2024年8月 1日 (木曜日)

素敵なジョン・ルイス楽曲集です

伊ジャズの至宝、欧州ジャズ・ピアニストの第一人者、エンリコ・ピエラヌンツィ(Enrico Pieranunzi)がオーケストラと共演したアルバムがもう一つ。長年共演関係を続けてきた、ルカ・ブルガレッリ、マウロ・ベッジョとのトリオで、イタリアの室内管弦楽団、オルケストラ・フィラルモニカ・イタリアーナとのコラボレーションである。

Enrico Pieranunzi Trio & Orchestra『Blues & Bach - The Music of John Lewis』(写真)。2021年9月16, 17日、イタリアの「Cavalli Musica Auditorium In Castrezzato」での録音。改めて、パーソネルは、Enrico Pieranunzi (p), Luca Bulgarelli (b), Mauro Beggio (ds), Michele Corcella (arr, cond) and Orchestra Filarmonica Italiana。

ジャズとクラシックの融合を真摯に追求した、MJQのリーダーでもあった「ジョン・ルイス」のトリビュート盤。ジョン・ルイスの決定的アレンジと弾き回しで有名な、ヴァーノン・デュークの「Autumn in New York(ニューヨークの秋)」以外、残り7曲はジョン・ルイス作曲の優秀曲をチョイスしている。

冒頭のジョン・ルイスの名曲「Skating in Central Park」から始まる。聴いていて涙腺が緩むほどに僕はこの曲が大好きなんだが、まず、ピエラヌンツィ・トリオの演奏が秀逸。

ピエラヌンツィのリリカルで耽美的なバップ・ピアノによる、この曲の持つ美しい旋律の流れ。そこに印象的に絡むルカ・ブルガレッリのベース。リズム&ビートを効果的にサポートするマウロ・ベッジョのドラム。このトリオの演奏だけでも、十分に「聴かせる」。
 

Enrico-pieranunzi-trio-orchestrablues-ba

 
そこに、曲の持つ旋律、トリオのアドリブ・ブレーズを効果的に「映え」させるオーケストラの調べ。最初は、これ、トリオ演奏だけで十分やん、と感じるのだが、オーケストラのサポートが入ると、ジャズとクラシックの融合を真摯に追求したジョン・ルイスの「クラシック」志向の部分がくっきり浮かび上がってくる。オーケストラのサポートの存在に納得する。

2曲目の「Spanish Steps」以降、ピエラヌンツィ・トリオの優れた演奏と、それを効果的にサポートするオーケストラのバッキングが素晴らしいパフォーマンスが続く。

特に、3曲目「Vendome」や6曲目「Concorde」でのトリオとオーケストラによる対位法のアレンジや、5曲目「Django」のクラシック志向のアレンジなどは圧巻である。しかも、このクラシック志向の楽曲のジャジーな部分を引き出して、トリオ演奏で表現するピエラヌンツィ・トリオの見事な展開は聴き応え十分。

そして、4曲目「Autumn in New York」における、ジョン・ルイスの決定的アレンジのオーケストラによる再現は見事。そこにピエラヌンツィのリリカルで耽美的なバップ・ピアノが、「ニューヨークの秋」の美しい旋律をシンプルにリリカルに唄い上げる。

僕はジョン・ルイスの、クラシック志向が見え隠れする、ジャジーでブルージーな自作曲が大好きなんだが、このピエラヌンツィ・トリオとオーケストラは、そんなジョン・ルイスの楽曲に素敵なアレンジを施し、ジョン・ルイスの楽曲の持つ、クラシック志向の部分、ジャジーでブルージーな部分をそれぞれ、効果的に浮き立たせ、演奏映えさせている。

ジョン・ルイスのトリビュート盤として、申し分ない内容。ピアノ・トリオ+オーケストラの傑作盤です。
 
 

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2024年7月31日 (水曜日)

