2024年10月15日 (火曜日)

ゼロ戦『アスファルト』を語る

フュージョン・ジャズ時代、そのアルバムの成り立ちが変わっている例として、高中正義『オン・ギター』をご紹介した(2024年10月10日 のブログ記事・左をクリック)。この『オン・ギター』は、ギター教則本の付属レコードとして発表されたものだった。

ゼロ戦『アスファルト』(写真左)。1976年の作品。ちなみにパーソネルは、大谷和夫 (key), 長岡道夫 (b), 鈴木正夫 (ds), 佐野光利 (g), 菜花敦 (perc) 花野裕子 (vo)。バンド名が「ゼロ戦」。ユニークなバンド名なので、今でも記憶にある。なんせ、この「ゼロ戦」というバンド、そもそもが、オーディオ・システム・チェック・レコード向けに組まれた特殊プロジェクトである。

帯紙のキャッチが「録音、演奏技術の粋を集めた音高質を誇るアルバムついに完成 !!」。アルバムの頭に「オーディオ・コンポ・チェック・シリーズ」とある。そう、このアルバム、「いしだかつのり」を中心としたプロジェクト「ゼロ戦」の '76オーディオ・コンポ・チェック・レコード第一弾である。

この「ゼロ戦」のファースト盤は、友人が持っていた。「オーディオ・コンポ・チェック・シリーズ」だから。お前に貸すから、自前のオーディオ・システムをチェックしろ、と言う。学生時代、貧乏だったので、必要最低限のシステム・コンポだったが、この盤をかけてみたら良い音がした。そのまま、レコードを返すのは惜しいので、上等なカセットにダビングして返した。よって、この盤、フュージョン全盛期にリアルタイムで聴いている。
 

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オーディオ・システムのチェック用のアルバムとはいえ、内容は一級品。今回、CDで初めて復刻されたが、復刻のきっかけが「いわゆるクラブDJたちによって再評価が進んだ、レア・グルーヴ系フュージョン作品」の一部だったこと。確かに、この盤の音は、1976年当時に流行っていた、クロスオーバー&フュージョンとはちょっと違う、グルーヴ感豊かな、後のレア・グルーヴ志向の音をしていたように思う。

曲の冒頭から、タイトなドラム・ブレイク炸裂のジャズ・ファンク「サーキット」、叩きまくるドラム、ブンブン・ベースのラインが格好良いジャズ・ファンク「"スクランブル」、ミッド・テンポが心地よいフュージョン・チューン「スパニッシュ・フライ」、オーディオ・チェック用であろう、中盤のパーカッション・ブレイクが爽快な「ハンド・スラップ」、途中リズムがラテン調に変わる変則ラテン・フュージョンの「ペーパー・ドライバー」などなど。

サウンド的に、当時の和クロスオーバー&フュージョンとは一線を画した、ソフト&メロウとは全く無縁の、グルーヴ感溢れる強烈なサウンド。オーディオ・チェック用であろう、タイトで強靭なリズム&ビートが飛んだり跳ねたりのジャズ・ファンクがメインの音作りだが、ファンクネスが希薄な、乾いた切れ味の良いオフビートが、いかにも「和フュージョン」らしい。

「オーディオ・コンポ・チェック・レコード」ではあるが、単体のアルバムとして、十分に評価できる「和フュージョン」の好盤です。2017年にCDリイシューされた時はビックリしました。そして、今では、音楽のサブスク・サイトにも音源アップされているみたいで、良い時代になったもんです(笑)。
 
 

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2024年9月22日 (日曜日)

『Live Under the Sky ’83』

伝説的ジャズ・フェスティヴァル「ライヴ・アンダー・ザ・スカイ」の1983年でのライヴ・パフォーマンスの記録。ソニー・ロリンズのピアノレス、ギター入りカルテットの演奏で、ギターにパット・メセニーが参加。アルフォンソ・ジョンソンがエレベで、ドラムにポリリズムの名手、デジョネットが参入。

Sonny Rollins『Live Under the Sky '83』(写真左)。1983年7月31日、東京・読売ランド「Open Theatre East」でのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Sonny Rollins (ts), Pat Metheny (g, g-synth), Alphonso Johnson (el-b), Jack DeJohnette (ds)。

