2024年2月 6日 (火曜日)

純ジャズ志向の『Trio 99→00』

パット・メセニーは何の前触れもなく、いきなり「コンテンポラリーな純ジャズ」に転身することがある。

通常のパットは、パット・メセニー・グループ(PMGと略)での活動がメインで、音の基本は「コンテンポラリーなクロスオーバー・ジャズ、もしくは、硬派な純ジャズ志向のジャズ・ロック。パットの個人名義での活動もあるが、こちらは「オーネット・コールマン」を踏襲したフリー・ジャズがメイン。しかし、突如として「コンテンポラリーな純ジャズ」に志向を変えたりするから面白い。

Pat Metheny『Trio 99→00』(写真左)。1999年8月の録音。2000年2月のリリース。ちなみにパーソネルは、Pat Metheny (g), Larry Grenadier (b), Bill Stewart (ds)。パット・メセニーのソロ・プロジェクト。今回は「ギター・トリオ」である。演奏の基本は、コンテンポラリーな純ジャズ。

1996年リリースの『Quartet』で、PMGとして、いきなり純ジャズ化。しかし、PMGとして違和感を覚えたのか、次作の『Imaginary Day』で、ワールド・フュージョンな音世界に軌道修正している。で、この『Trio 99→00』は、パットのソロ・プロジェクトの範疇での「コンテンポラリーな純ジャズ」化である。

パットのソロ・プロジェクトでの直近のトレンドは「デュオ」演奏だった。当アルバムは、そのデュオの演奏を一歩進めて、ギター・トリオでの「コンテンポラリーな純ジャズ」化である。ベースにラリー・グレナディア、ドラムにビル・スチュワートを迎えた、本気で硬派なギター・トリオである。
 

Pat-methenytrio-9900

 
収録された曲を見渡すと、コルトレーンの「Giant Steps」やウェイン・ショーターの「Capricorn」といった、シーツ・オブ・サウンドや、モード・ジャズなど、パッキパキ硬派な純ジャズ曲と、「Lone Jack」や「Travels」のパットメセニーグループ時代の曲を、本気で硬派なギター・トリオでやるといった「快挙」。

ただし、パットの「コンテンポラリーな純ジャズ」である。スインギーな4ビートでもなければ、マイルス流やショーター流のベーシックなモーダルなジャズでも無い。パットの個性全開、浮遊感溢れる、それでいて、フレーズの芯がしっかりしたフォーキーなフレーズで、パット流の即興モード・ジャズを展開する。

グレナディアのベース、スチュワートのドラム、共にそんな「パット流の即興モード・ジャズ」に的確に反応し、しなやかで力感溢れるリズム&ビートで、パットをしっかりとサポートする。今回、この盤で初めてトリオを組んだとは思えない、しっかりと意思疎通された、臨機応変なトリオ・サウンド。見事である。

録音時、パットは45歳。人生の半ばに差し掛かり、「コンテンポラリーな純ジャズ」に回帰する気になったのだろうか。そして、パットは、この『Trio 99→00』で、「パット流の即興モード・ジャズ」として、見事なパフォーマンスを捉えている。今の耳で聴き直して、現代のネオ・ハードバップの名盤として良い内容かと思う。
 
 

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2024年2月 5日 (月曜日)

パットのソロ『Dream Box』

パット・メセニーは、今年70歳。盟友ライル・メイズが2020年に亡くなって、パット・メセニー・グループの活動は停止した。ソロ活動のみに集中して現在に至る。2021年リリースの『Side-Eye NYC(V1.IV)』は、久しぶりに「PMGサウンドに通じるパット」らしい内容で、聴いていてワクワクしたが、その後が続かない。どうしたのか、と思っていたら、昨年、突如、ソロアルバムが出た。

Pat Metheny『Dream Box』(写真左)。2023年6月のリリース。パット・メセニーの声明文によると「この盤は、僕にとって珍しい録音で、ツアー中に聴いて発見した数年間に録音されたソロ曲のコンピレーションです」。タイトルの「Box」は、スラングで、フルアコのエレキ・ギターを指す。そう、このアルバムは、パットのフルアコ・エレギのソロ・パフォーマンス集。

