2026年5月 6日 (水曜日)

スピリチュアル+ブラジリアン

ブルーノートの4300番台のアルバムらしいアルバムである。ファンクネス漂うシンプルで、どこか趣味の良い「地味」なバップ・ピアニストだったデューク・ピアソンが、突如、ボサノヴァとコーラス・アンサンブルが融合を融合した、摩訶不思議な、ポップでスピリチュアルなリーダー作をリリースしている。

Duke Pearson『How Insensitive』(写真左)。1969年4月11,14日、5月5日の録音。ブルーノートの4344番。ちなみにパーソネルは以下の通り。ピアニストであり、プロデューサーとして後期ブルーノートを支えたピアソンが、スピリチュアル・ジャズとブラジリアン・ジャズへの傾倒を反映させた作品。

4月11,14日の録音 (tracks 1 & 3–5) は、 Duke Pearson (p, el-p, arr), Al Gafa (g), Bob Cranshaw (b), Mickey Roker (ds), Airto Moreira (perc), Andy Bey (lead vo), The New York Group Singers' Big Band。

5月5日の録音 (tracks 7, 9 & 10)は、Duke Pearson (p, el-p, arr), Bebeto Jose Souza (b), Dorio Ferreira (g, perc), Flora Purim (lead vo),

初リリース時、LP時代の収録曲は、収録曲は、A面がコーラスを主体としたスピリチュアル・ジャズ、B面がブラジリアン・ジャズという構成に分かれている。どういう意図でこういう収録形態になったのか、思わず首を捻ってしまう。

4月11,14日の録音 (tracks 1 & 3–5) では、17名の男女混声合唱団(ニューヨーク・グループ・シンガーズ・ビッグ・バンド)を起用し、幻想的で透明感のある、スピリチュアルなサウンドを作り上げている。
 

Duke-pearsonhow-insensitive  

 
冒頭の「Stella by Starlight」がその最たる例で、出だしは、ファンクネス漂うシンプルで、どこか趣味の良い「地味」なバップ・ピアノソロが、ハードップ時代の良き雰囲気を醸し出すが、いきなり17名の男女混声合唱団のコーラスが出てきて、はっきり言って「戸惑う」。バックのピアソンのバップ・ピアノがとても良いフレーズを叩き出しているので余計に、である。

この「17名の男女混声合唱団」のコーラスが、ファンキー&ソウルフルではあるが、コーラスの雰囲気は「ポップ」。上質でポップな混声合唱には、どこか敬虔な響きが漂って、ところどころゴスペルチックで、まるでポップな賛美歌を聴いている様な面持ち。しかし、この「17名の男女混声合唱団」のコーラスの必然性が全く理解できない。

ポップなゴスペルチックな男女混成合唱がメインなのか、リーダーのピアソンを始めとする純ジャズにポップなゴスペルチックな男女混成合唱が彩りを添えているのか、聴き方の力点の置き方が難しいアルバムになっている。賛美歌的な響き、ゴスペルチックな響きを前面のに押し出し、スピリチュアル・ジャズの側面を前面に押し出そうとしているのは理解出来るのだが。

5月5日の録音 (tracks 7, 9 & 10)では、7曲目の「Sandalia Dela」のコッテコテのボサノバ・ジャズには、更に「戸惑う」。フローラ・プリムのボサノバチックな歌唱が前面に押し出されている。8曲目「My Love Waits (O Meu Amor Espera)」以降「Tears (Razao De Viva)」「Lamento」もゴスペル・ジャズ。

ピアソンのファンクネス漂うシンプルで、どこか趣味の良い「地味」なバップ・ピアノをメインとするジャジーな演奏に、ポップでファンキーでゴスペルチックな「17名の男女混声合唱団」のコーラスが絡む、意外とスピリチュアル・ジャズ的側面は軽くてポップな、摩訶不思議な雰囲気のスピリチュアル&ボサノバ・ジャズとして良いのでは、と思う。ピアソンのピアノだけ取りあげれば、これはこれで申し分無いんだけどなあ。
 
 

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2026年5月 1日 (金曜日)

