2026年1月23日 (金曜日)

ソウル志向のシルヴァー・ジャズ

このジャケをみたら、ほとんどの人が「ビビる」だろう。どう見ても、ジャズのアルバムのジャケとは思えない(笑)。この奇妙な恰好をして写っているのは、ホレス・シルヴァー本人。「THE UNITED STATES OF MIND」という思想に入れ込んでいた時期のシルヴァー本人。内容的には、決して「危ない」「怪しい」類の音楽では無いのでご安心を。

Horace Silver Quintet『That Healin' Feelin'』(写真左)。1970年4月8日と6月18日の録音。ブルーノートの4352番。サブタイトルが「The United States of Mind Phase 1」。当時、シルヴァーが入れ込んでいた思想の名称がサブタイトルにあるので、スピリチュアルな側面もあるのか、と警戒するが、これが全く無い(笑)。

それでも、後に『The United States of Mind』としてCDにまとめられた3部作アルバムの最初のもの。ファンキー・ジャズ一本槍のホレス・シルヴァーが、ソウル・ミュージックに一番接近したアルバムの一枚である。

ちなみにパーソネルは、4月8日の録音が、Horace Silver (p, el-p), Randy Brecker (tp, flh), George Coleman (ts), Bob Cranshaw (el-b), Mickey Roker (ds), Andy Bey (vo, 2-5)。6月18日の録音が、Horace Silver (p, el-p), Randy Brecker (tp, flh), Houston Person (ts), Jimmy Lewis (el-b), Idris Muhammad (ds), Gail Nelson (vo, 6), Jackie Verdell (vo, 7–9)。
 

Horace-silver-quintetthat-healin-feelin

 
基本は、シルヴァー印のファンキー・ジャズ。しかし、この盤で「耳を引く」のが、シルヴァーのエレクトリック・ピアノ。シルヴァーの弾くエレピが凄く良い。シルヴァー印のファンキー・ジャズにピッタリのエレピの音、エレピの弾きっぷり。このシルヴァーの弾くエレピが、このアルバムの「キモ」になっている。

このアルバムでは、大々的にボーカルの導入に踏み切っている。3人のボーカリストが分担して、ボーカルを担当しているが、そうなると、このアルバムは「R&B」志向のソウル・ジャズになるのか、と思いきや、そうはならない。あくまで、ソウル・ミュージック志向の、シルヴァー印のファンキー・ジャズ。

大胆なボーカルの導入とエレピの導入で「ソウル・ミュージック志向」を実現している。演奏の基本は、その時その時のシルヴァー印のファンキー・ジャズ。それが証拠に、ソウル・ミュージック志向の割に、粘るファンクネスはライト。ライト仕様のソウル・ミュージック志向なのが、このアルバムの個性であり、シルヴァー印のファンキー・ジャズのバリエーションである。

へんちくりんな恰好をしてジャケに収まっているシルヴァーだが、このアルバムでの音は、ボーカルを抜けば、とても硬派でアーティスティックな、シルヴァー印のファンキー・ジャズである。モード・ジャズにも、ソウル・ジャズにも柔軟に適応し、自らのファンキー・ジャズに昇華させている。ジャケに惑わされずに手にすれば、1970年当時のシルヴァー印のファンキー・ジャズの最前線が体感できる。そんな好盤である。
 
 

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2026年1月21日 (水曜日)

自らを整えるビル・エヴァンス

ビル・エヴァンスは、彼のジャズ・ピアニストの歴史の中で、節目節目、だいたいがトリオのメンバーが入れ替わった時、恐らく自分を整え直す意味があるんだと思うのだが、ドラムにフィリー・ジョー・ジョーンズ(以降、フィリージョーと略)を自らのトリオに招いて、ビルのホームである、NYのライブハウス、ビレッジ・ヴァンガードのライヴに臨む習慣がある。

Bill Evans『Getting Sentimental』(写真左)。1978年1月15日、NYのビレッジ・ヴァンガードでのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Bill Evans (p), Michael Moore (b), Philly Joe Jones (ds)。録音当時は未リリース。実際にリリースされたのは2003年8月。マイルストーン・レーベルからのリリースであった。ヴィレッジ・ヴァンガードでのライヴの私家録音である。

