2024年12月 7日 (土曜日)

この盤聴いて ”ケンジ・ショック”

少し、メインストリームなジャズから外れて、1970年代後半から80年代前半の「日本のフュージョン」の話をしようと思う。人気の高かったフュージョン盤ではなく、ちょっとマニアックな玄人好みのアルバムに目を向けてみる。

大村憲司『Kenji Shock』(写真左)。1978年作品。LA録音。ちなみにパーソネルは、大村 憲司 (g), Steve Lukather (g), Greg Mathieson, David Paich (key), Mike Porcaro, Alphonso Johnson (b), Jeff Porcaro (ds) etc.。伝説の「和クロスオーバー&フュージョン・ギタリスト」大村憲司の2nd.アルバム。

プロデュースはハービー・メイソン(Harvey Mason)。大村憲司の1st.アルバム『First Step』のリリースを待たずに、急遽、LAで録音。その為、全8曲中、1st.アルバム『First Step』と重なる曲が3曲、それ以外でも深町純のアルバムで演奏したものが2曲収録されている。純粋にこの2nd.アルバムの為に用意されたのは残りの3曲のみ。

急造感は否めないが、演奏メンバーは異なるので、演奏のテイストも当然異なる。流石にこちらは「LAフュージョン寄り」といった雰囲気で、これはこれで名演。

演奏メンバーについては、パーソネルを見渡すと、クロスオーバー&フュージョン+AOR畑の名うてのミュージシャンがズラリと名を連ねている。名を連ねているだけでなく、相当ハイテクでエグい演奏を繰り広げていて、聴いていて思わず「仰け反る」箇所がいくつもある。
 

Kenji-shock  

 
そんな中、大村憲司のギターは突出して絶品で個性的。演奏自体は、クロスオーバー&フュージョンのテイストだが、LAで録音しているにも関わらず、米国西海岸フュージョンの雰囲気に染まらず、あくまで、ファンクネス希薄、テクニックに頼らない流麗でキャッチャーなフレーズ、マイナーに偏らずポップでポジティヴな弾き回し。いわゆる、和クロスオーバー&フュージョンなギターの音がたまらなく良い。

そして、プロデューサーは、さすがの「ハービー・メイソン」。米国西海岸フュージョン風にアルバムをアレンジするのは容易かったのだろうが、大村憲司の、和クロスオーバー&フュージョンなギターの音を活かすべく、和クロスオーバー&フュージョンな音作りに舵を切っている。そして、それにバッチリ応えるバックバンドの名うてのミュージシャン達。全8曲、全て、素晴らしい演奏、和クロスオーバー&フュージョンなグルーヴで埋め尽くされている。

実は僕は「大村憲司」というギタリストの名前を、FMを通じて、この盤で知った。聴いてビックリ、タイトル通り「ケンジ・ショック」である(笑)。

最初は、米国西海岸フュージョンに新しいギタリストが出現したと思った。しかし、音のテイストが違う。ファンクネス希薄、テクニックに頼らない流麗でキャッチャーなフレーズ、マイナーに偏らずポップでポジティヴな弾き回し。そして、FMでギタリストの名前を聞いて二度ビックリ「知らん名前や」(笑)。

かなりマイナーな存在で、以前は音源入手が非常に困難な時期がありました、が、今では、音楽のサブスクサイトからダウンロードして聴くことのできる環境になりました。大袈裟ではなく、このアルバムは、日本のクロスオーバー&フュージョンの名盤の一枚でしょう。
 
 

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2024年11月19日 (火曜日)

好盤・八木のぶお ”Mi Mi Africa”

日本のクロスオーバー&フュージョン・ジャズは、米国や欧州とは異なる独自の深化を遂げてきた様に思う。まず、ファンクネスは皆無、もしくは、我が国独自の乾いた爽やかなファンクネス。演奏テクニックは高度。R&B志向、ソウル志向はほとんど無く、ジャズとロックとのクロスオーバー、ジャズとAORとのクロスオーバーがメイン。そこに、ソフト&メロウ&スムースが添加されると「和フュージョン」。

