目を見張る。

ブルーノートの1511番。この「Vol.2」も,Vol .1と同様、、モンク・ミュージックのショーケースの様な内容のアルバム。この「Vol.2」でも、モンクは明確な力強い尖ったタッチで、スクエアにスイングし、フレーズを幾何学的に飛ばしつつ、セッション・メンバーと一期一会の即興演奏を繰り広げている。この盤もモダン・ジャズの「永遠の名盤」である。
 
 

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2024年3月 8日 (金曜日)

Genius of Modern Music Vol.1

セロニアス・モンク(Thelonious Monk)。モダン・ジャズの最高の才能、最高の奇才。モンクのピアノは強烈な個性。スクエアにスイングし、フレーズは幾何学的に飛ぶ。クラシック・ピアノの正反対の「音」。クラシック・ピアノの影響は微塵も無い。ジャズから生まれた、ジャズの最高の個性。

Thelonious Monk 『Genius of Modern Music Vol.1』(写真左)。録音日とパーソネル、演奏曲は以下の通り。

1947年10月15日は、Thelonious Monk (p), Idrees Sulieman (tp), Danny Quebec West (as), Billy Smith (ts), Gene Ramey (b), Art Blakey (ds)。演奏曲は、7曲目「Thelonious」、12曲目 「Humph」。

1947年10月24日は、Thelonious Monk (p), Gene Ramey (b), Art Blakey (ds)。演奏曲は、2曲目「Off Minor」、3曲目「Ruby My Dear」、5曲目「April In Paris」、10曲目「Well You Needn't」、11曲目「Introspection」。

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1948年7月2日は、Milt Jackson (vib), Thelonious Monk (p), John Simmons (b), Shadow Wilson (ds)。演奏曲は、4曲目「I Mean You」、8曲目「Epistrophy」、9曲目「Misterioso」。
 

Thelonious-monk-genius-of-modern-music-v
 

何だか、4つのセッションからの曲の寄せ集めで、統一感とかトーンの整合性とか、全く無視している様に見えるが、聴いてみると判るが、アルバム全体に統一感がバッチリ、演奏のトーンや内容も違和感は全く無い。

モンクのピアノの個性が突出していて、このモンクの強烈個性のピアノだけが、アルバム全体の統一感、演奏のトーンや内容を決定づけている。フロント楽器やベースやドラムのリズム隊の音や個性に、アルバム全体の統一感、演奏のトーンや内容が影響されることが全く無い。

加えて、収録曲はモンクの自作曲で統一され、モンク独特のアレンジで統一されていて、アルバム全体の統一感、演奏のトーンや内容を決定づけている重要な要素になっている。収録された自作曲を見渡すと、後のミュージシャンズ・チューンとなって、最終的にはスタンダード曲化する、モンクの自作曲の中でも特に有名となる曲が軒並みチョイスされている。

演奏の形態は、1曲の収録時間が3分前後の「ビ・バップ」ライクなもの。モンクのちょっと不思議なフレーズを持つ自作曲で「ビ・バップ」が出来るのか、と懸念を抱くのだが、意外とモンクの曲は、ジャズマンにとってアドリブを取りやすい、アドリブを取ると楽しいみたいで、モンクのちょっと不思議なフレーズを持つ自作曲を皆、嬉々として演奏している。そう、演奏全体の内容はどの曲も充実しているのが凄い。

ブルーノートの1510番。モンク・ミュージックのショーケースの様な内容のアルバム。このモダン・ジャズの最高の才能、最高の奇才を見出し、アルバムを制作させた、ブルーノート・レーベルの総帥プロデューサーのアルフレッド・ライオンの慧眼の凄さに敬服する。この盤はモダン・ジャズの「永遠の名盤」である。
 
 

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2024年3月 1日 (金曜日)

モンクの 『ソロ・オン・ヴォーグ』

ジャズの高僧・セロニアス・モンク。バップの開拓者の一人、そして、バップを超えて、唯一無二のオリジナリティを確立した「孤高のジャズ・ピアニスト」である。このピアニストの「音」は、ワンフレーズ聴いただけで直ぐに判る。出てくるハーモニー、タッチのタイミング、間の取り方、どれをとっても、それまでの西洋音楽の「音」では全く無い。