長年、ベースの相棒だったエディ・ゴメスが辞めて、マーク・ジョンソンが加入するまでの時期のライヴ録音。ベースが、マイケル・ムーアというのが珍しい。そして、ファンタジー時代の後半、ドラムを務めたエリオット・ジグムンドもビルの下を離れた、その空席となっていたところに、ドラム担当として、フィリージョーが参加している。

このドラムのフィリージョー。ダイナミックでバッシバッシとバップなドラムを叩きまくるフィリージョーと、耽美的でリリカルな側面を持つビル・エヴァンスのピアノとは「アンマッチ」なのでは、と思うんですが、ビルは意外と元気溌剌に、バップなピアノを弾きまくっている。
 

Bill-evansgetting-sentimental

 
ビルが耽美的でリリカルなバップ・ピアノを奏で始めると、フィリージョーは、意外と繊細で細やかなバップ・ドラミングにチェンジしている。これが意外と見事で、ビルが楽しげに弾き進めているのも理解出来る。フィリージョーのドラミングとビルのピアノは意外と相性が良い、ということを再認識する。

ビルのピアノは相変わらずである。バップなダイナミックな弾き回しもあれば、耽美的でリリカルな弾き回しもある。いわゆる「お馴染み」のビルである。

逝去する2年半ほど前のライヴで、体調は既に悪かったはずだが、このビレバガでのライブ・パフォーマンスは、そんな健康上の障害があるなんて雰囲気は微塵も無い。右手もしっかり回っているし、なにより、このライヴ・パフォーマンスには、よれたり、ミスタッチがあったりという破綻が無い。

ムーアのベースは意外と検討していて、ビル・エヴァンス・トリオの歴代のベーシストと比較しても遜色はない。ビルのピアノの個性を良く理解して、ビルのピアノと対等のインタープレイを仕掛けている。アドリブ部のベースラインのイマージネーションも豊かで、ムーアのベースにとりたてての欠点は無い。大健闘のマイケル・ムーアである。

このライヴ・パフォーマンスの位置づけは、いわゆる、ビルの「浪人時代」、次のピアノ・トリオを立ち上げるまでのリハビリ時期のライヴ音源になる。細かいところにお構いなしのビルのパフォーマンスは清々しい。2年半後に鬼籍に入るとは思えない上質のパフォーマンス。私家録音でちょっと音は悪いが、ビルのピアノを愛でるのに不都合は無い。好ライヴ盤である。
 
 

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2026年1月20日 (火曜日)

Bud Powell ”Jazz Giant” 再聴

レコード・コレクターズ2026年2月号の特集に「この曲のピアノを聴け! ジャズ/フュージョン編」がある。この特集は、日本の演奏家も含めて、ジャズ/フュージョンを代表するピアノの名演をまとめて紹介するというもの。

ジャズ・ピアノの基本的な名盤については、当ブログについては、15〜20年前に記事化済みなので、ブログの右下の「カテゴリー」から、ジャズマン・グループの名前から入れば、読むことが出来るのだが、かなり前の記事なので、その名盤に対する、印象、聴き方も変わっていると思うので、今の耳で、もう一度、聴き直してみるのも一興と思い立った。

Bud Powell『Jazz Giant』(写真左)。1949年2月の録音と1950年2月の録音の2セッションを併せたアルバム。ちなみにパーソネルは、Bud Powell (p) をリーダーとして、1949年2月の録音は、Ray Brown (b), Max Roach (ds)、1950年2月の録音では、Curley Russell (b), Max Roach (ds) が参加している。

ジャズ・ピアノの個性は千差万別で、ピアニスト毎に個性が変わると言って良い。弾き方については、幾つかの切り口でグルーピングすることが出来て、ここでは「弾きっぷりのテクニック」について語りたい。

ジャズ・ピアノの弾きっぷりのテクニックの高さという点では、アート・テイタム、バド・パウエル、オスカー・ピーターソンがベストスリーだろう。
 

Jazz_giant_1

 
テクニックの高さの基準は、アート・テイタムで、テイタム志向の、クラシック・テクニックに匹敵するのが、バド・パウエル。スイング感+豊かなオフビートという、ジャズ・ピアノらしさの切り口では、オスカー・ピーターソン。

