2026年5月11日 (月曜日)

1968年のマイルスを聴き直す

このところ、ブルーノートの4300番台をカタログ順に聴き直していて、このブログにまだ記事にしていないアルバムを集中聴きしているのだが、どれもが、そんな時代だったのだろう、売らんが為のアレンジ、音作りになっていて、聴き進めるにつけ、食傷気味になってきた。

どのアルバムも、1968年から1971年の録音がメイン。ソウル・ジャズなアレンジ、R&B志向の音作り&ビート、聴き手に訴求するイージーリスニングな味付け。これはこれでジャズ、と認めてはいるが、ジャズの本質である「即興演奏」は二の次、丁々発止とした、手に汗握る様な「インタープレイ」は無い。とにかく「聴き心地」優先。ちょっと辛くなってきた。

MIles Davis『Miles in The Sky』(写真)。1968年1月16日、5月15–17日の録音。パーソネルは、Miles Davis (tp), Wayne Shorter (ts), Herbie Hancock (p), George Benson (g), Ron Carter (b), Tony Williams (ds)。マイルスが初めて電気楽器を導入したアルバム。つまりは、エレ・マイルス発祥のアルバムである。

では、1968年の録音って、例えば、マイルスだったら、どのアルバムになるのか。ぱっと出てきたのが『Miles in The Sky』。エレ・マイルス発祥の記念すべきスタジオ録音盤なんだが、電気楽器の大々的導入でジャズの幅を広げたが、リズム&ビートの面でも、8ビートと変則拍子の標準採用という「スインギーな4ビートの訣別」によっても、ジャズの幅を大きく広げている。
 

Miles_in_the_sky_1

 
演奏を聴く。フロントは、マイルスのトランペット、ショーターのテナー、ベンソンのエレギ。切れ味良くほど良く尖った「即興演奏&インタープレイ」が怒濤の様に耳に迫り、疾走する。実にアーティスティックな演奏で、ジャズが「音楽芸術」の1ジャンルであることを思い出させてくれる。我々は「正当なジャズを演奏している」という矜持をバリバリ感じる。

売らんが為のアレンジ、音作りなんて微塵も無い。ただただ自らが「メインストリームなジャズ」と信じるアレンジと音作り。ストイックでシビアな音作りなんだが、ジャズ者の我々の耳には、ガッツリと訴求する。イージーリスニング志向なんてどこにも無い。ゴツゴツとした手応えのある、ジャジーなパフォーマンスの応酬。

8ビートと変則拍子の標準採用したリズム・セクションもエグい。トニーが喜々として、8ビートと変則拍子を高速ポリリズミックに叩きまくる。フェンダー・ローズとガッチリ組み合い、ジャズ・ファンクなエレ・ビートを叩き出そうと苦闘するハンコック。8ビートと変則拍子のベースラインを難なく紡ぎ出すロン。このリズム・セクションだからこそ、純正な「エレ・マイルス」をスタートすることが出来た。

これが、1968年のマイルスの音世界。どこか安堵する自分がいる。電気楽器&8ビートと変則拍子の標準採用の中で、限りなく自由度の高い「即興演奏」が基本のモード・ジャズを展開する。これが、マイルスのジャズの可能性の広げ方。これは21世紀になった今でも、ジャズの世界では「基本中の基本」。フリーもスピリチュアルも、このマイルスの広げたジャズの中に収斂されていった。
 
 

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2026年5月10日 (日曜日)

ジャズ・ファンクを走るファレル

CTIレーベルに来て、正統派クロスオーバー・ジャズなアルバムを制作してきたジョー・ファレル。よりファンキーな路線へと舵を切ったCTI第4作目が『Penny Arcade』。そして、CTI第5作目である。より骨太でロック色の強いフュージョン・サウンドへの傾倒が色濃い、ジャズ・ロック/ジャズ・ファンクの好盤である。

