2026年5月28日 (木曜日)

レア・グルーヴなキャンディド

キューバのジャズパーカッショニスト、カンディド・カメロのリーダー作。“千の指を持つ男(Thousand Finger Man)”と称された彼が、アフロ・キューバンの強烈なリズムと、当時のアメリカのソウル・ジャズ、ファンクの要素をスタイリッシュに融合させたレア・グルーヴの、後のフュージョン・ファンクを先取りした名盤である。

Candido『Beautiful』(写真左)。1970年10月20 & 27日の録音。ブルーノートの4357番。ちなみにパーソネルは、Candido Camero (conga, bongos), Bernie Glow, Pat Russo (tp), Alan Raph (tb), Joe Grimm (ss, bs), Frank Anderson (p, org), David Spinozza (g), Jerry Jemmott, Richard Davis (el-b), Herbie Lovelle (ds), Joe Cain (arr)。

ファンク系のフュージョン・ジャズの音作りと同傾向の「ジャズの即興演奏よりもダンスやグルーヴに重きを置く」音作りで、ファンキーなオルガン、エレキベース、そしてキャンディドの躍動感あふれるコンガが絡み合うソウル・ジャズ志向、ラテン・ファンク志向のエレ・ジャズ。後のフュージョン・ジャズの要素満載である。

キャンディドのパーカッションは勿論のこと、アフロ・キューバン・リズムの重鎮であるキャンディドを支える、ニューヨークのトップクラスのスタジオ・ミュージシャンたちによるタイトでハイレベルな演奏が素晴らしい。ファンキーなカッティングギター、うねるエレベのグルーヴなライン、パーカッションと完璧にシンクロする重厚なドラムが、キャンディドのパーカッションを逆に映えに映えさせている。
 

Candidobeautiful  

 
ジョー・ケインのプロデュース&アレンジが抜群。ソウル・ジャズ志向、ラテン・ファンク志向のフュージョン・ファンクな音作りを小粋にお洒落にグルーヴにやっている。オリジナル曲だけでなく当時流行していたポップスやR&Bのカバーも含まれていて、このアレンジも優秀。

2曲目「Tic Tac Toe」は、Booker T. & the M.G.'sの名曲をカバーした、タイトなリズムのファンキーナンバー。初めて聴くと、この演奏は、1970年代後半のフュージョン全盛時代の優れたフュージョン・ファンクな演奏と錯覚するくらいの充実した、グルーヴィーなジャズ・ファンク・チューン。

3曲目の「Hey, Western Union Man」は、ジェリー・バトラーのR&Bヒット曲のカバー。洗練されたフィラデルフィア・ソウルと、アフロ・キューバンの熱いダイナミズムが見事にクロスオーバーした、アルバム随一のファンキー・トラック。分厚いホーン・アンサンブルとコンガの掛け合い、スピノザのカッティングギター、ジェモットによる重厚な「イカした低音」のエレベ。

キャンディドが主役でありながら、ソロで目立つのでは無く、「強力なニューヨークのバックバンドのキーマン」として、アンサンブルのグルーヴを、パーカッションで増幅させる役割に徹している。これが、このアルバムを「レア・グルーヴの名盤」化しているのだ。
 
 

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2026年5月 9日 (土曜日)

ジャズ・ファンクのファレルです

チック・コリア率いる第1期リターン・トゥ・フォーエヴァーのメンバーとしても知られるサックス&フルート奏者のジョー・ファレル。それまで、CTIレーベルに来て、正統派クロスオーバー・ジャズなアルバムを制作してきたが、この盤は、よりファンキーな路線へと舵を切ったCTI第4作目。

Joe Farrell『Penny Arcade』(写真左)。1973年10月の録音。ちなみにパーソネルは、Joe Farrell (ts, ss, fl, piccolo), Joe Beck (g), Herbie Hancock (p), Herb Bushler (b), Steve Gadd (ds), Don Alias (conga)。ジョー・ファレルが伝統的なジャズからジャズ・ファンク〜ジャズ・ロックへと転換した、エポックメイキングな作品。