この『Jazz Giant』では、そんなバド・パウエルの弾きっぷり、個性如実に判るジャズ・ピアノの名盤の一枚。冒頭の「Tempus Fugue-it」を聴くだけで、アート・テイタムに匹敵するバドのハイ・テクニック、クラシック・ピアノに匹敵する、テクニックの正確さを聴き取ることが出来る。とにかく、凄まじい指回し、凄まじいブロックコードの打鍵である。

バド・パウエルの個性を愛でるに相応しいアルバムは多々あるが、この『Jazz Giant』が、バド・パウエル体験の入口に当たるアルバムだと僕は思う。ジャズ・ピアノを聴き極める上で、まず、このバド・パウエルをクリアする必要はある。

バド・パウエルは、モダン・ジャズ・ピアノの祖であり、ピアノ・トリオ・スタイルを確立させた、つまり「ピアノ+ベース+ドラム」の現代のピアノ・トリオ編成を定着させたピアニストだからである。

そのバド・パウエルをクリアする第一歩が、この『Jazz Giant』。まず、このアルバムを聴くことで、ジャズ・ピアノの最高水準はどの辺りなのか、確認することができる。そんなジャズ・ピアノの名盤の一枚である。
 
 

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2026年1月16日 (金曜日)

ビル・エヴァンズの異色盤・2

ビル・エヴァンスのディスコグラフィーを順に確認していくと、「なんだ、このアルバムは」という異色盤、というか、ゲテモノ盤らしき「パチモン盤」に出くわす。それでも、ビル・エヴァンスのディスコグラフィーをコンプリートしたいという「ビル・エヴァンス者」としては、避けては通れない。まずは、実際に自分の耳で聴いてみることが大事である。

『Bill Evans Plays the Theme from "The VIPs" and Other Great Songs』(写真左)。1963年5月6日の録音。ちなみにパーソネルは、Bill Evans (p), そして、名称不明のオーケストラとコーラス、クラウス・オガーマンのアレンジ&指揮。意図的に商業的な目的の為に制作された、当時の映画やテレビのテーマ曲や人気のスタンダード曲をエヴァンス自身の解釈で演奏した企画盤である。

一言で言うと「イージーリスニング音楽」。どう聴いてもジャズではない。旋律楽器として、ビル・エヴァンスのピアノがフロント楽器の位置付けだが、ジャズでよくある「ピアノ・トリオ+オーケストラ」という、ジャズのバンドとオーケストラのコラボでは無く、豪華なストリングス・セクションと軽いパーカッションによる、よりコマーシャルでイージーリスニング的な編成での演奏である。

ストリングス・アレンジについては、なんとかオーケストラ・ジャズに留めたいという意図は感じられなくも無いが、あまりに甘く、あまりにムーディーな側面が強調されており、ジャジーな雰囲気は微塵も感じられないアレンジになってしまっている。
 

Bill-evans-plays-the-theme-from-22the-vi

 
収録曲は全12曲。メインは、1960年代半ばの映画のサウンドトラックやテレビ音楽から選ばれており、タイトル通り、ミクローシュ・ローザが作曲した1963年の映画『ザ・VIPズ』のタイトル・トラックを始めとして、リン・マレーの『ミスター・ノヴァク』やエルマー・バーンスタインの『ザ・ケアテイカーズ』のテーマ曲などが含まれている。

ジャズ・スタンダード曲も幾曲か収録されていて、「Days of Wine and Roses」や「On Green Dolphin Street」「Laura」では、ビル・エヴァンスの新しい解釈を聴くことが出来る。もっとも、この新解釈は、イージーリスニング志向のもので、ビル・エヴァンス独特の和音の活用よりも、シングルトーンの聴き易さを最優先した解釈ではある。

ビル・エヴァンスのピアノはそれなりに、その個性と実力を発揮した内容にはなっているが、いかんせん、アルバム全体の音志向としては、ジャズとしての音作りより、ポップスな親しみやすさを優先したアレンジになっているので、ジャズのアルバムとしては評価し難い。

ただし、イージーリスニング志向のピアノの弾き回しについては優れたものがあり、エヴァンスのピアノの応用力、適応力の高さを感じ取る事は出来る。とにかく、この盤、ビル・エヴァンスのディスコグラフィー上、最大の異色盤であることは間違い無い。
 
 

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2026年1月12日 (月曜日)

