2024年11月23日 (土曜日)

ストックホルムのオーネット

ブルーノートの、創立以降、ジャズの潮流が変わりつつあった1968年までにリリースされたアルバムから、レココレ誌の執筆陣が選んだ「ベスト100」。ブルーノートらしい内容、音、響き。そんな三拍子揃ったブルーノート盤の「ベスト100」。今日はその「第6位」。

Ornette Coleman『At the "Golden Circle" Stockholm vol.1』(写真左)。1965年12月3–4日、スウェーデンのストックホルムでのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Ornette Coleman (as, tp, vin), David Izenzon (b), Charles Moffett (ds)。約3年ぶりに活動を再開した、オーネット・コールマンの欧州ツアーでの一コマ。

レココレ評者が選んだ、ブルーノート盤の「ベスト100」。今回は第6位だが、これまた難物なアルバムを選んだものだ。フリー・ジャズの祖とされるオーネット・コールマンであるが、僕はどう聴いても、オーネットの吹奏は「フリー・ジャズ」には聴こえない。

本人も語っているが、一応、本人が考案した「ハーモロディクス理論」というものに則った結果だというし、演奏を聴けば、必要最低限の「重要な何らかの決めごと」が演奏の底にあるのが判る。

つまり、フリー・ジャズではなく、ハードバップの弱点を克服し、ジャズの即興演奏の可能性を拡げ、発展させた「モード奏法」と同列の奏法、「ハーモロディクス理論」で、モード奏法と同じく、ハードバップの弱点を克服し、ジャズの即興演奏の可能性を拡げ、発展させたのが、オーネット・コールマンだと僕は解釈している。
 
Ornette-colemanat-the-22golden-circle22-
 
ただ、困ったことに、モード奏法はその音楽理論が理路整然と確立されているが、「ハーモロディクス理論」については、オーネットの精神的な言葉は残っているが、具体的な記述を残していない。これが、オーネットの演奏する、自由度の高いユニークな即興演奏を解釈しにくくしているし、正確なフォロワーが現れ出でない、大きな理由だろう。

さて、このブルーノートに残したストックホルムでのライヴ音源、オーネットの奏でる自由度の高いユニークな即興演奏の全貌がとてもよくわかる、大変優れたライヴ録音になっている。

それまでの伝統的なジャズが、やらないこと、やったことがないこと、やってはいけないこと、を全部やっている、それまでの伝統的なジャズに対する「アンチテーゼ」の様な演奏がギッシリ詰め込んだ、オーネット独特な自由度の限りなく高い「ハードバップ」が、ライヴ演奏という、一期一会な、究極の即興演奏という形で記録されている。

演奏によっては、内容が混乱したり、冗長になったりすることがあるオーネットだが、このライヴ盤には、それが全く無い。オーネットの個性的な「ハーモロディクス理論」に基づく即興演奏が、整った形で鮮度の良いイメージで記録されている。この辺りは、さすが。ブルーノートといったところ。優れたライヴ録音をモノにするプロデュース能力と録音技術については見事という他ない。

オーネット・コールマンの「ハーモロディクス理論」に基づいた、自由度の高いユニークな即興演奏を体感し、理解するには格好のアルバムである。そういう意味では、ブルーノート・レーベルほど、当時のオーネット・コールマンを理解していたレーベルは無かった、と言える。

ベスト100の「第6位」が妥当かどうかについては異論はあるが、ジャズ・レーベルとして、当時の優れたジャズを的確に捉え記録する「ジャズに対する感覚の鋭さ」については、確かに、ブルーノートらしいアルバム、である。こういった、異端に近いジャズを的確に捉えるという点では、ブルーノートがピカイチだろう。
 
 

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2022年7月30日 (土曜日)

僕なりのジャズ超名盤研究・17

この盤が「フリー・ジャズ」の原点だ、とするのには違和感がある。この盤を聴けば「フリー・ジャズがなんたるかが判る」なんてことは無い。そんなにジャズは単純なものでは無いし、甘いものでも無い。

作った本人からすれば、一応「ハーモロディクス理論」というものに則った結果だというし、演奏を聴けば、必要最低限の「重要な何らかの決めごと」が演奏の底にあるのが判る。それでなければ、旋律を持った「音楽的な演奏」が成立していない。しかし、作った本人が、この「ハーモロディクス理論」について、精神的な言葉は残っているが、具体的な記述を残していない。これは、決定的に困惑する。

