2026年5月 1日 (金曜日)

ジャパン・ミーツ・ジャズの一枚

このアルバムの副題は「ジャパン・ミーツ・ジャズ」で、独のMPS(SABA)レコードの「ジャズ・ミーツ・ザ・ワールド」シリーズの一作である。いわゆる「和洋折衷ジャズ’の好盤。3人の琴奏者(白根きぬ子、野坂恵子、宮本幸子)を加え、日本の伝統楽器である「琴」を本格的にジャズへ取り入れた斬新な構成が特徴。

白木秀雄『Sakura, Sakura』(写真左)。1965年11月1日、ベルリンでの録音。MPS(SABA)レコードからのリリース。ちなみにパーソネルは、Hideo Shiraki (ds), Terumasa Hino (tp), Takeru Muraoka (ts, fl), Yuzuru Sera (p), Hachiro Kurita (b), Keiko Nosaka (koto : A1, A3, B1, B3), Kinuko Shurane (koto ; 曲: A1, A3, B1, B3), Sachiko Miyamoto (b-koto : 曲: A1, B1, B3)。

英語表記では「Hideo Shiraki Quintet + 3 Koto Girls」とある。フロント2管に、日野皓正のトランペット、村岡 建のテナー&フルート、リズム隊に、世良譲のピアノ、栗田八郎のベース、白木秀雄のドラム。この白木がリーダーのクインテットに、琴奏者が3人入った、オクテット編成。「琴」が前面的に入った、わが国のジャズ独特の、和楽器「琴」と洋楽器の融合、メインストリーム志向のクロスオーバー・ジャズである。
 

Sakura-sakura

 
琴を単なる「和の飾り」としてではなく、モダン・ジャズのアンサンブルに深く組み込んでいて、「琴」をジャズ楽器の一つとして扱ったアレンジは特筆に値する。: 琴の「間(ま)」を活かしつつ、4ビートの上で琴が即興演奏を繰り広げる展開は、当時のジャズ界でも類を見ない実験性を保っている。八城一夫による編曲が素晴らしい。良く書けている。フルートを尺八の代替として、似せた音色で吹くのもユニーク。

演奏の基本は「モード・ジャズ」。冒頭の「さくらさくら」を聴けば良く判る。琴のアルペジオから始まり、次第に熱を帯びるモーダルな展開。2曲目の「よさこい節」は、日本の土着的なリズムをジャズのグルーヴに上手く変換。4曲目の白木オリジナルの「祭りの幻想」は新アレンジ。日本の祭囃子のリズムとジャズの融合がユニーク。そして、5曲目「Alone, Alone and Alone」は日野のオリジナル曲。この曲では琴を省いた白木クインテットだけの演奏になる。

単なる和風ジャズの枠を超え、当時の世界のジャズシーンに対する「日本からの回答」とも言える歴史的一枚で、米国の日本贔屓のジャズ者には堪えられない内容ではないだろうか。和楽器を活用しているとはいえ、しっかりとジャズしているところは大いに評価しても良い。ただし、琴が参加する必然性については「疑問」に感じるのは否めない。そういう意味で、この盤は普遍的なジャズ盤では無く、企画盤であり実験作なんだろう。
 
 

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2026年4月29日 (水曜日)

”新局面を迎える” 浅利史花です

プロ活動10周年を迎える浅利史花が、伝統的なオルガン・ジャズの系譜を受け継ぎながら、新たなステージへと踏み出した意欲作。これまでのキャリアを土台にしつつ、タイトルには、次の10年に向けて「新しいフェーズ(段階)」へ踏み出すという決意が込められている、とのこと。「伝統への敬意と、自分らしい新境地の融合」がテーマ。

Fumika Asari『Enter A New Phase』(写真左)。2026年4月のリリース。ちなみにパーソネルは、浅利史花 (g), 長田信慶 (org), 柳沼佑育 (ds), ゲストに, 江澤茜 (as, : trk 4,6,8)。 日本のジャズギタリスト、浅利史花(あさり ふみか)のサード・アルバム。基本はギター・オルガン・ドラムの「OGDトリオ」スタイルで、一部楽曲にサックスが加わる。