八木のぶお『Mi Mi Africa』(写真左)。1979年の作品。ちなみにパーソネルは、八木のぶお (harmonica), 村上ポンタ秀一 (ds), 高橋ゲタ夫 (b), 安川ひろし (g), 倉田 信雄, 小笠原 寛 (key), ペッカー (perc), Rockwell Allstars (cho)。我が国を代表するハーモニカ奏者「八木のぶお」の初リーダー作。

よく見れば、兵士が肩から掛けているベルトリンクには弾薬ではなく、タイプの異なるハープ各種。そんなジャケットを見たら、何を狙ったクロスオーバー・ジャズなのか、皆目、見当がつかない。タイトルを見れば、いわゆるアフロ志向のクロスオーバー・ジャズなのかな、と思う。アフロ志向のクロスオーバー・ジャズといえば、渡辺貞夫『Kenya Ya Africa』を想起する。あの頃の渡辺貞夫は、アフリカ音楽志向だったなあ、とぼんやり思ったりする。

さて、この盤、ネットでの紹介キャッチが「母なる大地アフリカをテーマにミュージシャンそれぞれが想うアフリカを表現した企画盤」とあるように、確かに、基本、アフロ志向のクロスオーバー・ジャズの好盤である。
 

Mi-mi-africa

 
出だしは、アフリカンなグルーヴ溢れるパーカッションが出てきて、「いかにも」って感じになるのだが、すぐに、和ジャズ独特の乾いた爽やかなファンクネスと、現代のアフリカのイメージなのか、どこかアーバンな洗練されたグルーヴに乗ったリズム&ビートに変わって、それをバックに、八木のハーモニカが入ってくる。演奏全体のイメージは、やはり「アフロ志向のクロスオーバー・ジャズ」。

この冒頭のタイトル曲「Mi Mi Africa」のアフロな躍動感溢れるリズム&ビートが、アルバム全体の音志向を決定つけている。全編に渡って、情熱的な八木のハーモニカが秀逸。印象的なベースのイントロから入る、メロウ・グルーヴの「愛のテーマ」などは「アフロ志向のフュージョン」と言った趣き。

村上ポンタ秀一 (ds), 高橋ゲタ夫 (b), ペッカー (perc) からなるリズム隊が効いている。よくよく聴き耳を立てると、アフロなリズムだけでなく、ラテンのリズム、サンバのリズムが織り交ぜられている。これが、このアルバムの音世界が、どっぷり、ありがちな「アフロなクロスオーバー」に浸りきることを押し留め、あくまで、フラットな和製クロスオーバー&フュージョンのパフォーマンスに仕立て上げている。

アフロは演奏への「色づけ」にとどめ、芯は「フラットな和製クロスオーバー&フュージョン」。こんな、内容の濃い、洒落たクロスオーバー&フュージョン盤が、1979年にリリースされていたとは改めて驚く。日本のクロスオーバー&フュージョン・ジャズは全く隅におけない。
 
 

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2024年11月 3日 (日曜日)

聴くべきは古澤のドラミング

1970年代後半から80年代前半にかけて、我が国のジャズ・シーンは、フュージョン・ジャズの大流行に並行して、メインストリームな和ジャズが、クロスオーバー志向を強めた異種格闘技な演奏展開や、フリー&スピリチュアル・ジャズの強化、という、米国や欧州とは異なる、独自の深化と分化を遂げていたように思う。

『12,617.4km 古澤良治郎の世界ライヴ』(写真左)。1980年の作品。ちなみにパーソネルは、古澤良治郎 (ds), 高橋知己 (ts), 廣木光一 (g), 大口純一郎 (p), 望月英明 (b) のレギュラー・バンドに、ゲストとして、山下洋輔 (p), 森山威男 (ds), 川端民生 (b), 大徳俊幸 (p), 向井滋春 (tb), 渡辺香津美 (g), 本多俊之 (as), 明田川荘之 (p), 三上寛 (vo, g) が入るという、錚々たるメンバーでのライヴである。

