2024年11月13日 (水曜日)

Chris Potter『Eagle’s Point』

2024年、コロナ禍も下火になり、コロナ前の日常が戻ってきた中、ジャズも完全復活みたいで、コロナ禍の折には、編成を縮小したりして、振り返れば、抑制的、内省的、思索的な内容のアルバムがメインにリリースされていた印象があるが、2024年に入ってからは、以前の勢いあるジャズが戻ってきている印象が強い。そして、内容的にも、将来の名盤、そのジャズマンの代表作になるであろう、内容良好なアルバムが出てきているから、ジャズ盤鑑賞はやめられない。

現代のジャズ・サックス奏者の代表格の一人、クリス・ポッター(Chris Potter)。米国シカゴ出身、1971年1月1日生まれ。今年で53歳。ジャズ・サックス奏者の中堅。純ジャズのみならず、フュージョン、ファンク的なアプローチにも長ける、オールマイティーなサックス奏者。が、メインストリーム系の純ジャズを吹かせたら、現代ジャズ・サックス奏者の先頭集団に値するパフォーマンスを披露してくれる。

Chris Potter『Eagle's Point』(写真左)。2024年3月のリリース。ちなみにパーソネルは、Chris Potter (ts, ss, b-cl), Brad Mehldau (p), John Patitucci (b), Brian Blade (ds)。メルドー、パティトゥッチ、そしてブライアン・ブレイドという説明不要な、現代の現役ビッグネームを迎えた、ポッターのワンホーン・カルテット。

そんなクリス・ポッターの新作であるが、これがまあ、素晴らしい出来で、驚くやら嬉しいやら。少しだけ、ところどころでアウトするところが、まるで、ジャキー・マクリーン。しかし、マクリーンより遥に端正。余裕のある力感溢れるブロウ。力の入れ具合は8割程度、という感じが。バリバリ吹くというよりは、滑らかなフレージングでポジティヴに吹き進める、という感じ。テクニックは優秀だが、テクニックをひけらかすことはない。
 

Chris-pottereagles-point

 
とりわけ、ミッドテンポで、地に足をしっかり落としてテナーを吹き進めるポッターは実に良い。アブストラクトにちょっとフリーキーに吹き上げる瞬間がいくつかあるが、ポッターは変に「羽目を外す」ことは無い。この盤では、ポッターはテナーのみならず、ソプラノ・サックス、そして、バス・クラリネットも吹いている。特にバスクラが印象的。次作以降、もっとバスクラを吹いて欲しい。そんな正な期待を持たせてくれる、ポッターのバスクラ。

この盤の演奏が、一段の高みを実現しているのは、リズム・セクションのメンバーが相当に優秀だから。ピアノにメルドー、ベースにパティトゥッチ、そして、ドラムに我がジャズ・ヒーローの一人、ブライアン・ブレイド。

名前を見ただけで、出てくる音の期待だけで「クラクラ」するほどの、有名、かつ力量のあるリズム・セクションがバックに控えているのだから、ポッターが、何の気兼ねもせず、ただひたすら、ポッターのサックスをバスクラを吹きまくるのは、当たり前と言えば当たり前。ポッターのサックス&バスクラは当然のことながら、このバックのリズム・セクションを聴くだけでも、「おかわり」したくなる様な、素晴らしいパフォーマンス。

この盤は、ポッターの代表作に、また、現代のサックスの名盤に、将来、なっていくであろう、クールでヒップでエクセレントな、内容の充実度の高さ。ポッターのワンホーン・カルテットという編成もグッド。いやはや、とんでもないサックス名盤候補がリリースされたもんだ。
 
 

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2024年4月 9日 (火曜日)

ドラマー、サンチェスの力量

現代の一流ドラマーの一人、アントニオ・サンチェス(Antonio Sanchez)。1971年11月1日生まれ。今年で53歳、バリバリの中堅ドラマー。2002年の作品『Speaking of Now』にて、パット・メセニー・グループ(PMG)に参加。初リーダー作は、2007年の『Migration』。これまで9枚のリーダー作をリリース。現在では、押しも押されぬ、現代のジャズ・ドラマーの代表格の一人になっている。

