2024年11月 8日 (金曜日)

プログレとクロスオーバーの融合

聴くたびに思うんだが、英国では、プログレッシヴ・ロック(プログレ)とクロスオーバー・ジャズの境目が実に曖昧である。プログレも変則拍子や即興演奏はお手のもので、プログレの有名ミュージシャンが、結構、内容のあるクロスオーバー・ジャズのバンドのリーダーをやったり、演奏をやったり。当時、プログレのミュージシャンのテクニックは優秀で、クロスオーバー・ジャズでも、全く問題なく対応できた。

Bill Bruford『One Of A Kind』(写真左)。1979年1-2月の録音。EGレコードからのリリース。ちなみにパーソネルは、Bill Bruford (ds, perc), Allan Holdsworth (g), Dave Stewart (key, syn), Jeff Berlin (b)。プログレの有名バンド、イエス、キング・クリムゾンのドラマーを務めた、ビル・ブルーフォードのリーダー作。

Bill Bruford(ビル・ブルーフォード)。僕たちがイエスやキング・クリムゾンなどの有名プログレ・バンドをリアルタイムで聴いていた頃は「ビル・ブラッフォード」というカナ読みだった。しかし、2012年に発行された自伝「Bill Bruford The Autobiography」の日本語版で、「ブルーフォード」の表記が採用されたことで、以降「ブルーフォード」が正式カナ読みとなった。実際の発音も同じ響きだそうだ。
 

Bill-brufordone-of-a-kind

 
閑話休題。このアルバムは、クロスオーバー&フュージョン・ジャズ。決して、プログレではない。リズム&ビートが明らかにジャジーで、オフビートが強調されている。ホールズワースのギターは、エレもアコも超絶技巧フュージョンの流れを汲むものだし、ジェフ・ベルリンのベースのビートはジャズ。しかし、スチュワートのキーボード、特にシンセサイザーの使い方は、どこかプログレしていて、この盤は、一言で言うと「プログレとクロスオーバーの融合」なアルバムと形容することが出来る。

全編に渡って、ブルーフォードのドラミングが効いている。お得意の変則拍子ドラミング、ポリリズミックなドラミングが炸裂する。ブルーフォードのドラミングは重心が低く重厚。決して高速なドラミングではないが、芯の入った重心の低い、密度の濃いドラミングで、演奏全体のボトムが堅牢で、演奏全体がとても分厚く感じる。そこに切れ味良い、疾走感溢れるホールズワースのエレギが乱舞し、スチュワートのシンセが、キーボードが練り歩く。

プログレの要素を色濃く湛えた、ジャズロックというよりは「プログレとクロスオーバーの融合」によるクロスオーバー&フュージョン。ジャズロックとするほど単純ではない、意外と自由奔放で複雑な音作り。このバンドの音世界は、英国の音楽シーンだからこそ成し得た、プログレ)とクロスオーバー・ジャズの境目が曖昧だからこそ成し得た、独特の個性的な融合サウンドである。一聴の価値はある。
 
 

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2024年11月 3日 (日曜日)

聴くべきは古澤のドラミング

1970年代後半から80年代前半にかけて、我が国のジャズ・シーンは、フュージョン・ジャズの大流行に並行して、メインストリームな和ジャズが、クロスオーバー志向を強めた異種格闘技な演奏展開や、フリー&スピリチュアル・ジャズの強化、という、米国や欧州とは異なる、独自の深化と分化を遂げていたように思う。

『12,617.4km 古澤良治郎の世界ライヴ』(写真左)。1980年の作品。ちなみにパーソネルは、古澤良治郎 (ds), 高橋知己 (ts), 廣木光一 (g), 大口純一郎 (p), 望月英明 (b) のレギュラー・バンドに、ゲストとして、山下洋輔 (p), 森山威男 (ds), 川端民生 (b), 大徳俊幸 (p), 向井滋春 (tb), 渡辺香津美 (g), 本多俊之 (as), 明田川荘之 (p), 三上寛 (vo, g) が入るという、錚々たるメンバーでのライヴである。

