2024年12月 6日 (金曜日)

ダニエルソンの変則トリオの秀作

晩秋から初冬にかけて、徐々に気温は下がり、北の地方から雪の便りがやってくる。いよいよ、北欧ジャズの鑑賞に一番適した季節がやってくる。晩秋から冬の終わりまで、暖かくした部屋の中、外の「紅葉の景色から冬の景色」を眺めながら聴く、北欧ジャズは絶品である。今年も先日から、この季節から冬の終わりまでに聴きたい「北欧ジャズ」のアルバムを物色している。

Lars Danielsson『Palmer Edition II: Trio』(写真左)。2024年11月のリリース。ちなみにパーソネルは、Lars Danielsson (b), Verneri Pohjola (tp), John Parricelli (g)。フランス有数のワイナリーで録音されたACTレコードからの新作。美しい「音の色彩感覚」に満ちたトリオ演奏。トリオとはいえ、このトリオにはドラムとピアノがいない。ベース、トランペット、ギターの変則トリオ。

スタジオではなく、ボルドーワイン地方の人里離れた一角にある木製パネルのサロンで録音されたアルバム。スウェーデンのベーシストのラーシュ・ダニエルソン(Lars Danielsson)、イギリスのギタリストのジョン・パリチェッリ(John Parricelli)、そしてフィンランドのトランペッターのヴェルネリ・ポホヨラ(Verneri Pohjola)の変則トリオ。録音された音の「残響音」が印象的で、それぞれの音の間に「温かい静寂」を感じる。
 

Lars-danielssonpalmer-edition-ii-trio

 
トリオ3人並列リーダーとして名を連ねているが、実質のリーダーはベーシストのラーシュ・ダニエルソン。ラーシュはスウェーデン出身なので、この盤の音の基本は「北欧ジャズ」。トランペットのポホヨラもフィンランド出身なので、北欧ジャズ独特のフレーズ、音の響きが「金太郎飴の様に」出できそうなものなのだが、この盤にはそれが希薄。フレーズの流れは北欧ジャズ風でフォーキーなものだが、印象的な北欧独特のフレーズは控えめ。

それでも、繊細で抒情的で耽美的でフォーキーなサウンドは印象的で、どう聴いてもこれは欧州ジャズであり、北欧ジャズである。演奏の展開、フレーズの作りは「シンプル」。難解なことは全くしていない。それでいて、変則トリオによるインタープレイは高度なもので、この変則トリオのレベルの高さが窺い知れる。そして、それぞれの楽器の音が素晴らしく良い。テクニックの高さ、楽器の音の素晴らしさ、この二つが、このアルバムの演奏の「躍動感」につながっている。

我が国では、なかなか話題に上がらない北欧ジャズだが、1950年代から着実に「進化〜深化」し、現代においても、まだまだ勢いは衰えず、意気盛ん。このダニエルソンのトリオ盤も、従来からの北欧ジャズのパターンから脱して、新しい北欧ジャズの音を創造している様に感じる。但し、北欧ジャズの「コア」はしっかりと保持され、北欧ジャズの良心である「繊細で抒情的で耽美的でフォーキーなサウンド」は健在。この変則トリオ盤は、2024年の北欧ジャズの秀作の一枚だろう。
 
 

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2024年12月 5日 (木曜日)

マイケル急逝前の傑作の一枚

1970年代以降での「早逝の天才サックス奏者」、マイケル・ブレッカー。コルトレーン&ロリンズ時代の「後を継ぐ」ジャズ・サックスのリーダー格であった。我が国では何故か「コルトレーンのフォロワー」と看做され、何かとコルトレーンと比較されては、コルトレーンよりもレベルが低いとか、コルトレーンの方が優れている、とか的外れな評価をされていた。

が、そんな的外れの評価はとんでもないもので、マイケル・ブレッカーは、コルトレーン流のジャズ・サックスを更に発展・深化させ、マイケル独特の個性を反映させた、「コルトレーンの次に現れた、ジャズ・サックスの新たなスタイリスト」と僕は認識している。大仕掛けで大向こうを張った吹き回しは無いが、「テクニック、歌心、イマージネーション」の全てが超一流でマイケル独特なもの。

