2026年6月 8日 (月曜日)

キューンの熱く激しいECM盤

ECM Recordsのカタログ番号1101〜1199(1100番台)。キース・ジャレット、パット・メセニー、チック・コリアといったスターたちの歴史的名盤を生み出し、レーベルの代名詞である「静寂の次に美しい音楽」という世界観を完璧に決定づけたシリーズであるが、わが国では、そんなスター達のアルバムだけがリリースされ、他のアルバムはなかなかリリースされなかった。よって意外と当時は知らなかった隠れ好盤がずらずら。

Steve Kuhn『Non-Fiction』(写真左)。1978年4月、旧西ドイツの「Tonstudio」での録音。ECMの1124番。ちなみにパーソネルは、Steve Kuhn (p, perc), Steve Slagle (ss, as, fl, percu), Harvie Swartz (b), Bob Moses (ds)。米国出身のピアニスト、スティーヴ・キューンのECMレーベルでの4枚目のリーダー作。スティーブ・スレイグルのサックスがフロント1管のカルテット編成。

美しいメロディ、変拍子を交えた緊迫感のあるポリリズム、そしてECMらしい透明感と空間の広がりが融合した音世界が特徴。ECMという欧州ジャズの老舗レーベルでの制作とはいいながら、米国ジャズの伝統とアヴァンギャルドな実験精神が飛び交う、しかしながら、音の響きは欧州ジャズという、ECMレーベルならではの、米国と欧州のジャズが融合した、独特の音世界が広がっている。
 

Steve-kuhnnonfiction

 
リーダーのキューンのピアノは「尖っている」。叙情的なメロディを紡ぎながらも、予測不能でエッジの効いたコード展開を行うスタイルは、ECMジャズの中でも、メンストリームな純ジャズ路線を踏襲する音。ニュー・ジャズ系の耽美的でリリカルな「広がる様な透明感」とは、また違った、硬質でクリスタルな「切れ味の良い透明感」がこのアルバムに広がっている。

この盤では「即興演奏の爆発力とドライブ感」を徹底追求している。スレイグルのフルートとスワルツのベースが美しく絡み合う「The Fruit Fly」や、ファンキーなロック調のビートから4ビートのジャズへとスリリングに展開する11分超の大作「Alias Dash Grapey」など、バラエティに富んだアンサンブルやインタープレイを聴くことが出来る。

本作の直後、キューンは歌手のシーラ・ジョーダンを迎えたバンド活動へとシフトしたため、この「インストゥルメンタル・カルテットによる純粋な熱量」を捉えた録音としては、この盤のパフォーマンスがピークだと思う。シンプルで判り易いが、かなり高度で複雑なメインストリーム系純ジャズを展開している。キューンのピアノを語る上で、この盤は外せないだろう。
 
 

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2026年6月 7日 (日曜日)

早すぎた精神的ジャズ・ファンク

ブルーノートの4300番台。ここまでくると、胸を張って「ジャズ」とは言いにくい。しかし、バックの演奏は上質のジャズ・ファンク。本作は、1970年代初頭、ホレス・シルヴァーが展開した三部作プロジェクト『The United States of Mind』の「Phase 2(第2章)」にあたる意欲作。ファンキー・ジャズの巨匠がソウルやファンク、ボーカル・ジャズへと大胆に接近した、レア・グルーヴ視点から、極めて評価の高い好盤として評価されている。

Horace Silver Quintet/Sextet With Vocals『Total Response』(写真左)。1970年11月15日 (#1, 2, 6, 9), 1971年1月29日 (#3–5, 7, 8) の録音。ブルーノートの4368番。ちなみにパーソネルは、Horace Silver (el-p), Cecil Bridgewater (tp, flh), Harold Vick (ts), Richie Resnicoff (g), Bob Cranshaw (el-b), Mickey Roker (ds), Salome Bey (vo, 1, 2, 5–7, 9), Andy Bey (vo, 3, 4, 8)。

