2024年12月 2日 (月曜日)

この盤もグリーン後期の傑作

パッキパキ硬質でファンクネスだだ漏れなシングル・トーンのギターが個性のグラント・グリーン。グリーンの後期のギターの特色は「ファンクネスさらに濃厚」。とりわけファンキーなシングル・トーンで、彼独特のグルーヴを叩き出す。そんなグリーンの後期のリーダー作も好盤がどっさり。

Grant Green『The Final Comedown』(写真左)。1971年12月13–14日の録音。ちなみにパーソネルは、Grant Green (g), IPhil Bodner (fl, piccolo, as, oboe), Harold Vick (as, ts), Irving Markowitz, Marvin Stamm )tp, flh), George Devens (vib, timpani, perc), Richard Tee (p, org), Cornell Dupree (g), Gordon Edwards (el-b), Grady Tate (ds), Ralph MacDonald (conga, bongos), Warren Smith (marimba, tambourine)。ここに、ヴィオラ、チェロの弦楽器とハープが入る。

ブラックスプロイテーション(黒人による黒人のための映画)のサウンドトラック盤。グラント・グリーンとしては異色中の異色作になる。映画のサウンドトラックなので、あまり大きな音で目立つことはできない。バックの音と程よいバランスをとった、グリーンのギター。あまり目立たないが、ここ一発というところでは、ハッとするような、ファンクネスだだ漏れでソウルフル濃厚なパフォーマンスを聴かせてくれる。「抑制の美」である。

ピアノ、オルガンにリチャード・ティー、サイド・ギターのコーネル・デュプリー、エレベにゴードン・エドワーズ。ここにドラムのスティーヴ・ガッドがいれば、伝説のフュージョン・バンド「スタッフ」になる。グラディ・テイトのドラムも、叩き出すリズム&ビートは「縦乗り」で、どこかガッドに似ているドラミングが良い。
 

Grant-greenthe-final-comedown

 
バックのリズム・セクションが「ほとんどスタッフ」なので、演奏全体がファンキーでソウルフルで、うねるようなグルーヴを湛えたリズム&ビートが、「ファンクネスさらに濃厚」な、パッキパキ硬質なシングル・トーンのグリーンのギターにバッチリ合っている。うねる様なグルーヴに、ファンクネス濃厚なシングル・トーンのギターがよく似合う。

映画のサントラということで、ソロイストの音は控えめ、それが「抑制の美」に繋がって、演奏メンバー誰もが、逆に凄みのあるクールでヒップなフレーズを叩き出している。ゴードン・エドワースのエレベがブンブン唸り、デュプリーのサイド・ギターがファンクネスを撒き散らし、テイトのドラムがビートを刻む。バラード曲での絶妙の伴奏を披露するティーのキーボード。この「ほとんどスタッフ」のリズム・セクションが、グリーンのギターのグルーヴ感を2倍にも3倍にも増幅する。

「Father's Lament」のソフト&メロウなバラードでの、ファンクネス濃厚なグリーンのシングル・トーンなソロ演奏、ティーのソウルフルなグルーヴ濃厚なオルガンが凄まじく良い。「Afro Party」でのブラスの響き、グリーンのファンキーでソウルフルな伴奏弾き、エドワーズのソリッドな重低音が響く、グルーヴ撒き散らしのエレベ。サントラ的な小曲の間に、絶妙なファンキー&ソウルフル&ブラコンなキラーチューンが入っているから堪らない。

1971年の録音だが、後のフュージョン・ジャズを先取りした、ソフト&メロウ、ソウルフルでグルーヴ感満載なジャズ・ファンクな演奏はどの曲も聴きもの。映画のサントラ盤なので、イージーリスニング志向で、甘い演奏かと思いきや、意外と硬派でファンクネス濃厚、グルーヴ感満載な演奏がギッシリ詰まっているのには、ちょっとびっくり。この盤も、グラント・グリーンの活動後期の傑作だと思います。
 
 

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2024年11月27日 (水曜日)

