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2026年8月 3日 (月曜日)

アビー・グリーンのCTI好盤です

当時はアビー・グリーンとは何者かも知らなかった。ただただ、印象的なジャケと収録曲、そして、CTIレーベルのアルバムというだけで、購入したアルバムだったが、聴いてみて、意外と「当たり」だったのを今でも覚えている。

Urbie Green with Grover Washington, Jr. and the David Matthews Big Band『Señor Blues』(写真左)。1977年6月の録音。CTIの7079番。ちなみにパーソネルは、下記の通り。当時ベテランのジャズ・トロンボーン奏者アービー・グリーンのリーダー作。グローバー・ワシントン・ジュニアとデイヴィッド・マシューズ・ビッグバンドとの共演がフィーチャーされている。

Urbie Green (tb), Grover Washington, Jr. (ts, ss), David Matthews (el-p, arr), John Scofield (el-g), Harvie Swartz (b), Jim Madison (ds), Sue Evans (perc) 以下はブラス・セクションで、Burt Collins, Joe Shepley (tp, flh), Sam Burtis (tb), Tony Price (tuba), Fred Griffin (French horn), Frank Vicari (ts), David Tofani (ss, fl), Kenny Berger (bs, b-cl)。

マシューズによる、優れたダイナミックなアレンジのもと、アービー・グリーンの円熟したトロンボーン・サウンドに加え、ワシントン・ジュニアの熱いサックス・ソロや、当時新進気鋭だったギタリストのジョン・スコフィールドらのプレイが耳を引く、大編成の迫力とクロスオーバーならではの疾走感・ファンク感が絶妙にマッチした演奏内容。リーダーのアビー・グリーンのトロンボーンは、美しい音色と印象的なテクニックを披露していて、なかなか聴き応えがある。
 

Urbie-greensenor-blues

 
冒頭の「Captain Marvel」は、チック作の疾走感あふれるジャズ・フュージョンの名曲カヴァー。続く「You Are So Beautiful」は、ジョー・コッカーの歌唱が印象的だった、メロウで美しいバラード。グリーンのエモーショナルなトロンボーンが光る。3曲目「Ysabel's Table Dance」は、ミンガス作『Tijuana Moods』収録曲のカヴァー。エキゾチックなグルーヴが心地良い。

4曲目「Señor Blues」はシルヴァーのファンキー・ジャズの名曲。ワシントンJr,のサックスが炸裂する。5曲目「I'm In You」はピーター・フランプトンのロックのヒット曲のカヴァー。ファンキーなフュージョン・ジャズへ見事にアレンジ。そして、ラストの「I Wish」は、スティーヴィー・ワンダーの名曲。ファンキーで迫力あるカヴァー。

このミツバチの大写しのジャケットと、ジャズ・スタンダードだけでなく、ロック、ソウル、ポップスなどのヒット曲を積極的に取り上げてカヴァーした、ちょっと節操の無い収録曲に引かれて、手にしたCTI盤である。

しかし、今の耳で聴き直してみると、クロスオーバー&フュージョンの好盤というよりは、当時のメインストリーム志向のコンテンポラリー・ジャズとして、なかなか硬派でジャズな内容に、思わず聴き耳を立ててしまった。好盤です。
 
 

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2026年7月30日 (木曜日)

4管フロントのユニークな好盤

よくまあ、こんな4管フロントのセプテットを考えついたものだと思う。4管フロントなので、4管のユニゾン&ハーモニーやテーマ部のアレンジや、アドリブ・ソロの順番など、単純に即興演奏がメインのインタープレイとは全く違う悩ましさがある。特に、4管フロントのアンサンブルのアレンジが絶対に鍵を握る。でないと聴けたもんじゃ無い。

Jon Eardley『The Jon Eardley Seven』(写真左)。1956年1月13日の録音。プレスティッジの7033番。ちなみにパーソネルは、Jon Eardley (tp), Milt Gold (tb), Phil Woods (as), Zoot Sims (ts), George Syran (p), Teddy Kotick (b), Nick Stabulas (ds)。珍しいフロント4管のセプテット編成(7人編成)。

