2026年6月 5日 (金曜日)

ECMレーベルのエンリコ・ラヴァ

総帥プロデューサー、マンフレート・アイヒャーが率いるECMレーベル。ドイツのミュンヘンの本社を構え、欧州ジャズの老舗レーベルとはいえ、どちらかといえば、北欧ジャズ中心の耽美的でリリカルな即興演奏を主体としたコンテンポラリー・ジャズがメインと誤解されることがしばしば。

しかしながら、欧州各国の純ジャズもしっかり網羅していて、時に米国ジャズマンも招聘して、多国籍な編成でのECMジャズも制作しているから、目が離せない。欧州ジャズの現在位置を確認するには、ECMレーベルのその時その時のアルバムを聴くのが、一番、手っ取り早い。

『Enrico Rava Quartet』(写真左)。1978年3月、西ドイツの「Tonstudio」での録音。ECMの1122番。ちなみにパーソネルは、Enrico Rava (tp), Roswell Rudd (tb), Jean-François Jenny-Clark (b), Aldo Romano (ds)。イタリアン・ジャズの至宝トランペッター、エンリコ・ラヴァのECMレーベルでのリーダー作である。

リーダーのエンリコ・ラヴァは伊出身のトランペッター。ロズウェル・ラッドロズウェル・ラッドは米国出身のフリー・ジャズ界の重鎮ロンボニスト。ジャン=フランソワ・ジェニー=クラークは仏出身のベーシスト。アルド・ロマーノは伊出身のドラマー。伊米仏の大陸を跨いだ多国籍なピアノレスの変則カルテット。
 

Enrico-rava-quartet  

 
いかにもECMらしい取り合わせなんだが、総帥プロデューサーのアイヒャーの発想は理解し難い。しかし、出てくる音は、しっかりECMの響きを宿しているのだから感心する。出てくる音は、イタリアン・ジャズの哀愁と叙情的なメロディ、そしてフリー・ジャズの先鋭的なアプローチが絶妙に融合した音世界である。

ピアノレスのフロント2管(トランペット+トロンボーン)のカルテット演奏で、伝統的な純ジャズの硬派な雰囲気に、イタリアン・ジャズ独特の哀愁感漂う叙情的でリリカルなフレーズの展開、時々、アヴァンギャルドでスピリチュアルなフリー・ジャズへとブレイクダウンするスリリングな演奏が素晴らしい。

エンリコ・ラヴァの哀愁を帯びた抒情的なトランペットと、ロズウェル・ラッドの豪快でアーシー(泥臭い)なトロンボーンのフレーズが、互いに絡み合いながら見事なコントラストを描いていて、自由度の高いアンサンブルが繰り広げられている。これが、とても「欧州ジャズ」らしい響きと展開。イタリア・ジャズと米国ジャズの邂逅なんだが、しっかりと、欧州ジャズしていて、しっかりと、ECMジャズしている。

これぞ、アイヒャー・マジックなんだろう。このアルバムには、ECMレーベルの音と響きをしっかり反映した、1970年代後半のイタリアン・ジャズの最先端の音が展開されている。根底にはニューオーリンズ・ジャズのような伝統的なお祭り騒ぎ(祝祭感)や、イタリア独特の美しいメロディが漂っていて、実に興味深い内容に仕上がっている。意外とこの盤、イタリアン・ジャズの「隠れ名盤」である。
 
 

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2026年5月12日 (火曜日)

1968年のマイルス再聴・その2

1968年から1971年のジャズは、ソウル・ジャズなアレンジ、R&B志向の音作り&ビート、聴き手に訴求するイージーリスニングな味付けがメイン。これはこれでジャズ、と認めてはいるが、ジャズの本質である「即興演奏」は二の次、丁々発止とした、手に汗握る様な「インタープレイ」は無い。とにかく「聴き心地」優先。ブルーノートの4300番台がズバリそのど真ん中で、カタログ順に聴き進めていて、ちょっと辛くなってきた。

1968年から1971年のジャズって、皆、そんな「売らんが為」のジャズばかりだったのか。例えば、マイルスはどうだったのか、ビル・エヴァンスはどうだったのか。ちょっと聴き直して、再確認したくなった。昨日から、先ずはマイルス・デイヴィス。1968年のマイルスをもう一度、聴き直してみた。