全編に渡って、絶妙にコントロールされたフルアコ・エレギのソロ・パフォーマンスが繰り広げられる。フルアコ・エレギの表現力の豊かさ。パットのフルアコ・エレギをコントロールするテクニックの高さが良く判る。ビートの効いたスインギーな純ジャズ志向の演奏では無い。限りなく耽美的でリリカル、静的で哀愁感溢れる、即興演奏をメインとした「ニュー・ジャズ」な音世界。静かなエレキ・ギター。
 

Pat-methenydream-box

 
演奏しているのはパット一人なのだが、ギター1本だけの完全なソロは1曲だけ。他の曲は、バックのギターにソロを重ねて録音している。パット曰く「ツアー中に思いつくまま、バラバラに録り溜めておいた演奏が、聴き直してみるとその一貫性に驚いた」ということだが、確かに、このアルバムの収録された曲にはしっかりとした一貫性が感じられる。

語りかける様な繊細なダイナミズム、哀愁感漂うマイナー調の流麗なフレーズ、決して熱くならない緻密な音の積み重ね、しっとりとした静的で穏やかなリズム&ビート。これらの音の個性を融合して、パットは即興演奏の極致を表現する。即興演奏というところで、このパットのソロ・パフォーマンスは、ギリ「ジャズ」の範疇に留まっている。

「エレギをアコギのように静かに情感豊かに弾くにはどうしたらいいか」という命題に取り組んでいる様な、パットの思索的な、沈思黙考的なソロ・パフォーマンス。聴いていて、ECMからデビューした時の『Bright Size Life』(1976年) での、パットの透明感溢れる、耽美的でリリカルなパットのパフォーマンスを思い出した。
 
 

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2022年2月12日 (土曜日)

往年のメセニーが戻ってきた 『Side-Eye NYC(V1.IV)』

久し振りに、パット・メセニーらしいパフォーマンスに出会った気がした。メセニーの新たな取り組みである「Side-Eye プロジェクト」。これは、メセニーが選んだ新進気鋭のジャズマンを招聘、新たなアレンジの過去の楽曲や新メンバーのための新曲を演奏するというもの。このところ、メセニーのパフォーマンスは「頭でっかち」な、人工的な演奏が多かっただけに、この「SIDE EYE プロジェクト」には心が躍った。

Pat Metheny『Side-Eye NYC(V1.IV)』(写真左)。2019年9月12, 13日、NYの「Sony Hall」でのライヴ録音とスタジオ録音。ちなみにパーソネルは、Pat Metheny (g, g-bass, orchestrionic), James Francies (org, p, syn), Marcus Gilmore (ds)。ベースレスの、ギター、キーボード、ドラムの珍しいトリオ編成。

Side-Eyeプロジェクトは、近年活躍している若手アーティストに焦点を当てながら新たなサウンドを創り出していくプロジェクト。本作のタイトルには「V1.IV」という記号のようなものがついているが、これはユニットを組んだミュージシャンの組み合わせを示している。メセニーとキーボードのフランシーズを固定メンバーとして、ドラマーが少しずつ変化したユニット編成となっている。この「V1.IV」は、ドラマーがマーカス・ギルモアが担当している。
 

Sideeye-nyc

 
アルバムに収録されているのは、パンデミックで全米がロックダウンとなる直前にニューヨークで録音されたライヴ・レコーディングが4曲に、スタジオ録音が4曲。いずれの演奏も素晴らしい。往年のパット・メセニー・グループ(PMG)のサウンドが戻ってきた様な印象だ。ライル・メイズ亡き後、PMGのサウンドを再び聴くことは叶わないだろうと思っていただけに、今回のこの「Side-Eye プロジェクト」の音には驚くやら嬉しいやら。

聴く前は、ベースレスが気になったが、パットのギターの音の太さからすると、ベースは意外と邪魔なのかもしれない。今回のベースレスの変則トリオの演奏を聴くにつけ、ベースレスは全く気にならなかった。例えば、ジャコと共演した「Bright Size Life」を聴けば、あのジャコとの共演イメージと、今回のプロジェクトのイメージと比較して違和感は無い。音の響きはPMGサウンドに通じる、クリアでスピード感のあるリリカルな音。