ピアノ + ペット + ビッグバンド

ここ2〜3年、エンリコ・ピエラヌンツィ(Enrico Pieranunzi)が元気である。自らのリーダー作から、共演作含めて、「毎月、何かしらのアルバムをリリースしている」印象の多作ぶりである。

1949年12月5日、ローマでの生まれなので、 現在、年齢 74歳。もうベテランの域を超えて、レジェンドの域に達した、伊ジャズの至宝、欧州ジャズ・ピアニストの代表格なのだが、とにかく「多作」。しかも、その内容はどれもが水準以上。というか、優れた内容のものばかりで、ピエラヌンツィの力量・ポテンシャルや恐るべし、である。

Enrico Pieranunzi『Chet Remembered』(写真左)。2022年9月5-8日、"Hörfunkstudio il, Hessischer Rundfunk, Frankfurt am Main" での録音。ちなみにパーソネルは、Enrico Pieranunzi (p), Bert Joris (tp), Frankfurt Radio Big Band。

伊ジャズ・ピアノの第一人者、エンリコ・ピエラヌンツィと、欧州最高峰とも形容されるベルギーの名トランぺッター、バート・ヨリスとの共演盤。2021年作品の『アフターグロウ』が二人の初共演盤だったので、今回のアルバムはヨリスとの再会セッションになる。

ピエラヌンツィは1979年にチェット・ベイカーと出会い、多くのコンサートやレコーディング・セッション実績を残している。今回のアルバムは、そんなウェストコースト・ジャズを代表するトランぺッター&ヴォーカリストの偉人チェット・ベイカーに対するトリビュート・プログラムを収録している。
 

Enrico-pieranunzichet-remembered

 
選曲は、ピエラヌンツィがチェットと共演した時期に、ピエラヌンツィが作曲した作品をメインに、今回、チェットのために新たに作曲した曲を含め、バート・ヨリスによる優れたビッグ・バンド・アレンジを基に録音されている。

このフランクフルト放送ビッグ・バンドの演奏がかなりの充実度の高さで、スイング感抜群、パンチ力十分に、ユニゾン&ハーモニー、チェイス、ソロ、高揚感溢れる豪快なパフォーマンスを展開する。一糸乱れぬ、呼吸がバッチリ合ったカラフルなホーン・アンサンブル、躍動感溢れソリッドでタイトなリズム・セクション。超一級のビッグバンド・サウンドが素晴らしい。

そんなビッグバンド・サウンドをバックに、ピエラヌンツィは気持ち良さそうに、躍動感溢れる、リリカルでバップなピアノを弾きまくる。ヨリスもエモーショナルでバイタル、切れ味の良いトランペットを吹きまくる。やはりヨリスのアレンジが優れているのだろう。ビッグ・バンド・サウンドをバックにしているが、ピエラヌンツィのピアノ、ヨリスのトランペットが、全面に出て映えに映える。

ピエラヌンツィのピアノ、ヨリスのトランペットの「良好なパフォーマンス」と、躍動感溢れる「ビッグバンドの醍醐味」と、上手くバランスをとった、良好な「ピアノ+トランペット」と超強力なビッグバンドとの傑作である。
 
 

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2023年11月 4日 (土曜日)

ジャズ喫茶で流したい・267

イタリアン・ジャズの至宝であり重鎮であるピアニスト、エンリコ・ピエラヌンツィ(以下、エンリコと略)。1949年12月生まれだから、今年で74歳になる。大ベテランの域であり、今までの実績から「生けるレジェンド」的存在。ビル・エヴァンスのバップでリリカルで耽美的なピアノを欧州仕様にした様な、正統派かつ硬派なモダン・ジャズ・ピアニストである。

Enrico Pieranunzi Latin Jazz Quintet『Live At Birdland』(写真左)。2008年11月1日、NYのバードランドでの録音。ちなみにパーソネルは、Enrico Pieranunzi (p), Diego Urcola (tp), Yosvany Terry (as, ss, per), John Patitucci (b, elb), Antonio Sanchez (ds)。録音当時、2008年のエンリコ・ピエラヌンツィのニュー・プロジェクトのライヴ録音。

