2026年5月18日 (月曜日)

「ジャッキー&ロイ」の異色作

ジャッキー&ロイは、ジャス・ボーカルのデュオ。スインギーで軽快でポップなスタイルがメイン。しかし、このアルバムは、クロスオーバー・ジャズ志向のモーダルな演奏、ボーカルを基本とした「ポスト・バップ」な、実にジャズとして、アーティステックな内容を追求した、デュオ・ボーカルのアルバムになっている。これは、他にほどんと類を見ない。

Jackie Cain & Roy Kral『A Wilder Alias』(写真左)。1973年12月の録音。CTIレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Jackie Cain (vo), Roy Kral (vo, el-p arr), Roy Pennington (vib), Joe Farrell (ts, ss), Hubert Laws (fl), Harvie Swartz (b), Steve Gadd (ds)。いわゆる「ジャッキー&ロイ」の異色作である。

最もアヴァンギャルドで実験的な「異色作」。エレクトリック・ジャズをベースとしたスピリチュアル・ジャズ、そして、プログレッシヴなクロスオーバー・ジャズをベースとしたジャズ・ボーカルのチャレンジしている。加えて、米国ジャズっぽくない、欧州ジャズにも通じる浮遊感のある心地よいサウンドが耳に新しい。
 

Jackie-cain-roy-krala-wilder-alias   

 
そして、最大の特徴は、「声」を楽器として扱った、歌詞のない世界。実際の「歌詞」があるのは2曲目の「Niki's Song」のみ。それ以外の楽曲はすべて歌詞を持たない「スキャット(ワードレス・ヴォーカル)」で歌われている。この「声」を楽器として扱う「スキャット」で、クロスオーバー・ジャズ志向のモーダルなフレーズを唄い上げていく。

バック・バンドの演奏もふるっている。まず、ガッドのドラミングに耳を奪われる。正確無比でファンキーなドラムブレイク、さらに変拍子やラテンビートへの適応は素晴らしいの一言。限りなく自由度の高いモーダルな、ファレルのサックスとロウズのフルートが、ジャッキー&ロイのスキャットとスリリングに絡み合い、絶妙なインタープレイを繰り広げる。これがまあ「聴いたことがない」インプロの響き。「声」の楽器があまりにユニーク。

このアルバムの名義は「Jackie & Roy」という親しみやすいユニット名ではなく、あえて「Jackie Cain & Roy Kral」と本名をフルネームでクレジットした点も含め、これまでのポップなイメージを離れて、アーティステックな内容を追求したシリアスなアルバムを作る、という二人の強い意志と矜持を感じる。
 
 

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2026年5月14日 (木曜日)

ジャズ喫茶で流したい・321

ジャズを聴き始めた頃から、ディー・ディー・ブリッジウォーター(以降「ディーディー」)のボーカルがお気に入りである。圧倒的なスキャット能力と即興性、ドラマチックな表現力と声量、多彩なジャンルを内包するスタイル、圧倒的なエネルギーと迫力。伝統的なジャズの技術と圧倒的なエンターテインメント性を融合させたボーカルスタイルは、リアルタイムでずっと愛聴してきた。

Dee Dee Bridgewater and Bill Charlap『Elemental』(写真左)。2025年2月の録音。ちなみにパーソネルは、Dee Dee Bridgewater (vo, produce), Bill Charlap (p)。現代の女性ジャズ・ボーカリストの重鎮、ディー・ディー・ブリッジウォーターと、現代のネオ・バップなピアニスト、ビル・チャーラップとのデュオ・コラボレーション盤。久し振りにディーディーの個性を聴いた。

2019年から始まった2人のライブ活動、とある。この盤は、2019年から始まった二人のデュオ・コラボレーションの集大成の様なアルバムなんだろう。ピアノだけを伴奏にジャズ・ボーカルを唄い上げる。これって、簡単そうに見えて、ボーカルからしてもピアノからしても、意外と難しいのだが、この二人は濃密な一体感、打てば響く共鳴感、お互いがお互いを高め合う相互な化学反応が、収録された音から醸し出されていて、思わず引き込まれる。
 

Dee-dee-bridgewater-and-bill-charlapelem

 
ディーディーのボーカルは相変わらず見事である。ディーディーのボーカルの個性が溢れんばかりに伝わってくる。「原曲のメロディ」に立ち返る、彼女ならではの円熟の表現。深みを増した「低音域」とダイナミクス。そして、伴奏がピアノだけというところから、人声を「打楽器や管楽器」に変える圧倒的な技術を聴かせてくれている。

