2026年5月 8日 (金曜日)

サンタナとアリスとのコラボ

この作品は、サンタナがインドの導師シュリ・チンモイに師事し「デヴァディップ(Devadip)」という霊名を受けた時期に制作されている。ジョン・コルトレーンの妻であり、自らも優れたピアニスト・ハープ奏者であるアリス(霊名トゥリヤ)との共演は、サンタナのキャリアにおいて最も瞑想的で、ジャズの即興演奏に深く踏み込んだものとなっている。

Carlos Santana,Alice Coltrane『Illuminations』(写真)。邦題「啓示」。1974年の作品。ちなみにパーソネルは、以下の通り。スピリチュアル・ロックの雄、カルロス・サンタナと、スピリチュアル・ジャズの歌姫、アリス・コルトレーンとのコラボレーション盤である。

Alice Coltrane (p, harp, Wurlitzer electric organ), Carlos Santana (el-g), Dave Holland, James Bond (b), Jack DeJohnette (ds, perc), Tom Coster (el-p, Hammond B-3 organ), Jules Broussard (ss, alto-fl), Phil Brown (tanpura), Armando Peraza (ds, congas), Phil Ford (tablas)。ここに、アリス・コルトレーンがアレンジ&指揮を担当するストリングス・セクションがバックに入る。

アリスによる壮大なストリングス・アレンジとハープ、サンタナの官能的なギターが溶け合い、東洋的な響きと宇宙的な広がりを持っている。アルバムは、シュリ・チンモイによる短いモノローグから始まり、瞑想的な前半から激しい即興演奏の後半へと展開する。そう、この冒頭の「Guru Sri Chinmoy Aphorism(スリ・チンモイの教え」の1分11秒に怯んではいけない(笑)。
 

Carlos-santanaalice-coltraneillumination

 
オーケストラによる「静」。前半の「Angel of Air」や「Angel of Water」では、アリスが編曲・指揮した壮大なストリングス・オーケストラが導入されている。サンタナのギターは音数が極めて少なく、フィードバック音やサステインを活かしたアンビエントな響きで、背景のハープや弦楽器と溶け合っている。

フリージャズの「動」。 中盤の「Angel of Sunlight」は約14分に及ぶ大作で、ジャック・ディジョネットの激しいドラミングとデイヴ・ホランドのベースが牽引する、ジョン・コルトレーン後期のスタイルに近いアグレッシブなフリージャズを展開されていて見事。

この瞑想的な「静」と、フリージャズ的な「動」の対比が鮮明なのが、この盤の個性だろう。ウーリッツァー・オルガンの音色も特徴的。アリス・コルトレーンがピアノやハープだけでなく、歪んだ音色のオルガンを弾くことで、宇宙的な広がりを加えている。サンタナのエレギは、「弾かない」勇気とロングサステイン、クリーンと歪みの使い分け、フィードバックを「楽器」として操り、スピリチュアルな「叫び」を表現する。

当時の商業的な成功には恵まれなかったが、現在では「スピリチュアル・ジャズの隠れた名盤」として高く評価されている。サンタナの2面性、ラテン・ロックとスピリチュアル・ロック、このスピリチュアル・ロックの個性が、アリス・コルトレーン独特のスピリチュアル・ジャズと融合して、唯一無二の、他に類を見ない、ロックとジャズが融合した「スピリチュアル・ジャズ」を生み出している。
 
 

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2026年5月 7日 (木曜日)

アリスのスピリチュアルを見直す

アリス・コルトレーンが、インパルスからワーナー・ブラザース・レコードへ移籍した第一弾として1976年に発表した、スピリチュアル・ジャズの金字塔的作品である。オーケストラからトリオまで多彩な編成で、アリス・コルトレーン独自のスピリチュアル・ジャズを創出している。

Alice Coltrane『Eternity』(写真左)。邦題「永遠なる愛」。1975年8月13日〜10月15日の録音。ちなみにパーソネルは、核となるリズム・セクションは、Alice Coltrane (org, harp, el-p, tambura), Charlie Haden (b), Ben Riley (ds), Armando Peraza (congas)。主なゲストは、Hubert Laws (fl), Jerome Richardson(ss, alto-fl, Ernie Watts (english-horn), Oscar Brashear (tp), George Bohanon(tb)など。

