2026年2月20日 (金曜日)

『Waltz for Debby』の聴き方

レコード・コレクターズ(レココレ)2026年2月号の特集「この曲のピアノを聴け! ジャズ/フュージョン編」を楽しんでいるのだが、アルバムの中の「一曲」だけを聴いて、そのピアニストの個性と特徴を捉えろ、というのは、ちょっと乱暴である。ということで、当ブログでは、「この曲を」を「このアルバムを」に拡大して、レココレに紹介されているアルバムを聴き直している。と昨日、書いた。そして、このアルバムがその最たるもの。

Bill Evans『Waltz for Debby』(写真左)。1961年6月25日の録音。ちなみにパーソネルは、Bill Evans (p), Scott LaFaro (b), Paul Motian (ds)。NYの老舗ライヴハウス、ヴィレッジ・ヴァンバードでのライヴ録音。兄弟盤に『Sunday at the Village Vanguard』がある。演奏は、存命中のスコット・ラフェロを含めた「伝説のトリオ」である。

このライヴ盤の、レココレの言うこの1曲がタイトル曲の「Waltz for Debby」。この耽美的で流麗でスローなワルツ曲が、ビル・エヴァンスというピアニストの個性と特徴を表している、としているが、これはちょっとなあ。実は、ビルのディスコグラフィーを見渡すと、このライヴ盤だけが、異質な響きを宿している盤だと判る。
 

Bill-evanswaltz-for-debby

 
もともと、ビル・エヴァンスは「バップ・ピアニスト」。「明確なタッチのバップなピアノ」が持ち味で、「耽美的でリリカルで静的なピアノ」が持ち味では無い。この盤での「耽美的でリリカルで静的」な響きが溢れる演奏でも、エヴァンスのタッチは明確で鋭い。決して、響きを重視した耽美的なタッチでは無い。つまり「Waltz for Debby」の一曲だけで、ビルのピアノの個性と特徴を結論付けると、間違ったビルのピアノに対する印象を持ってしまうことになる。

このライヴ盤は、マイルスの下で「ものにした」モード奏法を、バラード曲、スローな曲に限定して、この「伝説のトリオ」で実現した唯一のライヴの記録だと理解している。スローな曲調でのモーダルな演奏とインタープレイ。その最高の成果がこのライヴ盤にある。そして、その基本のビルのピアノは「バップ・ピアノ」。決して「耽美的でリリカルで静的」なピアノでは無い。

『Waltz for Debby』については、エヴァンスのピアノの「耽美的でリリカルで静的」な面がクローズアップされた特異な企画盤とした方が「座りが良い」。つまり、エヴァンスのピアノの個性と特徴の半分を体感したに過ぎない。せめて、ビルのホームグラウンドである「ヴィレッジ・ヴァンガード」でのライヴ盤の諸作を聴いてもらいたい。
 
 

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2026年1月21日 (水曜日)

自らを整えるビル・エヴァンス

ビル・エヴァンスは、彼のジャズ・ピアニストの歴史の中で、節目節目、だいたいがトリオのメンバーが入れ替わった時、恐らく自分を整え直す意味があるんだと思うのだが、ドラムにフィリー・ジョー・ジョーンズ(以降、フィリージョーと略)を自らのトリオに招いて、ビルのホームである、NYのライブハウス、ビレッジ・ヴァンガードのライヴに臨む習慣がある。

Bill Evans『Getting Sentimental』(写真左)。1978年1月15日、NYのビレッジ・ヴァンガードでのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Bill Evans (p), Michael Moore (b), Philly Joe Jones (ds)。録音当時は未リリース。実際にリリースされたのは2003年8月。マイルストーン・レーベルからのリリースであった。ヴィレッジ・ヴァンガードでのライヴの私家録音である。

長年、ベースの相棒だったエディ・ゴメスが辞めて、マーク・ジョンソンが加入するまでの時期のライヴ録音。ベースが、マイケル・ムーアというのが珍しい。そして、ファンタジー時代の後半、ドラムを務めたエリオット・ジグムンドもビルの下を離れた、その空席となっていたところに、ドラム担当として、フィリージョーが参加している。