ロック・ビートあり、ブルースあり、コンテンポラリーなストレート・アヘッドなジャズが新鮮。そして、セルフカバーはオリジナルとは異なる新たなアレンジが施されて、生まれ変わった感じがする。往年のPMGのサウンドが戻ってきて、メセニーのギターも往年の輝きを取り戻した感が強くする。往年のパット・メセニーのファンとしては、嬉しい「Side-Eye プロジェクト」である。これから続くであろうアルバムが楽しみである。
 
 
 
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  ・The Brothers Johnson『Light Up the Night』&『Winners』

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  ・『ヘンリー8世と6人の妻』を聴く

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  ・伝説の和製プログレ『四人囃子』

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2021年1月 2日 (土曜日)

ジャズ喫茶で流したい・194 『The Sound of Summer Running』

明けましておめでとうございます。今年もヴァーチャル音楽喫茶『松和』をよろしくお願いします。寒いお正月になりました。皆さんの地方では寒さの影響はいかがでしょうか。関東地方はとにかく「寒い」の一点。

以前から正月だからといって、特別にジャズ盤を選ぶことは無い。そもそも、ジャズ自体が「正月」を全く意識していない。「正月」を題材にした曲は見当たらないし、そもそも正月三が日でリーダー作を録音したりしている。よって「正月」だからといって、この盤をかける、とか、この曲を特別に聴くってことは無いんですよね。

Marc Johnson『The Sound of Summer Running』(写真)。1998年2月24日の録音。ちなみにパーソネルは、Marc Johnson (b), Bill Frisell, Pat Metheny (g), Joey Baron (ds)。Verveレーベルからのリリース。堅実実直&硬軟自在なベーシスト、マーク・ジョンソンのリーダー作。先鋭的でコンテンポラリーなジャズ・ギタリスト、ビル・フリゼールとパット・メセニーが共演。

キーボードレスのコンテンポラリーなエレ・ジャズ。先鋭的でリリカルでフォーキーで心地良い捻りの効いたギターが2本。そのフロントのギター2本の自由度の高い、創造性溢れるパフォーマンスを、リーダーのマーク・ジョンソンのベースがドラムのバロンと共にガッチリと受け止めてコントロールする。とにかく、2本のギターのコンテンポラリーなインタープレイが見事である。
 
 
The-sound-of-summer-running  
 
 
4曲目「Summer Running」が象徴的な演奏。カントリー色+フォーク色が濃厚な、スピード感溢れる、爽やかで透明度の高い2本のギターの音色が清々しい。僕はこの演奏が大好きだ。この1曲だけでも、この盤は「買い」。

2人のギターの共演について、全体のパフォーマンスを通じて、メセニー色が先行しているが、フリゼールも十分に健闘。両人とも、自らの個性をしっかり維持していて、聴いていて気持ちが良い。ノリの良いカントリー風な曲あり、牧歌的なロック調な曲あり、フォーク・ロックな曲あり。フリゼールお得意のスペイシーで怪しげな曲あり(笑)。

曇りの無い、明らかに健康的で印象的なフレーズ溢れる、聴いていて、気持ちがスッキリする明るいパフォーマンスが見事である。ファクネスは皆無、ブルージーな雰囲気薄め。エレギがメインの曲でも、いわゆる「フュージョン色」は薄く、コンテンポラリーな純ジャズ志向が頼もしい。ありそうで、なかなか無い、健康的でネーチャーでフォーキーなジャズである。

その2人のギターの見事なパフォーマンスを支えまとめているのが、マーク・ジョンソンのベース。ジョーイ・バロンの変幻自在、柔軟度抜群なドラミングの適応力は凄い。この盤の清々しさは「新春」にピッタリ。確かに振り返ってみれば、この盤は正月三が日に聴くことが多いですねえ。この季節にお勧めの好盤です。
 
 
  

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  ・『Middle Man』 1980

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  ・僕達はタツローの源へ遡った

 

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2020年9月17日 (木曜日)

メセニー者には避けて通れない 『From This Place』

孤高のアメリカン・ルーツなギタリスト、パット・メセニーも今年で66歳。もはや大ベテラン、若しくはレジェンドの域に達している。そして、盟友のキーボード奏者、ライル・メイズが今年の2月に亡くなって、パット・メセニー・グループ(PMG)は開店休業状態。盟友を亡くしてさぞかし落胆しているだろうと思っていたら、6年振りのスタジオ録音盤が今年の2月にリリースされた。

