2024年8月17日 (土曜日)

ケントン流のボサノバ・ジャズ

1962年以来、米国ジャズ界は暫くの間、ボサノバ・ブームに湧いた訳だが、とにかく、猫も杓子も、あらゆる一流ジャズマンはこぞって、ボサノバを取り込んだ「ボサノバ・ジャズ」に手を染めた。なんせ、あのマイルスだって、ギル・エヴァンスと組んで、ボサノバ・ジャズ志向のリーダー作『Quiet Nights』をリリースしているくらいだ(まあ、マイルスはこの盤を認めていないみたいだが・笑)。

猫も杓子もボサノバ・ジャズだが、内容のある、しっかりした「ボサノバ・ジャズ」もあれば、どう聴いてもイージーリスニングで、内容の乏しい「ボサノバ・ジャズ」もあって、玉石混交としている。ボサノバ・ジャズを聴く上では、その辺のところをしっかりと吟味する必要がある。

押し並べて言えることは、優れた「ボサノバ・ジャズ」は、その演奏に対する「アレンジ」が優れている。ボサノバのリズム&ビート、フレーズをしっかりと踏まえながら、演奏全体の志向は「ジャズ」。そういった、優れたアレンジを施されたものが、優れた「ボサノバ・ジャズ」盤として、後世に残っている。

Stan Kenton and His Orchestra『Artistry in Bossa Nova』(写真左)。1963年4月16日~17日、ハリウッドでの録音。ちなみにパーソネルは、Stan Kenton (p, arr, cond), と、スタン・ケントンのオーケストラ。当時、先鋭的なビッグバンド・サウンドを追求していた、スタン・ケントン楽団がボサノバに取り組んだ異色作。リーダーのスタン・ケントンがアレンジと指揮を担当している。

さすがはケントン。このボサノバ・ジャズ盤は、ボサノバ自体に迎合すること無く、ボサノバのリズム&ビート、フレーズをしっかりと踏まえながら、ケントンのジャズに、ケントン楽団のジャズに仕立て上げている。
 

Stan-kenton-and-his-orchestraartistry-in

 
まず、ケントンのアレンジが秀逸。ケントン楽団の個性をしっかり引き出しつつ、ボサノバの雰囲気を上手く取り込んで、ビッグバンド仕立ての「ボサノバ・ジャズ」の好例をこの盤で提示している。ボサノバのリズム&ビートをジャズにリコンパイルして、切れ味の良い、ジャジーなグルーヴの効いた、ジャズのリズム&ビートが良い。

そのケントン流のボサノバ・ジャズのリズム&ビートに乗って、様々なフレーズが展開される。どんな志向のフレーズが乗っかっても、その演奏は、ケントン流のジャジーな「ボサノバ・ジャズ」になる。そんなケントン流の「ボサノバ・ジャズ」を具現化するビッグバンドの演奏も整っていて、ブルージーで、とても良い雰囲気。

前奏のパーカッションがラテンな雰囲気を煽り、グルーヴィーかつダンサフル、かつジャジーに演奏される「Artistry in Rhythm」や、ブラジリアン・ジャズ・サンバな雰囲気が素敵で、ケントンの硬質なピアノがラテンチックに乱舞する「Brasilia」など、ケントン流のボサノバ・ジャズのリズム&ビートに乗って、ブラジリアン・ミュージックがジャジーに演奏される。

単純にケントン流のボサノバ・ジャズを楽しめる一枚。リズムはかろうじて「ボサノバ」だが、旋律や和声は全く違う。これはボサノバではない、という向きもあるが、それは当たり前。この盤は、ケントン流のジャジーな「ボサノバ・ジャズ」を楽しむべきアルバムで、この盤の音はあくまで「ジャズ」である。

真の「ボサノバ・ミュージック」を聴きたければ、本場のボサノバ盤を聴けば良い。ここでは、あくまで「ジャズ」、優れた内容の「ボサノバ・ジャズ」を愛でている。
 
 

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2024年2月28日 (水曜日)

染みる『In The Wee Small Hours』

子供の頃、小学校5年生の頃だったと記憶している。親父のAMラジオをくすねて、寝床に入ってイヤホンで聴くようになった。夜の10時頃、NHK第一だったと思うが、アメリカン・ポップスを聴かせる番組があった。その番組の中で、時々、ジャズ・ボーカル曲がかかる。