冒頭の22分の長尺演奏「Jack in the Box」の始まりから、聴衆は大盛り上がりのノリノリ状態。これが、1983年の日本のジャズの野外ライヴでのノリである。日本人もこの頃になると、野外ライヴで盛り上がり、ノリノリになっていて、このロリンズのライヴも、会場のとても良い雰囲気でのライヴ・パフォーマンスになっている。

ロリンズは吹きまくる。野外ライヴは「お祭り」。豪快にノリノリでシンプルに吹きまくる。これがロリンズの真骨頂。コードやモードなど、フリーやスピリチュアルなど関係なく、モダン・ジャズのテナーを吹きまくる。当時、ロリンズは53歳。天才ロリンズの心身共に充実した中堅の時代。「お祭り」向きに、豪快なテナーを吹きまくる。
 

Sonny-rollinslive-under-the-sky-83

 
バックの3人も、そんなロリンズに追従する。アルフォンソはエレベをブンブン言わせつつ、ファンキーなベースラインをこれでもか、と供給し、パット・メセニーは、いつになく、エモーショナルな「バップ」なギターを弾きまくる。ドラムのデジョネットに至っては、もうポリリズミックなドラムを叩きまくり、である。

続く「Coconut Bread」は、疾走感溢れるカリプソ・ナンバー。ロリンズお得意の陽気なカリプソ・ナンバー。これはもう演奏メンバーも皆、ノリノリ。特に、メセニーがギターシンセを熱くエモーショナルに弾きまくっている。こんなに熱いバップ・フレーズを弾きまくるメセニーは珍しい。会場のとても良い雰囲気が、メセニーにそんな熱いギター・シンセを弾かせたのだろう。

ラストは「Moritat (aka. Mack the Knife)」は、ジャズフェスならではの大サービス。あのロリンズの大名盤「サキソフォン・コロッサス」の中の有名曲。しかし、この「Moritat」では、お祭り仕様では無く、コンテンポラリーな純ジャズ仕様の、ガッツリ硬派なメインストリームな演奏を展開する。

メセニーのエレギはコンテンポラリーな創造性豊かなフレーズを聴かせてくれるし、デジネットのドラミングはポリリズムの極致。アルフォンソのエレベは硬派で正統派なソロ・パフォーマンスを聴かせてくれる。ロリンズはといえば....、あくまでマイペースのロリンズ節の連発(笑)。

もともとはブートレグの音源なので、音質はやや劣るが、鑑賞に耐える範囲にとどまっている。そんな音質を云々するよりは、このライヴ音源の演奏の熱気、会場の熱気の記録が素晴らしい。
 
 

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2024年8月 7日 (水曜日)

ビル・オコンネルの初ライヴ盤

ビル・オコンネルは、1953年8月、NY生まれのジャズピアニスト。ラテン・ジャズやハードバップとの関わりが最も深い。教育者でもあり、ニュージャージー州ラトガース大学ニューブランズウィックキャンパスのメイソングロス芸術学校でジャズピアノを教えている。リーダー作については寡作。1970年代に1枚、1980年代に1枚、1990年代に3枚。21世紀に入ってからは、2015年以降、やや頻繁に、1〜2年に1枚に割合でリーダー作を出している。

Bill O’Connell Quartet & Quintet『Live in Montauk』(写真左)。2021年8月15日、NYモントークの「Gosman's Dock」でのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Bill O’Connell (p), Craig Handy (ts), Santi Debriano (b), Billy Hart (ds), スペシャル・ゲストとして、Randy Brecker (tp、tracks 1 & 7)。オコンネルの長い活動期間の中で、初めてのバンド・ライヴ盤。

ハンプトンズ・ジャズ・フェストでのセッションがライヴ音源として収録されている。リーダーのオコンネルのピアノ、テナー・サックス担当のクレイグ・ハンディ、ベーシストのサンティ・デブリアーノ、ドラムのビリー・ハートがメインとなるカルテット編成。1曲目の「Do Nothing till You Hear from Me」と、7曲目の「Tip Toes」だけ、ファンキー・トランペットのレジェンド、ランディ・ブレッカーが客演している。
 