Ornette Coleman『The Shape Of Jazz To Come』(写真左)。1959年5月22日の録音。邦題は『ジャズ来るべきもの』。ちなみにパーソネルは、Ornette Coleman (as), Don Cherry (cor), Charlie Haden (b), Billy Higgins (ds)。仰々しい邦題。この盤以降は、皆、この盤に録音されているジャズをやるんだ、なんて誤解を生むような邦題である(笑)。

この盤を聴けば、少なくとも、それまでのジャズ、いわゆる、スイングやビ・バップ、ハードバップな演奏とは全く異なる雰囲気であることは判る。といって、コールマンに対して批判的な方々が言う「でたらめ」な演奏では無い。コード進行とリズム&ビートに乗った演奏であるところは、スイングやビ・バップ、ハードバップな演奏と変わらない。

しかし、この盤では、それまでの伝統的なジャズが、やらないこと、やったことがないこと、やってはいけないこと、を全部やっている、それまでの伝統的なジャズに対する「アンチテーゼ」の様な演奏がギッシリ詰まっている様に聴こえる。
 

Ornette-colemanthe-shape-of-jazz-to-come

 
当然、斬新に聴こえるし、革新的にも聴こえる。しかし、この盤はジャズの「イノベーション」では無い。従来のジャズに対する「アンチテーゼ」をベースに演奏した、当時のコンテンポラリーなジャズだと思う。

選ばれたコードは、いままでの伝統的なジャズが採用しないコードがてんこ盛りだし、リズムはスインギーな4ビートでは無い。無調志向の演奏もあるし、コードに基づかないユニゾン&ハーモニーの採用もある。それまでの伝統的なジャズが、やらないこと、やったことがないこと、やってはいけないこと、をやって、新しいジャズの音、響きを表現している様に感じる。

文字で書けば簡単に感じるが、それまでの伝統的なジャズが、やらないこと、やったことがないこと、やってはいけないこと、をやるのって、ジャズマンとして、卓越した「自由度の高い」演奏テクニックと「それまでのジャズ」に対する卓越した知識が必要で、パーソネルを見渡すと、そういう意味で納得できるメンバーが厳選されている。

確かにこの盤に記録されている演奏は「ユニーク」。発想の転換であり、正論の裏を取った様な、一種「パロディー」の様な演奏である。これって、演奏自由度を最大限に発揮出来る「即興演奏」がメインのジャズだからこそ出来る、もしくは許される「技」である。

それまでの「伝統的」なジャズに無い、新しい響きを宿したジャズなので、ジャズのイノベーションに感じるのかもしれないが、今の耳で聴くと、それまでの伝統的なジャズに対する「アンチテーゼ」であり、ましてや、フリー・ジャズの原点では無いだろう。

それでも、それまでの伝統的なジャズが、やらないこと、やったことがないこと、やってはいけないこと、をやるのは、録音当時、発想の転換であり、新しい響きのジャズを創造するという切り口では「アリ」だと思う。発想として面白いし、同業者のジャズマンとして、チャレンジのし甲斐のあるテーマだと僕は感じる。
 
 

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2015年7月 7日 (火曜日)

オーネットとの共演『Song X』

去る2015年6月11日、オーネット・コールマン(Ornette Coleman)が逝去した。満85歳、大往生である。メインの楽器はアルト・サックス。トランペットやヴァイオリンも出来る。1960年代のフリー・ジャズをリードした、ジャズ界の「イノベーター」の一人であった。

とまあ、フリー・ジャズとは言うが、今の耳で聴くと、普通のメインストリーム・ジャズに聴こえる演奏がほどんど。気の向くまま、思いのままに吹きまくるフリー・インプロビゼーションでは無く、従来のモダン・ジャズのルーティンに囚われない、それまでに無いルーティンで自由度の高い演奏を吹き進めていく、そう意味での「フリーなジャズ」を提唱し牽引した。

必要最低限の決め事の中で、それまでに無いジャズの進め方を提示し、その進め方に則って、フロント楽器が旋律を吹き進めていく。オーネット・コールマンの「フリー・ジャズ」には、アドリブ・ラインに旋律があり、ハーモニーがある。よって、演奏全体の自由度の高いのにも拘わらず、今の耳で聴くと、意外とメインストリームなジャズに聴こえる。

そんなオーネット・コールマンの追悼として、今日は、Pat Metheny & Ornette Coleman『Song X』(写真)を聴く。1985年12月の録音、1986年のリリース。ちなみにパーソネルは、Pat Metheny (g), Ornette Coleman (as, vln), Charlie Haden (b), Jack DeJohnette (ds), Denardo Coleman (ds, per)。

