2024年12月 6日 (金曜日)

ダニエルソンの変則トリオの秀作

晩秋から初冬にかけて、徐々に気温は下がり、北の地方から雪の便りがやってくる。いよいよ、北欧ジャズの鑑賞に一番適した季節がやってくる。晩秋から冬の終わりまで、暖かくした部屋の中、外の「紅葉の景色から冬の景色」を眺めながら聴く、北欧ジャズは絶品である。今年も先日から、この季節から冬の終わりまでに聴きたい「北欧ジャズ」のアルバムを物色している。

Lars Danielsson『Palmer Edition II: Trio』(写真左)。2024年11月のリリース。ちなみにパーソネルは、Lars Danielsson (b), Verneri Pohjola (tp), John Parricelli (g)。フランス有数のワイナリーで録音されたACTレコードからの新作。美しい「音の色彩感覚」に満ちたトリオ演奏。トリオとはいえ、このトリオにはドラムとピアノがいない。ベース、トランペット、ギターの変則トリオ。

スタジオではなく、ボルドーワイン地方の人里離れた一角にある木製パネルのサロンで録音されたアルバム。スウェーデンのベーシストのラーシュ・ダニエルソン(Lars Danielsson)、イギリスのギタリストのジョン・パリチェッリ(John Parricelli)、そしてフィンランドのトランペッターのヴェルネリ・ポホヨラ(Verneri Pohjola)の変則トリオ。録音された音の「残響音」が印象的で、それぞれの音の間に「温かい静寂」を感じる。
 

Lars-danielssonpalmer-edition-ii-trio

 
トリオ3人並列リーダーとして名を連ねているが、実質のリーダーはベーシストのラーシュ・ダニエルソン。ラーシュはスウェーデン出身なので、この盤の音の基本は「北欧ジャズ」。トランペットのポホヨラもフィンランド出身なので、北欧ジャズ独特のフレーズ、音の響きが「金太郎飴の様に」出できそうなものなのだが、この盤にはそれが希薄。フレーズの流れは北欧ジャズ風でフォーキーなものだが、印象的な北欧独特のフレーズは控えめ。

それでも、繊細で抒情的で耽美的でフォーキーなサウンドは印象的で、どう聴いてもこれは欧州ジャズであり、北欧ジャズである。演奏の展開、フレーズの作りは「シンプル」。難解なことは全くしていない。それでいて、変則トリオによるインタープレイは高度なもので、この変則トリオのレベルの高さが窺い知れる。そして、それぞれの楽器の音が素晴らしく良い。テクニックの高さ、楽器の音の素晴らしさ、この二つが、このアルバムの演奏の「躍動感」につながっている。

我が国では、なかなか話題に上がらない北欧ジャズだが、1950年代から着実に「進化〜深化」し、現代においても、まだまだ勢いは衰えず、意気盛ん。このダニエルソンのトリオ盤も、従来からの北欧ジャズのパターンから脱して、新しい北欧ジャズの音を創造している様に感じる。但し、北欧ジャズの「コア」はしっかりと保持され、北欧ジャズの良心である「繊細で抒情的で耽美的でフォーキーなサウンド」は健在。この変則トリオ盤は、2024年の北欧ジャズの秀作の一枚だろう。
 
 

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2024年12月 5日 (木曜日)

マイケル急逝前の傑作の一枚

1970年代以降での「早逝の天才サックス奏者」、マイケル・ブレッカー。コルトレーン&ロリンズ時代の「後を継ぐ」ジャズ・サックスのリーダー格であった。我が国では何故か「コルトレーンのフォロワー」と看做され、何かとコルトレーンと比較されては、コルトレーンよりもレベルが低いとか、コルトレーンの方が優れている、とか的外れな評価をされていた。

が、そんな的外れの評価はとんでもないもので、マイケル・ブレッカーは、コルトレーン流のジャズ・サックスを更に発展・深化させ、マイケル独特の個性を反映させた、「コルトレーンの次に現れた、ジャズ・サックスの新たなスタイリスト」と僕は認識している。大仕掛けで大向こうを張った吹き回しは無いが、「テクニック、歌心、イマージネーション」の全てが超一流でマイケル独特なもの。