そして、現代のネオ・バップなピアニスト、ビル・チャーラップの歌伴ピアノが絶品。チャーラップは明確なバップ・ピアノで、ディーディーの圧倒的なエネルギーと迫力のあるボーカルに相対し、ディーディーのボーカルをがっちりとサポートし、ガッツリと鼓舞する。彼女の熱くダイナミックなボーカルが、チャーラップの繊細で端正なバップ・ピアノと合わさることで、極上の緊張感と調和を生み出している。

ディーディーの感情と芸術性のすべてが剥き出しになった素晴らしい内容のアルバム。チャーラップの歌伴としてのバップ・ピアノの優秀性が露わになった素晴らしい内容のアルバム。「お互いが主役であり伴奏者である」という対等な対話、そして一瞬の隙もない緊張感と遊び心の共存。これ、近年のボーカルの優秀盤である。
 
 

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2026年4月12日 (日曜日)

”エラの歌唱力に舌を巻く” 盤

僕のジャズ・ヴォーカルの好みは偏っている。基本、旧来の伝統的なジャズ・ヴォーカルのマナー、こってこてのオールド・スタイルのフェイクやヴィブラートの入った歌唱が苦手。ストレートでポップな唄いっぷりが好みで、ヴォーカル盤はたまにしか聴かなかった、のだが、最近、何故か、ちょくちょく聴く様になった。歳を取ったせいだろうか(笑)。

Ella Fitzgerald『The Sunshine of Your Love』(写真左)。1968年10月、サンフランシスコのフェアモント・ホテル、ベネチアン・ルームでのライヴ録音。MPSレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Ella Fitzgerald (vo), バックバンド=Tracks 1–6:Ernie Hecksher's Big Band、Track 7–12 Tommy Flanagan Trio、Tommy Flanagan (p), Frank DeLaRosa (b), Ed Thigpen (ds)。

収録曲の大部分は、1960年代後半の現代的なポップ・ソングのジャズ・カヴァー。女性ジャズ・シンガーの最古参の一人、レジェンドのエラ・フィッツジェラルドが、1960年代後半の現代的なポップ・ソングを唄う。旧来の伝統的なジャズ・ヴォーカルのマナーで唄うのかな、とあまり期待して無かったのだが、冒頭のレノン=マッカートニーの「Hey Jude」を聴いて、これは、と思わず引き込まれる。
 

Ella-fitzgeraldthe-sunshine-of-your-love  

 
続くタイトル曲が「The Sunshine Of Your Love」は、当時、人気のロック・グループ「クリーム」のヒット曲。ジャック・ブルースとエリック・クラプトンの作。これがまた、見事にジャズ・ボーカル曲に変身している。ベースがブルースという有利な点はあるにせよ、先の「Hey Jude」を含めて、マーティ・ペイチのアレンジが素晴らしい。

他の曲、バカラックの名曲や、ディオンヌ・ワーウィックやアレサ・フランクリンの歌唱でお馴染みの「This Girl's in Love With You」、映画音楽のスタンダード曲の「Watch What Happens」や「Give Me The Simple Life」など、ポップな曲を、エレは難なく、モダンに、ポップに、ロックに唄い上げる。エラの歌唱力に脱帽である。エラは、どんなポップ曲もスインギーなジャズ・ボーカルに変身させる。

実は、僕は高校時代、FMで、エラの「Hey Jude」と「The Sunshine Of Your Love」を聴いて、この2曲はエアチェックして愛聴していた。この2曲、どのアルバムに入っているんだろう、と思いながら、大学時代、例の秘密の喫茶店のママさんがこのライヴ盤を教えてくれた。それ以来、ジャズ・ヴォーカルが苦手な僕の愛聴盤の一枚になった。思い出深いエラのライヴ盤である。
 
 

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2026年4月11日 (土曜日)

ジャズ喫茶で流したい・320

フランク・シナトラとカウント・ベイシー楽団の共演ライヴ・アルバム。シナトラの歌唱力素晴らしさとカウントベイシーの演奏力の素晴らしさが、確実に「化学反応」を起こしている、見事な内容のジャズ・ボーカル盤である。シナトラにとって初のライブ・アルバムであり、その後、シナトラと最も強く結びつく楽曲の決定的な演奏が数多く収録されている。聴き応え抜群である。