他の音楽ジャンルには無い、ジャズというジャンルで初めて現れ出た「音」。しかも、同じフレーズが繰り返されることは皆無。究極の「即興演奏」を旨としたピアノ。ジャズの中で「一番ジャズらしい」ピアノとも言える。フレーズの音の「跳び方」も、他の音楽ジャンルには「ありえない」跳び方。しかし、その「ありえない」跳び方には、しっかりとジャジーで鋭角なスイング感が潜んでいて、独特のグルーヴ感を醸し出している。

Thelonious Monk『Solo 1954/Piano Solo』(写真左)。邦題『ソロ・オン・ヴォーグ』(写真右)。1954年6月、パリでの録音。パーソネルは、Thelonious Monk (p) のみ。フランスのレーベル、Disques Vogue からリリース。セロニアス・モンクの生涯初のソロピアノ・アルバム。元々はラジオ放送用の音源だったらしい。音的にはまずまずのレベル。最新のCDはリマスターが効いていて鑑賞に耐えるレベルになっている。
 

Thelonious-monksolo-1954piano-solo1

 
モンクだけのソロピアノの演奏なので、モンクのピアノの特殊性、独創性がとても良く判る。クラシックをメインとする西洋音楽、それをベースとしたポップスやロックを聴き慣れた耳には「違和感」ありまくり、のモンクのピアノ。しかし、このジャズというジャンルで初めて現れ出た、究極の「即興演奏」を旨としたピアノの特徴がとても良く判る。

モンクのピアノは自作曲で一番輝く。この盤では、「'Round About Midnight」「Evidence」「Well, You Needn't」といったモンク作の名曲の自演が素晴らしい。しかし、この盤に収録されている、モンク流のアレンジによる、スタンダード曲の「Smoke Gets in Your Eyes(煙が目にしみる)」の革新的なカヴァーも素晴らしい。

この『ソロ・オン・ヴォーグ』は、モンク・ミュージックを構成する「要素」が完璧に記録されている、モンク・ミュージック入門に相応しい名盤。ジャズ者初心者の方々には、最初は「違和感」ありまくりかもしれない。それでも、ジャズに対する理解が深まるにつれ、この盤を聴く度に、モンクのピアノの「真髄」に触れる機会が多くなる。そんな長いレンジで聴き親しむ類の名盤だと思います。
 
 

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2022年6月20日 (月曜日)

『Art Blakey's Jazz Messengers with Thelonious Monk』

ジャズの過去の優秀盤については、長年の間に「定期的に選盤しては再度聴く」盤と「長期間、選盤せず全く聴き直すことの無い」盤に分かれる。「長期間、選盤せず全く聴き直すことの無い」盤については、だいたい、新装リイシューされるタイミングで、その存在を思い出し、おもむろに聴き直して、再び感動する、この繰り返しである。

『Art Blakey's Jazz Messengers with Thelonious Monk』(写真左)。1957年5月14–15日の録音。ちなみにパーソネルは、Thelonious Monk (p), Art Blakey (ds), Bill Hardman (tp), Johnny Griffin (ts), Spanky DeBrest (b)。ドラマーのアート・ブレイキーが率いるグループ、ジャズ・メッセンジャーズとピアノのセロニアス・モンクのコラボレーションの記録である。

この盤は20年ほど前に「Deluxe Edition」で入手、10年ほど前に聴いて、そのまま「長期間、選盤せず全く聴き直すことの無い」盤になった盤である。今回、またまた「Deluxe Edition」で、CDリイシューされたタイミングで、その存在を思いだし、おもむろに聴き直した次第。もともと、アート・ブレイキーとセロニアス・モンクは相性が良く、その内容には期待が持てる盤ではある。

しかしながら、この時期のジャズ・メッセンジャーズは、ブルーノートとの長期契約を開始する寸前、1950年代の「低迷期の最後のメンバー編成」で、演奏内容に問題は無いのか、聴く前は不安になる。ジャズも知識が付くと、意外と聴く前に変な先入観を持つようになるから、十分に気をつけないといけない。
 