ホールの「哀愁のマタドール」

結構、ハードなモダン・ジャズをシビアに聴き続けたらしく、耳がちょっと疲れた。と言うことで「耳休め」に、クロスオーバー&フュージョン・ジャズの好盤を聴くことにする。今年はジャズ・レーベル毎の名盤・好盤を聴きなおすことをしているのだが、今日はその流れで「A&Mレーベル」の名盤・好盤の聴き直しを進めることにした。

Jim Hall『Commitment』(写真左)。邦題「哀愁のマタドール」。1976年6, 7月の録音。A&Mレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Jim Hall (g), Art Farmer (flh), Tommy Flanagan (p), Don Thompson (p, track 2 only), Ron Carter (b), Allan Ganley (ds), Terry Clarke (ds, track 7 only), Eroll Bennett (perc, track 3 only), Jane Hall (vo, track 5), Joan La Barbara (vo, track 3) Don Sebesky (arr, tracks 1, 3 & 8)。

ジム・ホールのギターは、繊細で透明感溢れる、しかし、力感もしっかりあって、奏でるフレーズがくっきり浮かび上がる、従来のジャズ・ギターの奏法を一歩二歩進めた、プログレッシヴなバップ・ギターである。そんなジム・ホールのギターに、アート・ファーマーの柔らかで流麗な、それでいて、しっかり芯の入ったフリューゲルホーンが良く合う。よほど相性が良いのだろう、ジム・ホールのギターとファーマーのフリューゲルホーンのユニゾン&ハーモニーは絶品である。
 

Jim-hallcommitment  

 
このアルバムは、この前年の発表された『Concierto(アランフェス協奏曲)』の大ヒットの後のアルバム。前作の代表的名演「アランフェス協奏曲」の雰囲気をそのまま踏襲した、3曲目の「Lament For A Fallen Matador(哀愁のマタドール)」が聴きもの。ジム・ホールのギターは意外に硬派なので、甘きに流れない。力感溢れるプログレッシヴなバップ・ギターが、こういった耽美的なメロディーを持つクラシックのカヴァーに向いている。「哀愁のマタドール」以外に「When I Fall In Love」「My One And Only Love」等のスタンダード曲もいい感じ。

ジム・ホール自身のお気に入りなミュージシャンを起用しての豪華なアルバムだが、この盤では、特にロン・カーターのベースが良い。当時のロンとしては珍しいことに、ピッチが合っていて、弦を弾くピチカート奏法もブンブン胴鳴りして、切れ味の良いジャジーなグルーヴを撒き散らしている。加えて、1曲目「Walk Soft」、3曲目「Lament For A Fallen Matador」、8曲目の「Indian Summer」におけるセベスキーのアレンジも良好。

A&Mレーベルのクロスオーバー&フュージョン・ジャズの名盤の一枚。イージーリスニング・ジャズ志向な演奏内容ではあるが、ジム・ホールの硬派でプログレッシヴなバップ・ギターや、アート・ファーマーのジェントルで流麗だが、意外とバップなフリューゲルホーンは、ハードバップ時代からの「純ジャズ」なパフォーマンスをしっかり維持していて、聴き応え十分。この盤、硬派でメインストリームな内容のクロスオーバー&フュージョン盤。意外と聴き応えがあって、長年の愛聴盤になってます。
 
 

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2024年11月21日 (木曜日)

これも名盤『Shades of Green』

ブルーノート・レーベルを代表するギタリスト、グラント・グリーン。彼のキャリアの晩年は、イージーリスニング・ジャズ志向の優れたリーダー作を連発している。

バックに、のちのクロスオーバー&フュージョン時代の有名みゅーじしゃんを配し、優れたリズム・セクションの演奏をバックに、骨太でパッキパキのシングル・トーン+ファンクネスだだ漏れのエレギをガンガンに弾きまくっている。

