2024年6月19日 (水曜日)

ラスト盤の『Out of the Loop』

ブレッカー兄弟が立ち上げ、エレ・ジャズ・ファンクの代表的バンドとして、一世を風靡した「ブレッカー・ブラザーズ」。1994年にて活動を停止、2007年には、弟のマイケルが骨髄異形性症候群から進行した白血病によって逝去。このマイケルの逝去によって、「ブレッカー・ブラザーズ」は永久に活動停止となった。

The Brecker Brothers『Out of the Loop』(写真左)。1992年4月〜8月の録音。ちなみにパーソネルは、Michael Brecker (sax,,EWI), Randy Brecker (tp, Flh), George Whitty (key), Dean Brown (g), James Genus (b), Steve Jordan (ds), Steve Thornton (perc) 辺りが主要メンバー。ここに、Chris Botti (key), Eliane Elias (key, vo), Larry Saltzman (g), Armand Sabal-Lecco (b), Shawn Pelton (ds), and more が、ゲストとして入っている。

ブレッカー・ブラザーズの実質上の最後のアルバムになる。1982年に一旦、活動を停止し、ソロ活動を展開。しかし、1990年初頭に活動を再開、1992年に『Return of the Brecker Brothers』をリリース。そして、次いでリリースしたのが、この『Out of the Loop』になる。

活動再開後のブレッカー・ブラザーズの音志向は「硬派な大人のファンキー・フュージョン」。この『Out of the Loop』では、前作のファンキー・フュージョンな雰囲気から、メインストリーム・ジャズ志向が強くなって、ファンキー・フュージョンというより、ライトでポップ、クロスオーバー志向の「コンテンポラリーなジャズ・ファンク」に深化している。
 

The-brecker-brothersout-of-the-loop

 
聴いていて面白いのは、ランディのトランペットが入ってくると、思わず、1980年代の、マイルスのカムバック後の「コンテンポラリーなジャズ・ファンク」を想起させる雰囲気にガラッと変わるところ。そこにマイケルのサックスが入ると、さらに、マイルスのカムバック後の「コンテンポラリーなジャズ・ファンク」な雰囲気がより濃厚になる。

と言っても、マイルスのカムバック後の「コンテンポラリーなジャズ・ファンク」は、硬派で純ジャズなエレ・ファンクなんだが、ブレッカー・ブラザーズの方は、1990年代仕様の、ライトでポップ、大衆的でクロスオーバー志向のエレ・ファンク。と言って、単純にフュージョン・ジャズでは括れない、コンテンポラリーで、メインストリーム志向のアレンジが実に硬派で正統派。

このアルバムは、最優秀コンテンポラリー・ジャズ・パフォーマンスと最優秀インストゥルメンタル作曲(African Skies)の2つのグラミー賞を獲得しているのも頷ける、洗練されたアーバンでポップな「コンテンポラリーなジャズ・ファンク」志向の内容。1970年代のブレッカー・ブラザーズの発展形。

ブレッカー兄弟って、マイルスが好きだったんやないのかなあ、とこのアルバムを聴いていて、ふと思った。マイルスの逝去が1991年9月28日。この『Out of the Loop』の録音が1992年4月〜8月の録音。ブレッカー兄弟として、マイルスライクな「コンテンポラリーなジャズ・ファンク」がやりたかったんやないかなあ。と僕は想像しています。
 
 

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2020年4月10日 (金曜日)

凄い未発表ライブ盤 『Live and Unreleased』

僕がジャズを聴き始めた1970年代後半は、フュージョン・ジャズの全盛時代。ジャズ者初心者だったので、しっかりハードバップやビバップの名盤と呼ばれる盤を順に聴いてはいたが、当然、フュージョン・ジャズも聴きに聴いた。もともと、ロックのインストルメンタル、いわゆる「プログレ」が大好きだったので、電気楽器ベースのフュージョン・ジャズは、すんなり入った。

フュージョン・ジャズについては、ムードや聴き心地重視の「ソフト&メロウ」なもの、かたや、ノリ重視でR&B志向の「フュージョン・ファンク」の2つが主流。後者の代表格が「ブレッカー・ブラザース(The Brecker Brothers)」。トランペッターのランディ、テナー/サックス奏者のマイケルのブレッカー兄弟が双頭リーダーの伝説のフュージョン・バンドである。