それまでのハード・バップ〜ファンキー・ジャズ路線から一転、シルヴァーがエレクトリック・ピアノ(フェンダー・ローズ)を本格的に導入、アンディ・ベイとサロメ・ベイという実力派シンガーを起用、メッセージ性の強い歌詞を歌わせて、瞑想や精神の統一といった精神世界、そして当時の米国社会へのメッセージが融合した、コンセプチュアルで政治的な時期の作品である。

冒頭「Acid, Pot or Pills」は、ドラッグ依存への警告。2曲目「What Kind of Animal Am I?」は、人間の本質への問いかけ。3曲目「Won't You Open Up Your Senses」は、五感の解放。4曲目「I've Had a Little Talk」は、内省と自己との対話。5曲目「Soul Searchin'」は、自己探求。
 

Horace-silver-quintetsextet-with-vocalst  

 
6曲目「Big Business」は、巨大企業・資本主義への批判。7曲目「I'm Aware of the Animal Within Me」は、人間の野蛮性の自覚。8曲目「Old Mother Nature Counts Her Children」は、大自然への回帰。9曲目の「Total Response」は、精神と肉体の完全なる調和。

シルヴァーのフェンダー・ローズは、浮遊感とサイケデリックな響き。しかし、伝統のファンキー・リフは健在。コードのボイシングには独特のジャジーな緊張感があり、単なるポップスに流されないジャズマンとしての矜持が演奏に表れているところが、やはり、この盤は「コンテンポラリーなジャズ」である。楽器として機能するベイ兄妹の圧倒的な歌唱も、単に「メロディを歌う」だけでなく、「アンサンブルの一部」として完璧に機能している。

クランショウのエレベと、ローカーのドラムのファンク・グルーヴがこれまた良い。レスニコフのカッティングと彩りを与えるギターの系かな推進力。ブリッジウォーターのトランペットと、ヴィックのテナーの2管フロントは、1960年代の爆発するようなハード・バップのソロ回しとは異なる、「楽曲のメッセージ(歌詞)を支えるための知的なアンサンブル」に徹して、これもまた見事。

アルバムのサブタイトルにある『The United States of Mind(人心連合)』とは、「人間の精神(Mind)の中にある様々な要素が、アメリカ合衆国(United States)のように一つに団結・調和しなければならない」というシルバー独自の哲学。1970年代初頭の混沌とした米国社会(ベトナム戦争、ドラッグの蔓延、物質主義の台頭)に対し、シルバーは「精神性の回復」「心と身体の健康」「平和」を音楽で訴えようとした。その成果の一つがこのアルバムである。
  
 

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2026年6月 6日 (土曜日)

ジャズ喫茶で流したい・324

ハンク・モブレーの、ブルーノートに残した最後のリーダー・セッションとして知られるジャズ盤。フロント2管に、リーダーのハンク・モブレーのテナー、そして、新進気鋭の若手ウッディ・ショウのトランペット。リズム・セクションに、モード・プレイの雄シダー・ウォルトンがピアノを担当している。ギター、ベース、ドラムは当時の中堅〜若手のジャズマン。セクステット編成である。

Hank Mobley『Thinking Of Home』(写真)。1970年7月31日、Van Gelder Studioでの録音。リリースは1980年。ブルーノートの4367番。ちなみにパーソネルは、Hank Mobley (ts), Woody Shaw (tp), Cedar Walton (p), Eddie Diehl (g), Mickey Bass (b), Leroy Williams (ds)。1970年のブルーノートには珍しい、真摯実直、硬派ストレートアヘッドなポスト・バップなモード・ジャズ盤。

まず、モブレーのテナーは申し分ない。ストレートアヘッドな吹奏も、イージーリスニング志向のソフト&メロウな吹奏もどちらも水準以上。この盤でのモブレーは好調である。ウディ・ショウの瑞々しいトランペットやシダー・ウォルトンの堅実なピアノワークも優れたパフォーマンスで、モブレーのスモーキーで哀愁漂うサックスと見事に調和している。
 