不思議な音世界のライヴである。ジャズを中心に置いてはいるが、他のジャンルの音と積極的にクロスオーバーした「異種格闘技」風の中身の濃い演奏がてんこ盛り。広い意味で「クロスオーバーな純ジャズ」だが、正当な内容の厚い、完全フリーな演奏もあって、ここまでくると、クロスオーバーというよりは、純ジャズをベースにした異種格闘技なジャム・セッションと形容して良いかもしれない。
 

126174km

 
ロックと融合したクロスオーバー・ジャズな展開もあれば、モーダルなジャズの展開もあり、どフリーでスピリチュアルな演奏もあれば、グルーヴィーな響きもあり、遂には、フォーク界の人と思われる三上寛が参加して、エモーショナルなボーカルで叫ぶ。一体何なんだ、この音世界は。ただ、演奏するミュージシャンが一流どころばかりなので、破綻がない。自らの得意とするジャンルの音をバンバン出しているのだから、悪かろうはずがない。

一番感心するのは、純ジャズをベースにした異種格闘技なジャム・セッションの中、様々なジャンル、様々な演奏トレンドの、それぞれ全く異なる内容にも関わらず、古澤のドラミングは揺るがないこと。どころか、その様々なジャンル、様々な演奏トレンドに適したドラミングを叩き出し、演奏全体のリズム&ビートをコントロールし、フロント楽器を鼓舞する。そして、この古澤の揺るぎないドラミングのお陰で、様々なジャンル、様々な演奏トレンドが詰まったライヴながら、アルバム全体に統一感が充満している。

古澤の柔軟で適応力抜群な、それでいて、個性はしっかりキープした、揺るぎのないドラミングは見事。このライヴは確かに、異種格闘技風のバラエティー溢れるゲストのパフォーマンスも魅力だが、やはり、聴くべきは古澤良治郎の見事なドラミングだろう。和ジャズに古澤あり。このライヴ盤を聴きながら、そんなことを強烈に再認識した。
 
 

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2024年10月16日 (水曜日)

古澤良治郎 ”キジムナ” を聴く

まだまだ夏日が顔を出す、暖かいというか、蒸し暑い日が続く10月だが、真夏日以上という「酷暑」は去ったので、様々な類のジャズを聴く時間が増えた。特に、この10月は、何故だか判らないが、和フュージョンと合わせて、和ジャズの名盤・好盤を探索したり、聴き直したり。特に、学生時代から、若き社会人時代に聴きまくった盤を聴くことが多い。

古澤良治郎『キジムナ』(写真左)。1979年10月16~20日、東京、日本コロムビア第1スタジオでの録音。BETTER DAYSレーベルからのリリース。

ちなみにパーソネルは、古澤良治郎 (ds), 高橋知己 (ts, ss)、大口純一郎 (p), 廣木光一(g), 望月英明 (b) が、当時のレギュラー・クインテット。ここに、向井滋春 (tb), ペッカー (perc) らがゲスト参加している。

演奏全体の雰囲気は、メインストリーム志向のフュージョン・テイストな純ジャズ。もともと、リーダーでドラマーの古澤が、ジャンルの枠を超えて活動した、幅広い音楽センスの持ち主だったので、あまり、純ジャズとか、フュージョンとかに拘らず、当時、やりたい雰囲気のジャズをレギュラー・クインテットをメインに演奏した、という感じの「古澤印のコンテンポラリー・ジャズ」といったテイストだろうか。
 

Photo_20241016195001

 
冒頭のボッサ・リズムに乗った「エミ(あなたへ)」の洗練された演奏が心地良い。洗練された古澤のリズム&ビートに乗って、高橋のサックスがいい音出して、大口のシンセが官能的フレーズを連発し、廣木のエレギのストロークがボッサなリズム&ビートを増幅する。この冒頭の1曲を聴いただけで、この盤は「隅におけない」と思わず構える。

2曲目のタイトル曲「キジムナ」は、望月の旋律を担う流麗なベース・ソロが素晴らしく、大口のリリカルのアコピが、静的なスピリチュアルな雰囲気を醸し出し、そこに、高橋のテナーとゲストの向井滋春のトロンボーンが、エモーショナルなソロを展開する。そんなフロントのパフォーマンスをガッチリ支える古澤のドラムは見事。

