2026年6月 6日 (土曜日)

ジャズ喫茶で流したい・324

ハンク・モブレーの、ブルーノートに残した最後のリーダー・セッションとして知られるジャズ盤。フロント2管に、リーダーのハンク・モブレーのテナー、そして、新進気鋭の若手ウッディ・ショウのトランペット。リズム・セクションに、モード・プレイの雄シダー・ウォルトンがピアノを担当している。ギター、ベース、ドラムは当時の中堅〜若手のジャズマン。セクステット編成である。

Hank Mobley『Thinking Of Home』(写真)。1970年7月31日、Van Gelder Studioでの録音。リリースは1980年。ブルーノートの4367番。ちなみにパーソネルは、Hank Mobley (ts), Woody Shaw (tp), Cedar Walton (p), Eddie Diehl (g), Mickey Bass (b), Leroy Williams (ds)。1970年のブルーノートには珍しい、真摯実直、硬派ストレートアヘッドなポスト・バップなモード・ジャズ盤。

まず、モブレーのテナーは申し分ない。ストレートアヘッドな吹奏も、イージーリスニング志向のソフト&メロウな吹奏もどちらも水準以上。この盤でのモブレーは好調である。ウディ・ショウの瑞々しいトランペットやシダー・ウォルトンの堅実なピアノワークも優れたパフォーマンスで、モブレーのスモーキーで哀愁漂うサックスと見事に調和している。
 

Hank-mobleythinking-of-home

 
ギターの存在は、演奏全体がポスト・バップしすぎて大衆受けしないリスクを和らげる為に、イージーリスニング志向のギターを織り交ぜている様だ。演奏レベルとしては、ブルーノートの標準レベル以上をキープしている。1970年の録音ということを勘案すると、ブルーノートにおける「最後の価値あるハード・バップ・アルバムの一つ」と評価して良い内容の充実度である。

サイドマンとしては、やはり、ショウのトランペットが素晴らしい。ショウの放つエネルギッシュで瑞々しいソロは、モブレーの少しスモーキーで哀愁のあるサックスと最高のリリシズムを生み出している。ウォルトンのピアノも良い。モブレーの哀愁あるサックスや、ショウの鋭いトランペットの背後で、一切の無駄がない完璧なバッキングを聴かせる。知的なソロも素晴らしく、全体の音楽的な気品と統一感は、彼のピアノがコントロールしていると言っても過言ではない。

モブレーは15年間にわたりブルーノートの看板テナー・サックス奏者として活躍。本作はその最後を飾る隠れた名盤。録音後すぐに発売されず、1980年まで未発表だった為、当時のリアルタイムな評価こそ逃したものの、後年その完成度の高さから再評価が進んでいる逸品。とにかく、モブレーのテナーが好調で元気なのが良い。好盤である。
 
 

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2026年6月 1日 (月曜日)

ジャズ喫茶で流したい・324

1960年代終盤、大手レコード会社の傘下に入ったブルーノートは、いわゆる、売らんが為の「明らかに聴き手に迎合した、売れ筋を意識した、ライトで聴き易いジャズ」の制作に舵を切る。イージーリスニング志向の「ファンキー&ソウル・ジャズ」、そして「軽快で優しいジャズ・ファンク」なアルバムを制作する。そんな中で、時折、メインストリーム志向のポスト・バップなアルバムも作ったりしていたけど。

Bobby Hutcherson Featuring Harold Land『San Francisco』(写真左)。1970年7月15日、ロサンゼルスの「United Artists Studios」での録音。ブルーノートの4362番。ちなみにパーソネルは、Bobby Hutcherson (vib, marimba, perc), Harold Land (ts fl, oboe), Joe Sample (p, el-p), John Williams (b, el-b), Mickey Roker (ds)。

1970年代に入って、ブルーノートのアルバム制作の方向性が変わっていく。大衆向けの「売れ筋を意識したライトで聴き易いジャズ」は控えめに、当時の音楽のトレンドであった、サイケデリック、スペーシー、アーシーな、ジャズ・ロック&ジャズ・ファンクなアルバムの制作に方向転換する。このアルバムはその最初の一枚といっていいかもしれない。

