2025年10月20日 (月曜日)

BNの「オーネットの不思議盤」

オーネットは、コンテンポラリー・レコードでの『Something Else!!!!』から始まり、アトランティック・レコードに移籍して『The Shape of Jazz to Come』をリリース、その後、5枚のリーダー作をリリースした後、突然、1966年に、コロンビア・レコードから『Chappaqua Suite』を突然リリース。そして、1966年から1971年にかけて、3枚のリーダー作をブルーノートからリリースしている。そんな3枚の中の一枚がこの盤。

Ornette Coleman『New York Is Now!』(写真左)。1968年4月29日、5月7日の録音。ブルーノートの4287番。ちなみにパーソネルは、Ornette Coleman (as, vln, tp), Mel Fuhrman (vo), Jimmy Garrison (b), Elvin Jones (ds), Dewey Redman (ts)。

オーネットのブルーノートからの2枚目のリーダー作になるが、オーネットが、元コルトレーン・カルテットのリズム隊、ギャリソンのベース、エルヴィンのドラムと組んだ、「不思議で面白い内容」のモード&フリー・ジャズ盤。

プロデューサーが、設立者&総帥プロデューサーであったアルフレッド・ライオンでは無く、後を引き着いたフランシス・ウルフなのが象徴的。オーネットがどうやって、この音のコンセプトを提案したのか、若しくは了解したのかは判らないが、オーネットのリーダー作の中では、異質な、ちょっと不思議な盤である。

「あれをやっちゃ駄目、これをやっちゃ駄目は、ジャズの自由度を狭める。なんでもかんでもやってみよう」というのが、真のジャズである」というのがオーネットの考え方なんだろうが、前作では、当時10歳の息子デナード・コールマンをドラマーに採用するという「暴挙」でちょっとスベったので、このアルバムでは、リズム隊を完全強化している。なんと、元コルトレーン・カルテットのリズム隊を持って来て、そこで「オーネットの考えるフリー・ジャズ」を展開する、という寸法。
 

Ornette-colemannew-york-is-now

 
加えて、コルトレーン・フォロワーの第一人者の1人、デューイ・レッドマンのテナーを持って来て、老舗ジャズ・レーベルのブルーノートで、「オーネットの考えるフリー・ジャズ」をやろうとしたら、どこか、モーダルな響きのするフリー・ジャズというか、限りなくフリーに近いモード・ジャズ風の演奏に落ち着いてしまった、そんな偶然性を感じる、このアルバムの内容である。

このアルバムには、1950年代の「オーネットに対する新鮮な驚き」は無い。音は明らかにオーネットの音。冒頭の「The Garden of Souls」の最初の自由度の高いフレーズを聴いただけでオーネットと判る音世界なんだが、フリーな即興演奏を求めているにも関わらず、どこか理路整然とした、完全即興では無い、限りなく自由度の高い、オーネット流のモーダルなジャズが展開されている様なイメージ。

どう聴いても、オーネットの考えるフリー・ジャズは伝わってこなくて、レッドマン参加の影響も大きかったのか、この盤では「オーネットの考えるコルトレーンのフリー・ジャズ」を追求している様に感じる。逆に、そう解釈した方が判り易い、上質かつ真摯な「オーネットの考えるコルトレーンのフリー・ジャズ」を、オーネットは、やっているように聴こえる。

フリー・ジャズ系のサックス奏者としての成熟、円熟をみたオーネットのリーダー作。モード時々フリーなジャズで、フリーな部分はオーネット流のフリー・ジャズの響きはするが、演奏全体の雰囲気は限りなく自由度の高い、オーネット流モード・ジャズ風。そういう意味で、このオーネットのブルーノート第二弾は「不思議で面白い内容」のモード&フリー・ジャズ盤に仕上がっている。

つまりは、コルトレーン・フォロワーのレッドマン、ギャリソン、エルヴィンは、オーネットの考えるフリー・ジャズに染まらなかった、逆に、オーネットが、コルトレーンにはこういうフリー・ジャズをやって欲しかったという、レッドマン、ギャリソン、エルヴィンらの想いにオーネットが寄り添った、「オーネットの考えるコルトレーンのフリー・ジャズ」、そんな雰囲気がするのがこのアルバム。解釈が悩ましい異色盤です。
 
 

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2025年9月10日 (水曜日)

アヴァンギャルドなマクリーン

ジャキー・マクリーンとオーネット・コールマンの共演。ジャキー・マクリーンのメイン楽器は、アルト・サックス。オーネットのメイン楽器と被るので、この盤では、オーネットはトランペットを吹いている。テクニックはそれほどでもないけれど、オーネット流のアドリブ・フレーズを吹く分には、問題が無いのだろう。