冒頭のタイトル曲「Penny Arcade」から、ジャズ・ファンク全開。ジョー・ベックのギターリフが完璧にジャズ・ファンクしていて、演奏全体にファンクネス蔓延。続くスティーヴィー・ワンダーのカバー曲「Too High」は、もともと曲自体が、R&Bの名曲なんで、冒頭から、どっぷりジャズ・ファンク。
 

Joe-farrellpenny-arcade

 
13分を超える白熱のジャム。ファレルはソプラノ・サックスで、複雑なメロディを自在に吹きこなし、とてもエモーショナルな吹き回し。そのファレルのソプラノ・サックスに、ハービー・ハンコックが、原曲のクラビネットをエレピ(フェンダー・ローズ)に置き換え、うねるようなソロで絡みに絡む。このスティーヴィー曲のカバーでのハンコックのエレピのソロは絶品である。

続く「Hurricane Jane」では、7/4拍子という変拍子ながら、スティーヴ・ガッドの強烈なドラミングがエグい。そこに、ハンコックのエレピが、ジャズ・ファンクよろしく、どっぷりファンキーに絡んで、その上でファレルがファンクにモーダルにサックスを吹きまくる。この雰囲気って、どこか、ハンコックのジャズ・ファンクの歴史的名盤『Head Hunters』を想起する。

ラス前の「Cloud Cream」と。ラストの「Geo Blue」は、アーバンでメロウな雰囲気のムーディーな演奏で、ジャズ・ファンクというよりは、これこそフュージョン・ジャズである。最後の2曲が、それまでの圧倒的な「ジャズ・ファンク大会」な雰囲気をクールダウンさせているところで、ちょっと損をしている。それでも、この盤、当時のジャズ・ファンクの好盤としてお勧めである。
 
 

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2026年4月27日 (月曜日)

懐かしの融合盤『Hiroshima』

フュージョン・ジャズには、さすが「フュージョン(融合)」というだけあて、ジャズを取り巻く、周辺の別の音楽ジャンルと融合したり、全く予想もしない楽器を使用したり、ジャズの適用力の高さを最大限に活かして、様々な「フュージョン(融合)」にチャレンジした。しかし、そのチャレンジは、決して、全てが成功した訳ではない。成功した方が少なかったのでは無いか。

『Hiroshima』(写真左)。1979年の作品。フュージョン・バンド「ヒロシマ」のセルフタイトル・デビューアルバム。ちなみにパーソネルは以下の通り。プロデューサーは、ザ・クルセイダーズのウェイン・ヘンダーソン。

Dane Matsumura, Dean Cortez (b), Pat Murphy(congas), Danny Yamamoto (ds, perc), Dan Kuramoto, Jess Acuna, Johnny Mori, Teri Kusumoto (perc), Richard "Arms" Mathews (key, syn), June Okida Kuramoto (koto), Dan Kuramoto (sax, fl, japanese-fl), Vince Charles (steel drums, timbales), Johnny Mor (taiko), Dan Kuramoto, Jess Acuna, Richard "Arms" Mathews, Teri Kusumoto (vo)。
 

Hiroshima  

 
このアルバムは、ジャズ、R&B、ラテンのリズムに、琴や太鼓といった日本の伝統楽器を融合させた独特のサウンドが特徴で、リリースから3ヶ月で10万枚以上を売り上げるヒットを記録した、フュージョン・ジャズ盤の秀作である。和洋折衷の美しいアンサンブルが個性で、この和洋折衷のアンサンブルによるフュージョン・ジャズは、この「Hiroshima」しか無い。

「琴や太鼓といった日本の伝統楽器を融合」と聴くと、そして、この盤のジャケットを見ると、米国での「日本志向」=オリエンタル志向の趣味の悪いキワモノ・フュージョンを想起しそうだが、この盤は、フュージョン・ジャズのど真ん中で、しっかりアレンジされ、しっかりジャズしていて、決してキワモノ盤ではない。事や太鼓をむやみに多用していないところも良い。