サイケデリック、スペーシー、アーシーな音要素を取り入れたことにより、単なるジャズ・ファンクに留まらない、スピリチュアルな深みを獲得している。その深みの中で展開される、限りなく自由度の高いモーダルなインプロビゼーションが、純ジャズっぽく、メインストリーム志向に映えに映える。
 

Bobby-hutcherson-featuring-harold-landsa

 
冒頭「Goin' Down South」では、アーシーでファンキーな演奏が展開される。まるで、1970年代前半のキース・ジャレットの様な、ゲイリー・バートンの様な、アーシーでファンキーな音世界。この演奏に「売らんが為」のバイアスは感じ無い。ハッチャーソンのヴァイブ、ハロルド・ランドのテナーのアドリブ展開はモードそのもの。アーシーなリズム&ビートを敬遠してはならない。1970年代を台憑依する、純ジャズの音世界の一つである。

2曲目の「Prints Tie」では、がらっと変わって、サイケデリックで、妖艶で耽美的、そして、スペーシーな「ニュー・ジャズ」な演奏が展開される。まるで、1970年代のECMレーベルの様な音世界。現代音楽的要素も見え隠れし、リズム&ビートの取り方は、あきらかにニュー・ジャズ志向。とても米国ジャズの音世界とは思えない、絶妙な名演である。

この冒頭からの2曲が、このアルバムの全体の雰囲気を決定付けている。1970年代の新しいジャズの音世界がこの盤に展開されている。ジャズ・レーベルの老舗、ブルーノート・レーベルの面目躍如。クルセイダーズ(当時はジャズ・クルセイダーズ)のメンバーとして知られるジョー・サンプルのエレピと、フェンダー・エレベースの使い手、ジョン・ウィリアムスのエレベのグルーヴが明らかに「新しい」。

この「新しい」リズム&ビートのグルーヴに乗って、ハッチャーソンのヴァイブと、ランドのサックスが飛翔し疾走する。モーダルに、限りなく自由に、時にフリーに展開するインタープレイは見事という他は無い。1970年代ジャズの「隠れ名盤」である。
 
 

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2026年5月24日 (日曜日)

サウンドで空間や風景を描くこと

ガルバレクの音で静謐な風景を描き出す独自のスタイルが明快に出たリーダー作。内省的で広大なサウンド・スペースが、いかにもECMジャズらしい。ガルバレクはノルウェーの出身。ガルバレクのサックスの音は明らかに「北欧」的。しかし、ユニークなのは、北欧ジャズお決まりの「音程と節回し」が希薄。音の質は明らかに「北欧」なのだが、音程と節回しは、明らかに「ガルバレクのオリジナル」。

 Jan Garbarek『Places』(写真左)。1977年12月、オスロの「Talent Studio」にての録音。ECMの1118番。ちなみにパーソネルは、Jan Garbarek (ts, ss, as), John Taylor (p, org), Bill Connors (g), Jack DeJohnette (ds)。ECMレーベルのハウス・サックス奏者、ヤン・ガルバレクのリーダー作。ベースレスという特異なカルテット編成。

ジョン・テイラーのオルガンの扱いがこれまたユニーク。米国ジャズでは聴いたことがない、教会音楽を思わせるオルガンのドローン(持続音)。これは確実に教会のオルガン・サウンドが基であろう、ファンクネスが希薄で、敬虔でリリジョン的な音は、独特で北欧的なサウンド効果を生む。

このジョン・テイラーのオルガンのドローン(持続音)をバックに、静謐でリリカルでクリスタルな、力感溢れ切れ味抜群のガルバレクのサックスが飛翔する。そして、ファンクネス皆無なクラッシック的な響きが個性のビル・コナーズのアコースティック・ギターが耽美的で躍動的なサウンドを展開する。
 

Jan-garbarekplaces

 
そんなフロントの3人を支え、鼓舞し、リードするのは、ジャック・ディジョネットのドラミング。ディジョネットのドランミングは、ファンクネスをそぎ落とした、パルシヴで躍動感溢れ、繊細でダイナミックな、途方もなくポリリズミック名ドラミング。緩急自在、硬軟自在、変幻自在なドラミングは、ガルバレクの静謐でリリカルでクリスタルな、力感溢れ切れ味抜群のガルバレクのサックスとの相性抜群。

