2019年11月 6日 (水曜日)

山中千尋の聴き心地良好な 『Prima Del Tramonto』

「今」の日本女子ジャズ奏者の草分けの一人が「山中千尋」。デビュー盤『Living Without Friday』が2001年のリリース。あれから18年。この18年間、山中千尋は日本女子ジャズ奏者の先頭集団をずっとキープしてきた。美形ではあるが、山中の場合、彼女のピアノが素晴らしい。そしてアレンジが素晴らしい。それだけで充分、評価出来るし、その音を楽しめる。山中の場合、外見は全くジャズの評価とは無関係だと感じている。

山中千尋『Prima Del Tramonto』(写真)。2019年5月、NYブルックリンのBoomtown Studioでの録音。ちなみにパーソネルは、山中 千尋 (p, Fender Rhodes, Hammond B-3 Organ), Yoshi Waki (ac-b, el-b #1,2,3,4,5,7,10), Vicente Archer (ac-b, el-b #6,8,9,10), John Davis (ds #1,2,3,4,5,7,10)。そして、収録曲は以下の通り。
 

1 ジェンナリーノ Gennarino (Chihiro Yamanaka)
2 パソリーニ Pasolini (Aldo Romano)
3 シンキング・オブ・ユー Thinking Of You (Chihiro Yamanaka)
4 ネヴァー Never (Chihiro Yamanaka)
5 チェロキー Cherokee (Ray Noble)
6 スイート・ラヴ・オブ・マイン Sweet Love Of Mine (Woody Shaw)
7 ルッキング・アップ Looking up (Micheal Petrucciani)
8 ブルー・マイナー Blue Minor (Sonny Clark)
9 ソリチュード〜C・ジャム・ブルーズ
 Solitude〜C jam blues (Chihiro Yamanaka / Duke Ellington)
10 プリマ・デル・トラモント Prima Del Tramonto (Chihiro Yamanaka)
 
 
Prima-del-tramonto  
 
 
1曲目の「Gennarino」は山中の自作曲でウォーミングアップ的な演奏。2曲目の「c」を聴いて「おおっ」と思う。僕の大好きなミシェル・ペトルチアーニ(Michel Petrucciani)の得意曲ではないか。ペト(ペトルシアーニの愛称)の初期の好盤『Estate』の冒頭の名曲である。それから、7曲目の「Looking up」は、これまたペトの名曲。これは確か、ペトがブルーノートに残した好盤『Misic』の冒頭の名曲である。

この盤については、盤の紹介文に「ブルーノート80周年を記念しソニー・クラークなどブルーノートの名曲をカバー。さらに天性疾患による障害を克服し、フランス最高のジャズ・ピアニストと評価されるミシェル・ペトルチアーニの没後20年にもフォーカスした作品を収録」とある。なるほど。しかし、山中のペトの名演曲のカヴァー、実に優れている。ペトの雰囲気を模しながら、山中のピアノの個性をしっかり織り込んでいる。

そして、山中のブルーノート・レーベルの名曲のカヴァーについても、アレンジも含めて優れている。山中とブルーノート・レーベルの名演名曲とは相性が良く、どのカヴァーも内容があって立派だ。自作曲も良好な内容で、この盤は、山中千尋のジャズ・キーボードの「今」を、リラックスして聴かせてくれる好盤である。この盤での山中のピアノは実にリラックスしていて聴き心地が良い。良い音とは絶対に「聴き心地が良い」ものである。
 
 
 
東日本大震災から8年7ヶ月。忘れてはならない。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。
 
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2018年1月15日 (月曜日)

モンクをシンセ・エレピで弾く

ジャズを好きになるか、ならないか。それを確かめるには「Thelonious Monk(セロニアス・モンク)」の諸作を聴けば良い。モンクのアルバムを聴いて「面白い」と感じて、聴き込む様になれば「ジャズを好きになる」。「なんじゃこれは」と敬遠すれば「ジャズは好きにならない」。モンクの楽曲が演奏が試金石になる、というのを、昔、雑誌で読んだことがある。

これって、意外と真実だと思っていて、確かに今を去ること35年ほど前。ジャズ者初心者駆け出しの頃、Thelonious Monk『Thelonious Himself』を聴いて、これは面白い、と感じて繰り返し聴き、『Thelonious Monk Trio』の「Blue Monk」を聴いて、このユーモラスな曲にゾッコン惚れ込み、そのフレーズを口ずさみながら、大学の構内を闊歩していたことを思い出した。

逆に、友人はモンクを聴いて「なんやこれ」と絶句したまま。そのうち、ジャズのアルバムには手を出さなくなった。確かに、モンクの楽曲や演奏は、楽譜通りに端正に演奏するクラシックとは対極の、即興性や自由度の高い、そして意外性のあるジャズならではの展開がてんこ盛り。そう言う意味では、モンクの楽曲や演奏が気に入る、ということは「ジャズを好んで聴く」素質がある、と言っても良いと思う。