Michael Brecker『Wide Angles』(写真左)。2003年1月22–24日の録音。ちなみにパーソネルは、Michael Brecker (ts, arr), Adam Rogers (g), John Patitucci (b), Antonio Sánchez (ds), Daniel Sadownick (perc), Steve Wilson (a-fl), Iain Dixon (b-cl, cl), Robin Eubanks (tb), Alex Sipiagin (tp), にオーケストラがバックに付く。

J2007年1月13日、57歳の若さで急逝する4年前のリーダー作。いわゆる「ウィズ・ストリングス」に類する、マイケル念願の15人編成、オーケストラがバックに入るラージ・アンサンブル。ホーンセクションとストリングスが効果的に入り、かつ、優れたアレンジによって、マイケル・ブレッカーのテナー・サックスが更に際立つ企画盤である。
 

Michael-breckerwide-angles

 
始まりは、15人編成、ホーンセクションとストリングスのバッキングがフルフルで、大仕掛けでスケールの大きい「ウィズ・ストリングス」風の演奏から入る。「ウィズ・ストリングス」風の伴奏なので、どこかイージーリスニング風のイメージが漂い、これはなあ、と一瞬思ったするが、マイケルのテナーが出てくると、演奏の雰囲気はグッと締まって、メインストリームな純ジャズの響きにガラッと変わる。

マイケルのテナーの音は、コルトレーンのそれとは似て非なるもので、似ているところは「ストレートな吹奏」なところだけ。フレーズの吹き回し、フレーズ展開のイマージネーション、テナー自体の「音」、どれもがマイケル独自の独特の個性であって、このテナーを聴いて、コルトレーンのフォロワーとするところが全く理解できない。今一度、確認するが、マイケル・ブレッカーは「コルトレーン時代の次に現れた、ジャズ・サックスの新たなスタイリスト」である。

そんなマイケルのテナーが一番目立ち、一番格好良い。大編成の演奏から、曲を進めるうちに、少しずつ編成が小さくなっていき、それにつれて、マイケルのテナーがグングン前へ出て、グングンとクールに鳴り響き、マイケルのテナーの、唯一無二で優れた「テクニック、歌心、イマージネーション」の全てが堪能できるなって、ラストの「"Never Alone」を迎える。このアルバム展開の作りも優秀。

全く耳につかない、今の耳にも新しく響くゴージャスな「ウィズ・ストリングス」風のメインストリーム・ジャズ。自然と流れる様に展開するモーダルなフレーズ。スケール大きく大らかで力感溢れ、優しく繊細な吹き回し。この『Wide Angles』は、マイケルの傑作の一枚、ジャズ・サックスの名盤の一枚でしょう。
 
 

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2024年12月 1日 (日曜日)

マリガン、晩年の傑作の一枚

A&M、CTIレコードの好盤の聴き直しに戻る。A&M、CTIレコードは、クロスオーバー&フュージョンの代表的レーベル。イージーリスニング・ジャズ志向のエレ・ジャズが多く、特に「ソフト&メロウ」な音の味付けがなされたフュージョン盤は、硬派なジャズ者の方々から毛嫌いされている。

が、A&M、CTIレコードのアルバムの中には、なかなか硬派な内容の「コンテンポラリーなジャズ」のアルバムも多々あって、これが意外と聴きものなのだ。

Gerry Mulligan『The Age of Steam』(写真左)。1971年2-7月、Hollywoodでの録音。ちなみにパーソネルは、Gerry Mulligan (bs, ss, p), Tom Scott (ts, ss), Bud Shank (as, fi), Harry "Sweets" Edison (tp), Bob Brookmeyer (v-tb), Howard Roberts (g), Roger Kellaway (p), Chuck Domanico (b), Joe Porcaro, John Guerin (ds), Emil Richards, Joe Porcaro (perc)。