クロスオーバー・ジャズはジャズとロックの融合がメインだったが、フュージョン・ジャズは、様々な、一部は節操の無い融合もあったりして、玉石混交としていた。この『Hiroshima』は、琴、太鼓、笛、という和楽器をフュージョン・ジャズに持ち込んだ唯一の成功例。アレンジが優れていて、キワモノ・フュージョンを、ギリ回避している。
 
 

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2026年4月 5日 (日曜日)

『Rainbow Seeker』の聴き方

レコード・コレクターズ(レココレ)2026年2月号の特集「この曲のピアノを聴け! ジャズ/フュージョン編」を楽しんでいる。当ブログでは、「この曲」を「この一枚」に拡大して、レココレに紹介されているアルバムを聴き直している。

特に、この記事は、純ジャズばかりでなく、和ジャズ、クロスオーバー&フュージョン・ジャズの名盤・好盤にも言及しているところが良い。特に、クロスオーバー&フュージョン・ジャズについては、なかなか説得力のあるアルバムを選んでいるので、好感度良好である。

クロスオーバー&フュージョンの世界では、超絶技巧、テクニック優先、音の雰囲気優先なので、なかなかミュージシャン本人の個性まで及ぶことはなかなか無いんだが、それでも、中には、その人の演奏を30秒ほど聴いたら、それと判る、コッテコテの個性の持ち主は結構いたりする。

クルセイダーズのキーボード奏者ジョー・サンプルなんかは、コッテコテの個性の持ち主である。凄い時は、ピアノのフレーズ5秒ほど聴いただけで、なかなか判り難い時でも30秒ほど聴けば、そのフレーズを弾いているキーボーティストは「ジョー・サンプル」だと判るくらい、コッテコテの個性の持ち主である。

Joe Sample『Rainbow Seeker』(写真左)。1978年の作品。邦題『虹の楽園』。ちなみにパーソネルは以下の通り。なんだか、クロスオーバー&フュージョン畑の名うてのミュージシャンがズラリである。

Joe Sample (p, el-p, key), Robert Popwell (b), Stix Hooper (ds, perc), Ray Parker (g), Dean Parks (g), Billy Rogers (g), David T. Walker (g), Paulinho DaCosta (perc), Garnett Brown (tb), Ernie Watts (sax, fl, piccolo), Fred Jackson (sax), William Green (sax, fl, piccolo), Robert O. Bryant (tp), Jay Daversa (tp), Steven Madaio (tp) 等々。
 

Rainbow_seeker_2

 
ジョー・サンプルのキーボーディストとしての才能がギッシリ詰まった傑作盤である。響きの良い小粋なエレピと、明朗でリリカルなアコピが、そこはかとなくファンキーな香りを漂わせながら、キラキラ輝く様に乱舞している。フレーズの弾き回し方が実に個性的で、ジョー・サンプルにしか出せない音が満載である。

健康的で明朗な音で、アーバンな雰囲気色濃く、ファンクネスがクールにお洒落に織り込まれているところが個性的。速いフレーズが、コロコロと涼しく転がる様に弾き回していく様は、ジョー・サンプルならでは。

レココレの特集では「この曲」としてあがっている、4曲目の「Melodies Of Love」。確かに、この1曲にジョー・サンプルのキーボーティストの特徴が溢れている。

決して、目を見張るようなテクニックでは無いのだが、ちょっとファンキーな香りが芳しい、明朗でリリカルなアコピが凄い。テクニックでは二の次、音の響きと印象的な旋律でガッツリ聴かせるとでもいおうか、いかにも、ジョー・サンプルらしい美意識が、バッチリと表現されている。