3曲目の「青い種族トゥアレグ」は、タイトでエモーショナルな古澤のドラムが大活躍する、「和製スピリチュアル・ジャズ」な名演。続く「ビーバー」は、和ジャズ独特の「乾いたファンクネス」漂う、ダンサフルでクール&ファンキーなグルーヴ満載のジャズ・ファンク。そして、ラストの「暖かな午後」は、コンテンポラリーで高速&爽快なカリプソ・チューン。

フュージョン全盛期における、我が国のコンテンポラリー・ジャズの名盤だと思います。久しぶりに聴き直したのですが、やっぱり「良い」。リリース当時、カセットにダビングして、折につけ、聴き流していたのを思い出しました。
 
 

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2024年10月15日 (火曜日)

ゼロ戦『アスファルト』を語る

フュージョン・ジャズ時代、そのアルバムの成り立ちが変わっている例として、高中正義『オン・ギター』をご紹介した(2024年10月10日 のブログ記事・左をクリック)。この『オン・ギター』は、ギター教則本の付属レコードとして発表されたものだった。

ゼロ戦『アスファルト』(写真左)。1976年の作品。ちなみにパーソネルは、大谷和夫 (key), 長岡道夫 (b), 鈴木正夫 (ds), 佐野光利 (g), 菜花敦 (perc) 花野裕子 (vo)。バンド名が「ゼロ戦」。ユニークなバンド名なので、今でも記憶にある。なんせ、この「ゼロ戦」というバンド、そもそもが、オーディオ・システム・チェック・レコード向けに組まれた特殊プロジェクトである。

帯紙のキャッチが「録音、演奏技術の粋を集めた音高質を誇るアルバムついに完成 !!」。アルバムの頭に「オーディオ・コンポ・チェック・シリーズ」とある。そう、このアルバム、「いしだかつのり」を中心としたプロジェクト「ゼロ戦」の '76オーディオ・コンポ・チェック・レコード第一弾である。

この「ゼロ戦」のファースト盤は、友人が持っていた。「オーディオ・コンポ・チェック・シリーズ」だから。お前に貸すから、自前のオーディオ・システムをチェックしろ、と言う。学生時代、貧乏だったので、必要最低限のシステム・コンポだったが、この盤をかけてみたら良い音がした。そのまま、レコードを返すのは惜しいので、上等なカセットにダビングして返した。よって、この盤、フュージョン全盛期にリアルタイムで聴いている。
 

Photo_20241015224701

 
オーディオ・システムのチェック用のアルバムとはいえ、内容は一級品。今回、CDで初めて復刻されたが、復刻のきっかけが「いわゆるクラブDJたちによって再評価が進んだ、レア・グルーヴ系フュージョン作品」の一部だったこと。確かに、この盤の音は、1976年当時に流行っていた、クロスオーバー&フュージョンとはちょっと違う、グルーヴ感豊かな、後のレア・グルーヴ志向の音をしていたように思う。

曲の冒頭から、タイトなドラム・ブレイク炸裂のジャズ・ファンク「サーキット」、叩きまくるドラム、ブンブン・ベースのラインが格好良いジャズ・ファンク「"スクランブル」、ミッド・テンポが心地よいフュージョン・チューン「スパニッシュ・フライ」、オーディオ・チェック用であろう、中盤のパーカッション・ブレイクが爽快な「ハンド・スラップ」、途中リズムがラテン調に変わる変則ラテン・フュージョンの「ペーパー・ドライバー」などなど。

サウンド的に、当時の和クロスオーバー&フュージョンとは一線を画した、ソフト&メロウとは全く無縁の、グルーヴ感溢れる強烈なサウンド。オーディオ・チェック用であろう、タイトで強靭なリズム&ビートが飛んだり跳ねたりのジャズ・ファンクがメインの音作りだが、ファンクネスが希薄な、乾いた切れ味の良いオフビートが、いかにも「和フュージョン」らしい。

「オーディオ・コンポ・チェック・レコード」ではあるが、単体のアルバムとして、十分に評価できる「和フュージョン」の好盤です。2017年にCDリイシューされた時はビックリしました。そして、今では、音楽のサブスク・サイトにも音源アップされているみたいで、良い時代になったもんです(笑)。
 