今作の最大の特徴は、全編を通してオルガン・ジャズのスタイルを採用している点。伝統的で一番基本となる、ピアノ入りのギター・カルテットをメインにやってきたが、端正なバップスタイルの浅利のギターがあまりに綺麗過ぎて、伝統的なピアノ入りギター・カルテットでは、ジャズ・ギター独特のアーバンでジャジーでファンキーな雰囲気が立ち上がってこない。
 

Fumika-asarienter-a-new-phase  

 
そこで、このギター・オルガン・ドラムの「OGDトリオ」スタイルである。まず、オルガンが効いている。オルガンのファンキーでジャジーなグルーヴが、浅利のギターにファンクネスをふんわり塗して、浅利のギターがよりジャジーに響く。この「OGDトリオ」スタイルの採用が、浅利のギターに新たな魅力を付加した。そんな雰囲気がダイレクトに伝わる内容。

収録曲はスタンダード・カバー4曲+浅利オリシナル4曲の全8曲を収録。オリジナル曲は、当然、浅利のギターが映える曲で良い感じなんだが、やはり、スタンダード曲の「You Don't Know What Love Is」や「I'll Close My Eyes」の彼女独特の解釈とアレンジが現代的でグッド。決して、過去の成果に引き摺られていないところがグッド。

江澤茜のアルト・サックスのゲスト参加も効いている。演奏全体のファンキー度が上がって、浅利の端正で流麗なギターが浮き出てくる様な、不思議なアレンジ効果を生んでいる。オルガンとアルト・サックスの参加で、浅利のギターにファンクネスがふんわり被って、浅利のギターが正統派ジャジーなバップ・ギターにステップアップしている。3枚目のリーダー作。浅利のギターはその個性を確立した感がある。
 
 

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2025年12月15日 (月曜日)

エリック・ミヤシロを認識する

エリック・ミヤシロは、1963年7月13日、米国のハワイ州生まれのトランペット(フリューゲルホルン)奏者。ミヤシロのトランペットの個性の一つ「ハイノート・ヒッター」としても知られる。また、ビッグバンドのEMバンドのリーダーでもある。2000年から2010年まで、リーダー作は5作。

Eric Miyashiro『Blue Horizon』(写真左)。2025年9月のリリース。ちなみにパーソネルは、エリック・ミヤシロ (tp), 本田雅人 (as), 中川英二郎 (tb), 川村竜 (b), 山本真央樹, 川口千里 (ds), 中川就登 (p) 等。スペシャル・ゲストも数多く参加。エリック・ミヤシロの15年ぶり通算6作目となる作品。

エリック・ミヤシロの名は、ほとんど覚えがない。なんせ、聞けば15年ぶりのリーダー作。その前作「Skydance」についても、どうにも耳にした覚えが無い。バークリー音楽大学出身にて、ミヤシロのトランペットの素性は確かなもののはず。冒頭のタイトル曲「Blue Horizon」を聴いて、そのミヤシロのトランペットの素性は、やはり、確かなものと確信する。

基本はしっかりとしたビッグバンド・アレンジの演奏の数々。ホーン・セクションがエネルギッシュで迫力抜群、整然としたユニゾン&ハーモニー。規律が取れ、それぞれの参加メンバーの高い演奏レベルで、切れ味の良いパフォーマンス。
 

Eric-miyashiroblue-horizon

 
ほど良いテンションが、演奏全体を引き締め、爽快感を醸し出している。とにかく、迫力がある割に、聴き易いバンド・サウンド。冒頭「Blue Horizon」から、7曲目「Back Stage Pass」まで、全曲、エリック・ミヤシロの自作曲。ラストの「Spain」だけ、チック・コリアの名曲のカヴァー。

自作曲の曲&アレンジが良好なので、ビッグバンド志向のバンド・パフォーマンスが映えに映える。チックの「Spain」のカヴァーも、ホーン・セクションを前面に押し出したアレンジが良好で、ダイナミックな曲想にしっかりと応えている。

ホーン・セクションのダイナミズムとスピード感がメインの、ビッグバンド志向の音作りは、他にありそうで無いユニークな内容。演奏全体の印象は、コンテンポラリーな「フュージョン・ビッグバンド」な音作り。エリック・ヤシロ本人は「ジャズ・オーケストラ」という表現をしているらしい。

ホーン・セクションが主役の「フュージョン・ビッグバンド」な音世界は、聴いていて流麗、聴いていてダイナミック、適度に耳に刺激が心地良く、意外と「ながら聴き」に適した佳作である。気軽に聴いて良き「フュージョン・ビッグバンド」な音である。
 