Jackie McLean『New And Old Gospel』(写真左)。1967年3月24日の録音。ブルノートの4262番。ちなみにパーソネルは、Ornette Coleman (tp); Jackie McLean (as), Lamont Johnson (p), Scott Holt (b), Billy Higgins (ds)。オーネット・コールマンが客演してトランペットを吹く、ジャキー・マクリーン率いるクインテット編成。

冒頭の長尺、21分を越える大作メドレーは「Lifeline Medley: Offspring / Midway / Vernzone / The Inevitable End」。基本はオーネット流のフリー・ジャズに聞こえるが、マクリーンのアルト・サックスのフレーズにしろ、ラモント・ジョンソンのピアノにしろ、必要最低限の取り決めは守っているが、その展開は、マクリーンのアルト・サックスのフレーズはマクリーン流だし、ラモントのピアノも同様。フリーでアヴァンギャルドな展開は聴きものである。
 

Jackie-mcleannew-and-old-gospel

 
2曲目の「Old Gospel」は、タイトル通り、ゴスペル調のご機嫌なソウル・ジャズ。テーマ部はご機嫌なゴスペル調な演奏だが、アドリブに入ると、モードな吹き回しのアドリブ展開になり、オーネット流吹き回しのアドリブ展開になる。マクリーンのアルト・サックスは絶好調、血管ぶち切れ、アヴァンギャルドでフリーなアドリブを吹きまくるが、オーネットは自分の担当楽器でないトランペットを吹いている、とは聞こえが良いが、テクニック的にはあまり上手でないコールマンのトラペットである。

3曲目はまだコールマン流のフリー・ジャズに舞い戻るが、必要最低限の取り決めは守っているが、その展開は、マクリーンのアルト・サックスのフレーズはマクリーン流だし、ラモントのピアノも同様。音の作りは、あくまで、この盤を聴いていて、ちょっと耳を奪われるのが、ラモント・ジョンソンのピアノ。どこかマッコイ・タイナーの様ではあるが、重心的には軽めのビートで、タイナーのタッチより切れ味良く、躍動感がある。

この盤の内容は面白い。コールマン流フリー・ジャズとゴスペル風味のソウル・ジャズの2種類の、決して相容れることの無い、それぞれ異なるジャズを気持ち良くやる、という内容は、ユニークというか、何というか(笑)。そんな異質な編集の盤の中、マクリーンのアルト・サックスが、「マクリーンの考えるフリー&アヴァンギャルド」といった風情の「絶好調、血管ぶち切れ」の圧倒的なフレーズを吹きまくって、この盤に統一感を与えているのは立派である。
 
 

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2025年8月 8日 (金曜日)

オーネットの考える ”フリー”

オーネットのフリー・ジャズについては、僕は「それまでのジャズで、やってはいけないこと」を演奏に反映する、そして「ジャズはそもそも即興演奏を旨とする音楽だから、どんな演奏方式でも、どんな奏法でも、どんなリズム&ビートでもいいじゃないか」という演奏志向を、「フリー」というキーワードで追求している、と解釈しているんだが、このアルバムでは「どんなリズム&ビートでもいいじゃないか」をメインに追求している様に聴こえる。

Ornette Coleman『The Empty Foxhole』(写真左)。1966年9月9日の録音。ちなみにパーソネルは、Ornette Coleman (as :tracks 1, 5, 6, tp :tracks 2, 4), vln :tracks 3), Charlie Haden (b), Denardo Coleman (ds)。フリー・ジャズの奇才、オーネット・コールマンのピアノレス・トリオ。オーネットがマルチ演奏者となって、アルト・サックスに加えて、トランペットとヴァイオリンも演奏している。

オーネットのブルーノート・レーベルの第2作目。このアルバムは、名ライヴ盤『At the "Golden Circle" Stockholm』に続く、ブルーノート・レーベルでの初のスタジオ録音になる。

つまりは「あれをやっちゃ駄目、これをやっちゃ駄目は、ジャズの自由度を狭める。なんでもかんでもやってみよう、というのが、真のジャズである」というのがオーネットの考え方なんだろうが、この番では、なんと、当時10歳の息子デナード・コールマンをドラマーに採用するという「暴挙=自由(フリー)」に出ている。

どう考えたって、弱冠10歳のドラマーが、感動を呼ぶ、まともなリズム&ビートを供給出来るとは思えない。しかし、オーネットは考えている。この盤での、リズム&ビートはジャズベースの哲人、チャーリー・ヘイデンに全面的に委ねている。ヘイデンの奏でるリズム&ビートを拠りどころに、オーネットは「今まで通りのパフォーマンス」を現出している。
 