Bill-oconnell-quartet-quintetlive-in-mon

 
スタイルを塗り替えたり、何か、ジャズのライヴの歴史になるような「派手な何か」があるライヴ盤ではないのだが、端正で切れ味の良いネオ・ハードバップな演奏が魅力。硬派な4ビート曲あり、ゆったりしたファンキー・ジャズな演奏あり、バンドの実力の高さが窺い知れる。躍動感もあり、スピード感も十分、整った内容のネオ・ハードバップな演奏が心地良い。

オコンネルのピアノは「総合力勝負」のピアノ。端正で適度にファンキー、破綻無くタッチは深く、少し速めのフレーズで指がよく回る。他にありそうでない、ネオ・バップな、オコンネル独特の弾き回し。ファンキー&ラテンなフレーズが魅力のオコンネルのピアノはなかなか聴き心地が良い。リーダー作は寡作のピアニストではあるが、オコンネルのピアノは一級品。聴き応え十分である。

テナーのハンディ、ゲスト・トランペットのランディのフロント2管は、躍動感溢れる、バップな吹き回しが見事。リズム隊のデブリアーノのベース、ハートのドラムも堅実で柔軟。オコンネルのピアノは、そんなフロントとリズム隊をサポートし鼓舞、ソロのフレーズは「総合力勝負」なピアノで、硬派にファンキーに、余裕の響きで弾き回す。良いネオ・ハードバップなライヴ盤。意外とヘビロテ盤。朝に昼に夜に、どんなシチュエーションにもマッチする万能なネオ・ハードバップ盤。好盤です。
 
 




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2024年7月 5日 (金曜日)

米国ジャズでの「ジョンアバ」

ジョン・アバークロンビー(John Abercrombie、以降「ジョンアバ」と略)。基本、ECMレーベルのハウス・ギタリスト的位置付け。欧州ジャズらしい、彼しか出せない叙情的なサスティーン・サウンドが、とにかく気持ち良い。特に、ECMレーベルでの、ECM独特の深いエコーに乗ったジョンアバのギターシンセには、聴くたびに惚れ惚れである。

John Abercrombie『Route Two』(写真左)。1981年の作品。Landslideレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、John Abercrombie (g), Gary Cambell (sax), Jeremy Steig (fl), Dan Wall (org), Joe Chambers, David Earle Johnson (ds)。ECMを離れての、米国録音でのジョンアバのギターが聴ける。

ECMのハウス・ギタリストのジョンアバと、オルガン奏者のダン・ウォール、ドラムのデヴィッド・アール・ジョンソンによるトリオの1981年作品。

ジェレミー・スタイグのフルート、ゲイリー・キャンベルのサックスが客演、ドラムのジョー・チェンバースがサポートで入っている(ジョンソンがパーカッションを担当する時、チェンバースがドラムを代役しているようだ)。
 

John-abercrombieroute-two

 
1981年の録音なので、当時大流行のフュージョン・ジャズな内容かと思いきや、さにあらず。クロスオーバー寄り4ビートのオルガン・ジャズから16ビートのジャズ・ファンクまで、当時の米国東海岸のコンテンポラリー・ジャズが展開される。意外とメインストリーム志向、クールでホットな演奏内容にしばし感心する。

ジョンアバのギターは、サスティーンは効いてはいるものの、エレギの弾きっぷりは「流麗なバップ」。ちょっとくすんで伸びのある音で、バップなフレーズやモーダルなフレーズを流麗に飄々と弾きまくる。ECMの録音の時の様に、耽美的にリリカルに展開したり、音の広がりと伸びを活かした、知的で内省的な展開したりすることは全く無い。ジョンアバは米国NY出身のジャズ・ギタリストであることを再認識する。

米国東海岸のコンテンポラリー・ジャズに興じるジョンアバのエレギも十分にイケる。ジョンアバのジャズ・ギターの基本は他の例に漏れず、バップなギターが基本。

ジョンアバのテクニックと表現力が卓越しているが故、録音時のレーベルの音の傾向やプロデューサーの音志向に関する要望に的確に応えることが出来る、ということを再認識する。一流ジャズマンについては、その音志向は基本的にバリエーションが豊かである。
 