Art-blakeys-jazz-messengers-with-theloni

 
というのも、このジャズ・メッセンジャーズとセロニアス・モンクのコラボ盤、意外と骨太で硬派で内容の濃いハードバップがぎっしり詰まっているのだ。これには驚いた。もちろん、アート・ブレイキーとセロニアス・モンクは相性の良さは全編に渡って十分に感じられて、思わず、聴き込んでしまう。

ブレイキーのモンクのパフォーマンスに対する鼓舞の仕方、タイミングが絶妙。モンクの変則フレーズにしっかりと変則ビートでクイックに反応する、ブレイキーのテクニックの凄さ。そんなブレイキーのドラミングをバックに、モンクは気持ちよさそうに独特の変則フレーズを弾き上げて行く。ブレイキーのドラミングをバックにした時のモンクの弾き進めるフレーズには全く淀みが無い。

低迷期のメンバーとされた、メッセンジャーズのメンバー、それぞれもパフォーマンス好調。グリフィンはモンクの変則フレーズに乗って、ごりごりハードバップなフレーズをブリブリ吹きまくり、変則フレーズのモンクのバッキングに関わらず、ハードマンのトランペットもモンクのフレーズにしっかり乗って、ブリリアントで流麗に吹きまくる。このフロント2管のパフォーマンスに緩んだところは全く無い。

10年前に聴き直して以降、「長期間、選盤せず全く聴き直すことの無い」盤になっていた訳だが、今回、聴き直して、その内容の濃さにビックリした。以前はこの盤の何を聴いていたのやら。録音年は1957年、ハードバップ全盛期。この盤にもハードバップの良いところを十分に表現した、充実したパフォーマンスが記録されている。そして、改めて、ブレイキーとモンクの相性の良さを再認識した。ちなみに、このリイシュー盤、ボートラも充実していて捨て曲無し。良いリイシュー盤です。
 
 

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  ・遠い昔、懐かしの『地底探検』

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2021年12月17日 (金曜日)

聴き易いモンクの強烈な個性 『Thelonious Monk Plays Duke Ellington』

リヴァーサイド・レコード(Riverside Records)は、1953年にオリン・キープニュースとビル・グラウアーによって設立されたジャズ・レーベルである。グラウアーは財政面を管理、キープニュースはプロデューサー。クラシック・ジャズの復刻専門としてスタートしたが、1955年、セロニアス・モンクと契約したのを機に本格的なレコード制作活動を始めている。

リヴァーサイドの成り立ちを読んでも判る通り、リヴァーサイドは、セロニアス・モンクに対して正統な評価をしていた。モンクのピアノについては、あまりに個性的が故、ブルーノートについても、プレスティッジについても、モンクの好きな様に演奏させ、その記録をそのまま、アルバムにしていた。個性が強すぎて、プロデュースは「必要悪」と判断した結果である。しかし、モンクの気持ちの赴くままにピアノを弾かせても、個性が強すぎて一般受けせず、売れなかった。

モンクのピアノは、バップ・ピアノとして最良のパフォーマンスであり、モンクのピアノは実にモダンである。しかし、その引き方、フレーズの音の飛び方があまりに個性的過ぎて、一般受けしない。しかし、その問題点をキープニュースはプロデューサーとして劇的に改善した。リヴァーサイドのモンクのリーダー作はどれもが「強烈な個性と聴き易さ」のバランスが取れた秀作揃いで、モンクはやっと優れたバップ・ピアニストとして認知された。リヴァーサイドの功績の一つである。
 

Thelonious-monk-plays-duke-ellington

 
『Thelonious Monk Plays Duke Ellington』(写真)。1955年7月の録音。リヴァーサイドからのリリース。盤番号は「RLP-201」。リヴァーサイドの新盤制作の第1号である。ちなみにパーソネルは、Thelonious Monk (p), Oscar Pettiford (b), Kenny Clarke (ds)。ピアニストの個性が良く判る「トリオ」編成。ジャズマンの皆が敬愛する「デューク・エリントン」の作品集である。

