『Waltz for Debby』の聴き方
レコード・コレクターズ(レココレ)2026年2月号の特集「この曲のピアノを聴け! ジャズ/フュージョン編」を楽しんでいるのだが、アルバムの中の「一曲」だけを聴いて、そのピアニストの個性と特徴を捉えろ、というのは、ちょっと乱暴である。ということで、当ブログでは、「この曲を」を「このアルバムを」に拡大して、レココレに紹介されているアルバムを聴き直している。と昨日、書いた。そして、このアルバムがその最たるもの。
Bill Evans『Waltz for Debby』(写真左)。1961年6月25日の録音。ちなみにパーソネルは、Bill Evans (p), Scott LaFaro (b), Paul Motian (ds)。NYの老舗ライヴハウス、ヴィレッジ・ヴァンバードでのライヴ録音。兄弟盤に『Sunday at the Village Vanguard』がある。演奏は、存命中のスコット・ラフェロを含めた「伝説のトリオ」である。
このライヴ盤の、レココレの言うこの1曲がタイトル曲の「Waltz for Debby」。この耽美的で流麗でスローなワルツ曲が、ビル・エヴァンスというピアニストの個性と特徴を表している、としているが、これはちょっとなあ。実は、ビルのディスコグラフィーを見渡すと、このライヴ盤だけが、異質な響きを宿している盤だと判る。
もともと、ビル・エヴァンスは「バップ・ピアニスト」。「明確なタッチのバップなピアノ」が持ち味で、「耽美的でリリカルで静的なピアノ」が持ち味では無い。この盤での「耽美的でリリカルで静的」な響きが溢れる演奏でも、エヴァンスのタッチは明確で鋭い。決して、響きを重視した耽美的なタッチでは無い。つまり「Waltz for Debby」の一曲だけで、ビルのピアノの個性と特徴を結論付けると、間違ったビルのピアノに対する印象を持ってしまうことになる。
このライヴ盤は、マイルスの下で「ものにした」モード奏法を、バラード曲、スローな曲に限定して、この「伝説のトリオ」で実現した唯一のライヴの記録だと理解している。スローな曲調でのモーダルな演奏とインタープレイ。その最高の成果がこのライヴ盤にある。そして、その基本のビルのピアノは「バップ・ピアノ」。決して「耽美的でリリカルで静的」なピアノでは無い。
『Waltz for Debby』については、エヴァンスのピアノの「耽美的でリリカルで静的」な面がクローズアップされた特異な企画盤とした方が「座りが良い」。つまり、エヴァンスのピアノの個性と特徴の半分を体感したに過ぎない。せめて、ビルのホームグラウンドである「ヴィレッジ・ヴァンガード」でのライヴ盤の諸作を聴いてもらいたい。
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