演奏のアレンジが彼女独特なところがあって、スピリチュアル・ジャズとは言っても、精神性を楽器の吹き上げ、嘶きに託すような、一種、社会性を孕んだ、フリー・ジャズの延長線上のスピリチュアル・ジャズではなく、精神面を前面に押し出した、精神性を楽器それぞれの響きに託す、そんな一種、宗教性を孕んだ、限りなく自由度の高いモード・ジャズの延長線上にある、精神性の高いスピリチュアル・ジャズである。

振り返ってみると、アリスの様な精神性、宗教性の高いスピリチュアル・ジャズは、他に無かった様な気がする。

音の傾向からすると、ECMレコードの「ニュー・ジャズ」に親和性が高いが、アリスのスピリチュアル・ジャズは、ブラック・ミュージックの音要素が濃い。ECMのスピリチュアル・ジャズは、欧州のレーベルだけ合って、ブラック・ミュージックの音要素は皆無。音の裏に潜む宗教性についても、アリスはあくまで「米国」、ECMはあくまで「欧州」である。
 

Alice-coltraneeternity

 
このアルバムには、そんなアリス・コルトレーン印のスピリチュアル・ジャズの代表的演奏がギッシリ詰まっている。亡き夫ジョン・コルトレーンへの愛を捧げた作品とされ、ハープ、オルガン、さらにはインドの伝統楽器やストリングスを駆使した壮大なサウンドが特徴。ハープやオルガンを演奏するだけでなく、管弦楽団を含む大規模な編成を指揮した野心作で、アレンジも演奏もそのレベルは高く、アリスのスピリチュアル・ジャズの代表作の一枚と言って良いと思う。

印象的な曲としては、4曲目の「Om Supreme」では、6人の男女混声合唱団が加わり、ヒンドゥー教の聖歌(バジャン)をテーマにした幻想的なサウンドを創出、ラストの6曲目「Spring Rounds」は、ストラヴィンスキーの『春の祭典』を引用した曲で、大規模なブラス・セクションとストリングス(バイオリン、ヴィオラ、チェロなど計12名以上)が導入されていて、壮大なスピリチュアル・ジャズが展開されている。

本作が録音された1975年から1976年にかけて、アリスは生涯最大の転換期を迎えており、「俗世を離れ、ヒンドゥー教の修行者(スワミ)として生きる」という啓示のもと、宗教家として「出家」を果たしている。この宗教家としての「出家」が、今までのフリー・ジャズ的展開の中に潜んでいた「宗教性」が、より具体的で崇高な「祈り」の形として表出した結果が、このアルバムに色濃く反映されている様に思う。

今まで、どうも、ジョン・コルトレーンと演奏を共にしていた頃のスピリチュアル・ジャズの印象が、自分の頭の中に色濃く残っていて、今まで、アリスのスピリチュアル・ジャズはちょっと敬遠していたのだが、今回、このアルバムをひょんなことから聴いてみて、最初の印象が「これ、プログレッシヴ・ロックに近いやん」。

精神性、宗教性が色濃く、基本的にブラック・ミュージックとジャズに軸足をしっかり残してはいるが、基本的に統制の取れた、しっかりとコントロールされたスピリチュアル・ジャズだと思う。
 
 

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2025年11月28日 (金曜日)

藤井郷子カルテットを聴き込む

「ジャズ・ピアニスト、山下洋輔、年内で演奏活動一時休止 休養へ」のニュースが流れて、案漠たる気持ちに包まれている。山下洋輔さんの諸作は、ジャズを本格的に聴き始めた頃から、頑張って耳にしてきた。この時、我が国のフリー・ジャズって、かなりレベルが高く、個性が突出している。日本のフリー・ジャズについては、時々ではあるが、しっかりと聴きこんでいる。

藤井郷子カルテット『Dog Days of Summer』(写真左)。2024年4月8日、東京 小岩での録音。ちなみにパーソネルは、藤井郷子 (p), 田村夏樹 (tp), 早川岳晴 (el-b), 吉田達也 (ds)。我が国のフリー&スピリチュアル・ジャズの鬼才、藤井鄕子の疾風怒濤、豪放磊落な、フリー&スピリチュアルなコンテンポラリー・ジャズのカルテット盤である。

