2026年7月21日 (火曜日)

ジャズ演奏の重要要素=”編曲”

タッド・ダメロン(Tadd Dameron, 1917年2月21日 – 1965年3月8日没)は、ビ・バップの誕生と成熟を「洗練されたアレンジ(編曲)」という側面から支えたジャズマン。本作は全5曲すべてが、タッド・ダメロンによるオリジナル作品。このアルバムには、その卓越したアンサンブル・ライティングの才が遺憾なく発揮されている。

Tadd Dameron『Fontainebleu』(写真左)。1956年3月9日、Van Gelder Studio での録音。プレスティッジの7037番。ちなみにパーソネルは、Tadd Dameron (p), Kenny Dorham (tp), Henry Coker (tb), Cecil Payne (bs), Sahib Shihab (as), Joe Alexander (ts),, John Simmons (b), Shadow Wilson (ds)。モダン・ジャズの発展において重要な役割を果たした名ピアニスト兼編曲家、タッド・ダメロンのリーダー作。

タッド・ダメロンは、ビ・バップの「ロマンティシスト(叙情派)」と呼ばれ、力業的アクロバティックな即興演奏が主流だったビ・バップ時代において、オーケストレーション(編曲)の美しさを持ち込んだ先駆者とされる。本作は、1949年にマイルスらとパリのジャズ・フェスに参加したダメロンが、現地で訪れたフランスの「フォンテーヌブロー宮殿」の美しさに深い感銘を受け、その情景を音楽で表現したコンセプト・アルバムとなっている。
 

Tadd-dameronfontainebleu  

 
このアルバムのパーソネルを見渡せば、8人編成での演奏。しかし、まるでビッグバンドを聴いているかの様な「重厚かつ色彩豊かな響き」を実現、ジャズが「単なる娯楽音楽から芸術音楽へと進化する過程」を示す1枚として評価が高い。冒頭のタイトル曲「Fontainebleau」は、仏の宮殿に感銘を受けて書かれた、アルバムのコンセプトを象徴するこの曲を聴けば、その狙いが当時の「先をいくもの」という

冒頭の「Fontainebleau」アドリブ・ソロを一切含まない通作歌曲で、管楽器隊の響きが美しい。続く「Delirium」はスリリングで典型的なビ・バップなナンバー、管楽器隊の複雑なアンサンブル。3曲目『The Scene Is Clean』は、メロディアスで気品溢れるバラード。4曲目「Flossie Lou」の独自の洗練されたホーン・アレンジ、ラストの「Bula-Beige」は、ドラマチックな組曲風で、各ソリスト達の実力を存分に引き出す巧みな構成。

このアルバムは、ジャズ盤鑑賞の定石、ジャズマン毎のソロ演奏の素晴らしさとか、グループ全体の演奏の優秀性とか、で聴くべきアルバムではないだろう。オーケストレーション(編曲)の美しさに着目し、それを実現し、ジャズが「単なる娯楽音楽から芸術音楽へと進化する」ひとつの重要要素の成功例を提示した、そんな企画盤である。ジャズ演奏の重要要素に「編曲」がある、ということをこのアルバムは教えてくれる。
 
 

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2026年7月20日 (月曜日)

AEOCの”Great Black Music”

ECMレコード・カタログの1100〜1200番台のカタログを見ていて、アート・アンサンブル・オブ・シカゴのアルバムが、ECMレコードのもとで4枚もリリースしていることに気がついた。

今から語るアルバムは、アート・アンサンブル・オブ・シカゴ(AEOC)が、5年間のレコーディング活動休止を経てリリースした最初のアルバムであり、ECMレーベルからのグループ初のアルバムである。

Art Ensemble of Chicago『Nice Guys』(写真左)。1978年5月、独の「Tonstudio」での録音。ECMの1126番。ちなみにパーソネルは、Lester Bowie (tp, celeste, b-ds), Joseph Jarman (sax, cl, perc, vo), Roscoe Mitchell (sax, cl, fl, perc), Malachi Favors Maghostut (b, perc, melodica), Famoudou Don Moye (ds, perc, vo)。