ビル・コナーズのアコーティック・ギターも神妙に、ディジョネットのポリリズムに追従する。パルシヴなドラミングと、教会音楽を思わせるオルガンのドローン(持続音)の好対照なリズム&ビートの融合が、ベースレスと相まって、この盤に独特の浮遊感をもたらしている。そして、その浮遊感が、ガルバレクの「音で空間や風景を描くこと」というサウンド・ウメージの実現に多大な貢献をしている。

2曲目の「Entering」の欧州フォーキーな音世界は完全にECMオリジナル。ファンクネス皆無なクリスタルで凛とした欧州フォーキーな音世界に、ガルバレクのサックスとコナーズのギターの音色が良く似合う。まるで、北欧の「森と大地」を想起する、その透明度の高いフォーキーな音世界は、他のジャズ・レーベルの音には無い響き。コナーズのアコギの音が、そのフォーキーさをより濃厚なものにしている。

ジャケットもECMらしいジャケットでとても良好。ガルバレクの音楽性をそのまま視覚化したような、北欧の荒涼とした、しかし息をのむほど美しい自然の風景写真が使われているのが印象的。これほど、アルバムの中の音世界と合致したイメージのジャケットのアートワークも珍しい。
 
 

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2026年5月16日 (土曜日)

米国と欧州の接近の”今”を感じる

2023年晩秋、ニューヨークの名門クラブ「ヴィレッジ・ヴァンガード」でのレジデンス(ライヴ)期間中に、ニュージャージーの歴史的なヴァン・ゲルダー・スタジオにてレコーディング。ECMレーベルにしては珍しいスタジオ選択。ここでも、ECMレーベルの「米国ジャズへの接近」「グローバル・ジャズへの裾野拡大」を感じる。

Joe Lovano & Marcin Wasilewski Trio『Homage』(写真左)。2023年11月18日、米国ニュージャージー州イングルウッド・クリフスのヴァン・ゲルダー・スタジオでの録音。ちなみにパーソネルは、Joe Lovano (ts, tarogato, gong), Marcin Wasilewski (p), Slawomir Kurkiewicz (b), Michal Miskiewicz (ds)。ECM Recordsから、2025年4月25日のリリース。

このアルバムでは、ECMレーベルの音の「今」の一端を感じる事が出来る。ジョー・ロヴァーノは米国のサックス奏者。圧倒的な極太のダークトーン、伝統とアヴァンギャルドの融合がロヴァーノのサックスの個性なのだが、出てくる音の響きは当然「米国的」。

しかし、ロヴァーノは、ECMレーベルでの録音の時は、ECMの音のカラーに合わせて、音数を絞り、空間の響きを大切にした「静かでスピリチュアルな祈り」のようなパフォーマンスを展開する。米国的な「音の質」で、ECMレーベルライクな「音」を紡ぎ出す。いわゆる「米国ジャズの欧州ジャズへの接近」である。これが、聴いていて興味深く、最近のロバーノのECM盤を聴く最大の楽しみになっている。
 

Joe-lovano-marcin-wasilewski-triohomage  
 

マルチン・ボシレフスキ・トリオは、ポーランドが世界に誇る、現代最高峰のピアノ・トリオの一つ。このトリオの音楽性は「ヨーロッパ・ジャズの極み」とされる、静寂とリリシズム、ダークで、深く、スピリチュアルな表現力が個性。加えて、ユニークなのは、ジャンルを超えた「ポップ・センス」。ポップ・ロックの楽曲を、原曲の良さを活かしつつ、完全に自分たちのディープなジャズの世界観に染め上げるのに長けている。

ジョー・ロヴァーノの「豪快で太いアメリカン・サックス」と、マルチン・ボシレフスキ・トリオの「繊細で透明感のあるヨーロピアン・ピアノ」が出会い、化学反応を起こして、叙情的な美しさをベースにしつつ、本作ではより自由で広がりのある「インプロヴィゼーション」と、メンバー間のスリリングな「インタープレイ」を展開している。

ロヴァーノの音数を絞り、空間の響きを大切にした「静かでスピリチュアルな祈り」のようなパフォーマンスが、マルチン・ボシレフスキ・トリオの静寂とリリシズム、ダークで、深く、スピリチュアルなリズム・セクションをバックに、ECMレーベルの独特の「限りなく静謐で豊かなエコーを個性とした音世界」に染め上げられ、朗々と叙情的に展開されていく。