Pat Metheny『From This Place』(写真)。ちなみにパーソネルは、コアとなるパットのグループとして、Pat Metheny (g, key), Gwilym Simcockv(p), Linda May Han Oh(b, voice), Antonio Sanchez (ds)。そこに、Meshell Ndegeocello (vo), Gregoire Maret (Harmonica), Luis Conte (perc) がゲストで加わり、ストリングスとして「The Hollywood Studio Symphony」が参加している。

今回のパットの新盤、ストリングスを大々的に取り入れていて、素直に聴いていると「ジャズ臭さ」が希薄で、リズム&ビートも決してジャジーでは無いし、ストリングスのアレンジも従来型で平凡。ストリングを活かしたイージーリスニングなフュージョン・ミュージックという雰囲気が濃厚になっている。ここまでストリングスを取り入れ、スインギーなビートを押さえた内容については、ジャズと呼んで良いものか、という疑問を持ってしまった。
 
 
From-this-place  
 
 
しかし、ギターの音色、フレーズについては、明らかにパット・メセニーで、ジャズか否かと思う前に、濃厚な「パット・メセニー節」に包み込まれる。フォーキーで、米国の自然の風景を彷彿とさせる「ネイチャー」な響きの音世界。スイング感やファンクネスを排除した、ニュー・ジャズなリズム&ビート。冒頭の「America Undefined」のギターを聴くだけで、この盤はパットのリーダー作だと判るのだから、その個性たるやユニークかつ濃厚。

それでも、演奏全体の雰囲気については、ジャズらしさは希薄である。従来のライル・メイズが存命の頃のパット・メセニー・グループ(PMG)の音世界とは打って変わって、今回の新盤の音世界は、壮大で叙事詩的な、イージーリスニングなフュージョン・ミュージックと僕は解釈した。ここまでジャズっぽさを排除して、パット・メセニーの音世界だけを全面に押し出した盤は今回が初めてだろう。

ジャズの醍醐味である「即興演奏やインタープレイの妙」もこの新盤の中ではほとんど聴かれず、しっかりと譜面に書かれたであろう、壮大なオーケストラ・ミュージックが展開される。音楽としてはしっかりと聴き応えがある。この盤はジャズか否かということを考えず、パット・メセニー独特の音世界をしっかりと楽しむ、パット・メセニー者の方々には避けて通れない新盤だろう。
 
 

《ヴァーチャル音楽喫茶『松和』別館》の更新状況》
 

  ★ AORの風に吹かれて    【更新しました】 2020.09.02 更新。
 
  ・『Restless Nights』 1979
 
 ★ まだまだロックキッズ     【更新しました】 2020.09.02 更新。
 
  ・『The Best of The Band』

 ★ 松和の「青春のかけら達」 【更新しました】 2020.09.02 更新。
 
  ・僕達は「タツロー」を発見した
 
 
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2020年2月12日 (水曜日)

追悼・ライル・メイズ 『Fictionary』

パット・メセニー・グループ(PMG)の重鎮キーボード奏者、ライル・メイズ(Lyle Mays)が再発性疾患との長い戦いの末に亡くなった。昨晩、Twitterからの情報から、パット・メセニーのオフィシャル・サイトでその詳細を知った。ライル・メイズは米国ウィスコンシン州出身。1953年11月生まれなので、享年66歳。早過ぎる逝去である。

僕がライル・メイズの名前を知ったのは、Pat Methenyの『Watercolors』というアルバムだった。まだ、パット・メセニー・グループ(PMG)が存在しない時代、パット・メセニーのソロ盤で、耽美的で透明感抜群なピアノと印象的なエコーと伸びのシンセの音に耳が釘付けになった。そのピアノとシンセが「ライル・メイズ」であった。そう、あれは1978年の秋だったと記憶している。以来40年以上、PMG共々、ライル・メイズのキーボードを聴き続けてきた。

Lyle Mays『Fictionary』(写真左)。1992年4月23日ニューヨーク、パワーステーションでの録音。ちなみにパーソネルは、Lyle Mays (p), Marc Johnson (b), Jack DeJohnette (ds) のトリオ編成。このパーソネルを見ただけで、このトリオ演奏はその内容が保証されたようなもの。耽美的で透明感抜群、クリアで硬質なタッチでモーダルに弾きまくるメイズにとっては、最高のリズム隊である。
 