ジャパン・ミーツ・ジャズの一枚

このアルバムの副題は「ジャパン・ミーツ・ジャズ」で、独のMPS(SABA)レコードの「ジャズ・ミーツ・ザ・ワールド」シリーズの一作である。いわゆる「和洋折衷ジャズ’の好盤。3人の琴奏者(白根きぬ子、野坂恵子、宮本幸子)を加え、日本の伝統楽器である「琴」を本格的にジャズへ取り入れた斬新な構成が特徴。

白木秀雄『Sakura, Sakura』(写真左)。1965年11月1日、ベルリンでの録音。MPS(SABA)レコードからのリリース。ちなみにパーソネルは、Hideo Shiraki (ds), Terumasa Hino (tp), Takeru Muraoka (ts, fl), Yuzuru Sera (p), Hachiro Kurita (b), Keiko Nosaka (koto : A1, A3, B1, B3), Kinuko Shurane (koto ; 曲: A1, A3, B1, B3), Sachiko Miyamoto (b-koto : 曲: A1, B1, B3)。

英語表記では「Hideo Shiraki Quintet + 3 Koto Girls」とある。フロント2管に、日野皓正のトランペット、村岡 建のテナー&フルート、リズム隊に、世良譲のピアノ、栗田八郎のベース、白木秀雄のドラム。この白木がリーダーのクインテットに、琴奏者が3人入った、オクテット編成。「琴」が前面的に入った、わが国のジャズ独特の、和楽器「琴」と洋楽器の融合、メインストリーム志向のクロスオーバー・ジャズである。
 

Sakura-sakura

 
琴を単なる「和の飾り」としてではなく、モダン・ジャズのアンサンブルに深く組み込んでいて、「琴」をジャズ楽器の一つとして扱ったアレンジは特筆に値する。: 琴の「間(ま)」を活かしつつ、4ビートの上で琴が即興演奏を繰り広げる展開は、当時のジャズ界でも類を見ない実験性を保っている。八城一夫による編曲が素晴らしい。良く書けている。フルートを尺八の代替として、似せた音色で吹くのもユニーク。

演奏の基本は「モード・ジャズ」。冒頭の「さくらさくら」を聴けば良く判る。琴のアルペジオから始まり、次第に熱を帯びるモーダルな展開。2曲目の「よさこい節」は、日本の土着的なリズムをジャズのグルーヴに上手く変換。4曲目の白木オリジナルの「祭りの幻想」は新アレンジ。日本の祭囃子のリズムとジャズの融合がユニーク。そして、5曲目「Alone, Alone and Alone」は日野のオリジナル曲。この曲では琴を省いた白木クインテットだけの演奏になる。

単なる和風ジャズの枠を超え、当時の世界のジャズシーンに対する「日本からの回答」とも言える歴史的一枚で、米国の日本贔屓のジャズ者には堪えられない内容ではないだろうか。和楽器を活用しているとはいえ、しっかりとジャズしているところは大いに評価しても良い。ただし、琴が参加する必然性については「疑問」に感じるのは否めない。そういう意味で、この盤は普遍的なジャズ盤では無く、企画盤であり実験作なんだろう。
 
 

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2026年4月30日 (木曜日)

ソウルフルなアンドリュー・ヒル

メロディーの断片、落ち着きなく変化する音階、濃密な多色和音、予測不能なリズム。自由度の限りなく高いモードからややフリー。突出した個性で、1960年代前半、遅れてきた鬼才ピアニストとして、記憶に残るピアニスト、アンドリュー・ヒル。そんな鬼才ピアニストが、1960年代終盤、ブルーノートの4300番台では、大変貌を遂げていく。

Andrew Hill『Lift Every Voice』(写真左)。1969年5月16日、Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ,での録音。ブルーノートの4330番。ちなみにパーソネルは、Andrew Hill (p), Woody Shaw (tp), Carlos Garnett (ts), Richard Davis (b), Freddie Waits (ds)。ここに、7人のボーカル&コーラスが入る。