エンリコがラテン・ジャズに寄り道したかの様なバンド名。しかも、バードランドでのライヴ・パフォーマンスの記録。おおよそ、こってこてなラテン・ジャズが展開される、いわゆる「楽しくコマーシャルで娯楽志向」なライヴ盤だと思って、あまり聴く気が起きなかった。

が、リズム隊を見ると、硬派で正統派な現代の純ジャズ志向のベーシストのジョン・パティトゥッチ。そして、これまた、硬派で正統派な現代の純ジャズ志向のドラマーのアントニオ・サンチェスが名を連ねている。これは意外と、現代の硬派でメインストリーム志向の純ジャズではなかろうか、と思わす拝聴である。

冒頭「Talk Introduction」から「Danza 2」「Choro Del Infinito Hombre」と続く演奏を聴いて、まず「これのどこがラテン・ジャズ」なんや、と首をかしげる。というか、「非常に正統派で硬派、ストイックで真摯な欧州の純ジャズ」が展開されるのだ。
 

Enrico-pieranunzi-latin-jazz-quintetlive

 
ラテンの雰囲気は、ところどころのキーの進行に見え隠れするが、全く「ラテン・ジャズ」色は前に出てこない。ネオ・ハードバップ〜ネオ・モードなアコースティック・ジャズが展開される。

特に前半は、トランペットのディエゴ・ウルコラ(アルゼンチン出身)と、サックスのヨスヴァニー・テリー(キューバ出身)のパフォーマンスが見事。この二人のフロント2管の大活躍で、前半はエンリコのピアノはあまり目立たない。

ありゃ〜?、と思って聴き進めると、明確にラテン・フレイバーの演奏が出てきたりし出して、エンリコのピアノがグイグイ前面に出てくる様になる。明らかにラテンなフレーズが出てきても「非常に正統派で硬派、ストイックで真摯な欧州の純ジャズ」な雰囲気は変わらない。ネオ・ハードバップ〜ネオ・モードな展開の中で、乾いた「ラテンなフレーズ」が見え隠れする。

不思議な雰囲気のライヴ盤。ラテン・ジャズ基調でありながら、俗っぽくて判り易い、こってこてなラテン・フレーヴァーは皆無。演奏全体の雰囲気は「非常に正統派で硬派、ストイックで真摯な欧州の純ジャズ」。そんな雰囲気の中で、ストイックなラテン・フレーズが展開される。欧州ジャズが考えるラテン・ジャズ、とでも形容したら良いだろうか。

バンド名に惑わされてはいけない。「ラテン」が付いているからといって、いわゆる「楽しくコマーシャルで娯楽志向」の、こってこてなラテン・ジャズが展開される訳ではない。そんな要素は皆無。現代のネオ・ハードバップ〜ネオ・モードなアコースティック・ジャズの好盤として聴かれるのが良いだろう。充実した内容の好盤である。
 
 

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2023年10月 9日 (月曜日)

エンリコのローマでのライヴ盤

ここ2〜3年ほどだろうか、イタリアン・ジャズの至宝ピアニスト、エンリコ・ピエラヌンツィ(以降、エンリコと略)のリーダー作を数多く目にする。新盤もあるし、以前のお蔵入り音源のリリースもあるし、以前リリースされたアルバムのリイシューもある。とにかく、エンリコの人気は尋常ではない。欧州ジャズにおけるピアニストの第一人者であることは事実だし、とても欧州のモダン・ジャズらしい響きは、確かにジャズ者万人向けのピアニストではある。

Enrico Pieranunzi, Joey Baron & Marc Johnson『Current Conditions - Live in Rome at Radiotre』(写真左)。2001年11月、ローマでのライヴ演奏。マーク・ジョンソンのベース、ジョーイ・バロンのドラム、という「プレイ・モリコーネ・シリーズ」のトリオによるライヴ演奏。2007年にリリースされている。今回、僕はこのライヴ盤は初めて聴いた。

