お蔵入りだった 『Loose Blues』
ビル・エヴァンスはジャズ界最高のピアニストの一人。活動期間は、初リーダー作が1956年。第一線で活躍の中、1980年9月に急死。約25年の活動期間だった。
約25年の第一線の活動期間の中で、ハードバップからモード・ジャズを自家薬籠のものとし、1970年代のクロスオーバー〜フュージョン・ジャズの時代にも、自らのスタイルを変えること無く、メインストリーム志向のビル・エヴァンス流の純ジャズなピアノを深化させた。
Bill Evans『Loose Blues』(写真左)。1962年8月21–22日の録音。ちなみにパーソネルは、Bill Evans (p), Zoot Sims (ts), Jim Hall (g), Ron Carter (b), Philly Joe Jones (ds)。ビル・エヴァンスがリーダー、ズートのテナー、ホールのギターがフロントのクインテット編成。ベースは、若き日のロン・カーターが担当している。
この盤の一ヶ月前に、同じクインテット編成(ズートの代わりにハバードのトランペット、ベースがヒース)での有名な録音に『Interplay』があるので、この有名盤の二番煎じか、と想像するのだが、聴いてみると、どちらかと言えば、『Loose Blues』の方が内容が充実している。ちなみに、この『Loose Blues』の音源は、『Interplay』の音源とは録音年月日が違うので、全くの別物である。
『Interplay』が先行してリリースされて、その1ヶ月後に同じクインテットの編成で『Loose Blues』が録音されて、当時のリヴァーサイド・レーベルとしては経営が苦しくなっていて、同傾向のアルバムを1〜2ヶ月のうちに2枚出しても売上げ貢献しない、との判断で、『Loose Blues』はお蔵入りしたのではないか、と思っている。
確かに、この『Loose Blues』は、1962年に録音〜お蔵入りして、1983年に我が国にて、単独のアルバム『Unknown Session』として、ようやく陽の目を見ている。米国では、マイルストーン・レーベルから『Loose Blues』のタイトルで再発されている。
さて、この『Loose Blues』の内容であるが、同時期録音の有名盤『Interplay』と比肩する、もしくは上回る充実度の高さである。まず、フロントを司る、ズートのテナー、ホールのギターが相性良く好調。とりわけ、ゆったりと余裕あるズートのテナーは、力感溢れ、歌心をしっかり宿したハードバップなテナーで、収録曲のどこ演奏でも「唄うが如く、語るが如く」で、リラックスして聴ける。
ズートのテナーが歌心をしっかり宿したハードバップなテナーなので、この盤でのフロントの相棒、ジム・ホールのギターは、いつになくプログレッシブでハードなアドリブ展開を披露する。「軟」のズートに「硬」のホール。このフロント楽器同士の対比、コントラストがなかなか良い。
ビル・エヴァンスのピアノを核とした、ロン+フィリージョーのリズム・セクションも適度に余裕ある、内容充実なバッキングを展開、フロントをユッタリ鼓舞し、リズム&ビートを要所要所でキッチリ締めて、なかなか聴き応えがある。テンションを張った、切れ味の良いリズム・セクションでは無いが、とても伴奏上手な、典型的なハードバップなリズム・セクション。これがまた良い。
ビル・エヴァンスのピアノとズートのテナーとの相性も良く、安心してリラックスして聴けるハードバップな佳作です。この後、ビル・エヴァンスは大手ジャズ・レーベルのヴァーヴ・レーベルに移籍、メインストリーム志向のビル・エヴァンス流の純ジャズなピアノを深化させていくことになる。
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