Joe Farrell『Upon This Rock』(写真左)。1973年10月, 1974年3月の録音。ちなみにパーソネルは、Joe Farrell (ts, ss, fl), Joe Beck (g), Herb Bushler (b), Jimmy Madison (ds)。ゲストに、Steve Gadd (ds, on "I Won't Be Back"), Herbie Hancock (p, on "I Won't Be Back"), Don Alias (conga, on "I Won't Be Back")。全4曲で構成され、ジャズの即興性とロックのダイナミズムが高度に融合したクロスオーバー・ジャズである。

1作目"Penny Arcade" 、2作目 "Upon This Rock" 、3作目 "Canned Funk" の三作品は、ギターにジョー・ベックを入れてかなりファンク色の強い演奏をしている。その2作目である。この作品の実質的な「共同リーダー」とも称されるギタリスト、ジョー・ベックの存在感が非常に大きいのが特徴。ジョー・ベックのファンキー・エレギを抜きにして、この盤は語れない。
 

Joe-farrellupon-this-rock

 
1曲目「Weathervane」は、挨拶代わりの1曲。ファレルとジョー・ベックによる高速のユニゾン・フレーズが印象的な、マハヴィシュヌ・オーケストラを彷彿とさせる緊張感あふれるジャズ・ロック。3曲目のタイトル曲「Upon This Rock」が、強烈な、このアルバムのハイライト。強靱なドラム・ブレイクで幕が開き、ファレルの力強いテナー・サックスとジョー・ベックの歪んだギターのユニゾン&インタープレイが凄まじい。

2曲目の「I Won't Be Back」だけが、他の3曲と雰囲気、音が違う。それもそのはず、この曲については、前作『Penny Arcade』と同じセッションで録音された曲。ハービー・ハンコックとスティーヴ・ガッドが参加しており、ラテン調の軽快なリズムに乗せた優雅なファレルのフルート・ソロが楽しめる。後のフュージョン・サウンドを先取りした様な、アーバンでメロウでファンキーなサウンドは意外と癖になる。

ラストの「Seven Seas」は、ジャズ・ファンク・チューン。ファレルのテナーもベックのエレギも、どっぷりジャズ・ファンク。ファンキーな路線へと舵を切ったファレルの最終到達点の様な演奏。全4曲を聴いて、ファレルの目指したもの、それは、ジャズとロックの融合によるクロスーオーバーなジャズ・ファンク。これはこれで、ちゃんとした成果を上げていると僕は思う。
 
 

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2026年5月 9日 (土曜日)

ジャズ・ファンクのファレルです

チック・コリア率いる第1期リターン・トゥ・フォーエヴァーのメンバーとしても知られるサックス&フルート奏者のジョー・ファレル。それまで、CTIレーベルに来て、正統派クロスオーバー・ジャズなアルバムを制作してきたが、この盤は、よりファンキーな路線へと舵を切ったCTI第4作目。

Joe Farrell『Penny Arcade』(写真左)。1973年10月の録音。ちなみにパーソネルは、Joe Farrell (ts, ss, fl, piccolo), Joe Beck (g), Herbie Hancock (p), Herb Bushler (b), Steve Gadd (ds), Don Alias (conga)。ジョー・ファレルが伝統的なジャズからジャズ・ファンク〜ジャズ・ロックへと転換した、エポックメイキングな作品。

冒頭のタイトル曲「Penny Arcade」から、ジャズ・ファンク全開。ジョー・ベックのギターリフが完璧にジャズ・ファンクしていて、演奏全体にファンクネス蔓延。続くスティーヴィー・ワンダーのカバー曲「Too High」は、もともと曲自体が、R&Bの名曲なんで、冒頭から、どっぷりジャズ・ファンク。
 

Joe-farrellpenny-arcade

 
13分を超える白熱のジャム。ファレルはソプラノ・サックスで、複雑なメロディを自在に吹きこなし、とてもエモーショナルな吹き回し。そのファレルのソプラノ・サックスに、ハービー・ハンコックが、原曲のクラビネットをエレピ(フェンダー・ローズ)に置き換え、うねるようなソロで絡みに絡む。このスティーヴィー曲のカバーでのハンコックのエレピのソロは絶品である。