Ornette-colemanthe-empty-foxhole

 
どうして、当時10歳の素人の息子デナード・コールマンをドラマーに採用したのか。オーネットの心の中が全く判らない。音楽として、聴き手の人達にちょっと失礼であろう。「それまでのジャズで、やってはいけないこと」の1つとして、ドラマーを素人から採用したのであれば、これはちょっとジョークが過ぎるのではないだろうか。

聴いていて明らかにドラミングに違和感がある。明らかに素人が自由気ままにドラムを叩いている。多少は勉強し練習したんだろうが、どう聴いても、プロのドラミングとは言い難い。オーネットは、ドラムのリズム&ビートは、実は素人が自由に叩いた方が、真の「フリー・ジャズ」に近づく、と考えたのだろうか。

しかし、名ライヴ盤『At the "Golden Circle" Stockholm』での、盟友レギュラー・ベーシストのデヴィッド・アイゼンソンはこれに賛同せず、セッション・メンバーから降りている。

もちろん、オーネットの吹奏は申し分無い。しかし、ヴァイオリンの「スクラッチのようなやり方」での弾き方は、どうにもワンパターンで飽きる。これも、素人が自由に弾いた方が、真の「フリー・ジャズ」に近づく、と考えたのだろうか。

この盤は、オーネットの吹奏とヘイデンの類い希なタイム感覚を有した「哲人ベース」によって、辛うじて及第点を獲得したアルバムだと思う。しかし、ブルーノートの総帥プロデューサーのライオンが、よくこの演奏を許したものだ、と思ったら、この盤のプロデュースは、ライオン引退後の「フランシス・ウルフ」だった。ウルフのプロデュース感覚を疑ってしまった。

このオーネットの「自分の息子はまだ音楽のルールやクリシェに縛られておらず、ピュアでフリーな演奏ができると考えた」のであれば、セッションのメンバー全員が素人でやれば、真の「フリー・ジャズ」に近づく、ということになる。これはどうなんだろう。僕は音楽家としてのオーネットをこの盤を聴いて、初めてその感覚を疑ってしまった。
 
 

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2024年11月23日 (土曜日)

ストックホルムのオーネット

ブルーノートの、創立以降、ジャズの潮流が変わりつつあった1968年までにリリースされたアルバムから、レココレ誌の執筆陣が選んだ「ベスト100」。ブルーノートらしい内容、音、響き。そんな三拍子揃ったブルーノート盤の「ベスト100」。今日はその「第6位」。

Ornette Coleman『At the "Golden Circle" Stockholm vol.1』(写真左)。1965年12月3–4日、スウェーデンのストックホルムでのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Ornette Coleman (as, tp, vin), David Izenzon (b), Charles Moffett (ds)。約3年ぶりに活動を再開した、オーネット・コールマンの欧州ツアーでの一コマ。

レココレ評者が選んだ、ブルーノート盤の「ベスト100」。今回は第6位だが、これまた難物なアルバムを選んだものだ。フリー・ジャズの祖とされるオーネット・コールマンであるが、僕はどう聴いても、オーネットの吹奏は「フリー・ジャズ」には聴こえない。

本人も語っているが、一応、本人が考案した「ハーモロディクス理論」というものに則った結果だというし、演奏を聴けば、必要最低限の「重要な何らかの決めごと」が演奏の底にあるのが判る。

つまり、フリー・ジャズではなく、ハードバップの弱点を克服し、ジャズの即興演奏の可能性を拡げ、発展させた「モード奏法」と同列の奏法、「ハーモロディクス理論」で、モード奏法と同じく、ハードバップの弱点を克服し、ジャズの即興演奏の可能性を拡げ、発展させたのが、オーネット・コールマンだと僕は解釈している。
 
Ornette-colemanat-the-22golden-circle22-
 
ただ、困ったことに、モード奏法はその音楽理論が理路整然と確立されているが、「ハーモロディクス理論」については、オーネットの精神的な言葉は残っているが、具体的な記述を残していない。これが、オーネットの演奏する、自由度の高いユニークな即興演奏を解釈しにくくしているし、正確なフォロワーが現れ出でない、大きな理由だろう。

さて、このブルーノートに残したストックホルムでのライヴ音源、オーネットの奏でる自由度の高いユニークな即興演奏の全貌がとてもよくわかる、大変優れたライヴ録音になっている。