マルチン・トリオ本来の美しくポップなメロディ・ラインをあえて少し崩し、欧州的な音の響きを米国的に少しチューニングし、ロヴァーノが得意とする「自由に流れるような即興演奏」や「大胆な音の掛け合いによるインタープレイ」に軸足を置いた、非常にスリリングで冒険的な内容になっている。まさに、ECMレーベルの「今」を感じることができる好盤である。
 
 

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2026年5月15日 (金曜日)

ジャズ・ファンク3部作の最終盤

この盤の雰囲気、リズム&ビートからして、純粋なジャズとは言い難い。しかし、エレクトリック楽器やファンクのリズムを導入しつつも、ジャズの即興演奏に重きをおいたアレンジは、クロスオーバー・ジャズとしてのジャズ・ファンクとして聴けば違和感は無い。「ダンサフル、ファンクネス満載、グルーヴ感満載」で、後のレア・グルーヴ御用達盤である。

Joe Farrell『Canned Funk』(写真左)。1974年11-12月の録音。ちなみにパーソネルは、Joe Farrell (ts, ss, bs, fl), Herb Bushler (b), Joe Beck (g), Jimmy Madison (ds), Ray Mantilla (conga, perc)。ジョー・ファレルのCTIレーベルでの最後のリーダー作。ジャケットのぶっ飛んだデザインも強烈なインパクト。ファレルの考えるジャズ・ファンクの完成形。

冒頭のタイトル曲「Canned Funk」から、ファレルの考えるジャズ・ファンク全開。ファレルのサックスは、メインストリーム・ジャズ志向の正当派な吹きっぷりなんだが、バックのリズム&ビーとがエグい。ファンク度満点。そして、ベックのエレギがこれまたエグい。ベックの弾き出すファンクネスは半端無い。そして、ファレルとベックのユニゾン&ハーモニーから滴り落ちるファンクネスがこれまたエグい。
 

Joe-farrellcanned-funk

 
また、この盤でのグルーヴ感は特別で、当時CTIレーベルに多かった「スタジオで上品に作り込まれたフュージョン」とは一線を画した、当時のファレルのレギュラー・バンドによるライヴさながらの一発録りが、生々しいグルーヴ感を醸し出している。ファレルの正統派サックスとフルートが映えに映える録音は見事なもの。

この盤でも、ジョー・ベックのエレギの存在が大きく、ファンキーなカッティングから、ロック調の激しい歪み系ソロまで縦横無尽に弾きまくっている。そして、ベースのハーブ・バシュラーも、エフェクターを駆使したエレクトリック・ベースで強烈なうねりを創り出している。ジミー・マディソンのドラム、レイ・マンティーリャのパーカッションの「太鼓隊」の叩き出すグルーヴも半端ない。

3曲目の「Suite Martinique」などは、プログレッシブ・ロックやラテンジャズにアプローチした複雑な構成で、クロスオーバー・ジャズとしての面目躍如的な演奏。1作目"Penny Arcade" 、2作目 "Upon This Rock" 、3作目 "Canned Funk" の「ファレルの考えるジャズ・ファンク」シリーズの最終作。クロスオーバー・ジャズ志向のジャズ・ファンク盤としての佳作である。
 
 

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2026年5月10日 (日曜日)

ジャズ・ファンクを走るファレル

CTIレーベルに来て、正統派クロスオーバー・ジャズなアルバムを制作してきたジョー・ファレル。よりファンキーな路線へと舵を切ったCTI第4作目が『Penny Arcade』。そして、CTI第5作目である。より骨太でロック色の強いフュージョン・サウンドへの傾倒が色濃い、ジャズ・ロック/ジャズ・ファンクの好盤である。

Joe Farrell『Upon This Rock』(写真左)。1973年10月, 1974年3月の録音。ちなみにパーソネルは、Joe Farrell (ts, ss, fl), Joe Beck (g), Herb Bushler (b), Jimmy Madison (ds)。ゲストに、Steve Gadd (ds, on "I Won't Be Back"), Herbie Hancock (p, on "I Won't Be Back"), Don Alias (conga, on "I Won't Be Back")。全4曲で構成され、ジャズの即興性とロックのダイナミズムが高度に融合したクロスオーバー・ジャズである。