The Brecker Brothers『Live and Unreleased』(写真)。1980年7月2日、ドイツ、ハンブルグの伝説的ジャズ拠点、Onkel Pos Carnegie Hallでのライヴ録音。80年の夏、5週間に渡る欧州ツアーの一コマ。ちなみにパーソネルは、Randy Brecker (tp & vo), Michael Brecker (ts), Mark Gray (key), Barry Finnerty (g), Neil Jason (b & vo), Richie Morales (ds)。収録曲については「Strap Hangin'」「Sponge」「Some Skunk Funk」他、代表曲のオンパレード。
 
 
Live-and-unreleased-brecker-brothers  
 
 
もうかれこれ40年前のライヴ音源である。内容が良ければ、もう既にリリースされているはず。あんまり期待せずに聴き始めたんだが、これがビックリ。冒頭の「Strap Hangin'」を聴いただけで、椅子から転げ落ちそうになった。なんだ、この凄い演奏は。しかも音が良い。迫力満点、各楽器の分離も良く、パンチとメリハリの効いた音。全盛期のブレッカー・ブラザースのパフォーマスの「ど迫力」がダイレクトに伝わってくる。内容良し、音良し、ジャケット良しと「好盤条件3拍子」が揃った未発表ライヴ音源である。

まず、兄弟のパフォーマンスが凄い。ランディはトランペットを疲れ知らずに吹きまくり、マイケルはテナー・サックスを疾走感満点に吹きまくる。どちらのパフォーマンスも、純ジャズのレジェンド級のトランペッターやテナーマンと比較しても決して引けを取らない、素晴らしい内容。グレイのキーボードも凄いし、フィナティのエレギはファンキー度満点。ジェイソンのベース、モラリスのドラムのリズム隊もフロント楽器を鼓舞し、ガッチリとサポートする。

ファンク・グルーヴとキャッチーなメロディ、そして炸裂のソロ。それらを的確に表現し、イメージを増幅する。このライブ盤のブレッカー・ブラザースの演奏能力は凄まじいものがある。フュージョンだから演奏パフォーマンスはイマイチで、純ジャズだから優秀なんてことは絶対に無い。このライブ盤を聴いて改めてそう思う。フュージョン・ジャズだからと言って侮ってはならない。しかし、どうして、これだけ凄い内容のライブ音源が40年もの間、倉庫に眠っていたのか。いやはや、今回、発掘リリースされて良かった。
 
 
 

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2017年4月15日 (土曜日)

『Return of the Brecker Brothers』

ランディ・ブレッカーとマイケル・ブレッカー兄弟によるザ・ブレッカー・ブラザーズ(The Brecker Brothers)、人気のフュージョン・バンドとして一世を風靡したが、フュージョン・ブームに翳りが見え始めた1982年に活動を停止し、それぞれがソロ活動を開始。伝説のバンドの化すのかと思われた1992年、突如として復活を果たす。

何があったのかは判らないが、この復活には期待した。活動停止前、1975年から1982年まで、ブレッカー・ブラザースが大活躍の頃は、名ライブ盤『Heavy Metal Be-Bop』を中心に聴きまくった。フュージョン・バンドとは言え、その内容は硬派でハードボイルドなもので、フュージョンの主流「ソフト&メロウ」とは一線を画する格好良さ。

そんなブレッカー・ブラザースが復活を遂げたアルバムが『Return of the Brecker Brothers』(写真左)。1992年のリリース。ドラムにDennis Chambers(略称デニチェン)、ギターにマイク・スターン(略称マイスタ)の参加が目を惹く。以前からのメンバー、エレベのWill Lee(ウィル・リー)の参加が嬉しい。
 

Return_of_the_brecker_brothers

 
聴けば判る「硬派な大人のファンキー・フュージョン」。バカテクなのは相変わらず。まあ、それはそれは演奏テクニックの素晴らしさ。しかし、その演奏テクニックの素晴らしさをひけらかすことなく、余裕ある、ある種ゆったりとした大人のファンキー・フュージョンを展開している。

ドラマーがデニチェン、エレベがウィル・リーなので、リズム&ビートは基本的に「ソリッドでシャープ」。フロントの管楽器は皆ハードボイルド。ストレートアヘッドなフュージョンもあるが、踊れる要素を前面に押し出したダンサフルなナンバーもあって、その多様性が楽しい。