Michael Brecker『Wide Angles』(写真左)。2003年1月22–24日の録音。ちなみにパーソネルは、Michael Brecker (ts, arr), Adam Rogers (g), John Patitucci (b), Antonio Sánchez (ds), Daniel Sadownick (perc), Steve Wilson (a-fl), Iain Dixon (b-cl, cl), Robin Eubanks (tb), Alex Sipiagin (tp), にオーケストラがバックに付く。

J2007年1月13日、57歳の若さで急逝する4年前のリーダー作。いわゆる「ウィズ・ストリングス」に類する、マイケル念願の15人編成、オーケストラがバックに入るラージ・アンサンブル。ホーンセクションとストリングスが効果的に入り、かつ、優れたアレンジによって、マイケル・ブレッカーのテナー・サックスが更に際立つ企画盤である。
 

Michael-breckerwide-angles

 
始まりは、15人編成、ホーンセクションとストリングスのバッキングがフルフルで、大仕掛けでスケールの大きい「ウィズ・ストリングス」風の演奏から入る。「ウィズ・ストリングス」風の伴奏なので、どこかイージーリスニング風のイメージが漂い、これはなあ、と一瞬思ったするが、マイケルのテナーが出てくると、演奏の雰囲気はグッと締まって、メインストリームな純ジャズの響きにガラッと変わる。

マイケルのテナーの音は、コルトレーンのそれとは似て非なるもので、似ているところは「ストレートな吹奏」なところだけ。フレーズの吹き回し、フレーズ展開のイマージネーション、テナー自体の「音」、どれもがマイケル独自の独特の個性であって、このテナーを聴いて、コルトレーンのフォロワーとするところが全く理解できない。今一度、確認するが、マイケル・ブレッカーは「コルトレーン時代の次に現れた、ジャズ・サックスの新たなスタイリスト」である。

そんなマイケルのテナーが一番目立ち、一番格好良い。大編成の演奏から、曲を進めるうちに、少しずつ編成が小さくなっていき、それにつれて、マイケルのテナーがグングン前へ出て、グングンとクールに鳴り響き、マイケルのテナーの、唯一無二で優れた「テクニック、歌心、イマージネーション」の全てが堪能できるなって、ラストの「"Never Alone」を迎える。このアルバム展開の作りも優秀。

全く耳につかない、今の耳にも新しく響くゴージャスな「ウィズ・ストリングス」風のメインストリーム・ジャズ。自然と流れる様に展開するモーダルなフレーズ。スケール大きく大らかで力感溢れ、優しく繊細な吹き回し。この『Wide Angles』は、マイケルの傑作の一枚、ジャズ・サックスの名盤の一枚でしょう。
 
 

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2024年12月 4日 (水曜日)

アヴィシャイの新作 ”Brightlight”

2024年もあと残すところ一ヶ月。2024年はコロナ禍も下火になって、ジャズについても、新規アルバムのリリースも順調になり、ライヴ演奏の頻度も回復基調になった。演奏の編成も、コロナ禍での少人数の演奏(ソロ&デュオ)から、トリオ以上のグループ・サウンドに回復し、コロナ禍以前の「深化」と「裾野の広がり」度合いに戻ったイメージがある。

Avishai Cohen『Brightlight』(写真左)。2024年11月のリリース。スウェーデンとテルアビブでの録音。ちなみにパーソネルは、Avishai Cohen (b, vo), Guy Moskovich, Eden Giat (p), Roni Kaspi, Noam David (ds), Yuval Drabkin (sax), Lars Nilsson (tp), Hilel Salem (flh), Jakob Sollerman (tb), Yosi Ben Tovim (g), Ilan Salem (fl), Jenny Nilsson (vo)。

イスラエルを代表する当代最高のベーシスト、アヴィシャイ・コーエンの新作。クラシック〜ジャズにおける伝統の音世界に、イスラエルに根付いている個性的なメロディ、リズム&ビートが融合、21世紀の現代のジャズのトレンドである、ネオ・ハードバップ、ネオ・モードな、コンテンポラリー・ジャズをさらに「深化」させた、コーエンが考える「イスラエル・ジャズ」がこの盤の中に溢れている。
 