「プレイ・モリコーネ・シリーズ」のトリオとは言っても、こライヴ盤では、モリコーネの楽曲は全く無い。トリオのメンバーそれぞれのオリジナル曲を持ち寄っての、21世紀の、欧州ジャズの「ネオ・ハードバップ」もしくは「ネオ・モード」な演奏がてんこ盛り。特に、マーク・ジョンソンのベース、ジョーイ・バロンのドラムという、現代における、最高レベルのベテラン・リズム隊に恵まれて、エンリコは自由奔放、変幻自在、硬軟自在に、モーダルなフレーズを弾きまくっている。
 

Enrico-pieranunzi-joey-baron-marc-johnso

 
このライヴ盤の魅力は、エンリコの欧州ジャズ的な、耽美的でリリカルでバップなピアノなんだが、その魅力をさらに押し上げているのが、マーク・ジョンソンのベース、ジョーイ・バロンのドラムの存在。このリズム隊の存在がエンリコのピアノの魅力を明らかに増幅している。このリズム隊、相当、強力にエンリコをバッキングし鼓舞しているのが、ありありと伝わってくる。

マーク・ジョンソンは、ビル・エヴァンスの最後のトリオのベース担当であったくらいで、エンリコの耽美的でリリカルでバップなピアノをよく理解し、よくサポートする様が実に頼もしい。そして、ジョーイ・バロンのドラムは、ピアノとベースのインタープレイの「底」をしっかり支え、自らもインタープレイの中に参加する。実は、ジョーイ・バロンのドラミングについては、こんなに素敵に、ネオ・ハードバップな、自由度と柔軟度の高いドラミングをするドラマーとは思わなかった。

音楽のサブスク・サイトを徘徊していて偶然見つけたライヴ盤であったが、これは「当たり」。ジャケはあまりに単純で、最初は、とるに足らない「イージーリスニング・ジャズ」と思って流したが、ジャケをよくよく見ると、エンリコ、ジョンソン、バロンの名前が見えるではないか。戻って、ストリームできいてみて、あらビックリである(笑)。しかし、エンリコのリーダー作にはハズレが無いなあ。感心することしきり、である。
 
 

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2023年10月 5日 (木曜日)

典型的な欧州ジャズ・テイスト

Enrico Pieranunzi(エンリコ・ピエラヌンツィ、以降「エンリコ」と略)。1949年生まれのイタリアのジャズ・ピアニスト。今年74歳。イタリアン・ジャズの至宝。現在の欧州ジャズ・シーンにおける、モダンでコンテンポラリーなエバンス派の代表格。耽美的にテクニカルに良く鳴る右手と、絶妙な間を持って右手の旋律を支える左手のブロックコードが繰り出すが個性。

1975年の初リーダー作以来、クラシック音楽の響きとマナーを踏襲した、典型的な欧州ジャズ・テイストのピアノが特徴。テクニックは優秀、耽美的なフレーズから、バップなフレーズまで、その表現力は幅広く、奥が深い。

ここ2〜3年ほどだろうか、エンリコのリーダー作を数多く目にする。もともと多作のエンリコだが、特に最近は目立つ。こんなにリーダー作がリリースされるというのは、それだけ需要があるということなのだろう。確かに、エンリコのピアノ、今では欧州ジャズ・ピアノの重鎮的位置づけだし、欧州ジャズ・ピアノのジャンルを代表する、レジェンド級のピアニストである。

Enrico Pieranunzi & Jasper Somsen『Voyage in Time』(写真左)。2022年、オランダChallengeレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Enrico Pieranunzi (p), Jasper Somsen (b)。最近のトリオ作で、抜群の相性の良さを聴かせてくれていた、ピアノのエンリコ・ピエラヌンツィと、ベースのイェスパー・サムセンのデュオ盤である。
 