 

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2024年10月14日 (月曜日)

阿川の ”フュージョン・ボーカル”

フュージョン・ジャズの時代、インスト中心のアルバム作りが主流で、ボーカルがメインのアルバムは少なかった。ボーカル入りのアルバムはあったが、どちらかと言えば、ファンクネスな要素の彩りが欲しい時の「ソウル、R&B志向のボーカル」で、フュージョン・ジャズとして、「ボーカリストの歌を聴かせる」盤は希少だった。

阿川泰子『Lady September』(写真左)。1985年6~7月、東京での録音。ちなみにパーソネルは、バック・バンドとして、当時の阿川泰子のレギュラーバンドだった「松木恒秀グループ」、ブラジルから迎えたグループ「カメラータ・カリオカ」、吉田和雄率いる「スピック&スパン」が分担して担当している。

ボーカルはもちろん、阿川泰子。アレンジは野力奏一、吉田和雄、小林修が担当。このアルバムのメイン・コンセプトは「ノスタルジックなボサノバ」をメインとした、ブラジリアン・フュージョン。

バック・バンドの演奏は、フュージョン・ジャズど真ん中な演奏で、完璧フュージョンなバック・バンドのサポートを得て、阿川泰子が気持ちよさそうに、ボサノバ曲を唄い上げていく。

耽美的で流麗なシンセの前奏が、いかにも1980年代半ばの「フュージョン・ジャズ」という雰囲気がとても良い、アコギやベースを従えての、冒頭のイヴァン・リンスの「Velas(September)」が、このアルバム全体の雰囲気を代表している。
 

Lady-september

 
2曲目「When You Smiled At Me」は、8ビートな爽快感溢れるボサノバ&サンバなグルーヴが心地良いアップ系だが、ファンクネスはほとんど感じられない、それでいて、小気味の良いオフビートが、演奏全体の疾走感をさらに増幅させる。典型的な「和フュージョン」な音作りで耳に馴染む。

3曲目の「Voo Doo」は、どこかディスコ・フュージョンっぽいアレンジがユニーク。4曲目「If You Never Come To Me」は、スローなボサノバ曲で、アコギの伴奏が。アコギのソロが沁みる。8曲目の「I’m Waiting」でも、松木恒秀の印象的なアコギ・ソロが聴ける。この盤の伴奏、アコギの音色が実に印象的。

フュージョンど真ん中のバック・バンドの演奏だが、テクニックに優れ、内容は濃い。伴奏だけに耳を傾けても、十分にその伴奏テクニックを堪能できる優れもの。そこに、ライトな正統派ボーカルの阿川泰子がしっとりと力強く唄い上げていく。聴き応え良好。収録されたどの曲でも、阿川のボーカルが映えに映える。アレンジ担当の面々の面目躍如であろう。

阿川のライトなジャズ・ボーカルの質、バックバンドの演奏の質、そして、その二つを効果的に結びつけるアレンジの質。この「3つの質」がバッチリ揃った、フュージョン志向の「ボーカリストの歌を聴かせる」盤として、優秀なアルバムだと僕は評価してます。

バブル全盛時代にリリースされた、美人シンガーの「フュージョン・ボーカル」盤なので、何かと「色眼鏡」で見られるが、内容はしっかりとしている。ながらジャズに最適かな。いやいや、対峙してジックリ聴いても、聴き応えのある好盤です。
 
 

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2024年10月13日 (日曜日)

野呂一生のファースト・ソロ盤

我が国を代表するクロスオーバー&フュージョン・バンドである「カシオペア」。意外と超ストイックなバンドで、結成時(1976年)から1989年までの野呂一生・櫻井哲夫・向谷実・神保彰によるメンバーでの第1期の活動の中で、10年以上、常にカシオペアはグループとしての活動を優先、ソロ活動は一切御法度という厳しい規律の上でバンド運営されていた。

1985年〜1986年、当初から期間を厳格に定めてソロ活動を容認したが、そのソロ活動も各自のソロアルバムを制作するだけに留める厳しいもの。しかし、その最初のソロ活動の中で、当時の我が国のフュージョン事情をよく反映させた、優れたソロ・アルバムが各メンバーからリリースされたのだから「さあ大変」(笑)。

