ピアノ・トリオの代表的名盤・100 『Portrait in Jazz』
ビル・エヴァンスは、明らかにクラシックに影響を受けたであろう印象派的な和音の重ね方、創意に富んだアレンジ、明快で端正なピアノ・タッチ、インター・プレイの積極的な導入が特徴。「リリカルで耽美的、繊細」の面ばかりがクローズアップされがちだが、この見方は偏った見方。
エヴァンスは曲毎に創意工夫あふれるアレンジの才を発揮、そのアレンジに応じて、ピアノの奏法を変えることの出来た、テクニックに優れたジャズ・ピアニストである。アグレッシブなピアノが要求されればアグレッシブなピアノを弾き、リリカルで繊細なピアノが要求されれば、リリカルで繊細なピアノを弾くことの出来る、優れたピアニストであった。
その「印象派的な和音の重ね方、創意に富んだアレンジ、明快で端正なピアノ・タッチ、インター・プレイの積極的な導入」が明確に理解できるアルバムが、Bill Evans『Portrait in Jazz』(写真左)。1959年12月28日の録音。ちなみにパーソネルは、Bill Evans (p), Scott LaFaro (b), Paul Motian (ds)。
実は、ジャズ初心者の頃、僕はこのアルバムを初めて手にした時、このアルバムの良さがさっぱり判らなかった。確かに、それぞれ収録された曲は美しい。冒頭の「Come Rain or Come Shine」、5曲目「When I Fall in Love」、8曲目「Spring Is Here」は確かに、リリカルで繊細。確かに、エヴァンスのピアノタッチは美しい。でも、それだけか?って感じだった。
有名な「枯葉」の2バージョン(モノラルとステレオの2バージョン)も確かに、美しい演奏なのだが、それだけ?って感じだった。当時、ジャズ入門書には、エヴァンスは「リリカルで耽美的、繊細」なピアニストとばかり紹介されていて、じゃあ、「Spring Is Here」「Peri's Scope」の弾むような、明るく、端正なタッチってなんなんだ、と思って、訳が分からなかった。
ビル・エヴァンスのピアノって、そのアレンジに応じて、ピアノの奏法を変えることの出来た、テクニックに優れたジャズ・ピアニストなんだ、って気づいたのは、かなり後になってから。自分なりに、ビル・エヴァンスのピアノについて、ビル・エヴァンスというミュージシャンについて、自分なりの解釈が出来るようになってから、ビル・エヴァンスのアルバムを聴くのが、楽しくなった。
そのアレンジの妙を一番感じ取れるのが『ポートレイト・イン・ジャズ』。「枯葉」などは、先に、キャノンボール・アダレイ名義で吹き込まれた『サムシン・エルス』に収録されたマイルス・デイヴィスの決定打があるんだが、これは、若干スローテンポなバラード。エヴァンスは、その逆、弾むような若干アップ・テンポなアレンジ、マイルスとは全く違った表情の「枯葉」を聴かせてくれる。加えて、イントロのアレンジ。これは圧倒的にエヴァンスの勝ち(だと僕は思う)。
『ポートレイト・イン・ジャズ』に収録された、どの曲もどの演奏も、実に良くアレンジされている。この優れたアレンジがあって、三者一丸となったインタープレイが可能になる。そして、エヴァンスの様々な表情を持ったピアノが堪能できる。そして、エヴァンスのピアノの最大の特徴は「明らかにクラシックに影響を受けたであろう印象派的な和音の重ね方」だということが理解できる。
エヴァンスのフォロワーは多いけど、エヴァンス・オリジナルのピアノの聴き分けポイントは、この「和音の重ね方」にあると、僕は思っている。
★ コメント&TBは、全て「松和のマスター」が読んでから公開される仕組みです。表示されるまで少し時間がかかります(本業との兼ね合いで半日〜1日かかる時もあります・・・ごめんなさい)。公開されたくないご意見、ご感想はその旨を添えて送信してください。
最近のコメント