シカゴ派フリージャズの伝説的グループであるアート・アンサンブル・オブ・シカゴ(Art Ensemble of Chicago=AEOC)の、ECMレーベルでの初のアルバム。活動休止以降、5年振りのアルバムであり、グループにとって大きな転換点となったアルバムでもある。

1960年代後半から、アフリカの民族音楽や演劇的な要素を取り入れたアヴァンギャルドな即興演奏で知られていた彼らが、プロデューサーのマンフレート・アイヒャー率いるECMとタッグを組んだ作品。

ECMレコードのアルバム制作方針と録音手法により、従来の荒々しいフリー・ジャズとは一線を画す、整理されたエレガントな空間構成と緻密なアンサンブルがメインのフリー・ジャズに変身しているのが判る。
 

Art-ensemble-of-chicagonice-guys

 
5人のメンバーそれぞれが作曲を手掛け、ユーモア、アブストラクト、叙情性など多彩な世界観が1枚に凝縮されている。彼らの特徴は、サックスやベースといった通常のジャズ楽器に加え、「リトル・インストゥルメンツ(おもちゃの楽器)」と呼ばれる無数の小楽器を使用することです。これが、他のフリー・ジャズな演奏との大きな差異化要素のひとつになっている。

この盤でのAEOCのフリー・ジャズの特徴は、従来の一般的なフリー・ジャズの、エモーショナルなエネルギーの爆発や、高密度で激しい即興演奏では無く、音と音の間のスペースを重視した、静寂と空間を聴かせるフリー・ジャズであるということ。この「音の引き算の美学」は、従来のフリー・ジャズの熱量とは対極にある、現代音楽に近い緻密な空間構成を持っている。これが、AEOCならではの、唯一無二のフリー・ジャズになっている。

加えて、多くのフリー・ジャズが政治的メッセージや精神性を帯び、シリアスで難解な方向へ進む中、AEOCは演劇的なユーモアを前面に出している。

1曲目の「Ja」が象徴的で、フリー・ジャズの不穏な空気から突如として、当時最先端のポップスであった「レゲエ」のリズムへとジャンプする。リトル・インストゥルメンツを鳴らし、コミカルな歌声を即興の中に融合するスタイルは、シリアス一辺倒だったフリー・ジャズにおいて極めて異質であり、ポップかつ批評的な新しさを持っている。

そういうAEOCのフリー・ジャズは、自らの音楽をフリージャズという枠に留めず、「古代から未来へ(Ancient to the Future)」を掲げた「Great Black Music」と呼んでいる。R&B、レゲエ、ゴスペル、ファンクなど、黒人音楽の歴史すべてを内包したアプローチが、本作でより洗練された形で提示されている。欧州系フリー・ジャズの名盤です。
 
 

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2026年7月19日 (日曜日)

ユッコのデビュー10周年盤です

この10周年アルバムには3つの特徴がある。一つ目は「初の全曲オリジナル」。過去の作品で見せた優れたカヴァー演奏を封印し、全10曲すべてを自身が作曲。ソングライター・編曲家としての進化が確認できる。二つ目は「こだわりの一発録り」。ライブさながらの息の合った生々しいグルーヴがそのまま録音されている。三つ目は「新たな表現への挑戦」。ソプラノ・サックスのプレイを多く取り入れ、一部楽曲では自身によるボーカルも披露している。

Yucco Miller『Bloomin'』(写真左)。2026年2月のリリース。ちなみにパーソネルは、ユッコ・ミラー (sax), 平手裕紀 (p, key), 中村ヒロキ (b), Dennis Lwabu (ds), 一彩 (taiko)。ピンクヘアーのエキセントリックなビジュアルと卓越した演奏力とのギャップが人気のジャズ・サックス奏者、ユッコ・ミラー。そんなユッコ・ミラー自身、初の全曲オリジナルとなるメジャー・デビュー10周年アルバム。