大人の雰囲気で演奏はしっとり落ち着いている。英語で歌われているので、何を歌っているのか、基本的に判らない。8ビートのポップスやロック曲と比べて、基本的に地味で、時々、「こぶし」を効かしたり、フェイクを入れたり、癖のある歌い方がどうにもいけない。そんな中で、この男性ボーカルだけ、何故か気に入った。フランク・シナトラである。

Frank Sinatra『In The Wee Small Hours』(写真)。1954年3月、1955年2, 3月の3セッションからの収録。1955年4月のリリース。ちなみにパーソネルは、Frank Sinatra (vo), Nelson Riddle (arr, cond), バックにジャズ・オーケストラが付く。

フランク・シナトラは、ポピュラー・ヴォーカルの帝王として、20世紀の音楽界に君臨、ジャズ・ボーカルとしても数々の実績を残した、歴代最高の男性ボーカリストである。

アルバムの収録曲は、内省、憂鬱、失恋、失敗した関係、うつ病、ナイトライフなどのテーマを扱う、失われた愛に関する「不安に満ちた」バラード曲で統一されている。歌い上げるのに、かなり難度の高いボーカル曲ばかりだが、そこはさすが「ソフト・バラードの名手」「ザ・ヴォイス」と呼ばれたシナトラ、ゆったりとしたテンポで、じっくりと魅惑的なテナー・ヴォイスで、囁く様に、語りかける様に唄い上げていく。
 

Frank-sinatrain-the-wee-small-hours

 
「オレはあの頃、シナトラやナット・キング・コールやオーソン・ウェルズの節回しまで聴いて、フレージングについてはずいぶんと勉強した。連中は、楽節とか文節とか句を声で言い回す真の達人だった」(『マイルス・デイビス自叙伝』より引用)

マイルスさえもが指摘する様に、シナトラは「楽節とか文節とか句を声で言い回す真の達人」で、シナトラの歌唱を聴いていると、ボーカルとは「歌」ではなく「楽器」の一つなのか、と唸ってしまう。深夜の寂寞感や失恋の悲しみ、真夜中から夜明けの間の真っ暗な「闇」の雰囲気を、メランコリックにムーディーに唄い上げている。思わず、じっくりと聴き入ってしまうほどの説得力と訴求力。

冒頭のタイトル曲「In The Wee Small Hours」がとりわけ良い。この1曲でこの企画盤の全てを表現している。英語で歌われているので、何を歌っているのか、基本的に判らない、と思うのだが、これだけの歌唱をぶつけられると、歌詞の和訳に手をつけたくなる。ボブ・ヒリアード作詞の歌詞が良い。そして、その歌詞に曲を付けたデイビッド・マンの旋律が染みる。

最初のコンセプト・アルバムの1つと評価されている企画盤であるが、このアルバムは商業的に成功を収め、米国ビルボード200チャートで最高2位を記録、18週間チャートに留まり、 シナトラの最高チャート・アルバムとなった。ジャケも良い。シナトラに古めかしい街灯のある風景が良く似合う。ジャケ良し、内容良し、実績良し、のジャズ・ボーカルの傑作の一枚である。
 
 

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2023年12月10日 (日曜日)

ヘンダーソンの円熟を聴く。

Smoke Sessions Records。コンスタントに良い内容のアルバムをリリースしていて、常々、感心している。

実績のある中堅〜ベテランのジャズマンをリーダーにしたアルバムをメインにリリースしているのだが、その内容は「昔の名前で出ています」的な旧来のハードバップな演奏を懐メロ風にやるのでは無く、しっかりと現在の「ネオ・ハードバップ」な演奏に果敢に取り組ませている。これが「当たり」で、あのベテランが、と感じる快作を多くリリースしている。

Eddie Henderson『Witness to History』(写真左)。2022年9月13日、NYの「Sear Sound Studio C」での録音。ちなみにパーソネルは、Eddie Henderson (tp), Donald Harrison (as), George Cables (ac-p, el-p), Gerald Cannon (b), Lenny White (ds), Mike Clark (drums on 1)。

