ゼロ戦『アスファルト』を語る
フュージョン・ジャズ時代、そのアルバムの成り立ちが変わっている例として、高中正義『オン・ギター』をご紹介した(2024年10月10日 のブログ記事・左をクリック)。この『オン・ギター』は、ギター教則本の付属レコードとして発表されたものだった。
ゼロ戦『アスファルト』(写真左)。1976年の作品。ちなみにパーソネルは、大谷和夫 (key), 長岡道夫 (b), 鈴木正夫 (ds), 佐野光利 (g), 菜花敦 (perc) 花野裕子 (vo)。バンド名が「ゼロ戦」。ユニークなバンド名なので、今でも記憶にある。なんせ、この「ゼロ戦」というバンド、そもそもが、オーディオ・システム・チェック・レコード向けに組まれた特殊プロジェクトである。
帯紙のキャッチが「録音、演奏技術の粋を集めた音高質を誇るアルバムついに完成 !!」。アルバムの頭に「オーディオ・コンポ・チェック・シリーズ」とある。そう、このアルバム、「いしだかつのり」を中心としたプロジェクト「ゼロ戦」の '76オーディオ・コンポ・チェック・レコード第一弾である。
この「ゼロ戦」のファースト盤は、友人が持っていた。「オーディオ・コンポ・チェック・シリーズ」だから。お前に貸すから、自前のオーディオ・システムをチェックしろ、と言う。学生時代、貧乏だったので、必要最低限のシステム・コンポだったが、この盤をかけてみたら良い音がした。そのまま、レコードを返すのは惜しいので、上等なカセットにダビングして返した。よって、この盤、フュージョン全盛期にリアルタイムで聴いている。
オーディオ・システムのチェック用のアルバムとはいえ、内容は一級品。今回、CDで初めて復刻されたが、復刻のきっかけが「いわゆるクラブDJたちによって再評価が進んだ、レア・グルーヴ系フュージョン作品」の一部だったこと。確かに、この盤の音は、1976年当時に流行っていた、クロスオーバー&フュージョンとはちょっと違う、グルーヴ感豊かな、後のレア・グルーヴ志向の音をしていたように思う。
曲の冒頭から、タイトなドラム・ブレイク炸裂のジャズ・ファンク「サーキット」、叩きまくるドラム、ブンブン・ベースのラインが格好良いジャズ・ファンク「"スクランブル」、ミッド・テンポが心地よいフュージョン・チューン「スパニッシュ・フライ」、オーディオ・チェック用であろう、中盤のパーカッション・ブレイクが爽快な「ハンド・スラップ」、途中リズムがラテン調に変わる変則ラテン・フュージョンの「ペーパー・ドライバー」などなど。
サウンド的に、当時の和クロスオーバー&フュージョンとは一線を画した、ソフト&メロウとは全く無縁の、グルーヴ感溢れる強烈なサウンド。オーディオ・チェック用であろう、タイトで強靭なリズム&ビートが飛んだり跳ねたりのジャズ・ファンクがメインの音作りだが、ファンクネスが希薄な、乾いた切れ味の良いオフビートが、いかにも「和フュージョン」らしい。
「オーディオ・コンポ・チェック・レコード」ではあるが、単体のアルバムとして、十分に評価できる「和フュージョン」の好盤です。2017年にCDリイシューされた時はビックリしました。そして、今では、音楽のサブスク・サイトにも音源アップされているみたいで、良い時代になったもんです(笑)。
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