リズム隊のメンバーは上に他では見かけない名前ばかり。しかし、個性は薄いが上手くて、このアルバムのフロント4管のバックで、良好なリズム&ビートを供給して、リズム隊の任をしっかり果たしている。

アルバム全体に、軽快で爽快、それでいて綿密で小粋な「ジャズを聴かせる」雰囲気が漂っている。リーダーのジョン・アードレイとテナーのズート・シムズは、ジェリー・マリガン・セクステットのレギュラー・メンバーとして活動していたという背景もあってだろう、西海岸風クール・ジャズの質感をしっかり受け継いでいる。これが、このアルバムに独特の雰囲気を与えている。
 

On-eardleythe-jon-eardley-seven

 
冒頭の「Leap Year」。ピアニストのジョージ・サイランが書き下ろした軽快なナンバー。4管アンサンブルが印象に残る哀愁系ハードバップ。4管による調和の取れた爽やかなテーマから、各人の流れるようなソロへと引き継がれる展開。厚みがありつつ、端正で品の良い爽やかな西海岸ジャズ風のアレンジと、小粋でしなやかなスイング感が実に良い。

フロント4管に、白人アルトの名手ウッズや、味のあるテナーのズートが参加しているところが注目ポイント。リーダーのアードレイのトランペットも奥ゆかしくも端正で良好。ゴールドのトロンボーンは、中低音域をカバーして、高音域のアードレイや、鋭く突き抜けるウッズを下から包み込むように支えるクッションの役割を果たしている。

つまりは、フロント4管それぞれの力量豊かな吹奏とアンサンブル、そして、それを支える考え抜かれたアレンジがこの盤の優れたところ。

西海岸ジャズ的な軽快で爽快でお洒落な「聴かせる」アレンジと、東海岸ジャズ的な力強いハードバップなアンサンブルが効果的にミックスした、ユニークな内容の好盤である。
 
 

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2026年7月26日 (日曜日)

弦と鉄琴のポップ・ファンク

後期オールド・ブルーノートの看板アーティストの一人として、モーダルで前衛的なアプローチ、いわゆる新主流派ジャズを牽引してきたが、1970年代に入ると、コンテンポラリーなニュー・ジャズを模索、しっかりとした成果を上げたにも拘わらず、レーベル全体の商業的方針の転換もあり、よりキャッチーなソウル・ジャズやクロスオーバー路線への転身を図る。それの最初の成果がこのアルバムである。

Bobby Hutcherson『Natural Illusions』(写真左)。1972年3月2–3日の録音。ちなみにパーソネルは、Bobby Hutcherson (vib), Hank Jones (p), Gene Bertoncini (g), George Duvivier, Ron Carter (b), Jack DeJohnette (ds), Phil Bodner, Hubert Laws, Romeo Penque, Daniel Trimboli (fl), George Marge (oboe), John Leone (bassoon), Eugene Bianco (harp), Irving Spice, Aaron Rosand (vln), Julian Barber, Seymour Berman (viola), Seymour Barab (cello)。

今までの新主流派の最先端を行く、限りなくモーダルな自由度の高いジャズ、そして、それを発展させた、コンテンポラリーなニュー・ジャズを展開してきたボビー・ハッチャーソンが、いきなり、壮大でメロウなストリングスやフルートなどを大胆にフィーチャーした、ポップで聴きやすいイージー・リスニング〜ジャズ・ファンク路線へとシフトした異色作。音の雰囲気は、まるで当時の「CTIサウンド」である(笑)。
 

Bobby-hutchersonnatural-illusions

 
このアルバムの最大の特徴は、成功したかどうかは良く判らないが、ジャズ・ヴィブラフォンと豪華なストリングス(弦楽オーケストラ)、さらにはフルートやオーボエ、ファゴットといった木管楽器を大胆に融合させた点にある。サウンド的には、変則編成のオーケストラをバックにしたフュージョン(融合)・ジャズの趣きである。制作志向としては、当時のCTIレーベルのサウンドに酷似しているが、オーケストラのアレンジが旧来然としていて、垢抜けないフュージョン・ジャズに陥っているところが惜しい。