Frank Sinatra『Sinatra At the Sands』(写真左)。1966年1月と2月、ラスベガスのザ・サンズ・ホテル&カジノのコパ・ルームでのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Frank Sinatra (vo), Count Basie (p), Bill Miller (p), and The Count Basie Orchestra、そして、Quincy Jones (arr, cond)。

シナトラの歌唱が絶品。ダンディズム溢れる、魅力的でセクシーな中低音ボーカル。ポジティヴに語りかける様に、耳元で囁きかける様に、硬軟自在、緩急自在、変幻自在にシナトラはボーカルをコントロールする。そう、シナトラはボーカルを「支配」している。クールにジェントルにダイナミックに唄いまくる様は見事である。

冒頭「Come Fly with Me」から始まり「I've Got a Crush on You」「I've Got You Under My Skin」「The Shadow of Your Smile」「Street of Dreams」「One for My Baby」と続く熱唱に次ぐ熱唱。そして、7曲目「Fly Me to the Moon」。僕はこのシナトラの「Fly Me to the Moon」が大好き。何回何十回聴いても良い。シナトラのこの曲の歌唱が好きで、遂には曲自体までもが好きになってしまった。
 

Frank-sinatrasinatra-at-the-sands

 
バックを司るカウント・ベイシー楽団の演奏も素晴らしい。加えて、アレンジがクインシー・ジョーンズ(略して「Q」)。この「Q」のアレンジに乗って演奏するカウント・ベイシー楽団、アーバンで洒落て、良い意味でポップなビッグバンド・サウンドに変化していて、シナトラの歌唱を効果的にバッキングし、シナトラの歌唱の個性を映えに映えさせる。これだけ、フロントのボーカルにぴったりあったビッグバンドのバッキングも珍しい。

ライヴ録音としての臨場感も良い。聴き始めると、自宅のリスニング・ルームが、たちどころに、ラスベガスの「ザ・サンズ・ホテル&カジノのコパ・ルーム」に変わるような、そんな臨場感が心地良い。これぞ、ライヴ盤という雰囲気は、シナトラのボーカルとカウント・ベイシー楽団の演奏に思わず集中してしまうほどの臨場感。

シナトラのしゃべりをそのまま収録しているところが凄い。これがまた、長々しゃべってるんですが、シナトラはMCの名手で、観客は笑いっぱなし。シナトラは早口でペラペラまくしたてるんで、何を言っているか、ほとんど判らないんですが、観客の洒落た笑いと楽しそうな雰囲気がダイレクトに伝わってきて、思わず、こちらも口元を緩めながら聞いてしまう。

シナトラは、僕が小学五年生、親父のラジオをくすねて、NHK第一放送の『夜のしらべ』で、シナトラの歌唱を聴いて以来、ずっとお気に入りの男性ボーカルである。シナトラは、1998年5月に亡くなっているのだが、つまりは、僕は1970年代から亡くなるまで、シナトラをリアルタイムで聴いていたことになる。これは、実に光栄なことであった。この『Sinatra At the Sands』を聴く度に、そんなことをつらつらと思い出す。
 
 

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2026年4月 9日 (木曜日)

”less is more” なステイシー盤

ステイシー・ケント(Stacey Kent)は、高い人気を誇る米国出身のジャズ・シンガー。繊細でキュートな歌声と、ボサノヴァやフレンチ・ポップなどを織り交ぜた、ならではの「クロスオーバー志向」の歌唱内容が個性。夫君はサックス奏者のジム・トムリンソン。ステイシーのアルバムのプロデューサーも務めている。

Stacey Kent『A Time For Love』(写真左)。2026年4月のリリース。ちなみにパーソネルは、Stacey Kent (vo), Jim Tomlinson (ts, ss, fl, cl, perc, back-vo, producer), Art Hirahara (p, key)。アート・ヒラハラのピアノとのデュオを基調としつつ、数曲で夫であるジム・トムリンソンのサックスやフルートが加わるシンプルな構成のボーカル盤。