バップ・ピアニストの本領発揮

トミー・フラナガンは、数々の歴史的名盤の中で、結構な数、サイドマンとして参加しているので「名盤請負人」なんていう不思議な評価をされたりしている。その「名盤請負人」という評価のその真の理由を誰も深掘りしないのは不思議だった。フラガナンはプロ中のプロ、職人中の職人、どんなセッションでも、どんな曲でも、正解のピアノ・パフォーマンスを叩き出す、引き出しの多さを誇ったバップ・ピアニストであった。

Tommy Flanagan『The Magnificent Tommy Flanagan』(写真左)。1981年6月2–3日の録音。ちなみにパーソネルは、Tommy Flanagan (p), George Mraz (b), Al Foster (ds)。収録曲が全てスタンダード曲+ミュージシャンズ・チューンで占められた、フラガナンのバップ・ピアノがメインのトリオ演奏が収められた好盤である。

オリジナルのLPバージョンは全8曲。フラナガンのバップ・ピアノ全開。とにかく、バップなピアノを弾きまくる。ピアノ・トリオはピアノが主役。フラガナンはここぞとばかりに、端正で小粋なフレーズをバリバリ弾きまくる。このエネルギッシュでダンディズム溢れるバップ・ピアノこそが、フラガナンの真骨頂。ど迫力のアドリブ・フレーズの連発。
 

Tommy-flanaganthe-magnificent-tommy-flan

 
しかし、フラナガンは、スダンダード曲の魅力的な旋律を歌わせるのが上手い。主旋律のメロディーラインを右手でしっかり押さえつつ、その旋律を浮き上がらせる様な、左手のコンピングが絶妙で、そのアレンジの妙とテクニックがフラガナンは秀でている。「伴奏上手のフラナガン」というのは、こういうところから来ているのだろう。

バックでリズム&ビートを支える、ベースのムラーツとドラムのフォスターも素晴らしいパフォーマンスを繰り広げる。ピッチがしっかりあって、鋼の様にソリッドな弦のブンブン胴なりするベース音が素晴らしい。ドラムのフォスターのドラミングは、完璧なバップ・ドラミング。ポリリズミックに叩きまくる様は、バップ・ドラミングの完成形を聴くようである。

「いぶし銀な職人ピアニスト」や「名盤請負ピアニスト」なんていう訳の判らない形容をされたり、「伴奏上手なサイドマン・ピアニスト」と決めつけられたり、フラガナンのピアノの本質を外した、雰囲気優先の評価がされてきたフラガナンだが、この盤のパフォーマンスを聴いて判るように、フラガナンは筋金入りの「バップ・ピアニスト」。それも、モードとかファンキーに走らない、正真正銘ハードバップど真ん中のバップ・ピアニストである。
 
 

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2026年1月 8日 (木曜日)

イージーリスニング志向のケリー

さすがに、大手のレコード会社、ヴァーヴからのリリースである。メインのジャズ・バンドは、ケリー=ポルチェン=コブという、元マイルス・バンドの「名うて」のリズム・セクションに、アーバン、ジャジー、漆黒なギタリスト、ケニー・バレルが入るカルテット編成。しかし、そのバックに、こってりとストリングスが入り、砂糖菓子の様に甘いブラス・セクションが入る。明らかに、ジャズ・ファンを通り越して、一般向けのイージーリスニング志向である。

Wynton Kelly『Comin' In the Back Door』(写真左)。1963年5月&11月の録音。ヴァーヴ・レコードからのリリース。ちなみにパーソネルは、Wynton Kelly (p), Kenny Burrell (g :tracks 1, 3–6 & 8–11), Paul Chambers (b), Jimmy Cobb (ds)。このメイン・バンドのバックに、ブラス・セクションとストリングスが付く。ストリングスのアレンジは、クラウス・オガーマン。

ただ、こってりストリングスと甘いブラス・セクションに我慢しながら、メインのカルテットの演奏だけに集中して耳を傾けると、意外と素性の良い、ハードバップな演奏が繰り広げられているのが判る。主役のウィントン・ケリーのピアノが端正で安定の弾き回しを見せる。そして、彼のピアノの個性である「そこはかとなく、マイナーな影を宿しつつ、表向きには、ご機嫌にハッピー・スウィングするピアノ」が、しっかりとメインにある。
 