Hank-mobleythinking-of-home

 
ギターの存在は、演奏全体がポスト・バップしすぎて大衆受けしないリスクを和らげる為に、イージーリスニング志向のギターを織り交ぜている様だ。演奏レベルとしては、ブルーノートの標準レベル以上をキープしている。1970年の録音ということを勘案すると、ブルーノートにおける「最後の価値あるハード・バップ・アルバムの一つ」と評価して良い内容の充実度である。

サイドマンとしては、やはり、ショウのトランペットが素晴らしい。ショウの放つエネルギッシュで瑞々しいソロは、モブレーの少しスモーキーで哀愁のあるサックスと最高のリリシズムを生み出している。ウォルトンのピアノも良い。モブレーの哀愁あるサックスや、ショウの鋭いトランペットの背後で、一切の無駄がない完璧なバッキングを聴かせる。知的なソロも素晴らしく、全体の音楽的な気品と統一感は、彼のピアノがコントロールしていると言っても過言ではない。

モブレーは15年間にわたりブルーノートの看板テナー・サックス奏者として活躍。本作はその最後を飾る隠れた名盤。録音後すぐに発売されず、1980年まで未発表だった為、当時のリアルタイムな評価こそ逃したものの、後年その完成度の高さから再評価が進んでいる逸品。とにかく、モブレーのテナーが好調で元気なのが良い。好盤である。
 
 

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2026年6月 5日 (金曜日)

ECMレーベルのエンリコ・ラヴァ

総帥プロデューサー、マンフレート・アイヒャーが率いるECMレーベル。ドイツのミュンヘンの本社を構え、欧州ジャズの老舗レーベルとはいえ、どちらかといえば、北欧ジャズ中心の耽美的でリリカルな即興演奏を主体としたコンテンポラリー・ジャズがメインと誤解されることがしばしば。

しかしながら、欧州各国の純ジャズもしっかり網羅していて、時に米国ジャズマンも招聘して、多国籍な編成でのECMジャズも制作しているから、目が離せない。欧州ジャズの現在位置を確認するには、ECMレーベルのその時その時のアルバムを聴くのが、一番、手っ取り早い。

『Enrico Rava Quartet』(写真左)。1978年3月、西ドイツの「Tonstudio」での録音。ECMの1122番。ちなみにパーソネルは、Enrico Rava (tp), Roswell Rudd (tb), Jean-François Jenny-Clark (b), Aldo Romano (ds)。イタリアン・ジャズの至宝トランペッター、エンリコ・ラヴァのECMレーベルでのリーダー作である。

リーダーのエンリコ・ラヴァは伊出身のトランペッター。ロズウェル・ラッドロズウェル・ラッドは米国出身のフリー・ジャズ界の重鎮ロンボニスト。ジャン=フランソワ・ジェニー=クラークは仏出身のベーシスト。アルド・ロマーノは伊出身のドラマー。伊米仏の大陸を跨いだ多国籍なピアノレスの変則カルテット。
 

Enrico-rava-quartet  

 
いかにもECMらしい取り合わせなんだが、総帥プロデューサーのアイヒャーの発想は理解し難い。しかし、出てくる音は、しっかりECMの響きを宿しているのだから感心する。出てくる音は、イタリアン・ジャズの哀愁と叙情的なメロディ、そしてフリー・ジャズの先鋭的なアプローチが絶妙に融合した音世界である。

ピアノレスのフロント2管(トランペット+トロンボーン)のカルテット演奏で、伝統的な純ジャズの硬派な雰囲気に、イタリアン・ジャズ独特の哀愁感漂う叙情的でリリカルなフレーズの展開、時々、アヴァンギャルドでスピリチュアルなフリー・ジャズへとブレイクダウンするスリリングな演奏が素晴らしい。