Enrico-pieranunzi-jasper-somsenvoyage-in

 
耽美的でリリカル、タッチは明確で弾き回しは流麗、そんな欧州ジャズならでは響きとフレーズが芳しいエンリコのピアノ。確かな技巧とピッチ、硬質でソリッドな弦の響き、歌心豊かなアドリブ・フレーズが芳しいサムセンのベース。この二人のデュオ演奏、インタープレイの展開は素晴らしいの一言。響きとフレーズは、明確に「欧州ジャズ」。

タイトルを見れば、「パヴァーヌ」「メヌエット」「サラバンド」など古典クラシック音楽を連想させる。それもそのはず。収録された楽曲は、バロック時代の典型的な舞踊組曲にインスパイアされた楽曲とのこと。

そのフレーズ、その音の重なり、そのフレーズの個性、確かに、バロック音楽であり、そんなバロック音楽のエッセンスを、モダン・ジャズに取り込んだ、いかにも「欧州ジャズ」らしい音世界が実に印象的。

この「バロック音楽のエッセンスを取り込んだジャズ」の中で、確かな技巧とピッチ、硬質でソリッドな弦の響き、歌心豊かなアドリブ・フレーズが芳しいサムセンのベースが重要な役割を担っている。サムセンの正確なベースラインが、バロック・ライクなフレーズを弾き進めていく。これが実に良い。そこに、エンリコの耽美的でリリカル、タッチが明確で技巧確かなピアノが寄り添う。

欧州ジャズって良いなあ、と改めて感じさせてくれる、素晴らしいデュオ演奏。イタリアのピアニストとオランダのベーシストが邂逅したデュオ演奏は、欧州ジャズを色濃く感じさせてくれる。近年のピアノ&ベースのデュオ演奏の傑作の1枚だろう。
 
 

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2023年4月 2日 (日曜日)

ラヴァとピエラヌンツィのデュオ

21世紀になって、本格的に聴き始めたのだが、イタリア・ジャズは隅に置けない。欧州ジャズの雰囲気をしっかりと受け継いだ、メインストリーム系の純ジャズがメイン。硬派で骨のあるストイックな純ジャズ志向の演奏が主流で、イタリア・ジャズの範疇でのエレ・ジャズやフリー・ジャズを僕は聴いたことが無い。

Enrico Pieranunzi & Enrico Rava『Nausicaa』(写真左)。1993年3月29, 30日の録音。Enrico Rava (tp), Enrico Pieranunzi (p)。イタリア・ジャズの大御所、トランペットのエンリコ・ラヴァ、ピアノのエンリコ・ピエラヌンツィ、2人のデュオ演奏。ラヴァが54歳、ピエラヌンツィが44歳の時の録音。

トランペットのエンリコ・ラヴァは、リーダー作のカタログを見ていると、デュオ演奏が好きみたい。特にピアノとのデュオが結構ある。この盤は、イタリア・ジャズの大御所同士、ラヴァがベテランの域に入った時期、ピエラヌンツィがバリバリ中堅ど真ん中のデュオになる。どちらも油の乗りきった実績抜群のジャズマン。内容の濃いデュオ演奏を繰り広げる。
 

Enrico-pieranunzi-enrico-ravanausicaa

 
トランペットとピアノのデュオなので、ピアノが単体でリズム・セクションの機能とフロント楽器の機能の2つを果たすことが出来るので、どうしても、トランペットがフロント一辺倒、ピアノが伴奏がメインで、時々フロントのソロという役割分担になる。よって、トランペットのラヴァが目立ってはいるが、ピエラヌンツィも伴奏にソロに大活躍。

ピエラヌンツィの優れたピアノ伴奏があってこその、ラヴァの自由奔放なトランペット・ソロ。ラヴァのアドリブ・フレーズをよく聴いて、クイックに反応するピエラヌンツィのピアノ伴奏は見事。モーダルなトーンのフレーズで伴奏に回ったラヴァのトランペットのテクニックも見事。音も重ならず、リズム&ビートがぶつかることも無い。粛々とデュオ演奏を重ねているが、これは双方のテクニックのレベルが高く無ければ実現しない。