Wynton-kellycomin-in-the-back-door

 
バレルのアーバン・ジャジーなギターも、ポルチェン=コブのリズム隊も、良い味出している。バレルのギターは、ハッピー・スイングするケリーのピアノに呼応するように、バレルのギターは何時になくスインギー。職人芸である。ポルチェンのベースはしっかり音の底をガッチリ確保し、コブはストリングスとブラスをものともせず、しっかりとジャジーなリズム&ビートを供給する。

確かに、ケリーのピアノは、イージーリスニング志向を意識して、甘めのフレーズ、判り易いシンプル過ぎる弾き回しになっているところはあるが、端正で安定の「そこはかとなく、マイナーな影を宿しつつ、表向きには、ご機嫌にハッピー・スウィングするピアノ」は健在。この破綻の無い、意外とジャジーな、メインのクインテットの演奏だけを取ってみれば、意外と良いハードバップな演奏になっている。

この盤、マルチ・トラックで保存されているのであれば、ストリングスとブラス・セクションの演奏を取り払って、カルテットだけの演奏だけで、リイシューして欲しいくらい。よって、この盤、ストリングスとブラス・セクションのお陰で、ながら聴きにはまずまずの内容の普通盤止まり。残念である。
 
 

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2026年1月 7日 (水曜日)

”My Funny Valentine” 再聴です

昨日、アコースティック・マイルスの最高峰『Four & More』をご紹介したが、もう一枚、『Four & More』と同じ、NYのフィルハーモニック・ホールでの同一日のライヴ音源がある。実は、『Four & More』と今回、ご紹介するライヴ盤の二枚を併せて、アコースティック・マイルスの最高峰としている。

Miles Davis『My Funny Valentine: Miles Davis in Concert』(写真左)。1964年2月12日のライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Miles Davis (tp) George Coleman (ts) Herbie Hancock (p) Ron Carter (b) Tony Williams (ds)。60年代伝説のクインテットの一歩手前。まだ、テナーがウェイン・ショーターでは無い。ここでのテナーは、ジョージ・コールマン。

『Four & More』が、モーダルなハードバップなマイルス【動】だとすれば、『My Funny Valentine』は、バラードやスローなブルース中心の、リリカル&耽美的なマイルス【静】。この2枚の同一日のライヴ音源は併せて聴いてこそ、アコースティック・マイルスにおける、マイルスのバップ・トランペットの最高のパフォーマンスを体験することが出来る。
 

My-funny-valentine-miles-davis-in-concer

 
クールでセンシティブで、限りなく自由度が高くモーダル、とにかく繊細で耽美的なマイルス・バンドのパフォーマンスである。特に、マイルスのトランペットの個性のひとつ、ミュート・トランペットで奏でるバラード・プレイは絶品。この静的な、リリカル&耽美的な表現こそが、他の一流トランペッターと一線を画する、マイルス・トランペットの面目躍如たるところ。

ハービー=ロン=トニーの60年代黄金のリズム・セクションも、マイルス・サウンドの意図を明確に理解していて、マイルスのトランペットを素晴らしいバッキングで盛り上げる。とりわけ、ハービーのモーダルなピアノが、このバラードやスローなブルース中心の演奏の中で映えに映える。ロン=トニーは、スローなリズム&ビートをイマージネーション豊かに供給する。

優しく緩やかなバラードやスローなブルース中心の収録曲の構成ではありながら、それでも、ちょっとハードボイルドでハードバップでモーダルな演奏は、アコースティック・マイルスの面目躍如。ここまで、クールでヒップなモーダルな演奏を成立されたら、もうアコースティックではやることがないのでは、とマイルスに感服してしまう。そんな素晴らしいライヴ盤である。
 
 

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2026年1月 6日 (火曜日)

マイルスの ”Four & More” 再聴

このところ、マイルスについていろいろ考える機会があって、マイルスには、アコースティックの側面とエレクトリックの側面、と大きく分けて2つの側面があるが、アコースティック・マイルスの時代、アルバム・レベルでみて、ピークはどこだったんだろう、と、アコースティック・マイルスのアルバムを順に再聴をし始めた。

Miles Davis『Four & More』(写真左)。1964年2月12日のライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Miles Davis (tp) George Coleman (ts) Herbie Hancock (p) Ron Carter (b) Tony Williams (ds)。60年代伝説のクインテットの一歩手前。まだ、テナーがウェイン・ショーターでは無い。ここでのテナーは、ジョージ・コールマン。