1作目"Penny Arcade" 、2作目 "Upon This Rock" 、3作目 "Canned Funk" の三作品は、ギターにジョー・ベックを入れてかなりファンク色の強い演奏をしている。その2作目である。この作品の実質的な「共同リーダー」とも称されるギタリスト、ジョー・ベックの存在感が非常に大きいのが特徴。ジョー・ベックのファンキー・エレギを抜きにして、この盤は語れない。
 

Joe-farrellupon-this-rock

 
1曲目「Weathervane」は、挨拶代わりの1曲。ファレルとジョー・ベックによる高速のユニゾン・フレーズが印象的な、マハヴィシュヌ・オーケストラを彷彿とさせる緊張感あふれるジャズ・ロック。3曲目のタイトル曲「Upon This Rock」が、強烈な、このアルバムのハイライト。強靱なドラム・ブレイクで幕が開き、ファレルの力強いテナー・サックスとジョー・ベックの歪んだギターのユニゾン&インタープレイが凄まじい。

2曲目の「I Won't Be Back」だけが、他の3曲と雰囲気、音が違う。それもそのはず、この曲については、前作『Penny Arcade』と同じセッションで録音された曲。ハービー・ハンコックとスティーヴ・ガッドが参加しており、ラテン調の軽快なリズムに乗せた優雅なファレルのフルート・ソロが楽しめる。後のフュージョン・サウンドを先取りした様な、アーバンでメロウでファンキーなサウンドは意外と癖になる。

ラストの「Seven Seas」は、ジャズ・ファンク・チューン。ファレルのテナーもベックのエレギも、どっぷりジャズ・ファンク。ファンキーな路線へと舵を切ったファレルの最終到達点の様な演奏。全4曲を聴いて、ファレルの目指したもの、それは、ジャズとロックの融合によるクロスーオーバーなジャズ・ファンク。これはこれで、ちゃんとした成果を上げていると僕は思う。
 
 

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2026年5月 9日 (土曜日)

ジャズ・ファンクのファレルです

チック・コリア率いる第1期リターン・トゥ・フォーエヴァーのメンバーとしても知られるサックス&フルート奏者のジョー・ファレル。それまで、CTIレーベルに来て、正統派クロスオーバー・ジャズなアルバムを制作してきたが、この盤は、よりファンキーな路線へと舵を切ったCTI第4作目。

Joe Farrell『Penny Arcade』(写真左)。1973年10月の録音。ちなみにパーソネルは、Joe Farrell (ts, ss, fl, piccolo), Joe Beck (g), Herbie Hancock (p), Herb Bushler (b), Steve Gadd (ds), Don Alias (conga)。ジョー・ファレルが伝統的なジャズからジャズ・ファンク〜ジャズ・ロックへと転換した、エポックメイキングな作品。

冒頭のタイトル曲「Penny Arcade」から、ジャズ・ファンク全開。ジョー・ベックのギターリフが完璧にジャズ・ファンクしていて、演奏全体にファンクネス蔓延。続くスティーヴィー・ワンダーのカバー曲「Too High」は、もともと曲自体が、R&Bの名曲なんで、冒頭から、どっぷりジャズ・ファンク。
 

Joe-farrellpenny-arcade

 
13分を超える白熱のジャム。ファレルはソプラノ・サックスで、複雑なメロディを自在に吹きこなし、とてもエモーショナルな吹き回し。そのファレルのソプラノ・サックスに、ハービー・ハンコックが、原曲のクラビネットをエレピ(フェンダー・ローズ)に置き換え、うねるようなソロで絡みに絡む。このスティーヴィー曲のカバーでのハンコックのエレピのソロは絶品である。

続く「Hurricane Jane」では、7/4拍子という変拍子ながら、スティーヴ・ガッドの強烈なドラミングがエグい。そこに、ハンコックのエレピが、ジャズ・ファンクよろしく、どっぷりファンキーに絡んで、その上でファレルがファンクにモーダルにサックスを吹きまくる。この雰囲気って、どこか、ハンコックのジャズ・ファンクの歴史的名盤『Head Hunters』を想起する。

ラス前の「Cloud Cream」と。ラストの「Geo Blue」は、アーバンでメロウな雰囲気のムーディーな演奏で、ジャズ・ファンクというよりは、これこそフュージョン・ジャズである。最後の2曲が、それまでの圧倒的な「ジャズ・ファンク大会」な雰囲気をクールダウンさせているところで、ちょっと損をしている。それでも、この盤、当時のジャズ・ファンクの好盤としてお勧めである。
 