続く「Hurricane Jane」では、7/4拍子という変拍子ながら、スティーヴ・ガッドの強烈なドラミングがエグい。そこに、ハンコックのエレピが、ジャズ・ファンクよろしく、どっぷりファンキーに絡んで、その上でファレルがファンクにモーダルにサックスを吹きまくる。この雰囲気って、どこか、ハンコックのジャズ・ファンクの歴史的名盤『Head Hunters』を想起する。

ラス前の「Cloud Cream」と。ラストの「Geo Blue」は、アーバンでメロウな雰囲気のムーディーな演奏で、ジャズ・ファンクというよりは、これこそフュージョン・ジャズである。最後の2曲が、それまでの圧倒的な「ジャズ・ファンク大会」な雰囲気をクールダウンさせているところで、ちょっと損をしている。それでも、この盤、当時のジャズ・ファンクの好盤としてお勧めである。
 
 

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2026年5月 8日 (金曜日)

サンタナとアリスとのコラボ

この作品は、サンタナがインドの導師シュリ・チンモイに師事し「デヴァディップ(Devadip)」という霊名を受けた時期に制作されている。ジョン・コルトレーンの妻であり、自らも優れたピアニスト・ハープ奏者であるアリス(霊名トゥリヤ)との共演は、サンタナのキャリアにおいて最も瞑想的で、ジャズの即興演奏に深く踏み込んだものとなっている。

Carlos Santana,Alice Coltrane『Illuminations』(写真)。邦題「啓示」。1974年の作品。ちなみにパーソネルは、以下の通り。スピリチュアル・ロックの雄、カルロス・サンタナと、スピリチュアル・ジャズの歌姫、アリス・コルトレーンとのコラボレーション盤である。

Alice Coltrane (p, harp, Wurlitzer electric organ), Carlos Santana (el-g), Dave Holland, James Bond (b), Jack DeJohnette (ds, perc), Tom Coster (el-p, Hammond B-3 organ), Jules Broussard (ss, alto-fl), Phil Brown (tanpura), Armando Peraza (ds, congas), Phil Ford (tablas)。ここに、アリス・コルトレーンがアレンジ&指揮を担当するストリングス・セクションがバックに入る。

アリスによる壮大なストリングス・アレンジとハープ、サンタナの官能的なギターが溶け合い、東洋的な響きと宇宙的な広がりを持っている。アルバムは、シュリ・チンモイによる短いモノローグから始まり、瞑想的な前半から激しい即興演奏の後半へと展開する。そう、この冒頭の「Guru Sri Chinmoy Aphorism(スリ・チンモイの教え」の1分11秒に怯んではいけない(笑)。
 

Carlos-santanaalice-coltraneillumination

 
オーケストラによる「静」。前半の「Angel of Air」や「Angel of Water」では、アリスが編曲・指揮した壮大なストリングス・オーケストラが導入されている。サンタナのギターは音数が極めて少なく、フィードバック音やサステインを活かしたアンビエントな響きで、背景のハープや弦楽器と溶け合っている。

フリージャズの「動」。 中盤の「Angel of Sunlight」は約14分に及ぶ大作で、ジャック・ディジョネットの激しいドラミングとデイヴ・ホランドのベースが牽引する、ジョン・コルトレーン後期のスタイルに近いアグレッシブなフリージャズを展開されていて見事。

この瞑想的な「静」と、フリージャズ的な「動」の対比が鮮明なのが、この盤の個性だろう。ウーリッツァー・オルガンの音色も特徴的。アリス・コルトレーンがピアノやハープだけでなく、歪んだ音色のオルガンを弾くことで、宇宙的な広がりを加えている。サンタナのエレギは、「弾かない」勇気とロングサステイン、クリーンと歪みの使い分け、フィードバックを「楽器」として操り、スピリチュアルな「叫び」を表現する。

当時の商業的な成功には恵まれなかったが、現在では「スピリチュアル・ジャズの隠れた名盤」として高く評価されている。サンタナの2面性、ラテン・ロックとスピリチュアル・ロック、このスピリチュアル・ロックの個性が、アリス・コルトレーン独特のスピリチュアル・ジャズと融合して、唯一無二の、他に類を見ない、ロックとジャズが融合した「スピリチュアル・ジャズ」を生み出している。
 