Antonio Sanchez 『Three Times Three』(写真左)。2013年10-12月の録音。トリオというフォーマットにこだわって制作した企画盤。CD2枚組の大作で、3種類のトリオ編成は、1)スタンダードなピアノ・トリオ、2)ギター入りのピアノレス・トリオ、3)テナー入りのピアノレス・トリオ の3種類。

スタンダードなピアノ・トリオのパーソネルは、Antonio Sánchez (ds), Matt Brewer (b), Brad Mehldau (p)。担当する楽曲は、1枚目の1曲目「Nar-this」、2曲目「Constellations」、3曲目「Big Dream」。

ギター入りのピアノレス・トリオのパーソネルは、Antonio Sánchez (ds), Christian McBride (b), John Scofield (g)。担当する楽曲は、2枚目の1曲目「Fall」、2曲目「Nook And Crannies」、3曲目「Rooney And Vinski」。

テナー入りのピアノレス・トリオのパーソネルは、Antonio Sánchez (ds), John Patitucci (b), Joe Lovano (ts)。担当する楽曲は、2枚目の4曲目「Leviathan」、5曲目「Firenze」、6曲目「Firenze」。
 

Antonio-sanchezthree-times-three

 
スタンダードなピアノ・トリオのピアノ担当は、ブラッド・メルドー。ベースがマット・ブルーワー。メルドーのピアノとサンチェスのドラム、さすが、超一流の演奏家同士、素晴らしいインタープレイを聴かせてくれる。そこに一回り若いブルーワーのベースが入るのだが、このブルーワーのベースが現代のネオ・ハードバップ、ネオ・モードを牽引するかの如き、柔軟で新しい感覚のベースで、インタープレイの底をガッチリと支えている。

ギター入りのピアノレス・トリオのギター担当は、ジョン・スコフィールド。ピアノレスが効いていて、ジョンスコのギターとサンチェスのドラムとが、ダイレクトにインタープレイの交歓をするところがスリリング。そこにダイレクトに絡むハイ・テクニックで骨太なマクブライドのベースが、これまたスリリング。

テナー入りのピアノレス・トリオのテナー担当は、ジョー・ロバーノ。こちらもピアノレスが効いていて、ロバーノが自由奔放にテナーを吹き上げる。そこに効果的にリズム&ビートを絡ませるサンチェスのドラミングは見事。そんな柔軟自在なインタープレイを整え前へ進める推進役のパティトゥッチのベー氏がこれまた見事。

3種類のトリオ演奏の中で、明らかにドラミングの内容を変えて、それぞれのトリオでの楽器、共演者の個性に対して、一番、効果的でバンド・メンバーそれぞれの個性が一番はえるドラミングをするサンチェスは素晴らしいの一言。

演奏内容と共演メンバーを活かすも殺すもドラマー次第、というが、このサンチェスの企画盤を聴いていて思わず納得。この企画盤、ドラマー、サンチェスの力量をしっかり確認できる好盤だと思います。ジャズ・ドラマーのリーダー作として白眉の出来です。
 
 

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2023年7月15日 (土曜日)

メルドーのビートルズのジャズ化

ジャズ・ピアノの次世代を担うリーダー格の「ブラッド・メルドー」。1990年代、キース・チック・ハービーの後を継ぐ正統な後継者と目されて以来、初リーダー作から30年が経って、今年でメルドーも53歳。ジャズ・ピアニストとしては、充実し切った中堅の時代。流麗で耽美的でリリカルでモーダルな、ビル・エヴァンス以降のモダン・ピアノの後継として、その存在は実に大きい。

メルドーは若手の時代から、チャレンジ精神旺盛で、ビートルズの楽曲のジャズ化にチャレンジしたり、スタンダード曲も殆どマイナーな存在の曲を選曲したりして、聴き手に迎合すること無く、自らのやりたい、演奏したいピアノ・ジャズを積極的に展開してきた。最近では、プログレッシヴ・ロックの有名曲のジャズ化にチャレンジ、素晴らしい成果を披露している。

