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2026年8月の記事

2026年8月18日 (火曜日)

ピーターソンのソロ名盤を再聴

ピーターソンと言えば、トリオでの演奏で有名なのだが、、この晩は、1人でピアノを弾いた貴重なアルバム。ピーターソンのピアノの真髄が良く判る内容となっていて、先日、ご紹介した『My Favorite Instrument』(1968年)よりも、僕は内容が濃くて、奥が深いと評価している、ソロ・ピアノ盤である。聴けば判るが、このソロ・ピアノ盤では、ピーターソンのピアノ・テクニックがどれだけ優れているかが、良く判る内容になっている。

Oscar Peterson『Tracks』(写真左)。1970年11月10–13日、西ドイツのハンス・ゲオルク・ブルナー=シュヴェア(HGBS)のプライベートスタジオでの録音。ちなみにパーソネルは、Oscar Peterson (p) のみ。オスカー・ピーターソンのソロ・ピアノ盤。スタンダードを強靭で自在なテクニックで引き倒した圧巻の一作。

ストライド・ピアノ。跳躍する左手。2曲目『Basin Street Blues』や、4曲目の『Dancing on the Ceiling』では、左手で低音と和音を交互にポンポンと激しく跳ねるように弾く、昔ながらの楽しい「ストライド奏法」を披露して、これが見事。このストライド・ピアノは、一聴してすぐに「ピーターソン」と判る位、個性的で、このストライド・ピアノを聴くと、ああ、ピーターソンはこれでないと、となぜか安心する。
 

Oscar-petersontracks

 
圧巻のブロックコード。1曲目の『Give Me the Simple Life』では、両手の指をたっぷり使って分厚い和音を鳴らす「ブロックコード」という技が使われており、まるでピアノ1台がビッグバンド(大人数の楽団)になったかのような迫力。このブロックコード、他に有名なピアニストとして、レッド・ガーランドが挙げられるが、迫力と力感という点で、ピーターソンに追従出来るピアニストはいない。

超高速の弾き回し。7曲目の『A Little Jazz Exercise』は彼が作った曲なんですが、タイトルを直訳すると「ちょっとしたジャズエクササイズ」。その名の通りピアノの練習曲(エチュード)のようですが、信じられないほどの超高速スピードで指が動き回る、アルバム一番のハイライトです。これを聞けば、ピーターソンは、アート・テイタムを目標として、それを凌駕することを目指した、ということが十分に理解出来る。

このアルバムは、彼のトレードマークである「聴いている人をハッピーにする明るいスウィング感」が、1人きりの演奏でもまったく薄れずに爆発しているところが最大の魅力。音の強弱、硬軟、緩急を完全にコントロールして、歌心も満点なことも、このソロ・ピアノ・アルバムの優れたところ。ソロ・ピアノ盤として、あまりタイトル名が挙がらない、不思議な盤ではあるが、内容はピカイチ。ソロ・ピアノ盤の名盤としても良い、内容のあるアルバムだと僕は思う。
 
 

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2026年8月17日 (月曜日)

トレーンの初リーダー作再々聴

Prestigeレーベルのアルバムをカタログ順に聴き直している。が、さすが、Prestigeで、まずまずの内容もあれば、これはいったい、と立ち止まってしまうような、「困ったちゃん」なアルバムも出てくる。さすがにこれは聴いていて疲れる。そんな時、今年2026年リマスターのリイシューもあるみたいで、このリイシューを見つけたら、耳や住めに聴き直すことにしている。

John Coltrane『Coltrane(Prestige)』(写真左)。1957年5月31日の録音。この盤は同一日セッションの音源オンリー。ちなみにパーソネルは、John Coltrane (ts), Johnnie Splawn (tp), Sahib Shihab (bs), Red Garland (p on 1-3), Mal Waldron (p on 4-6), Paul Chambers (b), Albert "Tootie" Heath (ds)。基本はフロント3管(テナー、トランペット、バリサク)に、ピアノ・トリオのリズム・セクションがバックに控える。