パット・メセニーは、若い頃から、このジャズ界のイノベーター、オーネット・コールマンの音楽に傾倒していて、ことあるごとにオーネットの楽曲を取り上げている。パットは、PMG(パット・メセニー・グループ)では、ファンクネス皆無の牧歌的かつネーチャーな雰囲気でフォーキーな演奏が中心なんだが、ソロになると結構フリーなギタリストに豹変する。

そんなパットが念願叶って、そんなアイドルのオーネット・コールマンと共演したアルバムがこの『Song X』である。パットの契約していたレーベル、ゲフィンからのリリースなので、パット主導のアルバムかと思いきや、このアルバムは全編に渡ってオーネット主導の音作り、音の展開である。最初から最後まで、オーネット・コールマンの音世界満載。
 

Songx

 

そんなオーネットな音世界に、パットは喜々として追従しているようだ。さすがに敬愛するオーネットとの共演。オーネットとパットの息はピッタリ。オーネットの音楽を十分に理解して、オーネットの音楽をパットなりに忠実に再現している。初共演というが、このオーネットとパットのコラボには違和感は全くない。

意外だったのは、オーネットの音世界に、ドラムのデジョネットが叩きまくりながら、オーネットの音世界に素直に追従しているところ。さすがにポリリズムの申し子ドラマーである。オーネットのフリーなジャズに合わせて叩きまくるポリリズムは、まさにオーネットの為に表現されたリズム&ビートである。

そして、オーネットとの共演が多く、オーネットの音楽を一番理解しているベーシストの哲人、チャーリー・ヘイデンのベースがこれまた、オーネットの音の展開にピッタリなベースラインを提供する。オーネットのフリーなジャズに、迷いの無い淀みの無い、オーネットの旋律にピッタリなベースライン。聴いていて惚れ惚れする。

アルバム全体の雰囲気は、決して奇をてらったアブストラクトな雰囲気の「フリー・ジャズ」では無い。従来のモダン・ジャズのルーティンに囚われない、それまでに無いルーティンで自由度の高い演奏を吹き進めていく、そう意味での「フリーなジャズ」は、今の耳で聴くと、意外とメインストリームなジャズである。

ジャケットは写真のジャケットが、僕にとっては馴染みが深く、これでないと「駄目」だ。20thアニバーサリーCDのあのケバケバしい「大きなダブル・エックス」のジャケットはどうにもこうにも趣味が悪いとしか思えない。

が、従来のモダン・ジャズに無い演奏展開の中で、自由にアルト・サックスを吹き進めていく様は、まさに「限りなく自由度の高い、創造性豊かなジャズ」である。

今年、素晴らしい「ジャズ界のイノベーター」を「生きるレジェンド」をまた一人失った。ご冥福をお祈りしたい。

 
 

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2014年7月18日 (金曜日)

オーネットのテイクは捨て曲無し

さてさて、アトランティック・レーベルにおける、オーネット・コールマンのアルバムのご紹介の最終回。昨日の『To Whom Who Keeps a Record』と同じ、アトランティック・レーベルのセッションの落ち穂拾い盤。

そのアルバムとは、Ornette Coleman『Twins』(写真左)。1971年10月のリリース。あの名盤『Free Jazz』のファースト・テイクに、1959年〜1961年のカルテットによる演奏のアウトテイクを収録している。具体的には、『ジャズ来るべきもの』『オーネット!』『ジズ・イズ・アワ・ミュージック』から漏れたアウトテイク集になる。

まあ、『ジャズ来るべきもの』『オーネット!』『ジズ・イズ・アワ・ミュージック』からのアウトテイクに加えて、『フリー・ジャズ』のファースト・テイクである。悪かろうはずが無い。確かに、全編を聴き通して、なかなか内容のある、充実したオーネットのフリー・ジャズが聴ける。

昨日も書いたが、オーネット・コールマンの落ち穂拾い盤って、捨て曲が無い。この『Twins』も然り。充実した内容のアウトテイクがてんこ盛りである。こういうジャズメンって珍しいと言えば珍しい。逆に、本テイクとアウトテイクの差異はなんなんだ、ということにもなる(笑)。
 

Ornette_coleman_twins

 
オーネットのフリー・ジャズって、今の耳で聴くと、決して「フリー・ジャズ」では無い。面白いアイデアが詰まった、限りなくフリーに近いハードバップな様相が強い。但し、オーネットやチェリーのアドリブ・フレーズはコードでもモードでも無い。ある決め事に則った、気分のままに吹く「思いつきフレーズ」だと僕は解釈している。