1992年の時代に、こんなに小粋でソリッドでシャープな「硬派フュージョン」が生まれ出ていた事にちょっと感動する。『Heavy Metal Be-Bop』の様に、ヤンキーな前のめりのロック感はありませんが、本当に余裕のある「硬派な大人のファンキー・フュージョン」です。実は、僕はこの『Return of the Brecker Brothers』が大好きです。

 
 

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2017年4月14日 (金曜日)

『The Bottom Line Archive Series :(Live 1976)』

21世紀に入って、昔のオープンリール・テープやカセット・テープの音源が、リマスタリングを始めとしたリイシュー技術が進歩したお陰でCD化され易くなったのか、これはこれは、と嬉しくなる様な、懐かしくなる様な音源が出てくることが多くなった。ありがたいことである。

1970年代、音楽ファンの貴重な音源がFM放送だった。専門誌もあった。FM Fan、週間FM、そして、僕達が愛読したFM専門誌は、1974年に創刊された「FMレコパル」である。隔週の発売だった記憶がある。発売日には書店に行き、即ゲット。そのまま家に直行し、当時はラインマーカーなるものは無く、赤鉛筆でエアチェックしたい番組をマークしていた。

1978年からジャズを本格的に聴き始める訳だが、やはりFMは貴重な音源だった。初心者ホヤホヤのジャズ者でも、ジャズは即興、ジャズはライブが面白い、ということは頭で理解している。そんな中、FMで流れるジャズのライブ番組「ライブ・フロム・ボトムライン」と「渡辺貞夫 マイ・ディア・ライフ」は毎回欠かさず聴いたし、エアチェックも欠かさずした。そして、繰り返し聴いた。

このライブ音源は記憶違いでなければ、1979年頃のFM東京系のライブ番組「Live From The BOTTOM LINE」で流れたものらしい。その頃、僕は大阪に住んでいたので、FM大阪経由で聴いたことになる。で、このライブ音源を暫く聴いていて、確かにこのライブ演奏は、FMで聴いた記憶がある。
 

The_bottom_line_archive_series_live

 
そのライブ音源とは、Brecker Brothers『The Bottom Line Archive Series :(Live 1976)』(写真左)。ライブ演奏を収録した場所はNYのライヴハウス、ボトムライン。ちなみにパーソネルは、Michael Brecker (ts), Randy Brecker (tp,fgh), Steve Khan (g), Will Lee (b), Chris Parker (ds), Don Grolnick (org, key, vo), David Sanborn (as), Sammy Figueroa (per, vo), 。

凄い凄いぞ。今から振り返れば、フュージョン・ジャズ畑の錚々たるメンバーである。ブレッカー・ブラザースのライブ盤については、1978年の『Heavy Metal Be-Bop』が有名なんだが、このライブ音源はその2年前。ブレッカー・ブラザースのオリジナル・メンバーでの初、そして唯一の公式ライヴ音源。

凄まじい迫力と圧倒的なテクニック。『Heavy Metal Be-Bop』の様に、ヤンキーな前のめりのロック感はありませんが、逆に、意外にクールで疾走感溢れる演奏とタイトでファンキーなグルーブが良い感じです。そう、初期のブレッカー・ブラザースの音なんですね、これが。そんな初期のブレッカー・ブラザースのライブがこの音源で追体験できます。

ジャケットはかなり「やっつけ」でレトロで、内容を知らずにゲットするにはちょっと気が引けるのですが、このCDの内容を聴けば、そんなことも全く気にならなくなるどころか、この「やっつけ」のジャケットが愛おしく見えるのが不思議です(笑)。

 
 

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2013年8月 8日 (木曜日)

第1期ブレッカーBros.の最終盤 『Straphangin'』

時は1981年。ジャズ界は、ソフト&メロウなフュージョン・ジャズ全盛時代。どファンキーなエレクトリック・ジャズを引っさげて、ニューヨークのフュージョン・ジャズを牽引してきた、我らがブレッカー・ブラザース。さすがに、どファンキーなフュージョン・ジャズは流行らなくなってきた。