このドラムのフィリージョー。ダイナミックでバッシバッシとバップなドラムを叩きまくるフィリージョーと、耽美的でリリカルな側面を持つビル・エヴァンスのピアノとは「アンマッチ」なのでは、と思うんですが、ビルは意外と元気溌剌に、バップなピアノを弾きまくっている。
 

Bill-evansgetting-sentimental

 
ビルが耽美的でリリカルなバップ・ピアノを奏で始めると、フィリージョーは、意外と繊細で細やかなバップ・ドラミングにチェンジしている。これが意外と見事で、ビルが楽しげに弾き進めているのも理解出来る。フィリージョーのドラミングとビルのピアノは意外と相性が良い、ということを再認識する。

ビルのピアノは相変わらずである。バップなダイナミックな弾き回しもあれば、耽美的でリリカルな弾き回しもある。いわゆる「お馴染み」のビルである。

逝去する2年半ほど前のライヴで、体調は既に悪かったはずだが、このビレバガでのライブ・パフォーマンスは、そんな健康上の障害があるなんて雰囲気は微塵も無い。右手もしっかり回っているし、なにより、このライヴ・パフォーマンスには、よれたり、ミスタッチがあったりという破綻が無い。

ムーアのベースは意外と検討していて、ビル・エヴァンス・トリオの歴代のベーシストと比較しても遜色はない。ビルのピアノの個性を良く理解して、ビルのピアノと対等のインタープレイを仕掛けている。アドリブ部のベースラインのイマージネーションも豊かで、ムーアのベースにとりたてての欠点は無い。大健闘のマイケル・ムーアである。

このライヴ・パフォーマンスの位置づけは、いわゆる、ビルの「浪人時代」、次のピアノ・トリオを立ち上げるまでのリハビリ時期のライヴ音源になる。細かいところにお構いなしのビルのパフォーマンスは清々しい。2年半後に鬼籍に入るとは思えない上質のパフォーマンス。私家録音でちょっと音は悪いが、ビルのピアノを愛でるのに不都合は無い。好ライヴ盤である。
 
 

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2026年1月18日 (日曜日)

ベネット&エヴァンスの続編盤

伴奏上手でも名を馳せていたビル・エヴァンス。フロントがホーン楽器の伴奏を記録したアルバムはいろいろあるが、ボーカルのバックで演奏上手を披露したセッションは、男性ジャズ&ポップス歌手、トニー・ベネット(Tony Bennett)、そして、スウェーデンの女性歌手、モニカ・ゼタールンド(Monica Zetterlund)の2人とだけ。

Tony Bennett and Bill Evans『Together Again』(写真左)。1976年9月27–30日の録音。ちなみにパーソネルは、Tony Bennett (vo), Bill Evans (p)。男性ジャズ・ボーカリストの代表格の1人、トニー・ベネットと、ジャズ・ピアニストのレジェンド、ビル・エヴァンスとのデュオ盤である。

1975年6月の録音の『Tony Bennett / Bill Evans Album』(2021年2月19日のブログ・左をクリック)の続編である。約1年3ヶ月後の「アゲイン盤」。アルバム全体の雰囲気は、『Tony Bennett / Bill Evans Album』と変わらない。気持ち良い伴奏を得て、朗々と気持ち良く唄うベネットと、そんな気持ちの良い伴奏を供給する、伴奏上手のエヴァンス。
 

Tony-bennett-and-bill-evanstogether-agai

 
ミッド・テンポのバラードからジャズ・スタンダード曲がメイン。影なく朗々とダンディズム溢れる唄いっぷりのベネットのバックで、耽美的なフレーズながら、意外とバップな覇気ある伴奏ピアノが浮き出てきて、なかなか良い雰囲気。それでいて、ベネットの熱唱を決して邪魔しないのだから、伴奏上手のエヴァンスの面目躍如である。