 

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2026年5月 7日 (木曜日)

アリスのスピリチュアルを見直す

アリス・コルトレーンが、インパルスからワーナー・ブラザース・レコードへ移籍した第一弾として1976年に発表した、スピリチュアル・ジャズの金字塔的作品である。オーケストラからトリオまで多彩な編成で、アリス・コルトレーン独自のスピリチュアル・ジャズを創出している。

Alice Coltrane『Eternity』(写真左)。邦題「永遠なる愛」。1975年8月13日〜10月15日の録音。ちなみにパーソネルは、核となるリズム・セクションは、Alice Coltrane (org, harp, el-p, tambura), Charlie Haden (b), Ben Riley (ds), Armando Peraza (congas)。主なゲストは、Hubert Laws (fl), Jerome Richardson(ss, alto-fl, Ernie Watts (english-horn), Oscar Brashear (tp), George Bohanon(tb)など。

演奏のアレンジが彼女独特なところがあって、スピリチュアル・ジャズとは言っても、精神性を楽器の吹き上げ、嘶きに託すような、一種、社会性を孕んだ、フリー・ジャズの延長線上のスピリチュアル・ジャズではなく、精神面を前面に押し出した、精神性を楽器それぞれの響きに託す、そんな一種、宗教性を孕んだ、限りなく自由度の高いモード・ジャズの延長線上にある、精神性の高いスピリチュアル・ジャズである。

振り返ってみると、アリスの様な精神性、宗教性の高いスピリチュアル・ジャズは、他に無かった様な気がする。

音の傾向からすると、ECMレコードの「ニュー・ジャズ」に親和性が高いが、アリスのスピリチュアル・ジャズは、ブラック・ミュージックの音要素が濃い。ECMのスピリチュアル・ジャズは、欧州のレーベルだけ合って、ブラック・ミュージックの音要素は皆無。音の裏に潜む宗教性についても、アリスはあくまで「米国」、ECMはあくまで「欧州」である。
 

Alice-coltraneeternity

 
このアルバムには、そんなアリス・コルトレーン印のスピリチュアル・ジャズの代表的演奏がギッシリ詰まっている。亡き夫ジョン・コルトレーンへの愛を捧げた作品とされ、ハープ、オルガン、さらにはインドの伝統楽器やストリングスを駆使した壮大なサウンドが特徴。ハープやオルガンを演奏するだけでなく、管弦楽団を含む大規模な編成を指揮した野心作で、アレンジも演奏もそのレベルは高く、アリスのスピリチュアル・ジャズの代表作の一枚と言って良いと思う。

印象的な曲としては、4曲目の「Om Supreme」では、6人の男女混声合唱団が加わり、ヒンドゥー教の聖歌(バジャン)をテーマにした幻想的なサウンドを創出、ラストの6曲目「Spring Rounds」は、ストラヴィンスキーの『春の祭典』を引用した曲で、大規模なブラス・セクションとストリングス(バイオリン、ヴィオラ、チェロなど計12名以上)が導入されていて、壮大なスピリチュアル・ジャズが展開されている。

本作が録音された1975年から1976年にかけて、アリスは生涯最大の転換期を迎えており、「俗世を離れ、ヒンドゥー教の修行者(スワミ)として生きる」という啓示のもと、宗教家として「出家」を果たしている。この宗教家としての「出家」が、今までのフリー・ジャズ的展開の中に潜んでいた「宗教性」が、より具体的で崇高な「祈り」の形として表出した結果が、このアルバムに色濃く反映されている様に思う。

今まで、どうも、ジョン・コルトレーンと演奏を共にしていた頃のスピリチュアル・ジャズの印象が、自分の頭の中に色濃く残っていて、今まで、アリスのスピリチュアル・ジャズはちょっと敬遠していたのだが、今回、このアルバムをひょんなことから聴いてみて、最初の印象が「これ、プログレッシヴ・ロックに近いやん」。

精神性、宗教性が色濃く、基本的にブラック・ミュージックとジャズに軸足をしっかり残してはいるが、基本的に統制の取れた、しっかりとコントロールされたスピリチュアル・ジャズだと思う。
 