そんなモンクの楽曲であるが、プロのジャズメンとしても、モンクの楽曲は無視出来ない存在みたいで、いつの時代でも「モンク・トリビュート」なアルバムがコンスタントに定期的にリリースされている。即興性や自由度の高い、そして意外性のあるジャズならではの展開がてんこ盛りなモンクの楽曲は、ジャズメンにとっても取り組み甲斐のある素材なのだろう。
 

Monk_studies

 
山中千尋『Monk Studies』(写真)。昨年のリリース。ちなみにパーソネルは、Chihiro Yamanaka (p, syn, el-p, org), Mark Kelley (b), Deantony Parks (ds)。ピアノ・トリオの編成。担当楽器を見れば判るが、山中千尋は、アコピ以外にシンセ・エレピ・オルガンを弾いている。モンクの楽曲をシンセ・エレピでやる、という発想が僕には無かったので、ちょっとビックリした。

で、アルバムを聴いてみてニンマリ。なるほど、これって「アリ」やね〜。モンクのピアノ奏法って、パーカッシブなところがあって、それだけでモンクっぽくなったりするんですが、シンセやエレピでモンクの楽曲をやると、パーカッシブな要素が抜けて、モンクの楽曲の持つ、モンクならではの個性的なフレーズだけが浮き出てくる。モンクの楽曲の持つ個性的なフレーズを心ゆくまで愛でることが出来るのだ。

アコピをできる限り排除することで、モンクらしく弾く、ということを全くせずに、モンクらしいフレーズを散りばめた、モンク・トリビュートなアルバムを成立させている。この「モンクの楽曲をシンセ・エレピで弾く」という、山中千尋のプロデューサー的発想は素晴らしい。アルバム全編を聴き通して心底感心した。

全曲アレンジは山中が担当。オーソドックスなピアノ・トリオでは無いし、アコピでモンクをやる訳ではないけれど、この「モンクの楽曲をシンセ・エレピで弾く」キーボード・トリオな演奏は、明らかに今の先端のジャズであることは間違いない。でも、硬派で真面目なピアノ・トリオの愛好家の方々からすると、拒絶反応が激しいかも。ちょっと聴く人を選ぶかなあ。でも、僕はこの盤は「アリ」です。

 
 

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2015年2月 1日 (日曜日)

山中千尋の考えるスタンダード集

自作曲は自分にとって弾き易くて良いのだろうが、聴いていて「独りよがり」になりがちで、その「独りよがり」は弾きやすさを追求するあまりの「偏ったアレンジ」によるものだと感じている。

やはり、ジャズ演奏においては、自作曲をやるのも良いが、今まで多くのジャズメンが手掛けてきた「スタンダード曲」をやることも大切だろう。スタンダード曲にはそれぞれの個性があり、その個性を活かしつつ、自分が弾きやすく、その曲の個性を表現するには「アレンジ」のテクニックが大切になる。

日本では、ジャズを聴く上で、この「アレンジ」の重要性について、なかなか言及されることが無い。日本ではアレンジのテクニックよりは演奏のテクニックやミュージシャンの個性が優先される。アレンジについては「二の次」なのだ。でも、ジャズの演奏の良し悪しの鍵を握る大きな要素のひとつは、この「アレンジ」なのだ。

そんな、スタンダード曲のアレンジについて、聴く度に感心するアルバムがある。山中千尋『After Hours 2』(写真)。山中千尋が2008年に発表した『アフター・アワーズ』の続編アルバム。スタンダード曲集である。ちなみにパーソネルは、山中千尋 (p), アヴィ・ロスバード (g), 中村恭士 (b), 脇義典 (b)。ピアノ、ギター、ベースのオールドスタイルのピアノ・トリオである。

このスタンダード集、山中千尋のアドリブの才能全開である。ピアノ、ギター、ベースのオールドスタイルのピアノ・トリオの特性を良く理解し、山中千尋自身のピアノを客観的に良く理解し、それぞれのスタンダード曲の潜在的な個性を良く理解した、今までの「スタンダード曲集」には無い「音の響きと展開」が楽しい。
 

After_hours_2

 
収録された曲は以下のとおり。それぞれの「スタンダード曲」のアレンジを聴く度に、「ほぅ、そう来たか」とか「う〜ん、なるほどね」と感心したり、感嘆したりの11曲である。
 
1. Fly Me To The Moon
2. Wakey, Wakey
3. Drift Apart
4. Just One Of Those Things
5. Georgia On My Mind
6. I’ll Close My Eyes
7. Moanin’
8. Beautiful Love
9. Skating In Central Park
10. Autumn Leaves
11. Katsute
11. I Didn’t Know What Time It Was
 