コンポーザー&アレンジャーとしての魅力も満載。収録された曲はすべてオリジナル。収録された曲という曲はどれもが良い曲であり、良いアレンジが施されていて、印象的な、しかも判り易く親しみ旋律が満載。「良い曲やな〜」と思いながら聴き惚れていると、あっという間に収録曲全8曲が終わってしまう。

ジョー・サンプルの「この一枚」は、この『Rainbow Seeker』(虹の楽園)。クロスオーバー&フュージョンのキーボードでしょ、と甘く見るなかれ。上品で小粋、そこはかと無くファンキーの香り漂う、明朗で印象的な旋律が満載で、とにかく聴き易く、とにかく美しい。
 
 

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2026年3月10日 (火曜日)

アーティステックなCTI盤です。

CTIレーベルは、クロスオーバー&フュージョン・ジャズの中心となったレーベル。総帥プロデューサー、クリード・テイラーの下、意欲的&挑戦的なニュー・ジャズから、硬派でメインストリームなクロスオーバー・ジャズ、イージーリスニング志向のフュージョン・ジャズまで、1970年代のジャズのトレンドを網羅したレーベルである。

Hubert Laws『Live At Carnegie Hall』(写真左)。1973年1月12日の録音。CTI 6025番。ちなみにパーソネルは、Hubert Laws (fl), Bob James (el-p), Gene Bertoncini (g), Ron Carter (b), Billy Cobham, Freddie Waits (ds), Dave Friedman (vib), Dave Miller (bassoon), Don Sebesky (arr)。ジャズ・フルート奏者の雄、ヒューバート・ロウズのカーネギー・ホールでのライヴである。

カーネギー・ホールでのライヴということを意識したのだろうか。アカデミックかつ、アーティスティックなクロスオーバー・ジャズが展開される。これがCTIレーベルからリリースされたサウンドか、と初めて聞いた時は、LPのレーベルを秘密の喫茶店のレコードプレイヤーまで見に行ったくらいだ。

CTIレーベルは、時々、こんな硬派でメインストリームな、内容のあるクロスオーバー・ジャズをリリースする。この盤もそうで、ヒューバート・ロウズという、ジャズ・フルートの代表格の演奏が前面に押し出され、アーティスティックなアレンジに乗ったクロスオーバー・ジャズが展開される。
 
Hubert-lawslive-at-carnegie-hall
 
演奏曲からしてアーティスティック。チック・コリアの「Windows」とジェイムス・テイラーの「Fire and Rain」のメドレー、そしてバッハの「パッサカリア ハ短調」。ジャズとクラシックの間を効果的に行き来するジャズ・フルート奏者、ヒューバート・ロウズの個性と特徴が良く判る演奏曲のチョイスである。

ドン・セベスキーのアレンジが優れている。収録された難曲、ジャズの即興演奏とオーケストラの洗練さを融合させるのに難度の高い秀曲を、セベスキーは、ロウズのフルートの演奏表現をベースに、ジャズの即興演奏、ロックのリズム、オーケストラのテクスチャを効果的に融合させている。このアレンジが、ロウズのフルートを引き立て、アーティステックなクロスオーバー・ジャズを実現させている。

バックのミュージシャンの演奏も白眉。ロウズのフルート、セベスキーのアレンジを十分に理解し、極上のクロスオーバー・サウンドで、このアーティステックなクロスオーバー・ジャズを、更にその高みに引き上げている。

CTIレーベルなんて、甘々のフュージョン・ジャズばかりなんでしょ、なんて、聴かず嫌いで敬遠していると、1970年代ジャズのトレンドと特徴の半分を聴き逃すことになる。まあ、1970年代ジャズなんて、聴くに及ばず、とするなら、いざ仕方なし。でも、1970年代ジャズを理解する上で、CTIレーベルのカタログは避けて通れないと僕は思う。
 
 

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2026年2月15日 (日曜日)