これが実に見事なプログレのジャズ化で、思わずひどく感心してしまった。実は僕は今を去ること50年ほど前、バリバリの「プログレ小僧」で、今でも時々、プログレを聴いてしみじみしたりしている。もちろん、メルドーのカバッているプログレ曲は全て判る。そんな背景もあって、このメルドーのジャズ化については「度肝を抜かれた」。完璧にジャズ化されているプログレ名曲の数々。素晴らしい成果だった。

Brad Mehldau『Your Mother Should Know: Brad Mehldau Plays The Beatles』(写真左)。2020年9月、フィルハーモニー・ド・パリでのライヴ録音。2023年2月のリリース。パーソネルは、Brad Mehldau (p) のみ。ブラッド・メルドーのソロ・ピアノによる「ビートルズのカヴァー」盤。

これがまあ見事な内容で、聴いてビックリした。ビートルズの楽曲ってコード進行がヘンテコな曲が多くて、ジャズ化の難度が高い。ジャズ化がやり易い曲もあって、「Here, There And Everywhere」や「Something」は結構、内容の良いジャズ化がなされている。
 

Your-mother-should-know-brad-mehldau-pla

 
が、概ね、ビートルズの楽曲の特別な旋律をなぞる「イージーリスニング」風のアレンジが多くて、即興演奏を旨とするモダン・ジャズ化についてはあまり進んでいたとは言い難い。

が、このメルドーのビートルズ曲のジャズ化はとても良く出来ている。ビートルズの楽曲の持つ特別な旋律のイメージをしっかり保持しつつ、ヘンテコなコード進行の曲を、モーダルなフレーズに変換して、ジャジーなアドリブ展開にも十分耐える、そんなアレンジが見事。曲名だけ見たら、このビートルズ曲をジャズ化したのか、上手くいったのかなあ、と心配してしまう曲がズラリと並ぶが、見事にジャズ化のアレンジが施されていて、違和感が全く無い。

また、ビートルズの楽曲って、リズム&ビートがユニークな曲が多くて、単純な4ビートや8ビートに乗せると、かなり単調なジャズ曲に聴こえてしまうリスクが高いのだが、メルドーは、メルドーのピアノの個性のひとつ「右手と左手が別人格」な弾き回しを駆使して、ビートルズのそれぞれの楽曲の持つ、特徴あるリズム&ビートのジャズ化を実現している。

メルドーのビートルズ曲のジャズ化って、ビートルズ曲のジャズ化としても、ジャズ化したビートルズ曲としても、どちらの側面でもしっかりと楽しめるし、聴き応えがある。このビートルズ曲がをジャズ化するとこうなるのか、とも思うし、これってジャズ化されたあのビートルズ曲やね、とも思う。実に良く出来たビートルズのジャズ化の数々である。

メルドーのピアノの個性全開、素晴らしいアレンジと弾き回しで、この盤のビートルズ曲のジャズ化は成功している。見事である。ちなみにラストの「Life on Mars?」は、ビートルズ曲では無いです。これ、デヴィッド・ボウイの名曲のジャズ化です。
 
 

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2022年12月11日 (日曜日)

「キング・オブ・カルテット」である

コロナ禍でどうなることかと思ったが、現代ジャズはコロナ禍に負けること無く、その活動と深化を継続している。コロナ禍当初は、スタジオ録音が出来なかったり、ライヴ演奏が出来なかったりで、ジャズのみならず、音楽活動というものが潰えてしまうのでは無いか、と不安になったが、何とか厳しい時期を乗り越えた様だ。

その現代ジャズであるが、深化は脈々と続いている。21世紀に入って、ネオ・ハードバップの成熟、クールで静的なスピリチュアル・ジャズ、21世紀版フュージョン&スムース・ジャズの充実など、1950年年代〜1960年代のジャズに回帰すること無く、モダン・ジャズの「クラシック化」は進んでいない。

Redman Mehldau McBride Blade『LongGone』(写真左)。2019年9月10–12日の録音。ちなみにパーソネルは、Joshua Redman (ts, ss), Brad Mehldau (p), Christian McBride (b), Brian Blade (ds)。現代ジャズのおける「若きレジェンド」が集結した、レッドマンのサックスが1管のワンホーン・カルテットの編成。