Grant Green『Shades of Green』(写真左)。1971年11月の録音。ちなみにパーソネルは、Grant Green (g), Billy Wooten (vib), Emmanuel Riggins (el-p, clavinet), Wilton Felder (el-b), Nesbert "Stix" Hooper (ds), King Errisson (conga), Harold Cardwell (perc), Wade Marcus (arr, orchestra arrange)。

冒頭、ジェームス・ブラウンのメドレー「Medley: I Don't Want Nobody to Give Me Nothing (Open Up the Door I'll Get It Myself) / Cold Sweat」がキマッている。3曲目はアソシエーションの、1967年のヒット曲「Never My Love」、4曲目には、マイケル・ジャクソンの1971年のデビュー・ソロ・シングル「Got to Be There」、6曲目には、スティーヴィー・ワンダーの1971年のヒット曲「If You Really Love Me」と、R&Bの秀曲のカヴァーがズラリと並ぶ。
 

Grant-greenshades-of-green

 
もともと、グラント・グリーンは、骨太でパッキパキのシングル・トーン+ファンクネスだだ漏れのエレギ弾きである。R&B系、ソウル系の楽曲のカヴァーは得意中の得意。全編、充実度抜群の、ライトなジャズ・ファンク志向のイージーリスニング・ジャズが満載。全編、もう前のめりにノリノリである(笑)。

バックのリズム隊には、クルセイダーズから、ウイルトン・フェルダーのベース、スティックス・フーパーのドラムが参加している。粘りのある、重心低め、切れ味の良い、ファンクネス濃厚なリズム&ビートを叩き出していて、この二人を中心にコンガなどのパーカッションが絡んで、絵に描いた様な、ジャズ・ファンクなグルーヴを供給している。

そこに、グラント・グリーンの、パッキパキのシングル・トーン+ファンクネスだだ漏れのエレギが、曲の旋律を骨太に奏で、アドリブ・フレーズをファンクネスだだ漏れで弾きまくる。伴奏上手のバックのジャズ・ファンクなグルーヴが優れている分、グリーンのギターが、くっきり前面に映えに映える。

ジャケはもはや、以前のブルーノートの面影はなく、訳のわからんブランデー・グラスのイラストで損をしているが、この盤はれっきとしたブルーノート・レーベル盤で、内容的にもしっかりしていて、演奏自体もそのレベルは高く、ブルーノートの「ブランドの音」はしっかりと維持されている。この盤も、グラント・グリーンのライトなジャズ・ファンク志向のイージーリスニング・ジャズの名盤として良いかと思う。
 
 

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2024年11月20日 (水曜日)

グリーン後期の名盤『Visions』

ブルーノートのハウス・ギタリストだったグラント・グリーン。グリーンの活動後期は、ウエス・モンゴメリー同様、イージーリスニング・ジャズ志向のリーダー作をリリースしていた。

が、ウエスほど、というか、ウエスに全く及ばない人気の低さだった。ウエスは大手レーベルのヴァーヴ、グリーンは斜陽の中小レーベルのブルーノート、レーベルの営業力の差がそのまま人気の度合いに反映されたのかもしれない。

Grant Green『Visions』(写真左)。ブルーノートの4373番。1971年5月21日の録音。ちなみにパーソネルは、Grant Green (g), Billy Wooten (vib), Emmanuel Riggins (el-p), Chuck Rainey (el-b), Idris Muhammad (ds), Ray Armando (conga), Harold Caldwell (ds, perc)。

『I Want to Hold Your Hand』(1965年3月の録音)辺りから、当時のポップス&ロックや、R&B、ソウルのヒット曲のカヴァーを十八番としていたグリーン。この曲でも、人気の米国ブラス・ロック・バンド、シカゴの1970年のヒット曲「Does Anybody Really Know What Time It Is?(いったい現実を把握している者はいるだろうか?)のカヴァーを冒頭に持ってきている。