エンリコ・ラヴァの哀愁を帯びた抒情的なトランペットと、ロズウェル・ラッドの豪快でアーシー(泥臭い)なトロンボーンのフレーズが、互いに絡み合いながら見事なコントラストを描いていて、自由度の高いアンサンブルが繰り広げられている。これが、とても「欧州ジャズ」らしい響きと展開。イタリア・ジャズと米国ジャズの邂逅なんだが、しっかりと、欧州ジャズしていて、しっかりと、ECMジャズしている。

これぞ、アイヒャー・マジックなんだろう。このアルバムには、ECMレーベルの音と響きをしっかり反映した、1970年代後半のイタリアン・ジャズの最先端の音が展開されている。根底にはニューオーリンズ・ジャズのような伝統的なお祭り騒ぎ(祝祭感)や、イタリア独特の美しいメロディが漂っていて、実に興味深い内容に仕上がっている。意外とこの盤、イタリアン・ジャズの「隠れ名盤」である。
 
 

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2026年6月 4日 (木曜日)

インプロバイザーなタウナーです

1977年から1981年にかけてのリリース。キース・ジャレット、パット・メセニー、チック・コリアといったスターたちの歴史的名盤を生み出し、レーベルの代名詞である「静寂の次に美しい音楽」という世界観を完璧に決定づけた、ECM Recordsのカタログ番号1101〜1199(1100番台)。今日はそのECM1121番。

Ralph Towner『Batik』(写真左)。1978年1月、オスロの「Talent Studios」での録音。ちなみにパーソネルは、Ralph Towner (12-string guitar, classical-g, p), Eddie Gómez (b), Jack DeJohnette (ds)。アコースティック・ギターの透明感あふれる響きとパフォーマンス、卓越したリズム隊による即興演奏とが融合した、「ECMのサウンド」を代表する好盤の一枚。

ECM御用達、ECMのハウスギタリストの一人、ラルフ・タウナーの繊細かつ耽美的なアコギとピアノに対し、ジャズ界屈指の実力派リズム・セクションの担い手、ベースのエディ・ゴメスと、ドラムのジャック・デジョネットを迎えた、変則的なピアノレス・トリオ(一部の曲でタウナーがピアノを演奏)で録音されている。特に、米国東海岸ジャズがメインのエディ・ゴメスの参加が目を引く。
 

Ralph-townerbatik

 
このアルバムの「静謐感とダイナミズム」は半端ない。ECM特有の「透明感のある美しい響き」をベースにしつつも、ディジョネットの躍動的でポリリズミックなドラミングと、ゴメスのゴリッとした強靭な骨太ベースが絡み合うことで、単なるヒーリング・ミュージック志向なニュー・ジャズに留まらない、欧州的で正統派硬派で、スリリングなジャズの即興性を生み出している。

タウナーの唯一無二の「12弦ギター」によるパーカッシブなアプローチが見事。ギター自体を打楽器のように激しく鳴らすことで、強靱なリズム隊と呼応して、トリオのグルーヴを先導している。そして、タウナーな優秀なピアニストでもある。この盤では、「ピアニスト」としてのタウナーの深化を感じることができる。タウナーの弾く叙情的なピアノと伝説的ベーシストのゴメスとが対話する瞬間は、贅沢な聴きどころである。

「Batik(バティック)」とはインドネシアなどの伝統的な「ろうけつ染め(更紗)」の意。その名の通り、音が幾重にも織り重なり、美しい模様を描き出すような芸術的な世界観が表現されている。そして、この盤には「ECM的アグレッシブさ」=ストレートなジャズの即興のスリルに溢れている。インプロバイザーとしてのタウナーをとことん楽しめる。
 
 

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2026年6月 3日 (水曜日)