 
Fictionary-1  
 
 
このトリオ盤、ライル・メイズのピアノ&キーボードの個性を知るには格好の盤である。冒頭の「Bill Evans」を聴くと、メイズのアコースティック・ピアノの個性が手に取るように判る。耽美的ではあるが、そのタッチは硬質でクリア。ファンクネスは皆無。透明感が強く流麗なフレーズ。耽美的なジャズ・ピアノ、いわゆる「エヴァンス派」にいそうでいない、唯一無二の耽美的ピアノの個性である。

そして、2曲目の「Fictionary」から3曲目の「Sienna」を聴くと、PMGのキーボード・ワーク、キーボード・フレーズの音作りは、ライル・メイズ主導であることが良く判る。このトリオ演奏に、パットのギター・シンセが絡んだら「PMG」そのものである。適度なエコーがかかった、透明度が強く流麗なフレーズが乱舞する。ライル・メイズのピアノとは「これ」である。

ライル・メイズは生涯で、数枚のソロ・アルバムしかリリースしなかった。メイズの活動の大凡は「PMG」。しかし、今回のソロ・セカンド盤『Fictionary』とソロのファースト盤『Lyle Mays』(2010年6月27日のブログ参照)は、メイズを知る上で必聴のソロ・アルバムである。このソロ・アルバム2枚でライズ単体の音の個性を掴みつつ、PMGの一連の好盤を聴く。これが「ライル・メイズ」の楽しみ方である。ご冥福をお祈りしたい。
 
 
 
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2020年1月21日 (火曜日)

意味深なジャコとメセニーの共演 『Jaco』

このアルバムは、パット・メセニーのディスコグラフィーを紐解くと必ず最初に出てくるのだ。メセニーのリーダー作でも無いのに、何故か必ず出てくるが、メセニーのリーダー作では無いので、ずっとうっちゃっておいた。しかし、やはり気になる。今回、メセニーのアルバムを聴き直す中で、やっとこの盤を聴くことが出来た。

Jaco Pastorius, Pat Metheny, Bruce Ditmas, Paul Bley『Jaco』(写真)。1974年の録音。メセニーもジャコもまだ単独でリーダー作を出していない頃。ちなみにパーソネルは、Paul Bley (el-p), Jaco Pastorius (b), Bruce Ditmas (ds), Pat Metheny (el-g)。並列名義のアルバムだが、目立った順に並べると以上の様になる。ジャズ・ピアノの鬼才、ポール・ブレイがアコピではなく、全編エレピを弾いている。

このブレイのエレピが「エグい」。自由度の高い、切れ味の良い、メロディアスなエレピ。フリーキーなフレーズも見え隠れしつつ、モーダルでちょっと前衛に傾いた、テンションの高いエレピ。このブレイのエレピが、アルバム全編に渡ってグイグイ迫ってくる。このブレイのエレピを聴いていると、このアルバムの主導権はブレイが握っていたと思われる。
 
 
Jaco  
 
 
さて、気になるメセニーと言えば、ちょっと目立たない。しかし、メセニーのギターの音が出てくると、まだ単独でリーダー作を出していないのに、既に音の個性は完全に確立されているのにビックリする。逆に、メセニーのギターの個性は、ブレイのエレピとは相性が良くないことが聴いて取れる。水と油の様で上手く融合しない。この盤では、メセニーはブレイが前面に出て弾きまくっている時、そのフレーズに絡むことはほとんど無い。

逆に、ジャコのベースはブレイのエレピに適応する。ジャコについても、まだ単独でリーダー作を出していないのに、既に音の個性は完全に確立されているのにビックリする。フリーキーなフレーズにも、モーダルなフレーズにも、前衛に傾いたテンションの高いフレーズにも、クイックに対応する。それどころか、ブレイの自由度の高い弾き回しに、絡むようにエレベのラインを弾き回す。ブレイのエレピとの相性は良い。