選曲もなかなかユニークなんだよね。それぞれのスタンダート曲を良く知っている、山中千尋のアレンジ・センスが惹き立つ選曲も見事である。「どスタンダード」と言われる「Fly Me To The Moon」「Georgia On My Mind」や「Autumn Leaves」などをさり気なく選曲しているところなぞ、実に確信犯的で思わずニンマリする。

DVD付きの限定盤とCDのみの通常盤でジャケット写真が違うのも、なかなか「お洒落」。山中が和服を着ているところも意味深で実にクール。良く練られた「山中千尋の考えるスタンダード曲集」である。とにかくアレンジが優秀。

 
 

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2014年11月 3日 (月曜日)

山中の『ブラヴォーグ』の真価

振り返ってみると、山中千尋のアルバムはデビュー盤から全て聴いている。つまりは彼女のピアノが心の吟線に響くんだろう。とにかく聴いていて楽しいし、心地が良い。このブログでも少しづつ、山中千尋のアルバムをご紹介している。今日は第8作目の『bravouge(ブラヴォーグ)』をご紹介したいと思う。
  
さて、改めて、第8作目『ブラヴォーグ』である。アルバム・タイトル『bravouge(ブラヴォーグ)』は、 楽典用語の「ブラブーラ」:1)高度な技巧を必要とする華麗な曲、2)勇壮・華美、華やかな演奏(演技の) 威勢のよさ、と「vouge(スタイル、形式、ファッション)」とを合わせた造語だそう。ふ〜ん、そうなんや。
 
タイトルの造語説明を聞いた時は、ふ〜んという感じなんだが、アルバムを聞き始めてみると、このアルバム・ タイトルの造語そのものの音が展開されていることに気が付いて、唖然とすることとなる。

冒頭の「アクエリアン・メロディ」の前奏の「カンカンカンカン」と叩き付けるような、ピアノのシングルキーの音。この単音に感じるテンションの高さにちょっと「おののく」。これって、ガーンゴーンとキーを叩き付けるように弾き倒す、男勝りのピアノ展開か〜、と身構えるが、そのテンション溢れる前奏に代わって出てくるテーマの旋律が、清々しくて爽やかな風のようなメロディーなので「ホッ」とする。
 
いかにも山中千尋らしい流れるような旋律。音の選び方に確固たる個性を感じる。ザッザッザッと重ねる和音の使い方は山中千尋そのもの。それでも、右手の旋律はテンション高く、テクニック溢れ、覚悟を感じる、凛とした旋律。ピアノのスケールを目一杯使った演奏はなんとなく鬼気迫るものがあります。
 
このテンションが続いたら、ちょっと辛いかな〜、と思いつつ、次の「カリヨン」へ。これも山中千尋らしい楽曲。前奏からテーマは優しい音、優しい響き。それでいてキーはしっかり底まで叩かれいて、テンションはしっかりと張っている。展開部に入ると、これまたテクニックに優れたインプロビゼーションが続く。山中千尋は巧くなったと思う。彼女の演奏家としての矜持を感じる、良い演奏です。
 
3曲目は「タイム・フォー・ラヴ」は「待ってました」って感じ。ピアノでは無い、オルガンの前奏に思わずニヤリとする。テーマを弾くフェンダーローズ(だと思う)の音が実に良い。山中千尋はキーボードの扱いが上手くなってきた。自分なりに良く研究して、山中千尋のキーボードらしい個性を引き出すことが出来るようになってきたと感じる。雰囲気のあるオルガンとフェンダーローズの響きが魅力的な逸品でしょう。
 
4曲目の「ユニ」、5曲目の「ヴォウ・デイタール・イ・ホラール」は山中千尋節が満載の手慣れた楽曲と演奏が続く。この2曲を続けて聴いていて、ここにきて、山中千尋のピアノの個性は確立された感を強く感じた。過去のジャズ・ピアニストの成果、個性をしっかりと踏まえた中で、山中千尋個人の感性を添加して、インプロビゼーションの部分で、明らかに山中千尋と判る個性を獲得している。
 
 
Chihiro_bravogue
 
  
6曲目の「ブラヴォーグ」にはアルバム全編を覆う「ミュージシャンとしての矜持」をより強く感じる。 いや〜なんて複雑な曲なんだろうか。ドラムもベースもテンション高く、山中千尋のピアノの後に続き、山中千尋のピアノを盛り立てる。
  
7曲目は「ドイス・プラ・ラ、ドイス・プラ・カ」。ボサノバの名曲。ちょっと俗っぽくて猥雑で、それでいてウェットにはならない不思議な曲を、山中千尋は意外と冷静に淡々と紡ぎ上げていく。ファンキー・ジャズの様に決して俗っぽくならず、オーバーアクションにもならない。このクールさがまた彼女の個性になっていくんだろう。何も熱くなってガンガン叩くだけがジャズでは無い。
 