不思議な音世界のライヴである。ジャズを中心に置いてはいるが、他のジャンルの音と積極的にクロスオーバーした「異種格闘技」風の中身の濃い演奏がてんこ盛り。広い意味で「クロスオーバーな純ジャズ」だが、正当な内容の厚い、完全フリーな演奏もあって、ここまでくると、クロスオーバーというよりは、純ジャズをベースにした異種格闘技なジャム・セッションと形容して良いかもしれない。
 

126174km

 
ロックと融合したクロスオーバー・ジャズな展開もあれば、モーダルなジャズの展開もあり、どフリーでスピリチュアルな演奏もあれば、グルーヴィーな響きもあり、遂には、フォーク界の人と思われる三上寛が参加して、エモーショナルなボーカルで叫ぶ。一体何なんだ、この音世界は。ただ、演奏するミュージシャンが一流どころばかりなので、破綻がない。自らの得意とするジャンルの音をバンバン出しているのだから、悪かろうはずがない。

一番感心するのは、純ジャズをベースにした異種格闘技なジャム・セッションの中、様々なジャンル、様々な演奏トレンドの、それぞれ全く異なる内容にも関わらず、古澤のドラミングは揺るがないこと。どころか、その様々なジャンル、様々な演奏トレンドに適したドラミングを叩き出し、演奏全体のリズム&ビートをコントロールし、フロント楽器を鼓舞する。そして、この古澤の揺るぎないドラミングのお陰で、様々なジャンル、様々な演奏トレンドが詰まったライヴながら、アルバム全体に統一感が充満している。

古澤の柔軟で適応力抜群な、それでいて、個性はしっかりキープした、揺るぎのないドラミングは見事。このライヴは確かに、異種格闘技風のバラエティー溢れるゲストのパフォーマンスも魅力だが、やはり、聴くべきは古澤良治郎の見事なドラミングだろう。和ジャズに古澤あり。このライヴ盤を聴きながら、そんなことを強烈に再認識した。
 
 

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2024年11月 2日 (土曜日)

「元曲」の良さで盤の魅力倍増

米国ウエストコースト・ジャズは「聴かせる」ジャズである。優れたアレンジをしっかり踏まえ、聴き味の良い、流麗な弾き回しとアンサンブル。クールで小粋なアドリブ・パフォーマンス、切れ味よく端正なリズム&ビート。このウエストコースト・ジャズは、例えば、優れたフレーズを持つミュージカル曲やドラマの挿入曲を「元曲」にジャズをすれば、その個性と特徴がさらに輝きを増す。

『Shelly Manne & His Men Play Peter Gunn』(写真左)。January 19 & 20, 1959年1月19, 20日の録音。ちなみにパーソネルは、Shelly Manne (ds), Conte Candoli (tp), Herb Geller (as), Victor Feldman (vib, marimba), Russ Freeman (p), Monty Budwig (b), Henry Mancini (arr)。

「Peter Gun」とは、アメリカの古いTV番組で、1958年から61年にかけて毎週月曜日の夜9時から放送されていた「探偵もの」のドラマ。ドラマの挿入音楽は有名なヘンリー・マンシーニが担当、内容は立派なジャズ・ベースな楽曲だったそうで、その楽曲を、シェリー・マン率いるヒズ・メンが、ウエストコースト・ジャズとしてカヴァーする企画盤がこの盤である。
 

Shelly-manne-his-men-play-peter-gunn

 
もともとマンシーニの作曲&編曲の「元曲」が、ジャズ志向の佳曲ばかりで、ジャズ志向の佳曲を、当時流行していたウエストコースト・ジャズ流のアレンジで、マンシーニ自身が再アレンジして、良好な内容のハードバップっぽい演奏に仕上げている。元曲の良さを活かしつつ、ウエストコースト・ジャズのアレンジの個性が、元曲の良さをさらに引き出している様な演奏は聴き応えがある。否、元曲を知らなくても大丈夫。純粋にウエストコースト・ジャズの好演として聴いても全く違和感は無い。