ゴスペル風混声コーラスを導入した鬼才ピアニストのソウル・ジャズ&ジャズ・ファンク。それも、完璧に筋が通ったソウル・ジャズ&ジャズ・ファンクでは無い。ところどころ、我慢が出来なくなったのだろうか、ヒルのもともとのピアノの個性である、メロディーの断片、落ち着きなく変化する音階、濃密な多色和音、予測不能なリズム。自由度の限りなく高いモードからややフリーなピアノ、テナー、トランペットが出ては引っ込み、出ては引っ込む。

冒頭の「Hey Hey」で、ひっくり返る。アウト気味のテナーが出てきて、これは限りなくフリーなモーダルな展開かと思ったら、いきなり、ライトでゴスペルチックな混声コーラスが出てきてビックリ。これは、当時流行っていた「ライトなジャズ・ファンク」かと思ったら、またまたアウト気味のフリーキーなテナーが出てきて、モーダル&フリーなテナーを吹きまくり、そのうち、トランペットまで、同調したフレーズを吹きまくる。
 

Andrew-hilllift-every-voice

 
そして、ライトでゴスペルチックな混声コーラスがこれに絡む。バックで我関せずと、ヒルが、メロディーの断片、落ち着きなく変化する音階、濃密な多色和音、予測不能なリズム。自由度の限りなく高いモードからややフリーなピアノを悠然と弾きまくっていく。なんなんだ、この演奏は。

2曲目の「Lift Every Voice」に至って、これは従来のヒル・サウンドを踏襲したカルテット演奏、これは以前と変わらない、ヒル独特の「フリー、スピリチュアル、アバンギャルドなジャズ」を展開している。そこに、ライトでゴスペルチックな混声コーラスが絡んで、ソウル・ジャズ&ジャズ・ファンクな雰囲気を醸し出す、そんなアレンジの仕掛けになっているのが判る。

しかし、これなら、ライトでゴスペルチックな混声コーラスは要らないんじゃ無いか、とも思うんだが、録音年は1969年。ソウルフルな要素、ジャズ・ファンクな要素は、当時の大手ジャズ・レーベルからすると、必須の「サウンド要素」だっただろう。そうじゃないとアルバムが売れないと思い込んでいたフシがある。この盤だって、ライトでゴスペルチックな混声コーラスを当てることで、ソウル・ジャズ&ジャズ・ファンクな雰囲気を醸し出そうとしている。

しかし、メインストリームなジャズ、純ジャズ路線は不滅なんだから、ヒルのアルバムは、ヒルの個性のままで、制作〜リリースし続けても良かったのではないか。このライトでゴスペルチックな混声コーラスのお陰で、カルロス・ガーネットとテナー、ウッディ・ショウのトランペットの、アウト気味で限りなくフリーでモーダルな展開が心ゆくまで堪能出来ない。

このアルバム、しっかり聴くと、ヒルのカルテット演奏、ヒル独特の「フリー、スピリチュアル、アバンギャルドなジャズ」が素晴らしいだけに、このソウル・ジャズ&ジャズ・ファンクな雰囲気を醸し出そうとするアレンジが残念である。
 
 

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2026年4月27日 (月曜日)

懐かしの融合盤『Hiroshima』

フュージョン・ジャズには、さすが「フュージョン(融合)」というだけあて、ジャズを取り巻く、周辺の別の音楽ジャンルと融合したり、全く予想もしない楽器を使用したり、ジャズの適用力の高さを最大限に活かして、様々な「フュージョン(融合)」にチャレンジした。しかし、そのチャレンジは、決して、全てが成功した訳ではない。成功した方が少なかったのでは無いか。

『Hiroshima』(写真左)。1979年の作品。フュージョン・バンド「ヒロシマ」のセルフタイトル・デビューアルバム。ちなみにパーソネルは以下の通り。プロデューサーは、ザ・クルセイダーズのウェイン・ヘンダーソン。

Dane Matsumura, Dean Cortez (b), Pat Murphy(congas), Danny Yamamoto (ds, perc), Dan Kuramoto, Jess Acuna, Johnny Mori, Teri Kusumoto (perc), Richard "Arms" Mathews (key, syn), June Okida Kuramoto (koto), Dan Kuramoto (sax, fl, japanese-fl), Vince Charles (steel drums, timbales), Johnny Mor (taiko), Dan Kuramoto, Jess Acuna, Richard "Arms" Mathews, Teri Kusumoto (vo)。
 