尖ったジャズ・ファンクの萌芽

ジャズ・オルガン奏者ジョン・パットンが録音したソウル・ジャズ志向のオルガン・ジャズである。1970年に録音されながら、録音当時は「お蔵入り」。26年後の1996年に、初めて陽の目を見た「幻のセッション」である。伝統的なこってこてのソウル・ジャズやファンク、ブルースのグルーヴをベースにしつつ、当時の流行でもあった、実験的でアヴァンギャルドな要素(やや尖った「アウト」な演奏)を取り入れているのが特徴。

John Patton『Memphis To New York Spirit』(写真左)。1970年6月9日(tracks 6~8), 10月2日(tracks1~5), Van Gelder Studioでの録音。リリースは1996年。ブルーノートの2366番。ちなみにパーソネルは、Big John Patton (org), Marvin Cabell (ts, ss, fl), George Coleman (ts :tracks 6–8), James Blood Ulmer (g :tracks 1–5), Leroy Williams (ds)。

1970年10月2日のセッション(tracks1~5)については、マーヴィン・キャベルのサックスと、ジェームズ・ブラッド・ウルマーが、ところどころで、やや尖った「アウト」な演奏をしていて、ソウル・ジャズというよりは、ソウル・ジャズな雰囲気を借りた、温和なアヴァンギャルド志向のコンテンポラリー・ジャズといった雰囲気。ただ、その突っ込みと徹底が曖昧で、悪くは無い、水準以上の演奏なのだが、中途半端感が漂うのが残念。
 

John-pattonmemphis-to-new-york-spirit

 
中途半端感が漂うが、内容的には、アヴァンギャアルドなジャズ・ファンクという新しい演奏トレンドが芽生えているのが判る。アヴァンギャルドといえば「フリー・ジャズ」だったところに、ソウル・ジャズのファンクネスを強めて、アヴァンギャルドな演奏要素を取り入れるという大胆な演奏方針の変更をしているところが興味深い。ソウル・ジャズが最後に陥った「商業主義的なアプローチ」を全面的に払拭している。

1969年6月9日のセッション(tracks 6~8)では、テナーにジョージ・コールマンが入っていて、このセッションの3曲は、コールマンの十八番である「モーダルな」演奏がセッション全体に影響して、ソウル・ジャズに、当時の「新主流派」のモーダルなパフォーマンスを持ち込んだ、オルガンがメインのポスト・バップな、個性的な演奏が展開されている。モーダルに展開するジョン・パットンのオルガンは興味深い。

本作は当初、ブルーノートの「BLP 4364」というカタログ番号が与えられ、発売が2度も計画されながらも見送られた、ブルーノートお得意の「何故だか判らないお蔵入り盤」。時代の変化やレーベルの体制変更によりマスターテープ倉庫に眠り続け、録音の26年後、1996年にマイケル・カスクーナらの監修による『Blue Note Groove Series』の一環として世界で初めてCD化。「尖ったファンクグルーヴ」漂うユニークな内容は発掘されて良かったと思う。好盤である。
 
 

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2026年6月 2日 (火曜日)

極上ソウル・ジャズ・パーティー

米国のジャズ・オルガン奏者ルーベン・ウィルソン(Reuben Wilson)の、ソウルフルでファンキーなジャズ・ファンク盤である。全体の音的には、ソウル・ジャズというよりも、軽くアーシーなリズム&ビートをメインにしたジャズ・ロック&ジャス・ファンクという雰囲気で、1960年代のソウル・ジャズとは、グルーヴが縦ノリなのが特徴。

Reuben Wilson『A Groovy Situation』(写真左)。1970年9月18 & 25日、Van Gelder Studioでの録音。ブルーノートの4365番。ちなみにパーソネルは、Reuben Wilson (org), Earl Turbinton (as), Eddie Diehl (g), Harold White (ds)。滑らかでファンキーなグルーヴを湛えた、楽しいクロスオーバー・ファンキーなアルバムである。