Eddie Henderson(エディ・ヘンダーゾン)は、エレ・ファンク出身のトランペット奏者。1970 年代初頭、ハービー・ハンコックの「ムワンディシ・バンド」のメンバーとして有名になり、その後、10年間を通じて、自身のエレクトリック・ジャズのグループを率いている。そして、ヘンダーソンは医学の学位を取得し、精神科医とミュージシャンとして並行してキャリアを積み、1990年代、アコースティック・ジャズに復帰している。
 

Eddie-hendersonwitness-to-history

 
エディ・ヘンダーソンのSmoke Sessions Records からの最新作、4枚目となるリーダーアルバム。冒頭「Scorpio Rising」は、エレ・マイルスを彷彿とさせる「エレ・ファンク」。ヘンダーソンのトランペットは、マイルスみたいなんだが、マイルスほど尖んがってはいない。エッジの丸い流麗なマイルス、って感じのトランペットが「今風」で良い。しっかり、現代のエレ・ジャズの雰囲気を醸し出す、なかなかのエレ・ファンク。

2局目「Why Not?」以降、エレ・ファンクから、ネオ・モードな演奏に変わるが、このモーダルな演奏の中で、ヘンダーソンのモーダルなトラペットが実に映える。流麗でドライなマイルスの様な、モーダルなヘンダーソンのトランペットが良い感じ。ただし、モーダルなフレーズはどれもが「今風」で、昔のモーダルなフレーズを模したりはしていない。この辺りに、ヘンダーソンの矜持を強く感じる。

マイルスのモード・ジャズからエレ・ファンクを踏襲しているが、マイルスのフレーズやアイデアを模すことなく、現代のエレ・ファンクやネオ・ハードバップの感覚をしっかりと踏まえて、ヘンダーソンなりのエレ・ファンク、ヘンダーソンなりのモード・ジャズを展開しているところに僕は感心する。今回のセッションに参加しているベテラン・ジャズマンも良い味を出している。

ヘンダーソンは1940年10月生まれ。録音時は83歳。もう大ベテランの域に達したヘンダーソン。今回のアルバムは「ヘンダーソンの円熟」を音に変えて我々に聴かせてくれた様な「快作」である。
 
 

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2023年11月18日 (土曜日)

ジョン・ルイス meets 西海岸

ジョン・ルイスのピアノが好きである。ジョン・ルイスは、一流のジャズ・ピアニストであり、クラシックの様々な音楽理論にも精通した、アーティステックな音楽家である。Modern Jazz Quartetでは、弦楽四重奏的な演奏手法を取り込み、対位法を用いた楽曲を作曲&演奏したり、バッハのジャズ化にチャレンジしたり。ジョン・ルイスは、芸術性を前面に押し出したジャズ・ミュージシャンの代表格であった。

ジャズをアカデミックな音楽ジャンルとして捉え、クラシックの手法などに精通している、のが気に入らないとかで、昔の硬派な「4ビート東海岸のモダン・ジャズ絶対主義」のジャズ者の方々からは敬遠されていた節がある。

かなり偏った評価だが、昔はそういう「ジャズの許容量が狭い」ジャズおじさんが沢山いた。ジョン・ルイスは嫌い、MJQはもっと嫌い。個人個人の感じ方なので、それはそれで良いのだが、大きな声で悪口を並べるのは良くない(笑)。

John Lewis『Grand Encounter』(写真)。1956年2月10日、ロスアンゼルスでの録音。Pacific Jazzからのリリース。ちなみにパーソネルは、John Lewis (p), Bill Perkins (ts), Jim Hall (g), Percy Heath (b), Chico Hamilton (ds)。サブタイトルが「2° East / 3° West」。ジョン・ルイスとパーシー・ヒースの二人が「東海岸」、ビル・パーキンス、ジム・ホール、チコ・ハミルトンが「西海岸」。
 

John-lewisgrand-encounter

 
まさに、東海岸ジャズマンと西海岸ジャズマンとの「豪華な出会い」である。フロントのテナーとギター、ドラムが「西海岸」なので、演奏全体の音作りは「ウエストコースト・ジャズ」志向になっていると思いきや、どこか「イーストコースト・ジャズ」のファクネスやブルージーな雰囲気が漂っているところが面白い。