8曲目「サークル」は複雑な曲ではあるが、演奏全体の雰囲気はハッピー・スイングで、ノリの良いブルースである。ここでの山中千尋はこれまた上手いんだなあ。なんだかオスカー・ピーターソンが乗り移ったようだ。それでも早弾きの時、ほんのホントにほんの少しだけ遅れ気味になる、というか、後ろに引くという感じがなんとも癖になる。楽しい演奏だ。
 
9曲目の「ル・フリュイ・デファンドゥ」はこれまでの演奏のテンションをクールダウンするような、美しい響きを持った演奏である。丸い優しさと柔らかさが同居した、女性ピアニストならではの表現である。この丸い優しさと柔らかさが同居したような表現は男性にはなかなか出来ない。
 
ピアノには打楽器の側面と旋律楽器の側面があるが、打楽器の側面については、力だけでは男性ピアニストに絶対に負ける。その打楽器の部分を女性ピアニストとして、どうやって折り合いをつけていったらいいか、山中千尋は彼女なりのその答えを見い出しているようだ。
 
この『ブラヴォーグ』ってアルバム、とてもストイックな、内容の濃いアルバムです。でも、ちょっとクスッと笑ってしまうようなユーモアも彼女は兼ね備えている。10曲目のコミカルな「スタッカート」という曲ですが、 この短いコミカルな演奏は「本当はここでアルバムは終わり」って、僕には聴こえる。次の曲があからさまな ジャズ・スタンダードの大人気曲の「星に願いを」ですからね〜。
 
この「星に願いを」は、ボーナス・トラックだと思って聴いています。『ブラヴォーグ』というアルバムには必要な演奏では無いですからね。『ブラヴォーグ』の真価は、1曲目の「アクエリアン・メロディ」から、 9曲目の「ル・フリュイ・デファンドゥ」まで。この9曲で、十分に山中千尋ワールドが堪能できます。
 
 
 

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2014年7月27日 (日曜日)

思わずニヤリ『Somethin' Blue』

山中千尋の最新スタジオ録音アルバム『Somethin' Blue』(写真・左は初回限定盤・右は通常盤)である。タイトルからイメージできる様に、このアルバムは、今年設立75周年を迎えた、ジャズの老舗レーベル・ブルーノートからのアルバム・リリースである。

アルバムのキャッチ・コピーが「ジャズの王道に立ち返り、75周年を迎えたジャズの最強レーベル〈Blue Note〉からチヒロ・ミュージックが再び花開く」だったので、これはブルーノート・レーベルからリリースされた名曲のカバー集かと思った。まあ、ブルーノートの名曲のカバーは、ジャズメンの定番的なアプローチなので、そうなんだ、とは思ったが、それでは面白くないだろう、とも思った。

で、この山中千尋の最新スタジオ録音アルバム『Somethin' Blue』の収録曲の詳細情報を入手して、なるほどなあ、と納得した。実に山中千尋らしいアプローチである。元々、山中は作曲・編曲・アレンジの才に長けるので、単純なブルーノートの名曲カバーは「らしくない」。

以下が収録曲の詳細情報であるが、カバー曲は2曲目の「I Have A Dream」と3曲目の「Un Poco Loco」のみ。traditionalとして「Funiculi Funicula」を選曲しているが、他の8曲は全て、山中の自作曲。安易にブルーノートの名曲カバー集に走らないところに、山中千尋の矜持を感じます。
 

  1. サムシン・ブルー (Somethin' Blue : Chihiro Yamanaka)
  2. オーリンズ(Orleans : Chihiro Yamanaka)
  3. アイ・ハヴ・ア・ドリーム(I Have A Dream : Herbie Hancock)
  4. ウン・ポコ・ローコ(Un Poco Loco : Bud Powell)
  5. フニクリ・フニクラ (Funiculi Funicula : traditional)
  6. ア・シークレット・コード (A Secret Code : Chihiro Yamanaka)
  7. ピンホール・カメラ (Pinhole Camera : Chihiro Yamanaka)
  8. フォー・リアル (For Real : Chihiro Yamanaka)
  9. オン・ザ・ショア (On The Shore : Chihiro Yamanaka)
10. ユーアー・ア・フール・アーント・ユー (You're A Fool, Aren't You : Chihiro Yamanaka)
11. ゴー・ゴー・ゴー (Go Go Go : Chihiro Yamanaka)
 
 

Somethin_blue

 
1曲目の山中の自作曲「Somethin' Blue」を聴いて、思わずニヤリ。曲想が明らかにブルーノートのハードバップ曲を踏襲しており、アレンジがこれまた「ブルーノート色」が濃厚。なんかどこかで聴いたことのあるユニゾン&ハーモニーなんだが、これは山中のオリジナルなのだ。う〜ん、上手いことやるなあ。実に山中らしいアプローチである。 

他の山中の自作曲についても、全てこのパターンである。なんかどこかで聴いたことのあるユニゾン&ハーモニー、そしてアレンジなんだが、これが皆、山中のオリジナル。ブルーノート・レーベルのアルバムを多く聴き込んでいればいるほど、この「なんかどこかで聴いたことのある」に行き当たる。これが、聴いていてとても楽しい。