それまでの伝統的なジャズが、やらないこと、やったことがないこと、やってはいけないこと、を全部やっている、それまでの伝統的なジャズに対する「アンチテーゼ」の様な演奏がギッシリ詰め込んだ、オーネット独特な自由度の限りなく高い「ハードバップ」が、ライヴ演奏という、一期一会な、究極の即興演奏という形で記録されている。

演奏によっては、内容が混乱したり、冗長になったりすることがあるオーネットだが、このライヴ盤には、それが全く無い。オーネットの個性的な「ハーモロディクス理論」に基づく即興演奏が、整った形で鮮度の良いイメージで記録されている。この辺りは、さすが。ブルーノートといったところ。優れたライヴ録音をモノにするプロデュース能力と録音技術については見事という他ない。

オーネット・コールマンの「ハーモロディクス理論」に基づいた、自由度の高いユニークな即興演奏を体感し、理解するには格好のアルバムである。そういう意味では、ブルーノート・レーベルほど、当時のオーネット・コールマンを理解していたレーベルは無かった、と言える。

ベスト100の「第6位」が妥当かどうかについては異論はあるが、ジャズ・レーベルとして、当時の優れたジャズを的確に捉え記録する「ジャズに対する感覚の鋭さ」については、確かに、ブルーノートらしいアルバム、である。こういった、異端に近いジャズを的確に捉えるという点では、ブルーノートがピカイチだろう。
 
 

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 ★ まだまだロックキッズ     【New】 2024.08.24 更新

  ・イタリアン・プログレの雄「PFM」のアルバム紹介と
   エリック・クラプトンの一部のアルバム紹介を移行しました。

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2022年7月30日 (土曜日)

僕なりのジャズ超名盤研究・17

この盤が「フリー・ジャズ」の原点だ、とするのには違和感がある。この盤を聴けば「フリー・ジャズがなんたるかが判る」なんてことは無い。そんなにジャズは単純なものでは無いし、甘いものでも無い。

作った本人からすれば、一応「ハーモロディクス理論」というものに則った結果だというし、演奏を聴けば、必要最低限の「重要な何らかの決めごと」が演奏の底にあるのが判る。それでなければ、旋律を持った「音楽的な演奏」が成立していない。しかし、作った本人が、この「ハーモロディクス理論」について、精神的な言葉は残っているが、具体的な記述を残していない。これは、決定的に困惑する。

Ornette Coleman『The Shape Of Jazz To Come』(写真左)。1959年5月22日の録音。邦題は『ジャズ来るべきもの』。ちなみにパーソネルは、Ornette Coleman (as), Don Cherry (cor), Charlie Haden (b), Billy Higgins (ds)。仰々しい邦題。この盤以降は、皆、この盤に録音されているジャズをやるんだ、なんて誤解を生むような邦題である(笑)。

この盤を聴けば、少なくとも、それまでのジャズ、いわゆる、スイングやビ・バップ、ハードバップな演奏とは全く異なる雰囲気であることは判る。といって、コールマンに対して批判的な方々が言う「でたらめ」な演奏では無い。コード進行とリズム&ビートに乗った演奏であるところは、スイングやビ・バップ、ハードバップな演奏と変わらない。

しかし、この盤では、それまでの伝統的なジャズが、やらないこと、やったことがないこと、やってはいけないこと、を全部やっている、それまでの伝統的なジャズに対する「アンチテーゼ」の様な演奏がギッシリ詰まっている様に聴こえる。
 

Ornette-colemanthe-shape-of-jazz-to-come

 
当然、斬新に聴こえるし、革新的にも聴こえる。しかし、この盤はジャズの「イノベーション」では無い。従来のジャズに対する「アンチテーゼ」をベースに演奏した、当時のコンテンポラリーなジャズだと思う。

選ばれたコードは、いままでの伝統的なジャズが採用しないコードがてんこ盛りだし、リズムはスインギーな4ビートでは無い。無調志向の演奏もあるし、コードに基づかないユニゾン&ハーモニーの採用もある。それまでの伝統的なジャズが、やらないこと、やったことがないこと、やってはいけないこと、をやって、新しいジャズの音、響きを表現している様に感じる。

文字で書けば簡単に感じるが、それまでの伝統的なジャズが、やらないこと、やったことがないこと、やってはいけないこと、をやるのって、ジャズマンとして、卓越した「自由度の高い」演奏テクニックと「それまでのジャズ」に対する卓越した知識が必要で、パーソネルを見渡すと、そういう意味で納得できるメンバーが厳選されている。