2020年リリースの前作『RoundAgain』は強烈だった(2020年10月8日のブログ参照)。モーダルで自由度と柔軟度の高い演奏あり、アーシーでちょっとゴスペルチックでファンキーな演奏あり、コルトレーン・ライクなスピリチュアルな演奏あり、現代のネオ・ハードバップをより洗練し、より深化させた演奏内容となっていた。振り返って見ると、2020年までのモダン・ジャズの総括的な内容だった気がしている。

今回のアルバムは、その先を行くものと認識した。落ち着いた、クールで静的なネオ・ハードバップ。しかし、録音年月日を見てみると、前作『RoundAgain』と同一録音ではないか。そして、ラストに「2007年のSFJAZZの25周年記念のライブ演奏」から1曲追加して、今回の新作となっている。う〜ん、前作と同じ録音なのか〜。
 

Redman-mehldau-mcbride-bladelonggone

 
今回の新作と前作と基本的な雰囲気が全く違う。前作はエネルギッシュに、2020年までのモダン・ジャズの総括し、今回の新作は、これからのモダン・ジャズをクールに静的に落ち着いた雰囲気で披露する。

しかも、今回はラストのライヴ音源以外、全6曲がジョシュア・レッドマンのオリジナルで固められている。そういう意味では、このカルテット、ジョシュアがリーダー的立場なんだろうな。

この新作を聴いて、痛く感心したのが、モーダルで自由度と柔軟度の高い演奏がメインなんだが、フレーズや音の響きの新鮮さ。決して、過去のジャズの焼き直しでは無い、「どこかで聴いたことがある」感が無い、鮮烈で機微に富むモーダルなフレーズがこれでもか、と出てくる。

前作でもそう感じたが、この新作では更に、フレーズや音の響きの新鮮さが増している。さすが、現代ジャズにおける「キング・オブ・カルテット」である。

アルバム全体の雰囲気が「落ち着いた、クールで静的」な演奏がメインだったので、ちょっと地味ではないのか、と感じたのは最初だけ。聴き込めば聴きこむほど、このカルテットの演奏は滋味深い。

このカルテットの演奏、しばらく、続けて欲しいなあ。聴く度に、現代のモダン・ジャズの到達点のひとつを確認出来る。現代のモダン・ジャズ、現代のネオ・ハードバップの最高レベルの演奏のひとつである。
 
 

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2022年6月 6日 (月曜日)

メルドーの考える「プログレ」

今や、ブラッド・メルドー(Brad Mehldau)は、現代ジャズ・ピアノの代表格。「キース・チック・ハービー」のジャズ・ピアノの第2世代の後継、第3世代の筆頭と言っても良い。

しかし、メルドーのピアノは、歴史的に著名なスタイリストの要素を多角的に取り入れつつ、自らの個性を添付しているスタイルなので、その個性が見えにくい。しかし、総合力を武器とするピアニストでは無い。明らかに、現代ジャズ・ピアノのスタイリストの1人であることは確かである。

加えて、メルドーは、他のジャンル、特にロック&ポップス畑の楽曲に着目し「ジャズ化」するのが得意である。しかもその「ジャズ化」がほぼ成功を収めているのだから凄い。

以前の第2世代のピアニストにも、ロック&ポップス畑の楽曲の「ジャズ化」を目論んだケースもあったが、基本的に成功を収めた例は少ない。ロック&ポップスの楽曲の持つキャッチャーなメロディーを踏襲しすぎて、ジャズの本質である「即興性=アドリブ展開」を置き去りにした失敗例が多い。

Brad Mehldau『Jacob's Ladder』(写真左)。2022年3月のリリース。ちなみにパーソネルは、Brad Mehldau (p, key,sinth, etc.), Mark Guiliana (ds), Becca Stevens, Pedro Martins (vo), Joel Frahm (ss), John Davis (ds programming), Chris Thile (mandolin) etc.。ブラッド・メルドーがマーク・ジュリアナのサポートを得て制作した電子音アプローチの第3弾。