Avishai-cohenbrightlight

 
リーダーのアヴィシャイ・コーエンはベーシスト。当然、アヴィシャイのアコベが要所要所でフィーチャーされる。これがまた絶品なベースのパフォーマンス。躍動感溢れるソリッドで骨太なアコベの響きが官能的。時にストレートに旋律を奏で、時にフロントをリード&鼓舞し、時に演奏全体のリズム&ビートをコントロールする。この盤でのアヴィシャイのベースは、アルバム全体を掌握しコントロールする「リーダーのベース」である。

アヴィシャイの周りを固めるサイドマン達も素晴らしいパフォーマンス。ロニ・カスピのドラミングは躍動的で迫力満点、ポリリズミックで変拍子を交えたドラミングは個性抜群。ガイ・モスコビッチとエデン・ギアットのピアノは、ハーモニー・センス抜群、きめ細やかなタッチ、高いテクニックは聴き応え十分。アヴィシャイの「リーダーのベース」と合わせて、「現代のリズム・セクション」の最高レベルのバッキング・パフォーマンスを聴かせてくれる。

リズム・セクションのパフォーマンスだけでも十分に楽しめるが、そんな最高レベルのリズム・セクションをバックに、フロントのトランペット、サックス、ギター、トロンボーン、フルートが、クールに端正に静的スピリチュアルにモーダルに吹きまくるのだから、このフロント管入りのトータルなグループ・サウンドも魅力満載。2024年のメインストリームな純ジャズの優秀盤だと思います。
 
 

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2024年12月 3日 (火曜日)

シナトラのクリスマス名盤です

今日、昼ごはんを買いに近くのコンビニに寄ったのだが、店内で流れているBGMは「クリスマス・ソング」。そうか、もう12月。クリスマス・シーズンなんだ、と認識を新たにする。そして、このコンビニの店内に流れる「クリスマス・ソング」のBGMはジャジー。イージーリスニング・ジャズ志向のクリスマス・ソングで、さあ、今年もクリスマス・ジャズ盤を聴く季節が来た、とワクワクする。

Frank Sinatra『A Jolly Christmas from Frank Sinatra』(写真左)。1957年7月の録音。ちなみにパーソネルは、Frank Sinatra (lead vo), The Ralph Brewster Singers (back vo), Gordon Jenkins (arr, cond)。「20世紀を代表する偉大な歌声」という意味で、「ザ・ヴォイス」というニックネームで称賛される、アメリカのエンターテインメント界の伝説の至宝、フランク・シナトラの最初のクリスマス・アルバムである。

男性ジャズ・ボーカルとして、僕はフランク・シナトラが大のお気に入り。小学生高学年の頃から、シナトラの歌声に親しんできた訳だが、ほんと、シナトラの声が良い、シナトラの声が大好きなのだ。そんな魅惑的な男性ボーカルが、親しみのあるフレーズを湛えたクリスマス・ソングを唄いまくるのだ。悪い訳がない。諸手を挙げて、このクリスマス・ソング盤は名盤だ。
 

Frank-sinatraa-jolly-christmas-from-fran

 
収録曲は、王道とも言うべき「クリスマス・スタンダード曲」が選ばれている。どの曲も馴染みのある曲ばかりだが、その「クリスマス・スタンダード曲」の持つ流麗な旋律を、シナトラの魅惑的なダンディズム溢れるボーカルで、しっとりと唄い上げていく。そう、全曲「しっとり」と唄い上げていく。あのアップ・テンポの「ジングル・ベル」ですら「しっとり」と唄い上げる。この「しっとり」感が、クリスマスの厳かな雰囲気を想起させてくれる。

バックのラルフ・ブリュースター・シンガーズとゴードン・ジェンキンス指揮のオーケストラも良い感じ。クリスマス・ソングは、バックのオケのアレンジやサウンド、コーラスのアレンジや出来、それぞれが平凡だと、俗っぽいイージーリスニングな、ちょっと陳腐な演奏に陥ってしまうのだが、この盤ではそれについて、全く心配が無い。コーラス、オケ共々、アレンジ優秀、パフォーマンス優秀、シナトラの「しっとり」歌唱をガッチリサポートし引き立てる。

とても優れた内容の「クリスマス・ジャズ」盤。シナトラの歌唱も優秀。バックのコーラス&オケも優秀。シナトラの、シナトラによる、シナトラらしい、クリスマス・ソングの歌唱。敬虔で品格あるクリスマス・アルバム。クリスマス・ジャズ盤の名盤の一枚です。
 