コルトレーン初のリーダー作である。それにしては、やっつけ感溢れるパーソネルである。どうも、Prestigeレーベルお得意の「エイヤっでジャズマン集めて、誰かをリーダーにして、ジャム・セッション分の一発録り」だったようで、どうも、プロデューサーのボブ・ウェインストックは、コルトレーンの初リーダー作としては、こだわりが無かった様である。

ということで、この初リーダー作については、コルトレーンのテナーのパフォーマンスに絞って、鑑賞を進めるのがベストだろう。バックのミュージシャンのパフォーマンスについては、特筆すべきものは、ほとんど見当たらない。
 

Johncoltranecoltraneprestige_2 

 
コルトレーンのテナーは、マイルス・バンドでも指摘されている様に、とにかく「音がでかい」。しかも、アドリブでは、テクニックを駆使して、吹きまくるきらいがある。正直言うと、ちょっとうるさい。コルトレーンについては、音が大きくテクニックが並外れているジャズマンについては「抑制の美」を追求するに限る。まずはバラードである。

この盤でのコルトレーンのパフォーマンスで、特に優れているのは、やはり「バラードの表現力」。この盤の2曲目「Violets for Your Furs(コートにすみれを)」のバラード表現は絶品。この時点でのコルトレーンのジャズ・テナーの表現力が非常に高いことを証明している。「抑制の美」のコルトレーンを心ゆくまで堪能出来る、バラード演奏である。

4曲目の「While My Lady Sleeps」も「抑制の美」のコルトレーン。ピアノがガーランドから、マル・ウォルドロンに代わっているので、ガーランドのシンプルで優雅なバッキングではなく、ちょっとゴツゴツした黒い情念の様なバッキングなので、バラード演奏としてはちょっと、とは思うが、「抑制の美」のコルトレーンとしては申し分無い。平凡なトランペットとのユニゾン&ハーモニーは蛇足。

聴けば聴くほど、不思議な内容の、コルトレーンの初リーダー作である。バックのメンバーにも、まずます広いスペースを与えていたりして、リーダーのコルトレーンのテナーを愛でるには、ちょっと「隔靴掻痒」の間が残る。ただ、コルトレーンはそんなこと、お構いなしに、我が道を往くテナーを吹き上げている。
 
 
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2026年8月16日 (日曜日)

マエストロの初のソロ・ピアノ盤

シャイ・マエストロ。イスラエル出身、19歳でアヴィシャイ・コーエン・トリオに抜擢され、その後、ECMでのリリースなども体験している、イスラエル・ジャズ最高峰のピアニスト。現在はスペインを拠点に活動しており、巨匠キース・ジャレットからも賞賛されるという若きジャズ・ピアニストである。

Shai Maestro『Solo_Miniatures & Tales』(写真左)。録音は2回に分かれる。2024年7月17日:独ベルリンの「Victor's Place」にての録音。録音対象曲は、トラック 3 (Gloria), 9 (Dakini), 10 (Mystery And Illusions)。そして、前述の3曲以外を、2024年12月3日:蘭ユトレヒトの「ConcertLab Studio」にて録音。ちなみにパーソネルは、Shai Maestro (p) のみ。シャイ・マエストロ、初のソロピアノ作品。

このアルバムは、2つのパートに分かれている。”Miniatures(小型、縮図)”と”Tales(物語、譚)”。”Miniatures”では、1曲が小さく短いが、完全に即興で行った演奏を収録。そして”Tales”では、作曲された素材を基に、メロディーとハーモニーの可能性を広げ、物語のように深く探求された壮大な作品集。音の内容的な差は感じられない。ソロ・ピアノに対するアプローチを2方向から攻めた、という感じだろう。