まず、それだけ、ジョン・ルイスのピアノが「黒い」のだ。クラシックの手法に精通しているのにも関わらず、ルイスのピアノは「黒い」、つまりジャジーなのだ。加えて、紡ぎ出すフレーズがそこはかとなくファンキー。そんな「黒い」ピアノで、対位法を用いた楽曲を作曲&演奏したり、バッハのジャズ化にチャレンジする。そんなアンバランスな魅力というか、ジャズのボーダーレスな特質が具現化されているというか、そいうところが、ジョン・ルイスのピアノの魅力。

もともと、ジョン・ルイスの作曲する楽曲は「聴かせる」楽曲。そういう点では、西海岸向きだと言える。そんなジョン・ルイスの楽曲が西海岸のジャズマンと共演することで、映えに映える。西海岸ジャズマンは「聴かせる」ジャズの演奏表現に長けているので、ジョン・ルイスの曲を全く違和感なく、聴き手に訴求する「聴かせる」演奏を展開している。

ジャズは「融合」の音楽ジャンル、他の音楽ジャンルの取り込みに長けるところが長所なのだが、この盤は、東海岸ジャズと西海岸ジャズとの融合。ジョン・ルイスのピアノと作曲センス、パーシー・ヒースの「聴かせるベースラインは西海岸、出てくる音は東海岸」というベースが西海岸ジャズにピッタリ合って、素敵な「融合」ジャズがここに記録されている。
 
 

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2023年5月19日 (金曜日)

ジャズ喫茶で流したい・262

ディヴ・リーブマンが元気そうでなにより。そんな思いを持てるような、リーブマンがここ5年ほどの間に、様々な演奏フォーマット&内容のリーダー作を結構な数、リリースしている。頼もしい限りである。

Dave Liebman『Trust and Honesty』(写真左)。2022年11月のリリース。ちなみにパーソネルは、Dave Liebman (ss, ts), Ben Monder (g), John Hébert (b)。リーダーのリーブマン、この盤ではピアノもドラムも使わないトリオ形式を選択している。ほとんど馴染みの無い編成での演奏なので、ついつい触手が伸びる。

なぜピアノもドラムも使わなかったか。この盤を聴けば直ぐに判る。この盤、全曲バラード曲で占められた企画盤なのだ。バラード曲をリーブマンがソプラノ&テナー・サックスで、心ゆくまで吹きまくる。

サックスだけがフロント楽器を務めるワンホーンであれば、リズムを刻むのはドラムよりギターの方が良い。ベースラインをしっかりと押さえる必要があるのでアコースティック・ベースは必須。
 

Dave-liebmantrust-and-honesty

 
ということで、今回は敢えてピアノとドラムはオミットして、心ゆくまでリーブマンが吹きまくり、そのリーブマンの奏でるフレーズだけを愛でる。それが狙いの演奏形態。これがスバリ大当たり。とても聴き応えのあるバラード曲集になっている。

リーブマンはサックスのバーチュオーゾの一人なので、バラード表現にも長けたものがある。「Stella By Starlight」や「Come Rain or Come Shine」「Lover Man」等の有名なスタンダード曲もさることながら、ちょっと玄人好みのスタンダード曲「Moon and Sand」「Bye Bye Blackbird」「Blue in Green」の出来が素晴らしい。リーブマンのバラード表現を堪能出来る。

バックのリズム隊、ギターのモンダーとベースのエベールは、実に息の合ったリズム&ビートで、リーブマンのサックスをサポートし、鼓舞し、引き立てる。サックスがワン・ホーンのバラード曲集での「ギター+ベース」の変則リズム隊は「絶対にアリ」と強く思わせる、説得力のあるリズム隊である。

ジョン・コルトレーンの『バラード(ballads)』、マイケル・ブレッカーの『ニアネス・オブ・ユー(Nearness Of You)』に比肩する、とても優れた内容のリーブマンのバラード集。後世における「名盤」候補。しみじみ聴ける好盤です。
 
 

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2023年5月18日 (木曜日)

レジェンドだけど「元気なロン」

1950年代のハードバップ期から、ずっと第一線で活躍してきたレジェンド級のベーシストについて、振り返って見ると、ほとんどが鬼籍に入ってしまっている。2020年辺りで、現役でプレイしているレジェンド級のベーシストは「ロン・カーター(Ron Carter)」しか見当たら無くなってしまったようだ。