デュークの曲は、ほぼスタンダード化していて、多くのジャズマンが演奏している。そんな「スタンダード曲」を、モンクが強烈な個性で弾く。きっと訳が判らない感じにまで、デフォルメされているのだろうなあ、と諦め気味に聴き始めたら、モンクの強烈な個性と、デュークの曲が持つポップス性とが、絶妙にバランスが取れているではないか。モンクの強烈に個性的な弾き方で、デュークの曲の持つポップス性もしっかり出す。絶妙な「モンクの弾くデューク曲」である。

モンクのピアノはリヴァーサイドに移籍することで、個性的なアクロバティックなピアノという印象から、聴かせる的なアーティステックなピアノという印象に変化した。確かに、モンクのリヴァーサイドの諸作はどれもが、聴き易い、それでいて強烈な個性的なピアノはそのまま、という秀作揃い。キープニュースはモンクのピアノを誰よりも理解していたのだろう。キープニュースの慧眼恐るべしである。
 
 
 
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2021年11月28日 (日曜日)

僕なりのジャズ超名盤研究・11 『Thelonious Himself』

ジャズ・ピアニストの中で、一番ユニークな存在が「セロニアス・モンク(Thelonious Monk)」。ジャズ・ピアノを聴き始めて、ジャズ・ピアノ盤の紹介本を見ながら、名盤を聴き進めて行って、まず、ぶち当たる壁が「セロニアス・モンク」である。クラシックやポップスのピアノをイメージして、モンクのピアノを聴くと、まず訳が判らなくなる。

通常のクラシック・ピアノなどのフレーズの流れが「常識」だとすると、モンクのピアノは「非常識」。和音の作り、旋律の流れ、間の取り方、アクセントの取り方、どれもが唯一無二。協調和音中心という次元から、かなり離れたもので、リズム的にも自然発生的な変則拍子が中心という、おおよそポップス中心の音楽とは正反対の、クラシック音楽とは対極にあるモンクのピアノである。

Thelonious Monk『Thelonious Himself』(写真左)。1957年4月の録音。セロニアス・モンクのソロ・ピアノである。モンクのキャリアの絶頂期でのソロ・ピアノなので、モンクのピアノの真の個性が良く判る。違和感をバリバリに感じる不協和音。決してメロディアスとは言えない、ゴツゴツしたフレーズ。独特のスクエアな、幾何学的なスイング感。外れているようで、しっかりと独特なフレーズが流れている。おおよそ、普通の人達にとっては、今までに聴いたことが無いピアノ。
 

Thelonious-himself_1

 
しかし、僕が思うに、これが「ジャズ」であり、これが「ジャズ・ピアノ」の最右翼なのだ。即興演奏を旨とするジャズ、新しい音を創造するジャズ、そういうジャズが、本来の「ジャズ」とするなら、このモンクのピアノは明らかに「ジャズ」の極みに位置するものだ、と僕は思う。ジャズをとことん好きになるかどうかは、このモンクのピアノを受け入れられるかどうかにある位に思っている。

Original CD reissue (1987) のバージョンがお勧めなのだが、このバージョンのラストに入っている「'Round Midnight (In Progress)」を聴いて欲しい。22分に及ぶ長いトラックの中で、モンクはあれこれ考えながら、何度も慎重に音を選び直しながら、ブツブツと「あーでもないこーでもない」とつぶやきながら、演奏を組み立てていく。和音の作り、旋律の流れ、間の取り方、アクセントの取り方が、即興演奏を前提として、考え抜かれたもの、選び抜かれたものだということが良く判る。

この究極の即興演奏の様なモンクの音世界は、填まればとことん癖になります。僕がジャズを本格的にジャズを聴き初めて、これはジャズやなあ、と初めて心底感心したのが、このモンクのピアノであり、このモンクのソロ盤『Thelonious Himself』でした。ジャズを聴く、って理屈では無くて、パッと聴いてパッと感じるものだと思いました。その感覚は「ジャズを聴く時の心構え」として、僕の中にあります。いわゆる「モンクのピアノの教え」ですね。
 
 
 
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2021年4月30日 (金曜日)

「モンク者」の必聴アルバム

ジャズライフ誌の「2020年度 Disc Grand Prix 年間グランプリ」で、その対象になった好盤を眺めていて、いつの時代にも、内容の優れた「モンクもの」はあるなあ、と妙に感心した。