それでは、いずれも、ブルーノートの名曲のユニゾン&ハーモニー、そしてアレンジのパターンを忠実に踏襲しているのか、と言えば、これまた否で、一聴した時はブルーノートやなあ、と思うんだが、聴き進めて行くと、そこかしこに、山中のオリジナルなユニゾン&ハーモニー、アレンジを織り込んでいる。

演奏のパターンも、こってこてのハードバップから、ブルーノートの十八番であった新主流派のモーダルな演奏、そして、サイドワインダーなジャズロックまで、幅広く対応しているところも憎い。いやいや、山中自身が、かなりブルーノート・レーベルのアルバムを多く聴き込んでいるなあ、と感心する。

山中の作曲・編曲・アレンジについてばかり語っているが、演奏自体も全くもって素晴らしいもの。今までは、ピアノ・トリオ演奏中心にやってきたが、ここにきて、セクステット編成での演奏で攻めてきている。これも、ブルーノートの音世界に合わせる為の「技」のひとつ。確かに、ブルーノートには、ピアノ・トリオ盤がかなり少ない。

ブルーノートの名曲カバーに、Herbie Hancockの「I Have A Dream」と、Bud Powellの「Un Poco Loco」の2曲のみを選曲したところにも、山中千尋のセンスを感じる。そして「Funiculi Funicula」のお茶目なアレンジとプログレッシブなキーボードの使い方を聴いて、これまた「なかなかやるな〜」と口元が緩む。

今回のアルバムも、山中の作曲・編曲・アレンジの才に感心することしきりです。加えて演奏も素晴らしい。「山中、ジャズやってるな〜」って感じが良いです。ちなみに最後にパーソネルを記しておきます。山中千尋 (p), ベニー・ベナック三世 (tp), 中村 泰士 (b), ケンドリック・スコット(ds), ラゲ・ルンド (g), ジェリール・ショー (sax)。良いアルバムです。

 
 

震災から3年4ヶ月。決して忘れない。まだ3年4ヶ月。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから復興に協力し続ける。 

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2013年6月22日 (土曜日)

3作目にて絶対的個性を確立した

2枚目のリーダー盤を聴いた時、「山中千尋は実に個性的になったなあ」と思ったのだが、今回、発売された3枚目のリーダー・アルバム『Madrigal』では、その個性的な面が、更に確信的に更に揺らぎ無くなって、しっかりとした「山中千尋の個性」に定着しつつあるのを感じて驚いた。

改めて、山中千尋のサード盤『Madrigal』(写真左)。ちなみにパーソネルは、山中千尋 (p), Larry Grenadier (b), Rodney Green (ds), Jeff Ballard (ds)。2004年2月の録音。

1曲目の自作曲「Antonio's Joke」の冒頭のピアノを聴いて、もう直ぐと「山中千尋」と判る音になっていて、ニヤリとさせられる。しっかりと鍵盤を押し込んだ左手の低音がグワングワンと演奏の土台の上で、 テクニカルな右手が、地に足が付いた様な、しっかりしたタッチで「踊る」。

○○派や××派などという「お決まりのスタイルの表現」では単純に括れない、今までの歴代ジャズピアニスとの名手の「良いとこ取り」というか、そのテクニックをしっかり自分のモノにしつつ、今まで聴いたことのない「地に足ついた音の調子」と「重心の低いドッシリ感」という個性を築き上げている。

この個性が、2曲目のジョージ・ラッセル作「Living Time Event V」で、より露わになる(選曲も渋いわなあ)。「キュートで華奢な女の子」という感じのジャケット写真からは想像出来ない、重心低くしっかりと押し込んだ、どっしりとした演奏。

テクニックも申し分なく、この演奏を先入観無く、音だけ聴いたら、女性ジャズ・ピアニストの演奏とは思わないのでは、と思わせるほどにワイルドな演奏だ。
 

Chihiro_madrigal_2

 
3曲目の「Madrigal」やボサノバ調の6曲目の「Salve Salgrigio」は、ファースト・アルバムで耳に馴染んだ「山中千尋」のキュートな面を全面に押し出した女性らしい佳曲。癒しの名演である。

5曲目の「School Days」は実にユニークな演奏になっている。「School Days」と書かれると判らないが、これを日本名になおすと「学生時代」。そう、昔、ペギー葉山が歌った名曲である(今の若い人は知らないかなあ)。

ベースとドラムのスピード感のあるリズムから入って、最初は何の曲だか判らない。ピアノが入ってきて、ベースのラインと共に、普通のジャズ・スタンダードのコード進行とは違うことに気付くのだが、聴いたこともないのに不思議と親近感のあるコード進行に戸惑う。