「You Must Believe in Spring」「A Child Is Born」「You Don't Know What Love Is」など、ビル・エヴァンスのお気に入り曲も選曲されていて、ビル・エヴァンスのピアノ歌伴との親密感溢れるベネットの歌唱が堪能出来る。朗々と唄い上げるベネット、そして、間奏で、耽美的なフレーズを回しながら、クールでバップな弾き回しを聴かせるビル・エヴァンス。この2人のレジェンドの熟練したパフォーマンスの共演は、やはり優れいている。

一枚目の共演盤『Tony Bennett / Bill Evans Album』と、この続編の『Together Again』のどちらが優れているか、という議論もあるが、どちらも、2人のレジェンドの個性と味のあるテクニックとが相乗効果を生んでいて、甲乙つけるのは「野暮」というものだろう。まあ、我が国では「続編盤」は「二番煎じ」と決めつけて、最初の盤より続編の方が、居抜きで評価をさげる傾向にあるので、まずは、自らの耳で聴いてみることが先決だろう。
 
 

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2026年1月17日 (土曜日)

ビル・エヴァンズの異色盤・3

ビル・エヴァンスのリーダー作の記事のコンプリートを目指しているのだが、いよいよ、ビル・エヴァンスのディスコグラフィーの中で、異色盤と呼ばれるものの記事に手を染めている。今日は3作目。ビル・エヴァンスの異色盤では最後の一枚になる。今回は、ジャズ・オーケストラとのコラボ。しかも、エレピ入りのジャズ・ロック志向盤。

Bill Evans『Living Time』(写真左)。1972年5月12–14日、NYでの録音。コロンビア・レコードからのリリース。ちなみにパーソネルは、以下の通り。

Bill Evans (p, Fender Rhodes), Snooky Young, Ernie Royal, Richard Williams (tp, flh), Stanton Davis (p), Howard Johnson –(flh, tuba, b-cl), John Clark (french horn), Dave Bargeron (tuba), Jimmy Giuffre (ts, fl), Joe Henderson (ts), Sam Rivers (ts, fl, oboe), Sam Brown (b-g, el-g), Ted Saunders (el-p, clavinet), Webster Lewis (org, el-p), Eddie Gómez (ac-b), Ron Carter (el-b on 5,7), Stanley Clarke (el-b on 1,2,3), Herb Bushler (el-b on 4,6,8), Tony Williams, Marty Morell (ds), Marc Belair (perc),George Russell (arr, cond),。

ビル・エヴァンスのアコピとフェンダー・ローズが、フロントのソリストとして、そして、パーソネルを見渡せば、そうそうたるメンバーが集結したジャズ・オーケストラがバックに控える。そして、よくよく見れば、エレクトリック楽器の導入が目に付く。エレギ、エレベ、ローズ、エレピなど。そして、このバックのジャズ・オーケストラの演奏志向は「ジャズ・ロック」。
 

Bill-evansliving-time

 
最初に断っておくが、このアルバムのリーダーは「ビル・エヴァンス」。しかし、この盤のパフォーマンスとしては、ジョージ・ラッセルがアレンジ&指揮の「ジャズ・ロック」なジャズ・オーケストラの演奏に、ビル・エヴァンスのアコピとローズがそれに合わせている、という感じのパフォーマンスで、ビル・エヴァンスのパフォーマンスとしては、彼の個性は封印して、ジャズ・ロックのフロント楽器として、判り易く聴き易い、シンプルな演奏に終始している。

逆に、ラッセルのアレンジ&指揮のジャズ・ロック志向のジャズ・オーケストラのパフォーマンスが目立ちに目立つ。ダイナミックで壮大な8ビートなジャズ・ロックが、大人数のジャズ・オーケストラで演奏される。しかも、メンバーそれぞれが、力量確かな一流どころが顔を揃えているのだ、とにかく、シャープでダイナミックで迫力あるジャズ・ロック名オーケストラ・サウンドが展開される。