構成美と即興演奏が見事に融合した、キャリアの重要な転換点となる作品。このアルバムの狙いは「伴奏者がいない完全なソロという空間で、ジャズ、クラシックの感性、そして彼自身のルーツである中東的な旋律をどのように融合させ、一つの「人間的な営みや努力(human effort)」として昇華させるか」だった、とのこと。実に思索的なソロ・ピアノ・パフォーマンスであることが判る。
 

Shai-maestrosolo_miniatures-tales

 
冒頭の「3 Colors」は、ミニマル・ミュージックを思わせる様な、幾何学っぽく美しい旋律が個性。続く「All The Things You Are」では、スタンダード曲のマエストロならではの独創的な解釈。3曲目の「Gloria」は、本作の象徴とも言える深遠な演奏。4曲目の「Aba (For Gil Maestro」は、父親に捧げられた、中東の叙情的な世界観を持つ個性的な演奏。5曲目以降も、その様なマエストロならではの音世界が展開される。

シャイが紡ぐ深く美しいメロディーや、静寂(サイレンス)さえも味方につけるソロ・ピアノの構築美には、キース・ジャレットのソロ・コンサートのエッセンスが色濃く受け継がれている。「キースの正統なフォロワー」としてのマエストロのパフォーマンスがこのソロ・ピアノ盤に刻まれている。

キースは、シャイが持つ耽美的で透明感溢れるリリカルなタッチ、そして伝統を重んじながらも一瞬で楽曲を進化させる「即興へのクイック・シンキングなアプローチ(瞬発的な思考)」を高く評価している。キースが認め、バトンを繋いだ現代最高峰のピアノの響きが、この初のソロ作には凝縮されている。

しかし、マエストロは単なる模倣に留まらず、キースよりも「さっぱりとした切れ味の良いタッチ」と自身の中東的なルーツを融合させており、キースのソロ・ピアノの「二番煎じ」では無いことは明白である。マエストロには、このソロ・ピアノ盤をシリーズとして制作し続けていって欲しい。そう願うほど、このピアノ・ソロ盤はレベルが高く、内容が濃い。
 
 
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2026年8月15日 (土曜日)

ホープのピアノを聴くべき盤。

ホープのプレイ・スタイルは、バド・パウエルのスピード感と、セロニアス・モンクの風変わりなコード感を融合させたようだと評されている。

実力的には、バドとモンクと比肩するピアノなのに、麻薬(ヘロイン)の所持・使用で逮捕され、キャバレー・カードの剥奪による活動停止があったり、西海岸に移住したが、ウエストコースト・ジャズとのアンマッチから、実力を発揮した活動成果を残せなかった。

Elmo Hope『Informal Jazz』(写真左)。1956年5月7日の録音。PrestigeのPRLP-7043番。ちなみにパーソネルは、Elmo Hope (p), Donald Byrd (tp), John Coltrane, Hank Mobley (ts), Paul Chambers (b), Philly Joe Jones (ds)。当時のマイルス・コンボの面々に加え、バードやモブレーといった強力布陣のブローイング・セッションの記録。

ドナルド・バードのトランペット、コルトレーンとモブレーの2テナーの3管フロント。そして、リーダーのエルモ・ホープのピアノの、マイルス・コンボから、ポル・チェンのベース、フィリー・ジョーのドラムのバップなリズム・セクション。特に、本作は後にジャズ界の巨人となるジョン・コルトレーンとハンク・モブレイの2大テナーサックス奏者が同時に参加したセッションとして人気がある。
 
Elmo-hopeinformal-jazz  
 
ホープのピアノの実力は、基本的に判り難い。このアルバムでも、バックに回った時にコンピングやアドリブ・ソロについて、少し突っかかるような独特のリズムと、一筋縄ではいかない音の選び方(ビターな味わい)が随所に散りばめられているのだが、如何せん、一般のリスナーには気がつきにくい。しかも、このアルバムでは、強力なフロント陣に主役を譲る「名目上のリーダー」に見られがちで、かなり損をしている。