Ron Carter『Foursight - The Complete Stockholm Tapes』(写真左)。2018年11月17日、ストックホルムのジャズクラブ「Fasching」でのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Ron Carter (b), Jimmy Greene (ts), Renee Rosnes (p), Payton Crossley (ds)。テナー・サックスがフロント1管の、シンプルな「ワンホーン・カルテット」編成。

ロン・カーターは、このライヴ盤の録音時点で81歳。溌剌としたアコースティック・ベースを奏でていて素晴らしい。とても81歳とは思えないパフォーマンス。

ロンは、自身のリーダー作紐解くと、1960年代はリーダー作はドルフィー、マルとの『Where?』のみ。マイルスの下で「限りなくフリーなモード・ジャズ」を志向し、ベースの音は、いかにもモードな演奏に完全対応した様な、間と音の拡がりを活かしたもので、聴けば、これはロンのベースと直ぐ判るほどの個性溢れるベースだった。

しかし、1970年代、マイルスの下を去って独立すると、ほどなくCTIレーベルに移籍。フュージョン・ジャズをメインに活動を継続する。リーダー作の制作については、リーダーとして、ロンの志向するジャズをセッションで具現化する部分はまずまず良好な内容だったのだが、ロンのベースの音自体がいただけない。アンプで電気的に増幅し弦高の低いブヨンブヨンとゴムが伸びたように間延びした、しかも、ピッチが外れたベースの音で、聴くのが辛いリーダー作も多々あった。
 

Ron-carterfoursight-the-complete-stockho

 
1990年代、ブルーノート・レーベルに移籍して以降、ベースの効くに耐えない音が改善され、アコースティック・ベースの弦と胴の骨太な「鳴り」を活かした、ピッチのずれもかなり改善された、まずまずのベース音に修正されて、やっとまともに、ロンのリーダー作を鑑賞する気になった。誰かに指摘されたのかなあ、特に21世紀に入ってからは、安定して端正でロンの個性溢れるアコベで活躍している。

さて、このストックホルムでのライヴ盤に話を戻すと、ロンのベースの音は良好。演奏全体の志向は、過去のモード・ジャズを踏襲しつつ、新しいアレンジや響きを散りばめた「軽めのネオ・ハードバップ」な演奏になっている。大向こうを張ったハッとするような新鮮さはあまり感じられないが、絶対に過去のコピー、過去の焼き直しなモード・ジャズでは無い、どこか現代のモード・ジャズの響きをしっかり湛えた演奏は、意外と聴き応えがある。

他のメンバー、特に、これまたベテラン女流ピアニスト、リニー・ロスネスのパフォーマンスが充実している。そう、ロスネス、モーダルなピアノ、弾きまくりである。とっても溌剌として元気なパフォーマンスにはビックリ。往年のロスネスがここにいる。

サックスのジミー・グリーン、ドラムのペイトン・クロスリーも、あまり馴染みのあるジャズマンでは無いにしろ、当ライヴ盤でのパフォーマンスは大健闘だろう。良い雰囲気、良い感じでのパフォーマンスは聴き応えがある。

選曲も奇をてらわず、と言って、皆がとても知っている「どスタンダード曲」に依存することもなく、ロンの自作曲も交えて、ちょっと小粋なスタンダード曲をチョイスしているところも良い感じ。

現代の「軽めのネオ・ハードバップ」盤として、なかなかの内容の好盤です。録音当時、81歳のロンが元気にプレイしているところも好感度アップ。レジェンド級ジャズマンのリーダー作として、一聴の価値アリ、ですね。
 
 

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2023年3月20日 (月曜日)

プレヴィンの晩年を愛でる。

小粋なジャズ盤、それも「ピアノ・トリオ」盤を探していると、必ず出会うピアニストがいる。アンドレ・プレヴィンなど、そんなピアニストの1人で、クラシックのピアニスト&指揮者、そして、ジャズ・ピアニストと「3足の草鞋を履く」音楽家だが、アレンジ能力にも優れ、スタンダード曲やミュージカル曲のジャズ・アレンジは、どれもが素晴らしい。

André Previn with Mundell Lowe & Ray Brown『Uptown』(写真左)。1990年8月22日の録音。ちなみにパーソネルは、André Previn (p), Mundell Lowe (g), Ray Brown (b)。アンドレ・プレヴィンがリーダー格、プレヴィンのピアノとロウのギター、ブラウンのベースという、オールド・スタイルのピアノ・トリオ。