マンの、様々なニュアンスのリズム&ビートを叩き出しながら、しっかりフロントを引き立て、クールに鼓舞する、「聴かせる」ウエストコースト・ジャズに最適なドラミングは相変わらず。トランペットがコンテ・カンドリ、アルト・サックスがハーブ・ゲラー、ヴァイブがヴィクター・フェルドマン。その3人のフロントの演奏が、マンのドラミングに乗り、鼓舞されて、なかなか充実した、ウエストコースト・ジャズらしからぬ、ホットなアドリブを展開している。

「元曲」の良さがそうさせるのだろう。ウエストコースト・ジャズの個性と特徴はしっかり踏まえつつ、いつになく、ウエストコースト・ジャズらしからぬ、ちょっとホットな演奏は聴き応え十分。クールで端正で流麗、聴き心地の良いユニゾン&ハーモニーはそのままに、少し「熱い」インプロビゼーションを繰り広げる。モダン・ジャズの好盤です。
 
 

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2024年11月 1日 (金曜日)

マンのドラミングが映える好盤

これまで我が国では、米国のウエストコースト・ジャズについては、正当に評価されてない様に感じる。大人しい、熱気がない、印象が薄い、など、東海岸ジャズとの比較に中で、東海岸ジャズの長所と「反対の特徴」を、西海岸ジャズの欠点として捉えて、低い評価を与えられている傾向が強い。しかし、その「反対の特徴」を、西海岸ジャズの長所として捉えれば、正当な評価につながっていくのだから面白い。

Shelly Manne and His Men『More Swinging Sounds』(写真左)。1956年7, 8月の録音。ちなみにパーソネルは、Shelly Manne (ds), Stu Williamson (tp, valve-tb), Charlie Mariano (as), Russ Freeman (p), Leroy Vinnegar (b)。ネコのイラスト・ジャケが印象的な、シェリー・マン主宰の「Shelly Manne and His Men」シリーズのVol.5。

1956年の録音。米国ウエストコースト・ジャズの全盛期の入り口、アルバム全体にウエストコースト・ジャズの良いところがギッシリ詰まった好盤。西海岸独特の、切れ味良く、端正で流麗なスイング感がたまらない。その魅力的で爽快なスイング感は、リーダーのシェリー・マンのドラミングが推進エンジンになっている。そして、そんなマンのドラミングの「底」を、レロイ・ヴィネガーの味わい深い、オーソドックスなベースがしっかりと支えている。
 

Shelly-manne-and-his-menmore-swinging-so

 
この西海岸独特の雰囲気は、この盤で唯一のスタンダード曲、チャーリー・パーカー作のミュージシャンズ・チューンの「Moose the Mooche」を聴けば良く判る。西海岸独特の洒落たアレンジで、このビ・バップの名曲を「聴かせる」ジャズに仕立て上げている。ウォームで軽快スインギーなリズム&ビートに乗って、流麗なアドリブ・フレーズを奏でるフロント2管。

ステュ・ウィリアムソンのトランペットの好演が光る。東海岸の様に熱気溢れる、迫力満点なブロウでは無いが、テクニックに優れ、流麗なフレーズは、これはこれで、優れたジャズ・トランペット。そして、マリアーノのアルト・サックスも健闘している。スチュのトランペットの向こうを張って、素敵なフロント2管を形成している。

リーダーのマンのドラミングが一番の聴きもの。テクニック抜群、様々なニュアンスのリズム&ビートを叩き出しながら、しっかりフロント2管を引き立て、クールに鼓舞する。「聴かせる」ウエストコースト・ジャズに最適なドラミング。優れた「モダン・ジャズ」がここにもある。ジャズの裾野の広さ、ジャズの深化、をバリバリに感じる、ウエストコースト・ジャズの好盤の一枚である。
 