しかし、ブレイのエレピは従来のブレイのアコピの延長線上にあるが、ジャコのベースとメセニーのギターはそれまでに無い新しい「何か」である。それまでのジャズには無いフレーズと弾き回し。アドリブ・フレーズに対する取り回しが「新しい」。つまり、ジャコやメセニーにとって、ブレイのエレピでは「変革」は起きない、ということ。後に、ジャコ、メセニー共に、それぞれの新しい個性を増幅させてくれるキーボード奏者と出会って、大ブレイクしていくのだ。
 
 
 
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2019年3月17日 (日曜日)

ECMを感じるに絶好の一枚 『Dreams So Real』

欧州ジャズの老舗レーベルであるECM。ECMには独特の音の傾向がある。西洋クラシック音楽の伝統にしっかりと軸足を置いた「ECMの考える欧州ジャズ」。極力、電化サウンドを排除し、アコースティックな表現を基本とし、限りなく静謐で豊かなエコーを個性とした録音。

米国のブルーノート・レーベルの「統一感」に勝るとも劣らない、芸術という観点でのレーベル運営をECMに感じることが出来る。アイヒャーの監修・判断による、アイヒャー独裁による強烈な「美意識」。"The Most Beautiful Sound Next to Silence" この「沈黙に次いで最も美しい音」を基本とするECMレーベルの「音の統一感」は、"Produced by Manfred Eicher" のクレジットの下に徹底されている。

そんなECMレーベルには、専属、もしくは専属に近いミュージシャンが多くいる。例えば、ヴァイブのゲイリー・バートン(Gary Burton)などは、ECMの「お抱えミュージシャン」の代表格。当然、ECM時代のバートンの数々のリーダー作の音は、典型的なECMレーベルの音世界で充満している。
 

Dreams_so_real

 
Gary Burton『Dreams So Real - Music of Carla Bley』(写真)。1975年12月の録音。ちなみにパーソネルは、Gary Burton (vib), Mick Goodrick (g), Pat Metheny (g), Steve Swallow (b), Bob Moses (ds)。ギターは若き日のパット・メセニーとバークリーの師匠格のグッドリックとが、曲によって弾き分けている。副題を見れば「カーラ・ブレイの作品集」であることが判る。

典型的なECMの音世界である。バートンの革新的な4本マレット・ヴァイブが効いている。硬質で透明度の高いクリスタルな響き。転がる様に流麗なアドリブ・フレーズ。若き日のパット・メセニーのエレクトリック12弦ギターも良い。ファンクネスは皆無、切れ味の良い、西洋クラシックの香りのするストローク・プレイ。「静謐な熱気」を伴った、適度なテンションが心地良いインプロビゼーションの数々。

この盤、どの収録曲についても演奏のレベルが高い。1曲たりとも「緩演」や「駄演」が無い。「静謐な熱気」と「適度なテンション」を伴ったグループの個性とメロディアスなカーラの曲とのマッチングが絶妙。現代芸術的なECMオリジナルの統一感を強く感じるアルバム・ジャケットのアートワークも良好。ECMの音世界を感じるに絶好の好盤です。
 
 
 
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2018年10月28日 (日曜日)

作り手と聴き手の評価が違う 『Rejoicing』

音楽のアルバムって、作った本人の感覚と聴いた人との感覚とが全く異なることがある。おおよそ、作った本人が「失敗作」とした盤が、聴き手には「好盤」に感じるケースが多い。逆に作った本人が「好盤」と感じるのに、聴き手が「失敗作」というケースは少ないだろう。この場合は作った側が、客観的に自分の音楽的成果を評価出来ない場合に限るからだ。

実はパット・メセニーにも、そんな作り手と聴き手、それぞれの評価が乖離している盤がある。Pat Metheny『Rejoicing』(写真)。1983年11月の録音。ちなみにパーソネルは、Pat Metheny (g), Charlie Haden (b), Billy Higgins (ds)。曲名を見渡すと判るが、パットが敬愛する「オーネット・コールマン」集である。

パットはこの盤を「最悪のレコード」と評し、ECMレーベルを離れる切っ掛けになった盤としている。パットは1983年7月より、この盤と同じパーソネルで北米ツアーを敢行している。かなり内容の充実したツアーだったらしく、パットは満足の極致にあったそう。しかし、そこにECMの総帥アイヒャーが無理な録音スケジュールを押し付けて、無理矢理アルバムをレコーディングした。この時のレコーディングの雰囲気は最悪だったそうだ。
 