通常、今では「ピアノ・トリオ」と言えば、ピアノ+ベース+ドラムの楽器編成が基本。これは、モダンジャズ・ピアノの開祖「バド・パウエル」が恒常的に採用した編成。それ以前は、ピアノ+ベース+ギターの楽器編成が「ピアノ・トリオ」の基本編成だった。このプレヴィンのリーダー作では、敢えてオールド・スタイルのピアノ・トリオ編成を採用して、3種の楽器に「フロント楽器」としての役割を担わせて、3人それぞれのインタープレイの妙が楽しめる内容になっている。
 

Andre-previn-with-mundell-lowe-ray-brown

 
それにしても、プレヴィンのピアノは上手いし、とってもジャジーだ。プレヴィンと言えば、クラシックのピアニスト&指揮者、そして、ジャズ・ピアニストと「3足の草鞋を履く」アーティストだが、ジャズ・ピアニストとしての能力はかなり高い。クラシック・ピアノ出身らしく「端正で歯切れが良く破綻の無い」ピアノが個性。しかも、ファンクネスは皆無なんだが、オフビートが効果的に効いていて、流麗に弾き回すフレーズがとてもジャジー。

ギターのマンデル・ロウのギターも小粋なバッキング。プレヴィンのピアノとの相性がとても良いみたいで、音がぶつかったり重なったりすることが無い。ロウの職人芸的ギターもこの盤の聴きもの。当然ながら、レイ・ブラウンのベースは素晴らしい。ジャズ・ベースのレジェンド中のレジェンドなんだが、この盤でのブラウンのベースは演奏全体のリズム&ビートをしっかり掌握しコントロールしている。安心安定のブラウンのブンブン・ベースはこれまた聴き応え十分。

選曲も一捻りしていてユニーク。全13曲中、ハロルド・アーレンの曲が6曲、デューク・エリントン関連の曲が6曲と、2つの系統のスタンダード曲で固めていて、不思議な統一感がある。この盤を録音した時、プレヴィンは61歳。大ベテランの域に入ったプレヴィンは、若かりし頃の様に弾き過ぎること無く、余裕ある滋味溢れる流麗で躍動感のあるピアノを弾きまくっている。プレヴィンの晩年を愛でるべき好盤である。
 
 

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2023年3月 7日 (火曜日)

時には「古き良きジャズの音」

ゴリゴリのモード・ジャズや静的スピリチュアルなニュー・ジャズなど、バリバリ硬派なメインストリーム志向の純ジャズ盤を聴き続けていると、演奏のテンションが基本的に高いが故、時々、息抜きをしたくなる。

息抜きをしたくなると、スイング時代からのジャズ演奏の雰囲気を継承した、ビ・バップでもなく、硬派でストイックなハードバップでもない、純粋に「古き良きジャズの音」をキープした中間派ジャズが聴きたくなる。

Pee Wee Russell & Buck Clayton『Swingville Volume 8/ Swingin'』(写真左)。1960年3月29日の録音。ちなみにパーソネルは、Pee Wee Russell (cl), Buck Clayton (tp), Tommy Flanagan (p), Wendell Marshall (b), Osie Johnson (ds)。プレスティッジの傍系レーベル、Swingvilleからのリリース。

Swingvilleは「トラッド・ジャズ」のレーベル。ディキシーやスイングジャズの名手たち、エリントンやベイシーのバンドでスターだった人たちの演奏を聴くことが出来る、「古き良きジャズの音」をキープした盤をリリースしていたレーベルである。

リーダーの1人、Pee Wee Russell(ピー・ウィー・ラッセル)は、1906年生まれ、米国ミズーリ州出身の、ディキシーランド・ジャズからスイング・ジャズ、後に「中間派」ジャズの代表的クラリネット奏者。
 

Pee-wee-russell-buck-claytonswingville-v

 
さて、アルバムの内容に戻る。ピー・ウィー・ラッセルのクラリネットと、バック・クレイトンのトランペットがフロント2管のクインテット編成なんだが、メンバーは基本的に中間派ジャズのジャズマンが集結している。が、1人だけ、あの「名盤請負人」と名を馳せたトミー・フラガナンがピアノを担当している。