この盤のピアノは、なにも、ビル・エヴァンスで無くても成立するレベル。プロデューサーのヘレン・キーンが問題なのだろう。ビル・エヴァンスのリーダー作にしては、このアルバムの狙い、コンセプトが明瞭で無い。この盤、ビル・エヴァンスが、ビル・エヴァンスらしく、ピアノを弾いていないところが問題なんだろう。

ビル・エヴァンスのピアノの個性を楽しむには、ちょっと不足。ジャズ・オーケストラのジャズ・ロック志向の演奏としては、及第点の出来。作曲に課題が残る(全曲、ジョージ・ラッセルが作曲)。印象に残る曲が無い。演奏はそこそこ優れているが、曲自体がキャッチーではないところが惜しい。どうにも「隔靴掻痒」感の残る異色盤である。
 
 

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2026年1月16日 (金曜日)

ビル・エヴァンズの異色盤・2

ビル・エヴァンスのディスコグラフィーを順に確認していくと、「なんだ、このアルバムは」という異色盤、というか、ゲテモノ盤らしき「パチモン盤」に出くわす。それでも、ビル・エヴァンスのディスコグラフィーをコンプリートしたいという「ビル・エヴァンス者」としては、避けては通れない。まずは、実際に自分の耳で聴いてみることが大事である。

『Bill Evans Plays the Theme from "The VIPs" and Other Great Songs』(写真左)。1963年5月6日の録音。ちなみにパーソネルは、Bill Evans (p), そして、名称不明のオーケストラとコーラス、クラウス・オガーマンのアレンジ&指揮。意図的に商業的な目的の為に制作された、当時の映画やテレビのテーマ曲や人気のスタンダード曲をエヴァンス自身の解釈で演奏した企画盤である。

一言で言うと「イージーリスニング音楽」。どう聴いてもジャズではない。旋律楽器として、ビル・エヴァンスのピアノがフロント楽器の位置付けだが、ジャズでよくある「ピアノ・トリオ+オーケストラ」という、ジャズのバンドとオーケストラのコラボでは無く、豪華なストリングス・セクションと軽いパーカッションによる、よりコマーシャルでイージーリスニング的な編成での演奏である。

ストリングス・アレンジについては、なんとかオーケストラ・ジャズに留めたいという意図は感じられなくも無いが、あまりに甘く、あまりにムーディーな側面が強調されており、ジャジーな雰囲気は微塵も感じられないアレンジになってしまっている。
 

Bill-evans-plays-the-theme-from-22the-vi

 
収録曲は全12曲。メインは、1960年代半ばの映画のサウンドトラックやテレビ音楽から選ばれており、タイトル通り、ミクローシュ・ローザが作曲した1963年の映画『ザ・VIPズ』のタイトル・トラックを始めとして、リン・マレーの『ミスター・ノヴァク』やエルマー・バーンスタインの『ザ・ケアテイカーズ』のテーマ曲などが含まれている。

ジャズ・スタンダード曲も幾曲か収録されていて、「Days of Wine and Roses」や「On Green Dolphin Street」「Laura」では、ビル・エヴァンスの新しい解釈を聴くことが出来る。もっとも、この新解釈は、イージーリスニング志向のもので、ビル・エヴァンス独特の和音の活用よりも、シングルトーンの聴き易さを最優先した解釈ではある。

ビル・エヴァンスのピアノはそれなりに、その個性と実力を発揮した内容にはなっているが、いかんせん、アルバム全体の音志向としては、ジャズとしての音作りより、ポップスな親しみやすさを優先したアレンジになっているので、ジャズのアルバムとしては評価し難い。

ただし、イージーリスニング志向のピアノの弾き回しについては優れたものがあり、エヴァンスのピアノの応用力、適応力の高さを感じ取る事は出来る。とにかく、この盤、ビル・エヴァンスのディスコグラフィー上、最大の異色盤であることは間違い無い。
 
 

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2026年1月15日 (木曜日)