 

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2025年11月28日 (金曜日)

藤井郷子カルテットを聴き込む

「ジャズ・ピアニスト、山下洋輔、年内で演奏活動一時休止 休養へ」のニュースが流れて、案漠たる気持ちに包まれている。山下洋輔さんの諸作は、ジャズを本格的に聴き始めた頃から、頑張って耳にしてきた。この時、我が国のフリー・ジャズって、かなりレベルが高く、個性が突出している。日本のフリー・ジャズについては、時々ではあるが、しっかりと聴きこんでいる。

藤井郷子カルテット『Dog Days of Summer』(写真左)。2024年4月8日、東京 小岩での録音。ちなみにパーソネルは、藤井郷子 (p), 田村夏樹 (tp), 早川岳晴 (el-b), 吉田達也 (ds)。我が国のフリー&スピリチュアル・ジャズの鬼才、藤井鄕子の疾風怒濤、豪放磊落な、フリー&スピリチュアルなコンテンポラリー・ジャズのカルテット盤である。

それそれの楽器の切れ味が抜群。切れ味良く、鮮明で美しい、躍動感溢れるトランペット。切れ味良く、パーカッシヴに流麗に、不協和音を織り交ぜつつ、耽美的にリリカルにダイナミックにスピリチュアルに弾きまくるピアノ。切れ味良く、ソリッドな重低音ベースで、自由度溢れるパフォーマンスの底を支えるエレベ、そして、気味良く、演奏のリズム&ビートを、変幻自在、硬軟自在、緩急自在にを支えるドラム。切れ味の良い楽器が有機的に結合し、有機的にインタープレイを繰り広げる。
 

Dog-days-of-summer

 
トランペット、ベース、ドラムが、まるでファンファーレのようにアルバムの火蓋を切る幕開けから、バンド全体、強烈な一体感を持って、コンテンポラリーなメインストリーム・ジャズよろしく疾走する。バラードチックにチェンジ・オブ・ペースをすると、バンド全体、スピリチュアルで耽美的でリリカルなパフォーマンスを展開する。変幻自在。そして、アドリブ展開では、ところどころ、フリーに展開し、時にパーカッシヴに、時にスピリチュアルに、音の響きを使い分ける。

このカルテットのスピリチュアルなグルーヴは独特のもので、実に個性的。どこか、プログレッシヴ・ロック的なところもあるし、どこか、耽美的でリリカルなニュー・ジャズ的な響きもする。この即興演奏をベースとするスピリチュアルなグルーヴは、米国や甥州には無い個性的なもの。このグルーヴを堪能するだけでも、この盤を体験する意義がある。

実に個性的な音世界である。我が国を代表する、コンテンポラリーで、フリーで、スピリチュアルなジャズとして、この藤井郷子カルテットの音世界は隅に置けない。ジャズ、ロック、パンク、プログレ・・・ジャンルの垣根を越えた、コンテンポラリーで、フリーで、スピリチュアルな融合音楽。自由でありキャッチーであり規律溢れる現代のコンテンポラリー・ジャズの「今」を感じる事の出来る傑作だと思う。
 
 

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2025年11月20日 (木曜日)

新生カシオペア・サウンド降臨

デビュー当時のキャッチコピーである「スリル・スピード・スーパーテクニック」をモットーに、1979年の鮮烈なレコードデビュー以降、45年もの間、日本を代表するクロスオーバー&フュージョン・バンドでありつづける「カシオペア」。その「カシオペア」のニュー・アルバムが登場している。

CASIOPEA『True Blue』(写真左)。2025年の作品。ちなみにパーソネルは、野呂一生 (g), 安部潤 (key), 鳴瀬喜博 (b), 今井義頼 (ds)。12年間のカシオペア・サウンドを担っていた大髙清美が昨年暮れに卒業、2025年5月、新メンバーに安部潤を迎え、これを機に第5期グループ名をオリジナル表記の「CASIOPEA」に戻し、再出発した最初のアルバム。

まず、初期のCASIOPEAを思い出すようなサウンドになっている。1979年、デビュー当時は、若さ故の溌剌さ、尖ったエッジ、前掛かりのバカテク・フレーズが「ウリ」だったが、今回の新生「CASIOPEA」のサウンドは、サウンドのイメージとしては、確かにデビュー当時のイメージだが、演奏の質としては、明るくポジティヴ、音のエッジはほど良く角が取れていて、バカテク・フレーズには「余裕」が感じられる。
 