冒頭の「Miracle Shine」がこのアルバムの雰囲気、内容、出来を代表している。四つ打ちのダンサブルなアッパー・チューン。ユッコ・ミラーの愛器「YAMAHA YAS-62(初期モデル)」のポテンシャルを最大限に引き出して、とても良い音で鳴っている。まさに“踊れるジャズ”を体現する一曲。この音が、この演奏が、ユッコ・ミラーのメジャー・デビュー10周年の音である。
 

Yucco-millerbloomin  

 
2曲目「Hair Style」と9曲目「Anemone」では、ユッコ・ミラー自身が作詞とボーカルを担当している。普段の超絶技巧のカッ飛びサックス・プレイとは打って変わって、空気に優しく溶け込んでいくような、柔らかい歌声が新鮮に響く。意外といっては失礼だが、このボーカルがなかなか良い感じ。フュージョン志向のボーカルとして一級品である。

3曲目「3-3-7」と8曲目「AKUJYO」では、太鼓パフォーマー・一彩(Taiko)をゲストに迎え、「和楽器×ジャズ」の融合に挑戦した楽曲。「和楽器×ジャズ」の融合については、1970年代のフリー・ジャズ畑を中心に、何枚かのアルバムの成果はあったが、近年では珍しい。お互いの限界をぶつけ合った壮絶なアンサンブルが素晴らしい。

当アルバム『Bloomin'』のサウンドは、本人曰く「トッピング全部入りのラーメン」。メジャー・デビュー10周年を迎えた彼女が「今やりたいこと」をストレートに詰め込んだ、バラエティ豊かで生々しいエネルギーに満ちたサウンドが最大の特徴である。音的にも、今までのフュージョン・ジャズ志向というより、ストレート・アヘッドな、コンテンポラリー・ジャズと評価出来る。、着実にステップアップした秀作だと僕は思う。
 
 

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2026年7月18日 (土曜日)

クリス・ポッターの異色の企画盤

1859年にアメリカで起きた「ハーパーズ・フェリー襲撃事件」と、その中心人物である奴隷制度廃止運動家 John Brown(ジョン・ブラウン)の物語にインスパイアされている。アメリカの核心にある矛盾や暴力、理想、そして現代にも通じる未解決の緊張感をテーマに描いた、コンセプチュアルで社会派な作品。歴史的にジャズが得意とする一作品ジャンルである。

Chris Potter『Alive with Ghosts Today』(写真左)。2025年3月24〜26日、NYでの録音。2026年5月にリリース。ちなみにパーソンネルは、Chris Potter (ts, ss), Bill Frisell (g), Rane Moore (cl), Zekkereya El-magharbel (tb), Sara Caswell (vln), Burniss Travis (b), Nate Smith (ds)。「限られた楽器編成ながらも深い個性を持つ 小さな町のバンド」のような響きを目指し、独自の変則的なアンサンブルを編成している。

本作はブルースやフォーク、現代音楽を想起させる和声、力強いリズム&ビートが交錯する、泥臭くも美しい「米国ルーツ・ミュージック」を彷彿とさせる、スピリチュアルなサウンドが特徴。19世紀のアメリカ奴隷解放の歴史、不屈の精神、そしてアメリカの「ルーツ」が、ジャズの即興演奏を通じて、より立体的に浮かび上がる仕掛けになっている。
 

Chris-potteralive-with-ghosts-today

 
アルバムの核となる楽曲群はクリス・ポッターのオリジナル作曲だが、曲の終盤の展開や一部フレーズには「John Coltrane / Traditional: 『Song of the Underground Railroad(地下鉄道の歌)』の要素、「Antonin Dvořák: 交響曲第9番『新世界より』第2楽章の『Going Home(家路)」を一部抜粋・引用しているのが特徴。アレンジに相当な力を入れているのが判る。