冒頭「When You're Near」は、耽美的なヴァイブとピアノが美しく響く、スローな純ジャズ志向な演奏なのだが、2曲目の「The Thrill Is Gone」から、ストリングスが優美に拡がり、流麗なヴィブラフォンのメロディが美しく響く、本作の方向性を決定づける演奏に度肝を抜かれる。しかし、4曲目「Rain Every Thursday」は、そのストリングスをバックに、ビートの効いたイージーリスニングなジャズ・ファンクが展開されてビックリする。しかし、直ぐにポップで聴きやすいイージー・リスニング志向に戻る。

当時のアルバム評としては、あまりに商業的、音楽はしばしばありきたりに聞こえる、と劣悪な評価が並ぶ。1980〜90年代以降のクラブ・ジャズやレア・グルーヴシーンにおいて再評価されはするが、純粋にモダン・ジャズのアルバム内容としては、あまり良い評価は下せない。演奏はハイレベルなのだが、いかんせん、アレンジとプロデュースが古すぎる。そこが、CTIレーベルとの差として現れた。このアルバム以降、ブルーノートは急速に勢いを失い、1970年代末に新規録音が途絶えて一時休眠状態となる。
 
 

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2026年7月25日 (土曜日)

プレスティッジの ”中間派”盤

いわゆる「中間派」のサウンドである。「中間派」とは、スイング・ジャズとモダン・ジャズ(ビ・バップ)の間に位置する、わが国独自のジャズ音楽用語である。音楽性としては、激しいバップの難解さを避け、「スイング・ジャズ」のジャジーなスイング感とブルージー感を全面に押し出した、小粋で親しみ易いジャズの演奏スタイル。ハードバップ基調でありながら、スイング感が強調されている演奏スタイルとも言える。

Bennie Green『Blows His Horn』(写真左)。1955年6月10日、9月22日の録音。Prestigeの7052番。ちなみにパーソネルは、Bennie Green (tb, vo), Charlie Rouse (ts), Cliff Smalls (p), Paul Chambers (b), Osie Johnson (ds), Candido Camero (conga :tracks 1–4)。1955年6月10日の録音だけ、キャンディドのコンガが入る、トロンボーンのベニー・グリーンがリーダーで、チャーリー・ラウズとフロント2管のクインテット編成。

録音当時は、ビ・バップでのトロンボーンを牽引したJ.J.ジョンソンの影響が強いジャズ・トロンボーンの世界の中で、ベニー・グリーンのトロンボーンは、スインギーで余裕のあるブルース感覚が豊かな、いわゆる「中間派」のトロンボーン。チャーリー・ラウズのテナーとのフロント2管で、哀愁感溢れるファンキーなパフォーマンスを聴かせてくれる。
 

Bennie-greenblows-his-horn  

 
前半セッション(1955年6月10日録音 / トラック1〜4)は、ラテン調の軽快なリズムや、独特のエキゾチックなスウィング感が加わったキャッチーな演奏がメイン。キャンディドのコンガの参加が効いている。ベニー・グリーンの大らかで陽気なトロンボーンがコンガのリズムに良く乗っている。太くマイルドなトロンボーンの音色で吹き上げるバラードも絶品。トロンボーンのディープな低音と柔らかな中音域を駆使して唄い上げるソロも魅力的。

後半セッション(1955年9月22日録音 / トラック5〜9)は、純粋なクインテット(5人編成)によるストレートなハードバップ・ブルースを展開している。でもフレーズの取り回しはあくまで「中間派」。それでもスピード感溢れ、切れ味の良い演奏続きで、中間派侮り難し、である。この後半のセッションでは、力強い推進力のあるベースが目立つが、これは若き日のポール・チェンバースである。ベニー・グリーンのミュート・プレイも味わい深い。

このアルバムは、ベニー・グリーンのプレスティッジ・レコードにおける12インチLPとしての第1作目であり、「中間派」のユーモラスで温かみのあるスウィング感とモダンジャズの融合が好要素として反映された好盤です。こういう「中間派」のリーダー作を押さえていたなんて、プレスティッジもなかなか「侮り難し」である。
 