確かにこの盤に記録されている演奏は「ユニーク」。発想の転換であり、正論の裏を取った様な、一種「パロディー」の様な演奏である。これって、演奏自由度を最大限に発揮出来る「即興演奏」がメインのジャズだからこそ出来る、もしくは許される「技」である。

それまでの「伝統的」なジャズに無い、新しい響きを宿したジャズなので、ジャズのイノベーションに感じるのかもしれないが、今の耳で聴くと、それまでの伝統的なジャズに対する「アンチテーゼ」であり、ましてや、フリー・ジャズの原点では無いだろう。

それでも、それまでの伝統的なジャズが、やらないこと、やったことがないこと、やってはいけないこと、をやるのは、録音当時、発想の転換であり、新しい響きのジャズを創造するという切り口では「アリ」だと思う。発想として面白いし、同業者のジャズマンとして、チャレンジのし甲斐のあるテーマだと僕は感じる。
 
 

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 ★ まだまだロックキッズ     【New】 2022.03.13 更新。

  ・遠い昔、懐かしの『地底探検』
 
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  ・四人囃子の『Golden Picnics』
 
 
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2015年7月 7日 (火曜日)

オーネットとの共演『Song X』

去る2015年6月11日、オーネット・コールマン(Ornette Coleman)が逝去した。満85歳、大往生である。メインの楽器はアルト・サックス。トランペットやヴァイオリンも出来る。1960年代のフリー・ジャズをリードした、ジャズ界の「イノベーター」の一人であった。

とまあ、フリー・ジャズとは言うが、今の耳で聴くと、普通のメインストリーム・ジャズに聴こえる演奏がほどんど。気の向くまま、思いのままに吹きまくるフリー・インプロビゼーションでは無く、従来のモダン・ジャズのルーティンに囚われない、それまでに無いルーティンで自由度の高い演奏を吹き進めていく、そう意味での「フリーなジャズ」を提唱し牽引した。

必要最低限の決め事の中で、それまでに無いジャズの進め方を提示し、その進め方に則って、フロント楽器が旋律を吹き進めていく。オーネット・コールマンの「フリー・ジャズ」には、アドリブ・ラインに旋律があり、ハーモニーがある。よって、演奏全体の自由度の高いのにも拘わらず、今の耳で聴くと、意外とメインストリームなジャズに聴こえる。

そんなオーネット・コールマンの追悼として、今日は、Pat Metheny & Ornette Coleman『Song X』(写真)を聴く。1985年12月の録音、1986年のリリース。ちなみにパーソネルは、Pat Metheny (g), Ornette Coleman (as, vln), Charlie Haden (b), Jack DeJohnette (ds), Denardo Coleman (ds, per)。

パット・メセニーは、若い頃から、このジャズ界のイノベーター、オーネット・コールマンの音楽に傾倒していて、ことあるごとにオーネットの楽曲を取り上げている。パットは、PMG(パット・メセニー・グループ)では、ファンクネス皆無の牧歌的かつネーチャーな雰囲気でフォーキーな演奏が中心なんだが、ソロになると結構フリーなギタリストに豹変する。

そんなパットが念願叶って、そんなアイドルのオーネット・コールマンと共演したアルバムがこの『Song X』である。パットの契約していたレーベル、ゲフィンからのリリースなので、パット主導のアルバムかと思いきや、このアルバムは全編に渡ってオーネット主導の音作り、音の展開である。最初から最後まで、オーネット・コールマンの音世界満載。
 

Songx

 

そんなオーネットな音世界に、パットは喜々として追従しているようだ。さすがに敬愛するオーネットとの共演。オーネットとパットの息はピッタリ。オーネットの音楽を十分に理解して、オーネットの音楽をパットなりに忠実に再現している。初共演というが、このオーネットとパットのコラボには違和感は全くない。

意外だったのは、オーネットの音世界に、ドラムのデジョネットが叩きまくりながら、オーネットの音世界に素直に追従しているところ。さすがにポリリズムの申し子ドラマーである。オーネットのフリーなジャズに合わせて叩きまくるポリリズムは、まさにオーネットの為に表現されたリズム&ビートである。

そして、オーネットとの共演が多く、オーネットの音楽を一番理解しているベーシストの哲人、チャーリー・ヘイデンのベースがこれまた、オーネットの音の展開にピッタリなベースラインを提供する。オーネットのフリーなジャズに、迷いの無い淀みの無い、オーネットの旋律にピッタリなベースライン。聴いていて惚れ惚れする。