米国ウエストコースト・ジャズの中心人物、バリトン・サックス(略して「バリサク」)の名手、ジェリー・マリガンのCTI盤。CTI盤なので、イージーリスニング・ジャズ志向と思いきや、意外とメインストリームな、純ジャズ志向のエレ・ジャズになっているのに、ちょっとビックリする。
 

Gerry-mulliganthe-age-of-steam

 
ポップスとソフト・ロックとジャズを掛け合わせて、8ビート主体のリズム&ビートで、時にバックにブラス・セクションをつけて、ソウルフルな味付けをしつつ、1950年代の米国ウエストコースト・ジャズを、1970年代のエレ・ジャズに載せ替えた様な「聴かせるクロスオーバーでコンテンポラリーな純ジャズ」がこの盤に記録されている。

収録曲の全てが流麗な、聴き心地の良いメロディーに溢れている。その流麗なメロディーを最大限に活かして、1971年当時、最新の音作り、いわゆる「クロスオーバー・ジャズ」志向でありながら、ジャズロックには走らず、あくまでコンテンポラリーで純ジャズ志向のウエストコースト・ジャズに軸足をしっかり残した、マリガンのアレンジが秀逸。

そんなマリガンの秀逸なアレンジに乗って、1971年時点での、コンテンポラリーな純ジャズが展開される。冒頭のタイトル曲「The Age of Steam」で、すでにその意外と硬派なコンテンポラリー・ジャズが、ウエストコースト・ジャズ風な音の響きを携えて疾走する。マリガンのバリサクが炸裂する。

1970年代は、マリガンにとってはピークを過ぎた、活動後期、マリガンのキャリアの晩年の時代なのだが、この『The Age of Steam』と、もう一枚『Carnegie Hall Concert』(2017年7月13日のブログ参照)を、CTIレコードに残している。

このCTI2枚とも、コンテンポラリーで純ジャズ志向のウエストコースト・ジャズが展開されている、なかなかの内容。ネットでジャズ本でほとんど見ることの無いマリガン盤だが、内容は充実、マリガンの晩年の傑作だと僕は思う。
 
 

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2024年11月21日 (木曜日)

これも名盤『Shades of Green』

ブルーノート・レーベルを代表するギタリスト、グラント・グリーン。彼のキャリアの晩年は、イージーリスニング・ジャズ志向の優れたリーダー作を連発している。

バックに、のちのクロスオーバー&フュージョン時代の有名みゅーじしゃんを配し、優れたリズム・セクションの演奏をバックに、骨太でパッキパキのシングル・トーン+ファンクネスだだ漏れのエレギをガンガンに弾きまくっている。

Grant Green『Shades of Green』(写真左)。1971年11月の録音。ちなみにパーソネルは、Grant Green (g), Billy Wooten (vib), Emmanuel Riggins (el-p, clavinet), Wilton Felder (el-b), Nesbert "Stix" Hooper (ds), King Errisson (conga), Harold Cardwell (perc), Wade Marcus (arr, orchestra arrange)。

冒頭、ジェームス・ブラウンのメドレー「Medley: I Don't Want Nobody to Give Me Nothing (Open Up the Door I'll Get It Myself) / Cold Sweat」がキマッている。3曲目はアソシエーションの、1967年のヒット曲「Never My Love」、4曲目には、マイケル・ジャクソンの1971年のデビュー・ソロ・シングル「Got to Be There」、6曲目には、スティーヴィー・ワンダーの1971年のヒット曲「If You Really Love Me」と、R&Bの秀曲のカヴァーがズラリと並ぶ。
 

Grant-greenshades-of-green

 
もともと、グラント・グリーンは、骨太でパッキパキのシングル・トーン+ファンクネスだだ漏れのエレギ弾きである。R&B系、ソウル系の楽曲のカヴァーは得意中の得意。全編、充実度抜群の、ライトなジャズ・ファンク志向のイージーリスニング・ジャズが満載。全編、もう前のめりにノリノリである(笑)。