Casiopeatrue-blue

 
エレギとキーボードの音が同列でフロントを担うサウンドのアウトフレームは変わらない。キーボードが大高清美から安部潤に交代しているので、大高の独特の個性だった「プログレ色」は交代し、カシオペア初期のクロスオーバー・ジャズ志向の音に戻っている。これが「初期のCASIOPEAを思い出すようなサウンド」になっている大きな理由だろう。

収録曲全7曲、いずれも出来が良い。それと、サウンドがカラフルになった気がする。キーボード担当の安部潤は、ピアノやエレクトリックピアノなどがメインの音づくり。オルガン特有の歪みが無くなった分、キーボードの音がカラフルに響く。野呂一生のエレギはいつも通り。パワフルでバカテクで歌心があって、カシオペア・サウンドの大本をしっかりとグリップしている。

久し振りに新生カシオペアとなり、男性正規メンバー4人ユニットとなっての一枚目のアルバム。初期のカシオペア・サウンドが返って来た、と、旧来のファンからすると、諸手を挙げての大歓迎ムードだが、このままだと、懐古趣味に陥る危険性もある。次作以降、今度はどんなサウンドの変化が待っているのか、いないのか。次作である。次作こそが、新生「カシオペア」の真価が問われる、と僕は思っている。
 
 

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2025年11月14日 (金曜日)

山下洋輔トリオ”Dancing 古事記”

山下洋輔トリオが早稲田大学本部のバリケードの中で演奏する「バリケードの中のジャズ」という、当時のテレビの企画での演奏を録音したもの。学園紛争という「取り巻く時代」の話は全く抜きにして、純粋に、当時の「山下洋輔トリオ」のパフォーマンスのみをここでは語りたい。

山下洋輔トリオ『Dancing 古事記』。1969年7月「早稲田大学本部キャンパス8号館B1F」での録音。ちなみにパーソネルは、山下洋輔 (p), 中村誠一 (ts, ss), 森山威男 (ds), 彦由常宏 (演説 on trk.1) 。記念すべき「山下トリオ」のデビュー作。1971年、麿赤児と立松和平の自主制作LPとして発売。

冒頭、学園紛争名物「アジテーション」。今の人達にはなんだこれ、だろう。僕達には懐かしい響き。こういうアジテーションが学園紛争で前面に立っていた「闘士」達の主張のスタイルだった。で、続いて「テーマ」に弾き継がれる。ここからが、山下洋輔トリオの真骨頂。のっけから、山下トリオは疾走する。

山下洋輔のピアノは、いきなり「全力疾走」。凄まじいパワー、凄まじい指回し。緩み無く、拠れも無い。正確無比にフリーで創造的なフレーズを、全力疾走で弾きまくる。それに絡む森山威男の、これまた凄まじいドラミング。山下と森山のフリーでありながら整然としたインタープレイの中、中村誠一のサックスが乱入参戦。3者混然一体となった、凄まじい、フリーでありながら整然とした、即興演奏インタープレイが暴風雨の様に吹き荒れる。
 
Dancing  
 
続いて「木喰(もくじき)」。出だしのスピリチュアルで耽美的な、ゆったりとしたフレーズが美しい。そして、徐々に、山下トリオの真骨頂、3者混然一体となった、凄まじい、フリーでありながら整然とした、即興演奏インタープレイの音世界に突入していく。このアドリブ・フレーズの嵐における「イマージネーションの豊かさ」は特筆に値する。

無手勝流に、気の向くままに即興演奏インタープレイをしているのでは無い。しっかり、理路整然とイマージネーションを広げ、それをフリーな音に落とし込んで、即興インタープレイに展開する。フリーの演奏とはいえ、その演奏展開は「理知的」。そこが良い。

それと、以前からこれは強く感じているが、トリオを形成する3人のジャズマン。演奏力が半端ない。テクニック、歌心、正確さ、どれをとっても超一流の演奏力。この半端ない演奏力が、理知的で理路整然とした、フリーな即興インタープレイを可能としている。そして、この理知的で理路整然とした、フリーな即興インタープレイこそが、山下洋輔トリオの唯一無二の個性なのだ。