「モンクもの」とは、ジャズ・ピアノの奇才「セロニアス・モンク(Thelonious Monk)」の楽曲や奏法を研究し、新たな付加価値を付けたり、新たな解釈を付けたりして演奏するものなんだが、これが何時の時代にも必ずある。ジャズの世界で、モンクの存在は「ミュージシャンズ・ミュージシャン」の最右翼に位置する存在なのだなあ、と改めて感じ入る。

John Beasley『MONK’estra Plays John Beasley』。2020年8月のリリース。セロニアス・モンクの楽曲をビッグ・バンドにアレンジしたプロジェクト「モンケストラ」での演奏。パーソネルは以下の通り。

John Beasley (p), John Patitucci (ac-b), Vinnie Colaiuta (ds), Bob Sheppard (ts), Ralph Moore, Danny Janklow (sax), Adam Schroeder (bs), Francisco Torres, Wendell Kelly (tb), Ulysses Owens, Jr., Terreon Gully (ds), Bijon Watson, Kye Palmer Brian Swartz (tp), Benjamin Shepherd (b), Gregoire Maret (harmonica), Joey DeFrancesco (org), Hubert Laws (woodwinds), Jubilant Sykes (vo), Joey De Leon (congas) 。
 

Monkestra-plays-john-beasley_1

 

「モンケストラ」とは錚々たる顔ぶれである。リーダーのジョン・ビーズリーはピアニスト。ベースにジョン・パティトゥッチ、ドラムにビニー・カリウタとは超強力。このピアノ・トリオを核に、現代のメインストリーム系純ジャズの名うてのミュージシャンが集って、とても演奏力の高い、ドライブ感溢れるビッグバンドを形成している。

モンクの楽曲は、そのフレーズが幾何学模様的にあっちこっちに音が飛ぶ。リズム&ビートについては、変則拍子を伴って、絶妙な「間」とユニークなタイム感覚が個性。音があっちこっちに跳んだり、スクエアにスイングしたり、いきなり「間」が訪れ、いきなり高速フレーズが走る。これらをビッグバンドで一糸乱れぬアンサンブルで表現しようって言うんだから、凄いというか「無謀」である(笑)。

しかしこの「モンケストラ」、セロニアス・モンクの楽曲を4曲アレンジし演奏、そして、ビーズリー自身のモンクの音楽の自由なスピリッツと共鳴するヒップな楽曲を8曲、事も無げに、スカッとアンサンブルをかまして、疾走感と爽快感溢れるビッグバンドな演奏を繰り広げている。見事である。

モンク・ミュージックの優秀な即興性と自由なスピリッツをものの見事に「モンケストラ」は表現している。今風のモーダルでネオ・ハードバップな響きも満載、より洗練されより深化したモンク・ミュージックを展開している。聴き応え十分。この盤「モンク者」には必聴アイテムですね。
 
 
 

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2021年3月13日 (土曜日)

ハキムのモンク・トリビュート盤

セロニアス・モンクという天才ピアニスト&コンポーザーがいた。そのピアノは「ユニーク」。音の飛び方&重ね方、そして音の間、リズム&ビート、どれをとってもユニーク。実際の音を聴かないとピンとこないと思うが、このモンクのピアノは唯一無二なピアノ。ジャズの即興演奏の極みの様な、意外性抜群なアドリブ展開。

モンクは作曲も「ユニーク」。彼の書く曲は、ピアノのプレイと同様に、音の飛び方&重ね方、そして音の間、リズム&ビート、どれをとってもユニーク。とにかく演奏していて楽しい、そして意外性抜群。モンクの手なる曲は「ミュージシャンズ・チューン」。様々なジャズマンに演奏され、今や「ジャズ・スタンダード化」した曲が沢山ある。

Sadik Hakim『A Bit of Monk』(写真)。1978年10月27日、NYのDowntown Sound Studioでの録音。ちなみにパーソネルは、Sadik Hakim (p), Errol Walters (b), Satguro Singh (ds)。ビ・バップなピアニスト、サディク・ハキムがリーダーのトリオ盤。タイトル通り「セロニアス・モンク」トリビュート盤。LP時代収録の8曲中、4曲がモンク作の名曲、残り4曲がハキム作のモンク・トリビュート曲。