モード奏法の様な、アカデミックな理論が無い分、曲が進むにつれ、マンネリに傾きつつあるし、アドリブ・フレーズの展開も単調になりがちである。それでも、1959年〜1961年のジャズ・シーンでは、このオーネットの演奏って、かなり先進的だったと思うし、ジャズの最先端の一端を担っていたんだなあ、と思っている。

このオーネットの『Twins』は、一般万民向けのアルバムではありません。かなり、オーネットのマニアの方々、つまりオーネット者御用達のアルバムだと言えます。まあ、通常のジャズ者の皆様には、強くお勧めする盤では決してありません。

逆に、オーネットの限りなくフリーに近い演奏が好きな、いわゆるオーネット者には必須のアルバムになります。特に、『フリー・ジャズ』のファースト・テイクは聴きものである。オリジナルの本テイクよりも、先進的で攻撃的である。 

これで、アトランティック・レーベルのオーネット・コールマンのアルバムは終わり。いよいよ、次からのオーネットの聴き直しは、アトランティック以降の優秀盤を聴き進めることになる。そして、ゴールは、1965年の大名盤『At the "Golden Circle" Vol. 1 & 2』。さあさあ、頑張ろう(笑)。 

 
 

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2014年7月17日 (木曜日)

オーネットの落ち穂拾いの異色盤

さて、アトランティック・レーベルのオーネット・コールマンの聴き直しも、いよいよ終焉を迎える。今日は、Ornette Coleman『To Whom Who Keeps A Record』。邦題は『未知からの漂着』。すっごい邦題やなあ(笑)。

1959年から1960年にかけての『Change of the Century』と『This Is Our Music』セッションからの落ち穂拾い盤である。1975年に日本でのみリリースされた当時の貴重盤。ジャケットもすらっとシンプルなもの。ジャズのアルバムって感じがしない。

パーソネルはほぼ共通のメンバー。Ornette Coleman (as), Don Cherry (tp), Charlie Haden (b), Billy Higgins (ds) on "Music Always" 1959 Track, Ed Blackwell (ds) on 1960 tracks。ドラムが「Music Always」だけがビリー・ヒギンズが務め、残りは、コールマン、チェリーの双頭フロントをはじめに、ベースのヘイデン、ドラムのブラックウェルの鉄壁の布陣。

このアルバムの収録曲は以下の通り。それぞれの曲のタイトルをつなげて読むと面白い。

1. Music Always
2. Brings Goodness
3. To Us
4. All
5. P.S. Unless One Has (Blues Connotation No.2)
6. Some Other
7. Motive For Its Use
 

To_whom_who_keeps_a_record

 
Music Always Brings Goodness To Us All.
P.S. Unless One Has Some Other Motive For Its Use.

「音楽は常に私たち皆に良いものをもたらしてくれる。
ただし、何か別の目論見で用いられることさえなければ」

となかなか意味深なメッセージになるのだ。まあ、フリーな曲で占められているので、タイトルは何でも良いといえば良いのだが、この様に、各曲のタイトルをつなげて読ませて、メッセージ性のあるものにする、なんてアプローチは、他のジャズ盤には無いもの。ちょっとばかし、ユニークな盤ではあります。

落ち穂拾い盤とは言え、さすがにオーネットの初期の名盤と誉れ高い『Change of the Century』と『This Is Our Music』からの落ち穂拾いなので、内容的には充実しています。これが当時未収録としてお蔵入りしたテイクとは信じられません。

やはり、このアトランティック・レーベルでのコールマン独特の限りなくフリーに近いバップ・ジャズは、フリー・ジャズな様々なアイディア満載で、聴いていて実に興味深いものばかり。単調な展開に陥る部分もあるが、フリー・ジャズなんて概念が無いその時代に、個性的なアイデア優先な取り組みは実に意欲的であり、実に潔い。

オーネット・コールマンの落ち穂拾い盤って、捨て曲が無いんですよね。この『To Whom Who Keeps A Record』もなかなかの内容で、アルバムを聴き終えて、改めて感心しました。とてもこのアルバムが「落ち穂拾い盤」だなんて思えませんね。良い内容です。

 
 

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2014年7月16日 (水曜日)