Miles Davis『Filles De Kilimanjaro』(写真左)。邦題『キリマンジャロの娘』。1968年6月のセッションのパーソネルは、Miles Davis (tp), Wayne Shorter (ts), Herbie Hancock (el-p), Ron Carter (el-b), Tony Williams (ds)。「Petits Machins (Little Stuff) 」「Tout De Suite」「Filles De Kilimanjaro」の3曲が演奏されている。

そして、1968年9月のセッション。パーソネルは、Miles Davis (tp), Wayne Shorter (ts), Chick Corea (el-p), Dave Holland (b), Tony Williams (ds)。黄金のクインテットから、Herbie Hancock (el-p), Ron Carter (el-b)が抜けて、チックとホランドに代わっている。 「Mademoiselle Mabry」「Frelon Brun」の2曲が演奏されている。
 

Filles_de_kilimanjaro_2

 
エレ・マイルスの2枚目。前作で「電気楽器&8ビートと変則拍子の標準採用」によるメインストリームなエレ・ジャズを標榜したマイルス。このアルバムでは、それを完成・確立させている。まず、前作と同じメンバーで、その「電気楽器&8ビートと変則拍子の標準採用」でのメインストリームなエレ・ジャズによる、限りなく自由度の高いモード・ジャズを確立させている。「Petits Machins (Little Stuff) 」「Tout De Suite」「Filles De Kilimanjaro」の3曲である。

そして、黄金のクインテットから、Herbie Hancock (el-p), Ron Carter (el-b)が抜けて、チックとホランドに代わって、「Mademoiselle Mabry」「Frelon Brun」の2曲が演奏されている。面白いのは、アルバムの中で、黄金のクインテットの演奏と混在させて収録されていること。この「電気楽器&8ビートと変則拍子の標準採用」によるメインストリームなエレ・ジャズが、黄金のクインテットの専売特許でないことを表現している様に見える。

この盤は、マイルスによる「電気楽器&8ビートと変則拍子の標準採用」でのメインストリームなエレ・ジャズによる、限りなく自由度の高いモード・ジャズの確立の記録である。売らんが為のアレンジ、音作りなんて微塵も無い。ただただ自らが「メインストリームなジャズ」と信じるアレンジと音作り。妥協の無いストイックでシビアな音作り。マイルスのジャズマンとしての矜持をビンビンに感じる。

これが、1968年のマイルスの音世界。商業主義とは全く無縁。マイルスはマイルス、我が道を行く。頼もしいこと限りなし。こぞって商業主義に走っている様なジャズの世界で、「真のジャズ、ジャズの正しき姿」を体現しているジャズマンがいる。この1968年のマイルスを聴き直していて、何だか嬉しくなった。この「真のジャズ」を体現するマナー。現代のジャズにも、しっかりと弾き継がれている。
 
 

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2026年5月11日 (月曜日)

1968年のマイルスを聴き直す

このところ、ブルーノートの4300番台をカタログ順に聴き直していて、このブログにまだ記事にしていないアルバムを集中聴きしているのだが、どれもが、そんな時代だったのだろう、売らんが為のアレンジ、音作りになっていて、聴き進めるにつけ、食傷気味になってきた。

どのアルバムも、1968年から1971年の録音がメイン。ソウル・ジャズなアレンジ、R&B志向の音作り&ビート、聴き手に訴求するイージーリスニングな味付け。これはこれでジャズ、と認めてはいるが、ジャズの本質である「即興演奏」は二の次、丁々発止とした、手に汗握る様な「インタープレイ」は無い。とにかく「聴き心地」優先。ちょっと辛くなってきた。

MIles Davis『Miles in The Sky』(写真)。1968年1月16日、5月15–17日の録音。パーソネルは、Miles Davis (tp), Wayne Shorter (ts), Herbie Hancock (p), George Benson (g), Ron Carter (b), Tony Williams (ds)。マイルスが初めて電気楽器を導入したアルバム。つまりは、エレ・マイルス発祥のアルバムである。

では、1968年の録音って、例えば、マイルスだったら、どのアルバムになるのか。ぱっと出てきたのが『Miles in The Sky』。エレ・マイルス発祥の記念すべきスタジオ録音盤なんだが、電気楽器の大々的導入でジャズの幅を広げたが、リズム&ビートの面でも、8ビートと変則拍子の標準採用という「スインギーな4ビートの訣別」によっても、ジャズの幅を大きく広げている。
 