と思いきや、3曲目には「Mozart Symphony #40 in G Minor, K550, 1st Movement」、モーツアルト「交響曲第40番ト短調K.550 第1楽章」のカヴァー。有名クラシック曲のカヴァーを、パッキパキ硬質なシングルトーンで、ファンクネスダダ漏れてやるのだから、これは珍カヴァーといえば珍カヴァー。しかし、アレンジを含め、演奏の出来は上々だから面白い。
 

Grant-greenvisions

 
4曲目「Love on a Two-Way Street」は、1968年のR&Bのヒット曲のカヴァー。6曲目には、カーペンターズの1970年のヒット曲「We've Only Just Begun(愛のプレリュード)」のカヴァー。7曲目「Never Can Say Goodbye」はグロリア・ゲイナーの1971年のヒット曲。と、かなりリアリタイムに近い、ポップス&ロックや、R&B、ソウルのヒット曲のカヴァーを収録している。リアルタイムに近いにも関わらず、カヴァー・アレンジはどの曲も良好。

バックのリズム隊は、のちのクロスオーバー&フュージョン・ジャズにおける、定番ミュージシャンが担当していて、従来の4ビートメインのリズム&ビートでは無く、8ビートメインのファンキーでソウルフルなリズム&ビートを叩き出している。このクロスオーバー&フュージョン志向のリズム隊が、グラント・グリーンの、パッキパキ硬質なシングルトーンでファンクネスダダ漏れのエレギの音を引き立て、大いに映えさせる。

改めて聴き直してみて、内容良好のイージーリスニング・ジャズ。グリーンのギターはシングル・トーンでありながら、音がとても太いので、バックのリズム隊のリズム&ビートに負けることなく、逆に、バックのリズム隊のリズム&ビートに乗って、それぞれの曲の持つ旋律をくっきり浮き立たせ、アドリブ・パフォーマンスに耳を傾けさせる。

この盤の録音の際に、ルディ・ヴァン・ゲルダーが「こんな凄いプレイをするグリーンはいまだかつて見たことがない…」と呟いたとか。まさにその通り、この盤での、特にカヴァー曲での、グリーンのギターは素晴らしい。

ジャズに馴染みのない、ポップス、ロック、R&B、ソウルの楽曲の旋律をいとも容易く弾きこなし、ポップな8ビートに違和感なく乗る、キレキレのリズム感は見事と言う他ない。カヴァー曲メインに「引く」ことなく、耳にしてほしいグリーンの活動後期の名盤である。
 
 

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2024年11月17日 (日曜日)

ブルーノートらしい「バレル盤」

創立以降、ジャズの潮流が変わりつつあった1968年までにリリースされたアルバムから、レコード・コレクターズ誌の執筆陣が選んだ「ブルーノートのベスト100」。レコード・コレクターズ 2024年11月号に載った特集記事なんだが、これがなかなかに興味深くて、順に聴き直してみようと思い立った。今日は「第5位」。

Kenny Burrell『Midnight Blue』(写真左)。1963年1月8日の録音。ブルーノートの4123番。ちなみにパーソネルは、Kenny Burrell (g), Stanley Turrentine (ts), Major Holley (b), Bill English (ds), Ray Barretto (conga)。リーダーのバレルのギターとタレンタインのテナーがフロント2管の、コンガ入り、キーボードレスのクインテット編成。

やっと「第5位」で、何から何までブルーノート・レーベルらしいアルバムがランクインした。まずタイトルの「Midnight Blue」と、このタイトルを印象的なタイポグラフィーであしらった、デザイン・センス抜群のジャケット。タイトルもジャケットもとにかく、とても「ブルーノートらしい」。

アルフレッド・ライオンがブルーノートの総帥プロデューサーだった時代、ブルーノートのアルバムには必ず「ブルース曲」が入っていた。ライオンの指示である。ブルーノートの音の基本は「ブルース」。
 

Kennyburrellmidnightblue_1

 
このケニー・バレルのリーダー作には、「洗練されたブルース・フィーリング」が横溢している。そして、そのブルース・フィーリングが、伝説の録音技師、ルディ・ヴァン・ゲルダーの手になる「ブルノート仕様の音」に映えに映える。