バックのリズム隊には、クルセイダーズから、ウイルトン・フェルダーのベース、スティックス・フーパーのドラムが参加している。粘りのある、重心低め、切れ味の良い、ファンクネス濃厚なリズム&ビートを叩き出していて、この二人を中心にコンガなどのパーカッションが絡んで、絵に描いた様な、ジャズ・ファンクなグルーヴを供給している。

そこに、グラント・グリーンの、パッキパキのシングル・トーン+ファンクネスだだ漏れのエレギが、曲の旋律を骨太に奏で、アドリブ・フレーズをファンクネスだだ漏れで弾きまくる。伴奏上手のバックのジャズ・ファンクなグルーヴが優れている分、グリーンのギターが、くっきり前面に映えに映える。

ジャケはもはや、以前のブルーノートの面影はなく、訳のわからんブランデー・グラスのイラストで損をしているが、この盤はれっきとしたブルーノート・レーベル盤で、内容的にもしっかりしていて、演奏自体もそのレベルは高く、ブルーノートの「ブランドの音」はしっかりと維持されている。この盤も、グラント・グリーンのライトなジャズ・ファンク志向のイージーリスニング・ジャズの名盤として良いかと思う。
 
 

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2024年11月19日 (火曜日)

好盤・八木のぶお ”Mi Mi Africa”

日本のクロスオーバー&フュージョン・ジャズは、米国や欧州とは異なる独自の深化を遂げてきた様に思う。まず、ファンクネスは皆無、もしくは、我が国独自の乾いた爽やかなファンクネス。演奏テクニックは高度。R&B志向、ソウル志向はほとんど無く、ジャズとロックとのクロスオーバー、ジャズとAORとのクロスオーバーがメイン。そこに、ソフト&メロウ&スムースが添加されると「和フュージョン」。

八木のぶお『Mi Mi Africa』(写真左)。1979年の作品。ちなみにパーソネルは、八木のぶお (harmonica), 村上ポンタ秀一 (ds), 高橋ゲタ夫 (b), 安川ひろし (g), 倉田 信雄, 小笠原 寛 (key), ペッカー (perc), Rockwell Allstars (cho)。我が国を代表するハーモニカ奏者「八木のぶお」の初リーダー作。

よく見れば、兵士が肩から掛けているベルトリンクには弾薬ではなく、タイプの異なるハープ各種。そんなジャケットを見たら、何を狙ったクロスオーバー・ジャズなのか、皆目、見当がつかない。タイトルを見れば、いわゆるアフロ志向のクロスオーバー・ジャズなのかな、と思う。アフロ志向のクロスオーバー・ジャズといえば、渡辺貞夫『Kenya Ya Africa』を想起する。あの頃の渡辺貞夫は、アフリカ音楽志向だったなあ、とぼんやり思ったりする。

さて、この盤、ネットでの紹介キャッチが「母なる大地アフリカをテーマにミュージシャンそれぞれが想うアフリカを表現した企画盤」とあるように、確かに、基本、アフロ志向のクロスオーバー・ジャズの好盤である。
 

Mi-mi-africa

 
出だしは、アフリカンなグルーヴ溢れるパーカッションが出てきて、「いかにも」って感じになるのだが、すぐに、和ジャズ独特の乾いた爽やかなファンクネスと、現代のアフリカのイメージなのか、どこかアーバンな洗練されたグルーヴに乗ったリズム&ビートに変わって、それをバックに、八木のハーモニカが入ってくる。演奏全体のイメージは、やはり「アフロ志向のクロスオーバー・ジャズ」。

この冒頭のタイトル曲「Mi Mi Africa」のアフロな躍動感溢れるリズム&ビートが、アルバム全体の音志向を決定つけている。全編に渡って、情熱的な八木のハーモニカが秀逸。印象的なベースのイントロから入る、メロウ・グルーヴの「愛のテーマ」などは「アフロ志向のフュージョン」と言った趣き。