Miles_in_the_sky_1

 
演奏を聴く。フロントは、マイルスのトランペット、ショーターのテナー、ベンソンのエレギ。切れ味良くほど良く尖った「即興演奏&インタープレイ」が怒濤の様に耳に迫り、疾走する。実にアーティスティックな演奏で、ジャズが「音楽芸術」の1ジャンルであることを思い出させてくれる。我々は「正当なジャズを演奏している」という矜持をバリバリ感じる。

売らんが為のアレンジ、音作りなんて微塵も無い。ただただ自らが「メインストリームなジャズ」と信じるアレンジと音作り。ストイックでシビアな音作りなんだが、ジャズ者の我々の耳には、ガッツリと訴求する。イージーリスニング志向なんてどこにも無い。ゴツゴツとした手応えのある、ジャジーなパフォーマンスの応酬。

8ビートと変則拍子の標準採用したリズム・セクションもエグい。トニーが喜々として、8ビートと変則拍子を高速ポリリズミックに叩きまくる。フェンダー・ローズとガッチリ組み合い、ジャズ・ファンクなエレ・ビートを叩き出そうと苦闘するハンコック。8ビートと変則拍子のベースラインを難なく紡ぎ出すロン。このリズム・セクションだからこそ、純正な「エレ・マイルス」をスタートすることが出来た。

これが、1968年のマイルスの音世界。どこか安堵する自分がいる。電気楽器&8ビートと変則拍子の標準採用の中で、限りなく自由度の高い「即興演奏」が基本のモード・ジャズを展開する。これが、マイルスのジャズの可能性の広げ方。これは21世紀になった今でも、ジャズの世界では「基本中の基本」。フリーもスピリチュアルも、このマイルスの広げたジャズの中に収斂されていった。
 
 

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2026年4月26日 (日曜日)

『Here’s Lee Morgan』再聴

2025年リマスターとのこと。確かに、楽器毎の解像度が上がり、楽器の音が生音に近い鮮度を保っている。そのお陰で、リー・モーガンのトランペットがとても魅力的に響いている。コンディションも良かったのだろう、モーガンのトランペットは絶好調。オープンにミュートにその妙技を存分に発揮している。

Lee Morgan『Here's Lee Morgan』(写真左)。1960年2月の録音。ちなみにパーソネルは、Lee Morgan (tp), Clifford Jordan (ts), Wynton Kelly (p), Paul Chambers (b), Art Blakey (ds)。メンバーを見渡すと、この盤、絶対ええ音だしてるに決まってる、と確信する。ジャケットはちょっとレトロっぽくて平凡、これでちょっと損をしているが、内容は折り紙付き。

リマスターのお陰か、トランペットのブラスの響く音が、キラキラ輝くように耳に届いてくる。マウスピースと唇の間で漏れる音が聴こえてきそうなほど、生々しい。モーガンのミュート・トランペットを愛でることの出来る盤って、意外と少ないのだが、この盤ではモーガンのミュート・プレイをしっかりと確認出来る。
 

Heres_lee_morgan_2

 
それと、このリマスター盤では、クリフォード・ジョーダンのテナーが前面に出てきていて、ジョーダンのテナーの個性と特徴が露わになっている。少しフリーキーに、モーダルなフレーズをヴァイタルに吹きまくるジョーダン。ダンディズム溢れる雄々しきフレーズが魅力的。バラード・プレイも情感たっぷり。今までの音源では、この盤で、ジョーダンのテナーを気にしたことがなかったのだが、このリマスター盤で、大いに見なおした次第。

ケリーのピアノはクールに、ブレイキーのドラムは熱く、特に、モーガンとケリーとの絡みは相性抜群。ブレイキーの煽りもモーガンには心地良いと感じる様だ。ブレイキーが煽れば煽るだけ、モーガンは素敵なトランペットを吹き上げていく。そして、ベースのチェンバースは何時になく熱気溢れるベースラインを聴かせてくれる。こういうことが、この2025年リマスターでは、当たり前の様に聴くことが出来るのである。

この盤はモーガンのトランペットの魅力が最大限に発揮された傑作の一枚である。この2025年リマスターを聴いて、再認識した。この盤と『Expoobident』『The Young Lions』を僕は勝手にVee-Jay三部作と読んでいるが、いずれの盤でも、モーガンのトランペットは絶好調。『Expoobident』『The Young Lions』の最新リマスターを聴いてみたいものだ。
 
 

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2026年4月25日 (土曜日)