ブルージーでアダルト・オリエンテッドなファンキー・ジャズ。バレルの漆黒ギターとタレンタインの漆黒テナーが、アーバンな夜の雰囲気を醸し出す。コンガが良いアクセントとなった小粋な曲もあって、アルバム全体を通して、大人のファンキー・ジャズをとことん楽しむ事が出来る名盤。

ブルーノートのハウス・ミュージシャンの二人、バレルのギターとタレンタインのテナーの相性が抜群で、このフロント2管の相乗効果で、漆黒ファンクネスがだだ漏れ。どこか洗練された都会的な雰囲気が底に流れている。都会の深夜のブルージーで漆黒な雰囲気がアルバム全体を覆っている。

ブルーノートらしい演奏良し、ブルーノートらしい録音良し、ブルーノートらしいジャケット良し。「三方良し」のブルーノートらしい、ブルーノートらしさ満載のケニー・バレルの名盤。「ブルーノートのベスト100」の第5位は納得、である。
 
 

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2024年11月15日 (金曜日)

ECMの個性は「ニュー・ジャズ」

ECMレコードの個性は「ニュー・ジャズ」。従来の4ビートがメインのモダン・ジャズではない、即興演奏と他のジャンルの音楽との融合をメインとした新しいジャズ。クラシック音楽や現代音楽を育み、国々での個性的な民族音楽が存在する欧州だからこそ生まれた「ニュー・ジャズ」。

Egberto Gismonti『Sol Do Meio Dia』(写真左)。1977年11月、オスロの「Talent Studio」での録音。ちなみにパーソネルは、Egberto Gismonti (8-string g, kalimba, p, wood-fl, voice, bottle), Naná Vasconcelos (perc, berimbau, tama, corpo, voice, bottle : tracks 2, 3 & 5), Ralph Towner (12-string g : tracks 1 & 5), Collin Walcott (tabla, bottle : track 2), Jan Garbarek (ss : track 5)。

タイトル『ソル・ド・メイオ・ディア』は、ポルトガル語で「真昼の太陽」。ブラジルの作曲家、ギタリスト、ピアニストのエグベルト・ジスモンチのアルバム。その内容は、典型的な「ECMのニュー・ジャズ」。楽曲はすべてジスモンチのオリジナル。出てくる音は、ワールドミュージック志向の静的な即興演奏。どこか現代音楽にも通じるクールで透明度の高い即興演奏。
 

Egberto-gismontisol-do-meio-dia

 
ECMでのジスモンチは「ジャズ的な奏者」に軸足を置いている。ギターやピアノを抜群のテクニックで奏でるジスモンチが、たっぷり記録されている。ジスモンチの曲も個性的で良いが、各曲、静的でスピリチュアルな即興演奏が聴きもの。曲ごとに、ECMの「ハウス・ミュージシャン」的ミュージシャンが充てられ、スリリングで耽美的なインタープレイが繰り広げられる。

ナナ・ヴァスコンセロスのパーカッションが静的なインタープレイに躍動感を与え、ラルフ・タウナーの12弦とヤン・ガルバレクのソプラノ・サックスがスピリチュアルな響きを増強し、コリン・ウォルコットのタブラがワールド・ミュージックな音要素を強調する。そこに、ジスモンチのギターやピアノが絡み、対話し、対峙する。

このアルバムは、エグベルトがアマゾンのシングー族と過ごした時間にインスピレーションを受けており、アルバムはシングー族に捧げられている、とのこと。確かに、ジスモンチのピアノやギターのフレーズが入ってくると、そこに「ブラジリアン・ミュージック」の響きが、ワールドミュージック志向の静的な即興演奏に滲み出てくる。ECMレコードならでは、のワールドミュージック志向の「ニュー・ジャズ」である。
 
 

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2024年11月 7日 (木曜日)