エヴァーグリーンな楽曲の数々を取り上げた、収録曲のラインナップが魅力的。バーンスタインがミュージカル『オン・ザ・タウン』のために書いた「Lucky To Be Me」から始まり、映画『いそしぎ』のテーマ曲「The Shadow Of Your Smile」、フランス語で歌われるセルジュ・ゲンスブールの「La Javanaise」、バート・バカラック作曲の「Trains And Boats And Planes」など、聴いて「ああ、あの曲か」と判る位の、長く親しまれている楽曲がズラリ。
 

Stacey-kenta-time-for-love

 
ステイシーの低音域の温かな響きが心地良い。フレーズ取り回しや、絶妙な「間」が独特で、聴いていて、ああ、その唄声はステイシーやなあ、と確認できる。「La Javanaise」で見せる仏語での歌唱の美しさにちょっと嬉しい驚き。堂々として、確信を持った、繊細でキュートな唄声は、ジャズ・ボーカルの「ニュー・タイプ」の代表格の貫禄を感じる。

このアルバムで「これ一曲」を挙げて欲しいと請われたら、僕は、スティーヴィー・ワンダーの名曲「As」を推す。恐らく、今の若いジャズ者の方達は知らないかもしれないが、フュージョン時代、数々の名カヴァーを生んだスティービーの名曲。この曲の雰囲気をずばりキーボードで表現したヒラハラのキーボード・ワークに惚れ惚れ。ステイシーの歌唱も「名カヴァー」と称えたくなる、曲の個性と歌詞を踏まえた、素晴らしい歌唱。

このアルバムは、前作『Summer Me, Winter Me』に次ぐ名作として、評価されるべきボーカル好盤。現代のジャズ・ボーカルの最良のひとつとして、全てのジャズ者の方々にお勧めしたい「現代の女性ジャズ・ボーカルの優秀盤」の一枚。「Less is more(少ないほど、豊かである)」の形容がピッタリなボーカル盤である。
 
 

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2026年2月17日 (火曜日)

CTIレーベルの第一弾アルバム

CTIレーベルのアルバム群が、本格的にリイシューされてからというもの、今まで聴いたことが無い盤も出てきて、それはそれは楽しい毎日。クロスオーバー&フュージョン・ジャズもしっかりと守備範囲に入っている、我がバーチャル音楽喫茶『松和』では、現在、CTIレーベルのカタログを基に、CTIレーベルのアルバムの記事のコンプリート化を進めている最中。

『Kathy McCord』(写真左)。邦題「キャシー・マッコード 〜虹のかけ橋」or「レインボー・ライド」。1969年11月18–20 & 24日、12月2日の録音。1970年のリリース。ちなみにパーソネルは、Kathy McCord (vo), Hubert Laws (fl), Paul Harris (p, org), John Hall (g), Harvey Brooks (b), Willis Kelly (ds), Ed Shaughnessy (ds, tabla), Don Sebesky (string and brass arr)。クリード・テイラーが1969年に設立し、クロスオーバー&フュージョン・ジャズで名声を確立するCTIレーベルの第一弾作品である。

米国のシンガー・ソング・ライター、キャシー・マッコードのデビュー盤である。といっても、彼女のリーダー作は2作のみ。女性シンガー・ソング・ライターのアルバムが、CTIレーベルを通じてリリースされたことはとても珍しい。この盤は、クロスオーバー・ジャズにおけるボーカル・アルバムの「珍盤」の一枚だろう。実際、僕はつい最近まで、カタログ上ではその存在は知っていたが、実際に聴いたことが無かった。
 

Kathy-mccord  

 
クリード・テイラーの「経歴に惑わされず音をじっくり聴いて欲しい」との意向で異色のバイオグラフィー無しでのデビューとなったらしい。アルバムの構成は、全10曲中、オリジナルが9曲、カヴァーが1曲。そのカヴァーが、レノン&マッカートニーの「I'm Leaving Home」。アルバム全体を通じて言えることは、この盤、地味ではあるが内容は濃い。CTIサウンドに彩られたジャズロックなバッキングを得て、キャシー・マッコードは魅力的なクールでウォームな歌声で自作曲を唄い上げていく。

冒頭の「Rainbow Ride」など、CTI色豊かなクロスオーバーな穏やかな伴奏をバックにキャシーが唄い上げ、バックバンドのアドリブ部に入ると、エモーショナルなジャズロックに変貌。ジョン・ホールが弾きまくるジャズロック的な展開にビックリ。硬派でダイナミックな展開に思わず聴き惚れてしまう。続くビートルズのカヴァー「I'm Leaving Home」では、アコギの伴奏をメインとしながら、ストリングスやコーラスが幻想的で哀愁感漂うバッキングが良い雰囲気。