僕はこのライヴ盤あたりが、アコースティック・マイルスのピークだったんじゃないかと睨んでいる。とにかく、マイルスのトランペットは「恰好良い」。テクニックも申し分無い、音の揺らぎや躊躇いは一切無い。エモーショナルでクールでヒップ。アドリブ・フレーズは、マイルスの個性全開、イマージネーション豊かで、ケレン味が無い。アコースティック時代のマイルスの吹奏として、最高レベルではないか、と感じている。
 

Fore_and_more_2

 
加えて、モード・ジャズに対する解釈が、明らかに「マイルス独自の、マイルス流のモード・ジャズ」が完成している。マイルス流のモード奏法が確立していて、自信に満ち満ちた、マイルス流のモーダルな展開が素晴らしい。ビ・バップ時代からアコースティック・ジャズを追求してきたマイルス。ハードバップからモードと奏法のトレンドが変遷する中で、先頭を切って走ってきたマイルス。この盤には、そんなマイルスのアコースティック・ジャズとしての最高到達点が記録されている。

マイルス・ジャズを完全理解していた、ハービー=ロン=トニーの60年代黄金のリズム・セクションに恵まれたことも大きい。このの60年代黄金のリズム・セクションは、マイルスを引きに引き立て、マイルスのトランペットを映えに映えさせる。マイルスにとって、最高のリズム・セクション。ちなみに、コールマンは、以前、マイルスの下にいたコルトレーンの代わり。それも、マイルス・ジャズを邪魔しないコルトレーン。

このマイルスが音楽監督も兼ねた、マイルス・バンドでのマイルスのパフォーマンスが、一番、マイルスらしくて恰好良いアコースティック・マイルスが記録されている様に思う。この後、マイルスは、音楽監督にウェイン・ショーターを迎え、マイルス流モードとはまた違った、ユニークなショーター流のモードに乗って、バップ・トランペットを楽しむことになる。マイルス流のモードに乗った、マイルスのバップ・トランペットは、この『Four & More』あたりが一番の聴きどころなんだと思う。
 
 

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2025年12月30日 (火曜日)

インド音楽+ジャズロックの融合

シャクティ(Shakti)は1970年代後半に活動した伝説のバンド。ジャズ・ロックとインドの伝統音楽を融合しているとてもユニークなバンドで、クロスオーバー・ギターの第一人者、ジョン・マクラフリンとインドのヴァイオリニスト、L. シャンカールが結成したバンド。

Shakti『Shakti with John McLaughlin』(写真左)。1975年7月5日、ロングアイランドの「Southampton College」でのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、John McLaughlin (g), L. Shankar (vln), Ramnad Raghavan (mridangam), T. H. Vinayakram (ghatam, mridangam), Zakir Hussain (tabla)。

ジョン・マクラフリン率いるユニット「シャクティ(Shakti)」名義の1975年7月の、サウス・ハンプトン大学でのライヴ録音作品。インド音楽のリズム&ビートに乗せて演奏する、その独特の個性溢れるクロスオーバー・ジャズは、唯一無二である。これぞ「クロスオーバー」であり、インド音楽とエレ・ジャズ、ジャズ・ロックとの融合が怪しくも美しい。

ムリダンガム(Mridangam)は、南インドの古典音楽(カルナータカ音楽)で使われる、両面を叩く木製の太鼓。ガタム(Ghatam)は、主にインド南部のカルナータカ音楽で使われる打楽器。鉄分を含む赤土で作られた素焼きの壺を、素手で叩くことによって音を出す。タブラ(Tabla)は、インド亜大陸発祥の二つ一組で演奏される伝統的な打楽器。
 
Shaktishakti-with-john-mclaughlin  
 
このムリダンガム、ガタム、タブラのインドの伝統的な打楽器群で、インド音楽の独特のリズム&ビートを叩きだしている。まず、これが癖になる。妖艶でかつアジアンな雰囲気が色濃いグルーヴが醸し出される。そのインド音楽独特のグルーヴの上を、マクラフリンのエレギと、L. シャンカールのヴァイオリンが、インド音楽独特の旋律をベースにインタープレイが繰り広げる。