 

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2024年10月30日 (水曜日)

お蔵入りに「成熟」を聴くJM

ショーターが、アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ(以降、JMと略)の「新・音楽監督」として残したショーター流モード・ジャズは、モーガンのトラペット、ショーターのテナーの「2管フロント」時代と、トロンボーンのフラーを追加した「3管フロント」時代と、2つの時代に分けることが出来る。今回は「2管フロント」時代のお蔵入り盤のレビューである。

Art Blakey and The Jazz Messengers『The Witch Doctor』(写真左)。1961年3月14日の録音。1967年のリリース。ブルーノートの4258番。ちなみにパーソネルは、Art Blakey (ds), Lee Morgan (tp, flh), Wayne Shorter (ts), Bobby Timmons (p), Jymie Merritt (b)。モーガンのトラペット、ショーターのテナーが2管フロントのクインテット編成。

この1961年3月14日のセッションは、録音後、丸々、お蔵入りになっている。もともと1961年のJMはブルーノートを中心にかなりの量の録音を残している。お蔵入りになったのは、あまりの乱発になるのを防ぐ為だったのだろう。しかし、内容は一級品揃いで充実しているものばかり。お蔵入りにしっぱなしでは惜しいので、徐々に蔵出しイシューしていった。その一枚がこの盤である。
 

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まだ3管フロントになる直前(約3ヶ月後に3管フロントになる)、2管フロントのショーター流モード・ジャズなJMである。内容はかなり充実していて、一言で言うと「2管フロントのショーター流モード・ジャズ」の成熟を聴くことが出来る好盤である。スタジオ録音後、即アルバム化された『A Night in Tunisia』が、1960年8月の録音なので、それより、7ヶ月も後なので、『A Night in Tunisia』と比較すると、やはり、「2管フロントのショーター流モード・ジャズ」は更に成熟度を増している。

特に、新・音楽監督でもあるショーターのテナーの迫力が凄い。分厚い切れ味の良いラウドな音で、本家本元のショーター流モード・ジャズのモーダル・フレーズを吹きまくっている。このショーターのテナーの吹きまくりが凄い。ショーターのテナーは意外に冷静沈着な風情のモーダル・ブロウが印象的なんだが、この盤ではエネルギッシュでバイタルでモーダルな吹きまくりが凄い。

ショーター流モード・ジャズに完全適応しているモーガンのトランペットももちろん素晴らしいパフォーマンスなのだが、それを凌駕するショーターのテナーがグイグイ前へ出てくる。クインテットのグループ・サウンズという面では、ちょっとショーターが前面に出過ぎたきらいがあるので、それがお蔵入りになった理由かもしれない。
 
 

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2024年10月29日 (火曜日)

インパルスのモーダルな「JM」

ブレイキーは、リーダーでありながら、バンドの演奏トレンド、演奏志向には口を出さなかった。ジャズ・メッセンジャーズ(JM)のそれぞれの時代で、メンバーの中から「音楽監督」的立場のメンバーを選び出し、バンドの演奏トレンド、演奏志向は、この「音楽監督」に任せて、一切、口を挟むことは無かった。

『Art Blakey and the Jazz Messengers(1961 album, Impulse!)』(写真左)。1961年6月13, 14日の録音。ちなみにパーソネルは、Art Blakey (ds), Lee Morgan (tp), Curtis Fuller (tb), Wayne Shorter (ts), Bobby Timmons (p), Jymie Merritt (b)。モーガン、フラー、ショーターの3管フロントのセクステット編成。

1960年3月6日録音の『The Big Beat』から参加したウェイン・ショーター。ベニー・ゴルソンに代わる「新・音楽監督」として、辣腕を振るう。『Moanin'』で一世を風靡した、ファンキー・ジャズの旗手的存在だったジャズ・メッセンジャーズに、当時、ジャズ奏法の最先端だった「モード・ジャズ」を徐々に導入して行った。
 