ロンのフュージョン初期盤です

このところ、ロン・カーターの1970年代のリーダー作を聴き直している。ロンは、1970年代に入って、クロスオーバー&フュージョン・ジャズの仕掛け人の一人、プロデューサー「クリード・テイラー」と組んで、イージーリスニング志向のクロスオーバー・ジャズから、フュージョン・ジャズをリリースしている。これがまあ「賛否両論」で、評価が割れたまま、今日まできている。

Ron Carter『Anything Goes』(写真左)。1975年6〜7月の録音。Kudoレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは以下の通り。フュージョン・ジャズの担い手、強者ミューシャン大集合といった様相のメンバー構成。ファンキー・ジャズ志向フュージョン盤である。プロデュースは「クリード・テイラー」。アレンジャーは「デヴィット・マシューズ」。

Ron Carter (b, piccolo-b), Randy Brecker (tp), Alan Rubin (tp, flh), Barry Rogers (tb), Michael Brecker (ts), Phil Woods, David Sanborn (as), Hubert Laws (fl), Don Grolnick (el-p), Richard Tee (org), Eric Gale (el-g), Steve Gadd (ds, track 1), Jimmy Madison (ds,tracks 2–6), Ralph MacDonald (congas, perc), George Devens, Arthur Jenkins (perc), Patti Austin, Marilyn Jackson, Maeretha Stewart (vo, tracks 1,6), Dave Matthews (arr)。
 

Ron-carteranything-goes
 

ジャズ・ファンクとするまで、ファンクネスとビートの粘りは濃厚では無い。ライトで小粋な「ファンキー・ジャズ」志向のフュージョンである。旋律&アドリブの雰囲気は「ソフト&メロウ」、リズム&ビートは、ライトなR&B志向。特に、ドラムには、スティーヴ・ガッドとジミー・マディソンが、ベースはロン・カーター本人というリズム隊で、明らかに、フュージョン・ジャズ仕様のグルーヴが醸し出されている。

ロンはアコベ、エレベの両方を駆使しながら、旋律弾きソロに、バッキングなベースに大活躍。相変わらず背韻律弾きソロではピッチが少し外れてはいるが、短めのソロでまあまあ我慢しつつ、聴き通すことができる。これが、ピッチがバッチリ合っていたら、この盤、もっと評価は上がっていただろうに。アルバム全体の内容は、上質のダンサフルでソウルフルな、ファンキー・ジャズ志向フュージョン。聴き易さがあって良好。

フュージョン・ジャズ初期の好盤。LP時代の帯紙には「ベースの王者ロン・カーターが、話題のクロスオーバーに挑戦!!」とあり、確かにそんな内容のアルバムではある。ロンはエレベも弾き、ワウワウなどのエフェクトを使用して、時代に乗り遅れまいとしているところが健気というか、生真面目というか。この辺りが、1970年代のロンの評価が「賛否両論」に分かれるところなんだろう。流行を追うもの、超然と我がスタイルを行くもの、この時代のジャズマンは二手に分かれていた。
 
 

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2026年1月31日 (土曜日)

ジョージ・ベンソン ”白いうさぎ”

唄って弾きまくるレジェンド・ギタリスト、ジョージ・ベンソンの「異色盤」。ターニング・ポイントとなった「唄って弾きまくる」までの、初期の「弾きまくり」ベンソンは、R&B志向のソウルフル&ジャズファンクなパフォーマンスがメイン。しかし、このアルバムは、ベンソンのリーダー作の中では「異端」で、基本が「スパニッシュ・タッチ」。CTIサウンドを創り上げた天才アレンジャー、ドン・セベスキー色が強く出た「異色盤」。

George Benson『White Rabbit』(写真左)。1971年11月の録音。CTIからのリリース。ちなみにパーソネルは、George Benson (el-g), Earl Klugh (ac-g : 5), Jay Berliner (Spanish-g), Herbie Hancock (el-p), Ron Carter (el-b : 1, 3, ac-b :2, 4, 5), Billy Cobham (ds), Airto Moreira (perc, vo), Phil Kraus (vib, perc), Gloria Agostini (harp)。ここに、木管楽器とブラス・セクションが加わっている。