さて、コルトレーンとモブレイの「テナーサックス対決」だが、コルトレーンは音の大きさやアドリブ展開の大胆さで目立っている。逆に、モブレーは、ブルースフィーリング溢れるマイルドなブロウを展開してはいるが、いかんせん温和しい。この盤でのモブレーは「ちょっと不調時のモブレー」と感じざるを得ない。恐らく、彼の繊細な性格や、共演者との相性・スタイル的なミスマッチなどが災いしているのだろう。

本作に収録された4曲のうち、ホープは2曲(「Weeja」「On It」)を書き下ろしている。ホープの楽曲はコード進行や小節構成に独特の捻りがあり、単純なブルースではなく、アルバム全体にハードバップとしての知的で引き締まった雰囲気を醸し出している。ホープの作曲の才能にも注目すべきだろう。

評論家筋やベテラン・ジャズ者の方々が「パウエルの劣化コピー」や「モンクの真似事」との誤解を表明しすぎ。ホープについては、今一度、しっかり聴いて再評価すべきピアニストである、と僕は思う。
 
 
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2026年8月14日 (金曜日)

マンデル・ロウのデビュー盤

ブルーノートやプレスティッジでは全く聴いたことが無いギタリストの名前、マンデル・ロウはジャズ・ギタリスト。Wikipediaによると「ラジオ、テレビ、映画で、またセッションミュージシャンとしてもよく働いたアメリカのジャズ・ギタリスト」とある。そんなマンデル・ロウのデビュー・アルバム。チャーリー・クリスチャンの系譜を継ぐマンデル・ロウの、クリーンで洗練されたハーモニーと美しいスウィング感が堪能できる初期の好盤である。

『The Mundell Lowe Quartet』(写真左)。1955年8月27日と10月4日の録音。RiversideレーベルのRLP 12-204番。ちなみにパーソネルは、Mundell Lowe (g), Dick Hyman (p, org, celesta), Trigger Alpert (b), Ed Shaughnessy (ds)。タイトル通り、マンデル・ロウのギター1本をフロントにした、カルテット(4人編成)の演奏。ロウのギターの個性と特徴がとても良く判る編成。

1955年の録音なので、バリバリなハードバップ・ギターが展開されるとおもいきや、このアルバムにあるのは、基本的にはストレートアヘッドな〜スウィング〜ビ・バップなジャズ。フロントのロウのギターが弾き回すフレーズは、弾き回しはビ・バップ、リズム&ビートはスウィング。ハードな弾き回しのスウィング・ジャズ、そして、演奏の展開はハードバップ。ハードバップ志向のハード・スウィング。
 

The-mundell-lowe-quartet

 
ロウのギタープレイは、一言で表すと「極めて端正で、洗練されたエレガンス」。クリーンで濁りのない「アコースティック・ライクな音色」、完璧に制御された「端正なシングル・ノート」、複雑でありながらも耳に優しい「コード・ワーク」、これらのロウの特徴が、このアルバムの中に散りばめられている。また、スタジオ・ミュージシャンやアレンジャーとしても活躍をしていたロウは、複雑でありながらも耳に優しい、知的なハーモニーを聴かせてくれる。

バンド全体で特徴的なのはディック・ハイマンによるオルガンやチェレスタの導入。ここでのオルガンはどこか牧歌的で繊細な、独特の淡い色彩をアルバムに添えている。ロウの端正なギターワークと相まって、上品で非常に聴き心地の良いアンサンブルが見事である。ハイマンが弾くオルガンやチェレスタ(B2の「The Night We Called It a Day」)との対話において、ロウは決して自己主張し過ぎ無い。

コテコテの黒いブルース・フィーリングとは一線を画す、「知的で、室内楽のように美しいジャズ・ギター」。ハードな弾き回しのスウィング・ジャズ志向のギターは、中間派のジャズ・ギタリストとして分類、評価するのが相応しいのかも、しれない。最期に、ラストの「Far From Vanilla」は、ロウ作の実験的な「軽快なブルース」ではあるが、どこかアブストラクトな面も見え隠れする、中途半端なこの演奏は内容的に蛇足だろう。
 