隅に置けないウエスの名盤の一枚

僕のジャズ・ギタリストの大のお気に入りの一人、必殺オクターブ奏法のギター・レジェンド、ウエス・モンゴメリー。ウエスの単独名義のリーダー作の聴き直しもあと3枚となった。昨日に続いて今日も、ヴァーヴ・レコードに移籍後の「イージーリスニング・ジャズ」の時代のウエスのリーダー作の名盤を聴き直す。

Wes Montgomery『Goin' Out of My Head』(写真左)。1965年11,12月の録音。ちなみにパーソネルは、Wes Montgomery (g) に、リズム・セクションとして、Herbie Hancock, Roger Kellaway (p), George Duvivier (b), Grady Tate (ds), Candido Camero (congas). そして、バックにサックス4本 (Phil Woodsなど), トランペット4本 (Donald Byrdなど), トロンボーン4本 のブラス・セクションが付く。アレンジは、Oliver Nelson(オリヴァー・ネルソン)。

演奏の編成は、ヴァーヴ・レコード移籍後から変わらない「イージーリスニング・ジャズ」仕様。今回はバックにブラス・セクションが付いていて、弦は付いていない。それもそのはずで、R&B/Soul・ボーカル・グループ、リトル・アンソニー・アンド・ザ・インペリアルズの、1964年のヒット曲である「Goin' Out of My Head」を冒頭に収録している。つまり、R&B/Soulのジャズ・カヴァーに弦はいらない、ということだろう。
 

Wes-montgomerygoin-out-of-my-head

 
この盤は、R&B/Soulから、ブルースから、ボサノバ、ムード音楽まで、様々なジャンルの曲をカヴァーしている。ごった煮の収集のつかないイージーリスニング盤ではないのか、という懸念が頭をよぎるが、聞いてみてよく判るが、前作で確立した「ウエスのオクターヴ奏法による、切れ味の良い、スリリングなテーマ提示と、バックのブラス・セクションをリズム&ビートの供給に特化させ、その上をウエスがバップなギターを弾きまくる」という、ウエスのジャズ・ギターを最大限に活かすアレンジが踏襲されている。

いわゆる、メインストリームで硬派なイージーリスニング・ジャズに仕立て上げられている。今回はブラス・セクションをリズム&ビートの供給に特化させているところが、バッチリはまっていて、演奏全体の雰囲気はジャジーでファンキー。ウエスのギターは「バップなギター」で弾きまくる、いわゆるイージーリスニング志向の純ジャズな演奏に昇華しているところが一番の聴きどころ。

この盤は大ヒットし、100万枚近い売り上げを記録したとのこと。ビルボード誌のR&Bチャートで最高位7位。第9回グラミー賞では 『Goin' Out of My Head』が最優秀ジャズ・インストゥルメンタル・アルバム(個人またはグループ)を受賞している。確かに、良質のモダン・ジャズの雰囲気をしっかり踏まえたイージーリスニング・ジャズで、今の耳で聴いても古さは感じない。逆に新しい発見があったりして、21世紀になっても隅に置けないウエスの名盤の一枚である。
 
 

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2024年11月 6日 (水曜日)

ヴァーヴ時代のウエスの好盤。

必殺オクターブ奏法のギター・レジェンド、ウエス・モンゴメリー。彼のキャリアは20年弱と短かったが、大きく2つに分けて、一つはリバーサイド・レコードでの「バップ・ギタリスト」の時代。もう一つは、ヴァーヴ・レコードに移籍後の「イージーリスニング・ジャズ」の時代。どちらの時代も、ウエスの、超絶技巧、歌心抜群、必殺「オクターヴ奏法」の3点セットで弾きまくるギターは変わらない。

Wes Montgomery『Bumpin'』(写真左)。1965年3月の録音。ちなみにパーソネルは、Wes Montgomery (g), Bob Cranshaw (b), Grady Tate (ds), Roger Kellaway (p), Candido Camero (bongos, congas), のコンガ入りクインテットに、ストリングスとハープが入る。アレンジと指揮はドン・セベスキー(Don Sebesky)が担当している。ヴァーヴ移籍後、2枚目のリーダー作である。