往年のプログレッシヴ・ロック(以降、略して「プログレ」)好きのメルドーによる、プログレからの音楽的インスピレーションをジャズに交えて、プログレの楽曲を「ジャズ化」した、実にユニークなリーダー作。プログレを「ジャズ化」するのだから、電子音アプローチを採用しているのか。なるほど、と至極納得である。
 

Brad-mehldaujacobs-ladder

 
メルドーは次のように語る。「ラッシュやジェントル・ジャイアント、エマーソン、レイク&パーマーらによるプログレは、ジャンルがもつコンセプト性、コンセプト的な部分、そして感情的な部分の幅を示唆している」。確かに、プログレはジャズに通じるものが多い。僕も高校時代はバリバリの「プログレ小僧」だったので、それが良く判る。

この『Jacob's Ladder』は、ジャズ側から見た「プログレ」。音の全体の雰囲気はジャズだが、演奏自体は「プログレ」そのものと言って良い位だ。2曲目「Herr und Knecht」は、まるでEL&P。ラストの「Heaven」については、耽美的なピアノ・フレーズに続いて,Yesの「Starship Trooper」の「Life Seeker」が出てくる。その他、Rush, Gentle Giant, Peripheryをカヴァーしている。

う〜ん、このメルドーの新盤、純粋にジャズ盤として取り扱って良いのやら(笑)。メルドーが表現する「ジャズの衣を着たプログレ」かな。プログレを聴き親しんだ「プログレ小僧」にとっては、ジャズというよりは、純粋にプログレに聴こえる。

そうか、演奏の底のリズム&ビートが「プログレの持つ変拍子の複雑なリズム」を取り入れているからか。そう、この盤のリズム&ビートは「ジャズ」とはちと違うのだ。これが、恐らく、妙な違和感の理由だろう。

しかし、現代ジャズ・ピアノの代表格のブラッド・メルドー、良い意味で「厄介な」アルバムをリリースしたもんだ。恐らく、ジャズ者の方々の中では賛否両論だろうなあ。僕は「これはアリ」です。僕の頭の中では「ジャズ ≒ プログレ」ですから。何も「プログレ」はロックでしかやってはいけない、なんて決まりも無いですしね。僕は楽しんで聴くことが出来ました。
 
 

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  ・遠い昔、懐かしの『地底探検』

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2021年5月 1日 (土曜日)

コロナ禍を捉えたソロ・ピアノ

コロナ禍が始まってから、既に1年以上が経過している。特に昨年の3月中旬から5月中旬まで、不安と緊張の日々の記憶がありありと甦ってくる。以降、「凝りもせず、思慮も無く」第2波、第3波とやって来て、今年も昨年に引き続き、緊急事態宣言下のGWとなってしまった。

コロナ禍については、世界中、各国の音楽活動が大幅に制限され、ジャズについても、普段の活動であった「クラブ」での演奏は基本的に禁止された。とにかくミュージシャンが集まってセッションをすること自体を否定されていたので、どうしようもない日々が続いた。今でも、まだまだ音楽活動の諸制限は撤廃されていない。

Brad Mehldau『Suite: April 2020』(写真左)。2020年6月のリリース。ちなみにパーソネルは、Brad Mehldau (p) のみ。現代ジャズ・ピアノの代表的存在、ブラッド・メルドーのソロ・ピアノ盤である。収録曲のタイトル「keeping distance」などを見ると「なるほど」と思う。このソロ・ピアノのテーマは「コロナ禍」である。

本作についてメルドーは次のようにコメントしている。「この盤は、先月世界中の誰もが経験したであろうことを捉えた音楽的スナップショットだ。多くの人々が共通して、また新たに体験し、感じたことをピアノで描こうとした」。
 

Suite-april-2020_1

 
メルドーは新型コロナウイルスのパンデミック下、オランダで家族とともに自粛生活を送っていたのだ。そして、自らが体験していることを基に12の楽曲を書き上げ演奏したものが、この『Suite: April 2020』になる。

切々と内省的にメルドーの自作曲が演奏されていく。限りなく優しいタッチとビートで、様々なスナップショットが語られる。そして、象徴的なカヴァー曲が2曲。ニール・ヤングの「Don't Let It Bring You Down」とビリー・ジョエルの「New York State Of Mind」。