野呂一生『Sweet Sphere』(写真左)。1985年5月のリリース。カシオペアのギタリスト野呂一生のファースト・ソロ・アルバム。パトリース・ラッシェンをはじめ、ネイザン・イースト、ジョン・ロビンソン、ポウリーニョ・ダ・コスタ、シーウインド・ホーンズといった一流ミュージシャンが参加したLA録音作。

1985年3月、野呂はロスの「スタジオ・サウンド」でレコーディングを開始。コーディネーターとして松居和が全面協力。またエンジニアは『EYES OF THE MIND』(1980年)でエンジニアを務めたピーター・チェイキンが担当。アルバムの音全体の「キメ」については、野呂とチェイキンのコラボでバッチリ決まっている。
 
Sweet-sphere
 
レコーディング方式としては、野呂が独りで作ってきた多重録音のデモ・テープとスコア譜を基に、演奏については、参加ミュージシャンの技量に任せる方法をとっている。これが正解だったみたいで、アルバム全体の雰囲気が、ハリのある爽快感溢れる西海岸フュージョン志向の「和フュージョン」なサウンドに仕上がっている。これが実に心地良い。

「和フュージョン」と言っても、野呂が所属するカシオペア・サウンドを前提としているのでは無く、あくまで、野呂オリジナルの「少しラフで、スムースで、爽快感&疾走感溢れる」L.A.テイストな「和フュージョン」なのが良い。それでないと、わざわざ、LAまで出向いて、ソロ・アルバムを制作する意味が無い。

演奏全体の雰囲気は、カシオペアの時の様に、アドリブ・ソロを弾きまくる展開はかなり少なく、バンド演奏全体のアンサンブル重視なのも、ソロ・アルバムならではの面白い変化。米国フュージョンっぽい、ボーカル入り曲や女性コーラスをあしらった曲もあって、1980年代前半の米国フュージョン・シーンの音をダイレクトに反映している。

アルバムの内容は、極上の「1980年代前半のフュージョン・ジャズ」。ファンクネスが希薄で乾いているところが、いかにも「和フュージョン」のテイストで、このアルバムを通して聴くと、1980年代前半の米国フュージョン盤そのものとは思えない。しっかりと、野呂オリジナルの「和フュージョン」のテイストが織り込まれていて、これが実に効いている。1980年代の「和フュージョン」の傑作の一枚でしょう。好盤です。
 
 
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2024年10月 2日 (水曜日)

向谷ならではのフュージョン盤

我が国を代表するクロスオーバー&フュージョン・バンドである「カシオペア」。結成時から1989年までの野呂一生・櫻井哲夫・向谷実・神保彰によるメンバーでの活動の第1期の中、常にカシオペアはグループとしての活動を優先した為、1985年〜1986年、当初から期間を厳格に定めてソロ活動を展開したが、そのソロ活動も各自のソロアルバムを制作するだけに留めている。

向谷実『Welcome To Minoru's Land』(写真左)。1985年の録音、1986年のリリース。ちなみにパーソネルは、向井実がただ一人。向谷が、YAMAHA KX88, YAMAHA DX7, TX816×2, RX11, QX1, グランド・ピアノ, ROLAND TR-707, SBX-80, KORG SUPER PERCUSSION,MINI MOOG,EMULATOR II などを担当し、一人多重録音で制作した、向谷のソロ・アルバム第一弾。

当時最新のシーケンサーとリズムマシンを組み合わせての一人多重録音のアルバム。これをクロスオーバー&フュージョン・ジャズの範疇の音楽と認識した良いか、という議論があったが、採用されたリズム&ビートは、打ち込みであれ、ジャズを基本としたものなので、クロスオーバー&フュージョン・ジャズの範疇として、僕は取り扱っている。
 