それそれの楽器の切れ味が抜群。切れ味良く、鮮明で美しい、躍動感溢れるトランペット。切れ味良く、パーカッシヴに流麗に、不協和音を織り交ぜつつ、耽美的にリリカルにダイナミックにスピリチュアルに弾きまくるピアノ。切れ味良く、ソリッドな重低音ベースで、自由度溢れるパフォーマンスの底を支えるエレベ、そして、気味良く、演奏のリズム&ビートを、変幻自在、硬軟自在、緩急自在にを支えるドラム。切れ味の良い楽器が有機的に結合し、有機的にインタープレイを繰り広げる。
 

Dog-days-of-summer

 
トランペット、ベース、ドラムが、まるでファンファーレのようにアルバムの火蓋を切る幕開けから、バンド全体、強烈な一体感を持って、コンテンポラリーなメインストリーム・ジャズよろしく疾走する。バラードチックにチェンジ・オブ・ペースをすると、バンド全体、スピリチュアルで耽美的でリリカルなパフォーマンスを展開する。変幻自在。そして、アドリブ展開では、ところどころ、フリーに展開し、時にパーカッシヴに、時にスピリチュアルに、音の響きを使い分ける。

このカルテットのスピリチュアルなグルーヴは独特のもので、実に個性的。どこか、プログレッシヴ・ロック的なところもあるし、どこか、耽美的でリリカルなニュー・ジャズ的な響きもする。この即興演奏をベースとするスピリチュアルなグルーヴは、米国や甥州には無い個性的なもの。このグルーヴを堪能するだけでも、この盤を体験する意義がある。

実に個性的な音世界である。我が国を代表する、コンテンポラリーで、フリーで、スピリチュアルなジャズとして、この藤井郷子カルテットの音世界は隅に置けない。ジャズ、ロック、パンク、プログレ・・・ジャンルの垣根を越えた、コンテンポラリーで、フリーで、スピリチュアルな融合音楽。自由でありキャッチーであり規律溢れる現代のコンテンポラリー・ジャズの「今」を感じる事の出来る傑作だと思う。
 
 

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2025年11月14日 (金曜日)

山下洋輔トリオ”Dancing 古事記”

山下洋輔トリオが早稲田大学本部のバリケードの中で演奏する「バリケードの中のジャズ」という、当時のテレビの企画での演奏を録音したもの。学園紛争という「取り巻く時代」の話は全く抜きにして、純粋に、当時の「山下洋輔トリオ」のパフォーマンスのみをここでは語りたい。

山下洋輔トリオ『Dancing 古事記』。1969年7月「早稲田大学本部キャンパス8号館B1F」での録音。ちなみにパーソネルは、山下洋輔 (p), 中村誠一 (ts, ss), 森山威男 (ds), 彦由常宏 (演説 on trk.1) 。記念すべき「山下トリオ」のデビュー作。1971年、麿赤児と立松和平の自主制作LPとして発売。

冒頭、学園紛争名物「アジテーション」。今の人達にはなんだこれ、だろう。僕達には懐かしい響き。こういうアジテーションが学園紛争で前面に立っていた「闘士」達の主張のスタイルだった。で、続いて「テーマ」に弾き継がれる。ここからが、山下洋輔トリオの真骨頂。のっけから、山下トリオは疾走する。

山下洋輔のピアノは、いきなり「全力疾走」。凄まじいパワー、凄まじい指回し。緩み無く、拠れも無い。正確無比にフリーで創造的なフレーズを、全力疾走で弾きまくる。それに絡む森山威男の、これまた凄まじいドラミング。山下と森山のフリーでありながら整然としたインタープレイの中、中村誠一のサックスが乱入参戦。3者混然一体となった、凄まじい、フリーでありながら整然とした、即興演奏インタープレイが暴風雨の様に吹き荒れる。
 
Dancing  
 
続いて「木喰(もくじき)」。出だしのスピリチュアルで耽美的な、ゆったりとしたフレーズが美しい。そして、徐々に、山下トリオの真骨頂、3者混然一体となった、凄まじい、フリーでありながら整然とした、即興演奏インタープレイの音世界に突入していく。このアドリブ・フレーズの嵐における「イマージネーションの豊かさ」は特筆に値する。