そんな1981年にリリースした、The Brecker Brothers 『Straphangin'』(写真左)。ブレッカー・ブラザースのキャッチフレーズだった「ややハード目のファンク・フュージョン」は後退した。ソフト&メロウとは言わないまでも、流麗で爽やかな、ファンクネスが「そこはかとなく」香るリズム&ビートにのって、ブレッカー兄弟が吹きまくる。

吹きまくる、とは言っても、ファンキーに吹きまくるわけでは無い。印象的でキャッチャーなフレーズをガンガンに吹きまくるのだ。特に、弟のマイケルが吹きまくっている。そのフレーズは、ファンク・フュージョンのフレーズでは無い。実に硬派で流麗な、メインストリーム・ジャズなフレーズがてんこ盛り。そう、このアルバムでのマイケルのテナーは全編に渡って「聴きもの」である。

兄のランディも負けていない。この盤ではマイケルの方が吹きまくってはいるが、ランディだってトランペット&フリューゲルホーンを吹きまくる。こうやってランディのフレーズを聴いていると、ブレッカー・ブラザースの音のイメージを創っていたのは、ランディのトランペット&フリューゲルホーンの音だということが良く判る。ランディのトランペット&フリューゲルホーンのブロウが出てくると、一瞬にして雰囲気は「ブレッカー・ブラザース」に染まるのだ。
 

Straphangin_2

 
冒頭のタイトル曲「Straphangin'」のファンファーレを思わせる二管のイントロから、ハードな重いファンク・ビートが出現するところは、従来のどファンキーなエレクトリック・ジャズの雄、ブレッカー・ブラザースの登場、という感じなんですが、2曲目の「Threesome」以降、上質なコンテンポラリー・ジャズっていう感じの、上質のフュージョン・ジャズが展開されるところが、この盤の最大の魅力と感じています。

ちなみにパーソネルは、Randy Brecker (tp,flh), Michael Brecker (ts), Barry Finnerty (g), Mark Gray (key), Marcus Miller (b), Richie Morales (ds)。Richie Morales〜Marcus Millerのファンクの香りも芳しい、重心の低い流麗なリズム&ビート。決して、どファンクではない、実にコンテンポラリーなリズム・セクション。

この盤をもって、ブレッカー・ブラザースは活動を停止する。どファンキーなエレクトリック・ジャズについては、出来ることは全てやったという感じだし、時代の要請も、どファンキーなエレクトリック・ジャズでは無くなったことだし、これはこれで良かったのでは無いかと思う。

今の耳で聴き返してみると、この『Straphangin'』という盤って、コンテンポラリー・ジャズなブレッカー・ブラザースの記録やったんやなあ、と、なんとなく万感の想いがします。リリース当時は、そんなことはちっとも判らず、流麗で爽やかな、ファンクネスが「そこはかとなく」香るリズム&ビートがお気に入りで、かなりのヘビロテ盤だったと記憶しています。

意外と僕は、このコンテンポラリー・ジャズなブレッカー・ブラザースが好きなんですね。
 
 
 
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2013年7月22日 (月曜日)

ダンサフル&ファンクなジャズ 『Detente』

The Brecker Brothersの『Detente』(写真左)は、思いっきり、リリース当時の音楽のトレンドを反映したアルバムである。

時は1980年。米国ポップスのトレンドは「ダンサフル&ファンク」か「ソフト&メロウ」。前者は「ディスコ・ミュージック」と呼ばれ、後者は「AOR」と呼ばれた。フュージョン・ジャズの主流は「ソフト&メロウ」=「AOR」な、スムースなエレクトリック・ジャズ。しかし、ブレッカー・ブラザースの選択は違った。彼らは「ダンサフル&ファンク」=「ディスコ・ミュージック」を選択。

この1980年リリースの『Detente』は、徹頭徹尾、1曲目からラストまで、全てが「ダンサフル&ファンク・ジャズ」。しかも、演奏しているメンバーが、フュージョン・ジャズの精鋭たちときている。演奏のレベルは大変高く、一糸乱れぬアンサンブル、そして、素晴らしいテクニックと歌心で展開されるソロをベースに「ダンサフル&ファンク・ジャズ」が展開される。