村上ポンタ秀一 (ds), 高橋ゲタ夫 (b), ペッカー (perc) からなるリズム隊が効いている。よくよく聴き耳を立てると、アフロなリズムだけでなく、ラテンのリズム、サンバのリズムが織り交ぜられている。これが、このアルバムの音世界が、どっぷり、ありがちな「アフロなクロスオーバー」に浸りきることを押し留め、あくまで、フラットな和製クロスオーバー&フュージョンのパフォーマンスに仕立て上げている。

アフロは演奏への「色づけ」にとどめ、芯は「フラットな和製クロスオーバー&フュージョン」。こんな、内容の濃い、洒落たクロスオーバー&フュージョン盤が、1979年にリリースされていたとは改めて驚く。日本のクロスオーバー&フュージョン・ジャズは全く隅におけない。
 
 

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2024年11月15日 (金曜日)

ECMの個性は「ニュー・ジャズ」

ECMレコードの個性は「ニュー・ジャズ」。従来の4ビートがメインのモダン・ジャズではない、即興演奏と他のジャンルの音楽との融合をメインとした新しいジャズ。クラシック音楽や現代音楽を育み、国々での個性的な民族音楽が存在する欧州だからこそ生まれた「ニュー・ジャズ」。

Egberto Gismonti『Sol Do Meio Dia』(写真左)。1977年11月、オスロの「Talent Studio」での録音。ちなみにパーソネルは、Egberto Gismonti (8-string g, kalimba, p, wood-fl, voice, bottle), Naná Vasconcelos (perc, berimbau, tama, corpo, voice, bottle : tracks 2, 3 & 5), Ralph Towner (12-string g : tracks 1 & 5), Collin Walcott (tabla, bottle : track 2), Jan Garbarek (ss : track 5)。

タイトル『ソル・ド・メイオ・ディア』は、ポルトガル語で「真昼の太陽」。ブラジルの作曲家、ギタリスト、ピアニストのエグベルト・ジスモンチのアルバム。その内容は、典型的な「ECMのニュー・ジャズ」。楽曲はすべてジスモンチのオリジナル。出てくる音は、ワールドミュージック志向の静的な即興演奏。どこか現代音楽にも通じるクールで透明度の高い即興演奏。
 

Egberto-gismontisol-do-meio-dia

 
ECMでのジスモンチは「ジャズ的な奏者」に軸足を置いている。ギターやピアノを抜群のテクニックで奏でるジスモンチが、たっぷり記録されている。ジスモンチの曲も個性的で良いが、各曲、静的でスピリチュアルな即興演奏が聴きもの。曲ごとに、ECMの「ハウス・ミュージシャン」的ミュージシャンが充てられ、スリリングで耽美的なインタープレイが繰り広げられる。

ナナ・ヴァスコンセロスのパーカッションが静的なインタープレイに躍動感を与え、ラルフ・タウナーの12弦とヤン・ガルバレクのソプラノ・サックスがスピリチュアルな響きを増強し、コリン・ウォルコットのタブラがワールド・ミュージックな音要素を強調する。そこに、ジスモンチのギターやピアノが絡み、対話し、対峙する。

このアルバムは、エグベルトがアマゾンのシングー族と過ごした時間にインスピレーションを受けており、アルバムはシングー族に捧げられている、とのこと。確かに、ジスモンチのピアノやギターのフレーズが入ってくると、そこに「ブラジリアン・ミュージック」の響きが、ワールドミュージック志向の静的な即興演奏に滲み出てくる。ECMレコードならでは、のワールドミュージック志向の「ニュー・ジャズ」である。
 
 

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2024年11月 4日 (月曜日)

ECM流クロスオーバー・ジャズ

John Abercrombie『Night』(写真左)。1984年11月20日、NYでの録音。ミックスはオスロ。ECM 1272番。ちなみにパーソネルは、John Abercrombie (g), Michael Brecker (ts), Jan Hammer (key), Jack DeJohnette (ds)。