無手勝流に、気の向くままに即興演奏インタープレイをしているのでは無い。しっかり、理路整然とイマージネーションを広げ、それをフリーな音に落とし込んで、即興インタープレイに展開する。フリーの演奏とはいえ、その演奏展開は「理知的」。そこが良い。

それと、以前からこれは強く感じているが、トリオを形成する3人のジャズマン。演奏力が半端ない。テクニック、歌心、正確さ、どれをとっても超一流の演奏力。この半端ない演奏力が、理知的で理路整然とした、フリーな即興インタープレイを可能としている。そして、この理知的で理路整然とした、フリーな即興インタープレイこそが、山下洋輔トリオの唯一無二の個性なのだ。

「ジャズ・ピアニスト、山下洋輔、年内で演奏活動一時休止 休養へ」のニュースが流れて、案漠たる気持ちに包まれている。報告文の最後に「長年にわたる山下洋輔へのご注目・応援、ありがとうございました」と書かれているのが気になる。そして、思わず、山下洋輔のパフォーマンス、和フリー&スピリチュアルな音世界を聴き直してみたくなった。その第一弾が、この『Dancing 古事記』であった。名盤である。
 
 

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2025年11月13日 (木曜日)

スピリチュアルな ”自画像” 盤

「ジャズ・ピアニスト、山下洋輔、年内で演奏活動一時休止 休養へ」のニュースが流れて、思わず「えっ」。最近、山下洋輔さんの話題を聞かないなあ、元気されてるのかなあ、とちょっと心配していたんだが、案の定である。報告文の最後に「長年にわたる山下洋輔へのご注目・応援、ありがとうございました」と書かれているのが気になるが。

ということで、我が国のフリー&スピリチュアル・ジャズを聴かねば、という想いに駆られ、昨日から、我が国のフリー&スピリチュアル・ジャズの名盤&好盤を選盤し、順番に聴き直している最中である。

鈴木勲『自画像』(写真左)。1980年の作品。Paddle Wheelからのリリース。ちなみにパーソネルは、鈴木勲(b, 他)。アルバムの宣伝文句を借りると「ウッドベース、ハモンドオルガン、ヴォコーダー、大正琴、二胡といった多種多様な楽器と自身のボーカルを、多重録音を駆使して重ね合わせ、たった一人の手で作り上げられた作品」。当時として、相当な「異色作、問題作」であろう。

特注のピッコロ・ベース、ウッド・ベース、ハモンド・オルガン、スピネット、ボコーダー、スキャット、大正琴、中国の二胡(胡弓)、風の音などを一人で多重録音した、フリー&スピリチュアル・ジャズな内容の秀作。多重録音として、実際の録音時には苦労しただろう、と思われる、多重録音でありながら、ジャズの「キモ」である、即興演奏な雰囲気を損なっていないところが凄い。
 
Photo_20251113202501  
 
20種類以上の楽器を繰って多重録音.歌までうたう、しかも、その内容は、当時として最先端の「フリー&スピリチュアル・ジャズ」。ジャズ者の間で賛否両論渦巻いたのは想像に難くない。当時の「ジャズの範疇」から大きく外れていたのだから仕方の無いことだが、今の耳で聴くと、意外と内容的に整った、創造性溢れる、コンテンポラリーな「スピリチュアル・ジャズ」に聴こえるから不思議だ。

当時のジャズの語法を全く無視した、官能的で感覚的で印象的な、多重録音による即興演奏。その響きはまさに「スピリチュアル」。フリーな展開もあるにはあるが、さすがに多重録音なので、完全フリーな展開は抑制されている。その分、ボコーダーやスキャット、そして、ハモンドオルガンを活用して、スピリチュアルな音要素を増強している。これが巧妙。これが、この異色作を「和スピリチュアル」な名盤たらしめている。

決して、アブストラクトでも、ストレンジでも無い。しっかりと、理路整然とフリー&スピリチュアル・ジャズしている。とにかく、様々な楽器の使い方が上手い。そして、その様々な楽器をしっかり統率し、一体とさせているのが、鈴木勲のベース。超弩級の重低音を鳴り響かせながら、スピリチュアルなリズム&ビートを弾き出している、