 

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2026年7月24日 (金曜日)

CTIビッグバンドの傑作盤です。

CTI Recordsの創設者であるクリード・テイラーによるプロデュース作。当時最先端だったシンセサイザーの未来的な響きと、大編成の生ブラス/ストリングスが見事に融合した、1970年代後半の「クロスオーバー/フュージョン」志向のビッグバンド・サウンドの傑作である。CTIレーベルらしいサウンド・カラーが芳しい。

David Matthews『Dune』(写真左)。1977年6月の録音。CTIの5005番。邦題「砂の惑星」。ピアニスト/アレンジゃー、デヴィッド・マシューズのアルバム。ちなみにパーソネルは以下の通り。パーソネルをつぶさに見渡すと、当時のクロスオーバー&フュージョン・ジャズ畑で活躍していた、名うてのジャズマンたちが勢揃い。錚々たるメンバー構成。

David Matthews (key, arr), Cliff Carter (syn), David Sanborn (as), Grover Washington, Jr.(ss,ts), Lew Del Gatto (oboe, cl), Dave Tofani (fl, piccolo), Hiram Bullock, Eric Gale (g), Randy Brecker, Jon Faddis, Lew Soloff, John Gatchell, Burt Collins, Jim Bossy, Joe Shepley (tp, flh), Wayne Andre, Tom "Bones" Malone, Sam Burtis, Gerald Chamberlain, Dave Taylor (tb), Mark Egan, Gary King (b), Steve Gadd, Andy Newmark (ds), Sue Evans, Gordon Gottlieb (perc), Googie Coppola (vo)。

フランク・ハーバートのSF小説『デューン 砂の惑星』の世界観をモチーフにして制作された「企画盤」。アナログ盤のA面(トラック1〜4)は、小説のキャラクターや舞台をテーマにした組曲風の構成。

Part I: Arrakis:
砂の惑星「アザキス(アラキス)」をテーマにした楽曲。
Part II: Sandworms:
砂漠に生息する巨大な砂虫を表現した、本作屈指の名曲。
Part III: Song Of The Bene Gesserit:
謎の女性結社「ベネ・ゲセリット」をイメージした曲。
Part IV: Muad'Dib:
主人公ポール・アトレイデスの称号「ムアディブ」の名を冠した曲。
 

David-matthewsdune

 
B面(トラック5〜8)は、映画『スター・ウォーズ』のメインテーマや、デヴィッド・ボウイの「Space Oddity」といったSFに関連する映画音楽やポップスのカバーで構成されている。

Space Oddity:
ボウイの名曲を女性ボーカルをフィーチャーしてカバー。
Silent Running:
1972年のSF映画『サイレント・ランニング』のテーマ。
Princess Leia's Theme:
スター・ウォーズの「レイア姫のテーマ」のカバー。
Main Theme From Star Wars:
ドラムブレイクから始まるディスコ調ジャズ・カバー。

振り返ると、なかなかの内容の組曲であり、当時の映画音楽かのカヴァーで締められていて、マシューズのアレンジの才能が溢れんばかり。クロスオーバー&フュージョン志向のビッグバンドの演奏としても、かなり充実した内容になっている。それも、そのはずで、参加ミュージシャンがふるっている。しかし、この当時のクロスオーバー&フュージョン・ジャズ畑で活躍していた、名うてのジャズマンたちを統率し、合同演奏にフィットさせたマシューズの指揮も素晴らしい。

特にB面(トラック5〜8)については、ディスコ・ファンクとクロスオーバーの融合、スティーヴ・ガッドらによる「極上のドラム・ブレイク」、先進的なシンセサイザーの導入が特徴的で、クロスオーバー&フュージョン志向のジャズ・ファンクとしても、その出来は秀逸。