 

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2026年5月 6日 (水曜日)

スピリチュアル+ブラジリアン

ブルーノートの4300番台のアルバムらしいアルバムである。ファンクネス漂うシンプルで、どこか趣味の良い「地味」なバップ・ピアニストだったデューク・ピアソンが、突如、ボサノヴァとコーラス・アンサンブルが融合を融合した、摩訶不思議な、ポップでスピリチュアルなリーダー作をリリースしている。

Duke Pearson『How Insensitive』(写真左)。1969年4月11,14日、5月5日の録音。ブルーノートの4344番。ちなみにパーソネルは以下の通り。ピアニストであり、プロデューサーとして後期ブルーノートを支えたピアソンが、スピリチュアル・ジャズとブラジリアン・ジャズへの傾倒を反映させた作品。

4月11,14日の録音 (tracks 1 & 3–5) は、 Duke Pearson (p, el-p, arr), Al Gafa (g), Bob Cranshaw (b), Mickey Roker (ds), Airto Moreira (perc), Andy Bey (lead vo), The New York Group Singers' Big Band。

5月5日の録音 (tracks 7, 9 & 10)は、Duke Pearson (p, el-p, arr), Bebeto Jose Souza (b), Dorio Ferreira (g, perc), Flora Purim (lead vo),

初リリース時、LP時代の収録曲は、収録曲は、A面がコーラスを主体としたスピリチュアル・ジャズ、B面がブラジリアン・ジャズという構成に分かれている。どういう意図でこういう収録形態になったのか、思わず首を捻ってしまう。

4月11,14日の録音 (tracks 1 & 3–5) では、17名の男女混声合唱団(ニューヨーク・グループ・シンガーズ・ビッグ・バンド)を起用し、幻想的で透明感のある、スピリチュアルなサウンドを作り上げている。
 

Duke-pearsonhow-insensitive  

 
冒頭の「Stella by Starlight」がその最たる例で、出だしは、ファンクネス漂うシンプルで、どこか趣味の良い「地味」なバップ・ピアノソロが、ハードップ時代の良き雰囲気を醸し出すが、いきなり17名の男女混声合唱団のコーラスが出てきて、はっきり言って「戸惑う」。バックのピアソンのバップ・ピアノがとても良いフレーズを叩き出しているので余計に、である。

この「17名の男女混声合唱団」のコーラスが、ファンキー&ソウルフルではあるが、コーラスの雰囲気は「ポップ」。上質でポップな混声合唱には、どこか敬虔な響きが漂って、ところどころゴスペルチックで、まるでポップな賛美歌を聴いている様な面持ち。しかし、この「17名の男女混声合唱団」のコーラスの必然性が全く理解できない。

ポップなゴスペルチックな男女混成合唱がメインなのか、リーダーのピアソンを始めとする純ジャズにポップなゴスペルチックな男女混成合唱が彩りを添えているのか、聴き方の力点の置き方が難しいアルバムになっている。賛美歌的な響き、ゴスペルチックな響きを前面のに押し出し、スピリチュアル・ジャズの側面を前面に押し出そうとしているのは理解出来るのだが。

5月5日の録音 (tracks 7, 9 & 10)では、7曲目の「Sandalia Dela」のコッテコテのボサノバ・ジャズには、更に「戸惑う」。フローラ・プリムのボサノバチックな歌唱が前面に押し出されている。8曲目「My Love Waits (O Meu Amor Espera)」以降「Tears (Razao De Viva)」「Lamento」もゴスペル・ジャズ。

ピアソンのファンクネス漂うシンプルで、どこか趣味の良い「地味」なバップ・ピアノをメインとするジャジーな演奏に、ポップでファンキーでゴスペルチックな「17名の男女混声合唱団」のコーラスが絡む、意外とスピリチュアル・ジャズ的側面は軽くてポップな、摩訶不思議な雰囲気のスピリチュアル&ボサノバ・ジャズとして良いのでは、と思う。ピアソンのピアノだけ取りあげれば、これはこれで申し分無いんだけどなあ。
 
 