作曲、演奏のみならずジャケットアートワーク、ライナーノーツに至るまでを自身で手がけた、名実共に「自画像」な作品。ジャズというジャンルの中で、米国にも欧州にも無い、唯一無二な音世界。我が国のジャズ・シーン発信の、フリー&スピリチュアル・ジャズの名盤として良いと思う。
 
 

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2025年11月 6日 (木曜日)

ジャス喫茶で流したい・305

僕が本格的にジャズを聴き始めたのが1978年。そして、その翌年、このアルバムを聴いた時、その時点での、その時代での日本のジャズは、世界のジャズに比肩するレベルにあることを初めて確信した。我が国の音楽は、西洋、欧州や米国の後塵を拝してきたイメージがあったが、ジャズは違う。そう感じさせてくれたアルバムがこれだった。

富樫雅彦 & 鈴木勲『陽光』(写真左)。1979年2月1-3日、東京での録音。ちなみにパーソネルは、富樫雅彦 (ds, perc, synth, solina), 鈴木勲( b, piccolo-b, cello, p, solina)。我が国の純ジャズ系ドラマーの鬼才レジェンド、富樫雅彦と、我が国のジャズ・ベーシストのレジェンド、鈴木勲とのデュオ盤。

富樫雅彦は本職はドラム、鈴木勲は本職はベース。ドラムとベースのデュオか。ちょっと地味な感じがして、聴いていて飽きなければ良いが、と思いつつ、レコードの針を落としたら、ほど無くピアノの音が滑り込んできたので、あれ、ドラムとベースのデュオじゃなかったか、とパーソネルを見ると、富樫がシンセサイザーを、鈴木がピアノとシンセサイザーを弾いていて、の多重録音。
 

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演奏の基本は、フリー〜スピリチュアル・ジャズ。フリーの部分は、米国東海岸の様な、激情に身を預けて、心の赴くまま、無勝手流に弾き散らすのでは無く、現代音楽のエッセンスを融合した、広がりと間を活かした即興演奏をベースとした、独特のフリー・ジャズ。演奏全体の透明度と間の静謐度の濃い演奏は、欧州のECMレコードに通じる、レベルの高いものだった。

理路整然としたフリーな演奏、その透明度の高さ、間の静謐度の高さは、和ジャズ独特の「侘び寂び」を基本とした、スピリチュアル・ジャズを表現している。リズム&ビートは即興をベースとしていて、この辺りは、ECMレコードの「ニュー・ジャズ」を展開を踏襲している様に感じるが、音の暖かさとカラフルさは、和ジャズ独特の「ニュー・ジャズ」である。

冒頭の「A Day Of The Sun」。シンセとピアノのイントロからサンバ・ビートに展開するスピリチュアル・ナンバー。このタイトル曲に代表される様に、この盤には、我が国独特のフリー〜スピリチュアル・ジャズが詰まっている。1979年度・スイング・ジャーナル誌ジャズ・ディスク大賞受賞作品。この大賞受賞は納得。世界のジャズに比肩する、アーティスティックな、ニュー・ジャズ志向のフリー〜スピリチュアル・ジャズでした。和ジャズの名盤の1枚でしょう。
 
 

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2025年10月25日 (土曜日)

BNのスピリチュアル盤の秀作『Eddie Gale's Ghetto Music』

4200番台も終盤にきて、いよいよ、売上最優先、大衆に訴求するイージーリスニング・ジャズに手を染め出したブルーノート。

大手のリバティーに買収され、総帥プロデューサーのアルフレッド・ライオンも引退し、いよいよ、ジャズの歴史の、ジャズのトレンドの番人の様な存在だったブルーノートも終わりかな、と思っていたら、こんな硬派な純ジャズ志向のアルバムを出したりするから、隅に置けない。

『Eddie Gale's Ghetto Music』(写真左)。ブルーノートの4294番。1968年9月20日の録音。ちなみにパーソネルは、Eddie Gale (tp, kalimba, steel drum, bird whistle), Russell Lyle (ts, fl), Jo Ann Gale Stevens (g, vo), James "Tokio" Reid, Judah Samuel (b), Richard Hackett, Thomas Holman (ds)。ここに、11声の合唱団が加わる。