そして、半音を微妙に上げ下げした、実に「ねじれた」かの名曲「学生時代」 の旋律がでてくると(これって結構な発想とテクニックだと思う)「ああっ、あの曲か」と判る寸法。 この曲、聴きこんで耳慣れてくると「また聴きたい」という気持ちになって、病みつきになる(笑)。

「ねじれている」という面では、7曲目の「Caravan」も負けてはいない。かのデューク・エリントンの定番中の定番なのだが、最初聴いていると、何の曲だかちょっと判らない。が、良く聴いていると、かのジャズ・スタンダードの定番中の定番である「Caravan」と判る。とにかく、ユニークな「Caravan」。こんな「Caravan」って聴いたことが無い。創造力の勝利である。

このアルバムで、山中千尋は「個性的」なジャズ・ピアニストから、「独自の個性」を備えたジャズ・ピアニストになった。しかし、この華奢な体で、どうやったら、こんな力強い演奏が出来るんだろう。

 
 

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2013年5月25日 (土曜日)

「凛とした」山中千尋セカンド盤

山中千尋の第1作目は緩急自在、「ちょっとまとめてみました」って感じの、素敵なデビューアルバムだった。初対面の時みたいな爽やかな、そして、そこはかとなく可愛い、 挨拶代わりのアルバムだった。そして、第2作目である。

第2作目は『When October Goes』(写真左)。1作目から、着実にアップグレードした内容が心強い。2002年のリリース。ちなみにパーソネルは、Chihiro Yamanaka (p), Larry Grenadier (b), Jeff Ballard (ds)。

まず、ベースとドラムがグレードアップした。1作目は、ベース・ドラム・ピアノが、対等にお互いを思いやりながら、うまくバランスを取ったアンサンブルが特長だった。ベースとドラムがグレードアップした本作は、インタープレイの醍醐味に溢れた、躍動感溢れる作品になった。

しかし、それにも増して、山中千尋のピアノが更に個性的になった。恐らく、自分のタッチと自分の表現に自信を持ち始めたのだろうが、今の山中千尋のピアノは思いっきり個性的だ。山中千尋のピアノの個性が、このアルバムで確立されたと言って良いだろう。

近頃のジャズ・ピアノの新人の多くはエバンス派の影響が多く見られ、その前提から出発して如何に個性を出していくか、 という形で、個性を作り出している。しかし、今回のアルバムで聴くことの出来る山中千尋のピアノは、 どうも、そうではなさそうだ。エバンス派の影響が意外と希薄なのだ。
 

When_october_goes

 
なんと表現したらいいか、実際に皆さんに聴いていただくのが一番なのだが、純ジャズの様々なジャズ・ピアノのスタイルとフュージョン・ジャズでのピアノの響きとが巧くブレンドされてきて、その土台の上に、ダイナミックでリリカルな雰囲気とが付加されて、この時代でないとあり得ない、実に個性的なピアノを表現している。

その個性的なピアノを引っさげて、オリジナル・ナンバーが素晴らしい出来映えをみせている。特に冒頭の「Taxii」は名演名曲。そして、加えて、今回のアルバムで素晴らしいのはスタンダードの選曲。実に粋なスタンダードの選曲に目を見張る。う〜ん、実に粋だ。

4曲目の「Yagii Bushii(八木節)」は出色の出来、6曲目、8曲目はヒネリが効いていて、アレンジと テーマの扱いが素晴らしい。聴いていて、自然と口許がほころぶ。

最後に言いたい。このトリオは実に良い組み合わせだと思う。ダイナミズムと繊細さを併せ持ち、アンサンブルとインタープレイを巧く取り混ぜ、それでいてテクニックに走らず、日本語的にいうと、実に 「凛とした」ピアノ・トリオなのだ。 

良い出来のセカンド・アルバムだと思います。今でも時々、引きずり出して聴く、僕にとって意外とヘビロテの一枚です。

 
 

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2011年10月24日 (月曜日)

遅まきながら「Forever Begins」

気が付けば、山中千尋のファンであった。気が付けば、デビュー・リーダー盤から全てのリーダー作を所有していた。しかも、それぞれが結構ヘビー・ローテーション。彼女の紡ぎ出すフレーズが自分の感性に合うんだと思っている。

で、その山中千尋、この8月に最新作『Reminiscence』をリリースした。なかなかの内容のアルバムである。当然、ヘビーローテーションな一枚となっている。そろそろ、この『Reminiscence』のレビューをこのブログに掲載せんとなあ、と思っていたら、ふと気付いた。

前作『Forever Begins』(写真左)のレビューをアップするのを忘れていた。ちなみに、この前作の『Forever Begins』については、実にその内容が気に入っている。我がバーチャル音楽喫茶『松和』でもヘビーローテーションな一枚となっていたし、今でもネタ切れになると、ちょくちょくトレイに載る。レビューをアップするのを忘れていたとは「不覚」であった。