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2026年5月 5日 (火曜日)

ボーカル入りのハッチャーソン

ハッチャーソンのヴァイブはハードバップなヴァイブでは無い。ハッチャーソンのヴァイブは「新主流派」のヴァイブである。モーダルであり、フリーであり、アーティステックである。ハッチャーソンは意外と硬派なミュージシャンで、この「新主流派のジャズ・ヴァイブ」のスタイルを生涯貫き通した。が、このアルバムで、とんでもない寄り道をする。

Bobby Hutcherson『Now!』(写真左)。1969年10月3日 (#2–3)、11月5日(#1, 4–5) の録音。ちなみにパーソネルは、以下のとおり。2004年のCDリイシュー時、1977年8月13日の録音がボートラとして4曲追加されているが、今回は、オリジナルの5曲に絞ってのみ、この記事をまとめている。

1969年10月3日 (#2–3)は、Bobby Hutcherson (vib, marimba), Harold Land (ts), Kenny Barron (p), Wally Richardson (g), Herbie Lewis (b), Joe Chambers (ds), Candido Camero (congas), Gene McDaniels (lead vocals), Hilda Harris, Albertine M. Robinson, Christine Spencer (backing vocals)。

1969年11月5日(#1, 4–5) はBobby Hutcherson (vib), Harold Land (ts), Stanley Cowell (p, el-p), Wally Richardson (g), Herbie Lewis (b), Joe Chambers (ds), Candido Camero (congas, bongo), Gene McDaniels (lead vocals), Eileen Gilbert, Christine Spencer, Maeretha Stewart (backing vocals)。

このアルバムの最大の特徴は、ハッチャーソンのリーダー作として初めてボーカル(合唱)を全面的に取り入れたこと。というか、それまでの「新主流派」ヴァイブの雄、モード&フリーなヴァイブを誇ったハッチャーソンが、いきなりボーカルを取り入れた。
 

Bobby-hutchersonnow

 
それは、冒頭の「Slow Change」の出だしから始まる。いきなり、男性ボーカルが、それも、ソウルフルな、R&Bなボーカルが入って、ゴスペルな女声コーラスがバックで唄う。

しかし、バックの演奏はと耳を傾けると、ハッチャーソンのヴァイブ以下、ハロルド・ランドのテナーなど、かなり硬派は新主流派ジャズをやっている。モード、時々フリーなアドリブ部の展開は水準以上の優れた演奏。

それを思うと、そもそも、このアルバムにボーカルが必要だったのか、と思ってしまう。歌詞の内容は、社会的メッセージがメインで、当時のアフリカ系アメリカ人の権利意識や精神的連帯を反映していて、かなり直接的なアジテーションで、ジャズには向かないと僕は思う。

ボーカルが入ったお陰で、当時、流行中のスピリチュアル・ジャズな雰囲気や、サイケデリック・ジャズな音要素が吹かされてはいるが、ここまで、場違いなボーカルを充てられると、このアルバムをどう聴いてよいのかが判らなくなる。ただ、ラテン・パーカッションやファンキーな要素を融合させた「レア・グルーヴ」的な側面も持っているので、そちらの方面に興味が強いジャズ者の方々には興味深い内容になるだろう。

ただ4曲目の「The Creators」だけは、ハロルド・ランドのテナーとハッチャーソンのヴァイブ、スタンリー・カウエルのエレピが大活躍、モーダルでスピリチュアルな整然とした即興演奏的な展開で、ゴスペルチックな呪術的な女性コーラスと相まって、スピリチュアルなモード・ジャズの演奏として、抜群の成果を上げている。この1曲だけは聴き逃せない。
 
 

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2026年5月 4日 (月曜日)

69年のカウント・ベイシー楽団

1969年のカウント・ベイシー楽団の演奏である。ジャズ人気は曲がり角を迎え、演奏内容もフリー、スピリチュアル、クロスオーバー、そして、電気楽器での演奏が混ざって、混迷の度合いを深めつつある時代。そんな時代に、このアルバムは、ドイツのジャズ専門レーベルMPSレーベルの創設者ハンス・ゲオルク・ブルーナー=シュヴェアの強い要望により制作されたものとのこと。

