ケントン流のボサノバ・ジャズ
1962年以来、米国ジャズ界は暫くの間、ボサノバ・ブームに湧いた訳だが、とにかく、猫も杓子も、あらゆる一流ジャズマンはこぞって、ボサノバを取り込んだ「ボサノバ・ジャズ」に手を染めた。なんせ、あのマイルスだって、ギル・エヴァンスと組んで、ボサノバ・ジャズ志向のリーダー作『Quiet Nights』をリリースしているくらいだ(まあ、マイルスはこの盤を認めていないみたいだが・笑)。
猫も杓子もボサノバ・ジャズだが、内容のある、しっかりした「ボサノバ・ジャズ」もあれば、どう聴いてもイージーリスニングで、内容の乏しい「ボサノバ・ジャズ」もあって、玉石混交としている。ボサノバ・ジャズを聴く上では、その辺のところをしっかりと吟味する必要がある。
押し並べて言えることは、優れた「ボサノバ・ジャズ」は、その演奏に対する「アレンジ」が優れている。ボサノバのリズム&ビート、フレーズをしっかりと踏まえながら、演奏全体の志向は「ジャズ」。そういった、優れたアレンジを施されたものが、優れた「ボサノバ・ジャズ」盤として、後世に残っている。
Stan Kenton and His Orchestra『Artistry in Bossa Nova』(写真左)。1963年4月16日~17日、ハリウッドでの録音。ちなみにパーソネルは、Stan Kenton (p, arr, cond), と、スタン・ケントンのオーケストラ。当時、先鋭的なビッグバンド・サウンドを追求していた、スタン・ケントン楽団がボサノバに取り組んだ異色作。リーダーのスタン・ケントンがアレンジと指揮を担当している。
さすがはケントン。このボサノバ・ジャズ盤は、ボサノバ自体に迎合すること無く、ボサノバのリズム&ビート、フレーズをしっかりと踏まえながら、ケントンのジャズに、ケントン楽団のジャズに仕立て上げている。
まず、ケントンのアレンジが秀逸。ケントン楽団の個性をしっかり引き出しつつ、ボサノバの雰囲気を上手く取り込んで、ビッグバンド仕立ての「ボサノバ・ジャズ」の好例をこの盤で提示している。ボサノバのリズム&ビートをジャズにリコンパイルして、切れ味の良い、ジャジーなグルーヴの効いた、ジャズのリズム&ビートが良い。
そのケントン流のボサノバ・ジャズのリズム&ビートに乗って、様々なフレーズが展開される。どんな志向のフレーズが乗っかっても、その演奏は、ケントン流のジャジーな「ボサノバ・ジャズ」になる。そんなケントン流の「ボサノバ・ジャズ」を具現化するビッグバンドの演奏も整っていて、ブルージーで、とても良い雰囲気。
前奏のパーカッションがラテンな雰囲気を煽り、グルーヴィーかつダンサフル、かつジャジーに演奏される「Artistry in Rhythm」や、ブラジリアン・ジャズ・サンバな雰囲気が素敵で、ケントンの硬質なピアノがラテンチックに乱舞する「Brasilia」など、ケントン流のボサノバ・ジャズのリズム&ビートに乗って、ブラジリアン・ミュージックがジャジーに演奏される。
単純にケントン流のボサノバ・ジャズを楽しめる一枚。リズムはかろうじて「ボサノバ」だが、旋律や和声は全く違う。これはボサノバではない、という向きもあるが、それは当たり前。この盤は、ケントン流のジャジーな「ボサノバ・ジャズ」を楽しむべきアルバムで、この盤の音はあくまで「ジャズ」である。
真の「ボサノバ・ミュージック」を聴きたければ、本場のボサノバ盤を聴けば良い。ここでは、あくまで「ジャズ」、優れた内容の「ボサノバ・ジャズ」を愛でている。
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