困ったちゃんなアルバムである
上原ひろみの新譜『Alive』が出た。実は、よくバーチャル音楽喫茶『松和』で、マスターは上原ひろみはどうなの、って訊かれる。僕は決まって「う〜ん」と唸って曖昧に答えを避ける。上原ひろみというピアニストには熱狂的なファンが多く存在する。どうにも、上原ひろみについては評価しかねるところがあって、この「上原ひろみってどうなの」という質問はとっても困るのだ。
まあ、私、松和のマスターとしても、実は上原ひろみのアルバムは全て所有している。熱狂的なファンが、皆こぞって「凄い凄い」を連発するもんだから、やはり、しっかり聴いて、自分なりの解釈を持たないとなあ、というノリである。
2007年リリースの『Time Control』までは、まずまず、何とか楽しんで聴いていた。あれれ、と思い始めたのは、2009年リリースの『Beyond Standard』からである。さすがにスタンダード曲を手掛けると、そのジャズ・ピアニストの資質と個性が露わになる。そこで、僕は上原ひろみに対して「あれれ」という感じを抱くようになった。
その「あれれ」の頂点が、2012年リリースの『Move』(写真左)。このアルバムを聴いて、その「あれれ」がなんとなく納得出来た。ちなみにパーソネルは、Hiromi (p)・Simon Phillps (ds)・Anthony Jackson (b)。上原ひろみ THE TRIO PROJECT featuring Anthony Jackson & Simon Phillips名義のアルバムの2枚目。
とにかく上手い。とにかく良く練られている。とにかく練習している。破綻するところは全く無い。テクニックも抜群。アドリブ・フレーズも速い速い。だけど、何かが足らない。何なんだろう、何か2つから3つ位足らない。演奏は水準以上の素晴らしいものなんですけどね。
上原のピアノ・トリオには、ファンクネスはほとんど感じられない。ジャジーな響きがかなり希薄なのだ。日本人の純ジャズと言えば、乾いたファンクネスが特徴だと感じているのだが、上原のピアノには、ファンクネスがほとんど感じられない。これがまた、バックのベースとドラムのリズム・セクションも同様なのだ。
何と形容したら良いのか、そう、上原のピアノは、クラシックの響き、高速で超絶技巧なピアノ・コンチェルトを聴いているような響きを感じる。ジャズ・ピアノというより、クラシック・ピアノな響きを感じるので、何となく「あれれ」という違和感を感じるのだろう。
叩く様な、叩き付けるような、硬質で力強いタッチを連続して繰り広げ続けるインプロビゼーションにも違和感を感じる。この『Move』というアルバムは自作曲ばかりで固めているので、どの曲もほとんどが、硬質で力強いタッチを連続して繰り広げ続ける展開になっていて、聴き進めるうちに、ちょっと飽きてくる。
ジャジーな雰囲気が希薄なジャズ・ピアノ。クラシックの様なジャズ・ピアノ。これをジャズの進歩、ジャズのバリエーションと前向きに評価するかどうかで、この上原ひろみのピアノに対する評価は大きく分かれる。
ジャジーな雰囲気が希薄な分、当然、オフビートな感覚も希薄になる。つまりは、高速で超絶技巧なピアノ・インプロビゼーションでありながら、ノリが薄い、聴いていて乗り切れない、速いパッセージをじっとして聴いてしまうような、不思議な違和感が全編を覆う、どう評価して良いか判らない、困ったちゃんなアルバム『Move』なのである。
大震災から2年10ヶ月。決して忘れない。まだ2年10ヶ月。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから復興に協力し続ける。
★Twitterで、松和のマスターが呟く。名称「松和のマスター」でつぶやいております。ユーザー名は「v_matsuwa」。「@v_matsuwa」で検索して下さい。
最近のコメント