リズム&ビート優先のフリーな演奏

昔はそうは思わなかったのだが、最近は「なるほどな」と納得する。やはり、オーネット・コールマンは、確かに「フリー・ジャズ」の祖であった。

特に、今、聴き直している、1958年のデビュー盤から、1965年の大名盤『At the "Golden Circle" Vol. 1 & 2』まで、今の耳で聴き直すと、確かにオーネットは、当時、フリー・ジャズの旗手だったことは間違い無い。

Ornette Coleman『Ornette!』(写真左)というアルバムがある。1961年1月の録音。ちなみにパーソネルは、Ornette Coleman (as), Don Cherry (tp), Scott LaFaro (b), Ed Blackwell (ds)。盟友ドン・チェリーのトランペットが心強い。そして、リズム・セクションは、早逝した伝説のベーシストであるスコット・ラファロ、そして、フリー・ドラミングの若手であるエド・ブラックウエルと凄い布陣である。

どんなオーネット独特のフリー・ジャズになるのか、と思って、聴き始めると「あれれ」と思う。リズム&ビート優先のフリー・ジャズ。テナーとペットは短いフレーズを次々と繰り出しながら、リズム&ビートの自由な展開に追従する。これは面白い。完全にリズム&ビート優先の「限りなく自由度の高い」展開である。

アルバム全編を聴き終えて思うのは、やはり、この「オーネットのフリー・ジャズ」は最大限の決め事があって、その決め事を守る分には、後は何をやっても構わない。そんなオーネット独特のフリー・ジャズな展開を、このアルバムでは、リズム・セクション中心に展開している。
 

Ornette

 
今の耳で聴くと、これはフリー・ジャズでは無いなあ、と感じる。限りなくフリーに近い、新主流派のモーダルな演奏に近い。しかし、フロントを張るオーネットとチェリーの繰り出すフレーズはモードでは無い。必要最低限の決め事を守りながら、思うがままに吹きたい様に吹く。最後のほうは、ちょっとマンネリになったのか、少し単調になるのはご愛嬌。

さすがにこの限りなくフリーに近い展開に、メインストリーム・ジャズ出身のラファロはちょっと硬い。逆に、型にはまっていないブラックウエルは精力的に自由に叩きまくっている。逆に、ラファロの硬さが伝統的なジャズのリズム&ビートの雰囲気をほんのりと漂わせていて、これはこれで、このアルバムでは良い方向に作用していると思う。

確かに、このリズム&ビート優先の「限りなく自由度の高い」展開を聴いていると、当時のジャズ界の若手、例えば、ハービー・ハンコックとか、ロン・カーターとか、トニー・ウィリアムスとか、ウェイン・ショーターとか、当時、マイルス楽団のメンバーたちが、こぞってフリー・ジャズ指向に傾いたのも判るなあ、と思う。

振り返ると、1962年当時、この『Ornette!』の音世界は、かなり相当に「斬新に」聴こえたのではないだろうか。新しいジャズの響きがビンビンに伝わってきて、当時の若手ミュージシャンが、こぞってオーネットのスタイルに傾いたのも無理も無いことだと思う。とにかく格好良いのだ。クールと言って良い音世界である。

実験的なアプローチを捉えたアルバムなので、演奏全体において、切れ味やシャープさに欠けるのは仕方の無いこと。このアルバムでは、リズム&ビート優先の「限りなく自由度の高い」展開こそが「買い」であり、積極的に評価されるべき部分である。こんなリズム&ビート優先の「限りなく自由度の高い」展開が試みられていたことに、ジャズの先進性と懐の深さを感じる。

 
 

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2014年7月15日 (火曜日)

テナーでもオーネットはオーネット

オーネット・コールマンの聴き直しを再開。まずは第1期として、1958年のデビュー盤『Something Else!!!!』から、1965年のあの名盤『At the "Golden Circle" Vol. 1 & 2』までの聴き直し。

今日は、Ornette Coleman『Ornette on Tenor』(写真左)。1961年3月の録音。1962年12月にアトランティック・レーベルからリリースされている。オーネットはもともとはアルト・サックス奏者なんだが、このアルバムでは、テナー・サックスを手にとって、オーネット独特のフリー・ジャズをやっている。

ちなみにパーソネルは、Ornette Coleman (ts), Don Cherry (tp), Jimmy Garrison (b), Ed Blackwell (ds)。盟友ドン・チェリーがトランペットを担当し、リズム・セクションは、ギャリソンのベースとブラックウェルのドラムと申し分無い。