キャシーの自作曲は、内省的でメランコリック。どれも良い出来なのだが、いかんせん「地味」。それでも、バックのイージーリスニング志向のクロスオーバー&ジャズロックな演奏がキリッと締まっていて、内容も良く、合わせ技で「聴き心地&聴き甲斐」のある楽曲にまとまっている。このアルバムが、CTIレーベル第一弾。これがCTIレーベルの音作りと言われれば納得。意外と良い内容のアルバムです。
 
 

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2026年1月18日 (日曜日)

ベネット&エヴァンスの続編盤

伴奏上手でも名を馳せていたビル・エヴァンス。フロントがホーン楽器の伴奏を記録したアルバムはいろいろあるが、ボーカルのバックで演奏上手を披露したセッションは、男性ジャズ&ポップス歌手、トニー・ベネット(Tony Bennett)、そして、スウェーデンの女性歌手、モニカ・ゼタールンド(Monica Zetterlund)の2人とだけ。

Tony Bennett and Bill Evans『Together Again』(写真左)。1976年9月27–30日の録音。ちなみにパーソネルは、Tony Bennett (vo), Bill Evans (p)。男性ジャズ・ボーカリストの代表格の1人、トニー・ベネットと、ジャズ・ピアニストのレジェンド、ビル・エヴァンスとのデュオ盤である。

1975年6月の録音の『Tony Bennett / Bill Evans Album』(2021年2月19日のブログ・左をクリック)の続編である。約1年3ヶ月後の「アゲイン盤」。アルバム全体の雰囲気は、『Tony Bennett / Bill Evans Album』と変わらない。気持ち良い伴奏を得て、朗々と気持ち良く唄うベネットと、そんな気持ちの良い伴奏を供給する、伴奏上手のエヴァンス。
 

Tony-bennett-and-bill-evanstogether-agai

 
ミッド・テンポのバラードからジャズ・スタンダード曲がメイン。影なく朗々とダンディズム溢れる唄いっぷりのベネットのバックで、耽美的なフレーズながら、意外とバップな覇気ある伴奏ピアノが浮き出てきて、なかなか良い雰囲気。それでいて、ベネットの熱唱を決して邪魔しないのだから、伴奏上手のエヴァンスの面目躍如である。

「You Must Believe in Spring」「A Child Is Born」「You Don't Know What Love Is」など、ビル・エヴァンスのお気に入り曲も選曲されていて、ビル・エヴァンスのピアノ歌伴との親密感溢れるベネットの歌唱が堪能出来る。朗々と唄い上げるベネット、そして、間奏で、耽美的なフレーズを回しながら、クールでバップな弾き回しを聴かせるビル・エヴァンス。この2人のレジェンドの熟練したパフォーマンスの共演は、やはり優れいている。

一枚目の共演盤『Tony Bennett / Bill Evans Album』と、この続編の『Together Again』のどちらが優れているか、という議論もあるが、どちらも、2人のレジェンドの個性と味のあるテクニックとが相乗効果を生んでいて、甲乙つけるのは「野暮」というものだろう。まあ、我が国では「続編盤」は「二番煎じ」と決めつけて、最初の盤より続編の方が、居抜きで評価をさげる傾向にあるので、まずは、自らの耳で聴いてみることが先決だろう。
 
 

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2026年1月13日 (火曜日)

伴奏上手のケリーを聴き直す・3

ウィントン・ケリーは「伴奏上手なピアニスト」という評価をよく目にするのだが、フロント管などの「楽器」のバックでの伴奏上手なケリーの「音の記録」は多々ある、しかし、ケリーの「伴奏上手」は、ボーカルのバックでこそ、最大限に発揮される、とされるのだが、このボーカルのバックに回った、伴奏上手のケリーの「音の記録」については、意外と数が少ない。

Dinah Washington『For Those in Love』(写真左)。1955年3月15–17日の録音。ちなみにパーソネルは、Dinah Washington (vo), Clark Terry (tp), Paul Quinichette (ts), Cecil Payne (bs), Jimmy Cleveland (tb), Wynton Kelly (p), Barry Galbraith (g), Keter Betts (b), Jimmy Cobb (ds)。ダイナ・ワシントンのボーカル盤。バックは、フロント4管、ギター、ピアノ・トリオのリズム・セクションのオクテット編成。