当時、ハービー・ハンコックも、同様な「ダンサフル&ファンク・ジャズ」をやっていた。彼はシンセ&エレピをキュイキュイ歌わせながら、ファンクでディスコティックなジャズを展開していた。そして、ブレッカー・ブラザースは、ランディのトランペットとマイケルのテナーの2管をブイブイ歌わせながら、ファンクでディスコティックなジャズを展開していた。
 

Detente

 
演奏自体は、ファンクでディスコティックなジャズなんだが、ランディのトランペットとマイケルのテナー・サックスの演奏は全くもって申し分無いレベルで素晴らしい。淀みなく流れるフレーズ、歌うようなアドリブ・ライン。ここまで素晴らしいブロウを繰り広げるのなら、メインストリームなジャズのフォーマットでやって欲しいなあ、と心から思った。それほどまでに素晴らしい、ブレッカー兄弟のブロウである。 

ファンクネス溢れるダンサフルなフュージョン・ジャズなんだが、ファンクネスの雰囲気は「R&B」しかも「モータウン」の芳しき香りがそこかしこに漂う。この「モータウン」の香りが、他の「ダンサフル&ファンク・ジャズ」と一線を画するところ。つまりは、この「R&B」と「モータウン」の香りが、ブレッカー・ブラザースの個性のひとつである。

とにかく、聴いていて楽しいし、演奏のレベルは高くて聴き応えがある。しかし、日本ではこのアルバムは受けが悪かった。そもそも、日本では、「ダンサフル&ファンク」=「ディスコ・ミュージック」は大衆的な音楽、庶民的な音楽として、ちょっとランクを低く評価されていたように思う。演奏のレベルは高く、収録された楽曲もなかなかの出来なのに拘わらず、である。

でも、今の耳で聴き返してみると、やっぱり、このアルバム、良い感じですね。全編に渡って、ダンサフルでファンクでディスコティックなジャズですが、曲毎にリズムやアレンジが良く工夫されていて飽きません。そして、ブレッカー兄弟のブロウの素晴らしさ。再評価されるべき、ダンサフルなアルバムだと思います。
 
 
 
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2013年6月29日 (土曜日)

フュージョン者に必須のライブ盤 『Blue Montreux』

フュージョン・ジャズのアルバムには、意外とオールスターものの名盤が多い。オールスターものと言えば、純ジャズのジャム・セッションに近い雰囲気なので、日頃、なかなか一緒にセッションすることが無い、ポジションを確保した名うてのメンバー達が一堂に集ってセッションを繰り広げるので、日頃の演奏には無い、一種の「化学反応」が起こるんだろうな、と想像している。

このArista Allstarsの『Blue Montreux』(写真左)と『Blue Montreux II』(写真右)の2枚のライブ盤も、そんなオールスターものの優秀盤である。「ブルー・モントルー」というタイトル通り、1978年のモントリオール・ジャズ祭でのコンサートを収録したライブ盤である。

当時のアリスタ・レーベルに所属していた名うてのミュージシャン達が一同に集っている訳だが、ちなみにパーソネルは、Larry Coryell (g), Michael Brecker (ss,ts), Mike Mainieri (vib), Randy Brecker(tp), Steve Jordan(ds), Steve Khan (g), Tony Levin (b), Warren Bernhardt (p,key,syn) 等々。うへ〜、凄いメンバーやなあ。

冒頭のタイトル曲「ブルー・モントルー」を聴けば、このライブ盤の素晴らしさが良く判る。フュージョン・ジャズとは如何なるものか、に対する「ひとつの回答」の様な演奏。ポップでキャッチャーでありながら、ジャズ的な適度に複雑な展開を併せ持った、聴き易くも演奏自体のテクニックやミュージシャンの個性を感じることができる、そんなフュージョン・ジャズの良いところを抽出した様な演奏である。

他に収録された演奏曲も、オールスター・メンバーのそれぞれの代表曲ばかりで、演奏内容もかなりの高レベルで、素晴らしい内容となっている。『Blue Montreux』と『Blue Montreux II』の2枚は分けて聴かずに一気に聴かれるべきだろう。
 

Blue_montreux

 
トニーレビン&スティーブ・ジョーダンのリズム・セクションが独特です。アナログ・チックな横揺れなリズム&ビートが実に心地良い。乾いた横揺れなグルーブ感が、このオールスターのフュージョン・ジャズの演奏の雰囲気を決定付けています。