演奏の雰囲気は、一言で言うと「心地良く寛いだ雰囲気のモダン・スイング」。ラッセルのクラリネットの、流麗で小粋でこぶしの利いたフレーズがホンワカ心地良く、クレイトンの張りのあるブリリアントなトランペットが心地良く響く。典型的な「中間派」ジャズな演奏で、特にスイング・ジャズ風の音作りが実に「ジャズらしい」。

そして、この「中間派」ジャズの演奏の中で、フラナガンのピアノが「キラリ」と光るフレーズを連発する。このフラナガンのピアノの存在が、この「中間派」ジャズにモダンな響きを宿らせて、このオールド・スタイルな、ノスタルジックな「中間派」ジャズの演奏を、意外と新しいイメージで聴かせている。「名盤請負人」フラナガン、侮りが足し、である。

こういう、ジャズらしいジャズ盤、というのも時には良い。息抜きをしたくなった時、難しいことは考えずに「古き良きジャズの音」に身を委ねる。至福の時である。
 
 

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2023年2月23日 (木曜日)

ジャズ喫茶で流したい・258 『On A Clear Day - Live in Zurich, 1971』

お待たせしました。やっとこさ、ブログを再開しました。よろしくお願いします。

さて、ジャズ・ライフ誌の「Disc Grand Prix 年間グランプリ」には、2022年度にリリースされた新盤の中に、過去の未発表音源が入っていたりするから、チェックは念入りに怠り無く、である。以前は「コルトレーンもの」や「マイルスもの」が多かったが、最近は、そのレジェンド級ジャズマンについてもバラエティーに富んできて、探索するのが楽しい。                                       

The Oscar Peterson Trio『On A Clear Day - Live in Zurich, 1971』(写真左)。1971年11月24日、スイスのチューリッヒ、Kongresshausでのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Oscar Peterson (p), Niels-Henning Ørsted Pedersen (b), Louis Hayes (ds)。ラジオ・チューリッヒの放送用の未発表ライヴ音源の初アルバム化である。

ジャケットがいかにもブートらしくて、初めて、このジャケットを見た時は触手が伸びなかった。しかし、ネット情報でトリオのメンバー名を確認して、即ゲットを決意。史上最高のジャズピアノ・マイスターのピーターソン、そして、デンマークの至宝ベーシストのペデルセン、堅実実直なレジェンド級ドラム職人のヘイズ。このトリオ編成は素晴らしい。

というか、僕は「ピーターソン者」。ピーターソンがお気に入りピアニストの1人で、好きなランクの上位に位置する。しかし、このピーターソン、ペデルセン、ヘイズのトリオ編成って、聞いたことが無かった。で、ネットで調査してたら、この今回のライヴ音源が唯一だったらしい。でしょうね。でも、ピーターソンのピアノにペデルセンのベースって、絶対良いよな。そこに、ヘイズの堅実実直なドラムがビートの底を支えるのだ。絶対、内容は良いに決まっている。
 

The-oscar-peterson-trioon-a-clear-day-li

 
で、聴いてみると、やっぱり良いですね。ドライブ感抜群・スイング感抜群・歌心満載のピーターソンのピアノに対等に相対出来るベーシストはなかなか見当たらないのだが、テクニック最高・高速ライン弾き・唄う様なピッツィカートのペデルソンのベースがバッチリ合う。

どちらも高速フレーズを弾きこなすのだが、この2人は決して「うるさくならない」。相手の音を良く聴いて、音がぶつからない様に、相手をしっかりサポートする様に弾きこなしている。素晴らしい。

ヘイズのドラミングも実に良い。ピーターソンとペデルセンが高速フレーズを弾きまくるバックで、演奏全体のリズム&ビートをしっかりと支え、しっかりとリードしている。この堅実実直なヘイズのドラミングがあってこそ、ピーターソンもペデルセンもバリバリ弾きこなせるというもの。

全編、熱演につぐ熱演で、その熱気は聴衆の熱気と共に、様々な音でしっかりと伝わってくる。特に聴衆の盛り上がりは相当なもので、1971年とは言え、さすが欧州。流行に流されず、メインストーリム指向の純ジャズの優れた演奏に正しく反応する感性は素晴らしい。

良いライヴ音源です。こういう未発表音源が、しかも、オスカー・ピーターソンの一期一会トリオの音源が、ラジオの放送音源から作成されたことはとても素晴らしい出来事だったと思います。聴き応えのあるピアノ・トリオの演奏。実際のライヴで聴きたかったですね。