「ジャズ・ピアニスト、山下洋輔、年内で演奏活動一時休止 休養へ」のニュースが流れて、案漠たる気持ちに包まれている。報告文の最後に「長年にわたる山下洋輔へのご注目・応援、ありがとうございました」と書かれているのが気になる。そして、思わず、山下洋輔のパフォーマンス、和フリー&スピリチュアルな音世界を聴き直してみたくなった。その第一弾が、この『Dancing 古事記』であった。名盤である。
 
 

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2025年11月13日 (木曜日)

スピリチュアルな ”自画像” 盤

「ジャズ・ピアニスト、山下洋輔、年内で演奏活動一時休止 休養へ」のニュースが流れて、思わず「えっ」。最近、山下洋輔さんの話題を聞かないなあ、元気されてるのかなあ、とちょっと心配していたんだが、案の定である。報告文の最後に「長年にわたる山下洋輔へのご注目・応援、ありがとうございました」と書かれているのが気になるが。

ということで、我が国のフリー&スピリチュアル・ジャズを聴かねば、という想いに駆られ、昨日から、我が国のフリー&スピリチュアル・ジャズの名盤&好盤を選盤し、順番に聴き直している最中である。

鈴木勲『自画像』(写真左)。1980年の作品。Paddle Wheelからのリリース。ちなみにパーソネルは、鈴木勲(b, 他)。アルバムの宣伝文句を借りると「ウッドベース、ハモンドオルガン、ヴォコーダー、大正琴、二胡といった多種多様な楽器と自身のボーカルを、多重録音を駆使して重ね合わせ、たった一人の手で作り上げられた作品」。当時として、相当な「異色作、問題作」であろう。

特注のピッコロ・ベース、ウッド・ベース、ハモンド・オルガン、スピネット、ボコーダー、スキャット、大正琴、中国の二胡(胡弓)、風の音などを一人で多重録音した、フリー&スピリチュアル・ジャズな内容の秀作。多重録音として、実際の録音時には苦労しただろう、と思われる、多重録音でありながら、ジャズの「キモ」である、即興演奏な雰囲気を損なっていないところが凄い。
 
Photo_20251113202501  
 
20種類以上の楽器を繰って多重録音.歌までうたう、しかも、その内容は、当時として最先端の「フリー&スピリチュアル・ジャズ」。ジャズ者の間で賛否両論渦巻いたのは想像に難くない。当時の「ジャズの範疇」から大きく外れていたのだから仕方の無いことだが、今の耳で聴くと、意外と内容的に整った、創造性溢れる、コンテンポラリーな「スピリチュアル・ジャズ」に聴こえるから不思議だ。

当時のジャズの語法を全く無視した、官能的で感覚的で印象的な、多重録音による即興演奏。その響きはまさに「スピリチュアル」。フリーな展開もあるにはあるが、さすがに多重録音なので、完全フリーな展開は抑制されている。その分、ボコーダーやスキャット、そして、ハモンドオルガンを活用して、スピリチュアルな音要素を増強している。これが巧妙。これが、この異色作を「和スピリチュアル」な名盤たらしめている。

決して、アブストラクトでも、ストレンジでも無い。しっかりと、理路整然とフリー&スピリチュアル・ジャズしている。とにかく、様々な楽器の使い方が上手い。そして、その様々な楽器をしっかり統率し、一体とさせているのが、鈴木勲のベース。超弩級の重低音を鳴り響かせながら、スピリチュアルなリズム&ビートを弾き出している、

作曲、演奏のみならずジャケットアートワーク、ライナーノーツに至るまでを自身で手がけた、名実共に「自画像」な作品。ジャズというジャンルの中で、米国にも欧州にも無い、唯一無二な音世界。我が国のジャズ・シーン発信の、フリー&スピリチュアル・ジャズの名盤として良いと思う。
 
 

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2025年11月12日 (水曜日)

T-SQUARE ”TURN THE PAGE!”