このアルバムは当時「曰く付き」で、「砂の惑星」の原作者のフランク・ハーバートから正規の許諾を取らずに『Dune』の名称と世界観を使ってリリースした為、のちに著作権侵害の訴訟が勃発。これによりアルバムは回収、一時期は廃盤(プレス禁止)状態になったそう。その影響か、今でも、音楽のサブスク・サイトでは聴くことができないようだ(YouTubeで、フルアルバム、聴くことができるみたい)。
 
 

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2026年7月23日 (木曜日)

BN4400番台のエルヴィン

ブルーノートの4400番台は、BNLAシリーズへの移行前(1972年リリース)、4413番から4423番までの11枚と、Modern Jazz New 4400シリーズ(1984年〜1986年リリース)の、4424番から4435番の12枚。まず、ここで押さえるべきは、1972年リリースの4413番から4423番までの11枚。オールド・ブルーノートの最後の姿。ジャズ・ファンクとフュージョンの時代への適応です。

Elvin Jones『Merry-Go-Round』(写真左)。1971年2月12日と12月16日の録音。ブルーノートの4414番。ちなみにパーソネルは、下記の通り。ドラマーでリーダーのエルヴィン・ジョーンズが、当時の若手精鋭ミュージシャンを大挙、招聘して、ポスト・バップ〜初期フュージョン・サウンドを展開したアルバム。

Elvin Jones (ds), Joe Farrell (ss (2, 6, 8), ts (1), fl (4), piccolo (7)), Steve Grossman (ss (2, 7), ts (1, 6)), Dave Liebman (ts (1, 6, 8), ss (2, 6, 7)), Frank Foster (alto-cl (8)), Pepper Adams (bs (6, 7)), Chick Corea (p (4–6), el-p (5)), Jan Hammer (el-p (1, 5), p (2, 3), glockenspiel (7)), Yoshiaki Masuo (g (1, 4)), Gene Perla (b (2–5), el-b (1, 6, 7)), Don Alias (congas (1, 3, 5, 6), oriental bells (2))。
 

Elvin-jonesmerrygoround  
 

録音日は2日に渡っているが、1971年2月12日の録音は、8曲目の「Who's Afraid...」のみ。その他の演奏は、全て、1971年12月16日の録音になる。録音日毎に、ポスト・バップ志向と初期フュージョン志向と演奏が分かれている訳では無い。なので、アルバムの内容評価としては、主に、1971年12月16日録音の7曲に着目することになる。

アルバムの内容としては、ポスト・バップな演奏、2曲目「Brite Piece」3曲目「Lungs」8曲目「Who's Afraid」と、後のフュージョン・ジャズの音要素を含んだ、1曲目「Round Town」、4曲目「A Time for Love」、5曲目「Tergiversation」、6曲目「La Fiesta」、が混在した、ちょっと拡散した内容。そこに、音遊び風の7曲目「The Children's Merry-Go-Round March」が入るので、かなりエルヴィンの趣味性に偏った演奏集に感じる。

チック・コリアの大名曲「La Fiesta」の初録音、チック自身のバンド「リターン・トゥ・フォーエヴァー」の名盤(ECM)に吹き込まれる2か月前の演奏が入っていたり、渡米間もない増尾好秋の流麗なギターソロが大きくフィーチャーされていたり(「Round Town」)、リーブマンとグロスマンという、新進気鋭のテナーまんの競演があったり(「Brite Piece」)で、話題には事欠かない内容なので、好盤というよりは「人気盤」の位置づけのアルバムだろう。
 
 

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2026年7月20日 (月曜日)

AEOCの”Great Black Music”

ECMレコード・カタログの1100〜1200番台のカタログを見ていて、アート・アンサンブル・オブ・シカゴのアルバムが、ECMレコードのもとで4枚もリリースしていることに気がついた。

今から語るアルバムは、アート・アンサンブル・オブ・シカゴ(AEOC)が、5年間のレコーディング活動休止を経てリリースした最初のアルバムであり、ECMレーベルからのグループ初のアルバムである。