タイトル曲は、グレイス・スリックによるジェファーソン・エアプレインの名曲のカヴァー。「California Dreamin'」は、ママス&パパスのヒット曲のカヴァー。そこに、有名サウンド・トラックの「"Theme from Summer of '42(おもいでの夏)」があり、エイトル・ヴィラ=ロボスの「ブラキアナス・バシレイラス第2番」からのブラジルの古典曲「リトル・トレイン」のジャズ・アレンジ・バージョンなど、良好なアレンジでの優秀なカヴァーが目白押し。
 

George-bensonwhite-rabbit

 
これだけカヴァー曲が並ぶと、イージーリスニング志向のクロスオーバー・ジャズな内容か、と構えてしまうが、ベンソンのギター・パフォーマンスが、ジャズ・ファンクの様なダイナミズムは控えめだが、印象的で硬派なフレーズを弾きまくっていて、まずはベンソンのギターが堪能出来る、そして、次にカヴァー曲のアレンジの妙に感じ入る、という内容が、しっかり軸足が「ジャズ」に留まっているところが好印象。

バックを固めるメンバーも錚々たるもの。フェンダー・ローズの響きが懐かしいハービー・ハンコック、エレベとアコベの両刀遣いで、曲毎に雰囲気を変えるロン・カーター、クロスオーバーでポップな8ビートを叩きまくるビリー・コブハム、スパニッシュ・タッチなパーカッションが小粋なアイアート・モレイラといったリズム隊が、これまた、本人達にとって異色ではあるが、かなりのレベルで充実している。

オリジナル・ジャケットについては、南アフリカで撮影したポンド族の女性の写真が掲載されている。これも、CTIレーベルのジャケ志向からすると「異色」。しかし、このジャケットが、このアルバムの内容を表しているかの様で、ベンソン自身いわく、プロデューサーのクリード・テイラーがベンソンの写真をカバーに使わなかったことが「このアルバムの成功につながった要因だった」と認めている(笑)。そんなジャケのエピソードはともかく、この盤はクロスオーバー・ジャズの好盤である。
 
 

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2026年1月29日 (木曜日)

ブルフォード融合音楽の傑作

英国ではジャズとロック、あるいはフュージョンとプログレッシブ・ロックの境界線が実にあいまいで、クロスオーバー・ジャズの時代には、ロック・ミュージシャンがジャズをやり、ジャズ・ミュージシャンがロックをやるケースが多かった。このビル・ブルフォードも、そんなミュージシャンの一人。

Bruford『Gradually Going Tornado』(写真左)。ちなみにパーソネルは、Bill Bruford (ds), Dave Stewart (key, syn), John Clark (el-g), Jeff Berlin (b, vo)。ドラマーのビル・ブルフォードの3枚目のソロアルバム。クロスーバー・ジャズとプログレッシブ・ロック(プログレ)との融合音楽(フュージョン)である。

冒頭の「Age Of Information」から、2曲目「Gothic 17」を聴くと、まず「Age Of Information」のイントロ部は明らかにプログレ、シンセの使い方などもプログレ、しかし、即興部もある、インスト中心の演奏の流れは、エレクトリック・ジャズ、いわゆる、クロスオーバー・ジャズの響きが充満している。

このエレ・ジャズの雰囲気、どこかで聴いた様な、と思った瞬間、チック・コリアが主宰する「第2期リターン・トゥ・フォーエバー (RTF)」を想起した。テクニック的には、チック、ディメオラ、クラーク、ホワイトを擁する、第2期RTFの方が一枚上だが、プログレ度については、さすが英国出身、Brufordの方が一枚上。どちらも、基本的な音楽の志向はよく似ている。
 

Brufordgradually-going-tornado

 
Brufordについては、ドラマー&リーダーのブルフォードは有名だが、他の3人は馴染みがない。それでも、出てくる音は、ハイテクニックで流麗、力感溢れ、スピード感&重量感満載。こんなキーボーディストが、こんなベーシストは、こんなギタリストがいるんだ、と感心することしきり。第2期RTFと比肩する演奏力と構成力。我が国で、ほとんど無名だったのが不思議なくらい。