マイケルとランディのブレッカー兄弟のサックス&トランペットも、素晴らしいパフォーマンスを披露しています。兄弟共々、ベスト・プレイに近いブロウを展開しています。時に「鬼気迫る」フレーズを連発しており、単なるフュージョン・ジャズのお祭り的なセッションとは一線を画しています。

そして、この「ブルー・モントルー」のライブ・セッションの一番のパフォーマンスは、マイク・マイニエリのヴァイブでしょう。マイニエリのベスト・プレイと言いきって良いほど、この「ブルー・モントルー」のライブ・セッションにおけるマイニエリの演奏は光っています。

ブログのそこかしこの書かれていますが、マイニエリの代表曲である「I'm Sorry」は、この「ブルー・モントルー」のライブ・セッションがベストテイクだと思います。とにかく上手い。とにかく歌心満載。いや〜、フュージョン界の「ちゃら男」マイニエリ、やれば出来るやないか、凄いやん、と思わず、彼の肩を叩いてみたくなります(笑)。

このアルバム『Blue Montreux』がリリースされたのが、1979年である。フュージョン・ジャズがピークを越えて、下り坂に差し掛かった時代の、フュージョン・ジャズの最高峰の演奏がこのライブ盤2枚に詰まっている。フュージョン者の方々には必須の名盤。聴くべし、です。

 
 

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2013年6月 4日 (火曜日)

ヘビー・メタルなビ・バップ 『Heavy Metal Be-Bop』

1978年リリース、The Brecker Brothers(ブレッカー・ブラザーズ)の4作目。ライブ盤と言いたいところだが、1曲目「East River」のみスタジオ録音という、不思議な構成の変則盤です。そのアルバムの名は『Heavy Metal Be-Bop』(写真左)。

名は体を表す、というが言い得て妙。ファンキー・フュージョンを旨とするブレッカー・ブラザースの音に、キッスやエアロスミスなんかの米国ハード・ロックの音をブレンドしたら、どうなるか。その答が、このアルバム『Heavy Metal Be-Bop』にあります。

「Heavy Metal」とは、ハードロック同様、エレクトリック・ギターの歪んだ音を強調した、過激なロックが基本。ブレッカー・ブラザースは、マイケルのサックス、ランディのトランペット、それぞれの音にワウワウやエフェクターをかけて、歪んだ音に加工している。なんだかマイルスみたい(笑)。

なるほど、ヘビー・メタルなビ・バップかあ。ビ・バップとは、ジャズ者の皆様ならご存じかと思いますが、ジャズの演奏スタイルのひとつ。複雑なコードに乗って、テクニックの限りを尽くして、アドリブ・フレーズを吹きまくる、弾きまくるスタイル。音楽というよりは「芸」に近い。そんな「ビ・バップ」なアドリブ・フレーズを全編に渡って繰り広げている。

ヘビメタな音でビ・バップをやる。当然、音の基本はエレクトリック。リズム&ビートの基本はファンキー。ブレッカー・ブラザース独特の乾いたファンクネスに乗って、ヘビメタな音を引っさげ、ビ・バップな演奏を繰り広げる。ずっしりとしたビートのファンクネス。こんなフュージョン・ジャズは聴いたことが無い。

フュージョン・ジャズと言えば、スムースなソフト&メロウなものが主流で、ハードな音が中心なフュージョン・ジャズは無かった。
 

Heavy_metal_bebop_4

 
唯一、この『Heavy Metal Be-Bop』だけが、ハードなリズム&ビートをベースに、電気的に歪んだサックスとトランペットの音が、縦横無尽、変幻自在に吹き上げられていきます。しかし、ですね。このハードなリズム&ビートをベースに、電気的に歪んだサックスとトランペットの音が、ちょっとうるさいんですよね。

バックのベース&ドラムのビートだけでも、ずっしりと重低音を響かせて、ちょっと耳につくのに、そこに電気的に歪んだサックスとトランペットが、テクニックの限りを尽くして吹きまくり、時にアブストラクトにフリーキーに吹きまくるのだ。やはり、全編に渡って、ちょっと「うるさい」。