Art Ensemble of Chicago『Nice Guys』(写真左)。1978年5月、独の「Tonstudio」での録音。ECMの1126番。ちなみにパーソネルは、Lester Bowie (tp, celeste, b-ds), Joseph Jarman (sax, cl, perc, vo), Roscoe Mitchell (sax, cl, fl, perc), Malachi Favors Maghostut (b, perc, melodica), Famoudou Don Moye (ds, perc, vo)。

シカゴ派フリージャズの伝説的グループであるアート・アンサンブル・オブ・シカゴ(Art Ensemble of Chicago=AEOC)の、ECMレーベルでの初のアルバム。活動休止以降、5年振りのアルバムであり、グループにとって大きな転換点となったアルバムでもある。

1960年代後半から、アフリカの民族音楽や演劇的な要素を取り入れたアヴァンギャルドな即興演奏で知られていた彼らが、プロデューサーのマンフレート・アイヒャー率いるECMとタッグを組んだ作品。

ECMレコードのアルバム制作方針と録音手法により、従来の荒々しいフリー・ジャズとは一線を画す、整理されたエレガントな空間構成と緻密なアンサンブルがメインのフリー・ジャズに変身しているのが判る。
 

Art-ensemble-of-chicagonice-guys

 
5人のメンバーそれぞれが作曲を手掛け、ユーモア、アブストラクト、叙情性など多彩な世界観が1枚に凝縮されている。彼らの特徴は、サックスやベースといった通常のジャズ楽器に加え、「リトル・インストゥルメンツ(おもちゃの楽器)」と呼ばれる無数の小楽器を使用することです。これが、他のフリー・ジャズな演奏との大きな差異化要素のひとつになっている。

この盤でのAEOCのフリー・ジャズの特徴は、従来の一般的なフリー・ジャズの、エモーショナルなエネルギーの爆発や、高密度で激しい即興演奏では無く、音と音の間のスペースを重視した、静寂と空間を聴かせるフリー・ジャズであるということ。この「音の引き算の美学」は、従来のフリー・ジャズの熱量とは対極にある、現代音楽に近い緻密な空間構成を持っている。これが、AEOCならではの、唯一無二のフリー・ジャズになっている。

加えて、多くのフリー・ジャズが政治的メッセージや精神性を帯び、シリアスで難解な方向へ進む中、AEOCは演劇的なユーモアを前面に出している。

1曲目の「Ja」が象徴的で、フリー・ジャズの不穏な空気から突如として、当時最先端のポップスであった「レゲエ」のリズムへとジャンプする。リトル・インストゥルメンツを鳴らし、コミカルな歌声を即興の中に融合するスタイルは、シリアス一辺倒だったフリー・ジャズにおいて極めて異質であり、ポップかつ批評的な新しさを持っている。

そういうAEOCのフリー・ジャズは、自らの音楽をフリージャズという枠に留めず、「古代から未来へ(Ancient to the Future)」を掲げた「Great Black Music」と呼んでいる。R&B、レゲエ、ゴスペル、ファンクなど、黒人音楽の歴史すべてを内包したアプローチが、本作でより洗練された形で提示されている。欧州系フリー・ジャズの名盤です。
 
 

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2026年7月18日 (土曜日)

クリス・ポッターの異色の企画盤

1859年にアメリカで起きた「ハーパーズ・フェリー襲撃事件」と、その中心人物である奴隷制度廃止運動家 John Brown(ジョン・ブラウン)の物語にインスパイアされている。アメリカの核心にある矛盾や暴力、理想、そして現代にも通じる未解決の緊張感をテーマに描いた、コンセプチュアルで社会派な作品。歴史的にジャズが得意とする一作品ジャンルである。

Chris Potter『Alive with Ghosts Today』(写真左)。2025年3月24〜26日、NYでの録音。2026年5月にリリース。ちなみにパーソンネルは、Chris Potter (ts, ss), Bill Frisell (g), Rane Moore (cl), Zekkereya El-magharbel (tb), Sara Caswell (vln), Burniss Travis (b), Nate Smith (ds)。「限られた楽器編成ながらも深い個性を持つ 小さな町のバンド」のような響きを目指し、独自の変則的なアンサンブルを編成している。