ミッチェルのジャズ・ファンク盤

ブルーノートの4300番台のアルバムをカタログ順に聴き直しているのだが、1968年9月以降の録音のアルバム群になる。明らかに、4200番台以前の音作りとは異なる面が表面化していく4300番台。

1968年、ユナイテッド・アーティスツ・レコードは、ブルーノートを含む子会社レーベルとともにリバティと合併、アルフレッド・ライオン、リード・マイルスは引退、録音も西海岸のスタジオでの録音も多くなり、従来のブルーノート色は段階的に薄れていく。

Blue Mitchell『Bantu Village』(写真左)。1969年5月22–23日の録音。ブルーノートの4324番。ちなみにパーソネルは、以下の通り。モンク・ヒギンズによるアレンジを全面採用した、ブルー・ミッチェルのジャズ・ファンク盤である。

Blue Mitchell, Bobby Bryant (tp), Monk Higgins (p, perc, cond, arr), Buddy Collette (fl), Bill Green (fl, as), Plas Johnson (ts), Charlie Loper (tb), Freddy Robinson, Al Vescovo (g), Dee Ervin (p, perc), Bob West (b, tracks 2, 4 & 6), Wilton Felder (el-b, tracks 1, 3, 5 & 7), John Guerin (ds, tracks 2, 4 & 6), Paul Humphrey (ds, tracks 1, 3, 5 & 7), King Errisson (conga, tracks 1, 3, 5 & 7), Alan Estes (conga, tracks 2, 4 & 6)。
 

Blue-mitchellbantu-village

 
明らかに聴き手に迎合した、売れ筋を意識した、ライトで聴き易いジャズ・ファンク。聴き易さを優先したイージーリスニング志向の音作りなので、1969年の録音ながら、クロスオーバーを飛び越して、ソフト&メロウな雰囲気が、もうフュージョン・ジャズな雰囲気になっている。そう、フュージョン志向のソフト&メロウなジャズ・ファンクと形容して良い音作りである。

録音も従来のブルーノートの録音とはちょっと雰囲気が違う、聴き易さ優先の、後のフュージョン・ジャズの録音っぽくて、録音場所をみてみたら、ロサンゼルスのRPMスタジオでの録音だった。ルディ・ヴァン・ゲルダーの録音ではない。4300番台のアルバムには、こういった西海岸での録音が、ちょくちょく出てくる様になる。

但し、楽器演奏のレベルの高さ、吹奏フレーズの切れ味などは、さすがはブルー・ミッチェルであり、さすがはブルーノートである。イージーリスニング志向、フュージョン志向のソフト&メロウなジャズ・ファンクとはいえ、演奏の質の高さは見事。ライトでソフト&メロウなアレンジで終始するが、途中でダレたり、飽きたりすることは無い。

明らかに、売れ筋を意識したアルバム作り。ここには、もう従来のブルーノートの矜持は無い。しかし、演奏内容の高さ、演奏の切れ味の良さなどは、従来のブルーノートらしさを保持しているところを感じて、このアルバムは、やはりブルーノートのアルバムなんだなあと、どこかほっとする自分がいたりする。
 
 

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2026年4月15日 (水曜日)

ブルーノートのスピリチュアル

ブルーノートには珍しいスピリチュアル・ジャズ。フリー・ジャズには、造詣が深いところを見せていたブルーノートだが、コルトレーンが最初に打ち出した「スピリチュアル・ジャズ」については、後塵を拝した感があった。これは、ひとえに、総帥プロデューサーのアルフレッド・ライオンの引退が原因なんだろうと僕は思っている。

Eddie Gale『Black Rhythm Happening』(写真左)。1969年5月2日の録音。ブルーノートの4320番。ちなみにパーソネルは、Eddie Gale (tp), Roland Alexander (ss, fl), Jimmy Lyons (as), Russell Lyle (ts, fl), Jo Ann Gale Stevens (g, vo), Henry Pearson, Judah Samuel (b), Elvin Jones (ds), John Robinson (african-ds), Noble Gale Singers= Sylvia Bibbs, Charles Davis, Paula Nadine Larkin, William Norwood, Fulumi Prince, Carol Ann Robinson, Sondra Walston (chorus)。

フリー・ジャズとソウル、ゴスペル、アフリカ音楽の要素を融合させた、1960年代後半を象徴するスピリチュアル・ジャズの問題作。全8曲で構成されており、ヴォーカル・グループ「Noble Gale Singers」をフィーチャーした祝祭的で力強いサウンドが特徴。
 

