キースにおいて、最も”困った”盤
キース・ジャレットを、単に「ジャズ・ピアニスト」とだけ捉えたら「怪我をする」。クラシック・ピアニストの顔もあるし、『Restoration Ruin』『Spirits』そして『No End』という「実験音楽サークル」(ジャズでもクラシックでもない)=「困ったちゃんなアルバム」に属する作品もある。しかし、これらを体験し、しっかり内容理解しないと、キース・ジャレットというジャズ・レジェンドとして偉大な1人を理解することは出来ない。
キースの初リーダー録音『Life Between the Exit Signs(邦題:人生二つの扉)』は、キース独特のボイシングで、キース独特の節回しが楽しめる曲と、フリー・インプロビゼーションをベースとした曲、ピアノとベースとドラムが対等な対話形式の曲などが、ごった煮になって、ひとつのアルバムに入っている。ジャズという範疇でやりたいことをやった、そんな感じのアルバムだった。
そして、セカンド・アルバムである。最初に断っておくが、この盤は「ジャズではない」。しかし、当時のキースのやりたかった音楽のひとつだったと思う。だから作った。このアトランティック・レコードの英断を称えるとともに、このアルバムがあったからこそ、ジャズの世界の中で、ピアニストのレジェンドの最高峰に位置する1人になったと言える。
Keith Jarrett『Restoration Ruin』(写真左)。1968年3月12日の録音。ちなみにパーソネルは、Keith Jarrett (vo, g, harmonica, ss, recorder, p, org el-b, ds, tambourine, sistrum), Unidentified string quartet (tracks 1,3,5,9)。『Restoration Ruin』は、キース・ジャレットが複数の楽器(ピアノ、オルガン、ギター、ソプラノサックス、ハーモニカ、リコーダー、ベースギター、ドラム、タンバリン、シストラムなど)を演奏し、自作の歌詞を歌ったアルバム。
ボーカルアルバムでありながら、キースはすべての楽器を演奏する。しかも、ジャズ・ボーカルなアルバムではない、フォーク・ロックなアルバムである。ボブ・ディランばりのイメージだが、いかんせん、はっきり言って「上手く無い」。特にボーカルは素人同然。アトランティックはよく、このアルバムをリリースした。まだまだ、キースが無名の時代だった頃の話だ。
楽器の演奏のレベルは及第点。でも、いかんせん、キャッチーなメロディーを持った楽曲が無い。フォーク・ソングとしては致命的な欠点。ボブ・ディランばりのフォーク・ロックなんて評価もよく目にするが、それはあまりに無責任な評価だろう。ボブ・ディランの足元にも及ばない。歌詞もちょっと和訳に挑戦してみたが、訳の判らないものばかり。
そもそも、このアルバムを、ジャズという音楽フィールドで評価するから無理があるし、的外れな賞賛に近い評価が散見されるのだ。はっきり言う。内容は良くない。フォーク・ロックとして評価しても及第点以下。この音源をアルバム化して世の中にリリースしたアトランティック・レコードの音に対する審美眼を疑わざるを得ない。
それでも、この盤は、である。キース・ジャレットという、ジャズ・ピアノのレジェンドの1人を評価するのには避けることの出来ない「大異色作」である。恐らく、当時、キースがやりたかった音楽の「大きな一つ」だったんだろう。だから、アルバム化を望んだ。そして、このアルバム以降、キースは、フォーク・ロックなアルバムを一切出していない。「やりたいこと」と「出来ること」がイコールで無いことを、このアルバムは証明している。
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