どの曲でも、ウィントン・ケリーのピアノが映える。ダイナの歌唱のバックでは、ダイナの歌唱を引き立てる、ダイナの歌唱に彩りを添えるようなフレーズを弾き回し、ソロになると、ケリーの個性である「そこはかとなく、マイナーな影を宿しつつ、表向きには、ご機嫌にハッピー・スウィングするピアノ」を惜しげも無く披露する。
 

Dinah-washingtonfor-those-in-love

 
ケリーのハッピー・スウィングするピアノが、ダイナのボーカルのスウィング感と共鳴して、ダイナのボーカルを引き立て、スィング感を増幅する。ケリーの「そこはかとなく、マイナーな影を宿しながらの端正で流麗なピアノ」でのイントロは、ダイナの歌唱の雰囲気を的確にセットアップしている。

とりわけ、ダイナの歌唱のバックでは、ダイナの歌唱を引き立てる、ダイナの歌唱に彩りを添えるようなフレーズを弾き回しが見事で、これだけ「ハッピー・スウィングするピアノ」で、ダイナの歌唱に彩りを添えるような、寄り添うような弾き回しをするのだが、決して、ダイナの歌唱の邪魔になっていない、どころか、ダイナの歌唱に溶け込んで、ダイナの歌唱をハ映えに映えさせているところが、見事というか、これぞ「職人芸」である。

ボーカルのバックに回った、伴奏上手のケリーの「音の記録」については、意外と数が少ないのだが、まずは、このダイナ・ワシントンのバックでの、「伴奏上手」の面目躍如的パフォーマンスを聴くのが、まず「いの一番」だろう。特に、この『For Those in Love』でのケリーの「伴奏ピアノ」は絶品。リヴァーサイドから、本格的なリーダー作を出す3年も前のケリーのピアノなんだが、ケリーの個性と伴奏上手が確立していて見事である。
 
 

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2025年12月22日 (月曜日)

キャノンボールとウィルソンと...

クリスマス・イヴまであと2日。といって、クリスマス・ジャズのアルバムばかりかけていると、そもそも、クリスマス・ソングって、数が限られているから、アルバム毎に重複する曲も結構出てきて、段々飽きてくる。なので、このクリスマス・シーズンには、クリスマス・ジャズ盤の合間合間に、ジャズ・ボーカル盤を効果的に挟んで、その「飽き」を回避している(笑)。

『Nancy Wilson / Cannonball Adderley』(写真左)。1961年7, 8月の録音。ちなみにパーソネルは、Nancy Wilson (vo, tracks: 1 to 7, CD 1993), Cannonball Adderley (as), Nat Adderley (cor), Joe Zawinul (p), Sam Jones (b), Louis Hayes (ds)。

キャノンボールのバンドにウィルソンのボーカルがゲスト参加した「ボーカルもの」と、キャノンボールの「クインテット演奏」のハイブリッド構成。LP時代の曲の構成は「ボーカルもの」と「クインテット演奏」が互い互いに収録されていたのだが、CDになって「ボーカルもの」が7曲全部、前半に寄せられ、後半に「クインテット演奏」の収録になった。

これが解せない。LP時代の編成の方が、「ボーカルもの」と「クインテット演奏」を互い互いに楽しめたものを、CDの構成では、キャノンボールのバンドにウィルソンのボーカルがゲスト参加した「ボーカルもの」と、キャノンボールの「クインテット演奏」、それぞれのアルバムをカップリングした感じで、「ボーカルもの」と「クインテット演奏」それぞれにおける、キャノンボール・クインテットの演奏の妙が楽しみ難くなっている。
 

Nancy-wilson-cannonball-adderley

 
さて、ナンシー・ウィルソンの歌唱が素晴らしい。ナンシー・ウィルソンは、単なるジャズ歌手という枠に収まることなく、ジャズ、R&B、ポップスを自在に歌いこなす「ソング・スタイリスト」として知られた偉大な歌手である。「どんな曲も自分のものにする」という自負から自らを「ソング・スタイリスト」呼び、端正な唄いっぷりと囁く様な透明感溢れる歌声。大胆にて細心、とにかく聴き応え満点のボーカルである。