Welcome-to-minorus-land

 
ややもすれば、カシオペア・サウンドの中で埋もれがちだった、向谷の持つ音楽性とキーボード・テクニックの高さ、そして、シンセサイザー及びシーケンサー、リズムマシンに対する理解度と応用力の高さが、音となって示された、ユニークなソロ・アルバム。当時の電気楽器は、デジタルに対応したばかりで音が薄く、無機質な音質傾向にあったが、その弱点を克服する多重録音のテクニックと、木琴やピアニカ等の楽器を活用し、アナログ的な温かみを感じさせる工夫は見事である。

カシオペアの音世界の雰囲気を漂わせつつ、カシオペア・サウンドよりもポップでシンプルで柔軟な音とフレーズで、向谷独自のサウンドを展開している。2曲目の「ASIA」では、東南アジアをメインとした各国の音をサンプリングして、多重録音で音のコラージュを聴かせてくれる。3曲目の「Take The SL Train」は、鉄道ファンである向谷の面目躍如的な名演で、SLの音をサンプリングして、走行時のレールのつなぎ目音をリズムの基本にした音作りには思わず「ニンマリ」。

サンバ・フュージョンの「Road Rhythm」、アンビエントな「Kakei」、向谷と二人の子供達の会話を交えた、ほんわかアットホームでポップなフュージョン曲「Family Land」。一人多重録音で、ポップでシンプルで柔軟な向谷独自のサウンドに彩られた演奏が聴いていて、とても楽しい。向谷ならではのユニークなクロスオーバー&フュージョンの好盤だと思います。
 
 

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2024年9月30日 (月曜日)

増尾好秋 ”Sunshine Avenue”

フュージョン・ジャズ全盛時代の1970年代後半、増尾好秋の『Sailing Wonder』、『Sunshine Avenue』、『Good Morning』の3枚のアルバムは、勝手に「増尾好秋のフュージョン3部作」と呼んで愛聴していた。机に向かって勉強するにも、麻雀するにも、いきつけの喫茶店で寛ぐにも、この「増尾好秋のフュージョン3部作」をヘビロテにしていた時期があった。

増尾好秋『Sunshine Avenue』(写真)。1979年の作品。ちなみにパーソネルは、Yoshiaki Masuo (el-g, ac-g, solina, perc), Victor Bruce Godsey (ac-p, el-p, clavinet, vo), T.M.Stevens (el-b, piccolo bass), Robbie Gonzales (ds), Charles Talerant (perc), Papo "Conga" Puerto (congas), Jorge Dalto (ac-p), Shirley Masuo (perc), Michael Chimes (harmonica)。

前作『Sailing Wonder』が、クロスオーバー&ジャズロック志向の素敵なアルバムだった。そして、次作『Good Morning』は、フュージョン・ジャズに傾倒した名盤だった。この間に位置する『Sunshine Avenue』は、増尾好秋の考える「ジャズ・ファンク、ジャズロック、R&B志向のフュージョン」が、ごった煮に収録されている。

ボーカル入りの演奏もあったりして、とっ散らかった雰囲気もあるのだが、増尾のギターの音色、フレーズに一貫性があって、この増尾のギターが、とっ散らかし気味の音志向の中で一本筋を通していて、この増尾のギター一本で、アルバム全体の統一感を司っているのだから、増尾のギターは、決して「隅におけない」。
 

Sunshine-avenue 

 
バックのメンバーは、『Sailing Wonder』の様な、フュージョン・ジャズの名うての名手達を集った、オールスターの「一過性」のセッション・メンバーでは無く、バンド・メンバーとして、一定期間、恒常的に活動し、共にバンド・サウンドを育み、バンド・サウンドを成熟させるメンバーを厳選した様である。

この『Sunshine Avenue』でのバンド・メンバー、T.M.スティーヴンス (b)、ヴィクター・ブルース (key)、ロビー・ゴンザレス (ds)、シャーリー増尾 (perc) は、次作『Good Morning』に、ほぼ継続されている。

VictorI Bruce Godsey (ac-p, el-p), T.M. Stevens (el-b, piccolo-b),Robbie Gonzales (ds, congas), Shirley Masud (perc), Dele (hammond-org), Margaret Ross (harp), Josan (back-vo)。