ルーベン・ウィルソン自身、前作『Blue Mode』(1969年)の硬派な路線から、本作では意図的にポップで親しみやすい「コマーシャル・ルート」へと舵を切った、ということだろう。ジャズ者(ジャズ・マニア)に対してだけでは無く、幅広いリスナー層にアプローチを試みた、キャッチーな作品として評価できる。
 

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ポップス&ソウルのカバーが中心で、当時のヒット曲に対して、大胆にジャズ・ファンクなアレンジを充てている。乾いた明るい粘り気のあるソウルフルな、そしてR&Bな音色と、タイトなリズム・セクションが融合して、このアレンジに乗って、滑らかでファンキーなグルーヴを醸し出している。ジャズ者御用達の濃厚なグルーヴではない、軽快で明るい傾向のグルーヴである。

4曲目「A Groovy Situation」は、メル&ティムの有名なシカゴ・ソウル名曲をカバーしたタイトル曲。5曲目「Happy Together」は、ポップロックなバンド、ザ・タートルズの代表曲をソウルフルなジャズ・ファンクへ大胆カバー。6曲目「Signed, Sealed, Delivered I'm Yours」は、スティーヴィー・ワンダーの大ヒット曲をジャズ・ファンクにアレンジ。

レーベル全体がジャズ・ファンクやソウル・ジャズ、そして商業的でキャッチーな路線へシフトしていく過渡期を象徴する、ファンクやR&B、ロックの要素を取り入れたサウンドが全盛の中での、ブルーノートの「コマーシャル路線」への挑戦の音である。難しいことを考えずに、純粋に、滑らかでファンキーなグルーヴを楽しむ盤だろう。ながら聴きに最適な好盤である。
 
 

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2026年6月 1日 (月曜日)

ジャズ喫茶で流したい・324

1960年代終盤、大手レコード会社の傘下に入ったブルーノートは、いわゆる、売らんが為の「明らかに聴き手に迎合した、売れ筋を意識した、ライトで聴き易いジャズ」の制作に舵を切る。イージーリスニング志向の「ファンキー&ソウル・ジャズ」、そして「軽快で優しいジャズ・ファンク」なアルバムを制作する。そんな中で、時折、メインストリーム志向のポスト・バップなアルバムも作ったりしていたけど。

Bobby Hutcherson Featuring Harold Land『San Francisco』(写真左)。1970年7月15日、ロサンゼルスの「United Artists Studios」での録音。ブルーノートの4362番。ちなみにパーソネルは、Bobby Hutcherson (vib, marimba, perc), Harold Land (ts fl, oboe), Joe Sample (p, el-p), John Williams (b, el-b), Mickey Roker (ds)。

1970年代に入って、ブルーノートのアルバム制作の方向性が変わっていく。大衆向けの「売れ筋を意識したライトで聴き易いジャズ」は控えめに、当時の音楽のトレンドであった、サイケデリック、スペーシー、アーシーな、ジャズ・ロック&ジャズ・ファンクなアルバムの制作に方向転換する。このアルバムはその最初の一枚といっていいかもしれない。

サイケデリック、スペーシー、アーシーな音要素を取り入れたことにより、単なるジャズ・ファンクに留まらない、スピリチュアルな深みを獲得している。その深みの中で展開される、限りなく自由度の高いモーダルなインプロビゼーションが、純ジャズっぽく、メインストリーム志向に映えに映える。
 

Bobby-hutcherson-featuring-harold-landsa

 
冒頭「Goin' Down South」では、アーシーでファンキーな演奏が展開される。まるで、1970年代前半のキース・ジャレットの様な、ゲイリー・バートンの様な、アーシーでファンキーな音世界。この演奏に「売らんが為」のバイアスは感じ無い。ハッチャーソンのヴァイブ、ハロルド・ランドのテナーのアドリブ展開はモードそのもの。アーシーなリズム&ビートを敬遠してはならない。1970年代を台憑依する、純ジャズの音世界の一つである。