Eddie-galeblack-rhythm-happening  
 

同じスピリチュアル・ジャズではあるが、前作の『Ghetto Music』では、2人のドラマーと2人のベーシストを起用した重厚で土着的なグルーヴが特徴だった。地を這うようなビートの力感がユニークで、儀式的・宗教的な「重み」が強く出ていた。

当作では、ポリリズミックな重量級ドラマー、エルヴィン・ジョーンズが参加、彼のポリリズミックでダイナミックなドラミングにより、疾走感と躍動感が増強され、より「ハプニング(出来事)」の名にふさわしい祝祭的な明るさと突発性が前面に出ている。

しかし、面白いのは、リーダーのゲイルのトランペットは、意外と「伝統的で新主流派」的な吹奏であり、リズム・セクションが紡ぎ出す、スピリチュアルなリズム&ビートに乗りきれない、素性の良さが浮き彫りになっている。

テナー以下、管楽器+ベース・ドラム+コーラス部隊が醸し出す、怪しげでフリーなリズム&ビートとは全く、反対の、普通にモーダルなトランペットがユニーク。逆に、このゲイルの伝統的なトランペットがあるから、このスピリチュアル・ジャズ志向のアルバムは、フリーに転落することなく、オーネット・コールマンの物真似に陥る事無く、ゲイルの個性的なスピリチュアル・ジャズの範疇に留めている。
 
 

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2026年4月 8日 (水曜日)

悪くは無い” CTIのハバード盤”

CTIレーベルからリリースされた、フレディ・ハバードのの5枚目のスタジオ録音盤である。パーソネルを見ると、純ジャズ畑はら、テナー・サックスのジュニア・クック、エレピでジョージ・ケイブルス、エレベでロン・カーターが参加。他のメンバーは、馴染みのない名前ばかりなので、恐らく、当時の腕利きスタジオ・ミュージシャンを調達したのではないだろうか。

Freddie Hubbard『Keep Your Soul Together』(写真左)。1973年10月の録音。ちなみにパーソネルは、Freddie Hubbard (tp), Junior Cook (ts), George Cables (el-p), Aurell Ray (g), Kent Brinkley (b), Ron Carter (el-b), Ralph Penland (ds), Juno Lewis (perc)。ジャケットがあまりに俗っぽくて敬遠したくなるが、この盤につまっているのは、意外と硬派なクロスオーバー・ジャズ。

この盤では、冒頭の「Brigitte」と2曲目「Keep Your Soul Together」で、抑制されたハバードのトランペットが聴ける。テクニック最高のハバード、そんなハバードが抑制されたトランペットを吹くとき、その時のハバードは「無敵」である。彼の持つ個性のひとつ「歌心」が、抑制されたトランペットの前面に押し出てくる。そして、彼の高いテクニックが、この「歌心」の為に発揮される。無敵である。
 

Freddie-hubbardkeep-your-soul-together  

 
しかし、3曲目の「Spirits of Trane」で、コルトレーンばりにバリバリ吹きまくるクックと、シーツ・オブ・サウンドよろしくエレピを弾きまくるケイブルスを目の当たりにしたハバードは、思わず「目立ちたがり」な面がグイグイ出てきて、高テクニックを最大限に発揮して、クックとケイブルスを撃沈するトランペットをペラペラと吹きまくり出す。こうなると、ハバードのトランペットは「耳に付く」。

ラストの「Destiny's Children」は、初期のエレ・マイルスをポップにファンキーに判り易くした様な演奏で、クロスオーバー志向のファンキーなイージーリスニング・ジャズといった面持ち。R&B志向のリズム&ビートは採用していないので、この演奏はあくまで「ファンキー・ジャズ」の域は出ていない。ハバードは、なぜか吹きまくっていて、ちょっとウザく、吹きすぎなのが惜しい。

内容的には、旧来からの純ジャズのファンにも、新しいクロスオーバー・ジャズのファンにも、両方に受ける様なアレンジとプロデュースがみえみえで、クックとケイブルスの好演、エレベのロンの頑張りがちょっと霞んでいるところが惜しいアルバムである。とにかく、良くも悪くも、ハバードのトランペットが「目立つ」アルバム。しかし、悪くはない。
 
 

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2026年3月 4日 (水曜日)