こういう雰囲気のデュオ演奏は、米国ジャズにはなかなか無い類のもので、ラヴァとピエラヌンツィ、双方のフレーズに仄かに哀愁感、寂寞感が漂うトーンがクールで、音もクッキリ明確で切れ味が良い。いかにも欧州ジャズらしい。イタリア・ジャズというよりは、欧州ジャズ共通の雰囲気を色濃く湛えた、じっくり聴いて感じ入る、極上のデュオ演奏がこの盤に詰まっている。
 
 

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2022年10月15日 (土曜日)

ピエラヌンツィのクインテット盤

最近、やたら、エンリコ・ピエラヌンツィ(Enrico Pieranunzi)のリーダー作が目に付く。コロナ禍にも負けず、ピエラヌンツィの活動は充実しているのだろう。加えて、ピエラヌンツィは現代ジャズ・ピアノ、特に欧州ジャズ、伊ジャズにおけるピアニストの第一人者の1人として、その実力がジャズ界で認められているからだろう、と思っている。

Enrico Pieranunzi Quintet『The Extra Something』(写真左)。2016年1月13, 14日、NYの「The Village Vanguard」でのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Enrico Pieranunzi (p), Diego Urcola (tp, tb), Seamus Blake (ts), Ben Street (b), Adam Cruz (ds)。トランペット or トロンボーンとテナー・サックスのフロント2管のクインテット編成。

ピエラヌンツィは、フロント楽器としてのピアノのテクニックも素晴らしいが、カルテットやクインテット編成の中で、リズム・セクションに回った時の伴奏楽器としてのピアノのテクニックも卓越したものがある。このライヴでは、現代のネオ・モードな演奏がメインで、限りなく自由度を追求した、柔軟で硬派なモード・ジャズが展開されている。
 

Enrico-pieranunzi-quintetthe-extra-somet

 
モードをやらせてもピエラヌンツィのピアノは素晴らしいのだが、このライヴ盤では、バリバリにアグレッシヴに弾きまくっていて、とにかく爽快である。弾きまくるのだが、フロントを差し置いて、独りよがりにバリバリ弾くのでは無い、フロント楽器のフレーズを引き立て鼓舞する、実に小粋な弾き回しをしているのには感心する。とにかく、モーダルなピアノを弾かせたら上手い。

ピエラヌンツィ以外の4人のメンバーも、NYジャズの精鋭達で、ピエラヌンツィのピアノに鼓舞されて、新鮮なネオ・,モードなフレーズをバンバン吹きまくる。しっかりとパフォーマンスの必要最低限の規律を守りつつ、限りなく自由にクリエイティヴにアドリブ展開する様は迫力満点。即興演奏を旨とするジャズの良いところが、このライヴ盤に満載。

そして、このライヴ盤、音が良い。とっても良いライヴ録音で、まるで、ヴィレッジ・ヴァンガードの最前列に陣取って、聴いているような、目の前で楽器が鳴っている様な、生々しい音が魅力的。ピエラヌンツィのクインテット盤、トリオ盤とはまた違ったピエラヌンツィのピアノの魅力が満載で、聴いていて飽きることが無い。
 
 

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   ・遠い昔、懐かしの『地底探検』

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2022年9月 7日 (水曜日)

ピエラヌンツィ・トリオの新盤

最近、米国ジャズと欧州ジャズ、半々で聴いている。意識している訳ではないが、ここ4〜5年の傾向として、欧州ジャズ&イスラエル・ジャズに内容充実の優秀盤が結構リリースされている。

新盤については、月によっては、確実に米国ジャズを凌駕する月もあって、もはや、欧州ジャズ&イスラエル・ジャズは、米国ジャズの傍らで気分転換に聴く対象では無くなった印象がある。

Enrico Pieranunzi Trio『Something Tomorrow』(写真左)。2021年9月5ー6日、コペンハーゲンでの録音。ちなみにパーソネルは、Enrico Pieranunzi (p), Thomas Fonnesaek (b), André Ceccarelli (ds)。