ニール・ヤングの「Don't Let It Bring You Down」は、コロナ禍の中、自らを鼓舞するソロ・パフォーマンス。この歌の歌詞が「気落ちしてはダメだ/ただ城が燃え落ちているだけじゃないか/変えていこうとする人を見つけるんだ/そうすればきっと、道が開けるから」。

ビリー・ジョエルの「New York State Of Mind」は、コロナ禍で悲惨な状況に追い込まれていたニューヨークへの想いを託したものである。その故郷から今は遠く離れているが、故郷と呼んでいる街へのメルドーの想いである。

この盤は、ジャズライフ誌の「Disc Grand Prix:Album Of The Year 2020」に輝いた。ジャズ・ピアノとして表現した「コロナ禍の中での様々な想い」。2020年度の「Disc Grand Prix」は、他の年度にはない、特別なものとなった。
 
 
 

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  ・Journey『Infinity』1978

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  ・Yes Songs Side C & Side D
      ・Yes Songs Side E & Side F

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  ・浪花ロック『ぼちぼちいこか』
 
 
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2020年10月 8日 (木曜日)

ジョシュアの最強カルテット盤

ジョシュア・レッドマンが好調である。1992年にメジャー・デビューして以来、コンスタントに、ほぼ1年に1作のペースでリーダー作を出し続けている。特にこの4〜5年は、ブラッド・メルドーやバッド・プラスと共同名義のアルバムを出したり、ネオ・ハードバップを掘り下げた、硬派でアーティスティックなメインストリームな純ジャズを展開したり、実に意欲的な活動を継続している。

Joshua Redman『RoundAgain』(写真)。今年7月のリリース。ちなみにパーソネルは、Joshua Redman (ts, ss), Brad Mehldau (p), Christian McBride (b), Brian Blade (ds)。どこかで見たことのあるパーソネルだなあ、と思って資料を見たら、ジョシュアのリーダー作『Moodswing』のパーソネルがそのまま、26年振りに再集結したとのこと。なるほど納得。

さて、その内容であるが、モーダルで自由度と柔軟度の高い演奏あり、アーシーでちょっとゴスペルチックでファンキーな演奏あり、コルトレーン・ライクなスピリチュアルな演奏あり、現代のネオ・ハードバップをより洗練し、より深化させた演奏内容となっている。モーダルな演奏なんて、出現して以来、50年以上が経過しているので、もはや手垢がついて、どこかで聴いたことのある展開に陥りそうなのだが、ジョシュアのフレーズは決してそうはならない。
  
 
Roundagain-redman  
 
 
冒頭の「Undertow」が、モーダルで自由度と柔軟度の高い演奏で、ジョシュアの思索的なテナー・サックスが深みのあるフレーズを吹き上げている。特に低音が魅力的。続く2曲目の「Moe Honk」は、コルトレーン・ライクな疾走感溢れる、ややフリー気味な演奏。カルテットのメンバーそれぞれのテクニックが凄い。聴き込んでいるとあっと言う間に終わってしまうくらい、テンションの高い演奏。

3曲目の「Silly Little Love Song」は、アーシーでちょっとゴスペルチックでファンキーな演奏。素朴でフォーキーなメロディーが良い。米国ルーツ音楽的な響きが愛おしい。5曲目の「Floppy Diss」は、ブルージーでエネルギッシュな演奏ではあるが、どこか明るいユニークな演奏。この曲もメンバー4人のテクニックが凄まじい。特に、メルドー・マクブライド・ブレイドのリズム隊が凄い。

さすがにこれだけのメンバーが再集結しているのだ。今までのジャズの焼き直しにはならないし、過去の演奏スタイルをなぞることもしない。あくまで、現代の現時点でのメインストリームな純ジャズについて、これからの行く末を示唆する、含蓄に富んだ内容になっていると僕は思う。この盤を聴いて思う。まだまだジャズには、表現における「のりしろ」がまだまだあるなあ、と。
 
 
 

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  ・『Middle Man』 1980
 
 ★ まだまだロックキッズ    【更新しました】 2020.10.07 更新。
  
  ・The Band の「最高傑作」盤
 
★ 松和の「青春のかけら達」 【更新しました】 2020.10.07 更新。
 
  ・僕達はタツローの源へ遡った


 
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2019年7月11日 (木曜日)