奴隷制度廃止運動家、ジョン・ブラウンの足跡を追うように、アルバムは厳かに展開していく。フロント陣に通常の管楽器セクションに加え、ヴァイオリン、クラリネット、トロンボーンを配した変則的なアンサンブルと、現代ジャズ界の最高峰であるリズムセクションの対話が見事。特に、リーダーのポッターのエモーショナルなサックスの咆哮と抑制された吹奏は、嫌が応にも、スピリチュアルな響きを増幅させている。

古き良きアメリカの「小さな田舎町のバンド」のような素朴で生々しい響きとゆったりしたテンポの演奏は、現代の「コンテンポラリーなスピリチュアル・ジャズ」な響きを湛えていて、実に個性的な内容になっている。演奏の響きは、ブルースやフォークの「泥臭さ」をあえて残した、エモーショナルで力強いトーンで、米国ルーツ・ミュージック志向の音世界を展開している。異色の企画盤。ジャズとして優れた内容だと僕は思う。
 
 

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2026年7月17日 (金曜日)

タイトルは『エヴァーグリーン』

最近の当ブログの記事は、1950年代から1960年代のブルーノートやプレスティッジの隠れ好盤とか、ECMレコードの1100番台とか、CTIレーベルの全作品の記事化とか、レーベルのアルバム・カタログを片っ端から記事化する、なんてことを進めているが、最近のジャズについても、時間を見つけては、都度、聴いている。決して、懐古趣味、昔のアルバムに偏ったリスニングにはならないように心がけている。

Julius Rodriguez『Evergreen』(写真左)。2024年6月のリリース。ちなみにパーソネルは、曲によって異なるので、以下を参照されたい。ジュリアス・ロドリゲス本人のマルチ演奏を中心に、楽曲ごとに多数の気鋭ミュージシャンを迎えて、ロサンゼルスで録音されている。

Julius Rodriguez (p, key, syn, cl, g, b,ds), Nate Mercereau (g-syn :#1,#3, el-g :#4, #9), Philip Norris (b :#2, #3, #5, #7, ds :#5, ), Nicole McCabe (as :#1, #3), Chris Lewis (ts :#7), Emilio Modeste (sax :#9), Alonzo Demetrius (tp :#3, #7), Keyon Harrold (tp :#8), Jermaine Paul (b :#10), Declan Miers (el-b :4), Brian Richburg Jr. (ds :#2, #3), Luke Titus (ds :#1), Tim Anderson (ds-program :#2, #5), Jay Adlher (vo :#4)Georgia Anne Muldrow (vo :#10), Maddi St John (back-vo :#4)。
 

Julius-rodriguezevergreen

 
従来のジャズという枠組みに囚われず、ゴスペル、R&B、ポップス、サイケデリック・ロック、エレクトロニックなどの要素をシームレスにに融合させた、ジャンルレスなサウンド。現代のコンテンポラリーなクロスオーバー・ジャズといった内容。

僕は冒頭の「Mission Statement」で、グッと心を掴まれた。アルバムの方向性を提示する様な、疾走感のあるオープニング曲。マケイブのアルト・サックスと、マーセローによる浮遊感のあるギター・シンセがユニゾン&ハーモニーを奏で、モダンでダイナミックなアンサンブルを展開する。これが、まるで、プログレッシヴ・ロックみたくもあり、コンテンポラリーなエレ・ジャズみたくもあり、この音世界は今までに無い。現代のコンテンポラリーなクロスオーバー・ジャズである。

すべての曲において、ゲスト・ミュージシャンの組み合わせや、ジュリアス自身が担当する楽器の構成が毎回異なっており、1枚のアルバムでありながら、曲ごとに全く異なるセッションの様な、ロドリゲスの音のショーケースの様なサウンドがこの盤の特徴。