いつもはアルト・サックスで、オーネット独特の「フリー・ジャズ」をやっているんだが、これをテナー・サックスでやるとどうなるのか。アルト・サックスは調性は変ホ(E♭)調、テナー・サックスはアルトよりも完全4度低い変ロ(B♭)調。テナーは男性的かつ豪快な音色を持つので、これでオーネットのフリー・ジャズをやるとどうなるのか。

で、聴いてみたら、まず第一印象は「テナーを持ってもオーネットはオーネットやなあ」。フレーズの作り方、展開の仕方、タイム感覚、どれをとってみても「オーネットはオーネット」。それもそのはずで、アルト・サックスを持つ前は、オーネットはテナー・サックス奏者だったのだ。テナーもお手のものなのだ。
 

Ornette_tenor

 
なるほどね。アルトとテナーは大きさも調性も異なるので、吹き方も少し異なるのだが、オーネットはそんなことは全く気にせず、テナーを吹く。そうかテナーを吹いていたんやね。道理で上手いと思った。

ただ、やはりアルトより低い調性を持つテナー・サックスならではの音色と音階で、オーネットのフリー・ジャズ演奏が、よりダイナミックかつ男性的に展開されるのには感心した。重心が低いというか、ダイナミックレンジが広くなったというか、オーネットのフリー・ジャズがより音圧があり、より拡がりのある展開に聴こえる。聴き応え十分である。

このアルバムのリリースが1962年だから、まだコルトレーンはフリー・ジャズに転身してはいない。しかし、この『Ornette on Tenor』でのオーネットのテナーは、コルトレーンのテナーの展開に似ている。というか、コルトレーンのテナーがオーネットのテナーに似ているのか。

オーネットのテナーは、コルトレーンに似てはいるが、コルトレーンより余裕があるというか、コルトレーンよりも陽気でラフである。必要最低限の決め事にのって吹きまくるオーネットのテナーは、全くもってイマージネーション豊か。アドリブ展開は今の耳で聴くとアイデア優先のちょっと単調なものなんだが、当時としてはこれがフリーなジャズと呼ばれていたんだろうな。

実はこのアルバムが、アトランティックでのラスト・アルバムになるんですね。先進的なジャズに理解のあったアトランティック・レーベルだったんですが、どうしてオーネットは、このアトランティック・レーベルを離れたんでしょうか。このアルバム以降、オーネットは茨の道を暫く歩くことになります。

 
 

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2013年6月24日 (月曜日)

オーネットのセカンド盤です。

オーネット・コールマンのリーダー作の第2作目である。そのタイトルは『Tomorrow Is The Question!』(写真左)。ふふっ、仰々しいタイトルやなあ。邦題は『明日が問題だ』。

ちなみにパーソネルは、Don Cherry (cor), Ornette Coleman (as), Percy Heath (b), Shelly Manne (ds)。1959年3月の録音です。パーソネルを眺めると、米国西海岸ハードバップ・ジャズの名うてのリズム・セクション、ベースのパーシー・ヒースとドラムのシェリー・マンが控えているのが面白い。

オーネットは、初リーダー作にも増して、如何に既成のコード進行とリズム&ビートを外すか、を徹底的に追求しているように聴こえる。おもいっきり外れて、不思議なコード進行に乗って、オーネットが一人勝手に吹きまくる。もうオーネットを止める者はいない(笑)。

初リーダー作と同様、トランペットのドン・チェリーがしっかりとフロントに座っている。さすがにオーネットとのスタジオ録音の付き合いも2作目。初リーダー作に見え隠れした、どうしても理屈で追従しようとして、かえってハードバップ風に展開してしまったりして、苦闘しているドン・チェリーが、このアルバムでは、相当に自由に吹きまくっている。自由度の自然さはリーダーのオーネットをも凌ぐ内容。凄いぞ、ドン・チェリー。

演奏の前に、簡単な「なんらかの取り決め、なんらかの決めごと」をしてからの演奏なんだろうが、演奏曲のコード進行とリズム・パターンが奇天烈で、この奇天烈なコード進行とリズム・パターンに追従するだけで体力を消耗し、オーネットの奇天烈なフレーズに追従出来ないでいる、米国西海岸ハードバップ・ジャズの名うての二人、ヒースとマンが微笑ましい。
 

Tomorrow_is_the_question

 
オーネットがオーネットの感覚で、勝手に考え、勝手に決める「なんらかの取り決め、なんらかの決めごと」、不思議なコード進行とリズム・パターンである。

当たり前のことなんだが、オーネット以外にそれに追従できる者はいない。逆に、ドン・チェリーが異端なのだ。オーネットよりもオーネットらしく、おもいっきり外れて、不思議なコード進行に乗って、一人勝手に吹きまくっている。