 

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2026年4月16日 (木曜日)

”Jazz Message #2” の再聴

内容は良いのに話題に上ることが少ない盤。よくある「あるある」はジャケット。ジャケット・デザインの意味するところが判らない盤は、なかなか人気が出ない。このモブレーのリーダー作が、その最たる例だろう(笑)。どうして、こういうジャケット・デザインになったのか、理解に苦しむ(笑)。サボイ・レーベルの謎である。

Hank Mobley『Jazz Message #2』(写真左)。1956年7月23日、11月7日の録音。Savoyレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは以下の通り。リーダーのハンク・モブレーのテナーと、ダグ・ワトキンスのベースは、2回のセッション共通。後は、総取っ替えである。

1曲目「Thad's Blues」,2曲目「Doug's Minor B' Ok」は、1956年1月7日の録音で、Hank Mobley (ts), Lee Morgan (tp), Hank Jones (p), Doug Watkins (b), Art Taylor (ds)。

3曲目「B. for B.B.」4曲目「Blues Number Two」5曲目「Space Flight」は、1956年7月23日の録音で、Hank Mobley (ts), Donald Byrd (tp), Barry Harris (p), Doug Watkins (b), Kenny Clarke (ds)。
 

Hank-mobleyjazz-message-2  

 
サヴォイ・レーベルの録音なので、音がまずまず良い。1956年、ハード・バップ全盛に向かって、若きジャズ・ミュージシャン達が技を競い合った時期。ハードバップど真ん中な、躍動感溢れる、熱気ムンムンの演奏に思わず、聴き耳を立ててしまう。

若きモブレーの、まだ荒削りで野太い、それでいて歌心を感じさせるテナーは「これぞモダン・ジャズ」的な音で、聴いていて心が和みます。ワトキンスのベースは、太くて堅実。ブンブン鳴ってます。

1曲目「Thad's Blues」,2曲目「Doug's Minor B' Ok」では、リー・モーガンのトランペットが溌剌としてブリリアント。バリバリとテクニックよろしく、うるさいくらい元気に、トランペットを吹き上げていく。若きモブレーの、まだ荒削りで野太い、それでいて歌心を感じさせるテナーで、モーガンに追従する。

3曲目「B. for B.B.」4曲目「Blues Number Two」5曲目「Space Flight」でのトランペットは、ドナルド・バード。バードのトランペットも溌剌としてブリリアント。バリバリとテクニックよろしく、理知的に元気に、トランペットを吹き上げていく。バードの端正で理知的なトランペットは聴きもの。

ペットのモーガンやバードは、もうこの頃、既に、彼らそれぞれ特有の「クセ」が、ところどころに見え隠れして優秀。。ハード・バップの美味しいところが詰め込まれていて楽しい。リラックスして聴けます。
 
 

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2026年3月29日 (日曜日)

ジャズ喫茶で流したい・319

ドニー・マッキャスリン。どっかで聞いたことがある名前だが、どこだっけ、と調べたら、デヴィッド・ボウイの遺作『★(ブラックスター)』で重要な役割(音楽監督だっと記憶している)を果たしたことで広く知られたテナー・マンだった。そうだそうだ、ということで、そんなマッキャスリンの新作である。

Donny McCaslin『Lullaby For The Lost』(写真左)。December , 2024年12月18,19日の録音。ちなみにパーソネルは、Donny McCaslin (ts), Ben Monder (g), Jason Lindner (key), Jonathan Maron (b), Zach Danziger, Nate Wood (ds)。ダブル・ドラムでリズム&ビートを増強した、変則セクステット編成。

どこか、後期エレクトリック・マイルスを彷彿とさせる、ロック畑では、ニール・ヤングやレディオヘッドを彷彿とさせる、タイトで切れ味の良い、パルシヴなリズム&ビートを効かし、重低音ベースが唸りを上げて、独特のグルーヴを生み出し、ダンサフルで疾走感溢れるリズム・セクションに乗って、マッキャスリンのテナーが飛翔する。