アルバム全体の雰囲気は、決して奇をてらったアブストラクトな雰囲気の「フリー・ジャズ」では無い。従来のモダン・ジャズのルーティンに囚われない、それまでに無いルーティンで自由度の高い演奏を吹き進めていく、そう意味での「フリーなジャズ」は、今の耳で聴くと、意外とメインストリームなジャズである。

ジャケットは写真のジャケットが、僕にとっては馴染みが深く、これでないと「駄目」だ。20thアニバーサリーCDのあのケバケバしい「大きなダブル・エックス」のジャケットはどうにもこうにも趣味が悪いとしか思えない。

が、従来のモダン・ジャズに無い演奏展開の中で、自由にアルト・サックスを吹き進めていく様は、まさに「限りなく自由度の高い、創造性豊かなジャズ」である。

今年、素晴らしい「ジャズ界のイノベーター」を「生きるレジェンド」をまた一人失った。ご冥福をお祈りしたい。

 
 

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2014年7月18日 (金曜日)

オーネットのテイクは捨て曲無し

さてさて、アトランティック・レーベルにおける、オーネット・コールマンのアルバムのご紹介の最終回。昨日の『To Whom Who Keeps a Record』と同じ、アトランティック・レーベルのセッションの落ち穂拾い盤。

そのアルバムとは、Ornette Coleman『Twins』(写真左)。1971年10月のリリース。あの名盤『Free Jazz』のファースト・テイクに、1959年〜1961年のカルテットによる演奏のアウトテイクを収録している。具体的には、『ジャズ来るべきもの』『オーネット!』『ジズ・イズ・アワ・ミュージック』から漏れたアウトテイク集になる。

まあ、『ジャズ来るべきもの』『オーネット!』『ジズ・イズ・アワ・ミュージック』からのアウトテイクに加えて、『フリー・ジャズ』のファースト・テイクである。悪かろうはずが無い。確かに、全編を聴き通して、なかなか内容のある、充実したオーネットのフリー・ジャズが聴ける。

昨日も書いたが、オーネット・コールマンの落ち穂拾い盤って、捨て曲が無い。この『Twins』も然り。充実した内容のアウトテイクがてんこ盛りである。こういうジャズメンって珍しいと言えば珍しい。逆に、本テイクとアウトテイクの差異はなんなんだ、ということにもなる(笑)。
 

Ornette_coleman_twins

 
オーネットのフリー・ジャズって、今の耳で聴くと、決して「フリー・ジャズ」では無い。面白いアイデアが詰まった、限りなくフリーに近いハードバップな様相が強い。但し、オーネットやチェリーのアドリブ・フレーズはコードでもモードでも無い。ある決め事に則った、気分のままに吹く「思いつきフレーズ」だと僕は解釈している。

モード奏法の様な、アカデミックな理論が無い分、曲が進むにつれ、マンネリに傾きつつあるし、アドリブ・フレーズの展開も単調になりがちである。それでも、1959年〜1961年のジャズ・シーンでは、このオーネットの演奏って、かなり先進的だったと思うし、ジャズの最先端の一端を担っていたんだなあ、と思っている。

このオーネットの『Twins』は、一般万民向けのアルバムではありません。かなり、オーネットのマニアの方々、つまりオーネット者御用達のアルバムだと言えます。まあ、通常のジャズ者の皆様には、強くお勧めする盤では決してありません。

逆に、オーネットの限りなくフリーに近い演奏が好きな、いわゆるオーネット者には必須のアルバムになります。特に、『フリー・ジャズ』のファースト・テイクは聴きものである。オリジナルの本テイクよりも、先進的で攻撃的である。 

これで、アトランティック・レーベルのオーネット・コールマンのアルバムは終わり。いよいよ、次からのオーネットの聴き直しは、アトランティック以降の優秀盤を聴き進めることになる。そして、ゴールは、1965年の大名盤『At the "Golden Circle" Vol. 1 & 2』。さあさあ、頑張ろう(笑)。 

 
 

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2014年7月17日 (木曜日)

オーネットの落ち穂拾いの異色盤

さて、アトランティック・レーベルのオーネット・コールマンの聴き直しも、いよいよ終焉を迎える。今日は、Ornette Coleman『To Whom Who Keeps A Record』。邦題は『未知からの漂着』。すっごい邦題やなあ(笑)。

1959年から1960年にかけての『Change of the Century』と『This Is Our Music』セッションからの落ち穂拾い盤である。1975年に日本でのみリリースされた当時の貴重盤。ジャケットもすらっとシンプルなもの。ジャズのアルバムって感じがしない。