演奏全体の雰囲気はハードバップに留まってはいるが、フロントの二人、オーネットとチェリーは、従来のジャズのパターンから完全に外れて、好き勝手に、今までに無い不思議なコード進行とリズム・パターンに乗って吹きまくっている。

う〜ん、フリー・ジャズでは無いよな。従来のジャズのパターンから完全に外れて、好き勝手に、今までに無い不思議なコード進行とリズム・パターンに乗って吹きまくっている、というところが、この時代のオーネットの「ミソ」。伝統の範囲内で限りなく自由な演奏を追求する、というところは、同時代のマイルスと同じ。

でも、マイルスはモードという音楽理論をベースに自由度を追求したので、フォロワーが多数出現して、ジャズの代表的演奏スタイルのひとつとなったが、オーネットは「なんらかの取り決め、なんらかの決めごと」をベースとしたので、基本的にはオーネットとその仲間達しか、この自由度の高い演奏を再現することは叶わなかった。でも、どちらも伝統の範囲内で限りなく自由な演奏を追求する、というところは同じ。

オーネットのコピーにならずに、オーネットの演奏思想のフォロワーになるのは並大抵のことでは無い。

 
 

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2013年4月 3日 (水曜日)

オーネットの初リーダー盤です。

オーネット・コールマンと言えば、限りなく自由度の高い、規則やアレンジやコード進行に縛られないが、なんらかの取り決め、なんらかの決めごとに則って、フリーキーな風に吹いている即興演奏、が個性だと思っている。

しかし、最初からそうじゃなかっただろう。そりゃ〜そうでしょう。基本的に他のメンバーがついてこれないでしょう。そう、その様子が良く判るのが、オーネット・コールマンの初リーダー作。

1958年2月10日、3月24日の録音。Contemporaryレーベルからのリリース。Ornette Coleman『Something Else!!!!』(写真左)。何故かタイトルにビックリマークが四つも付いている。ちなみにパーソネルは、Ornette Coleman (as), Don Cherry (cor), Walter Norris (p), Don Payne (double-b), Billy Higgins (ds)。

後の盟友となるDon Cherry(ドン・チェリー)はしっかりとメンバーに入っている。初期の頃、ドラムを担当したビリー・ヒギンスもいる。しかし、他のメンバーについては、僕はあまり知らない。まあ、当時、相当に変態アルトだったオーネットのデビュー作に付き合うジャズメンもなかなかいなかったんだろうなあ。

このアルバムを聴くと、オーネット以外のメンバーの演奏スタイルは、当時の先端を行く自由度の高いハードバップ。そんな中に、おもいっきり外れて、不思議なコード進行に乗って、オーネットが一人勝手に吹きまくる。

このオーネットの一人勝手気ままなブロウを聴いていると、確かに、限りなく自由度の高い、規則やアレンジやコード進行に縛られないが、オーネット自身がなんらかの取り決め、なんらかの決めごとに則って、フリーキーな風に吹いている。もうこの頃から、オーネットはオーネットなのね。
 

Something_else

 
しかし、他のメンバーの反応が面白い。このアルバムのリーダーはオーネットである。きっと、演奏の前に、簡単ななんらかの取り決め、なんらかの決めごとがあったに違いない。各メンバーとも一生懸命、オーネットに追従しようとするんだが、皆、従来のハードバップなマナーから抜け出ることが出来ない。

皆、従来からの伝統的なハードバップな演奏スタイルから抜け出ることが出来なくて、もがいているところに、オーネットだけが一人だけ「外れて」、自由度の高い、規則やアレンジやコード進行に縛られないブロウを繰り広げている。確かに、オーネットだけが突出している。まあ、ユニークと言えばユニーク。外れていると言えば外れている。

そんな中、後の盟友となるドン・チェリーだけがなんとかしようと懸命になって、オーネットに追従しようとしているのが良く判る。基本的に理屈では無く感覚なんだろうが、どうしても理屈で追従しようとして、かえってハードバップ風に展開してしまったりして、苦闘しているドン・チェリーが実に健気である。

このアルバムに収録されている曲は全てオーネットのオリジナル曲であるが、どの曲も実にユニークで実に良い曲ばかり。スタンダード至上主義にはありえない、どう考えたってそういう風にコード進行しないでしょう、というコード進行を人工的に作って、そこにその捻れたコード進行に従ってフレーズを紡いでいる、という感じの不思議な響きのする曲が実にユニーク。