タイトルの『エヴァーグリーン(時を経ても色あせない)』の通り、「ジャンルに縛られない不変の音楽」を追求した作品。ロドリゲス自身がピアノ、シンセサイザー、ドラム、ベース、ギターなど、ほぼすべての楽器を演奏するマルチな才能が遺憾なく発揮されている。「Z世代のジャズ」を象徴する一枚。好盤です。
 
 

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2026年7月16日 (木曜日)

ECMのスピリチュアル・ジャズ

英国の現代ジャズ・トリオであるAzimuth(アジマス)。ブラジルの有名なクロスオーバー/フュージョン・バンド「Azymuth(アジムス)」とは異なる(気を付けたい)。本作の「アジマス」はイギリスの即興音楽や現代ジャズにおける重要人物たちによって結成された室内楽的ジャズ・トリオである。

Azimuth『The Touchstone』(写真左)。1978年6月、オスロの「Talent Studio」での録音。ECMの1130番。ちなみにパーソネルは、John Taylor (p, org), Kenny Wheeler (tp, flh), Norma Winstone (vo)。トランペット奏者のケニー・ウィーラー、ボーカリストのノーマ・ウィンストン、ピアニストのジョン・テイラーで構成された変則トリオ編成。とことんECMのサウンド・イメージを踏襲したスピリチュアル・ジャズ。

テイラーによるミニマルで催眠的なパルス・パターンやリリカルなピアノの旋律が演奏全体をリードしながら、ウィンストーンの楽器の一部として溶け込むような美しいヴォイス・パフォーマンスと、ホイーラーの哀愁を帯びたトランペットの音色とが、独創的かつスピリチュアルな絡み合いで、フレーズを紡ぎ上げていく。そこに、ECMらしい透明感のある、深いエコーの音響空間の中で、静謐ながらも緊張感に満ちた独自の即興演奏が展開される。
 

Azimuththe-touchstone  

 
実にユニークな即興演奏の世界。ECMレコードでしか為し得ない、欧州的で現代音楽志向な、ECMならではのスピリチュアル・ジャズの音世界。ウィンストンのボイス&ボーカルが効いている。これが明らかな差異化要素。歌詞を歌うだけでなく、自身の声を楽器のように扱う「ヴォイス」という即興表現が唯一無二である。このボーカルが、このあるアルバムの浮遊感&静謐感の中で、幽玄にスピリチュアルに響く。ボーカルを一つの楽器として扱う。見事である。

全曲の作曲をピアニストのジョン・テイラーが担当。現代音楽家スティーヴ・ライヒからの影響を強く感じさせる、ミニマルなピアノの反復パターンが催眠的であり、叙情的であり、ジャズで言うビートとグルーヴを提供している。このテイラーのピアノが、即興演奏ジャズの要となるリズム&ビートをしっかりと恐々している。そして、そこに、哀愁を帯びたホイーラーのホーンと、歌詞を持たないウィンストンの幽玄なヴォイスがレイヤリングされていくのが最大の特徴である。

アジマスの個性である「催眠的なミニマリズムと静謐な抒情性」が最大限に発揮されたアルバム。その変則的な楽器編成とスピリチュアルな音世界から、従来のジャズの枠に収まらない、ECMらしい「ニュー・ジャズ」として捉えられていたが、アンビエントやニューエイジ、チルアウト・ミュージックの先駆としての評価も高まっている。とにかく、とてもECMらしい音世界であり、スピリチュアルなジャズ世界である。
 
 

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2026年7月15日 (水曜日)

ワールド・ミュージック系即興盤

コドナ(Codona)は、アメリカのシタール・タブラ奏者であるコリン・ウォルコット、ジャズ・トランペット奏者のドン・チェリー、ブラジルのパーカッション奏者のナナ・ヴァスコンセロスの3人がメンバー。