ヴァーヴのウエスは「イージーリスニング・ジャズ」の時代。しかし、その内容は「甘くない」。ストリングスとハープが入っているので、聴き始めは「イージーリスニングかぁ」と身構えるのだが、ウエスのギター・フレーズが出てくると、思わずノリノリで聴き込んでしまう。この盤でも、ウエスの、超絶技巧、歌心抜群、必殺「オクターヴ奏法」の3点セットで弾きまくり、は健在。
 

Wes-montgomerybumpin

 
セベスキーによるアレンジなれど、譜面通りに弾く必要があった。しかし、ウエスは生粋の「バップ・ギタリスト」。譜面通りに弾く窮屈さに大苦戦。しかし、そこは名アレンジャーのセベスキー、ウエスの「オクターヴ奏法」による、切れ味の良い、スリリングなテーマ提示と、弦楽器をリズム&ビートの供給に特化させ、その上をウエスが「バップなギター」を弾きまくる、という、名アレンジを確立させる。

そんなウエスのバップ・ギターを最大限に活かしたアレンジの好例が、「The Shadow Of Your Smile(いそしぎ)」の名曲・名演に聴くことが出来る。イージーリスニング・ジャズ志向の演奏なんだが、テーマ部は骨太な切れ味の良い「オクターヴ奏法」が炸裂する。そして、アドリブ部がちゃんと用意されていて、弦によるリズム&ビートに乗って、ウエスがバップなギターでバリバリとアドリブを展開する。

加えて、このヴァーヴ時代のウエスは、骨太なイージーリスニング・ジャス志向の演奏に、アーバンなブルース感覚を織り交ぜていて、これが「大人のムーディーさ」というか、節操のない、聴き心地だけが良い、俗っぽいイージーリスニングに陥ることなく、一本筋の入った、硬派で骨太なイージーリスニング・ジャズとしているところが見事である。ヴァーヴ時代のウエスを侮ることなかれ。イージーリスニング・ジャズの名盤です。
 
 

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2024年11月 5日 (火曜日)

ウエスのバップ・ギター最終盤

朝一番のジャズ盤として、最近は「Wes Montgomery(ウエス・モンゴメリー)」のリーダー作を順に聴いている。ウエスのギターは、僕の大のお気に入りで、ウエスのギターであれば「何でも通し」である(笑)。ウエスのリーダー作には「ハズレ」は無い。どのアルバムでも、ウエスの超絶技巧な、歌心抜群な、必殺「オクターヴ奏法」を伴って、素晴らしいパフォーマンスを聴かせてくれる。

Wes Montgomery『Guitar On The Go』(写真左)。1959年と1963年10月から11月に録音された曲が収録されている。1966年のリリース。ちなみにパーソネルは、Wes Montgomery (g), Melvin Rhyne (org), George Brown (ds on 1-4, 6), Jimmy Cobb (ds, on 7), Paul Parker (ds, on 5)。ドラムは3人で分担、基本は「ギター+オルガン+ドラムス」のトリオ編成。

ウエスがヴァーヴと契約する前にリバーサイドでリリースした最後のアルバムである。リバーサイドでの最後のアルバムだからと言って、ウエスは手を抜かない。バンバン、バップなギターを弾きまくっている。冒頭の「The Way You Look Tonight」2連発を聴けば、それが良く判る。超絶技巧、歌心抜群、必殺「オクターヴ奏法」の3点セットを駆使して、ギターを弾きまくる。
 

Wes-montgomeryguitar-on-the-go

 
リバーサイド時代のウエスは、スタンダード曲と自作曲を、バップなギターでバンバン弾きまくる。この盤も例に漏れず、バップなギターを弾きまくる。バップなギターにオクターヴ奏法が加わると、演奏の迫力倍増。アドリブ・フレーズが圧倒的な迫力を持って我々に迫ってくる。ウエスのハードバップなギターを聴くには、「リバーサイド」である。