確かに、面白い内容のアルバムです。ヘビー・メタルなビ・バップをやっているんですから、確かにこの内容は面白い。でも、何度聴いても、いつも思ってしまうんですよね〜、「うるさい」って(笑)。確かに刺激的な音で、一度聴くには良いのですが、繰り返し聴く我慢強さは僕にはありません。

ブレッカー・ブラザースも恐らく、これは自分達の音では無い、と感じたのだと思います。次作の『Detente』から、ソウルフルでビートの効いた、元々のファンキー・フュージョンに戻っています。なので、この『Heavy Metal Be-Bop』を、ブレッカー・ブラザースの代表作とするのは、どうかなあ、と僕は思います。

このアルバムに詰まった音は、フュージョン・ジャズ史上、最も個性的で優れた音として評価されるべきもので、僕もたまに聴き返しては、その内容の素晴らしさに感嘆します。でも、じっくりと聴く、という意味では、やっぱり「うるさい」音ではありますね。

ヘビー・メタルとビ・バップの一期一会の邂逅。ありそうで、なかなかお耳にかかれない、個性的な音。フュージョン者の方々にとっては、一度聴いてみる価値はあります。凄い音ですぜ。
 
 
 
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2013年3月13日 (水曜日)

ちょっと通なBGM的存在 『Don't Stop The Music』

Bobby Enriquez & Richie Cole『The Wildman Meets the Madman』から『Phil Woods & His European Rhythm Machine』と、ハイテクニックを駆使した、高速フレーズ、高速アドリブな展開の骨太なメインストリーム・ジャズが続いたら、ちょっと硬派な寛ぎのフュージョン・ジャズで耳を和ませるのが、我がバーチャル音楽喫茶『松和』の常套手段(笑)。

今回のちょっと硬派な寛ぎのフュージョン・ジャズは、The Brecker Brothers『Don't Stop The Music』(写真左)。Randy & Michael Breckerが兄弟で結成したブレッカー・ブラザース。そのブレッカー・ブラザースのサードアルバムである。1977年のリリース。フュージョン・ブーム真っ只中である。

セカンド・アルバム『Back to Back』で既に見え隠れしていた「ディスコ調もしくはR&Bな雰囲気」が、アルバム全体に蔓延した、この『Don't Stop The Music』。冒頭の「Finger Lickin' Good」を聴けば、ちょいとズッ転ける。あからさまにコマーシャルなディスコ調のナンバー。まあ、これはこれで心地良くはあるんですが。

このアルバム、全体的には、コマーシャルなディスコ調なナンバー、若しくは、ライトなR&B的雰囲気なナンバーが大半を占めており、これはこれで楽しい。でも、日本ではこの「ディスコ調もしくはR&Bな雰囲気」は受けが悪かった。今でも、受けは悪い方だろう。米国では受けるんだろうけどね。日本では、大衆に迎合したというか、安易にヒットに走ったというか、ちょっと安易な感じが駄目なんでしょうね。
 

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確かに、学生時代当時、リアルタイムでこのアルバムを体験した訳ですが、冒頭の「Finger Lickin' Good」から「Petals」までは、行きつけの喫茶店で、友人達との語らいや一人読書の、ちょっと粋で、ちょっと通なBGM的存在。ブレッカー・ブラザースは、フュージョン・ジャズのジャンルのグループの中でも、知る人ぞ知る的な存在でしたから、この『Don't Stop The Music』なんて、通な奴らが粋に聴き流すアルバムでした。

でも、ラストの「Tabula Rasa」が流れると、行きつけの喫茶店の雰囲気はガラリと変わる。ラストの「Tabula Rasa」は、高テクニックでホットなメインストリーム・ジャズ。白熱した怒濤のインプロビゼーションが凄い。マイケルもランディも圧倒的迫力をもって吹きまくる。そして、レニー・ホワイトのドラムがフロントの兄弟二人を煽りに煽る。

このラストの「Tabula Rasa」が流れると、圧倒的迫力のメインストリーム・ジャズを感じて、友人との語らいを止め、読書の手を止め、やおら煙草に火を付けたり、珈琲をグッと一口飲んで、このラストの「Tabula Rasa」の白熱した怒濤のインプロビゼーションにじっと黙って耳を傾けるのだ。そして、この曲が終わると、皆、良い音を聴いたなあ、という満足感を顔に浮かべて、また、友人との語らいや一人読書を再開するのだ。