パーソネルはほぼ共通のメンバー。Ornette Coleman (as), Don Cherry (tp), Charlie Haden (b), Billy Higgins (ds) on "Music Always" 1959 Track, Ed Blackwell (ds) on 1960 tracks。ドラムが「Music Always」だけがビリー・ヒギンズが務め、残りは、コールマン、チェリーの双頭フロントをはじめに、ベースのヘイデン、ドラムのブラックウェルの鉄壁の布陣。

このアルバムの収録曲は以下の通り。それぞれの曲のタイトルをつなげて読むと面白い。

1. Music Always
2. Brings Goodness
3. To Us
4. All
5. P.S. Unless One Has (Blues Connotation No.2)
6. Some Other
7. Motive For Its Use
 

To_whom_who_keeps_a_record

 
Music Always Brings Goodness To Us All.
P.S. Unless One Has Some Other Motive For Its Use.

「音楽は常に私たち皆に良いものをもたらしてくれる。
ただし、何か別の目論見で用いられることさえなければ」

となかなか意味深なメッセージになるのだ。まあ、フリーな曲で占められているので、タイトルは何でも良いといえば良いのだが、この様に、各曲のタイトルをつなげて読ませて、メッセージ性のあるものにする、なんてアプローチは、他のジャズ盤には無いもの。ちょっとばかし、ユニークな盤ではあります。

落ち穂拾い盤とは言え、さすがにオーネットの初期の名盤と誉れ高い『Change of the Century』と『This Is Our Music』からの落ち穂拾いなので、内容的には充実しています。これが当時未収録としてお蔵入りしたテイクとは信じられません。

やはり、このアトランティック・レーベルでのコールマン独特の限りなくフリーに近いバップ・ジャズは、フリー・ジャズな様々なアイディア満載で、聴いていて実に興味深いものばかり。単調な展開に陥る部分もあるが、フリー・ジャズなんて概念が無いその時代に、個性的なアイデア優先な取り組みは実に意欲的であり、実に潔い。

オーネット・コールマンの落ち穂拾い盤って、捨て曲が無いんですよね。この『To Whom Who Keeps A Record』もなかなかの内容で、アルバムを聴き終えて、改めて感心しました。とてもこのアルバムが「落ち穂拾い盤」だなんて思えませんね。良い内容です。
 
 
 
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2014年7月16日 (水曜日)

リズム&ビート優先のフリーな演奏

昔はそうは思わなかったのだが、最近は「なるほどな」と納得する。やはり、オーネット・コールマンは、確かに「フリー・ジャズ」の祖であった。

特に、今、聴き直している、1958年のデビュー盤から、1965年の大名盤『At the "Golden Circle" Vol. 1 & 2』まで、今の耳で聴き直すと、確かにオーネットは、当時、フリー・ジャズの旗手だったことは間違い無い。

Ornette Coleman『Ornette!』(写真左)というアルバムがある。1961年1月の録音。ちなみにパーソネルは、Ornette Coleman (as), Don Cherry (tp), Scott LaFaro (b), Ed Blackwell (ds)。盟友ドン・チェリーのトランペットが心強い。そして、リズム・セクションは、早逝した伝説のベーシストであるスコット・ラファロ、そして、フリー・ドラミングの若手であるエド・ブラックウエルと凄い布陣である。

どんなオーネット独特のフリー・ジャズになるのか、と思って、聴き始めると「あれれ」と思う。リズム&ビート優先のフリー・ジャズ。テナーとペットは短いフレーズを次々と繰り出しながら、リズム&ビートの自由な展開に追従する。これは面白い。完全にリズム&ビート優先の「限りなく自由度の高い」展開である。

アルバム全編を聴き終えて思うのは、やはり、この「オーネットのフリー・ジャズ」は最大限の決め事があって、その決め事を守る分には、後は何をやっても構わない。そんなオーネット独特のフリー・ジャズな展開を、このアルバムでは、リズム・セクション中心に展開している。
 

Ornette

 
今の耳で聴くと、これはフリー・ジャズでは無いなあ、と感じる。限りなくフリーに近い、新主流派のモーダルな演奏に近い。しかし、フロントを張るオーネットとチェリーの繰り出すフレーズはモードでは無い。必要最低限の決め事を守りながら、思うがままに吹きたい様に吹く。最後のほうは、ちょっとマンネリになったのか、少し単調になるのはご愛嬌。

さすがにこの限りなくフリーに近い展開に、メインストリーム・ジャズ出身のラファロはちょっと硬い。逆に、型にはまっていないブラックウエルは精力的に自由に叩きまくっている。逆に、ラファロの硬さが伝統的なジャズのリズム&ビートの雰囲気をほんのりと漂わせていて、これはこれで、このアルバムでは良い方向に作用していると思う。