ブルフォードのドラミングが凄まじい。変拍子+ポリリズム、流麗な8ビートのクロスオーバーなフレーズに、最適なリズム&ビートを供給し、鼓舞し、フロント楽器のフレーズを映えさせる。この盤の全編に渡って、この凄まじき「変拍子+ポリリズム」が、メロディアスで自由奔放に響き渡る。

このブルフォードのドラミングを聴いていると、彼が、録音時、曲のパーツ毎にしか叩けない「Yes」から、即興演奏志向の「King Crimson」へ移籍したのも頷ける。そして、その「King Crimson」が休眠状態になったので、それでは、ということで、自分でバンドを立ち上げた、ということ、納得である。

一言で言うと「インテリジェンス溢れる、クロスーバー・ジャズとプログレとの融合音楽」。精巧に作られた楽曲構成、ダイナミックなエネルギーに満ち、テクニックは印象的。プログレとエレ・ジャズのいいところをしっかりとクロスオーバーさせた融合音楽。クロスオーバー志向のエレ・ジャズとして一級品。傑作である。
 
 

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2025年12月25日 (木曜日)

クリスマス・ジャズの定盤・7

クリスマスである。今年もあと一週間。甘々なラウンジ・ジャズ志向のクリスマス・ソング集は「ノー・サンキュー」なのだが、しっかり探せばあるもので、今回、過去に聴いてはいるが、当ブログに記事として上がっていない、フュージョン・ジャズ系のクリスマス・ソング集も、なかなかの内容のものが出てきたのだから、楽しいことこの上ない。

Grover Washington Jr.『Breath Of Heaven - A Holiday Collection』(写真左)。1997年の作品。ちなみにパーソネルは、Grover Washington Jr. (sax), Hiram Bullock (g), Billy Childs (p, key), Joe Locke (key, chimes, vib, marimba), Donald Robinson (p, key,), Adam Holzman (syn), Will Lee, Gerald Veasley (b), Steven Wolf,Victor Lewis (ds), Pablo Batista, Bashiri Johnson (perc), Dawn Andrews (cello, vo), Lisa Fischer (vo)。

グローヴァー・ワシントンJr.の逝去する2年前のクリスマス・ソング集。ジャケットの印象通り、端正で誠実なキッチリとまとまったクリスマス・ソング盤の好盤の一枚。パーソネルを見渡せば、フュージョン・ジャズ畑で活躍する名うてのミュージシャンばかりで、出てくる音は、明快に極上のクロスオーバー&フュージョンの音世界。浮ついたところの無い、誠実で真摯で温かい、極上のクリスマス・ソング集に仕上がっている。
 

Grover-washington-jrbreath-of-heaven-a-h

 
もともと、フュージョン・ジャズにおけるサックスの第一人者、グローヴァー・ワシントンJr.のクリスマス・ソング集である。フュージョン界の「ミスター・ソフト&メロウ」と僕は呼んでいる、フュージョンなサックスを吹かせたら屈指のグローヴァー・ワシントンJr.が奏でるクリスマス・ソングの数々。悪かろうはずが無い。ソフト&メロウ、そしてジェントリーで力強いサックスは聴き応え十分。数々の有名なクリスマス・ソングの美しい旋律が映えに映える。

適度にファンキーで適度にソウルフル。角にならないソウルな雰囲気が実に上品。アレンジが優れていて、グローヴァー・ワシントンJr.のサックスが映えに映え、クリスマス・ソングの旋律の美しさが映えに映える。アルバム全体の熱気は「クール」。このしっかり抑制された中で、ミュージシャンそれぞれ、モテるテクニックの粋を尽くして、有名クリスマス・ソングに相対している。決して退屈しない。派手さは無いが、じっくり聴き込むに値する、クリスマス・ソング集の中でも優秀な部類の秀作アルバム。