 

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2026年8月13日 (木曜日)

ハードバップ/スウィングの好盤

Riversideレーベルのカタログを順に見ていくと、ほどなく「マンデル・ロウ」に遭遇する。ブルーノートやプレスティッジでは全く聴いたことが無いギタリストの名前、マンデル・ロウはジャズ・ギタリスト。1922年4月21日ミシシッピ州ローレル生まれ。Wikipediaによると「ラジオ、テレビ、映画で、またセッションミュージシャンとしてもよく働いたアメリカのジャズ・ギタリスト」とある。

Mundell Lowe『A Grand Night For Swinging』(写真左)。1957年3月7日(tracks 1, 3, 4 & 7) と4月10日(tracks 2, 5 & 6)の録音。Riversideレーベルの「RLP 12-238」。ちなみにパーソネルは、Mundell Lowe (g), Billy Taylor (p), Les Grinage (b), Ed Thigpen (ds), Gene Quill (as :tracks 2, 5 & 6)。

ジャズ・ギタリストとして純粋に活動したのは、1950年代がメイン。1955年から57年の間に、リヴァーサイドから4枚のリーダ作をリリースしている。そのラストの4枚目のリーダー作がこのアルバムになる。心地良くエレガント、クールで軽快な音色のマンデル・ロウのギター。スローなナンバーの中、流麗なコードワークでじっくり聴かせる技に、意外に凄みを感じる。それは4枚目のリーダー作でも変わらない。
 

Mundell-lowea-grand-night-for-swinging

 
逆にこの盤では、クールで軽快なトーンで知られていたロウが、「もっとハードに、力強くスウィングできること」を証明するが如く、非常に小気味よくてハッピーな弾き回しをしているのが着目点。弾き回しの基本は「スウィング」。ハードバップど真ん中の時代の録音だから、この盤の演奏志向は「スウィング」である。クール・スタイルから、タフで泥臭いハード・スウィングへのステップアップをこの盤で図っている。

ビリー・テイラーの上品かつ軽快なピアノでのバッキングの妙、そしてエド・シグペンの正確&堅実なドラミングが絶妙に噛み合って、良好なリズム&ビートを叩き出している。アルト・サックスが入ったクインテット演奏では、クイルのアルト・サックスのエッジの効いたアグレッシブな吹奏が、セッションに良い意味での荒々しさと泥臭いファクネスを付加していて、ハード・スィングなセッション志向に貢献している。

全体的にミディアム〜アップテンポの楽曲が中心で、ジャズ初心者からギタージャズ好きまで、誰もが心地よく楽しめる「極上のスウィング・アルバム」。リラックスした雰囲気でありながら、ジャムセッションらしいスリリングな閃きが詰まった、1950年代のハードバップ/スウィングの好盤と言える。
 
 

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2026年8月12日 (水曜日)

プレスティッジの西海岸ジャズ

リーダーでサックス奏者のギル・メレ(Gil Mellé)は、カリフォルニア州出身のミュージシャン。ジャズと映画音楽の創作活動がメイン。ブルーノートの1517番、ブルーノートの「珍獣」と言われる『Patterns In Jazz』をリリースしていることでも有名。音的には米国西海岸ジャズの音である。この『Patterns In Jazz』と、ギターのジョー・シンデレラ、ドラムのエド・シグペンは共通。

Gil Mellé『Primitive Modern』(写真左)。1956年4月20日と6月1日の録音。Prestigeレーベルの7040番。ちなみにパーソネルは、Gil Mellé (bs, as), Joe Cinderella (g), Billy Phipps (b), Ed Thigpen (ds)。ピアノレス、バリトン・サックスとギターをフロントに据えた、ちょっと珍しいカルテット編成。アルバム名でもある「Primitive Modern(原始的かつ現代的)」とは、彼が目指した「シンプルなリズムと複雑なハーモニーの融合」を意味しているとのこと。