ジャズ、インド古典音楽、ブラジル音楽、アフリカの伝統音楽など、世界中のあらゆるルーツ・ミュージックを融合させた「ワールド・ミュージック」の先駆的な存在である。グループ名は、3人の名前(Collin, Don, Naná)の頭文字を組み合わせて名付けられた、とのこと。

Collin Walcott,  Don Cherry, Naná Vasconcelos『Codona』(写真左)。1978年9月、独の「Tonstudio」での録音。ECMの1132番。 ちなみにパーソネルは、グループ名「Codona」で、Collin Walcott (sitar, tabla, hammered dulcimer, kalimba, vo), Don Cherry (tp, wood-fl, doussn' gouni, vo), Naná Vasconcelos (perc, cuica, berimbau, vo)。1978年に結成された、伝説的なワールド・ミュージック/フリー・ジャズ・トリオのファースト・アルバム。

全編を聴き通して思うのは、何だか「日本の雅楽」に良く似ているフレーズがガンガンに出てくる、ということ。透明感あふれる詩的なアンサンブルと、独自のスピリチュアルな音響空間が個性なのだが、とにかく「日本の雅楽」を想起するフレーズが印象的。ドン・チェリーのフルートや木管楽器: 雅楽で宇宙や空間を切り裂くように鳴り響く「龍笛(りゅうてき)」や「篳篥(ひちりき)」の掠れた、息づかいを感じる響きに酷似している。
 

Collin-walcott-don-cherry-nana-_20260715195201

 
そして、コリン・ウォルコットのシタールが、シタール特有の「バズ音(共鳴弦のジーンという残響)」や持続音は、雅楽で天から降り注ぐ光を表すオルガンのような和音を奏でる「笙(しょう)」の持続音と、空間的な役割が非常に近い。ナナのパーカッションは、コリンのインド音楽の静寂と、ドンのジャズの自由さを、ブラジル音楽の「生命力で包み込む様な」リズム&ビートで演奏のボトムをしっかり支える。

インド音楽のシタール、ブラジルのビリンバウ、ジャズのポケット・トランペットが対等に、かつ極めて高い精神性をもって融合された様は、ワールド・ミュージック系即興演奏ジャズの出発点であり、ワールド・ミュージック系スピリチュアル・ジャズの萌芽である。緊迫感と開放感が共存する静謐な音世界は、ECMレーベルの美学を純粋に体現したといっていい。

お互いの呼吸や空気感を察知しながら音を重ねていく引き算の美学。この張り詰めた静寂と、音が消えていく余韻を大切にする演奏は、まさに日本の伝統音楽や雅楽の持つ「間」の感覚そのもの。

しかしながら、1984年11月にコリン・ウォルコットがツアー中の交通事故により39歳で急逝したため、トリオの活動は、アルバム3枚を残して、幕を閉じました。この残されたアルバム3枚、ワールド・ミュージック系即興演奏ジャズの傑作だと思います。
 
 

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2026年7月14日 (火曜日)

デジョネットの”New Directions”

ECMレコード・カタログの1100番台(#1101-1199)の当ブログでの記事化のコンプリートを目指している。1000番台については、全くの現代音楽志向(ECMのアイヒャーはこれが好きみたい)の即興演奏のアルバムについては記事化を控えたが、その他のアルバムについては記事化が完了している。そして、次は1100番台。これが結構、記事化が進んでいない。

Jack DeJohnette『New Directions』(写真左)。1978年6月の録音。ECMの1128番。ちなみにパーソネルは、Jack DeJohnette (ds, p), John Abercrombie (g, el-mandolin), Lester Bowie (tp), Eddie Gómez (b)。屈指のポリリズミックなドラマー、ジャック・デジョネットがリーダー。基本はピアノレス、ギターとトランペットがフロントと変則カルテット編成。曲によって、デジョネットがピアノを弾いている。