伊ジャズの至宝級ピアニスト、エンリコ・ピエラヌンツィがリーダーで、伝説のフランス人ドラマー、アンドレ・チェッカレリと、デンマーク人コントラバス奏者、トマス・フォネスベクとガッチリ組んだピアノ・トリオ盤。

改めて、Enrico Pieranunzi (エンリコ・ピエラヌンツィ)である。1949年12月、イタリアはローマ生まれなので、今年の12月で73歳になる。もう、ジャズ界の中でも、大ベテラン、レジェンドの類である。

彼のピアノは流麗かつ端正。音の重ね方、組合せ方を聴けば、ビル・エバンスに大きく影響を受けた、所謂「エバンス派」であることは間違い無いが、本家より、ダイナミックでタッチが強い。加えて、硬質なタッチと正確無比な高速フレーズと洗練されたクリスタルなファンキーっぽさが彼ならではの個性。
 

Enrico-pieranunzi-triosomething-tomorrow

 
収録曲を見渡すと、全10曲のうち、ピエラヌンツィのオリジナルが8曲、そして、フォネスベックの作曲が1曲、さらに、クルト・ヴァイル&アイル・ガーシュインの作曲が1曲。しかし、どの曲も、ピエラヌンツィの叙情的な側面を的確に捉えた曲調で、アルバム全体の統一感は半端ない。

そして、今回、自分として、ピエラヌンツィのオリジナル曲がなぜ好きなのか、が良く判った。僕が大好きで何でも通しの「ベースやコードが変わる」いわゆる、頻繁なチェンジ・オブ・ペースと転調がてんこ盛りなのだ。なるほど、この盤を聴いていて、ふとそう感じた。

この盤、目新しさは無いが、成熟したピエラヌンツィのピアノを聴くことが出来る。欧州ジャズ的な、耽美的でリリカルでクリスタルな音世界の中で、クリスタルなファンキーっぽさを漂わせながら、切れ味良く流麗なバップ・ピアノを弾き回し、硬派なメインストリーム・ジャズを展開する。胸が空くような、正確無比な高速フレーズが爽快である。

バックのリズム隊、ベースのトマス・フォネスベク、ドラムのアンドレ・チェッカレリは、現時点で、ピエラヌンツィの最高のパートナーであることがこの盤を聴いていて良く判る。ピエラヌンツィのピアノをを引き立て、鼓舞しつつ、3者対等で創造力豊かなインタープレイを繰り広げている。

最近の欧州ジャズは隅に置けない。21世紀になって、ネットで欧州ジャズの情報が潤沢に入って来る様になって20年余。欧州ジャズは、伊ジャズは、米国ジャズと肩を並べるほどに深化したんやなあ、と感慨深いものがある、今回のピエラヌンツィの新盤である。
 
 

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2021年2月23日 (火曜日)

素敵な欧州ジャズの「デュオ盤」

ジャズは全世界において「深化」している。もう新しいジャズの奏法や表現方法は現れ出でないだろう。しかし、今までに出現したジャズの奏法や表現方法は、様々なジャズマンのチャレンジによって、洗練され、再体系立てされ、再構成され、新たな解釈が付加されている。つまり「深化」しているのだ。

Enrico Pieranunzi & Bert Joris『Afterglow』(写真左)。今年2021年1月のリリース。ちなみにパーソネルは、Enrico Pieranunzi (p), Bert Joris (tp)。ピアノとトランペットのデュオ盤。リズム&ビートは一手にピアノが担い、フレーズはピアノとトランペットでのインタープレイ。

イタリアが生んだ現代最高のジャズ・ピアニストの一人、エンリコ・ピエラヌンツィ。そして、ベルギーの名ジャズ・トランペッター、バート・ヨリスとのデュオ盤である。ピアノとトランペットのデュオは珍しい。ピアノが伴奏に徹し、トランペットが旋律を吹きまくるのは全く面白く無い。当然、この名手の2人はそんな俗手には陥らない。
 