 

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2024年12月 2日 (月曜日)

この盤もグリーン後期の傑作

パッキパキ硬質でファンクネスだだ漏れなシングル・トーンのギターが個性のグラント・グリーン。グリーンの後期のギターの特色は「ファンクネスさらに濃厚」。とりわけファンキーなシングル・トーンで、彼独特のグルーヴを叩き出す。そんなグリーンの後期のリーダー作も好盤がどっさり。

Grant Green『The Final Comedown』(写真左)。1971年12月13–14日の録音。ちなみにパーソネルは、Grant Green (g), IPhil Bodner (fl, piccolo, as, oboe), Harold Vick (as, ts), Irving Markowitz, Marvin Stamm )tp, flh), George Devens (vib, timpani, perc), Richard Tee (p, org), Cornell Dupree (g), Gordon Edwards (el-b), Grady Tate (ds), Ralph MacDonald (conga, bongos), Warren Smith (marimba, tambourine)。ここに、ヴィオラ、チェロの弦楽器とハープが入る。

ブラックスプロイテーション(黒人による黒人のための映画)のサウンドトラック盤。グラント・グリーンとしては異色中の異色作になる。映画のサウンドトラックなので、あまり大きな音で目立つことはできない。バックの音と程よいバランスをとった、グリーンのギター。あまり目立たないが、ここ一発というところでは、ハッとするような、ファンクネスだだ漏れでソウルフル濃厚なパフォーマンスを聴かせてくれる。「抑制の美」である。

ピアノ、オルガンにリチャード・ティー、サイド・ギターのコーネル・デュプリー、エレベにゴードン・エドワーズ。ここにドラムのスティーヴ・ガッドがいれば、伝説のフュージョン・バンド「スタッフ」になる。グラディ・テイトのドラムも、叩き出すリズム&ビートは「縦乗り」で、どこかガッドに似ているドラミングが良い。
 

Grant-greenthe-final-comedown

 
バックのリズム・セクションが「ほとんどスタッフ」なので、演奏全体がファンキーでソウルフルで、うねるようなグルーヴを湛えたリズム&ビートが、「ファンクネスさらに濃厚」な、パッキパキ硬質なシングル・トーンのグリーンのギターにバッチリ合っている。うねる様なグルーヴに、ファンクネス濃厚なシングル・トーンのギターがよく似合う。

映画のサントラということで、ソロイストの音は控えめ、それが「抑制の美」に繋がって、演奏メンバー誰もが、逆に凄みのあるクールでヒップなフレーズを叩き出している。ゴードン・エドワースのエレベがブンブン唸り、デュプリーのサイド・ギターがファンクネスを撒き散らし、テイトのドラムがビートを刻む。バラード曲での絶妙の伴奏を披露するティーのキーボード。この「ほとんどスタッフ」のリズム・セクションが、グリーンのギターのグルーヴ感を2倍にも3倍にも増幅する。

「Father's Lament」のソフト&メロウなバラードでの、ファンクネス濃厚なグリーンのシングル・トーンなソロ演奏、ティーのソウルフルなグルーヴ濃厚なオルガンが凄まじく良い。「Afro Party」でのブラスの響き、グリーンのファンキーでソウルフルな伴奏弾き、エドワーズのソリッドな重低音が響く、グルーヴ撒き散らしのエレベ。サントラ的な小曲の間に、絶妙なファンキー&ソウルフル&ブラコンなキラーチューンが入っているから堪らない。

1971年の録音だが、後のフュージョン・ジャズを先取りした、ソフト&メロウ、ソウルフルでグルーヴ感満載なジャズ・ファンクな演奏はどの曲も聴きもの。映画のサントラ盤なので、イージーリスニング志向で、甘い演奏かと思いきや、意外と硬派でファンクネス濃厚、グルーヴ感満載な演奏がギッシリ詰まっているのには、ちょっとびっくり。この盤も、グラント・グリーンの活動後期の傑作だと思います。
 
 

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2024年12月 1日 (日曜日)

マリガン、晩年の傑作の一枚

A&M、CTIレコードの好盤の聴き直しに戻る。A&M、CTIレコードは、クロスオーバー&フュージョンの代表的レーベル。イージーリスニング・ジャズ志向のエレ・ジャズが多く、特に「ソフト&メロウ」な音の味付けがなされたフュージョン盤は、硬派なジャズ者の方々から毛嫌いされている。