Art-blakey-and-the-jazz-messengers1961-a

 
バリバリのファンキー・ジャズをやっていたJMが、いきなりモード・ジャズに転身する。ショーターは音楽監督として、徐々にモード・ジャズに対応する作戦に出る。まず、真っ先に、リーダーのブレイキーのドラムがモードに適応、ほどなく、トランペットのモーガンが適応し、フラーがそれに続く。そして、ベースのメリットが何とかモードに対応。しかし、ピアノのティモンズは時間がかかった。

しかし、『The Big Beat』から1年3ヶ月。ティモンズもしっかりモードに対応している。しかも、ブロック・コードを織り交ぜた、独特のモード奏法で、実に個性的なモーダルなパフォーマンスを展開している。この盤は、JMがモードに完全適応した姿を記録していて、演奏全体の雰囲気は、端正で整然として内容の濃い、JMならではのモード・ジャズを展開している。

この盤のセッションで、新・音楽監督のウェイン・ショーターが推進してきた、JM流のモード・ジャズは完成したイメージである。それぞれのメンバーの演奏は充実、完全にモードに適応。ただ、ティモンズのピアノだけが、ショーターのモードではなく、ティモンズ独自のモードで展開しているところが気になると言えば気になる。が、アルバム全体の印象は良好。
 
 

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2024年10月28日 (月曜日)

叙情的ジャズ・メッセンジャーズ

ジャズを本格的に聴き始めた頃から「アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ」はお気に入り。アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズのアルバムを聴き通すだけで、ジャズの演奏トレンド、演奏志向の歴史が判る。

ブレイキーは、リーダーでありながら、バンドの演奏トレンド、演奏志向には口を出さなかった。ジャズ・メッセンジャーズのそれぞれの時代で、メンバーの中から「音楽監督」的立場のメンバーを選び出し、バンドの演奏トレンド、演奏志向は、この「音楽監督」に任せて、一切、口を挟むことは無かった。

逆に、それぞれの時代での「音楽監督」が表現するジャズの演奏トレンド、演奏志向に、ドラマーとして、ことごとく適応していった。ブレイキーのドラマーとして能力の高さを如実に表しているエピソードである。

Art Blakey and the Jazz Messengers『Like Someone in Love』(写真左)。1960年8月7日 (#3, 4, 6) と、8月14日(#1, 2, 5)の録音。リリースは1967年。ブルーノートの4245番。ちなみにパーソネルは、Art Blakey (ds), Lee Morgan (tp, flh), Wayne Shorter (ts), Bobby Timmons (p), Jymie Merritt (b)。LP時代は全5曲。6曲目はCDリイシュー時のボートラ。

ブルーノートの名盤、4049番『A Night In Tunisia』と、同日セッションの音源で構成されたアルバム。1960年に録音され『A Night In Tunisia』は、1961年5月に、ほぼリアルタイムでリリースされている。が、この盤は録音から7年経ってのリリース。裏『A Night In Tunisia』とも呼ばれるアルバムである。よって、アルバム評も『A Night In Tunisia』との比較がメインとなる。
 

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4049番『A Night In Tunisia』は、演奏全体の雰囲気が躍動的でバップ志向、それを前提にモーダルな演奏が展開される。4245番『Like Someone in Love』は、演奏全体の雰囲気が叙情的でリリカル、それを前提にモーダルな演奏が展開される。どちらもモード・ジャズの良好盤であるが、敢えて言うなら、『A Night In Tunisia』は「動」、『Like Someone in Love』は「静」。

新「音楽監督」のショーターが腕をふるう、叙情的なモーダルな演奏が実に心地良い。叙情的な、ゆったりしたテンポの演奏では、意外とモードは難物なんだが、この時代のジャズ・メッセンジャーズはこともなげに、粛々と、ミッドテンポ中心の叙情的でリリカルなモーダルな演奏を徹頭徹尾、繰り広げている。