ほど良くアレンジされ、ユニゾン&ハーモニー、そしてアンサンブルが整然としていて、演奏自体も程良く抑制された、全くもって「米国西海岸ジャズ」の音である。そして、シンプルに力強くスイングするリズムと、クラシック音楽のような複雑な和音を組み合わせた、非常にユニークで少し風変わりなサウンドがこの盤の特徴になる。
 
Gil-melleprimitive-modern  
 
米国西海岸ジャズ志向の音作り。知的でクールな響きは、感情をぶつけるような熱いパフォーマンスではなく、穏やかでクールで引き締まった演奏。そして、ギル・メレの軽やかなバリトンサックスと、ジョー・シンデレラの軽快なギターの絡み合いが絶妙。そして、この盤では、ギル・メレは、ジャズとクラシックの融合を本気で追い求めているところが見え隠れしているところがユニーク。

つまり「お堅いアブストラクトな現代音楽の理論(バルトークなどの20世紀のクラシック音楽)を、ジャズのスインギーなリズムで演奏したら最高にクールなはずだ」という、彼の実験精神が満ちあふれているアルバムでもある。この実験臭さを良し徒するか否かで、このアルバムの評価は分かれるだろう。アレンジ優先、聴き応えをメインにした米国西海岸ジャズとして解釈すれば、そんなに異質なジャズ・アルバムではない。

その実験精神は、この盤で「鉄のパイプ」を楽器として特注・演奏、ドラマーのための「特製スティック」の開発、バリトンサックスとギターの「ユニゾンと調和」、知的にコントロールされた「ポリリズム」に現れている。このメレのアルバムについては、ピアノのいない空間で、2つの楽器が一本の糸のように完璧にシンクロする『知的な室内楽ジャズ』が言い得て妙もかもしれない。
 
 
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2026年8月11日 (火曜日)

パスの『Virtuoso No.2』です。

第1作目「Virtuoso」の内容が素晴らしく、評価も良好だったので、じゃあ第2作を、のノリで作られた感じ。でも、この後、第3作、第4作とあるので、別に「商業主義」に入った訳でもないみたい。パス自身が自らのソロ・パフォーマンスの可能性、伸びしろを強く感じたからではないだろうか。この第2作の内容も、決して、第1作に準じた「予定調和」風の演奏に陥っていないところが素晴らしい。

Joe Pass『Virtuoso No.2』(写真左)。1976年9月14日と10月26日の録音。 Pabloレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Joe Pass (g) のみ。ジャズギターの巨匠ジョー・パスが1976年に発表したソロギター・アルバムの名盤です。伴奏なしのギター1本(完全独奏)で極限のアンサンブルを披露した名盤である。

とにかく、パスのギター・テクニックの超絶技巧さに尽きる。ウォーキングベース、複雑なコードワーク、高速のリニアフレーズをすべて同時に弾きこなし、ギター1本とは思えない「オーケストラ的」な分厚いサウンドを生み出している。に加えて、フレーズには歌心がしっかりと込められていて、単に超絶技巧なバカテク・ギターをひけらかすだけの内容に陥っていないところも見事。
 

Joe-passvirtuoso-no2

 
しかも、収録曲がふるっている。コルトレーンの「Giant Steps」、チック・コリアの「Five Hundred Miles High」そして「Windows」と、モダン・ジャズの名曲がチョイスされている。録音当時、パスは47歳。ジャズ・ギタリストとしては、ベテラン中のベテランで、新しいモダン・ジャズの曲にチャレンジする必要も無かったと思うのだが、パスは果敢に挑戦している。

「Giant Steps」については、ジャズ史上屈指の難曲にギター1本で挑戦、高速で移り変わるコード進行を、単音のランと和音の超絶的なコンビネーションで弾き切っている。「Five Hundred Miles High」では、流麗なラテン・フィールをギターのコード・ストロークとベースラインで見事に再現。そして「Windows」では、浮遊感のあるモダンなコード進行の下、パスならではの歌心溢れるアドリブが展開されていて素晴らしい。