米国のトランペット奏者、エディ・ゲイルのデビュー作になる。エディ・ゲイルは、セシル・テイラーとの共演、サン・ラ・オーケストラでのフリージャズでの活動で知られたトランペット奏者。ゲイルの基本的な演奏スタイルは、フリー&スピリチュアル。

このアルバムに詰まっているジャズは、1960年代の新しいジャズとゴスペル、ソウル、ブルースをシームレスに融合、フリー・ジャズ、R&B、ワールド・ミュージック的要素が混在する驚異のスピリチュアル・ジャズ。しかし、非常に聴きやすい作品で、旋律、メロディー、ハーモニーはしっかりと保たれている。
 

Eddie-gales-ghetto-music

 
フロント管の相方にラッセル・ライルのサックス&フルートを従えた2管フロント。加えて、ダブル・ベースにダブル・ドラム、そして11声のバックコーラスを配した、迫力のスピリチュアル・ジャズである。

無勝手流の、自由気ままに吹きまくるフリーな吹奏は無く、洗練されたポリリズムと分厚いコーラスをバックに、現代音楽的なフリーな響きとスピリチュアルな響きが全体を支配する。

「Fulton Street」では、アフリカの民族音楽とラテンジャズの美しい旋律が見え隠れ、「A Walk with Thee」は行進曲のテンポで書かれたスピリチュアル・ジャズ。リズム&ビートは互いに対位法で叩きまくり、フロントラインは東洋的なハーモニー感覚を通して伸びやかなメロディーラインを奏でる。

最後の「The Coming of Gwilu」は、ジャマイカンなカリン場の音色、アーケストラ風の高揚するボーカル、ポリリズミックなリズム&ビートで、新しいスピリチュアル・ジャズの響きを表現している。

米国の都市部でアフリカン・アメリカンの貧困層が形成する「ゲットー(Ghetto)社会」をテーマとしている「政治的意図」を明確にしたアルバムだが、小難しいところは微塵も無い。

そんな「Ghetto Music」をコンセプトにブラック・パワーを表現している異色盤である。しかし、ブルーノートのカタログの中でも最も知られていないアルバムの一つでもある。ただし、内容は良い。1960年代後半のスピリチュアル・ジャズの秀作の一枚だろう。
 
 

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2025年10月20日 (月曜日)

BNの「オーネットの不思議盤」『New York Is Now!』

オーネットは、コンテンポラリー・レコードでの『Something Else!!!!』から始まり、アトランティック・レコードに移籍して『The Shape of Jazz to Come』をリリース、その後、5枚のリーダー作をリリースした後、突然、1966年に、コロンビア・レコードから『Chappaqua Suite』を突然リリース。そして、1966年から1971年にかけて、3枚のリーダー作をブルーノートからリリースしている。そんな3枚の中の一枚がこの盤。

Ornette Coleman『New York Is Now!』(写真左)。1968年4月29日、5月7日の録音。ブルーノートの4287番。ちなみにパーソネルは、Ornette Coleman (as, vln, tp), Mel Fuhrman (vo), Jimmy Garrison (b), Elvin Jones (ds), Dewey Redman (ts)。

オーネットのブルーノートからの2枚目のリーダー作になるが、オーネットが、元コルトレーン・カルテットのリズム隊、ギャリソンのベース、エルヴィンのドラムと組んだ、「不思議で面白い内容」のモード&フリー・ジャズ盤。

プロデューサーが、設立者&総帥プロデューサーであったアルフレッド・ライオンでは無く、後を引き着いたフランシス・ウルフなのが象徴的。オーネットがどうやって、この音のコンセプトを提案したのか、若しくは了解したのかは判らないが、オーネットのリーダー作の中では、異質な、ちょっと不思議な盤である。

「あれをやっちゃ駄目、これをやっちゃ駄目は、ジャズの自由度を狭める。なんでもかんでもやってみよう」というのが、真のジャズである」というのがオーネットの考え方なんだろうが、前作では、当時10歳の息子デナード・コールマンをドラマーに採用するという「暴挙」でちょっとスベったので、このアルバムでは、リズム隊を完全強化している。なんと、元コルトレーン・カルテットのリズム隊を持って来て、そこで「オーネットの考えるフリー・ジャズ」を展開する、という寸法。
 