が、A&M、CTIレコードのアルバムの中には、なかなか硬派な内容の「コンテンポラリーなジャズ」のアルバムも多々あって、これが意外と聴きものなのだ。

Gerry Mulligan『The Age of Steam』(写真左)。1971年2-7月、Hollywoodでの録音。ちなみにパーソネルは、Gerry Mulligan (bs, ss, p), Tom Scott (ts, ss), Bud Shank (as, fi), Harry "Sweets" Edison (tp), Bob Brookmeyer (v-tb), Howard Roberts (g), Roger Kellaway (p), Chuck Domanico (b), Joe Porcaro, John Guerin (ds), Emil Richards, Joe Porcaro (perc)。

米国ウエストコースト・ジャズの中心人物、バリトン・サックス(略して「バリサク」)の名手、ジェリー・マリガンのCTI盤。CTI盤なので、イージーリスニング・ジャズ志向と思いきや、意外とメインストリームな、純ジャズ志向のエレ・ジャズになっているのに、ちょっとビックリする。
 

Gerry-mulliganthe-age-of-steam

 
ポップスとソフト・ロックとジャズを掛け合わせて、8ビート主体のリズム&ビートで、時にバックにブラス・セクションをつけて、ソウルフルな味付けをしつつ、1950年代の米国ウエストコースト・ジャズを、1970年代のエレ・ジャズに載せ替えた様な「聴かせるクロスオーバーでコンテンポラリーな純ジャズ」がこの盤に記録されている。

収録曲の全てが流麗な、聴き心地の良いメロディーに溢れている。その流麗なメロディーを最大限に活かして、1971年当時、最新の音作り、いわゆる「クロスオーバー・ジャズ」志向でありながら、ジャズロックには走らず、あくまでコンテンポラリーで純ジャズ志向のウエストコースト・ジャズに軸足をしっかり残した、マリガンのアレンジが秀逸。

そんなマリガンの秀逸なアレンジに乗って、1971年時点での、コンテンポラリーな純ジャズが展開される。冒頭のタイトル曲「The Age of Steam」で、すでにその意外と硬派なコンテンポラリー・ジャズが、ウエストコースト・ジャズ風な音の響きを携えて疾走する。マリガンのバリサクが炸裂する。

1970年代は、マリガンにとってはピークを過ぎた、活動後期、マリガンのキャリアの晩年の時代なのだが、この『The Age of Steam』と、もう一枚『Carnegie Hall Concert』(2017年7月13日のブログ参照)を、CTIレコードに残している。

このCTI2枚とも、コンテンポラリーで純ジャズ志向のウエストコースト・ジャズが展開されている、なかなかの内容。ネットでジャズ本でほとんど見ることの無いマリガン盤だが、内容は充実、マリガンの晩年の傑作だと僕は思う。
 
 

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2024年11月30日 (土曜日)

プレヴィンの爽快ライヴ盤

ジャズとクラシックの「2足の草鞋を履く男」、アンドレ・プレヴィンのピアノを聴き直している。クラシック・ピアノをベースにした、流麗で端正でダイナミックでドライブ感溢れるスインギーなピアノは、プレヴィンの身上。クラシック出身のピアノでありながら、出てくる音は実に「ジャジー」。聴いていて、スッキリ爽快な気分になれる極上の「米国ウエストコースト・ジャズ」なジャズ・ピアノ。

Andre Previn『Live at the Jazz Standard』(写真左)。2000年10月のライヴ録音。Deccaレコードからのリリース。ちなみにパーソネルは、André Previn (p), David Finck (b)。ドラムレス、ピアノとベースのデュオ。プレヴィン71歳での録音になる。レジェンドの域に達した「2足の草鞋を履く男」の絶妙で爽快なジャズ・ピアノを聴くことが出来る。

NYでのライヴ録音。タイトル通り、従来のジャズ・スタンダート曲と、ミージシャンズ・チューンなスタンダード曲で固められた、小粋なライヴ録音。プレヴィンのジャズ・ピアノは、トリオ演奏が多いのだが、このライヴ盤では、デヴィッド・フィンクのベースとのデュオ演奏になっている。ドラムがいない分、プレヴィンのピアノがパーカッシヴなリズム楽器を代替していて、プレヴィンのジャズ・ピアノとしての能力の高さがよく判る。
 