ECMのハウス・ギタリスト、ねじれのジョン・アバークロンビー(略して「ジョンアバ」)、当時、若き精鋭テナーマンのマイケル・ブレッカー、伝説のロック・ギタリストのジェフ・ベックとの共演歴もある「キーボードの怪人」ヤン・ハマー、そして、ポリリズミックなレジェンド・ドラマーのジャック・デジョネットの変則カルテット。

よく見るとベーシストがいない。が、演奏を聴いていると、ベース音が無い方が明らかに、この盤の演奏の音世界に向いているので、ECMの総帥プロデューサー、マンフレート・アイヒャーがリハの段階でベースをオミットした可能性がある。ハマーがエレクトリック・キーボードでありながら、ベースペダルでベースラインも弾いているので、演奏全体として、ベースラインは必要最低限でキープされている。

そして、よくよく振り返ってみると、アルバム『Timeless』のトリオに、マイケルのテナーが参加したイメージの音世界である。マイケルのテナーが入ったことによって、『Timeless』よりジャズ色が強まり、このアルバムについては、ECM流ジャズロック&クロスオーバー・ジャズな音世界が個性的。
 

John-abercrombienight

 
ジョンアバは、従来通り、ECM仕様の浮遊感とねじれとシャープな、ちょっとディストーションのかかったエレギの音でガンガン攻める。そんなECM仕様のジョンアバのギターに習って、モーダルにフリーに振れながら、浮遊感を漂わせながらストレートなマイケルのテナーが突入してくる。極上のフロント楽器の、官能的なインタープレイは見事。

ハマーの不思議で変態チックなフレーズを連発するエレクトリック・キーボードは実に印象的で、ジョンアバとマイケルとはまた違った、浮遊感を伴った、どこかエキゾチックな、どこか不思議にモーダルに捻れるフレーズを繰り出している。ここまでは、どこか、英国のプログレッシブ・ロックに通じる雰囲気が見え隠れするところが個性的。

しかし、デジョネットのポリリズミックなドラミングが、とてもジャジーで、このデジョネットのドラミングが、この盤の音世界の軸足を「ジャズ」に残している、と感じる。変幻自在、硬軟自在、緩急自在な、即興性溢れるドラミングは明らかに「ジャズ」で、このドラミングによって、この盤の音世界は、ECM流ジャズロック&クロスオーバー・ジャズな音世界に落ち着いている。

ロックっぽいところが、ECM流のジャズロックとも捉えることができて、この盤は、ECMのカタログの中ではちょっと異質な内容なんだろう。このジョンアバの「ECM流ジャズロック&クロスオーバー・ジャズ」といった内容のアルバムは他にない。ECMらしからぬ、極上のエレ・ジャズの世界。「一聴もの」であることは確かである。
 
 

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2024年11月 3日 (日曜日)

聴くべきは古澤のドラミング

1970年代後半から80年代前半にかけて、我が国のジャズ・シーンは、フュージョン・ジャズの大流行に並行して、メインストリームな和ジャズが、クロスオーバー志向を強めた異種格闘技な演奏展開や、フリー&スピリチュアル・ジャズの強化、という、米国や欧州とは異なる、独自の深化と分化を遂げていたように思う。

『12,617.4km 古澤良治郎の世界ライヴ』(写真左)。1980年の作品。ちなみにパーソネルは、古澤良治郎 (ds), 高橋知己 (ts), 廣木光一 (g), 大口純一郎 (p), 望月英明 (b) のレギュラー・バンドに、ゲストとして、山下洋輔 (p), 森山威男 (ds), 川端民生 (b), 大徳俊幸 (p), 向井滋春 (tb), 渡辺香津美 (g), 本多俊之 (as), 明田川荘之 (p), 三上寛 (vo, g) が入るという、錚々たるメンバーでのライヴである。