Hiroshima  

 
このアルバムは、ジャズ、R&B、ラテンのリズムに、琴や太鼓といった日本の伝統楽器を融合させた独特のサウンドが特徴で、リリースから3ヶ月で10万枚以上を売り上げるヒットを記録した、フュージョン・ジャズ盤の秀作である。和洋折衷の美しいアンサンブルが個性で、この和洋折衷のアンサンブルによるフュージョン・ジャズは、この「Hiroshima」しか無い。

「琴や太鼓といった日本の伝統楽器を融合」と聴くと、そして、この盤のジャケットを見ると、米国での「日本志向」=オリエンタル志向の趣味の悪いキワモノ・フュージョンを想起しそうだが、この盤は、フュージョン・ジャズのど真ん中で、しっかりアレンジされ、しっかりジャズしていて、決してキワモノ盤ではない。事や太鼓をむやみに多用していないところも良い。

クロスオーバー・ジャズはジャズとロックの融合がメインだったが、フュージョン・ジャズは、様々な、一部は節操の無い融合もあったりして、玉石混交としていた。この『Hiroshima』は、琴、太鼓、笛、という和楽器をフュージョン・ジャズに持ち込んだ唯一の成功例。アレンジが優れていて、キワモノ・フュージョンを、ギリ回避している。
 
 

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2026年4月23日 (木曜日)

再ミントンハウスのクリスチャン

チャーリー・クリスチャンは1916年生まれ。ジャズ・ギターの開祖とされるレジェンド。1939年、ベニー・グッドマン楽団のメンバーに起用される。楽団で演奏活動を行う一方、ニューヨークで、次世代のジャズを担うであろうキーマン的ジャズマン達、ディジー・ガレスピー、セロニアス・モンクらと出会い、ジャム・セッションを重ねる。

Charlie Christian & Dizzy Gillespie『Jazz Immortal: After Hours Monroe's Harlem Mintons - Live』(写真左)。1941年5月、ハーレムにあるミントンズ・プレイハウスでのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Charley Christian (g), Dizzy Gillespie, Joe Guy (tp), Don Byas (ts), Kenny Kersey, Thelonious Monk (p), Nick Finton (b), Kenny Clarke (ds)。

1941年5月、ハーレムにあるミントンズ・プレイハウスで行われた「ビ・バップ誕生前夜」の必殺ライヴ音源。そんな、次世代のジャズを担うであろうキーマン的ジャズマン達と、ジャズ・ギターの開祖とされるレジェンド、チャーリー・クリスチャンとのジャム・セッションの記録である。録音したのは、アマチュアのジェリー・ニューマン。ダイレクト・カッティング方式の機械を持ち込んで収録したらしい。

2000年のリマスター音源を聴いているのだが、これが意外に良い。チャーリー・クリスチャンのギター・ソロもクリアーに録れていて、ガレスピーのトランペットや、ドン・バイアスのテナーのソロなど、躍動感の感じられる音で、なかなかに楽しめる。以前は、いかんせん、録音が悪いなあ、とヘビロテ盤とまではいかなかなったが、この音質であれば、ながら聴きにも十分耐える。
 

Charlie-christian-dizzy-gillespiejazz-im

 
チャ-リー・クリスチャンが、ジャズ界に残した功績は、それまでコード弾きでリズム楽器、若しくは伴奏楽器として、バッキング・オンリーだったギターという楽器を、脅威の一本弾きで、管楽器同様、フロント楽器として、ソロがとれる楽器へと進化させたこと。

そのフロント楽器としてのソロ・パフォーマンスがこのライヴ盤にしっかりと記録されていて、今の耳にも十分に訴求するテクニックの素晴らしさ、フレーズのユニークさである。このライヴ盤でのチャーリー・クリスチャンのギターを、現代のジャズ・シーンに持ち込んでも十分に通用する内容とテクニックの高さ。電光石火なクリスチャンの「カッ飛び」ソロは聴き応え十分。