2曲目の「Prints Tie」では、がらっと変わって、サイケデリックで、妖艶で耽美的、そして、スペーシーな「ニュー・ジャズ」な演奏が展開される。まるで、1970年代のECMレーベルの様な音世界。現代音楽的要素も見え隠れし、リズム&ビートの取り方は、あきらかにニュー・ジャズ志向。とても米国ジャズの音世界とは思えない、絶妙な名演である。

この冒頭からの2曲が、このアルバムの全体の雰囲気を決定付けている。1970年代の新しいジャズの音世界がこの盤に展開されている。ジャズ・レーベルの老舗、ブルーノート・レーベルの面目躍如。クルセイダーズ(当時はジャズ・クルセイダーズ)のメンバーとして知られるジョー・サンプルのエレピと、フェンダー・エレベースの使い手、ジョン・ウィリアムスのエレベのグルーヴが明らかに「新しい」。

この「新しい」リズム&ビートのグルーヴに乗って、ハッチャーソンのヴァイブと、ランドのサックスが飛翔し疾走する。モーダルに、限りなく自由に、時にフリーに展開するインタープレイは見事という他は無い。1970年代ジャズの「隠れ名盤」である。
 
 

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2026年5月31日 (日曜日)

1970年の骨太なポスト・バップ

ジョン・コルトレーンの黄金のカルテットを支えたエルヴィン・ジョーンズが、1970年代の幕開けに提示したポリリズミックで豪快なポスト・バップの佳作。編成を見ると、当時の流行を感じるが、ピアニストをあえて入れず、フランク・フォスターとジョージ・コールマンの強力なサックス2本をフロント2管として、フロント管のインプロの自由度を広げている。

Elvin Jones『Coalition』(写真左)。1970年7月17日「Van Gelder, Englewood Cliffs, NJ」での録音。ブルーノートの4361番。ちなみにパーソネルは、Elvin Jones (ds), George Coleman (ts), Frank Foster (ts, b-cl), Wilbur Little (b), Candido Camero (conga, tambourine)。

ピアノの和音に縛られないため、自由でスピリチュアルなインプロが展開される、とされた、当時のポスト・バップの演奏における「編成のトレンド」を感じて、思わず苦笑い。ピアノレスであれば良い、ということではないんだけどなあ(笑)。

エルヴィンは特定の固定バンドを模索している過渡期で、この盤は、チャレンジ、若しくは実験の雰囲気がある。タイトルの「Coalition(連携・合同)」による化学反応を期待したのかもしれない。カウント・ベイシー楽団などで活躍した、当時、ベテランのフランク・フォスターと、マイルス・デイヴィス・クインテット出身の若手中堅のジョージ・コールマン、二人の世代の違うサックス奏者をコラボさせている。
 

Elvin-jonescoalition

 
エルヴィンの「アンビデクストラス(両利き)」な超絶ドラミングに徹している。右手でシンバルのキープをしながら、左手・左足(ハイハットやタム)で全く別の複雑な3連符のアクセントを叩き出す、コルトレーン時代に培ったポリリズムが完全に独立・進化している。

ここにキャンディド・カメロのコンガが加わり、エルヴィンをリズムをキープする役目から解放する。エルヴィンは「ドラムセット全体を使って対話(メロディを叩く)する」ような、より自由で凄まじい手数を繰り出して、第3のフロント楽器として、フロント2管のフォスターとコールマンのテナーに絡みまくる。

このドラムがフロントの一部となって、他のフロント楽器と絡むところがユニーク。エルヴィンの超絶技巧なテクニックだからこそ、これが出来る。

そして、絡まれた2管フロントであるが、ジョージ・コールマンの「正確無比なテクニックと、都会的でキレのあるハードバップ・スタイル」と、フランク・フォスター:の「太くブルース感あふれるトーンで、アーシー(大地っぽさ)やスピリチュアルなアプローチ」との音のコントラスト、時に美しくハモり、時に激しくバトルする姿は興味深い。