不思議な音世界のライヴである。ジャズを中心に置いてはいるが、他のジャンルの音と積極的にクロスオーバーした「異種格闘技」風の中身の濃い演奏がてんこ盛り。広い意味で「クロスオーバーな純ジャズ」だが、正当な内容の厚い、完全フリーな演奏もあって、ここまでくると、クロスオーバーというよりは、純ジャズをベースにした異種格闘技なジャム・セッションと形容して良いかもしれない。
 

126174km

 
ロックと融合したクロスオーバー・ジャズな展開もあれば、モーダルなジャズの展開もあり、どフリーでスピリチュアルな演奏もあれば、グルーヴィーな響きもあり、遂には、フォーク界の人と思われる三上寛が参加して、エモーショナルなボーカルで叫ぶ。一体何なんだ、この音世界は。ただ、演奏するミュージシャンが一流どころばかりなので、破綻がない。自らの得意とするジャンルの音をバンバン出しているのだから、悪かろうはずがない。

一番感心するのは、純ジャズをベースにした異種格闘技なジャム・セッションの中、様々なジャンル、様々な演奏トレンドの、それぞれ全く異なる内容にも関わらず、古澤のドラミングは揺るがないこと。どころか、その様々なジャンル、様々な演奏トレンドに適したドラミングを叩き出し、演奏全体のリズム&ビートをコントロールし、フロント楽器を鼓舞する。そして、この古澤の揺るぎないドラミングのお陰で、様々なジャンル、様々な演奏トレンドが詰まったライヴながら、アルバム全体に統一感が充満している。

古澤の柔軟で適応力抜群な、それでいて、個性はしっかりキープした、揺るぎのないドラミングは見事。このライヴは確かに、異種格闘技風のバラエティー溢れるゲストのパフォーマンスも魅力だが、やはり、聴くべきは古澤良治郎の見事なドラミングだろう。和ジャズに古澤あり。このライヴ盤を聴きながら、そんなことを強烈に再認識した。
 
 

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2024年10月25日 (金曜日)

ECM流クロスオーバーの名盤

レコード・コレクターズ 2024年11月号の特集「ECMレコーズ」にある「今聴きたいECMアルバム45選」。この「今聴きたいECMアルバム45選」のアルバム・セレクトが気に入って、掲載されているアルバムを順番に聴き直し&初聴きしている。今回のアルバムは、実は初めて聴く「初聴き」盤である。

Barre Phillips『Three Day Moon』(写真左)。1978年3月の録音。ECM 1123番。ちなみにパーソネルは、Barre Phillips (b), Terje Rypdal (g, g-syn), Dieter Feichtner (syn), Trilok Gurtu (tabla, perc)。米国のジャズベーシスト、バレ・フィリップスがECMに録音した、ECM+JAPOで、通算4枚目のリーダー・アルバム。

このアルバムの印象はズバリ「プログレッシヴ・ロック(プログレ)とモード+フリー+スピリチュアル・ジャズとの融合」。リズム&ビートがはっきりしている演奏部分は「プログレ」。ボ〜っと聴いていたら「あれ、このプログレ、誰だっけ」と思ってしまうほど、プログレの要素が入っている。タブラの音が効果的、バイオリンの音の様なギター・シンセが、プログレ的な雰囲気を増幅する。
 

Barre-phillipsthree-day-moon  

 
リズム&ビートの供給が途絶えた途端、今度は、フリー・ジャズ志向、スピリチュアル・ジャズ志向に展開する。この展開は、ギターを担当するテリエ・リピダルの真骨頂で、リピダルのエレギ、ギター・シンセは、縦横無尽、変幻自在に浮遊し、突進し、拡散する。パーカッションのフリーな打ち込みがスピリチュアルな雰囲気を増幅する。

そして、フィリップスのベース音がフリーでスピリチュアルな展開を規律あるものに仕立て上げているのは立派だ。プログレ的な展開も、フリーでスピリチュアルな展開も、チェンジ・オブ・ペースを促したり、ブレイクを誘ったり、調性と無調のチェンジを指し示したり、さすがリーダー、フィリップスのベースが要所要所で「いい仕事」をしている。