Count Basie and His Orchestra『Basic Basie』(写真左)。1969年10月20日の録音。 MPSレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Count Basie (p), Oscar Brashear, Gene Coe, Sonny Cohn, Waymon Reed (tp), Frank Hooks, Grover Mitchell, Mel Wanzo (tb), Bill Hughes (b-tb), Marshal Royal, Bobby Plater (as), Eric Dixon, Eddie "Lockjaw" Davis (ts), Charlie Fowlkes (bs), Freddie Green (g), Norman Keenan (b), Harold Jones (ds), Chico O'Farrill (arr)。

このアルバムは、ベイシー楽団の黄金時代を支えたスタープレイヤーたちが去った後、新たな布陣で「ベイシー・スタイル」の真髄であるシンプルかつ強力なスウィングを追求した作品となっている。1曲が約2〜3分と短くまとめられた12曲のスタンダード・ナンバーで構成されており、無駄を削ぎ落とした「機能美」とも言えるアンサンブルが特徴で、とても聴き易く、親しみ易い内容となっている。
 

Count-basie-and-his-orchestrabasic-basie  

 
タイトルの通り、ベイシー・スタイルの「基本(Basic)」に立ち返り、装飾を排した純粋なスウィングを追求しているところが良い。ベイシー楽団初心者にも判り易く、ベイシー楽団の個性と特徴が良く理解出来る内容になっている。しかも、それまでは、ピアニストとして前面に出ることを控えていたベイシー本人が、通常よりも長くピアノ・ソロを披露しているところもこのアルバムの大きな特徴である。

演奏を追って聴いていて、やはり、アレンジが良いのだろう。アフロ・キューバン・ジャズの大家チコ・オファリルが、ベイシー独特の「間」と「スウィング感」を完璧に理解したアレンジを施していて、これがこのアルバムの成功につながっている。それと、ドラマーの交代が良い効果を生んでいる。 長年連れ添ったソニー・ペインに代わり、より正確で抑制の効いたドラマー、ハロルド・ジョーンズが加入したことで、バンドに新たな規律が生まれ、軽快さを備える様になっている。

4曲目「Red Roses for a Blue Lady」、続く「Moonglow」、8曲目の「Sweet Lorraine」、9曲目「Ain't Misbehavin'」、11曲目「As Long as I Live」などでベイシーのピアノが堪能できる。1950年代の黄金期(ニュー・ベイシー時代)と1970年代以降のパブロ・レーベル期を繋ぐ「円熟味を増した隠れた傑作」として評価出来る好盤である。
 
 

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2026年5月 3日 (日曜日)

ライオネル・ハンプトン健在

1982年と言えば、フュージョン・ジャズが全盛期を越えて、下降線を辿り始めた頃。それでも、その人気はまだまだ維持されていて、純ジャズ、ましてや、スイング・ジャズの入り込む余地は無かった。が、フージョン・ジャズの全盛のアンダーグラウンドで、純ジャズは生き存えていた。そして、このライヴ・アルバムでは、スイング・ジャズもしっかりと継承されていたことが確認出来る。

Lionel Hampton And His Orchestra『Made In Japan』(写真左)。1982年6月1日は新宿厚生年金会館、6月3日は渋谷公会堂でのライヴ録音。ちなみにパーソネルは以下の通り。スイング・ヴァイブの雄、ライオネル・ハンプトン率いるジャズ・オーケストラの東京のおけるライヴ録音。

Lionel Hampton (vib), John Colliainni (p), Todd Coolman (b), Duffy Jackson (ds), Sam Turner (perc)。以下はブラス・セクション、Glen Wilson, Yoshi Malta, Paul Jeffrey, Ricky Ford, Tom Chapin (sax), Trombone – Charles Stephens, Chris Gulhaugen, John Gordon (tb), Trumpet – Barry Ries, John Marshall, Johnny Walker, Vince Cutro (tp)。

ハンプトンの十八番である「Air Mail Special」や、ハンプトンおなじみのメドレー「Stardust - Moonglow」、フレディ・ハバード作曲の難曲「Jodo」を高速テンポで演じ切ったり、素晴らしいパフォーマンスがてんこ盛り。
 