 

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2024年6月12日 (水曜日)

チックの異色盤『Septet』です

僕は「チック者」である。チックを初めて聴いたのが、1970年代半ばだったから、2021年2月9日に逝去するまで、かれこれ既に半世紀、チックをずっとリアルタイムで聴き続けてきたことになる。

よって、チックのリーダー作については、当ブログで全てについて記事にしようと思っている。現時点で、あと十数枚、記事にしていないアルバムがある。今日は、その中の「異色作」について語ろうと思う。

Chick Corea『Septet』(写真左)。1984年10月、L.A.の「Mad Hatter Studios」での録音。ECMレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Chick Corea (p), Steve Kujala (fl), Peter Gordon (french horn), Ida Kavafian, Theodore Arm (violin), Steven Tenenbom (viola), Fred Sherry (cello)。

チックのピアノ、クジャラのフルート、ゴードンのフレンチ・ホルンに加えて、弦楽四重奏が入った七重奏団=「Septet」。ECMレーベルらしいコンセプト盤だが、この盤のプロデューサーは、ECMの総帥マンフレート・アイヒャーでは無く、チック・コリア自身。録音スタジオは、チックの「マッド・ハッター・スタジオ」。

アルバムのコンセプトはECMの理念に沿う、しかし、その音作りはチック自身に任せる。アイヒャーとしては思い切ったことをした。
 

Chick-coreaseptet

 
しかし、この盤に詰まっている音は、明らかに「ECMミュージック」であり、アイヒャーイズムの音作りである。逆に、チックの自己プロデュース能力の高さを再認識する。

さて、その内容であるが、弦楽四重奏が入っているので、雰囲気は明らかにクラシック。しかし、それぞれの曲には、チック独特のフレーズ、チックらしい硬質でメロディアスなタッチが随所に聴くことが出来て、伝統的なクラシックの七重奏という雰囲気では無い。

とにかく、チックのピアノが映えに映えていて、この盤の七重奏は、チックのソロ・ピアノに、フルートとフレンチ・ホルンと弦楽四重奏がクラシックなバッキングをすることにより、よりチックのソロ・ピアノが引き立つ、そんな感じの音作り。クラシック風ではあるが、純粋なクラシックでは無い。

チックの個性を反映した、チックの優れた「作曲&編曲」の才能の成果がこの『Septet』。クラシック寄りの即興のピアノ・ソロに一捻り加えた、チックの考える「ECMミュージック」がこの盤に詰まっている。

ECMレーベルだからこそ成し得た、チックの考える「ECMミュージック」。アイヒャーの期待に応えたチックの「作曲&編曲」の才能。一期一会、唯一無二な音世界。チック者にとっては、外すことの出来ない「異色盤」です。
 
 

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2024年2月19日 (月曜日)

Jazz Lab と The Cecil Taylor 4

ドナルド・バードのリーダー作の落穂拾い、当ブログで「未記事化」のアルバムをピックアップしていて、不思議なアルバムに再会した。ハードバップど真ん中とフリー・ジャズの先駆け、2つの全く志向の異なる演奏スタイルのユニットの不思議なカップリング。どういう感覚で、こういうカップリング盤を生み出したのやら。

The Gigi Gryce-Donald Byrd ”Jazz Laboratory” & The Cecil Taylor Quartet『At Newport』(写真)。1957年7月5–6日、ニューポート・ジャズフェスでのライヴ録音。

パーソネルは、以下の通り。1〜3曲目が「The Cecil Taylor Quartet」で、Cecil Taylor (p), Steve Lacy (ss), Buell Neidlinger (b), Denis Charles (ds)。 4〜6曲目が「Jazz Laboratory」で、Donald Byrd (tp), Gigi Gryce (as), Hank Jones (p), Wendell Marshall (b), Osie Johnson (ds)。