スピリチュアルな新しい響き

新しいタイプのスピリチュアル・ジャズがほぼ定着したのでは無いかと思う。激情に走らず、穏やかでモーダルな「印象的フレーズ」を展開しながら、時にフリーに傾くが、それは演奏の中のアクセントとしてアレンジされ、音の響きとフレーズから「スピリチュアル」な面を増幅させ、聴く者に訴求する、という、新しいアプローチ。

僕はこの人がこの「新しいタイプのスピリチュアル・ジャズ」に手を染めるとは想像出来なかった。確かにこのピアニストの懐は深く、様々な表現の引き出しを持っている、とは思っていた。が、ここまでのアプローチをするとは思わなかった。そう言えば、メルドーって、マルチ・キーボード奏者としての才能も確かだったことを思い出した。

Brad Mehldau『Finding Gabriel』(写真左)。今年5月のリリース。ちなみにメインは、Brad Mehldau (ac-p, syn, key), Mark Guiliana (ds) の二人。そこに、Ambrose Akinmusire (tp), Michael Thomas (fl, as), Charles Pillow (ss, as), Sara Caswell (vln), Joel Frahm (ts), Kurt Elling (vo). Gabriel Kahane (vo), Becca Stevens (vo) などがゲスト参加。
 
 
Finding-gabriel-brad-mehldau  
 
 
聖書からインスピレーションを得たというアルバムのタイトルからして「スピリチュアル・ジャズ」の香りがプンプン漂う。出てくる音は、現代のエレクトリック・ジャズ。ビートに乗った印象的なフレーズの洪水。冒頭の「The Garden」を聴いて、思わずぶっ飛ぶ。ファンクネスは皆無だが、かなりハイレベルなエレ・ジャズ。

そこに、疾走するビートに乗って、印象的な各種サックスの咆哮、フルートの響き、印象的に切れ込んでくるトランペット。ボイス、ボーカルも効果的かつ印象的な響きに貢献する。主役のメルドーはアコピは当然、OB-6 Polyphonic synthesizer、Moog Little Phatty synthesizeなど、印象的な音の出るシンセを駆使、Fender Rhodesも活用。とてもスピリチュアルで印象的なフレーズを連発する。マルチ・キーボード奏者の面目躍如。

ジュリアナのドラミングも新しい響き。マシン・ビートに血を通わせたような、人間的な温もりのある疾走感溢れるビートを叩き出し、撒き散らす。新しい響きの、新しいアプローチのエレクトリック・ジャズ。音の表現としては「新しいタイプのスピリチュアル・ジャズ」。まだ聴き始めたばかりの盤だが、これは「只者」ではない。暫く、折につけ、耳を傾けるつもり。新しいジャズのアプローチは腹に落ちるのに時間がかかる。
 
 
 
東日本大震災から8年3ヶ月。忘れてはならない。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。
 
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2019年3月12日 (火曜日)

クールで大人のテナーが清々しい

Mark Turner『Yam Yam』を聴いて、僕はこう書いた。マーク・ターナーのテナーは「クール・テナー」。芯のある浮遊感と繊細で知的なニュアンス。ブラッド・メルドーの弁を借りると「マーク・ターナーのホーンのサウンドは見紛いようがない。暖かく、深い優しさをたたえ、甘たるくなく、まさにこれぞ誘惑の味がする」。

それまでのジャズ・テナーの印象である「たくましい、豪快といった男性的なイメージ」を覆す、クール・スタイルのテナーが清々しい。スムース・ジャズのテナーをメインストリーム・ジャズにそのまま持って来た様なイメージ。それでいて、芯のしっかりある音で説得力がある。ユニークなスタイルのジャズ・テナーである。僕はすっかりファンになった。

Mark Turner『In This World』(写真左)。1998年6月の録音。ターナーのメジャー・レーベル第2弾。ちなみにパーソネルは、Mark Turner (ts), Brad Mehldau (ac-p, el-p), Kurt Rosenwinkel (g), Larry Grenadier (b), Brian Blade (ds), Jorge Rossy (ds)。今から見れば、なんと錚々たるメンバーではないか。現代ネオ・ハードバップの精鋭達が大集合である。
 