そんなウィルソンの迫力あるボーカルを、キャノンボールのクインテットがガッチリと受け止め、ガッチリとサポートし、ガッチリと鼓舞する。キャノンボールのクインテット演奏が迫力満点、ウィルソンの迫力満点のボーカルに負けること無く、さりとて、ウィルソンのボーカルを凌駕すること無く、とてもバランスの良い歌伴をしているところに、この頃のキャノンボール・クインテットの力量、懐の深さを感じる。

その、この頃のキャノンボール・クインテットの力量、懐の深さは、クインテット単体の演奏で十分に感じ取ることが出来る。迫力満点、ハイテクニックで歌心満点のキャノンボールのアルト・サックス、ばりばりバップなナットのトランペット、ファンクネスを撒き散らすザヴィヌルのピアノ、ブンブン唸るジョーンズのペース、端正で柔軟なヘイズのドラム。このキャノンボール・クインテットは無敵である。

キャノンボール・アダレイがナンシー・ウィルソンと出会った時、キャノンボールはウィルソンにキャリア・アップのためにニューヨークへ行くよう勧めている。そして、1959年、ウィルソンはニューヨークへ移り住み、メジャーな存在になっていく。そんな間柄のキャノンボールとウィルソンだからこそ成立した、この魅力的なクインテットとボーカルのコラボレーション。キャピトル・レコードのスマッシュ・ヒットであった。
 
 

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2025年11月27日 (木曜日)

こんなアルバムあったんや・140

1980年のリリースの、Alberta Hunter『Amtrak Blues』を突然、思いだして、45年振りの再聴。ブルースとジャズが融合した、独特の個性的なボーカル。ブルースの泥臭さをジャズが中和している感じ。唄いっぷりは堂々としていて迫力満点だが、耳に優しく心に心地よく響く。素晴らしいボーカル。そして、このアルバータ・ハンターの他のアルバムを物色していて、この盤に行き当たった。

Alberta Hunter With Lovie Austin's Blues Serenaders『Chicago - The Living Legends』(写真左)。1961年9月1日の録音。ちなみにパーソネルは、Alberta Hunter (vo), Darnell Howard (cl), Jimmy Archey (tb), Lovie Austin (p), Pops Foster (b), Jasper Taylor (ds)。伝説の女性ブルース・シンガー、アルバータ・ハンターのピアニストのロヴィー・オースチンと共演した名作。

まずは、アルバータ・ハンターの歌声である。根っこはブルース。ブルースの泥臭さをディキシーランド&ニューオリンズ・ジャズに乗せて整える、そんな感じのハンターの歌唱はジャジーであり、説得力がある、そして、とにかく上手い。「St. Louis Blues」「Downhearted Blues」「You Better Change」といった曲で最高のパフォーマンスを聴かせてくれる。
 

Chicago-the-living-legends

 
そして、1961年の録音にも関わらず、演奏全体の雰囲気は、ディキシーランド&ニューオリンズ・ジャズ志向。このオースティンの「ブルース・セレナーダーズ」(トロンボーンのジミー・アーキー、クラリネットのダーネル・ハワード、ベースのポップス・フォスター、ドラマーのジャスパー・テイラーを含む五重奏団)の演奏、これが良い。やはり、このジャズの音が、ジャズの原風景なんだろうな、と改めて納得する。

このオースティンの「ブルース・セレナーダーズ」の演奏、ハンターのボーカル曲では、簡潔なソロ・パフォーマンスのスペースがあって、ここで瞬間芸的なアドリブ・パフォーマンスを披露する。これが見事。そして、「Sweet Georgia Brown」「C-Jam Blues」「Gallion Stomp」の3曲が、「ブルース・セレナーダーズ」単独のインスト・ナンバーであり、このインスト・パフォーマンスが、ディキシーランド&ニューオリンズ・ジャズ志向のハードバップという感じで、これも見事。

ピアニストのロビー・オースティンにとって、20年ぶりのレコーディングだった。彼女は当時74歳近くで、シカゴのダンススクールでピアニストとして働いていた。アルバータ・ハンターは、1954年に看護師になるために音楽界を引退し、その間、2週間前に一度しかレコーディングしていなかった。そんな二人が奇跡の邂逅を果たしてのこのライヴ録音、そして、この優れたパフォーマンス。ジャズって凄いなあ、と思う瞬間である。
 
 

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