このシャクティは、マハヴィシュヌ・オーケストラの初代解散後に結成され、1975年から1977年にかけて広範囲にツアーを行っている。僕はこのライブ盤を、大学近くの「秘密の喫茶店」で聴かせてもらった。

初めて聴いた時は衝撃だった。インド音楽がジャズ・ロックとが融合している。ジャズの懐ろの深さと広さを思い知った、最初の体験であった。この、インド=ジャズ・フュージョンのリズム&ビートは癖になる。そして、その上を飛翔するマクラフリンのギターと、L. シャンカールのヴァイオリン。今の耳で聴いても「衝撃」。そして、これも「ジャズ」である。

そして、マクラフリンのギター・テクニックの凄さに「驚愕」。インド音楽のリズム&ビートに乗って、唄うが如く、話が如く、流麗にエレギを弾きまくる。そのテクニックたるや、凄まじい限り。クラシックとの融合、ロックとの融合、そしてインド音楽との融合など、挑戦的ギタリストの最右翼、マクラフリンの面目躍如。ジャズの「融合の成果」の一つとして傾聴に値する好盤である。
 
 

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2025年12月29日 (月曜日)

ナット極上ファンキー・ジャズ

兄キャノンボール・アダレイのバンドにトランペット担当として所属していた、弟ナット・アダレイ。兄の影に隠れた様なイメージで、彼のトランペットはなかなか正当に評価されていない。しかし、である。ナットは、ソウル・ジャズの立役者の1人。ファンキー・ジャズについても、兄のキャノンボールと共に、ファンキー・ジャズの普及に貢献している。

Nat Adderley『Naturally!』(写真左)。1961年6月20日、7月19日の録音。ちなみにパーソネルは、1961年6月20日の録音が、Nat Adderley (cor), Joe Zawinul (p), Sam Jones (b), Louis Hayes (ds)。1961年7月19日の録音が、Nat Adderley (cor), Wynton Kelly (p), Paul Chambers (b), Philly Joe Jones (ds)。

ナット・アダレイがリーダーの素敵なファンキー・ジャズ盤である。2つのセッションに分かれて、パーソネルも異なるのだが、不思議なことに、違和感は無く、統一感がある。東海岸のメンバーで固められてはいるが、まるで、ウエストコースト・ジャズの様な、聴かせるアレンジで、流麗で聴き応え十分、味のあるファンキー・ジャズが展開されている。

まず、ナットのコルネットが良い。コルネットの音のエッジがラウンドした、ちょっとくすんだ様な音が、そこはかとなくファンキー&ブルージーな雰囲気を漂わせ、全体的にゆったり大らかな吹奏が、洒落たファンキー・ジャズ志向のサウンドの中で映えに映える。ワンホーン・カルテットなので、そんなナットのコルネットのサウンドが良く判る。
 
Nat-adderleynaturally  
 
2つのセッションはどちらも良い演奏。6月20日のセッションの方が、ナットの馴染みのメンバーでの演奏でオリジナル志向。カルテット全体が伸び伸びとポジティヴに演奏を重ねている雰囲気。やや荒削りの様に感じるが、それは勢いという言葉に代えて、バンド独特のファンキーなグルーヴを醸し出している。

7月19日の録音は、マイルス・バンドにも所属したハードバッパーの一流どころがリズム・セクションを務めている分、予定調和なファンキー・ジャズが展開されていて、流麗で洒落た演奏で安心感はあるが、スタンダード志向の演奏ということもあって、ちょっと手練感漂う演奏。良く出来た演奏ではあり、聴き心地は抜群。

ただ、ナットのコルネットが、2つのセッションを束ね、統一感を醸し出していて、2つのセッションのカップリングだからという違和感は無い。流麗で聴き応え十分、味のあるファンキー・ジャズがアルバム全体に展開されている。

この盤、聴けば聴くほど、極上のファンキー・ジャズ、ファンキー・ジャズの完成形のひとつと言っても良い位の内容だと僕は思うんだが、この盤は今まで地味な位置に甘んじている。

恐らく、兄キャノンボールの影に隠れた存在という印象と、ジャズ盤紹介本にあがらない、そして、なかなか、CDリイシューがされなかった、という負の要素が重なったのが原因なんだろう。しかし、聴けば聴くほど思う。この盤、ファンキー・ジャズの秀作として良いのではないか、と。
 
 

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