タイトル曲の冒頭「Like Someone in Love」がこのアルバムの雰囲気を代表している。美しくドラマティックな展開のアレンジが秀逸。叙情的でリリカルなモード・ジャズが、意外とジャズ・メッセンジャーズの「別の側面」を聴いてりう様で実に良い。

熱くエネルギッシュでバップな演奏ばかりでは無い。こういった叙情的でリリカルなモード・ジャズもこともなげに、上質に演奏に仕立て上げるところは、この時代のジャズ・メッセンジャーズのポテンシャルの高さを物語る。

この『A Night In Tunisia』は、4049番『A Night In Tunisia』と併せて聴いて、その魅力は倍増する。「動」な演奏と「静」な演奏との対比も美しいし、「ショーターの考えるモード・ジャズ」が完成の域に達していることを確認できるのも、この盤のメリットだろう。
 
 

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2024年10月27日 (日曜日)

”暗黒時代の音” では無いですね

ホレス・シルヴァーと袂を分かって、ブレイキー単独となったメッセンジャーズ。ブルーノートに移籍してブレイクする前のアルバム群。以前のジャズ盤評論としては「ブレイク前のメッセンジャーズの暗黒時代」とされる時代のアルバム達。しかし、そうだろうか。僕はこのアルバムを実際に自分の耳で聴いて、この盤は決して「暗黒時代」の音では無い、と判断している。

Art Blakey & The Jazz Messengers『Ritual』(写真)。1957年1月14日と2月11日、NYでの録音。Pacific Jazzからのリリース。ちなみにパーソネルは、Jackie McLean (as), Bill Hardiman (tp), Sam Dockery (p), Spanky DeBrest (b), Art Blakey (ds)。

ジャズ・メッセンジャーズに、若き日の「常に前進するアルト・サックス奏者、ジャキー・マクリーン」が参加している。フロントのトランペットにビル・ハードマン。ピアノとベースはマイナーな存在。クインテット編成なんだが、まず、このマイナーな存在のピアノとベースの存在が「暗黒時代」を想起させるのかもしれない。

しかし、実際の音を聴いてみると、意外とマイナーな存在のピアノとベースは健闘している。目を見張るようなテクニックを駆使してバリバリ弾きまくる訳ではないのだが、グループサウンド全体から見て、ピアノとベースの存在が邪魔になったり、耳障りになったりしている訳では無い。水準レベルのパフォーマンスで、リズム隊の必要最低限の仕事は堅実にやっている。少なくとも、ブレイキーのドラミングにちゃんと、ついていっている。
 

Art-blakey-the-jazz-messengersritual

 
ビル・ハードマンのトランペットがイマイチだ、なんて評価もあるが、イマイチで切り捨てるレベルでは無いと思う。このトランペットもしっかり水準レベルを維持していると思う。ブラウニーやモーガンの様に、ハイ・テクニックでバリバリ吹きまくるのでは無いが、出てくるトランペットの音は十分にブリリアントだし、少しヨレるところはあるが、ビ・バップなトランペットを水準レベルで吹き上げている。

逆に、この盤ではマクリーンが好調。マクリーンとブレイキーの相性がとても良い様で、ブレイキーのリズム&ビートの効果的なサポートと、マクリーンを鼓舞する様なドラミングが、マクリーンに響いて、マクリーンは独特なフレーズを紡ぎつつ、印象的なアルト・サックスを吹き上げる。

当然、ブレイキーのドラミングは良好。この盤を録音した時点で、既にブレイキーのドラミングの個性と特徴は確立されていて、ドラム・ソロなどを聴いていると、明らかに「これはブレイキー」と判るレベルに到達している。