が、ポスト・バップとしての、限りなく自由度の高いモード時々フリーという演奏内容としては、今一歩ということろか。エルヴィンの自由度の高いドラミングが参入しての、3つのフロント楽器の、限りなくフリーに近いモーダルなインタープレイについては、発展途上というところか。今一歩の成熟を期待する、チャレンジブルな内容であることは事実。1970年の骨太なポスト・バップの一枚。
 
 

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2026年5月30日 (土曜日)

ルーさんのジャズ・ファンク好盤

1960年代後半からドナルドソンが精力的に取り組んでいた、ソウル・ジャズ&ジャズ・ファンク路線のアルバムの中で、最もポップでイージーリスニング志向なアルバム。

後のフュージョン・ジャズのイージーリスニング志向盤と比べても、引けを取らない内容である。あまりに、ポップでイージーリスニング志向なので、硬派な純ジャズ者の方々からは毛嫌いされる傾向にあるが、後年のレア・グルーヴやヒップホップのサンプリング・ソースとしても非常に高く評価されている。

Lou Donaldson『Pretty Things』(写真左)。1970年1月9日、6月12日の録音。ブルーノートの4359番。ちなみにパーソネルは、Lou Donaldson (varitone-as, vo), Blue Mitchell (tp), Lonnie Smith (org, track 1), Leon Spencer (org, tracks 2–6), Melvin Sparks (g, track 1), Ted Dunbar (g, tracks 2–6), Jimmy Lewis (el-b, track 1), Idris Muhammad (ds)。

冒頭、パティ・ペイジなどの歌唱で有名な往年の名曲「Tennessee Waltz」を、ゆるゆるのブルース・ロック調のキャッチーなビートでのカバーが出てくるので面食らう。あまりに俗っぽくて、あまりにイージーなカバーなので、これはなあ、と思うんだが、じっくり聴いていると、演奏するメンバーが、ハードバップ後期から活躍する一流どころなので、意外と演奏自体は充実している。なので、演奏途中で飽きることは無い。
 

Lou-donaldsonpretty-things

 
逆に、こんなにポピュラーで俗っぽい曲をテーマに据えても、アドリブ部に入ると、上質な純ジャズ調のアドリブが展開されるからたまらない。この「上質な純ジャズ調のアドリブ展開」が、後のフュージョン・ジャズに欠けていくところなので、このルーさんの「テネシー・ワルツ」のカバー演奏は隅に置けない。

5曲目の「Pot Belly」の8分に渡る、イージーリスニング志向のソウル・ジャズ&ジャズ・ファンクな演奏が象徴的。イドリス・ムハマッドによる、タイトで重いドラム・ブレイクから始まり、ヴァリトーン・サックスのソウルフルな音色、ファンキーでパーカッシヴなオルガン、重低音溢れるジャズ・ファンクなエレベのライン。その独特な、ちょっとダルでサイケな部分が見え隠れする音世界は、ジャズ・ファンクの名演のひとつだろう。
 
ラストの「Love」は、ナット・キング・コールなどの歌唱で世界的に大ヒットしたポップ・ナンバー「L-O-V-E」のカバー。ハッピーで爽快なグルーヴ、メインストリーム志向のアドリブ展開、ブルー・ミッチェルのトランペットもブラスの響きがブリブリ輝いている。テッド・ダンバーの「ヘタウマ」ファンキーなエレギが、演奏全体のグルーヴ感を煽っている。

ルーさんのアルト・サックスは全編に渡って絶好調。当時流行していた電子エフェクターを通した「ヴァリトーン(Varitone)」サックスも演奏しており、よりディープで太いファンク・サウンドを響かせていて良好。ポップでイージーリスニング志向なアルバムだが、意外とメインストリームしていて、聴き応えがある。好盤。
 
 

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