本作はブルースやフォーク、現代音楽を想起させる和声、力強いリズム&ビートが交錯する、泥臭くも美しい「米国ルーツ・ミュージック」を彷彿とさせる、スピリチュアルなサウンドが特徴。19世紀のアメリカ奴隷解放の歴史、不屈の精神、そしてアメリカの「ルーツ」が、ジャズの即興演奏を通じて、より立体的に浮かび上がる仕掛けになっている。
 

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アルバムの核となる楽曲群はクリス・ポッターのオリジナル作曲だが、曲の終盤の展開や一部フレーズには「John Coltrane / Traditional: 『Song of the Underground Railroad(地下鉄道の歌)』の要素、「Antonin Dvořák: 交響曲第9番『新世界より』第2楽章の『Going Home(家路)」を一部抜粋・引用しているのが特徴。アレンジに相当な力を入れているのが判る。

奴隷制度廃止運動家、ジョン・ブラウンの足跡を追うように、アルバムは厳かに展開していく。フロント陣に通常の管楽器セクションに加え、ヴァイオリン、クラリネット、トロンボーンを配した変則的なアンサンブルと、現代ジャズ界の最高峰であるリズムセクションの対話が見事。特に、リーダーのポッターのエモーショナルなサックスの咆哮と抑制された吹奏は、嫌が応にも、スピリチュアルな響きを増幅させている。

古き良きアメリカの「小さな田舎町のバンド」のような素朴で生々しい響きとゆったりしたテンポの演奏は、現代の「コンテンポラリーなスピリチュアル・ジャズ」な響きを湛えていて、実に個性的な内容になっている。演奏の響きは、ブルースやフォークの「泥臭さ」をあえて残した、エモーショナルで力強いトーンで、米国ルーツ・ミュージック志向の音世界を展開している。異色の企画盤。ジャズとして優れた内容だと僕は思う。
 
 

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2026年7月16日 (木曜日)

ECMのスピリチュアル・ジャズ

英国の現代ジャズ・トリオであるAzimuth(アジマス)。ブラジルの有名なクロスオーバー/フュージョン・バンド「Azymuth(アジムス)」とは異なる(気を付けたい)。本作の「アジマス」はイギリスの即興音楽や現代ジャズにおける重要人物たちによって結成された室内楽的ジャズ・トリオである。

Azimuth『The Touchstone』(写真左)。1978年6月、オスロの「Talent Studio」での録音。ECMの1130番。ちなみにパーソネルは、John Taylor (p, org), Kenny Wheeler (tp, flh), Norma Winstone (vo)。トランペット奏者のケニー・ウィーラー、ボーカリストのノーマ・ウィンストン、ピアニストのジョン・テイラーで構成された変則トリオ編成。とことんECMのサウンド・イメージを踏襲したスピリチュアル・ジャズ。

テイラーによるミニマルで催眠的なパルス・パターンやリリカルなピアノの旋律が演奏全体をリードしながら、ウィンストーンの楽器の一部として溶け込むような美しいヴォイス・パフォーマンスと、ホイーラーの哀愁を帯びたトランペットの音色とが、独創的かつスピリチュアルな絡み合いで、フレーズを紡ぎ上げていく。そこに、ECMらしい透明感のある、深いエコーの音響空間の中で、静謐ながらも緊張感に満ちた独自の即興演奏が展開される。
 

Azimuththe-touchstone  

 
実にユニークな即興演奏の世界。ECMレコードでしか為し得ない、欧州的で現代音楽志向な、ECMならではのスピリチュアル・ジャズの音世界。ウィンストンのボイス&ボーカルが効いている。これが明らかな差異化要素。歌詞を歌うだけでなく、自身の声を楽器のように扱う「ヴォイス」という即興表現が唯一無二である。このボーカルが、このあるアルバムの浮遊感&静謐感の中で、幽玄にスピリチュアルに響く。ボーカルを一つの楽器として扱う。見事である。