フュージョン・ジャズの典型的なアルバムとして、この『Don't Stop The Music』は良いアルバムだと思います。改めてパーソネルを確かめてみると、主だったところで、Randy Brecker (tp), Michael Brecker (ts,fl), Christopher Parker, Steve Gadd Lenny White (ds), Will Lee (b), Don Grolnick, Doug Riley (key), Steve Khan, Jerry Friedman, Sandy Torano, Hiram Bullock (g), Ralph MacDonald (per), Sammy Figueroa (conga)。

このパーソネルの面々を見たら、フュージョン・ジャズ者としては、絶対に触手が伸びますよね(笑)。

 
 

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2013年2月 5日 (火曜日)

ブレッカー・ブラザーズの代表作 『Back to Back』

ブレッカー・ブラザーズ(Brecker Brothers)は、ファンクネスを全面に押し出したフュージョン・ジャズなバンド。ジャズな要素はあるにはあるが、ポップな面が強調されていて、どちらかと言えば、ファンク・ロックな音、という印象が強い。

そんなブレッカー・ブラザーズの音を代表するアルバムが、セカンドアルバムの、The Brecker Brothers『Back to Back』(写真左)。1976年のリリースになる。デビュー作はしっかりと「ファンクネスを全面に押し出したフュージョン・ジャズ」だったが、このセカンド・アルバムでは、ジャズな要素が後退し、ポップでファンキーでダンサフルな面が強調され、これが以降、ブレッカー・ブラザーズの音となった。

パーソネルを見渡すと、今の目で見ると「ほほ〜っ」と感嘆の声を上げてしまう。Randy Brecker (tp,flh), Michael Brecker (ts,fl), David Sanborn (as), Don Grolnick, David Whiteman (key), Steve Khan (g), Will Lee (b,vo), Christopher Parker, Steve Gadd (ds), Ralph MacDonald (perc), Lou Del Gatto (bs), David Friedman (marimba), Luther Vandross, Patti Austin, Robin Clark, Diane Sumler (vo)。

ブレッカー・ブラザーズの音の特徴に「ブラスの響き」がある。ブレッカー兄弟のトランペットとテナー・サックスに加えて、若き日のデビッド・サンボーンのアルト・サックスが重なり、3管ホーンの分厚くも輝かしい「ブラスな響き」が実に格好良い。この「ブラスの響き」が全編に漂うファンクネスを惹き立たせるのだ。

テナーのマイケル・ブレッカーはアンサンブル重視で、ソロで目立つことは無い。どちらかと言えば、トランペットのランディ・ブレッカーの方が目立ちに目立っている。
 

Back_to_back

 
ベースのウィル・リーの玄人はだしのソウルフルなボーカル、また、パティ・オースチンなどのソウルフルな女性ボーカル・コーラスは、これまたファンキー。ブラスの響きにソウルフルなボーカルを得て、ブレッカー・ブラザーズは、ポップでファンキーでダンサフルなソウル・フュージョンなバンドとして完成した。

リズム&ビートも完全にソウルフル&ファンキー。ボーカルも担当するウィル・リーの分厚く重低音でうねるようなエレベとクリストファー・パーカーやスティーブ・ガッドの縦ノリなR&Bっぽいドラミング、そして、多彩で粘りのあるラルフ・マクドナルドのパーカッションが相まったグルーブ感が素晴らしい。

そして、フロント楽器とリズム楽器を自在に行き来するスティーブ・カーンのギターが「かなり良い」。ソウルフル&ファンキーなエレギが要所要所でアクセントを添える。

ファーストアルバムより、ポップでファンキーでダンサフルな面が強調され、ジャズの要素が後退したこのアルバム、米国では受けに受けたようです。逆に、我が国ではなかなかメジャーな存在にはなりませんでした。どうも、1970年代の日本では、ポップでファンキーでダンサフルな音楽はなかなか一般受けしなかった様な思い出があります。

学生時代、僕の周りでは、ブレッカー・ブラザーズなんて、知る人ぞ知る的な存在だったなあ。でも、このセカンド・アルバム『Back To Back』は、ブレッカー・ブラザーズの代表作として、ポップでファンキーでダンサフルなソウル・フュージョンの代表作として、もっと再評価されて良い佳作だと思います。良いアルバムです。
 
 
 
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