 
 
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2023年2月11日 (土曜日)

ベツレヘムならではの企画盤

ベツレヘム・レーベルのハードバップなインストの優秀盤は、他のレーベルに比べて、ちょっとユニーク。米国東海岸ジャズと西海岸ジャズの要素がほどよく融合して、独特の雰囲気のハードバップが成立している。例えば、この企画盤に詰まってる音は、ベツレヘムならではの音作りになっていて、とても面白い。

『Winner's Circle』(写真)。1957年9月,10月の録音。ちなみにパーソネルは、以下の通り。

奇数曲(1957年9月録音)ー Art Farmer (tp), Rolf Kühn (cl), Eddie Costa (vib), Kenny Burrell (g), Oscar Pettiford (db), Ed Thigpen (ds)。

偶数曲(1957年9月録音)ー Donald Byrd (tp), Frank Rehak (tb), Gene Quill (as, 2.のみ), John Coltrane (ts), Al Cohn (bs), Eddie Costa (p), Freddie Green (g, 2.のみ), Oscar Pettiford (db), Ed Thigpen (ds, track:2 を除く), Philie Jo Jones (ds, track:2 only)。

Winner's Circle。競馬用語では「勝ち馬表彰式場」。直訳だと「勝者の輪」。この盤の制作経緯を読むと、ダウンビート誌が1957年に発表した批評家の投票結果を基にメンバー選定して録音に臨んだ企画盤とのこと。

ただし、各楽器毎の一位のジャズマンばかりが選ばれている訳では無い。この盤でその存在がクローズアップされるジョン・コルトレーンはテナー・サックス部門で2位。ベース部門では、オスカー・ペティフォードが1位。ペティフォードは全8曲に参加していて、この企画盤、ペティフォード名義でも良かったのでは、とも思う。

冒頭「Lazy Afternoon」の演奏を聴けば、米国西海岸ジャズか、と思うだろう。エディ・コスタの硬質で透明感溢れるヴァイブのフレーズが心地良い。アート・ファーマーもトランペットもリリカルで流麗。ケニー・バレルのギターは漆黒アーバンでファンキーな響き。アレンジもシンプルで秀逸。しっかりアレンジされた、聴かせるジャズ。米国西海岸ジャズの雰囲気濃厚である。
 

Winners-circle  

 
2曲目の「Not So Sleepy」は、フロント楽器の担当が東海岸のメンバーがメイン。でも、出てくる音は、どちらかと言えば、西海岸ジャズの雰囲気濃厚。お目当てのコルトレーンは、ゆったりしたミッドテンポに乗って、演奏の西海岸ジャズの雰囲気に似使わない、ゴツゴツとした硬いフレーズに終始する。

この盤でのコルトレーンは8曲中の4曲のみ参加、かつ、フロント4管構成の1つなので出番は極めて少ない。大凡は「普通の何の変哲も無いフレーズ」を吹いていく。この盤でのコルトレーンは発展途上と聴いた。聴きどころは殆ど無い。が、LP時代、日本のレコード会社は、この企画盤をコルトレーン名義として発売している。呆れた商業主義である(笑)。

それでも、コルトレーン以外のメンバーは、西海岸ジャズの雰囲気に乗って、情感豊かでリリカルなフレーズを紡ぎ上げている。演奏全体の雰囲気は良い。

以降、ラストの「Turtle Walk」まで、ミッドテンポが中心の、米国西海岸ジャズの雰囲気濃厚な演奏が続く。演奏自体はハードバップ。アレンジ良し演奏良し、聴かせるジャズ、聴いて楽しいジャズが小粋に展開されている。

「Winner's Circle(勝者の輪)」なんてタイトルが付いているので、批評家の投票結果の上位者が集まって、丁々発止とバトルを繰り広げるジャム・セッション集かと思ったら、米国西海岸ジャズの雰囲気濃厚な、しっかりアレンジされた、聴かせるジャズが展開されているので、初めはちょっと面食らう。

米国の東海岸と西海岸の両方にオフィスを構え、東海岸と西海岸、どちらに偏ることも無く、双方のジャズマンのリーダー作をリリースしていたベツレヘム・レーベルならではの優秀盤といえるだろう。ベツレヘムのハードバップはユニークなものが多い。
 
 

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