まとめると、この盤はブレイキーとマクリーンを聴くべきアルバムである。が、残りの3人のパフォーマンスも水準レベルを維持していて、トータルとして、まずまずのハードバップなアルバムと僕は思う。何しか「メッセンジャーズの暗黒時代の演奏」と形容するのは、ちょっとこの演奏を担ったメンバーに対して、ちょっと失礼では無いかと思う。
 
 
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2024年10月19日 (土曜日)

僕なりの超名盤研究・34

今日で「僕なりのジャズ超名盤研究」シリーズの三日連続の記事化。小川隆夫さん著の『ジャズ超名盤研究』の超名盤を参考にさせていただきつつ、「僕なりのジャズ超名盤研究」をまとめてみようと思い立って、はや3年。やっと第1巻の終わりである。

ジャズを本格的に聴き始めたのが1978年の春。フュージョン・ジャズの名盤の何枚かと、純ジャズのアルバム、MJQ『Pylamid』、 Herbie Hancock『Maiden Voyage』を聴かせてもらって、フュージョン・ジャズのアルバムも良かったが、特に、純ジャズの2枚については、いたく感動したのを覚えている。

そして、友人の家からの帰り道、久保田高司「モダン・ジャズ・レコード・コレクション」を買い求めて、ジャズ盤コレクションの道に足を踏み入れた。ハービー・ハンコックについては、FMレコパルの記事でその名前は知っていたので、まずはハンコックのアルバムの収集を始めた。

そこで、まず最初に手にしたのが、Herbie Hancockの『V.S.O.P.』。アコ・ハンコックとエレ・ハンコックの2つの側面をLP1枚ずつにまとめた名盤なのだが、僕はこの「アコースティックな純ジャズ」の演奏が実に気に入った。

このアコ・ハンコックのユニットは「V.S.O.P.」=「Very Special Onetime Performance」と命名された。ニューポート・ジャズ・フェスティバルに出演の折、ハービー・ハンコックがマイルスの黄金クインテットを再現することで、マイルスのカムバックを促す予定が、直前で肝心のマイルスがドタキャン。仕方なく、フレディ・ハバードを迎えて結成したこのV.S.O.P.クインテット。本来一1回きりの結成のはずが、予想外の好評に継続して活動することになる。

V.S.O.P.『Tempest in the Colosseum』(写真)。邦題は『熱狂のコロシアム』。1977年7月23日、東京の田園コロシアムでのライブ録音。ちなみにパーソネルは、Herbie Hancock (p), Wayne Shorter (ts, ss), Freddie Hubbard (tp), Ron Carter (b), Tony Williams (ds)。伝説の「V.S.O.P.」ユニットである。
 
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V.S.O.P.名義のアルバムは、他に2枚、V.S.O.P.『The Quintet』(1977年7月録音)、V.S.O.P.『Live Under the Sky』(1979年7月26日、27日録音) があるが、この『Tempest in the Colosseum』の出来が一番良い。USAツアーの後の日本公演だけに、メンバーそれぞれの演奏もこなれて、十分なリハーサルを積んだ状態になっているようで、この日本公演のライヴ録音の内容は秀逸である。

ライヴアルバムとしての編集も良好で、この『Tempest in the Colosseum』が一番ライヴらしい、臨場感溢れる録音〜編集をしている。演奏自体も変に編集することなく、トニー・ウィリアムスの多彩なポリリズムが凄まじい長尺のドラムソロや、ロン・カーターのブヨンブヨンとしているが、高度なアプローチが素晴らしい長尺のベースソロも、しっかり余すことなく収録されているみたいで、ライヴそのものを追体験できる感じの内容が秀逸。

演奏自体も内容は非常に優れていて、この「V.S.O.P.」の演奏が、ノスタルジックな「昔の名前で出ています」風に、1960年代中盤〜後半の演奏をなぞった「懐メロ」な演奏になっていないところが良い。この演奏メンバー5人の強い矜持を感じる。当時として、モードの新しい響きがそこかしこに見え隠れし、この5人のメンバーは、マイルス後も鍛錬怠りなく、確実にモード・ジャズを深化させていたことを物語る。