ということで、遅まきながら『Forever Begins』。最新作『Reminiscence』の前に『Forever Begins』である。というのも、この『Forever Begins』が無いと、次作『Reminiscence』は無い、という切っても切れない、表裏一体となったアルバム。この『Forever Begins』は、山中千尋のジャイアント・ステップな一枚なのだ。

この『Forever Begins』、一言で評すると「歌心溢れるフレーズ満載の超絶技巧なピアノ・トリオ」。最近の若手のピアノ・トリオは、ややもすると超絶技巧に走りがちなのであるが、この山中千尋の『Forever Begins』は違う。まず、第一に「歌心溢れる、口ずさめるような印象的なフレーズ」が満載である。
 
Forever_begins
 
冒頭の山中千尋のオリジナル「So Long」がその代表例。出だしから親しみ溢れる、弾むような印象的なピアノのフレーズ。なんかの時に口ずさめるキャッチャーなフレーズ。しかし、展開部に入ると超絶技巧なテクニック溢れる弾きまくり。オスカー・ピーターソンのフォロワーと言っても良い位の超絶技巧さ。
 
2曲目の「
Blue Pearl」から3曲目の「Summer Wave」については、お得意のピアノのスケールを幅広く使いながら、ブワーッとポジティブに拡がる様な印象的なフレーズを展開する。ピアノの幅を最大限に活かして、輝く様なフレーズを紡ぎ上げていく。これって、山中千尋の個性。
 
そして、4曲目の「
Cherokee」が凄い。こんなアレンジの「Cherokee」を聴いたことが無い。実に印象的な判り易いフレーズ。この「Cherokee」のアレンジこそが山中千尋の面目躍如。こんなアレンジを施せるジャズ・ミュージシャンは今までいなかった。それほどまでにユニーク。けど、決して可笑しくない。このアレンジって絶対に「有り」。やられた〜って思った(笑)。
 
7曲目のラテン・ナンバー「
The Moon Was Yellow」の健康的な妖艶さも良い。これも山中千尋のアレンジの才のなせる技。ラテン・ナンバーは下手にいじると、その曲の持つ「妖艶さ」が下品になるんだが、この山中千尋のアレンジは決して下品にならない。曲の特性を良く分析した、実に効果的なアレンジ。脱帽である。
 
良いアルバムです。山中千尋のアレンジャー&コンポーザーの才能を十二分に堪能出来る秀作。アレンジ&コンポーズが優れているからこそ、トリオの持つ超絶技巧なテクニックも嫌味に聴こえず、爽快、痛快に感じる事ができる。
 
こんなに
「歌心溢れるフレーズ満載の超絶技巧なピアノ・トリオ」は、なかなか無い。快作である。しかし、アルバム・ジャケットは「シュール」である(笑)。

 
 

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2011年9月 2日 (金曜日)

山中千尋の初リーダー作

山中千尋の新作はとても良い。彼女のコンポーザー&アレンジャーの才能全開で、聴いていて、とても楽しい。ジャズにおける新スタンダードと言う議論がなされて久しいが、その回答の一つと捉えて良いのではないか。とにかく痛快な内容だ。いま、ヘビー・ローテで聴き込み中。しっかり聴き込んで、近いうちにこのブログで語ってみたい。

ここで今一度、山中千尋のデビュー作を振り返ってみたい。デビュー作にこそ、そのミュージシャンの個性が露わに反映される、と思っているが、山中千尋の場合、どうだったんだろう。我がバーチャル音楽喫茶『松和』の「ジャズ・フュージョン館」、2002年4月の「ジャズの小径」の原稿を読み直してみた。

以下、2002年4月の「ジャズの小径」でご紹介した、2001年10月リリースの山中千尋の初リーダー作『Living Without Friday』の感想文である。

山中千尋の初リーダー作『Living Without Friday』(写真左)は、実に心地よく、ガッツのあるアルバムを見つけた、という感じがする、久々のバーチャル喫茶「松和」の新作推薦盤だ。

山中千尋。NYで活躍する若手ジャズピアニスト。何が素晴らしいのか。まずは、アルバム全体を流れる「テンポ」である。ゆったりと歩くかの如き、ノビノビとしたスイング感。春の煌めく木漏れ日の中、微風に吹かれて、ゆったりと歩くような心地よい爽快感。
 
その代表的な演奏が、1曲目の「Beverly」。この曲は、山中千尋のオリジナル。ゆったりとした、ソフトなスイング感。明るい南欧、地中海を思わせるような、日本で言えば、春の晴れ渡った瀬戸内海を思わせるような、そんな開放感と心地よさが聴く者を魅了する。
 

Living_without_friday

 
バックのリズムセクションもなかなかのもので、ベースのRay Parker は骨太なベースで、トリオの底辺を支え、ドラムのLaFrae Olivia Sci(なんて読めばよいのか)は、芯の入ったスティッキングと変化に富んだ柔軟なドラミングでトリオに彩りを添える。