静的な叙情的な展開の部分は、ネーチャーでフォーキーな響きのテナーが叙情的に感傷的に優しく響く。この落差が堪らない。
 

Donny-mccaslinlullaby-for-the-lost

 
まるで、1970年代のプログレッシヴ・ロックを聴くようでもあり、ついつい、このマッキャスリンの音世界に引きずり込まれていく。どこか、スクラッチの響きも漂い、ここは1980年代のエレ・ハンコックを想起する。シンセ・ドラムを駆使したり、とにかく、音作りがユニークかつ斬新。

マッキャスリンのテナーは唄うが如くテナーを吹く。バックのリズム・セクションが紡ぎ出すユニークかつ斬新なビートとグルーヴに乗って、マッキャスリンのテナーが自由に多彩に吹きまくる。マッキャスリンのテナーの素性の良さとテクニックの高さ、唄う様に吹き上げる個性、それぞれがとても良く判る内容に、パフォーマンスになっていて聴き応え十分。

ギターのベン・モンダーも要所要所で良い仕事している。プログレっぽいエレギの響きはジャズに新しい響きを付加している。このファズの効いたエレギもこの盤での好要素だろう。

現代のニュー・ジャズ。コンテンポラリーなエレ・ジャズとして、この盤は良い出来。まさに、ユニークの極み。ジャズはまだまだ深化している。
 
 

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2026年3月25日 (水曜日)

この盤には”一本取られた感”満載

一言で言うと、上質のクロスオーバーなコンテンポラリー・ジャズ。CTI盤だからと、甘々のイージーリスニング志向のフュージョン。ジャズでしょ、と思うなかれ。スタンリー・タレンタインも甘々なフュージョンに身をやつしたか、と思うなかれ。聴いてみると判るが、上質のコンテンポラリー・ジャズが展開されているから爽快である。

Stanley Turrentine『Don't Mess with Mister T』(写真左)。1973年3月, 7月の録音。ちなみにパーソネルは、Stanley Turrentine (ts), Bob James (ac-p, el-p, arr, cond), Harold Mabern (el-p), Richard Tee (org), Idris Muhammad, Billy Cobham (ds), Rubens Bassini (perc), Ron Carter (b), Eric Gale (g)。ここに、Randy Brecker (tp), John Frosk (flh), Alan Raph (b-tb), Pepper Adams (bs), Jerry Dodgion (as), Joe Farrell (ts)のブラスセクションとストリングスが入る。

まず、リーダーのスタンリー・タレンタインのテナー・サックスであるが、これが硬派でダンディズム溢れる、ファンキーでソウルフルな正統派テナーで、ばりばりに吹きまくっているから堪らない。ソフト&メロウなんて、どこにも無い。力感溢れるファンキーでソウルフルなテナーが各曲に響き渡り、その吹奏こそが、この盤を上質のクロスオーバーなコンテンポラリー・ジャズに仕立て上げている、大きな要素である。
 

Stanley-turrentinedont-mess-with-mister-  

 
ボブ・ジェームスのアレンジとアコースティック・ピアノが実に「効いている」。ジャジーにファンキーにコンテンポラリーにアレンジされたエレ・ジャズで、ロンのベースも、ムハンマド&コブハムのドラムもジャジーに効いていて、この盤の演奏の数々は、決して、イージーリスニング志向のフュージョン・ジャズなんかでは無い。しっかり、ジャズしている。

ティーのオルガンも良い感じ。エリック・ゲイルのギターも良い感じ。ファンキー&ブルージー、ソウルフルな雰囲気をこれでもかと増幅する。後の伝説のフュージョン・グループ「スタッフ」のメンバーの二人。R&Bなグルーヴ感が半端ない。そうそう、ボブ・ジェームスとハロルド・メイバーンのエレクトリック・ピアノも良い味を出している。

聴く前は、ブラス・セクションとストリングスの存在がちょっと不安だが、ソウルフルでブルージー。これはアレンジの勝利。この盤のブラス・セクションとストリングスのアレンジはとても良い。ボブ・ジェームスの面目躍如。

ずっと昔にこの盤は聴いたことがあったが、その演奏内容については「忘却の彼方」。今回、改めて聴き直して、ちょっとビックリ。なんと、とってもジャジーでファンキーでソウルフルな、上質のクロスオーバーなコンテンポラリー・ジャズが展開されている。1970年代の硬派なジャズ盤としても良い内容。CTI盤って、時々、こういうことがあるから隅に置けない。
 
 

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