ビル・エヴァンズの異色盤・1

ビル・エヴァンスのリーダー作の記事のコンプリートを目指しているのだが、いよいよ、ビル・エヴァンスのディスコグラフィーの中で、異色盤と呼ばれるものの記事に手を染める。今回は、ピアノが二台、ベース&ドラムの変則ピアノ・トリオ編成。当時、ニューホープのビル・エヴァンスと、もともとはヴァルブ・トロンボーンの名手、ボブ・ブルックマイヤーの双頭リーダー作になる。

Bob Brookmeyer & Bill Evans『The Ivory Hunters』(写真左)。1959年3月12日の録音。ちなみにパーソネルは、Bob Brookmeyer (p), Bill Evans (p), Percy Heath (b), Connie Kay (ds)。副題「Double Barrelled Piano」。ジャズ・ピアニストの ボブ・ブルックマイヤーとビル・エヴァンスによるアルバム。

ボブ・ブルックマイヤーは主にトロンボーン奏者として知られており、時折ピアノも担当していたが、このアルバムは彼がピアノのみで演奏した唯一のアルバムになる。まず、ブルックマイヤーのピアノの腕前に感服する。ジャズ・ピアニストとして一流の腕。ビル・エヴァンスのピアノと堂々渡り合っているから立派。
 

Bob-brookmeyer-bill-evansthe-ivory-hunte

 
ステレオの右チャンネルでリーダーを務めるエヴァンスと、左チャンネルで伴奏を務めるブルックマイヤー、一応、そういう聴き分けになるが、この聴き分けはあまり重要では無い。なぜなら、2人とも一流のピアニスト。特徴も良く似ている。そんな2人が、対位法と即興演奏を弾き分けていく。2人のパフォーマンスは、ポジティヴであり、楽しげでもある。

これはもう、アレンジの勝利だろう。対位法の活用、即興演奏の交換、加えて、エヴァンスとブルックマイヤー、2人のピアノの個性と特徴が似通っているので、とりわけ、対位法の活用がはまっている。収録された楽曲は全てスタンダード曲というのも良い。ダブル・ピアノでの弾き分けについてのアレンジの妙が良く判る。ダブル・ピアノでのフロント楽器の役割が実にユニークに響く。

この盤、まず「ジャケット」で引いて、なかなか手にすることが出来ない。タイトルが「アイボリ−・ハンター(象牙ハンター)」だからか、象の鼻が真っ直ぐ上に伸びた写真に、耳の部分、左がブルックマイヤー、右がエヴァンス。なんかちょっと不気味なジャケットで、このジャケットのせいもあって、この盤は「エヴァンスの異色盤」「エヴァンスのげてもの盤」と揶揄されるのだろう。しかし、内容は意外としっかりしていて、鑑賞に十分耐える。
 
 

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2025年7月 5日 (土曜日)

音は悪いが、好盤の『Nirvana』

以前、このアルバムは、エヴァンス・トリオについては、ベースがラファロからイスラエルズに代わって、バンドのグレードが一段落ちたとか、ラファロを失って、エヴァンスのピアノは暗くて不調だとか、評論家筋からとかく評判が悪く、確かにちょっと暗めのジャケットと相まって、ジャズを本格的に聴き始めた、ジャズ者初心者の頃は触手が伸びなかった。

Herbie Mann and The Bill Evans Trio『Nirvana』(写真左)。1961年12月8日、1962年5月4日の録音。ちなみにパーソネルは、Bill Evans (p), Herbie Mann (fl), Chuck Israels (b), Paul Motian (ds)。ビル・エヴァンスが、ベースのスコット・ラファロを事故で失った後、チャック・イスラエルズを迎えて結成したトリオの旗揚げ盤。フロントにファンキー・フルートの名手、ハービー・マンが参加している。

が、それから10年ほど経って、思い切って聴いてみたら、なんとなかなかの内容の良さで、以前の悪評は何だったんだ、と咄嗟に思った。恐らく、冒頭の2曲、「Nirvana」「Gymnopedie」が、エヴァンス・トリオとして、耽美的/印象派的志向な演奏の側に目一杯に振れた演奏で、この静的で墨絵の様な音の淡い広がりがメインのスローな演奏が、「暗い、不調」と曲解されたのだろう。
 