In_this_world_mark_turner

 
メインは、ターナーのテナーをフロントに、メルドー=グラナディア=ブレイドのピアノ・トリオがリズム・セクションを担う。印象的で耽美的なギターはローゼンウィンケルで3曲に客演、ロッシーのドラムは2曲でブレイドとツインドラムを形成する。このワンホーン・カルテット+αの編成は、様々な曲調、曲想の演奏をいとも容易く、柔軟に展開する。素晴らしいポテンシャルである。

オーソドックスなネオ・ハードバップから、ショーターばりの捻れて思索的な展開、フリーな演奏から8ビートのジャズロック風の演奏まで、バラエティーの富んだ内容なんだが、不思議と統一感がある。その統一感を現出しているのが、マーク・ターナーのテナー。彼のクール・スタイルなテナーが一貫しているが故の「1本筋の通った統一感」が清々しい。

バックの演奏はいずれも素晴らしいが、特筆すべきはブレイドのドラミング。しっかりとバッキングに回りながら、鋭さと繊細さの相反した表現を融合した柔軟度の高いドラミングは当代随一のものだろう。クールで大人なネオ・ハードバップ。この盤、じっくり聴き進めていくと、ジワジワその良さが沁みてきます。
 
 
 
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2019年2月11日 (月曜日)

メルドーのピアノ・トリオの深化

近代のジャズ・ピアノが確立されて、もう60年以上が経ったことになる。ピアノ・トリオとしては、バド・パウエルがその基本スタイルを確立して、インタープレイがメインの現代ピアノ・トリオの始祖はビル・エヴァンス、そして孤高の人、オスカー・ピーターソン。それから、モードの時代以降は、ハービー・ハンコック、チック・コリア、キース・ジャレットがジャズ界を席巻し、それから、である。

1980年代後半からの純ジャズ復古以来、目立ったリーダー役のピアニストが不在だった。が、2000年代になって、ジャズ・ピアノの指針のひとつとなったピアニストが「ブラッド・メルドー(Brad Mehldau)」。僕もこのメルドーのピアノは好きで、彼の初期の頃のリーダー作「The Art of the Trio」シリーズは今でも聴き直している位だ。

Brad Mehldau Trio『Seymour Reads the Constitution!』(写真左)。2018年のリリース。ちなみにパーソネルは、Brad Mehldau (p), Larry Grenadier (b), Jeff Ballard (ds)。メルドーの鉄壁のトリオである。全8曲中、3曲はメルドーのオリジナル、ポップ&ロック系の曲のカヴァーについては、ポール・マッカートニーの「Great Day」、ブライアン・ウィルソンの「Friends」をカヴァーしている。
 

Seymour_reads_the_constitution  

 
メルドーのピアノは相変わらず個性的で素敵だ。力感溢れる耽美的な右手、コードの呪縛を逃れ、自由にベースラインを動き回る左手。メルドーのピアノは、21世紀に入ってからのジャズ・ピアノの指針の1つであったことは確か。この最新作でもメルドーのピアノは「安定」の一言。メルドー独特のフレーズもそこかしこでキメまくっていて、安定の「聴き応え」である。

メルドーの鉄壁のトリオを聴いていて、何時もながら、ラリー・グレナディアのベースとジェフ・バラードのリズム・セクションに耳を奪われる。この柔軟自在、硬軟自在のリズム&ビートはなかなか無い。メルドーが奏でる様々なフレーズに、クイックに柔軟に追従し、堅実なサポートを供給する。このリズム・セクションあってのメルドーの個性的なピアノがある、と言っても良いだろう。

このメルドーの新作には「変革」や「進化」は無い。しかし、確実にメルドーのピアノ・トリオの「深化」が聴いてとれる。テクニック的にもアドリブ展開のイマージネーションについても充実度は高く、ピアノ・トリオとして「高水準」を維持しているのは立派だと思う。ピアノ・トリオ者にとっては避けられないメルドーの新作である。

 
 
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