タイトルが「Three Day Moon」=三日月。なんかどこか、ピンク・フロイドの名盤「Dark Side of The Moon」を想起したりして、これって、ECMレコード流のクロスオーバー・ジャズなのかしら、と直感的に感じてしまう。昔々、プログレ小僧だった僕としては、この盤の内容は全く違和感なく聴くことが出来ました。ECM流クロスオーバーの名盤だと思います。
 
 

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2024年10月24日 (木曜日)

ラヴァの『Quotation Marks』

今月発売の「レコード・コレクターズ 11月号」の特集「ECMレコーズ」にある「今聴きたいECMアルバム45選」。この「今聴きたいECMアルバム45選」のアルバム・セレクトが実に気に入って、掲載されているアルバムを順番に聴いている。

以前聴いたことがあって、今回聴き直しのアルバムもあれば、初めて聴くアルバムもある。どちらも「今の耳」で聴くので、意外と新鮮に感じるから面白い。

Enrico Rava『Quotation Marks』(写真左)。1973年12月、NYでの録音と1974年4月、ブエノスアイレスでの録音。JAPO 60010番。ちなみにパーソネルは、Enrico Rava (tp)は、NYとブエノスアイレス共通。以降は、録音地毎のパーソネルは以下の通り。

NY録音のパーソネル:Herb Bushler (b), Jack DeJohnette (ds), John Abercrombie (g), Warren Smith (marimba, perc), Ray Armando (perc), David Horowitz (p, syn), Jeanne Lee (vo)。

ブエノスアイレス録音のパーソネルは、Rodolfo Mederos (bandoneon), El Negro Gonzales (b), Nestor Astarita (ds), Ricardo Lew (g), El Chino Rossi (perc), Matias Pizarro (p), Finito Bingert, (ts, fl, perc)。

この盤の印象はズバリ「欧州系のモード・ジャズとアルゼンチンタンゴとの融合」。ラテン音楽との融合では表現が緩すぎる。雰囲気を正確に伝えるには「モード・ジャズとアルゼンチンタンゴとの融合」が一番ニュアンスが伝わりやすい。
 

Enrico-ravaquotation-marks

 
米国フュージョンで、ここまであからさまに「アルゼンチンタンゴ」との融合を図ったフュージョン・ジャズ盤は、このラヴァのアルバム以外は見当たらない。ラテン音楽という表現に逃げず、ズバリ「アルゼンチン・タンゴ」との融合にトライしたエンリコ・ラヴァは凄い。

しかも、ソフト&メロウなフュージョン・ジャズ志向の音作りではなく、あくまで、ストイックで硬派なコンテンポラリー・ジャズ志向の音作りがメインなのは、ラヴァの矜持を感じる。

NY録音では女性ヴォーカルを起用し、ブエノスアイレス録音ではバンドネオンを起用。エキゾチックな雰囲気でラテン・サウンドど真ん中なアルゼンチンタンゴ。ジャンヌリーのスキャットが入る、モーダルなスピリチュアル・ジャズ、そして欧州風なリリカルでクールなジャズロック、アブストラクト&フリー・ジャズな展開まで、このすべてが効果的に融合されている。

ECMレコードの音志向とはちょっと異なる感じのEnrico Rava『Quotation Marks』。欧州モード・ミーツ・アルゼンチンタンゴな内容なので、ECMっぽくないなあ、と思っていたら、この盤、ECMの傍系レーベル「JAPO」(※) からのリリースでした。

※「JAPO」とは、アイヒャーがECMを興す以前に主催していたレーベル。制作ポリシーがECM以前なので、ECMとは雰囲気が全く異なる「こんなアルバムあったんや」レベルのアルバムも多々あります。このエンリコ盤は、JAPOでの録音なので、ECMとはちょっと音志向が異なる。JAPO時代の各タイトルはECMに引き継がれてリリーされている。
 
 

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