CTIフュージョンのプロトタイプ

1971年の録音でありながら、クロスオーバーを飛び越えて、フュージョン志向のCTIサウンド。イージーリスニング志向のオーケストラ入りの「ソフト&メロウ」なフュージョン・ジャズである。メインのバンドは、錚々たるメンバーが大集合。名前だけ見たら、メインストリームな純ジャズをやるのか、なんて思っちゃう(笑)。

Freddie Hubbard『First Light』(写真左)。1971年9月14–16日の録音。ちなみにパーソネルは、Freddie Hubbard (tp, flh), Richard Wyands (p), George Benson (g), Ron Carter (b), Jack DeJohnette (ds), Airto Moreira (perc), Phil Kraus (vib), Hubert Laws (fl), Don Sebesky (arr)。以上がメインのバンド。ここに、オーケストラがバックに入る。

フレディ・ハバードのトランペットがフロント一管。緩やかなフレーズで全編を流している。無難に吹き上げてはいるが、テクニック的にイマイチのところも少しあって、聴き心地は良いが、ここにハバードを置いた意味があまり判らないのは残念。ハバードは、バイタルにバリバリ吹きまくる姿が良く似合う。
 

Freddie-hubbardfirst-light  

 
ピアノにワイアンド、ギターにベンソン、ベースにロン、ドラムのディジョネット、パーカッションにアイアートと錚々たるバックを配しているのだが、それが感じられないのが惜しい。それぞれの一流ジャズマンの個性が全く感じられないアレンジ&プロデュースはちょっと勿体ない気がする。

アレンジはドン・セベスキー。後のフュージョン・ジャズにおけるオーケストラ・アレンジを先取りしているのはさすがだが、今の耳で聴くと、やはり「古い」。イージーリスニング志向のフュージョン・ジャズなんで、やはり、もう少し、ジャジーに攻めて欲しかったのが正直なところ。

聴き流し&ながら聴きには良い感じに、ハバードの緩やかで伸びやかなフレーズが全編に渡って充満している。ソフト&メロウというか、スイートなイージーリスニング志向のCTIフュージョンのプロトタイプ的位置づけのサウンド。ちょっと辛口にはなったが、1970年代のイージーリスニング志向のフュージョン・ジャズとして、内容的には及第点。
 
 

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2026年2月12日 (木曜日)

ナットのエレなハードバップです

ファンキー・トランペットの元気印「ナット・アダレイ」のCTI盤である。CTI盤なんで、ソフト&メロウなフュージョン盤かと思うんだが、録音年は1968年。フュージョン・ジャズの時代より前の、クロスオーバー・ジャズの初期。で、出てくる音は、エレクトリックなバックを従えたコンテンポラリーな純ジャズ。

Nat Adderley『Calling Out Loud』(写真)。1968年11, 12月の録音。CTIレーベル盤。ちなみにパーソネルは、Nat Adderley (cornet), Paul Ingraham (French horn), Seldon Powell, Jerome Richardson, Jerry Dodgion, Richard Henderson (sax), Hubert Laws (fl, piccolo), Don MacCourt (bassoon), George Marge (cl, English horn, sax), Romeo Penque (b-cl), Joe Zawinul (el-p), Ron Carter (b), Leo Morris (ds)。

冒頭の「Biafra」から曲想は、思慮深さとダイナミック差を兼ね備えたハードバップ。バックの演奏がエレクトリック志向。ソフト&メロウなんて無し。イージーリスニング志向なところも無し。

エレクトリックなハードバップな雰囲気が、1960年代後半のクロスオーバー・ジャズの影響をモロ受けた「コンテンポラリーな純ジャズ」的雰囲気を増幅している。このハードバップ・ライクな演奏の雰囲気は、ナット・アダレイのコルネットのパフォーマンスに拠るところが大きい。
 

Nat-adderleycalling-out-loud

 
そして、このハードバップ・ライクな演奏を「コンテンポラリー」な雰囲気を付加しているのが、ジョー・ザヴィヌルのエレクトリック・ピアノ(エレピ)。このザヴィヌルのファンクネス溢れるエレピが、コンテンポラリーな雰囲気を色濃くし、プログレッシヴなファンクネスを付加する。この盤をユニークな存在にしているのは、ザヴィヌルのエレピである。