Ornette-colemannew-york-is-now

 
加えて、コルトレーン・フォロワーの第一人者の1人、デューイ・レッドマンのテナーを持って来て、老舗ジャズ・レーベルのブルーノートで、「オーネットの考えるフリー・ジャズ」をやろうとしたら、どこか、モーダルな響きのするフリー・ジャズというか、限りなくフリーに近いモード・ジャズ風の演奏に落ち着いてしまった、そんな偶然性を感じる、このアルバムの内容である。

このアルバムには、1950年代の「オーネットに対する新鮮な驚き」は無い。音は明らかにオーネットの音。冒頭の「The Garden of Souls」の最初の自由度の高いフレーズを聴いただけでオーネットと判る音世界なんだが、フリーな即興演奏を求めているにも関わらず、どこか理路整然とした、完全即興では無い、限りなく自由度の高い、オーネット流のモーダルなジャズが展開されている様なイメージ。

どう聴いても、オーネットの考えるフリー・ジャズは伝わってこなくて、レッドマン参加の影響も大きかったのか、この盤では「オーネットの考えるコルトレーンのフリー・ジャズ」を追求している様に感じる。逆に、そう解釈した方が判り易い、上質かつ真摯な「オーネットの考えるコルトレーンのフリー・ジャズ」を、オーネットは、やっているように聴こえる。

フリー・ジャズ系のサックス奏者としての成熟、円熟をみたオーネットのリーダー作。モード時々フリーなジャズで、フリーな部分はオーネット流のフリー・ジャズの響きはするが、演奏全体の雰囲気は限りなく自由度の高い、オーネット流モード・ジャズ風。そういう意味で、このオーネットのブルーノート第二弾は「不思議で面白い内容」のモード&フリー・ジャズ盤に仕上がっている。

つまりは、コルトレーン・フォロワーのレッドマン、ギャリソン、エルヴィンは、オーネットの考えるフリー・ジャズに染まらなかった、逆に、オーネットが、コルトレーンにはこういうフリー・ジャズをやって欲しかったという、レッドマン、ギャリソン、エルヴィンらの想いにオーネットが寄り添った、「オーネットの考えるコルトレーンのフリー・ジャズ」、そんな雰囲気がするのがこのアルバム。解釈が悩ましい異色盤です。
 
 

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2025年10月12日 (日曜日)

フリー・ジャズな”ソウル・ジャズ”『’Bout Soul』

とにかく、聴き始めてビックリ、椅子から転げ落ちる。オルガン・ジャズに代表されるノリの良いソウル・ジャズを想起していたら、絶対に怪我をします(笑)。確かに、マクリーンは正統派ハードバップから、モードに染まり、フリーにチャレンジする「挑戦し変化するジャズマン」でしたが、ここで、いきなり、フリー・ジャズを持ってくるとは。恐れ入りました。脱帽です。

Jackie McLean『’Bout Soul』(写真左)。1967年9月8日の録音。ブルーノートの4284番。ちなみにパーソネルは、Jackie McLean (as), Woody Shaw (tp), Grachan Moncur III (tb), Lamont Johnson (p), Scott Holt (b), Rashied Ali (ds), Barbara Simmons (recitation)。マクリーンのアルト・サックス、ショウのトランペット、モンカー3世のトロンボーンの3管フロントのセクステット編成。そして、なんと、そこに女性の朗読が付く。

タイトルが直訳すると「ソウルについて」なので、しかも、ジャケットの妙齢の黒人女性ときてるので、このアルバム、聴く前は、マクリーン流の直球勝負の硬派なソウル・ジャズかと思いきや、冒頭、ゴスペル的雰囲気で、女性の朗読「ソウルソウルソウル・・・」が出てきてビックリ。もしかして、ゴスペルチックな「ラップ」メインのジャズかと身構えたら、高速パルシヴ・ドラミングに乗って、ドバ〜っと、フリー・ジャズへなだれ込んでいく。

アルバムの内容としては、1960年代後半のジャズのスタイル(ソウル、アヴァンギャルド、フリー、モードなど)が混在した実験的な作品。
 

Jackie-mcleanbout-soul

 
特に、アルバムの冒頭には、バーバラ・シモンズによる「ソウル」の意味を語る詩の朗読が収録されているところが象徴的。つまり、ソウル・ジャズといえば「魂の叫び」、よって、メインは「フリー&アヴァンギャルド」ジャズで、スピリチュアルに攻めるのが筋だろう、という感じなんだろうな、と。