この厳選したバンド・メンバーで、当時のエレ・ジャズのトレンドであった「ジャズ・ファンク、ジャズロック、R&B志向のフュージョン」をやってみた、というのが、このアルバムの内容では無いだろうか。ちなみに、この『Sunshine Avenue』で培ったフュージョン・ジャズな音志向を、次作『Good Morning』にしっかり引き継いでいる。

興味深いのNY録音で、NYのメンバー中心の演奏なんだが、出てくる増尾好秋の考える「ジャズ・ファンク、ジャズロック、R&B志向のフュージョン」は、どれもが、ファンクネスは限りなくライト、歌心が溢れまくる流麗でキャッチャーなメロディー、軽めのオフビートとグルーヴなど、和フュージョン・ジャズの個性と特徴をしっかりと押さえていること。増尾のプロデュース力が、この盤でも存分に発揮されていて立派だ。
 
 

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2024年9月29日 (日曜日)

増尾の和フュージョンの名盤

1970年代後半から1980年代前半、和フュージョンの全盛期のギタリストと言えば、まずは「渡辺香津美」そして「増尾好秋」。この2人が代表格で、和フュージョンのギターを牽引していた印象が強い。特に、増尾好秋は、フュージョン・ジャズに転身しつつ、その演奏の軸足は「ジャズ」にしっかり残していた様に思う。

増尾好秋『Good Morning』(写真)。1979年の作品。ちなみにパーソネルは、Yoshiaki Masuo (g, perc, vo), Motoaki Masuo (g, syn), VictorI Bruce Godsey (ac-p, el-p), T.M. Stevens (el-b, piccolo-b),Robbie Gonzales (ds, congas), Shirley Masuo (perc), Dele (hammond-org), Margaret Ross (harp), Josan (back-vo)。

増尾好秋が一番、フュージョン・ジャズに傾倒した名盤。もともと、渡辺貞夫に認められ、1968年から1971年まで、渡辺貞夫のグループに在籍。1971年に渡米。1973年から1976年までソニー・ロリンズのバンドに在籍した、メインストリームな純ジャズ畑を歩いてきた増尾である。

いきなりコマーシャルに、ジャズロックへの転身や、他のジャンルとの融合に走ることなく、電気楽器を活かしたジャズを目指しつつ、8ビートや、フュージョン・ジャズの「肝」である「ソフト&メロウな音志向」の取り込みをしつつ、1970年度の終わりに、この盤の成果にたどり着いた。
 

Good-morning

 
増尾好秋の歌心溢れるギター・ワークと流麗なメロディ・センスが光る、内容の濃い、上質のフュージョン・ジャズ盤に仕上がっている。フュージョン・ジャズといえば、聴き心地の良い「ソフト&メロウ」な演奏、という印象が強いが、この盤はそれだけに留まらない。疾走感溢れるジャズロックな演奏もあれば、ハードバップ時代のジャム・セッションをエレでやった様な演奏もあって、バラエティーに富んでいる。

一番感心するのは、ほぼ、米国フュージョン畑の名手を招聘しているにも関わらず、ファンクネスは限りなくライト、歌心が溢れまくる流麗でキャッチャーなメロディー、軽めのオフビートとグルーヴなど、和フュージョン・ジャズの個性と特徴をしっかりと押さえていること。増尾好秋のセルフ・プロデュースとアレンジが、バッチリ効いている。

サイドマンに目を転じると、弟でサウスポーのギタリストである増尾元章の貢献が大きい。兄の義昭とギター合戦を演じたり、流麗でソフト&メロウな「フュージョンど真ん中」の楽曲を提供したりと貢献度大である。

「モンスター・ベース」と異名を取ったT.M.スティーヴンスのエレベの参加も効いている。ややもすれば、ソフト&メロウにどっぷり浸かりそうな、流麗なフュージョン・テイストのバラード曲に、粘りのあるソリッドなエレベのラインを差し込んで、意外と硬派な演奏に昇華させている貢献度は高い。

増尾好秋の歌心溢れるギター・ワークと流麗なメロディ・センス、加えて、セルフ・プロデュースとアレンジ、そして、優れたサイドマンの参加が功を奏した、和フュージョン・ジャズの名盤だと思う。
 
 

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