このアルバムの演奏をCDショップで初めて聴いたとき、こんなに柔軟で芯がありながらも、こまやかでしなやかなドラミングを披露する輩はだれだ、と思って、ジャケット写真を見たら女性でした。至極納得。

この山中千尋トリオは、心地よいスイング感だけがウリではない。芯の入ったガッツある演奏もまた、このトリオの特徴なのだ。その良い例が、2曲目の「Girl From Ipanema」。いわゆる「イパネマの娘」だが、このボサノバの名曲が、芯の入ったダイナミックな演奏によって、硬派なジャズ・スタンダードに変身する。

山中千尋のタッチは、しっかりと鍵盤を押さえきっているところに良さがある。強い音も弱い音も大きい音も小さい音も、変わりなくしっかりと音を出しているので、耳障りじゃないのだ。

そのダイナミックさは、4曲目の「Living Without Friday」で最大限、発揮されている。そして、3曲目の「A Sand Ship」、これは知る人ぞ知る、中島みゆきの「砂の船」のジャズ化。素晴らしいアレンジに、嬉しい驚きは隠せない。

硬軟緩急自在、「いっちょ気張って、ちょっとまとめてみました! いかがっすかあ」って感じの、爽快で素敵なデビュー・アルバム。これから先のリリースが楽しみだ。

今の耳で聴いても、9年前の印象は変わらない。良いアルバムです。 

 

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2010年2月11日 (木曜日)

遅まきながら「山中千尋の新作」

ちょっと遅くなったが、山中千尋の最新作がなかなか良くて、ちょくちょく聴いている。山中千尋の新作のテーマは「ベニー・グッドマン」。ベニー・グッドマン生誕100周年記念作品。ヴァイヴにティム・コリンズ、クラリネットにジャネル・ライヒマン、ギターにアヴィ・ロスバードを迎え、山中千尋トリオを加えた、セクステットでの録音。アルバムタイトルは『Runnin' Wild』(写真左)。

ベニー・グッドマンとは、1930年代後半にスウィング時代の原動力となり、常に時代の最先端をいくクラリネットのフレーズで強烈な印象を刻み続けたスィング・ジャズの偉人である。僕がジャズに触れた最初のきっかけが、高校時代に観た、映画の「ベニー・グッドマン物語」。スウィング・ジャズの楽しさ、乗りの良いビートがとても気に入った。マニアックにスウィング・ジャズを蒐集することは無かったけれど、今でも聴くのは好きな音ですね〜。

で、この山中千尋『Runnin' Wild』ですが、そのスウィング・ジャズを忠実に再現するなんて野暮なことは、当然してはいません(笑)。山中千尋は、ピアニストとしても実に魅力的であるが、僕は、とりわけ作曲、アレンジの才に注目している。今回のアルバムでも、その作曲、アレンジの才能が全開である。

聴いていて、アレンジが実に良い。これは面白いなあ〜、これは小粋やなあ〜、というが随所にあって、アルバム全編に渡って聴いていて楽しい、サクッと「ジャズの演奏を楽しめる」アルバムに仕上がっています。スウィング・ジャズの雰囲気をしっかりと掴み取って、スウィング・ジャズのエッセンスをしっかりと踏まえた、全編、ポジティブで明るく、現代のジャズのビートを織り交ぜて、山中千尋ならではのジャズを聴かせてくれているところが良いですね。

Cy_runnin_wild

ピアニストとしての山中千尋も忘れてはいません。随所随所で、ガンガンに弾きまくっています。効果的なタイミングで、山中のピアノが印象的に響く。

う〜ん、弾きまくるだけが、ジャズ・ピアノでは無いんやな〜。個性を如何に表現し、アピールするか。それが大事なんだよな。それを支えるのがアレンジであり、作曲なんですよね。演奏家には、良きアレンジ、良き作曲が必要なんだな〜ということを再認識しました。

このアルバム、「企画もの」といえば「企画もの」だけど、山中千尋の個性と才能が十分に活かされていて、「企画もの」ならではの「人工的な匂い」がしません。スウィング・ジャズのポジティブで明るいビートと雰囲気を根底に流しつつ、その上に自分の個性とバンドの個性を効果的に配し、魅力的な演奏としてアルバムにまとめ上げた、山中千尋のアレンジと作曲の才の「たまもの」でしょう。

ピアノ・トリオで弾きまくる山中千尋も魅力的ですが、僕は、彼女のアレンジと作曲の才に一番の魅力を感じます。また、今回はあまり全面には出ていませんが、シンセサイザーなど、エレクトリック・キーボードの使い方も堂に入ってきました。彼女のオリジナル曲での直球勝負的なアルバムも好きですが、今回の「企画もの」はなかなかのものだと思います。チック・コリアの様に、童話や物語に題材を求めた「コンセプト・アルバム」的な成果を期待してしまいますね〜。 
 
 
 
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