Andre-previnlive-at-the-jazz-standard

 
プレヴィン独特の「クラシックとジャズの両性具有」の様なピアノを存分に楽しめる。プレヴィンのピアノは、ジャズをやる場合、あくまで「ジャズ・ピアノ」なフレーズを叩き出すのだが、速い弾き回しで流麗に展開する時、クラシックのタッチ&弾き回しが、ひょっこり顔をだす瞬間がある。これが、意外と「たまらない」のだ。他のジャズ・ピアニストにはない、プレヴィン独特の個性である。

スタンダード曲集とはいえ、全12曲中、超有名なスタンダード曲は「My Funny Valentine」「Chelsea Bridge」「I Got Rhythm」くらいしかない。残りは、どちらかと言えば「玄人好み」のスタンダード曲が選ばれている。が、超有名なスタンダード曲について穂、玄人好みのスタンダード曲についても、アレンジが秀逸で、とにかく全曲、聴いていて、とても楽しい。

とても趣味の良いジャズ・ピアノが主役のライヴ音源。ファンクネスは希薄、オフビートはしっかりジャジーなプレヴィンのピアノが良い方向に作用して、スッキリとした爽快感溢れる弾き回しで、演奏そのもの、楽曲そのものを、リラックスして楽しめる、極上のジャズ・ピアノのライヴ盤に仕上がっている。良い意味で耳あたりが良いので、ながら聴きにも最適。好ライヴ盤です。
 
 

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2024年11月29日 (金曜日)

ウエストサイド物語の良カヴァー

アンドレ・プレヴィンは、作曲家、編曲家、映画音楽、ジャズ・ピアニスト、クラシック・ピアニスト、指揮者。どちらかと言えば、クラシックに軸足がある。2019年2月に惜しくも89歳で逝去。我が国への関わりは、2009年から3年間、NHK交響楽団の首席客演指揮者として活躍。そんなクラシックな演奏家が、こんな洒落た小粋なハードバップ・ジャズをピアノ・トリオでやるなんて。彼の経歴をライナーノーツで読んだ時、とにかく驚いたことを覚えている。

「二足の草鞋を履く男」。アンドレ・プレヴィンは、クラシック・ピアニストであり、ジャズ・ピアニストでもある。そして、どちらのパフォーマンスも一流のレベルで、こんな音楽家はそうそういない。ここでは、ジャズ・ピアニストのアンドレ・プレヴィンにフォーカスを当てる。プレヴィンは、米国ウエストコースト・ジャズを代表するピアニストでもあるのだ。

André Previn『West Side Story』(写真左)。1959年8月24–25日の録音。ちなみにパーソネルは、André Previn & His Pals = André Previn (p), Red Mitchell (b), Shelly Manne (ds)。アンドレ・プレヴィンのピアノがメインのピアノ・トリオ編成。ベースに名手レッド・ミッチェル、ドラムに名手シェリー・マンが担当している。米国ウエストコースト・ジャズの最強のリズム隊である。

タイトル通り、レナード・バーンスタインのミュージカル「ウエストサイド物語」のオリジナルスコアから8曲を選び、ジャズ風にアレンジしている。これがまあ、なんと絶品。「ウエストサイド物語」のジャズ・ピアノ・トリオによるカヴァーは、オスカー・ピーターソンのものが有名だが、そのピーターソンのカヴァーよりも、このプレヴィンの方が内容が濃い。

プレヴィンのピアノは、強烈なドライブ感が身上なのだが、クラシック出身が故、ファンクネスは希薄。しかし、ジャジーなオフビート、ジャジーなコード進行はしっかりと存在する。タッチは切れ味よく硬質、速いフレーズも難なく破綻なく弾きこなす。
 

Andre-previnwest-side-story

 
ピーターソンとプレヴィンの違いは「ファンクネス」の濃淡とオフビートの強弱。ピーターソンのピアノは、ファンクネス濃厚、オフビートが強烈。その他の特徴はプレヴィンと同じなんだが、この「ファンクネス濃厚、オフビートが強烈」なところが、ミュージカル曲の様な流麗な旋律を持つ楽曲のカヴァーについては邪魔になる。流麗な旋律の「流麗さ」が、濃厚なファンクネスと強烈なオフビートに掻き消されてしまうのだ。