デジョネットの「一見交わりそうにない、強力で異なる個性を持ったキャラクターを一堂に会する」というアイデアのもと、集められたメンバーらしい。デジョネットのドラム、ゴメスのベースという、メインストリーム志向の純ジャズなリズム隊に、アート・アンサンブル・オブ・シカゴから、トランペットのレスター・ボウイ、欧州ジャズ志向のソリッドでストレートで、プログレッシヴなギターのジョン・アバークロンビーと、確かに一見どころか、こんなチャンスでもないと未来永劫交わることの無いメンバーである。
 

Jack-dejohnettenew-directions  

 
ディジョネットの空間的かつシャープなポリリズミックなドラミング、ジョン・アバークロンビーの浮遊感溢れる捻れギター、そしてエディ・ゴメスの堅実なベース。この3人が創り出すECMらしい透明感のあるサウンドがベースとなって、そこにフリー・ジャズ界の奇才レスター・ボウイが加わる。独特の緊張感と実験精神の下、そしてスピリチュアルでモーダルな即興演奏が展開されている。そして、時折、静寂とカオスが織りなす緊張感が顔を出す。

アバークロンビーのアタック感を消した、浮遊感のあるギター&エレクトリック・マンドリンが、アルバム全体にスピリチュアルなトーンを与え、アヴァンギャルドなボウイのトランペットが、ハーフバルブを駆使した歪んだ音、うなり声のようなグロウ・トーン、叫び声のようなハイノートなどを多用して、そのスピリチュアルなトーンを増幅する。そして、デジョネットとゴメスの変幻自在、硬軟自在、緩急自在なリズム&ビートが、フロントの二人をがっちりサポートしている。

ECMの洗練された欧州的なニュー・ジャズの音世界と、米国ブラック・ジャズの生々しいダイナミズムとの完璧な融合がここにある。緻密な4ビートや美しいモーダル・ジャズ(伝統)、フリー・インプロビゼーション(前衛)、そしてエレクトリック・ギターやマンドリンを取り入れたクロスオーバーなアプローチ(フュージョン)が、1枚のアルバムの中に違和感なく同居している。1970年代ジャズの名盤の一枚。
 
 

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2026年7月13日 (月曜日)

レイニーの70年代の傑作の一枚

ジミー・レイニー(Jimmy Raney・1927年8月20日 - 1995年5月10日)は、アメリカ合衆国ケンタッキー州ルイビル生まれのアメリカ人ジャズギタリスト。1946年よりギタリストとして活動。ハードバップ時代を駆け抜け、1967年、アルコール依存症やその他の職業上の問題により、NYを離れ、故郷のルイビルに戻る。1970年代にカムバック、ルイビルで心不全のため死去するまで、活動を続けた。

Jimmy Raney『Momentum』(写真左)。1974年7月21日、NYのRCAスタジオでの録音。ちなみにパーソネルは、Jimmy Raney (g), Richard Davis (b), Alan Dawson (ds)。モダンジャズ・ギターの達人であるジミー・レイニーが、1974年に録音し、ドイツの名門レーベル「MPS」から1975年に発表したピアノレス・トリオ編成の好盤である。本作は、レイニーが1970年代に本格的なカムバックを遂げた彼の円熟期の妙技を堪能できる秀作。

白人ギタリストの代表格、ジミー・レイニーのギターは、ファンクネスや音の粘りや翳りが希薄で、テクニックを全面に押し出した、素直でシンプルで硬質なギター。1950年代にどっと現れた白人ギタリストの音である。明らかに、チャーリー・クリスチャンから派生したタル・ファーロウ〜バーニー・ケッセルの流れの中にある音。このアルバムでは、そんな燻し銀の様な、職人芸的ジャズ・ギターが堪能出来る。
 