T-SQUAREは、1976年11月に結成。1978年アルバム『Lucky Summer Lady』を発表し本格的に活動を開始。以降、一昨年リリースの「VENTO DE FELICIDADE 〜しあわせの風〜」までで50枚のアルバムをリリース。和クロスオーバー&フュージョン・バンドの草分けであり、代表格の一つであり、レジェンドでもある。ファーストアルバムのリリース以降、47年間、バンド・サウンドを都度、深化させているのは「見事」と言うほか無い。

T-SQUARE『TURN THE PAGE!』(写真左)。2025年の作品。ちなみにパーソネルは、伊東たけし (as, NuRAD), 亀山修哉 (g), 長谷川雄一 (p, key), 田中晋吾 (b), 坂東慧 (ds)。T-SQUAREの2年振り、51枚目のアルバム。 2025年6月4日にリリース。プロデューサーとして元キーボーディストの河野啓三が参加している。

タイトルの「TURN THE PAGE!」は「過去のことを整理して新たに始める」という意。この盤には、従来の「T-SQUARE」サウンドがてんこ盛り。冒頭の「君と歩こう」の出だしの数フレーズだけで、従来の「T-SQUARE」色の音と確信する。それほどまでに、個性的で、他が真似出来ない、真似しない、「T-SQUARE」固有の、唯一無二のサウンド。
 

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リズム&ビートのテンポも「T-SQUARE」らしい、ミッド・テンポが中心。音の傾向は、クロスオーバー&フュージョン。どちらかというと、ファンクネス皆無、ロック寄りのクロスオーバー&フュージョン。これも「T-SQUARE」らしい音傾向。特にキーボード・ワーク、そして、ベース&ドラムのリズム隊は「ロック志向のサウンド」がメイン。しかし、フロント楽器、サックス+ウィンド・シンセ、そして、エレギについては、クロスオーバー&フュージョン・ジャズ志向。これが、従来の「T-SQUARE」らしさ。

冒頭の「君と歩こう」は、新生T-SQUARE の、イントロで5人それぞれ登場という趣向の「名刺代わり」の1曲。2曲目の「Marmalade!」の爽快感はT-SQUAREならではのもの。3曲目の「琥珀色の時」は泣きのサックス大活躍のバラードだが、ファンクネスは皆無。5曲目の「Front Runner」は、明らかにロックからジャズへのアプローチ。ロック志向のクロスオーバー・サウンド。7曲目の「ULTRA」では、T-SQUARE のテクニックの高さを再認識等々、全曲、T-SQUAREらしさが満載。

メンバー編成については、本作から、ベースに田中晋吾、キーボードに長谷川雄一、ギターに亀山修哉が正式メンバーとして加入。バンド形態及び5人体制が復活。使用楽器については、伊藤たけしが、30年以上にわたってウィンド・シンセにEWIを使用していたが、このアルバムから、NuRAD(ニューラッド)を使用。バンドとしての「T-SQUARE」が、再び充実し始めている。目新しい何かがある訳では無いが、T-SQUARE の更なる深化がビンビンに感じられる秀作である。
 
 

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2025年11月 9日 (日曜日)

鈴木茂”White Heat”を久々に聴く

鈴木茂(すずき・しげる)。日本のギタリスト・レジェンドの1人。はっぴいえんど、ティン・パン・アレーなどのメンバーとしてギターを担当し、1975年には米国のミュージシャンを起用、ロスで録音した初ソロ盤『Band Wagon』dでソロ・デビュー。ソロ・デビュー当初から、ボーカル入り(これがあまり、でねえ・笑)のAOR志向の和フュージョンを追求していたが、1979年、このアルバムで、オール・インストルメンタルの「和フュージョン・ジャズ」なアルバムをリリースして、我々を驚かせた。

鈴木茂『White Heat』(写真左)。1979年の作品。ちなみにパーソネルは、鈴木茂 (g), 村岡建, 砂原俊三, Jake H.Concepcion (sax), 数原晋 (tp), 新井英治(tb), 坂本龍一, 佐藤準, 矢野顕子 (key), 小原礼, 後藤次利 (b), Robert Brill, 高橋幸宏 (ds), 浜口茂外也 (perc, fl), ペッカー (perc), ラリー寿永 (perc), Salita Escobar (vo)、バックに、The Ohno Strings (strings) が入る。ビクター期における、唯一のインストルメンタルを中心とした作品になる。

当時、自身でも「ギターのインストゥメンタルやってると煮詰まってくる」と語っていたのだが、この盤はインストルメンタルを中心とした作品。明らかに、大流行していて、フュージョン・ジャズの「ギター・フュージョン」をやって、一発当てようと思ったのか、どうなのか。とにかく、収録曲の質も良く、和フュージョン独特のアレンジも良好。鈴木茂のギターも大活躍とあって、このインストルメンタルを中心とした作品、なかなかの「和フュージョン」の秀作に仕上がっている。
 