このライヴ盤は20年ほど前に初めて聴いたのだが、前半1〜3曲目の「セシル・テイラー・カルテット」のフリー・ジャズの先駆け的な、反ハードバップ的なちょっとフリーな演奏の「毒気」にやられて、後半の「ジャズ・ラボ」の純ハードバップな演奏もそこそこに、このライヴ盤は我が家の「お蔵入り」と相なった。
 

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が、今の耳で聴き直すと、まずこの「セシル・テイラー・カルテット」が面白い。テイラーのピアノが、硬質でスクエアに高速スイングするセロニアス・モンクっぽくて、意外と聴き易い。レイシーのソプラノ・サックスは、テイラーのピアノのフレーズをモチーフにした、擬似モーダルなフレーズっぽくて、これも意外と聴き易い。反ハードバップな、ちょっとアブストラクトな演奏だが、整っていて、しっかりジャズしている。意外と聴ける。

逆に初めて聴いた時にはしっかり聴かなかったジジ・グライスとドナルド・バードの「ジャズ・ラボ」の演奏だが、これは、このライヴ盤の前、ジャズ・ラボのデビュー盤『Jazz Lab』(2024年2月18日のブログ参照)の内容、ライヴなので、スタジオ録音よりも演奏はアグレッシヴ。演奏レベルと寸分違わない、それまでにない響きとフレーズの「新鮮なハードバップ」が展開されている。

フリーの先駆け的な、反ハードバップで、ちょっとアブストラクトな「The Cecil Taylor 4」。それまでにない響きとフレーズが新鮮なハードバップの「Jazz Lab」。当時はどちらも新しいジャズの響きだったのだろう。

今回、改めて聴いてみると、当時の先進的なハードバップの好例として、この2つのユニットの演奏は違和感無く聴ける。今回も、ジャズ盤って、時を経ての聴き直しって必要やな、と改めて感じた。
 
 

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2024年1月15日 (月曜日)

中間派の名演『Walking Down』

トロンボーンのホンワカした丸いフレーズと力感のある低音のブリリアントな響きが好きだ。ビ・バップからハードバップ畑には、J.J.ジョンソン、カーティス・フラーらがいる。また、スイング・ジャズからハードバップ手前まで進化した「中間派」には、ベニー・グリーンがいる。

特に、中間派のベニー・グリーンについては、ホンワカしたトロンボーンならではの音色とスイング・スタイルを踏襲した伝統的なフレーズと味のあるブルージーなプレイが独特の個性。そんな個性をしっかりと表出しつつ、ハードバップには無い、小粋で味のあるスインギーなフレーズを吹きまくる。この朴訥としたスインギーなトロンボーンがとても素敵なのだ。

Bennie Green『Walking Down』(写真左)。1956年6月29日の録音。ちなみにパーソネルは、Bennie Green (tb), Eric Dixon (ts), Lloyd Mayers (p), Sonny Wellesley (b), Bill English (ds)。ベニー・グリーンのトロンボーンとエリック・ディクソンのテナーがフロント2管のクイテット編成。
 
ブルーノートでのリーダー作が好盤のベニー・グリーンだが、プレスティッジにも良い内容のリーダー作を残している。この盤はそんな中の一枚。この盤は、中間派のベニー・グリーンのトロンボーンとエリック・ディクソンのテナーを心ゆくまで愛でることの出来る好盤である。
 

Bennie-greenwalking-down

 
ベニー・グリーンのトロンボーンは、味のあるホンワカ、ほのぼのとして暖かく優しいフレーズが個性なのだが、この盤では、意外にダンディズム溢れる硬派で切れ味の良いトロンボーンを聴かせてくれる。しかし、そのフレーズはハードバップっぽくない。スイングっぽく、ハードバップ一歩手前、いわゆる「中間派」のフレーズ。

ベイシー楽団のエリック・ディクソンがテナーを担当しているが、このディクソンのテナーがとても良い。思う存分、テナーを吹きまくっている様で、彼のテナーはダンディズム溢れ硬派で切れ味の良いテナー。このディクソンのテナーに呼応して、ベニー・グリーンのトロンボーンが、ダンディズム溢れる硬派で切れ味の良いトロンボーンに変身している様なのだ。