Jimmy-raneymomentum

 
全編を通して、オーソドックスな、流麗で知的なシングル・トーンが展開される。エフェクターに頼らないストレート・アヘッドなジャズ・ギター。フレーズのアイデアが湧き出る様に溢れ出すプレイが最大の聴きどころ。エリック・ドルフィーやヴァン・モリソンとの共演で知られる重厚ベースのリチャード・デイヴィスと、デイヴ・ブルーベックらと活動した敏腕ドラマーのアラン・ドーソンが脇を固め、このリズム隊のスイング感が、レイニーを煽りに煽る。

本作はジミー・レイニーのオリジナル曲が2曲、ジャズ・スタンダードが4曲という構成になっている。レイニー自身のオリジナル曲の演奏は良いのは当たり前として、このアルバムでは、スタンダード曲におけるパフォーマンスが聴きもの。「Autumn in New York」について、このトリオによる演奏はジャズ・ギター史に残る屈指の名演のひとつとされる。僕はラストの「Just Friends」が好きだなあ。

本作は、ジャズ・プロデューサーのドン・シュリッテンに促される形でシーンに完全復帰を果たした、彼のカムバック劇を象徴する一枚。ピアノレスのギター・トリオのハイレベルな妙技が堪能出来る。ベース〜ドラムスとのトリオ編成で展開される、レイニーの円熟期のパフォーマンス。これ、1970年代のジャズ・ギター盤の傑作の一枚だと思います。
 
 

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2026年7月12日 (日曜日)

スーパーサックスの4枚目の盤

スーパーサックスは、モダンジャズの父であるアルトサックス奏者チャーリー・パーカー(愛称:バード)の残した天才的な即興ソロを、5人編成のサックス・セクションによって完璧にハモらせて再現するというコンセプトで作られた超絶技巧集団である。本作は彼らの4作目にあたるアルバムで、ドイツの老舗ジャズレーベルであるMPSレコードからリリースされた。

Supersax『Chasin` The Bird』(写真左)。1976年7月〜9月の録音。ちなみにパーソネルは、Blue Mitchell, Conte Candoli (tp), Frank Rosolino (tb), Jay Migliori, Warne Marsh (ts), Joe Lopes, Med Flory (as), Jack Nimitz (bs), Lou Levy (p), Fred Atwood (b), Jake Hanna, John Dentz (ds)アレンジが、Buddy Clark (#8), Med Flory (曲: #1 to #3, #5-6, #9), Warne Marsh (曲: #4, #7)。

緻密にハモる5本のサックス・セクションと、ソロ層を支える一流のリズム・セクションおよび管楽器のゲストで構成されている。タイトル曲をはじめ、パーカーの歴史的名演や珠玉のビバップ・ナンバーが、驚異的なスピード感と一糸乱れぬアンサンブルで鮮やかに蘇っている。その職人技とも言える極上のアンサンブルは見事という他は無い。
 

Supersaxchasin-the-bird

 
アルバムの冒頭「Shaw 'Nuff」は、超高速ビバップ・ナンバー。チャーリー・パーカーとディジー・ガレスピーの伝説的な演奏をベースに、5本のサックスが一糸乱れぬ驚異的なスピードでシンクロする、グループの超絶技巧が最も堪能できる1曲。この1曲だけでも、スーパサックスの実力が良く判る。とにかく、聴いていて楽しい。

続く「A Night in Tunisia(チュニジアの夜)」は、超有名スタンダード曲。パーカーが残した有名な「アルトサックス・ブレイク(無伴奏のソロフレーズ)」の瞬間を、なんと5本のサックス全員で完璧にハモらせて再現している。これにはビックリした。6曲目の「Round Midnight」だけが、直接、パーカーにゆかりの無い曲なので、あしからず(笑)。

こういう企画には優れたアレンジが必須。サックス・セクションの緻密な編曲には、グループのリーダーであるメド・フローリーのほか、クール・ジャズを代表するテナー・サックス奏者のウォーン・マーシュらもアレンジャーとして名を連ねている。ビバップの歴史的名曲・名演を、スーパーサックス用に見事にアレンジしている。1970年代のジャズ好盤である。
 
 

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