Rejoicing

 
しかも、この盤の内容から判る様に、オーネット・コールマン集である。ECMレーベルの録音の個性、いわゆる「限りなく静謐で豊かなエコー」をかけるのは、直感的に悪趣味に近いと感じる。しかし、アイヒャーは自らの主義を貫いた。この盤の音は静謐感溢れるクラシカルなオーネット・コールマンに仕上がった。これがパットの逆鱗に触れる。そして、アイヒャーとの間に確執が生まれたらしい。

しかし、パットが言うほど酷い無い様では無い。パット=ヘイデン=ヒギンズのトリオの奏でる「オーネット」の音世界は自由度高く、アドリブ展開の幅が深く広がる。その素晴らしい「オーネット」な即興演奏を、ECMの音作りは、静謐感溢れ、クラシカルで、アート感豊かな音に昇華させている。演奏の音のエッジの切れ味の良さも、個々の演奏の深みも十分に表現されていて、ECMレーベルの「オーネット」な音として、とてもユニークな出来に仕上がっている。

ちなみに冒頭の「Lonely Woman」は、かの有名なオーネット作のものではなく、ホレス・シルバー作のもの。パットのインテリジェント溢れる悪ノリなんだが、こういうところがパットの「面倒くさい」ところ。しかし、2曲目以降は全て「オーネット」作で、パット以下のトリオ演奏は素晴らしい成果を残している。結果として、プロデューサーとしてのアイヒャーの感覚が勝った訳だが、この盤の後、ほどなくパットはGeffenレーベルに移籍する。
 
 
 
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2018年10月26日 (金曜日)

PMGのピークを捉えたライヴ盤 『Travels』

パット・メセニーは従来のジャズの臭いがしない、新しいタイプのジャズ・ギタリストだった。まず、ファンクネスが皆無。そして、オフビートが軽い。1970年代のフュージョン・ジャズのギターであれば、ジャズ・ファンク風に弾きまくるのだが、パットは違う。パットのギターは軽やかで爽快。当時、明らかに「ニュー・ジャズ」な音世界は賛否両論の議論を生んだ。

今でも「パット・メセニーが嫌い」というジャズ者の方々も結構いる。「あれはジャズじゃない」とバッサリ。別にジャズか否かを決めつける必要な無いと思うんだが、確かに従来のジャズの音世界では無いのは事実。しかし、即興演奏をメインとする演奏の展開は、やはりジャズだろう。ファンクネスが皆無なジャズは欧州に多く存在し、オフビートが軽いジャズについては、例えば日本のジャズがそうである。

Pat Metheny Group『Travels』(写真)。1983年のリリース。改めてパーソネルは、Pat Metheny (g), Lyle Mays (key), Steve Rodby (b), Danny Gottlieb (ds)。Nana Vasconcelos (perc)。1982年7月から11月にかけてのツアーから、フィラデルフィア、ダラス、サクラメント、ハートフォードでのライブ音源が収められている。
 

Travels1_2

 
素晴らしい内容のライブ盤である。音も良い。演奏も良い。PMGのピークを捉えた名ライブ盤である。PMGの音世界は2つの側面がある。1つは米国の田舎の風景、広がりのある高い空、小麦畑、牧場、遠くに連なる山々を想起させるもの。僕はこれを勝手に「ネイチャー・ジャズ」と呼んでいる。そして、PMGの音世界のもう一つの側面は、アダルト・オリエンテッドで小粋なフュージョン・ジャズ。

PMGの2つの音世界が程良くブレンドされて、タイトで躍動感溢れる演奏と相まって、素晴らしい音世界が展開されている。パットのアドリブ展開もイマージネーション溢れる素晴らしいもの。この即興性は明らかにジャズである。ファンクネス皆無、軽やかなオフビート。従来のジャズの音世界では無いが、明らかに新しい響きのする「ニュー・ジャズ」である。

ちなみにこのライブ盤が日本で初めてリリースされた時の帯紙のキャッチコピーが「いつかどこかで、君が感じたあの想い、あの香り」。なんじゃこりゃ〜。こういうことをしているから、パット・メセニーはジャズじゃない、と言われるんだ。当時のトリオレコードの責任は大きいよな〜。

 
 

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