ちなみに、このライヴ盤は、チャーリー・クリスチャンとディジー・ガレスピーとの双頭リーダー扱いになっているが、そもそも、チャーリー・クリスチャンは生涯、リーダー作を出していない。

わが国では、邦題「ミントンハウスのチャーリー・クリスチャン」でリリースされているのでややこしいのだが、収録全9曲中、5曲までチャーリー・クリスチャン入りのジャム・セッションの記録になる。その5曲「Swing to Bop」「Stompin' at the Savoy」「Up on Teddy's Hill」「Guy's Got to Go」「Lips Flips」のパフォーマンスで、チャーリー・クリスチャンの弾くギターの特徴がはっきりと判る。

2000年のリマスター音源では、ジャズ者初心者の方々にもお勧め出来る音質になっていて、チャーリー・クリスチャンの「ジャズ・ギターの開祖」とされる所以が良く判る。今までは、ジャズ者中堅の方々からジャズ者ベテランの方々向け、としていたが、音質が改善された音源については、ジャズ者初心者の方々に是非、聴いて欲しいレベルのライヴ盤に昇格している。
 
 
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2026年4月21日 (火曜日)

”Virtuoso” =名手, の再聴です

最近、音楽のサブスク・サイトでも、クラシック・ジャズ、特に、ハードバップの名盤・好盤のリマスターがどんどん出てきている。もうウハウハである(笑)。今も昔もリマスターされるアルバムは、いつの時代にも代表作とされる名盤・好盤が中心。絵に描いた名盤をリマスターというよりは、どこかマニアックで、ジャズ者の心の吟線に触れる様な好盤のリマスターが進んでいる。好ましい限りである。

Joe Pass『Virtuoso』(写真左)。1973年12月の録音。ちなみにパーソネルは、Joe Pass (g)のみ。ジャズ・ギタリストの重鎮、ジョー・パスのソロ・パフォーマンスを記録したアルバム。タイトルの「Virtuoso」=名手、の通り、ジョー・パスの超絶技巧なテクニックと、溢れんばかりの歌心、個性溢れるアドリブ・フレーズの数々を心ゆくまで楽しめる名盤である。

改めて、今回の「2023年リマスター」盤を聴いたのだが、もともと録音の良かった盤ではあるが、リマスターにより、ギターの音がさらに豊かになり、コード弾きの和音の倍音の拡がりが聴き取り易くなっている様に感じる。タイトルの「Virtuoso」=名手、が更に実感となって感じられる、そんなリマスター盤になっている。
 

Joe-passvirtuoso  

 
ギターのソロは、一番悩ましいのが、正確な揺るぎの無いリズム&ビートの維持。ピアノのソロの様に、左手でリズム&ビート、右手でフレーズを同時に弾くということはギターは出来ない。ストローク&コード弾きでリズム&ビート、そして、一本弾きもしくはオクターヴ奏法でフレーズ、と別々に弾くしかない。体内のリズム&ビートを感じながらの旋律弾きとなるんで、これはもう才能の域である。

冒頭の「Night And Day」は、この盤の魅力的な内容を誇るオープナーな1曲。パスの考えるギター・ソロパフォーマンスにおけるテクニック、表現方法の全てがこの曲に詰まっている、そんな感じの「パスのギターの全て」が凝縮された様な演奏。5曲目の「How High The Moon」の超絶技巧なテクニック、正確無比なタイム感覚、想像的なバップ・フレーズ。続く「Cherokee」も凄まじいテクニックの嵐。速い一本弾きのフレーズの弾き回しには胸の空く思い。

リマスター効果が良く出ている。音の鮮度が良くなった分、曲毎の演奏の展開、披露するテクニックについては、曲が進むにつれ「マンネリ化」することなく、十分な鮮度を保ったまま、ソロ・パスーマンスは粛々と進んでいく。ジャズが斜陽化しつつある時代に、このソロ・パフォーマンス。今一度、ジョー・パスを深掘りする必要がありそうだ。
 
 
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2026年4月 3日 (金曜日)