Herbie-mann-and-the-bill-evans-trionirva

 
逆に、ファンキー&ソウルフルなフルートのハービー・マンが、耽美的/印象派的志向なフルートにチャレンジした好演奏として、高く評価して良いパフォーマンス。バックのエヴァンス・トリオの演奏は淀みが無く、ハービー・マンのフルートを好サポートで支えている。特に、イスラエルズのベースが、ソリッドで歯切れの良いフレーズで印象的。全編に渡って、イスラエルズのベースは、ラファロのベースと比べて遜色無い、と僕は見ている。

3曲目「I Love You」から「Willow Weep for Me」「Lover Man」のスタンダード曲、そして、ラストのマン作の「Cashmere」については、エヴァンス・トリオは、メリハリ、ビートが効いたバップな演奏で、フロントのファンキー&ソウルフルナなハービー・マンのフルートを盛り立てている。

ピアノの音が割れていたり、ドラムの音の切れ味が不足していたり、と録音に何かと問題のある盤ではあるが、それはオーディオ的に評価すると「減点ポイント」ではあるが、バンド演奏のパフォーマンスを聴き取るという点ではあまり問題にはならない。この盤は、耽美的/印象派志向のフルートと、バップなフルートを吹きまくるハービー・マンと、イスラエルズを迎えた、新しいエヴァンス・トリオの「伴奏上手」を聴く盤だろう。オーディオ的な評価には目を瞑りたい。良いアルバムです。
 
 

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2025年6月17日 (火曜日)

『Undercurrent』を聴き直す。

最近、長年愛読している雑誌「レコード・コレクターズ(以降、レココレと略す)」の特集に、ジャズ/フュージョン関連の特集が載ることが多い様な気がする。最近では、ブルーノートの100枚とか、ECMレコードの45枚、とかの特集があって、意外と興味深く読んだりした。

そして、今月発売のレココレ2025年7月号の特集は「ジャズ/フュージョン・ギターの名演 洋楽編」。正確に言うと、モダン・ジャズ、クロスオーバー/フュージョン・ジャズの範疇の中の名盤・好盤の中で、ギターに特化して評価できるアルバムをピックアップして紹介している。

ついつい読み耽る中、これまでに当ブログで以前に記事にしたアルバムが懐かしく、ついつい、聴き直したくなった。今日のギタリストは「ジム・ホール」。

Bill Evans & Jim Hall『Undercurrent』(写真左)。1962年4月24日、5月14日の録音。ちなみにパーソネルは、Bill Evans (p), Jim Hall (g)。現代ジャズ・ピアノの源・ビル・エヴァンスと、プログレッシヴなギターの職人・ジム・ホールのデュオ盤である。モダン・ジャズの歴史上、最高のピアノとギターのデュオ盤である。

前にも書いたのだが、ピアノとギターは非常に良く似た楽器である。単音のみならず和音も出せる。アルペジオも出来る。弦を掻きむしることもできるし、和音を連続して弾くことで、リズム楽器としての機能を果たすことも出来る。音のスケールも似通っている。つまり、ピアノとギターはあまりに似通った楽器なので、デュオでコラボすると、音がぶつかったり、音が重なったりする。

このピアノとギターの「音がぶつかったり、音が重なったり」するのを、持ち前のハイ・テクニックで避けつつ、デュオとしてのインタープレイを展開し、上質のユニゾン&ハーモニーを醸し出さねばならない。これがかなり難度が高くて、ジャズの世界では、ピアノとギターのデュオはあまり無いのが実情。
 

Evans_hall_undercurrent

 
しかし、エヴァンスとホールの二人は、そんな難度の高いシチュエーションをいとも容易くクリアする。その奇跡的な、驚異的な演奏は、冒頭の「My Funny Valentine」に聴くことが出来る。

この「My Funny Valentine」の演奏のテンポの速さは異常である。この異常なテンポの速さの中、エバンスとホールは、限りなくテンション高く、呆れかえるほどの高度なテクニックを駆使しつつ、「音がぶつかったり、音が重なったり」するのを回避し、高速なインタープレイを展開し、上質のユニゾン&ハーモニーを叩き出す。