と言って、ダンディズム溢れる硬派で切れ味の良いベニー・グリーンのトロンボーンが悪い訳で無い。要所要所では、持ち味の「ホンワカしたトロンボーンならではの音色とスイング・スタイルを踏襲した伝統的なフレーズと味のあるブルージーなプレイ」をしっかり散りばめ、表現の幅を広げている。

リズム隊は無名に近いが、意外と良い音を出している。スイングでもハードバップでも無い、その間の「中間派」のブルージーで小粋なフレーズの数々。ビ・バップでもハードバップでも無い「中間派」の名演。これもジャズ、である。
 
 

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2024年1月 9日 (火曜日)

八代亜紀『夜のアルバム』再聴

演歌の代表的女性歌手・八代亜紀さんが昨年12月30日に逝去していたとの報道が流れた。なんてことだ。

八代亜紀さんは、1973年に「なみだ恋」のヒットででメジャーに。その後「愛の終着駅」「もう一度逢いたい」「おんな港町」「舟唄」など数々のヒット曲をリリース、1980年には「雨の慕情」で第22回日本レコード大賞の大賞を受賞している。とにかく歌が上手い。声量、テクニック、申し分なく、演歌がメインでありながら、心を揺さぶられる様な情感溢れる歌声は、ジャンルを超えて、僕は好きだった。

情報によると、八代亜紀さんは若い頃、ジャズ・ボーカルもやっていた、とのこと。昔取った杵柄のひとつの「ジャズ・ボーカル」を、還暦過ぎて、もう一度やってみようじゃないの、というノリだったのだろうか、ジャズ・ボーカルの企画盤を2枚、リリースしている。

当ブログでも、以前、八代亜紀さんのジャズ・ボーカル盤についての記事をアップしている。が、2013年3月のことで、すでに10年以上が経過している。今回、以前のブログ記事に加筆修正を加えたリニューアル記事をアップして、八代亜紀さんの逝去を悼みたいと思います。

八代亜紀『夜のアルバム』(写真左)。2012年のリリース。ちなみにパーソネルは、八代亜紀 (vo), 有泉一 (ds), 河上修 (b), 香取良彦 (p, vib), 田辺充邦 (g), 岡淳 (as, ts) がメインのバンド編成。八代亜紀のボーカルに、サックス、ギター入りのクインテットがバックに控える。

加えて、曲ごとにゲストが入る。ゲストについては、渡辺等 (b) <3>, 布川俊樹 (g) <5>, 田ノ岡三郎 (accordion) <6>, 松島啓之 (tp) <8>, 山木秀夫 (ds) <9>, 江草啓太 (p), 織田祐亮 (tp), 藤田淳之介 (as), 石川善男 (fh) <12>, 木村 "キムチ" 誠 (perc) <4,7,9>, CHIKA STRINGS (strings) <4,9>。

演歌の女王、八代亜紀さんがジャズ・ボーカルに挑戦した企画盤がこの『夜のアルバム』。その内容はなかなかのもの。さすが、若い頃、ジャズ・ボーカルにも手を染めていただけはある、堂々とした歌いっぷり。もともと、歌が素晴らしく上手い歌手である。とにかく上手い。情感を込めて、きめ細やかに、隅々にまで心配りをしながら、魅力的なジャズ・ボーカルを披露してくれる。
 

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2曲目の「クライ・ミー・ア・リヴァー」や、5曲目の「サマータイム」、ラストの「虹の彼方に」の、英語の歌詞での歌いっぷりを聴くと、これが素晴らしい出来で、もう「参りました」と謝ってしまいそうな位、素晴らしい歌唱。完璧なジャズ・ボーカル。味わいも豊か、情感がこもっていて、それはそれは素晴らしい。

それぞれが大スタンダード曲で、何百人何千人というボーカリストが唄った、いわゆる「手垢が付いた」曲で、独特の個性を出しつつ唄いこなすには難しい曲ばかりなんだが、演歌出身など関係なく、今までに無い独特の個性を発揮しつつ、完璧にこれらの大スタンダード曲を朗々と唄い上げている。