キースにおいて、最も”困った”盤

キース・ジャレットを、単に「ジャズ・ピアニスト」とだけ捉えたら「怪我をする」。クラシック・ピアニストの顔もあるし、『Restoration Ruin』『Spirits』そして『No End』という「実験音楽サークル」(ジャズでもクラシックでもない)=「困ったちゃんなアルバム」に属する作品もある。しかし、これらを体験し、しっかり内容理解しないと、キース・ジャレットというジャズ・レジェンドとして偉大な1人を理解することは出来ない。

キースの初リーダー録音『Life Between the Exit Signs(邦題:人生二つの扉)』は、キース独特のボイシングで、キース独特の節回しが楽しめる曲と、フリー・インプロビゼーションをベースとした曲、ピアノとベースとドラムが対等な対話形式の曲などが、ごった煮になって、ひとつのアルバムに入っている。ジャズという範疇でやりたいことをやった、そんな感じのアルバムだった。

そして、セカンド・アルバムである。最初に断っておくが、この盤は「ジャズではない」。しかし、当時のキースのやりたかった音楽のひとつだったと思う。だから作った。このアトランティック・レコードの英断を称えるとともに、このアルバムがあったからこそ、ジャズの世界の中で、ピアニストのレジェンドの最高峰に位置する1人になったと言える。

Keith Jarrett『Restoration Ruin』(写真左)。1968年3月12日の録音。ちなみにパーソネルは、Keith Jarrett (vo, g, harmonica, ss, recorder, p, org el-b, ds, tambourine, sistrum), Unidentified string quartet (tracks 1,3,5,9)。『Restoration Ruin』は、キース・ジャレットが複数の楽器(ピアノ、オルガン、ギター、ソプラノサックス、ハーモニカ、リコーダー、ベースギター、ドラム、タンバリン、シストラムなど)を演奏し、自作の歌詞を歌ったアルバム。
 

Keith-jarrettrestoration-ruin
 

ボーカルアルバムでありながら、キースはすべての楽器を演奏する。しかも、ジャズ・ボーカルなアルバムではない、フォーク・ロックなアルバムである。ボブ・ディランばりのイメージだが、いかんせん、はっきり言って「上手く無い」。特にボーカルは素人同然。アトランティックはよく、このアルバムをリリースした。まだまだ、キースが無名の時代だった頃の話だ。

楽器の演奏のレベルは及第点。でも、いかんせん、キャッチーなメロディーを持った楽曲が無い。フォーク・ソングとしては致命的な欠点。ボブ・ディランばりのフォーク・ロックなんて評価もよく目にするが、それはあまりに無責任な評価だろう。ボブ・ディランの足元にも及ばない。歌詞もちょっと和訳に挑戦してみたが、訳の判らないものばかり。

そもそも、このアルバムを、ジャズという音楽フィールドで評価するから無理があるし、的外れな賞賛に近い評価が散見されるのだ。はっきり言う。内容は良くない。フォーク・ロックとして評価しても及第点以下。この音源をアルバム化して世の中にリリースしたアトランティック・レコードの音に対する審美眼を疑わざるを得ない。

それでも、この盤は、である。キース・ジャレットという、ジャズ・ピアノのレジェンドの1人を評価するのには避けることの出来ない「大異色作」である。恐らく、当時、キースがやりたかった音楽の「大きな一つ」だったんだろう。だから、アルバム化を望んだ。そして、このアルバム以降、キースは、フォーク・ロックなアルバムを一切出していない。「やりたいこと」と「出来ること」がイコールで無いことを、このアルバムは証明している。
 
 

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2026年3月27日 (金曜日)

ショパン・カヴァー曲のベスト盤

基本は、クラシックとジャズの融合。ショパンの曲をジャズ化するというのだから大胆な、と思ったんだが、こうやって、ベスト・アルバムとして、人気ショパン・カバー曲を集めて、一気に聴き通してみると、ショパンの曲って、ワルツを含めて、ジャズ化にフィットしている感じが強くする。