エレクトリックな雰囲気と言えば、ナットもエレクトリックのコルネットを吹いていて、これが、ザヴィヌルのエレピと絡んで、とてもプログレッシヴな雰囲気を醸し出している。このエレクトリックな雰囲気が、ファンキーを飛び越えて、ソウルフルな雰囲気に昇華している部分など、聴き心地満点。

ビル・フィッシャーの管楽器のアレンジも、プログレッシヴでコンテンポラリーなエレクトリック・ハードバップに、ちょっと柔らかなイージーリスニング志向を付加している様で、なかなか良い雰囲気で効果的。

CTI盤というのが良く無いのか、ほとんど話題に上らないアルバムだが、内容的には、上質のコンテンポラリーでプログレッシヴで、エレクトリック・ハードバップな演奏がなかなかの内容。捨てておくには勿体ない秀作である。
 
 

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2026年2月 3日 (火曜日)

ファーマーがジャズ有名曲を演奏

1960年代後半になると、ビートルズの米国上陸からロックの台頭、ソウル・ミュージックの人気上昇、ニュー・ポップスの発展など、聴き手の音楽ジャンルの好みが地殻変動を起こし、ジャズは一気に人気に翳りが出だして、大衆音楽の中での人気は一気に下降していた。

そんな人気の下降の中、大手のレコード会社、例えば、ヴァーヴやコロンビアでは、ジャズのインスト特性を活かして、軽音楽風のイージーリスニング志向のアルバムをプロデュースし、販売するという、安易な売上維持策に出た。ジャズのアーティスティックな面を完全に無視した「暴挙」である。その軽音楽風のイージーリスニング志向のジャズ盤は、実は、この1960年代後半〜1970年代前半に集中している。

『The Art Farmer Quintet Plays the Great Jazz Hits』(写真左)。1967年5月と6月の録音。ちなみにパーソネルは、Art Farmer (flh, tp), Jimmy Heath (ts), Cedar Walton (p), Walter Booker (b), Mickey Roker (ds)。アート・ファーマー・クインテットがジャズの名曲を演奏するという、途方もなく「ベタ」な企画盤。

とにかく、ジャズの有名曲がズラリと並ぶ(括弧内は作曲者)。9曲目の「Gemini」だけ、演奏メンバーのジミー・ヒースの作で、残りは、全て、ジャズ有名曲。見渡すと、ファンキー・ジャズの有名曲が中心。ところどころ、モンク曲「'Round Midnight」や、変則拍子曲の「Take Five」が混じっているところが惜しい。どうせなら、ファンキー・ジャズの有名曲で固めれば良かったのに・・・。
 
The-art-farmer-quintet-plays-the-great-j  
 
 1.  "Song for My Father" (Horace Silver)
 2.  "'Round Midnight" (Thelonious Monk)
 3.  "Sidewinder" (Lee Morgan)
 4.  "Moanin'" (Bobby Timmons)
 5.  "Watermelon Man" (Herbie Hancock)
 6.  "Mercy, Mercy, Mercy" (Joe Zawinul)
 7.  "I Remember Clifford" (Benny Golson)
 8.  "Take Five" (Paul Desmond)
 9.  "Gemini" (Jimmy Heath)
10. "The 'In' Crowd" (Billy Page)

恐らく、この収録された曲名を見たら、硬派なジャズ者の皆さんは敬遠するだろうが、聴いてみるとそんなには悪く無いと思う。こんな有名曲の連続、ジャジーなリズムに乗せた軽音楽風の大衆向けインスト盤でしょ、と思うんだが、まず、アート・ファーマーのフリューゲルホーンとトランペットの、哀愁感を帯びたウォームで切れ味の良い音とフレーズが良い。これだけでも「聴く価値」あり。

リズム・セクションは、単純なリズム&ビートを刻み続けることは無く、おかずを入れたり、チェンジ・オブ・ペースしたり、細かくリズム&ビートを変化させていて、有名曲がずらりと並ぶ、一見、飽きが来そうな展開を、きっりと飽きさせず、意外と全編、演奏に引きつけさせる工夫を施している。

確かに、対峙して聴き込む様な、アーティスティックな側面に乏しい盤ではあるが、ジャズの有名曲をズラリ並べているので、ジャズ者の僕達にとっては耳慣れている曲であり、アレンジにちょっと捻りを入れているので、ちょっと違った雰囲気のジャズ有名曲が楽しめる。「ながら聴き」に特化するに最適のファンキー・ジャズの企画盤だと思う。
 
 

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