逆に、このアルバムには、日本語の歌詞のボーカル曲が幾つかある。冒頭のジャズ・スタンダード曲「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」は、途中で日本語の歌詞に変わる。ちょっとズッこけるが、これは「ご愛嬌」。

リリィの「私は泣いています」、松尾和子の「再会」、伊吹二郎の「ただそれだけのこと」のカヴァーであるが、純ジャズ風のアレンジに乗って、魅力的なボーカルで唄い上げていく。ただ、出来映えは素晴らしいのだが、日本の歌謡曲のカヴァー故、ジャズ・ボーカルというよりは、ジャズ風のムード演歌風に聴こえる。ジャズ・スタンダード曲と混在させると、ちょっと「浮いて」聴こえるのが「残念」。

これならば、日本語の歌詞のボーカル曲なんか織り交ぜずに、完全に英語歌詞のジャズのスタンダード曲で勝負すれば良かったのに、と思ってしまうのは僕だけだろうか。完全に英語歌詞のジャズのスタンダード曲だけで勝負して欲しかったなあ。なんせ、ジャズ・ボーカル歌手専門として、十分やっていける位、英語の歌詞での歌いっぷり、どの曲も本格的で素晴らしいんですから。

良い内容のジャズ・ボーカル盤。八代亜紀さんのジャズ・ボーカリストとしてのポテンシャルが並外れたものであることは良く理解出来る。日本の女性ジャズ・ボーカル盤の優秀盤です。
 
 

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 ★ AORの風に吹かれて 

  ・『AirPlay』(ロマンチック) 1980

 ★ まだまだロックキッズ    【New】 2024.01.07 更新

    ・米国西海岸ロックの雄、イーグルス・メンバーのソロ盤。

 ★ 松和の「青春のかけら達」

  ・四人囃子の『Golden Picnics
 

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2023年6月30日 (金曜日)

クラシック・オケとジャズロック

ECMレコードのアルバムがお気に入り。ジャズを本格的に聴き始めた1970年代後半、ニュー・ジャズ&欧州ジャズの担い手として、我が国でもECMブームが沸き起こっていた。

といっても、ECMのアルバムについては、明らかに「好き嫌い」が分かれる。米国ジャズ、特に東海岸ジャズが絶対とする「東海岸ジャズ者」の方々からは「ECMはジャズでは無い」と毛嫌いされていた。まあ、大凡、硬派なジャズ喫茶ではECMのレコードをリクエストするのには相当な勇気がいった。米国が本場のジャズについては、米国ジャズが絶対で、欧州ジャズはジャズでは無い、とされていた。

しかし、である。僕はECMレコードのアルバムがお気に入り。もともとクラシック音楽もいろいろ聴いていて、クラシック音楽の雰囲気が漂う、端正な欧州ジャズについては違和感が無い。ロックではプログレ小僧だったので、ニュー・ジャズの類については、プログレっぽくて違和感を感じない。そういうところから、ECMレコードのアルバムに違和感が無く、良いものは良い、の精神で、ECMのアルバムについては、延々と50年弱、聴き続けていることになる。

そんなECMのアルバムをカタログ番号順に聴き始めて、早5年。ECM1001〜1100番までの「ECM1000番台」のアルバムについては、明らかに現代音楽な内容のアルバムを除いて、ほぼ聴き終えた。ほぼ、というのは、3枚ほど入手出来ないでいたアルバムがあった。が最近、やっとのことで音源を確保することが出来た。あと3枚、しっかりと聴いた。3枚とも初聴きである。

Gary Burton Quartet『Seven Songs for Quartet and Chamber Orchestra』(写真左)。1973年12月、ハンブルグでの録音。ECMの1040番。ちなみにパーソネルは、Gary Burton (vib), Mick Goodrick (g), Steve Swallow (b), Ted Seibs (ds), NDR Symphony Orchestra conducted by Michael Gibbs。
 

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当時のゲイリー・バートンのカルテットに、NDRのオーケストラがバックに就く布陣。クラシック・オーケストラの演奏を伴奏に、ゲイリー・バートンのヴァイブをメインとするジャズ・カルテットの演奏が展開される、如何にもニュー・ジャズっぽい、クラシックにも精通するECMレーベルのアルバムらしい内容。