European Jazz Trio『Best of Chopin』(写真左)。2010年、日本での企画編集。ちなみにパーソネルは、Marc van Roon (p), Frans van Geest (b), Roy Dackus (ds)。ショパン生誕200周年(2010年)を記念してリリースされた、ヨーロピアン・ジャズ・トリオ(EJT)の人気ショパン・カヴァー曲を集めたベスト・アルバムである。

ショパンの曲は、もちろん、ピアノ曲なんで、テーマ部を弾きこなすには、それなりの高いテクニックが要求される。しかし、そこは、欧州系ジャズ・ピアノ・トリオである。楽器担当は大多数が、何らかの形でクラシックを経験しているので、テクニックの高さは維持しているので、なかなかの弾きこなしになっていて、聴き応えがあるから安心だ。
 

European-jazz-triobest-of-chopin  

 
このEJTのショパン曲のカヴァーについては、どの曲もアレンジが秀逸。原曲のテーマ部の印象的な旋律を残しつつ、ジャズ化し、その曲のコード進行を借りて、アドリブ部に突入する。アドリブもショパン曲のフレーズのトーンを外すこと無く、テーマ部からアドリブ部に移行しても、演奏のトーンに違和感が生じないのは立派。

例えば、12曲目の「Prelude No.7 in A major (Op.28-7)〜プレリュード 第7番」は、出だしのフレーズを聴けば、ああ、これは「太田胃散」のCMのBGMだ(笑)と判るし、続く「CHANSON DE L'ADIEU」は、昔「101回目のプロポーズ」に良く出てきた(笑)「別れの曲」と直ぐに判る。が、どちらも、アドリブ部が秀逸。クラシック曲のジャズ・カヴァーとしては「大成功」の部類。全くのジャズのアドリブ展開である。

欧州ジャズの響きを色濃く反映し、クラシックとジャズの融合をスムーズに実現している。ピアノ・トリオ演奏としても、その内容は充実していて、ショパン曲のカヴァー集と知らずに聴いても、このトリオ演奏は秀逸。トリオが一体となった、典雅なバップ演奏はレベルが高い。MJTの個性をしっかり確認することが出来る、上質な「人気ショパン・カヴァー曲を集めたベスト盤」である。
 
 

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2026年3月23日 (月曜日)

デューク&ホッジスの不思議盤

Duke Ellington & Johnny Hodges『Side By Side』(写真左)。このアルバムは、ジャズ界の巨匠デューク・エリントンと、彼の楽団のスター・アルト・サックス奏者であるジョニー・ホッジスによる1959年発表の好盤。

パーソネルは、と言うと、この盤、ちょっと複雑な事情を抱えている。全9曲中、3曲だけが、デューク・エリントンがピアノを担当、残りは、ビリー・ストレイホーンがピアノを担当している。

ちなみに、1959年2月26日の録音分、1曲目「Stompy Jones」、2曲目「Squeeze Me」、4曲目「Going Up」のパーソネルは、Duke Ellington (p), Johnny Hodges (as), Harry "Sweets" Edison (tp), Les Spann (fl, g), Al Hall (b), Jo Jones (ds)。

その他の曲、1958年8月14日の録音分、3曲目「Big Shoe」、5曲目以降「Just a Memory」「Let's Fall in Love」「Ruint」「Bend One」「You Need to Rock」のパーソネルは、Johnny Hodges (as), Roy Eldridge (tp), Lawrence Brown (tb), Ben Webster (ts), Billy Strayhorn (p), Wendell Marshall (b), Jo Jones (ds)。

確かに、冒頭の「Stompy Jones」の出だしのピアノを聴けば、あ、これはデューク・エリントンかも、と思う。硬質でパーカッシヴなタッチ、バラードでの流麗でリリカルな弾き回し。独特なマイナーでブルージーな響き、そして、心地よく響き左手の低音。続く「Squeeze Me」も、あ、これは、エリントンだか、と思う。そこはかとなく、自己主張するエリントン。さすが、バンド・リーダーの面目躍如ではある。
 