派手さがないので、地味&退屈とする向きもあるが、とんでもない。派手さはないが、クリスマスもの特有の敬虔な雰囲気と静謐な落ち着いた雰囲気がこの盤の個性。賑やかでリズミカルで派手な内容のクリスマス・ソング集は他に沢山ある。それより、こういう落ち着いた雰囲気の、ゆったりとリラックスして聴き込めるフュージョン志向のクリスマス・ソング集はそうそうあるものではない。一聴に値するクリスマス・ソング集の秀作である。
 
 

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2025年12月24日 (水曜日)

クリスマス・ジャズの定盤・6

クリスマス・イヴである。今年は珍しく雨のイヴである。もともと12月24日は「晴れの特異日」の一つで、確かに、クリスマス・イヴに雨が降った記憶が無い。なので、南関東地方では、滅多に「雨は夜更け過ぎに、雪に変わるだろう」とはいかない日なのだが(笑)。今年は雨、しかも、雨は明日の朝には霧の朝になるらしい。

Larry Carlton『Christmas at My House』(写真左)。1989年の作品。ハリウッドの「Room 335」スタジオでの録音。ちなみにパーソネルは以下の通り。クロスオーバー&フュージョン・ジャズ畑の名うてのミュージシャンが大集合である。

Larry Carlton (g, b tracks: 6), Clare Fischer (key, tracks: 1 to 4, 9), Robbie Buchanan (key, tracks: 6), Terry Trotter (key, tracks: 1 to 5, 7, 8, 10, 11), Abraham Laboriel (el-b, tracks: 1 to 4, 7, 9 to 11), Jeff Porcaro (ds, tracks: 3, 10, 11), John Ferraro (ds, tracks: 1, 2, 4, 7, 8), Michael Fisher (perc, tracks: 2 to 4, 11)。

ゲストに、Backing Vocals – Christopher Cross (tracks: 6), David Pack (tracks: 6), Karen Blake (tracks: 6), Michele Pillar (tracks: 6), Lead Vocals – Michele Pillar (tracks: 3, 6, 11), Saxophone – Kirk Whalum (tracks: 11)。

カールトンのフュージョン・ギターの最高峰パフォーマンスで奏でられるクリスマス・ソング集。クリスマス・ソング集なので、楽しく聴ければよい、という様な、安易な内容では無い。
 

Larry-carltonchristmas-at-my-house  

 
カールトンのフュージョン・ギターのテクニックの粋を集めた、高度なテクニックと唄うが如くの歌心を最大限に駆使して、フュージョン・ジャズとして、硬派で上質なパフォーマンスで、定番クリスマス・ソングをカヴァーしていく。

とにかく、カールトンのギターが素晴らしい。これぞ、アーバン&メロウな、フュージョン・ジャズを代表するギター表現の最高峰のパフォーマンス。美しく力強く流れるが如くリリカル。カールトンのギターの良さの全てが、このクリスマス・ソング盤に結集している。聴き応え抜群。ながら聴きには惜しい、じっくり腰を据えて聴き込みたいレベルのカールトンのギターである。

アルバム『On Solid Ground』制作中の1988年4月、ラリーは自宅兼スタジオで、面識のない10代の少年に至近距離から銃撃された。明確な動機はなく、無差別な凶行だった。

弾丸は彼の喉を貫通、左腕の神経も損傷して麻痺が残った。ギタリストしての再起が危ぶまれた。しかし、懸命のリハビリの結果、復活を遂げ、1989年『On Solid Ground』をリリース。同年、この『Christmas at My House』をリリースしている。

そんな背景もあってか、このカールトンのクリスマス・ソング集は、どこか敬虔な雰囲気が漂う。厳かで神に感謝を捧げるが如くの敬虔な雰囲気。カールトンの「祈り」がこの盤に宿っている気がしてならない。クリスマス・ソング集の名盤の一枚。
 
 

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