クラシック・オーケストラの伴奏も、なかなかのもので、ありがちな米国ジャズの取って付けたような、チープなクラシック・オーケストラでは決して無い。オーケストラだけでも十分に聴ける。

そんな充実したクラシック・オケをバックに、まずは、ゲイリー・バートンのヴァイブがソロで乱舞する。バートンのヴァイブは、いかにもECMのニュー・ジャズっぽい雰囲気満載。バックのオケの伴奏に乗って、映えに映える。良い雰囲気、いかにも欧州ジャズ。

曲が進むにつれて、バートンのソロから、バートンのカルテットの演奏に展開していく。これがなかなかのもので、当時のバートン・カルテットの個性である、アーシーでジャズロック風のフレーズ、ゴスペルっぽい米国ルーツ・ミュージック風のフレーズが漂ってきて、クラシックな雰囲気が強かった出だしからすると、一気にニュー・ジャズっぽい、バートンお得意のアーシーなジャズロック風のフレーズが実に格好良い。

欧州っぽいクラシック・オケと米国ルーツ・ミュージックとジャズロックの融合音楽。いかにもECMらしい取り合わせ。聴く前は、クラシック・オケをバックにしたバートン・カルテットってなあ、と敬遠気味だったのだが、聴いてみると意外と良い。やはり「聴かず嫌い」は良く無いなあ、と改めて思った次第。意外性のあるECM好盤です。
 
 

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2023年6月 5日 (月曜日)

欧州ジャズのスコフィールド

ジョン・スコフィールド(以降、略して「ジョンスコ」)は、流麗に捻れて、流麗でデコボコ・ゴツゴツな、素敵にアップダウンするフレーズが個性。どう聴いても、クロスオーバー〜フュージョン・ジャズのエレギでは無い。確実に、メインストリーム志向の純ジャズに向いたエレギである。

Solal, Konitz, Scofield, Ørsted-Pedersen『Four Keys』(写真)。1979年5月8日の録音。独の名門ジャズ・レーベルMPSからのリリース。ちなみにパーソネルは、Martial Solal (p), Lee Konitz (as), John Scofield (el-g), Niels-Henning Ørsted Pedersen (b)。仏の重鎮ジャズ・ピアニスト、マーシャル・ソラールが、実質リーダーの、ドラムレス・カルテット編成。

ダイナミックで躍動感のある華麗な演奏が味わえる、欧州的な素敵なジャズ・ピアノのマーシャル・ソラール。クールで切れ味の良い、力感溢れる流麗アルト・サックスのリー・コニッツ。NHØPとしても知られる、硬派で正統派なデンマークのベーシストのニールス=ヘニング・エルステッド・ペデルセン。そして、流麗に捻れて、流麗でデコボコ・ゴツゴツな、素敵にアップダウンするエレギのジョン・スコフィールド。
 

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ピアノのソラールとベースのペデルセンが欧州、コニッツのアルト・サックスとジョンスコのエレギが米国。まず、米国のジャズ・レーベルでは見ることが出来ないであろう、ユニークな面子での、しかも、ドラムをオミットした、ドラムレスのカルテット。ドラムをオミットして、相当に自由度の高い、モーダルな即興演奏が展開されて見事。

徹頭徹尾、アーティスティックでストイックな純ジャズ志向。クールで静的に「熱気溢れる」インタープレイが展開されている。それも、それぞれが無勝手に展開するのではなく、ソラールのピアノが演奏全体をしっかりコントロールし、それに従って、演奏の「底」のリズム&ビートをペデルセンが供給、そんなリズム隊をバックに、コニッツのアルト・サックスとジョンスコのエレギが存分にアドリブ・パフォーマンスを披露している。

演奏全体を包む雰囲気は、確実に「欧州ジャズ」。聴衆の嗜好に合わせたコマーシャルな雰囲気は皆無。米国ではフュージョン・ジャズの全盛期に、こってこて「アーティスティックでストイックな純ジャズ」が展開される。緩んだところ、拠れたところは全く無し。演奏全体の心地良いテンションの下、創造的な即興演奏が見事。好盤です。
 
 

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