 
A-bit-of-monk
 

パーソネルを見渡して、ベースとドラムは全く知らない。ハキムだって良く知っている訳では無い。なのに、1978年というフュージョン・ジャズ全盛期に、こんなにしっかりした内容の「モンク・トリビュート」盤が企画され、録音されたことにちょっとビックリする。ハキムのピアノは力強いタッチ、流麗なラインでイマジネーション豊かなアドリブ・フレーズ。これがモンクの楽曲にピッタリとフィットしているのだから、ジャズは面白い。

モンクの難解な曲を前に、淀み迷いの一切無い切れ味の良いハキムのタッチがモンクの楽曲を、モンクの楽曲のユニークな旋律を的確に捉え、的確にその特徴を表現していく。そして、そんな難解でユニークなモンクの楽曲を自家薬籠中のものとして、ハキムのピアノは縦横無尽に弾き紡いでいく。ハキムのピアノがモンクの楽曲にこんなにフィットするとは「目から鱗」である。

聴いていて爽快感を感じる、とても内容のある「モンク・トリビュート」盤である。今回、リイシュー盤を聴いたのだが、ボートラが2曲ついているが、この2曲も良い内容。ハキムはこの盤の録音の5年後、63歳で亡くなる訳だが、この盤の内容、ハキムの晩年の快作として、記憶に留めておくべき好盤だろう。
 
 
 

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2020年11月 2日 (月曜日)

52年振りのモンクの未発表音源 『Palo Alto』

「ジャズ・ジャイアント」と呼ばれるジャズの偉人レベルの中で、ビル・エヴァンス、セロニアス・モンク、ジョン・コルトレーンについては、21世紀に入って20年経った今でも、未発表音源が発掘され続けている。その未発表音源については、どこかでのライヴ音源がほとんど。しかも非正式録音、いわゆる「ライヴでの隠し撮り」音源である。しかも、その音源、意外と音が良い。

Thelonious Monk『Palo Alto』(写真左)。1968年10月27日、カリフォルニア州パロ・アルト高校にてライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Thelonious Monk (p), Charlie Rouse (sax), Larry Gales (b), Ben Riley (ds)。これまでどこにも発表されてこなかった、セロニアス・モンク・カルテットの1968年に行われたライヴの音源。今年創立60周年を迎えたジャズの名門インパルス・レーベルからリリースになる。

録音の経緯が興味深い。キング牧師が暗殺され、全米が人種差別に揺れていた1968年10月、ジャズを通して人々の結束を願う一人の男子高校生の思いに応えてモンクが出演した学内コンサートを全編収録。この録音は、その学校の用務員によって行われた。そして、本アルバムの音源は、今日に至るまで、このライヴの発案者で当時高校生だった、ダニー・シャーの自宅屋根裏で保管されていた、とのこと。録音されてから、今回、52年経って陽の目を見たことになる。
 
 
Palo-alto  
 
 
1968年の頃のセロニアス・モンク・カルテットの演奏は、モンク初期の、独特の「アク」と「癖」が抜けて、幾何学模様的にスイングするモンクのピアノ・パフォーマンスが聴き易い判り易いレベルになっていて、聴いていて、とてもワクワクする内容になっている。このライブ、健康状態が優れなかった時期のモンクではあるが、明らかにモンクの気分が良い時のパフォーマンスである。

収録されている曲は「Ruby, My Dear」「Well, You Needn’t」「Don’t Blame Me」「Blue Monk」「Epistrophy」「I Love You Sweetheart of All My Dreams」の6曲だが、どの曲もモンクの代表曲ばかり。演奏も音楽的に評価の高い時代のカルテットであり、とても充実している。冗長なところ、散漫なところが全く無い。好調のモンクを、他の3人が大いに盛り立てている様がありありと伝わってくる。

半世紀も経っているのだ。内容的にはイマイチだが骨董的価値がある、というレベルで未発表音源でリリースされるのなら判るが、これだけの優れた内容で、音も良好のレベルで、こんな音源がまだ残っていたなんて驚きである。今年出た未発表音源ではあるが、1960年代後半のセロニアス・モンク・カルテットの代表盤の一枚に加えても良いだろう。
 
 
 

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