確かに、このリズム&ビート優先の「限りなく自由度の高い」展開を聴いていると、当時のジャズ界の若手、例えば、ハービー・ハンコックとか、ロン・カーターとか、トニー・ウィリアムスとか、ウェイン・ショーターとか、当時、マイルス楽団のメンバーたちが、こぞってフリー・ジャズ指向に傾いたのも判るなあ、と思う。

振り返ると、1962年当時、この『Ornette!』の音世界は、かなり相当に「斬新に」聴こえたのではないだろうか。新しいジャズの響きがビンビンに伝わってきて、当時の若手ミュージシャンが、こぞってオーネットのスタイルに傾いたのも無理も無いことだと思う。とにかく格好良いのだ。クールと言って良い音世界である。

実験的なアプローチを捉えたアルバムなので、演奏全体において、切れ味やシャープさに欠けるのは仕方の無いこと。このアルバムでは、リズム&ビート優先の「限りなく自由度の高い」展開こそが「買い」であり、積極的に評価されるべき部分である。こんなリズム&ビート優先の「限りなく自由度の高い」展開が試みられていたことに、ジャズの先進性と懐の深さを感じる。
 
 
 
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2014年7月15日 (火曜日)

テナーでもオーネットはオーネット

オーネット・コールマンの聴き直しを再開。まずは第1期として、1958年のデビュー盤『Something Else!!!!』から、1965年のあの名盤『At the "Golden Circle" Vol. 1 & 2』までの聴き直し。

今日は、Ornette Coleman『Ornette on Tenor』(写真左)。1961年3月の録音。1962年12月にアトランティック・レーベルからリリースされている。オーネットはもともとはアルト・サックス奏者なんだが、このアルバムでは、テナー・サックスを手にとって、オーネット独特のフリー・ジャズをやっている。

ちなみにパーソネルは、Ornette Coleman (ts), Don Cherry (tp), Jimmy Garrison (b), Ed Blackwell (ds)。盟友ドン・チェリーがトランペットを担当し、リズム・セクションは、ギャリソンのベースとブラックウェルのドラムと申し分無い。

いつもはアルト・サックスで、オーネット独特の「フリー・ジャズ」をやっているんだが、これをテナー・サックスでやるとどうなるのか。アルト・サックスは調性は変ホ(E♭)調、テナー・サックスはアルトよりも完全4度低い変ロ(B♭)調。テナーは男性的かつ豪快な音色を持つので、これでオーネットのフリー・ジャズをやるとどうなるのか。

で、聴いてみたら、まず第一印象は「テナーを持ってもオーネットはオーネットやなあ」。フレーズの作り方、展開の仕方、タイム感覚、どれをとってみても「オーネットはオーネット」。それもそのはずで、アルト・サックスを持つ前は、オーネットはテナー・サックス奏者だったのだ。テナーもお手のものなのだ。
 

Ornette_tenor

 
なるほどね。アルトとテナーは大きさも調性も異なるので、吹き方も少し異なるのだが、オーネットはそんなことは全く気にせず、テナーを吹く。そうかテナーを吹いていたんやね。道理で上手いと思った。

ただ、やはりアルトより低い調性を持つテナー・サックスならではの音色と音階で、オーネットのフリー・ジャズ演奏が、よりダイナミックかつ男性的に展開されるのには感心した。重心が低いというか、ダイナミックレンジが広くなったというか、オーネットのフリー・ジャズがより音圧があり、より拡がりのある展開に聴こえる。聴き応え十分である。

このアルバムのリリースが1962年だから、まだコルトレーンはフリー・ジャズに転身してはいない。しかし、この『Ornette on Tenor』でのオーネットのテナーは、コルトレーンのテナーの展開に似ている。というか、コルトレーンのテナーがオーネットのテナーに似ているのか。

オーネットのテナーは、コルトレーンに似てはいるが、コルトレーンより余裕があるというか、コルトレーンよりも陽気でラフである。必要最低限の決め事にのって吹きまくるオーネットのテナーは、全くもってイマージネーション豊か。アドリブ展開は今の耳で聴くとアイデア優先のちょっと単調なものなんだが、当時としてはこれがフリーなジャズと呼ばれていたんだろうな。

実はこのアルバムが、アトランティックでのラスト・アルバムになるんですね。先進的なジャズに理解のあったアトランティック・レーベルだったんですが、どうしてオーネットは、このアトランティック・レーベルを離れたんでしょうか。このアルバム以降、オーネットは茨の道を暫く歩くことになります。
 
 
 
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