その点、プレヴィンのピアノは「ファンクネスは希薄、オフビートはしっかりジャジー」なので、ミュージカル曲の様な流麗な旋律を持つ楽曲のカヴァーに向いている。この「ウエストサイド物語」のプレヴィン盤を聴くとそれがよく判る。流麗な旋律を持つ「ウエストサイド物語」の挿入曲達のフレーズが、キラキラと輝くように耳に入ってくる。

そして、そんなプレヴィンのピアノを、名手レッド・ミッチェルのベース、名手シェリー・マンのドラムがガッチリ支える。これがまあ、素晴らしいベース&ドラムなのだ。ベースはブンブン胴鳴りし、弦はブンブン鋼の響き。ドラムは切れ味良く、弾ける様なパーカッシヴな打音。

しかも、さらに素晴らしいのは、この名手のベース&ドラムが、プレヴィンのピアノの邪魔に全くなっていない。逆に、プレヴィンのピアノが前面に浮かび上がってくるよう。米国ウエストコースト・ジャズのファースト・コールなベーシスト&ドラマー、恐るべしである。

「ウエストサイド物語」のジャズによるカヴァーとして、加えて、米国ウエストコースト・ジャズのピアノ・トリオとして、純粋に楽しめる名盤だと思います。プレヴィンのピアノ、ほんと、長年のお気に入りなんですよね〜。他のアルバムも聴き直したくなりました。
 
 

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2024年11月28日 (木曜日)

「CTIサウンド」のワンダレイ

今年はジャズ・レーベル毎の名盤・好盤を聴きなおすことをしているのだが、昨日から、その流れで「A&M, CTIレーベル」の名盤・好盤の聴き直しを進めている。A&Mレーベルから、CTIレーベル、いわゆる「クリード・テイラー」印のクロスオーバー&フュージョン・ジャズ盤には、今の耳で聴くと、意外と聴きもののアルバムが多くある。

Walter Wanderley『Moondreams』(写真左)。March 11, 12 & 13, 1969年3月の録音。ちなみにパーソネルは、Walter Wanderley (org, el-harpsichord), Bernie Glow (tp, flh), Marvin Stamm (flh), Danny Bank, Hubert Laws, Romeo Penque, Jerome Richardson, Joe Soldo (fl), Jose Marino, Richard Davis, George Duvivier (b), João Palma (ds), Lulu Ferreira, Airto Moreira (perc), Flora Purim, Linda November, Stella Stevens, Susan Manchester (vo), Eumir Deodato (arr)。

ボサノヴァ・オルガンの第一人者、ワルター・ワンダレイの、『When It Was Done』(1968年) に続く、CTIレーベルでのリーダー作の第2弾。この盤でも、ワンダレイのボサノヴァ・オルガンが炸裂。CTIレーベルとして、ジャズ・オルガンをイージーリスニング・ジャズに応用して、聴き応えのある、ジャジーなラウンジ・サウンドをものにしている。

ワンダレイは、オルガンに加え、ハープシコードも駆使しながら、極上のボサノヴァ・オルガンを繰り広げる。ワンダレイのオルガンの音は「正統派」の音。イージーリスニング・ジャズ志向だからと言って、聴きやすく甘い音色で俗っぽい音にはならず、正統なハードバップ基調のオルガンで弾きまくっているところがこの「CTIのワンダレイ」の良さ。
 

Walter-wanderleymoondreams

 
ワンダレイのバックには、当時のクロスオーバー&フュージョン・ジャズ畑の優れたメンバーが大集合して、極上のクロスオーバー&フュージョンなパフォーマンスでワンダレイの演奏を支えている。ストリングスとフルートを上手く使って、ソフト&メロウな雰囲気を醸し出し、従来のクロスオーバー系のエレ・ジャズとは異なる、いわゆる「聴かせるエレ・ジャズ」を演出している。

アレンジはあの「デオダート」。ワンダレイのボサノヴァ・オルガンによるクロスオーバー&フュージョン・ジャズを、ラウンジ音楽に陥りそうなギリギリのところで、ジャズに軸足を留めている。