収録されたどの曲も内容のある良い演奏だが、特にラストのハバード作「Red Clay」が格好良い。ジャズ・ロック風のテーマに対して、インプロビゼーション部になると、メンバー全員が「モード奏法」で襲いかかる。凄い迫力、凄いテンション、そして、印象あるフレーズの連発。

このライヴ盤は、1970年代後半の純ジャズが、どれだけ高度なレベルで維持されていたか、ということが如実に理解できる内容になっている。この「V.S.O.P.」ユニットが切っ掛けとなって、純ジャズが「復古」し始める。

この「V.S.O.P.」ユニットは、純ジャズ復古のムーブメントの「最初の第一歩」となった伝説にユニットである。このユニットの演奏には、現代につながる「新しい」モード・ジャズの要素が散りばめられている。名盤である。
 
 

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2024年10月16日 (水曜日)

古澤良治郎 ”キジムナ” を聴く

まだまだ夏日が顔を出す、暖かいというか、蒸し暑い日が続く10月だが、真夏日以上という「酷暑」は去ったので、様々な類のジャズを聴く時間が増えた。特に、この10月は、何故だか判らないが、和フュージョンと合わせて、和ジャズの名盤・好盤を探索したり、聴き直したり。特に、学生時代から、若き社会人時代に聴きまくった盤を聴くことが多い。

古澤良治郎『キジムナ』(写真左)。1979年10月16~20日、東京、日本コロムビア第1スタジオでの録音。BETTER DAYSレーベルからのリリース。

ちなみにパーソネルは、古澤良治郎 (ds), 高橋知己 (ts, ss)、大口純一郎 (p), 廣木光一(g), 望月英明 (b) が、当時のレギュラー・クインテット。ここに、向井滋春 (tb), ペッカー (perc) らがゲスト参加している。

演奏全体の雰囲気は、メインストリーム志向のフュージョン・テイストな純ジャズ。もともと、リーダーでドラマーの古澤が、ジャンルの枠を超えて活動した、幅広い音楽センスの持ち主だったので、あまり、純ジャズとか、フュージョンとかに拘らず、当時、やりたい雰囲気のジャズをレギュラー・クインテットをメインに演奏した、という感じの「古澤印のコンテンポラリー・ジャズ」といったテイストだろうか。
 

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冒頭のボッサ・リズムに乗った「エミ(あなたへ)」の洗練された演奏が心地良い。洗練された古澤のリズム&ビートに乗って、高橋のサックスがいい音出して、大口のシンセが官能的フレーズを連発し、廣木のエレギのストロークがボッサなリズム&ビートを増幅する。この冒頭の1曲を聴いただけで、この盤は「隅におけない」と思わず構える。

2曲目のタイトル曲「キジムナ」は、望月の旋律を担う流麗なベース・ソロが素晴らしく、大口のリリカルのアコピが、静的なスピリチュアルな雰囲気を醸し出し、そこに、高橋のテナーとゲストの向井滋春のトロンボーンが、エモーショナルなソロを展開する。そんなフロントのパフォーマンスをガッチリ支える古澤のドラムは見事。

3曲目の「青い種族トゥアレグ」は、タイトでエモーショナルな古澤のドラムが大活躍する、「和製スピリチュアル・ジャズ」な名演。続く「ビーバー」は、和ジャズ独特の「乾いたファンクネス」漂う、ダンサフルでクール&ファンキーなグルーヴ満載のジャズ・ファンク。そして、ラストの「暖かな午後」は、コンテンポラリーで高速&爽快なカリプソ・チューン。

フュージョン全盛期における、我が国のコンテンポラリー・ジャズの名盤だと思います。久しぶりに聴き直したのですが、やっぱり「良い」。リリース当時、カセットにダビングして、折につけ、聴き流していたのを思い出しました。
 
 

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