2曲目以降は、スローテンポからミドルテンポの演奏に終始するが、お互いに「絶妙の間」を活かした、非常にスリリングでありながら、余裕のある、優しく荘厳な内容のデュオ演奏を繰り広げる。例えば、5曲目の「Skating In Central Park」なぞ、絶品中の絶品。絶妙の間、柔らかな絡み、そして心地良い響きのユニゾン&ハーモニー。

そして、今回聴き直して、改めて感じたのは、エヴァンスとホールのデュオは「オフェンシヴ」で「ポジティヴ」。バップ・ピアノが基本のエヴァンス、バップ・ギターが基本のホール。どちらも演奏志向は「オフェンシヴ」で「ポジティヴ」。ところどころ耽美的に傾くが、それは、二人の演奏志向である「オフェンシヴ」で「ポジティヴ」を引き立てるためにある。

二人のデュオの特徴は「耽美的」にはあらず。二人のデュオの特徴は、ハイ・テクニックを前提とした「オフェンシヴ」で「ポジティヴ」なバップのインタープレイにある。この類まれなインタープレイを前提に、類まれなデュオ・パフォーマンスを繰り広げる。ジャズ・デュオ演奏の名盤中の名盤である。
 
 

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2024年4月 7日 (日曜日)

お蔵入りだった 『Loose Blues』

ビル・エヴァンスはジャズ界最高のピアニストの一人。活動期間は、初リーダー作が1956年。第一線で活躍の中、1980年9月に急死。約25年の活動期間だった。

約25年の第一線の活動期間の中で、ハードバップからモード・ジャズを自家薬籠のものとし、1970年代のクロスオーバー〜フュージョン・ジャズの時代にも、自らのスタイルを変えること無く、メインストリーム志向のビル・エヴァンス流の純ジャズなピアノを深化させた。

Bill Evans『Loose Blues』(写真左)。1962年8月21–22日の録音。ちなみにパーソネルは、Bill Evans (p), Zoot Sims (ts), Jim Hall (g), Ron Carter (b), Philly Joe Jones (ds)。ビル・エヴァンスがリーダー、ズートのテナー、ホールのギターがフロントのクインテット編成。ベースは、若き日のロン・カーターが担当している。

この盤の一ヶ月前に、同じクインテット編成(ズートの代わりにハバードのトランペット、ベースがヒース)での有名な録音に『Interplay』があるので、この有名盤の二番煎じか、と想像するのだが、聴いてみると、どちらかと言えば、『Loose Blues』の方が内容が充実している。ちなみに、この『Loose Blues』の音源は、『Interplay』の音源とは録音年月日が違うので、全くの別物である。

『Interplay』が先行してリリースされて、その1ヶ月後に同じクインテットの編成で『Loose Blues』が録音されて、当時のリヴァーサイド・レーベルとしては経営が苦しくなっていて、同傾向のアルバムを1〜2ヶ月のうちに2枚出しても売上げ貢献しない、との判断で、『Loose Blues』はお蔵入りしたのではないか、と思っている。
 

Bill-evansloose-blues

 
確かに、この『Loose Blues』は、1962年に録音〜お蔵入りして、1983年に我が国にて、単独のアルバム『Unknown Session』として、ようやく陽の目を見ている。米国では、マイルストーン・レーベルから『Loose Blues』のタイトルで再発されている。

さて、この『Loose Blues』の内容であるが、同時期録音の有名盤『Interplay』と比肩する、もしくは上回る充実度の高さである。まず、フロントを司る、ズートのテナー、ホールのギターが相性良く好調。とりわけ、ゆったりと余裕あるズートのテナーは、力感溢れ、歌心をしっかり宿したハードバップなテナーで、収録曲のどこ演奏でも「唄うが如く、語るが如く」で、リラックスして聴ける。