フリー&アヴァンギャルドがメインとくれば、フロント楽器の力量が問われる訳だが、フロントは、マクリーンのアルト・サックス、ショウのトランペット、モンカー3世のトロンボーン、と、フリー&アヴァンギャルドをやらせて一流、ハードバップ&モードをやらせても一流の申し分無いフロント3管なので、モードから入って、いきなりフリー&アヴァンギャルドに流れ込む展開も、安心して、彼らの音に身を任せることができる。リズム隊もラシッド・アリのパルシヴなドラミングが「肝」で安定感がある。

ソウル・ジャズみたいなタイトルだが、実は中身はフリー&アヴァンギャルドがメイン、という問題作で、ジャズ者の方々の間でも好き嫌いが分かれる思う。でも、不思議と聴き易いフリー&アヴァンギャルドで、これはフレーズのところどころにモーダルなフレーズやソウルフルなフレーズが見え隠れするからだろう。この辺りが、マクリーンのフリー&アヴァンギャルド・ジャズの面白いところ。

そう言えば、マクリーンのノリの良い、大衆に受けするソウル・ジャズなんて聴いたことがなかったなあ。ということで、この時代での、フリー&アヴァンギャルドがメインのソウル・ジャズ、というのはマクリーンの「必然」だったのだろう。
 
 

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2025年9月14日 (日曜日)

ジャズ喫茶で流したい・296『Contrasts』

1966年、アルフレッド・ライオンはブルーノートを米リバティー社に売却し、経営から退く。しかし、プロデュースは継続。大手リバティーの傘下に入り、純ジャズ度、モダン・ジャズ度を落とすこと無く、大衆受けする「売れる」ジャズ盤をリリースする傍ら、大衆受けしない、アーティスティック志向の硬派なモード・ジャズやフリー・ジャズの優れた内容のアルバムもリリースし続けた。このアルバムを聴けば、その一端、ブルーノートの矜持が良く判る。

Larry Young『Contrasts』(写真左)。1967年9月18日の録音。ブルーノートの4266番。ちなみにパーソネルは、Larry Young (org), Hank White (flh), Herbert Morgan, Tyrone Washington (ts), Eddie Wright (g), Eddie Gladden (ds), Stacey Edwards (congas), Althea Young (vo)。

リーダーのラリー・ヤングのオルガン、フロント管が、ホワイトのフリューゲルホーン、モーガン、ワシントンのテナー・サックス、そして、グラッデンのドラム、エドワードのコンガのセクステット編成。ボーカルが1曲だけ入る。これまでのリーダー作には無かった、大編成コンボが本作の特徴。
 

Larry-youngcontrasts

 
特に、コンガが入った3曲が特にユニーク。演奏全体がリズミックなビートで覆われる「Majestic Soul」、モード&フリー・ジャズ志向のボサノバ・グルーヴが印象的な「Evening」、フリーな演奏の中にスピリチュアルな響きのする「Means Happiness」。これは、後世に継がれる、先進的なオルガンがメインのモード&フリー・ジャズ。この真髄は、1990年代以降、純ジャズ復古以降、次の世代のジャズ・オルガニストに弾き継がれていく。

コンガ抜きの3曲も、ヤング・オリジナルのオルガン・モード&フリー・ジャズで、聴き応え十分、様々な音の展開に聴いていてワクワクする。オルガンとドラムの攻撃的なデュオ「Major Affair」、ヤングの妻アルテアのボーカルが素敵なバラード曲「Wild Is the Wind」、そして、軽快なバンド・アンサンブルが楽しいTender Feelings」。ラリー・ヤングのモード&フリー・ジャズの懐の深さと応用力の高さが窺い知れる、グッドな演奏ばかり。

オルガンがメインの、硬派で先進的な、モード・ジャズ、そして、フリー・ジャズ。大編成コンボでのモード&フリー・ジャズは、当時のコルトレーン・ジャズを彷彿とさせるが、コルトレーン・ジャズとは一線を画する、ラリー・ヤングのオリジナルのモード&フリー・ジャズ。オルガン・ジャズの革命児、ラリー・ヤングの面目躍如である。
 
 

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