Duke-ellington-johnny-hodgesside-by-side

 
しかし、である。3曲目の「Big Shoe」のピアノを聴くと、あれ、ちょっと違うぞ、と思う。エリントンにしては、優しく温和。フロントを徹底的に引き立てる「伴奏上手」。もう一人の主役、テナーのジョニー・ホッジスは、こちらの方が、のびのびとアルト・サックスを鳴らしているような印象を受ける。これは、5曲目「Just a Memory」以降は同じイメージ。このピアノは、ビリー・ストレイホーンである。

2回聞き直すと、その差が分かる。1曲目「Stompy Jones」、2曲目「Squeeze Me」、4曲目「Going Up」と、その他の曲での「ピアノの違い」。デューク・エリントンとビリー・ストレイホーン。

もう一人の主役、アルト・サックスのジョニー・ホッジスが、バックのピアノがエリントンだろうが、ストレイホーンだろうが、お構いなしに、絶好調のアルト・サックスを聴かせてくれるので、アルバム全体の統一感は辛うじて維持されている。オールド・スタイルではあるが、切れ味抜群、大らかな展開、印象的なラウド・ブロウ。ホッジスのアルト・サックスの良いところが、全編に渡って記録されている。

不思議なアルバムである。この盤は、ジョニー・ホッジスの単独名義で出すべきアルバムでは無かったか。客演のピアノに「デューク・エリントン」と「ビリー・ストレイホーン」を連名で置けば良かった様な気がする。

なぜ、ジョニー・ホッジスとデューク・エリントンの連名リーダーにしたのか。ヴァーヴ・レコードの総帥プロデューサー、ノーマン・グランツの売らんが為の策略だったのかもしれない。
 
 

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2026年3月21日 (土曜日)

1966年のマクリーン・その2

録音年月日、録音場所を見ると、昨日、当ブログでご紹介した『Dr. Jackle』と同一日、同一場所のライヴ音源になる。記録を見てみると、『Dr. Jackle』の収録曲からの流れで、この『Tune Up』の収録曲になっているみたい。記録によると、1966年12月18日、米国ボルチモアのジャズ・ソシエティ「Left Bank」でのライヴ音源は全11曲。そのうち、前半5曲が『Dr. Jackle』に、後半6曲が『Tune Up』に収録されている。

Jackie McLean『Tune Up』(写真左)。1966年12月18日、米国ボルチモアのジャズ・ソシエティ「Left Bank」でのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、SteepleChase Recordsから1979年のリリース。ちなみにパーソネルは、Jackie McLean (as), LaMont Johnson (p), Scotty Holt (b), Billy Higgins (ds)。

つまり、『Dr. Jackle』と、この『Tune Up』を併せて、1966年のジャキー・マクリーンのライヴ・パフォーマンスが体験出来るということ。こちらのパフォーマンスも、マクリーン流のモード・ジャズをガンガンに展開している。限りなくフリーに近いが、しっかりと秩序と統制がとれたモード。マクリーンの考える「限りなくフリーに近いモード」。マクリーンのオリジナルである。
 

Jackie-mcleantune-up

 
雰囲気的には、エリック・ドルフィーのパフォーマンスに類似性がある。ドルフィーは、フレーズが、セロニアス・モンクのピアノの様に「飛んだり跳ねたり」するが、マクリーンは流麗。しかし、二人とも、それぞれなりに「人が吹かないフレーズ」を吹きまくる。決して「フリー」ではない。あくまで、秩序があり、統制がとれた、クールで熱い吹奏である。

バックのリズム・セクションが、オーネットのバンド・メンバーというのも興味深い。オーネットのバンド・メンバーを借りてきているのであれば、オーネット流のフリーな吹奏を踏襲するのでは、と思いきや、マクリーンはそうなならない。あくまで、マクリーン流の「限りなくフリーに近いが、しっかりと秩序と統制がとれたモード」なフレーズを吹きまくる。

こういうところに、マクリーンの矜持を感じる。決して、人後に落ちない、あくまで、その時代その時代のジャズの演奏トレンドをいち早く押さえつつ、オリジナルな自分の個性的な吹奏を追求する。進化するアルト・サックス奏者、マクリーンの面目躍如的なライヴ・パフォーマンスがこの盤にも記録されている。録音が少し悪いが気にならない。マクリーンのパフォーマンスが圧倒的である。
 
 

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