White-heat 

 
冒頭「Hot Blooded」のギターの前奏から、このインストは米国系では無いと感じる。ファンクネス皆無な乾いたオフビート、独特なエコーとサスティーンが効いたギターの音色。米国にはない、フュージョン・テイストのインストで、しかも録音が良い。これは「和フュージョン」それも、1970年代後半から1980年代初頭の音作りと当たりを付ける。エレギの音色が独特で個性全開。これは鈴木茂、と確信する。

全体の音作りは、当時のソフト&メロウなフュージョン・サウンド。耳当たり、聴き心地の良い、上質のイージーリスニング志向のソフト&メロウなフュージョン・サウンド。フレーズがどこか米国フュージョンのイメージを借りてきている雰囲気なので、今の耳にはちょっと古さを感じるのが残念。それでも、鈴木茂のエレギは鳴りに鳴っているから、これだけでも、この盤は「買い」だろう。

バックのミュージシャンも、曲者優秀どころがズラリ。特に個性の強い、高橋幸宏のドラム、坂本龍一のキーボード、小原礼、後藤次利のベースは印象的に響く。1曲1曲の収録時間が4分前後、フェードアウトの多用が玉に瑕だが、それ以外は、水準以上の演奏で、和フュージョンの秀作の1枚、として問題無い、聴き甲斐のある、和フュージョンな1枚である。
 
 

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2025年11月 6日 (木曜日)

ジャス喫茶で流したい・305

僕が本格的にジャズを聴き始めたのが1978年。そして、その翌年、このアルバムを聴いた時、その時点での、その時代での日本のジャズは、世界のジャズに比肩するレベルにあることを初めて確信した。我が国の音楽は、西洋、欧州や米国の後塵を拝してきたイメージがあったが、ジャズは違う。そう感じさせてくれたアルバムがこれだった。

富樫雅彦 & 鈴木勲『陽光』(写真左)。1979年2月1-3日、東京での録音。ちなみにパーソネルは、富樫雅彦 (ds, perc, synth, solina), 鈴木勲( b, piccolo-b, cello, p, solina)。我が国の純ジャズ系ドラマーの鬼才レジェンド、富樫雅彦と、我が国のジャズ・ベーシストのレジェンド、鈴木勲とのデュオ盤。

富樫雅彦は本職はドラム、鈴木勲は本職はベース。ドラムとベースのデュオか。ちょっと地味な感じがして、聴いていて飽きなければ良いが、と思いつつ、レコードの針を落としたら、ほど無くピアノの音が滑り込んできたので、あれ、ドラムとベースのデュオじゃなかったか、とパーソネルを見ると、富樫がシンセサイザーを、鈴木がピアノとシンセサイザーを弾いていて、の多重録音。
 

Photo_20251106222001   

 
演奏の基本は、フリー〜スピリチュアル・ジャズ。フリーの部分は、米国東海岸の様な、激情に身を預けて、心の赴くまま、無勝手流に弾き散らすのでは無く、現代音楽のエッセンスを融合した、広がりと間を活かした即興演奏をベースとした、独特のフリー・ジャズ。演奏全体の透明度と間の静謐度の濃い演奏は、欧州のECMレコードに通じる、レベルの高いものだった。

理路整然としたフリーな演奏、その透明度の高さ、間の静謐度の高さは、和ジャズ独特の「侘び寂び」を基本とした、スピリチュアル・ジャズを表現している。リズム&ビートは即興をベースとしていて、この辺りは、ECMレコードの「ニュー・ジャズ」を展開を踏襲している様に感じるが、音の暖かさとカラフルさは、和ジャズ独特の「ニュー・ジャズ」である。

冒頭の「A Day Of The Sun」。シンセとピアノのイントロからサンバ・ビートに展開するスピリチュアル・ナンバー。このタイトル曲に代表される様に、この盤には、我が国独特のフリー〜スピリチュアル・ジャズが詰まっている。1979年度・スイング・ジャーナル誌ジャズ・ディスク大賞受賞作品。この大賞受賞は納得。世界のジャズに比肩する、アーティスティックな、ニュー・ジャズ志向のフリー〜スピリチュアル・ジャズでした。和ジャズの名盤の1枚でしょう。
 
 

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