このデビュー盤は、オーネットのユニークな個性と、優れた作曲の才能を愛でる盤だと言えるでしょう。全体的には、硬派なハードバップの域を出ていない、意外と伝統的な演奏に留まっているので聴き易いです。

普通のハードバップ・マニアの方々にも、あまり違和感は無いでしょう、オーネットのアルトのフレーズを除いては(笑)。まあ、ビックマークが四つも付くはずです。

 
 

大震災から2年。でも、決して忘れない。まだ2年。常に関与し続ける。
がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから復興に協力し続ける。 

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2013年3月 6日 (水曜日)

ズバリ『これが我々の音楽だ』

オーネット・コールマン(Ornette Coleman)にしっかり相対するには、まずは、変なタイトルの初期の5作品を聴くことだと僕は思っている。確かに、オーネットのアルバムには変なタイトルが多い。特に、この初期5作品は変だ(笑)。

『Something Else!!!! 』から始まって、『Tomorrow Is The Question!』『The Shape Of Jazz To Come』『Change Of The Century』、そして『This Is Our Music』。『格別にすばらしいもの』から始まって、『明日が問題だ』『ジャズ来るべきもの』『世紀の転換』、そして『これが我々の音楽だ』。どう見ても、ジャズのアルバム・タイトルらしからぬ、なんだか哲学的なタイトルやなあ(笑)。

変なタイトルはさておき、この初期5作品を聴くと、オーネット・コールマンのやりたいこと、やったことが良く判る。確かに、この過去の取り決めに縛られること無く「できる限り自由にやるジャズ」は、当時(1958年〜1960年辺り)のジャズ・シーンにあっては、異端も異端、ジャズじゃないというよりは「真っ当な音楽じゃない」という聴かれ方ではなかっただろうか。

必要最低限の取り決めの上で、コード進行は従来のルーティンに則らない「へんてこりんなコード進行」をベースに、ユニゾン&ハーモニーも合わさない良くて、好きなタイミングで吹き続ける。

アドリブ・フレーズも、決して、過去のイメージに囚われない、というか、過去のイメージを絶対に踏襲しないことを心がけてアドリブ・フレーズを演奏する、という、とにかく、周りとの強調など考えずに、個々の自分達が演奏したい様に演奏する、自由を追求した演奏形態。
 

This_is_our_music

 
さて、今日は『This Is Our Music』(写真左)である。『Something Else!!!! 』から始まって、『Tomorrow Is The Question!』『The Shape Of Jazz To Come』『Change Of The Century』と来て、遂に「これが我々の音楽だ」と開き直っちゃいました(笑)。

1960年の7〜8月の録音。3回のセッションに分かれる。ちなみにパーソネルは、3回のセッション共に、同じパーソネルで、Don Cherry (cor), Ornette Coleman (as), Charlie Haden (b), Ed Blackwell (ds)。ドラムが、ヒギンスからブラックウエルに代わっているが、演奏の内容としては、それまでの4作品と変わらない。

特に、このアルバムでは奇をてらっていないところが特徴で、4ビートが主で聴き易い。4ビートの上で、ノビノビと自由に浮遊するそれぞれのメンバーの演奏は圧巻ですらあります。演奏的にも、伝統的なジャズから大きく逸脱することが無いので判り易い。意外と現代のコンテンポラリーなジャズは、この「必要最低限の規律のある自由」を踏襲しているところがあって、そういう意味では、オーネットの音楽性は先取性があったとも解釈出来ます。

このアルバムが、オーネットの初期の、ほぼ完成形なんでしょうね。非常に良くこなれた感じがして、迷いが無いというか、洗練されているというか、素晴らしい演奏がギッシリ詰まっている感じです。逆に、あまりにこなれた感じが、ちょっとマンネリに結びつくというか、この 『This Is Our Music』を聴いていると、「オーネット、ちょっと飽きてきたぜ」というような感じが、ふっと脳裏をよぎります。

このアルバムの後、あのダブル・カルテットの実験作、その名もずばり『Free Jazz』を世に出すことになります。そして、この『Free Jazz』の後に、怒濤の名盤ラッシュがやってくるんですが、それはまた後日、ご紹介したいと思います。

まずは、変なタイトルの初期の5作品。このブログでは、『The Shape Of Jazz To Come』『Change Of The Century』、そして『This Is Our Music』をご紹介したことになりますね。

 
 

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