意外と以前より指摘されていないが、この盤でのデオダートのアレンジは、クリード・テイラーの標榜する「CTIサウンド」を、具体的に忠実に音にした一例だと感じている。いわゆる「CTIサウンド」の源の一つと言って良いだろう。録音は、あの伝説のレコーディング エンジニア、ルディ・ヴァン・ゲルダーの手によるもの。ソフト&メロウなイージーリスニング・ジャズでありながら、意外と骨太な音、適度で趣味の良いエコー。いわゆる、これも「CTIサウンド」の重要な一要素である。

イージーリスニング・ジャズを認めたくないと言う、ジャズ者の方々には決してお勧めしないが、このワンダレイ盤、イージーリスニング・ジャズ盤としては内容もしっかりした、極上のものである。「CTIサウンド」がお気に入りのジャズ者の方には一聴をお勧めしている。
 
 

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2024年11月27日 (水曜日)

ホールの「哀愁のマタドール」

結構、ハードなモダン・ジャズをシビアに聴き続けたらしく、耳がちょっと疲れた。と言うことで「耳休め」に、クロスオーバー&フュージョン・ジャズの好盤を聴くことにする。今年はジャズ・レーベル毎の名盤・好盤を聴きなおすことをしているのだが、今日はその流れで「A&Mレーベル」の名盤・好盤の聴き直しを進めることにした。

Jim Hall『Commitment』(写真左)。邦題「哀愁のマタドール」。1976年6, 7月の録音。A&Mレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Jim Hall (g), Art Farmer (flh), Tommy Flanagan (p), Don Thompson (p, track 2 only), Ron Carter (b), Allan Ganley (ds), Terry Clarke (ds, track 7 only), Eroll Bennett (perc, track 3 only), Jane Hall (vo, track 5), Joan La Barbara (vo, track 3) Don Sebesky (arr, tracks 1, 3 & 8)。

ジム・ホールのギターは、繊細で透明感溢れる、しかし、力感もしっかりあって、奏でるフレーズがくっきり浮かび上がる、従来のジャズ・ギターの奏法を一歩二歩進めた、プログレッシヴなバップ・ギターである。そんなジム・ホールのギターに、アート・ファーマーの柔らかで流麗な、それでいて、しっかり芯の入ったフリューゲルホーンが良く合う。よほど相性が良いのだろう、ジム・ホールのギターとファーマーのフリューゲルホーンのユニゾン&ハーモニーは絶品である。
 

Jim-hallcommitment  

 
このアルバムは、この前年の発表された『Concierto(アランフェス協奏曲)』の大ヒットの後のアルバム。前作の代表的名演「アランフェス協奏曲」の雰囲気をそのまま踏襲した、3曲目の「Lament For A Fallen Matador(哀愁のマタドール)」が聴きもの。ジム・ホールのギターは意外に硬派なので、甘きに流れない。力感溢れるプログレッシヴなバップ・ギターが、こういった耽美的なメロディーを持つクラシックのカヴァーに向いている。「哀愁のマタドール」以外に「When I Fall In Love」「My One And Only Love」等のスタンダード曲もいい感じ。

ジム・ホール自身のお気に入りなミュージシャンを起用しての豪華なアルバムだが、この盤では、特にロン・カーターのベースが良い。当時のロンとしては珍しいことに、ピッチが合っていて、弦を弾くピチカート奏法もブンブン胴鳴りして、切れ味の良いジャジーなグルーヴを撒き散らしている。加えて、1曲目「Walk Soft」、3曲目「Lament For A Fallen Matador」、8曲目の「Indian Summer」におけるセベスキーのアレンジも良好。

A&Mレーベルのクロスオーバー&フュージョン・ジャズの名盤の一枚。イージーリスニング・ジャズ志向な演奏内容ではあるが、ジム・ホールの硬派でプログレッシヴなバップ・ギターや、アート・ファーマーのジェントルで流麗だが、意外とバップなフリューゲルホーンは、ハードバップ時代からの「純ジャズ」なパフォーマンスをしっかり維持していて、聴き応え十分。この盤、硬派でメインストリームな内容のクロスオーバー&フュージョン盤。意外と聴き応えがあって、長年の愛聴盤になってます。
 
 

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