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それほどまでに内容の濃い、ライオネル・ハンプトンのヴァイブを始めとするスイング・ジャズの名演の数々がこのライヴ盤に記録されている。さらに素晴らしいのは、パーソネルを見渡すと、若手実力派を揃えたビッグバンドを率いていること。当時若手だった リッキー・フォード や、日本を代表するサックス奏者の MALTA(ヨシ・マルタ)、トム・チェイピンらが参加している。

当時70代半ばだったハンプトンであるが、その演奏は驚くほどパワフル。一糸乱れぬビッグバンドのアンサンブルと相まって、素晴らしいパフォーマンスを披露している。

若手実力派を揃えたビッグバンドということもあって、伝統的なスイングだけに留まらず、ハードバップやモードなど、当時として、モダンなジャズの感覚も反映されていて、懐古趣味などどこ吹く風、当時として、現代的でモダンなスイング志向のビッグバンドの音が実に良い。

単なる「ベテランの来日記念盤」を超えた、単なる来日記念公演という「お祭り騒ぎ」に留まらない、スイング志向の、モダンな感覚を融合させたビッグバンド・ジャズの傑作として評価して良い内容。かつてハンプトン率いるオーケストラが世界中を席巻した「スウィングの力」が、衰え知らずなことを証明した好ライヴ盤です。
 
 

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2026年5月 2日 (土曜日)

エリスとグリーンのギター共演

演奏の雰囲気・演奏のトレンドは「スイング」。スウィング・ジャズの真髄を楽しめる好盤。カウント・ベイシー楽団の象徴であるフレディ・グリーンが、楽団を離れてリーダー格として録音に参加、スインギーでブルージーな職人ギタリストのハーブ・エリスと共演、エリスとグリーンの2台のギタリストがフロントのクインテット編成。

Herb Ellis & Freddie Green 『Rhythm Willie』(写真左)。1975年1月1日の録音。ちなみにパーソネルは、Herb Ellis (g), Freddie Green (g), Ross Tompkins (p), Ray Brown (b), Jake Hanna (ds)。ギタリストのハーブ・エリス(Herb Ellis)とフレディ・グリーン(Freddie Green)による共演アルバム。

とりわけ、カウントベイシー楽団のリズムギタリストとして活躍、生涯にわたってリズムマンに徹した、フレディ・グリーンの堅実でスウィング感溢れるバッキング(4つ刻みのリズムギター)が、ハーブ・エリスの流麗なソロを完璧にサポートしている展開には、うっとりと聴き惚れるほど。小粋でスインギーな二人の職人芸的ギターが堪らない。
 

Herb-ellis-freddie-green-rhythm-willie

 
とにかく、まずは、グリーンのリズム・ギターが素晴らしい。さすが、アルバム・リーダーの一翼を担ってるだけに、フレディ・グリーンのリズム・ギターの「聴きどころ」が満載。フロントに管が無い、ピアノがロング・ソロを取らないということから、グリーンリズム・ギターの詳細が確実に聴きとれるところが、とにかく堪らない。

もう一人のリーダー、ハーブ・エリスのギターも良い。ここでのエリスは、東海岸のアーバンな雰囲気とも、西海岸のシャープな雰囲気とも離れた、出身地のテキサスなイメージの、「中西部的」な素朴な味わいのフレーズを叩き出している。これが、カンザス・シティ・スタイルのグリーンのリズム・ギターにバッチリで、もう長年、パートナーとしてやっている様な、濃厚な親密感溢れるギターがこの盤の目玉だ。

グリーンが遺した数少ないベイシー楽団を離れてのセッションの一つ。フュージョン全盛期にあえてストレートなスウィング・ジャズを追求したセッション。コンコード・レコードには、こういった、フュージョン全盛期にリリースされた、優れた内容の純ジャズ盤が多々あるのだが、なぜか積極的に聴かれることが少ない。この『Rhythm Willie』は、今一度、再評価すべき、1970年代の純ジャズの隠れ好盤の一枚である。
 
 

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