オルガンが大健闘している。メルヴィン・ラインは1936年にインディアナポリス生まれ。インディアナポリス繋がりで、1959年、ウエスのトリオに加わる様、要請されている。ラインのオルガンは、ウエスのトリオ盤で聴くことが出来るが、意外とダイナミックで端正でファンキーなオルガンで、ウエスのギターの向こうを張って、ガンガン、弾きまくっている。このラインのオルガンも聴きものである。

ウエス以外、馴染みのないミュージシャンなんだが、どうして、なかなか聴き応えのあるハードバップな演奏がてんこ盛り。ウエスは安定の、超絶技巧、歌心抜群、必殺「オクターヴ奏法」の3点セットで弾きまくり。バップなウエスを聴くなら「リバーサイド」。そのリバーサイドからリリースされた最後のアルバム。やっぱり、ウエスのアルバムには「ハズレ」無し。
 
 

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2024年11月 4日 (月曜日)

ECM流クロスオーバー・ジャズ

John Abercrombie『Night』(写真左)。1984年11月20日、NYでの録音。ミックスはオスロ。ECM 1272番。ちなみにパーソネルは、John Abercrombie (g), Michael Brecker (ts), Jan Hammer (key), Jack DeJohnette (ds)。

ECMのハウス・ギタリスト、ねじれのジョン・アバークロンビー(略して「ジョンアバ」)、当時、若き精鋭テナーマンのマイケル・ブレッカー、伝説のロック・ギタリストのジェフ・ベックとの共演歴もある「キーボードの怪人」ヤン・ハマー、そして、ポリリズミックなレジェンド・ドラマーのジャック・デジョネットの変則カルテット。

よく見るとベーシストがいない。が、演奏を聴いていると、ベース音が無い方が明らかに、この盤の演奏の音世界に向いているので、ECMの総帥プロデューサー、マンフレート・アイヒャーがリハの段階でベースをオミットした可能性がある。ハマーがエレクトリック・キーボードでありながら、ベースペダルでベースラインも弾いているので、演奏全体として、ベースラインは必要最低限でキープされている。

そして、よくよく振り返ってみると、アルバム『Timeless』のトリオに、マイケルのテナーが参加したイメージの音世界である。マイケルのテナーが入ったことによって、『Timeless』よりジャズ色が強まり、このアルバムについては、ECM流ジャズロック&クロスオーバー・ジャズな音世界が個性的。
 

John-abercrombienight

 
ジョンアバは、従来通り、ECM仕様の浮遊感とねじれとシャープな、ちょっとディストーションのかかったエレギの音でガンガン攻める。そんなECM仕様のジョンアバのギターに習って、モーダルにフリーに振れながら、浮遊感を漂わせながらストレートなマイケルのテナーが突入してくる。極上のフロント楽器の、官能的なインタープレイは見事。

ハマーの不思議で変態チックなフレーズを連発するエレクトリック・キーボードは実に印象的で、ジョンアバとマイケルとはまた違った、浮遊感を伴った、どこかエキゾチックな、どこか不思議にモーダルに捻れるフレーズを繰り出している。ここまでは、どこか、英国のプログレッシブ・ロックに通じる雰囲気が見え隠れするところが個性的。

しかし、デジョネットのポリリズミックなドラミングが、とてもジャジーで、このデジョネットのドラミングが、この盤の音世界の軸足を「ジャズ」に残している、と感じる。変幻自在、硬軟自在、緩急自在な、即興性溢れるドラミングは明らかに「ジャズ」で、このドラミングによって、この盤の音世界は、ECM流ジャズロック&クロスオーバー・ジャズな音世界に落ち着いている。

ロックっぽいところが、ECM流のジャズロックとも捉えることができて、この盤は、ECMのカタログの中ではちょっと異質な内容なんだろう。このジョンアバの「ECM流ジャズロック&クロスオーバー・ジャズ」といった内容のアルバムは他にない。ECMらしからぬ、極上のエレ・ジャズの世界。「一聴もの」であることは確かである。
 
 

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