 
Afterglow
 
 
ピエラヌンツィのピアノは耽美的でリリカルでメロディアス。そこに、ヨリスのふくよかで柔らかい、それでいて芯のしっかり通ったトランペットが絡む。ピエラヌンツィのピアノの左手が、しっかりとリズム&ビートを刻み、キープする。そして、右手でヨリスのトランペットを迎え撃つ。極上のデュオの響き。極上のユニゾン&ハーモニー。

デュオ演奏の全体に漂うリズム&ビートにファンクネスは無い。リリカルでダイナミズム溢れる透明度の高いリズム&ビート。まさに「欧州ジャズ」を強く想起するリズム&ビートである。こんなデュオ演奏を初めて聴いた気がする。ありそうで無い、ピアノとトランペットのデュオ。

タイトルの「Afterglow」は、夕映えや残光を意味する言葉。このデュオ盤には、そんなタイトルそのものの雰囲気が蔓延している。素敵な響きに満ちた好盤です。最近、ジャズでは「デュオ」が流行っているような雰囲気がある。もっとユニークなジャズ演奏が今後も出てくるのではないか、と思わず期待してしまう。
 
 
 

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2020年10月 1日 (木曜日)

「攻めに攻める」ピエラヌンツィ

Enrico Pieranunzi(エンリコ・ピエラヌンツィ)は、イタリアを代表するピアニスト。1949年生まれなので、今年で71歳。レジェンド級のピアニストである。 僕はこの「エンリコ」をECMレーベルに残したリーダー作で、その名とピアノを知った。タッチの切れ味が良い、耽美的で流麗な響き。チックのピアノに、キースのクラシック志向な音を混ぜて「2」で割った様な音。

エンリコは基本的に「トリオ編成」をメインに活動している。ベースのマーク・ジョンソンやスコット・コリーなど、優れたベーシストとの好盤が印象に残っている。そういう意味で、エンリコの「トリオ編成」は、ベーシストが鍵を握る、という傾向があるのかもしれない。エンリコのトリオ編成を見極めるには、まず「ベーシスト」を見極めろ、ということか。

Enrico Pieranunzi『New Visions』(写真左)。2019年3月10日、Copenhagenでの録音。ちなみにパーソネルは、Enrico Pieranunzi (p), Thomas Fonnesbæk (b), Ulysses Owens Jr. (ds)。エンリコは今年71歳。ベースのトーマス・フォネスベックが1977年生まれなので、今年で43歳。ドラムのユリシス・オーエンス・ジュニアが1982年生まれなので、今年で38歳。エンリコが「息子」世代と組んだ、スリリングなトリオ演奏である。
 
 
New-visions
 
 
 
冒頭「Free Visions 1」のピアノのフレーズを聴くだけで「ああ、これはエンリコかな」と感じるくらい、個性的な音である。ちょっと聴いただけでは「チックか」と思うところがある。フレーズにイタリア音楽らしい、ちょっとラテンなマイナー調が入るので、チックと間違えやすい。アドリブ・フレーズに入って鋭角に攻めずに、流麗に攻めるところがエンリコらしさ。

フォネスベックがグイグイとトリオ演奏を引っ張っている。耽美的なエンリコのピアノに対して、硬派でダンディズム溢れるアコベが好対照で良い響き。オーエンス・ジュニアのドラムも隅に置けない。好対照なエンリコのピアノとフォネスベックのベースのどちらに偏ることなく、しっかりと間を取って寄り添うようなドラミングは「天晴れ」。

今年71歳のエンリコであるが、この盤でも感じる様に「攻めに攻めている」。選曲もトリオ・メンバーのオリジナルをメインに固め、ネオ・ハードバップをリードする「モーダル」な展開、そして、フリーにスピリチュアルに傾いた演奏など、現代のメインストリーム・ジャズのど真ん中を行くトリオ演奏は見事である。昨年のリリースになるが、見落としていた。やっとリカバリー出来て、気分は上々である。
 
 
 

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  ・『Restless Nights』 1979

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  ・『The Best of The Band』
 
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  ・僕達は「タツロー」を発見した
 
 
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