全曲の作曲をピアニストのジョン・テイラーが担当。現代音楽家スティーヴ・ライヒからの影響を強く感じさせる、ミニマルなピアノの反復パターンが催眠的であり、叙情的であり、ジャズで言うビートとグルーヴを提供している。このテイラーのピアノが、即興演奏ジャズの要となるリズム&ビートをしっかりと恐々している。そして、そこに、哀愁を帯びたホイーラーのホーンと、歌詞を持たないウィンストンの幽玄なヴォイスがレイヤリングされていくのが最大の特徴である。

アジマスの個性である「催眠的なミニマリズムと静謐な抒情性」が最大限に発揮されたアルバム。その変則的な楽器編成とスピリチュアルな音世界から、従来のジャズの枠に収まらない、ECMらしい「ニュー・ジャズ」として捉えられていたが、アンビエントやニューエイジ、チルアウト・ミュージックの先駆としての評価も高まっている。とにかく、とてもECMらしい音世界であり、スピリチュアルなジャズ世界である。
 
 

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2026年7月15日 (水曜日)

ワールド・ミュージック系即興盤

コドナ(Codona)は、アメリカのシタール・タブラ奏者であるコリン・ウォルコット、ジャズ・トランペット奏者のドン・チェリー、ブラジルのパーカッション奏者のナナ・ヴァスコンセロスの3人がメンバー。

ジャズ、インド古典音楽、ブラジル音楽、アフリカの伝統音楽など、世界中のあらゆるルーツ・ミュージックを融合させた「ワールド・ミュージック」の先駆的な存在である。グループ名は、3人の名前(Collin, Don, Naná)の頭文字を組み合わせて名付けられた、とのこと。

Collin Walcott,  Don Cherry, Naná Vasconcelos『Codona』(写真左)。1978年9月、独の「Tonstudio」での録音。ECMの1132番。 ちなみにパーソネルは、グループ名「Codona」で、Collin Walcott (sitar, tabla, hammered dulcimer, kalimba, vo), Don Cherry (tp, wood-fl, doussn' gouni, vo), Naná Vasconcelos (perc, cuica, berimbau, vo)。1978年に結成された、伝説的なワールド・ミュージック/フリー・ジャズ・トリオのファースト・アルバム。

全編を聴き通して思うのは、何だか「日本の雅楽」に良く似ているフレーズがガンガンに出てくる、ということ。透明感あふれる詩的なアンサンブルと、独自のスピリチュアルな音響空間が個性なのだが、とにかく「日本の雅楽」を想起するフレーズが印象的。ドン・チェリーのフルートや木管楽器: 雅楽で宇宙や空間を切り裂くように鳴り響く「龍笛(りゅうてき)」や「篳篥(ひちりき)」の掠れた、息づかいを感じる響きに酷似している。
 

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そして、コリン・ウォルコットのシタールが、シタール特有の「バズ音(共鳴弦のジーンという残響)」や持続音は、雅楽で天から降り注ぐ光を表すオルガンのような和音を奏でる「笙(しょう)」の持続音と、空間的な役割が非常に近い。ナナのパーカッションは、コリンのインド音楽の静寂と、ドンのジャズの自由さを、ブラジル音楽の「生命力で包み込む様な」リズム&ビートで演奏のボトムをしっかり支える。

インド音楽のシタール、ブラジルのビリンバウ、ジャズのポケット・トランペットが対等に、かつ極めて高い精神性をもって融合された様は、ワールド・ミュージック系即興演奏ジャズの出発点であり、ワールド・ミュージック系スピリチュアル・ジャズの萌芽である。緊迫感と開放感が共存する静謐な音世界は、ECMレーベルの美学を純粋に体現したといっていい。

お互いの呼吸や空気感を察知しながら音を重ねていく引き算の美学。この張り詰めた静寂と、音が消えていく余韻を大切にする演奏は、まさに日本の伝統音楽や雅楽の持つ「間」の感覚そのもの。

しかしながら、1984年11月にコリン・ウォルコットがツアー中の交通事故により39歳で急逝したため、トリオの活動は、アルバム3枚を残して、幕を閉じました。この残されたアルバム3枚、ワールド・ミュージック系即興演奏ジャズの傑作だと思います。
 
 

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