ズートのテナーが歌心をしっかり宿したハードバップなテナーなので、この盤でのフロントの相棒、ジム・ホールのギターは、いつになくプログレッシブでハードなアドリブ展開を披露する。「軟」のズートに「硬」のホール。このフロント楽器同士の対比、コントラストがなかなか良い。

ビル・エヴァンスのピアノを核とした、ロン+フィリージョーのリズム・セクションも適度に余裕ある、内容充実なバッキングを展開、フロントをユッタリ鼓舞し、リズム&ビートを要所要所でキッチリ締めて、なかなか聴き応えがある。テンションを張った、切れ味の良いリズム・セクションでは無いが、とても伴奏上手な、典型的なハードバップなリズム・セクション。これがまた良い。

ビル・エヴァンスのピアノとズートのテナーとの相性も良く、安心してリラックスして聴けるハードバップな佳作です。この後、ビル・エヴァンスは大手ジャズ・レーベルのヴァーヴ・レーベルに移籍、メインストリーム志向のビル・エヴァンス流の純ジャズなピアノを深化させていくことになる。
 
 

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2024年2月11日 (日曜日)

エヴァンスの『Half Moon Bay』

ジャズ・ピアノの伝説のレジェンド、ビル・エヴァンスが生前、リーダー作の録音を残したレーベルは、Riverside、Verve、Fantasy、Warner Bros.、Elektra が主だったところ。Milestoneレーベルからのリリースは「発掘シリーズ」。エヴァンスの逝去後、発掘された音源を、マネージャーだったヘレン・キーンと判断して正式リリースしたもの。

Bill Evans『Half Moon Bay』(写真)。1973年11月4日、カリフォルニア州ハーフムーン・ベイのバッハ・ダンシング・アンド・ダイナマイト・ソサエティでのライヴ録音。1998年、マイルストーン・レーベルからのリリース。ビル・エヴァンス逝去後、Milestoneレーベルからの「発掘シリーズ」の一枚。

ダイナミズム溢れるバップな弾きっぷりのエヴァンスが聴ける。ライヴでの録音なので、その時のエヴァンスの気分、調子がダイレクトに伝わってくる。この時、エヴァンスは「躁状態」だったようだ。とにかく、アドリブ・フレーズは、とりわけダイナミックにドライブするが如く弾(ひ)きまくる。

そんなエヴァンスに引っ張られて、ベースのゴメスも唄うが如く、アドリブ・フレーズを弾(はじ)きまくる。ゴメスはこの頃から、ライヴではピックアップを使用し始めたみたいで、うるさいくらいに「ブンブンブン」とソリッドに力感溢れるベース・ラインを弾(はじ)きまくる。
 

Bill-evanshalf-moon-bay

 
同じく、そんなエヴァンスに引っ張られて、理知的なドラミングが身上のモレルも、いつになく雄弁でスインギーなビートを叩き出している。モレルって、こんなにダイナミックに力感溢れるドラミングができるんだ、とちょっとビックリする。

そして、そんな「ダイナミックにドライブするが如く、弾(ひ)きまくる」エヴァンスが、「Waltz For Debby」「Autumn Leaves」「Someday My Prince Will Come」といった往年の超人気曲を再演しているのだから堪らない。エヴァンスオリジナルの「Time rememberd」も聴き応え十分。エヴァンスの本質である「バップなピアノ」が心ゆくまで楽しめる。

ビル・エヴァンスのピアノって「耽美的でリリカル」と思っている向きには、このライヴ盤の内容は「驚き」であり、これはエヴァンスではない、という感じになるだろうなあ。でも、この「バップ・ピアノ」な方がエヴァンスの本質なんで、この盤には違和感はありません。エヴァンスってライヴの時は、その時の気分や体調に大きく左右されるみたいですね。

発掘音源だけに、音質、録音バランスについては「やや難あり」。エヴァンス初心者の方々はパスしても良いライヴ盤で、エヴァンスの名盤を聴き続けて、エヴァンスの本質を理解し始めた、エヴァンス中級者の方々にお勧めのライヴ盤だと思います。
 
 

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