愛用機「ギブソン ES-175」(フルアコ)をアンプに繋がず、目の前に立てたマイク1本のみで生音を拾う超硬派なアプローチでレコーディングされている。その「極めて小さく、硬い生音」をあえてそのまま録音するという、当時の常識を覆すアプローチが取られたお陰で、パスの「通常のギターアルバムでは消されるはずの音」が克明に記録されている。録音にも一目置ける内容である。
 
 

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2026年8月10日 (月曜日)

ジャズ喫茶で流したい・330

ピーターソンの「Exclusively for My Friends」=「E.f.m.f.」とは、ドイツのMPSレーベルの主宰者ハンス・ゲオルク・ブルナー=シュヴェアの自宅スタジオで録音された、プライベート・コンサート音源シリーズのこと。この音源シリーズにこそ、ピーターソンの「本当の演奏志向とスタイル」が如実に現れている。レコード会社からの「商業主義」のアルバム作りを排除した、オスカー・ピーターソンの本当の姿、がこの「E.f.m.f.」に記録されていると言って良いと思っている。

Oscar Peterson『My Favorite Instrument』(写真左)。1968年4月、西ドイツのハンス・ゲオルク・ブルナー=シュヴェア(HGBS)のプライベートスタジオでの録音。ちなみにパーソネルは、Oscar Peterson (p) のみ。ピーターソンのキャリア史上初となる歴史的な完全ソロ・ピアノ・アルバム。『Exclusively for My Friends』シリーズの第4作目=「E.f.m.f.4」になる。

一切の伴奏なしの「ソロ・ピアノ」で自身の圧倒的なテクニックと豊かな歌心を披露した傑作。ピーターソンが自らの心の赴くまま、当時ピークだったであろう、彼の圧倒的なテクニックと歌心で弾きまくったソロ・アルバム。ピアノは、旋律楽器と打楽器の両方を受け持つことが出来、その音のスケールの広さから「一人オーケストラ」が可能な楽器とされているが、そのピアノという楽器の特質が如実に判るソロ・ピアノ盤である。
 

Oscar-petersonmy-favorite-instrument  

 
アップテンポな曲はスリリングの極致。バラード演奏についても、情感豊かな表現力が素晴らしい。各楽曲では、まるでベースやドラムがバックにいるかのような、強力な左手のスイング(ストライド・ピアノ奏法)と、きらびやかな右手のパッセージが絶妙に融合していて、とにかく迫力があって、ダイナミック。繊細さ、歌心もしっかりと兼ね備えていて、このアルバムに詰まっている演奏は、ジャズ・ピアノのソロ演奏として最高峰のひとつとして良いだろう。

そして、この唯一無二は、他に例のない、迫力あるダイナミックな展開を可能にしているのが、HGBSのスタジオに置かれていたオーストリア製の銘器ベーゼンドルファーのグランド・ピアノ。このピアノは、通常のピアノより低音側に鍵盤が拡張されており、深く重厚な響きを持っていて、これが、他には無い、ピアノの音のダイナミズムの拡大を可能にしている。

そこにピーターソンが超絶技巧なテクニックで弾きまくる。超絶技法を持つピーターソンが、ベースやドラムがいない分、左手が縦横無尽に動き回り、まるで一人でバンドを従えているかのような圧倒的なスイング感を構築しているのだ。録音のクオリティも極上。ピアノの音を最高のクオリティで捉えており、ピーターソンの繊細なタッチからダイナミックな打鍵まで鮮明に堪能できる。ジャズにおける、ソロ・ピアノ盤の名盤の一枚である。
 
 

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『AirPlay』(ロマンチック) 1980

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2026年8月 9日 (日曜日)

イブラヒムの ”Ancient Africa”

フォーキーでワールド・ミュージック的な響きを持つ、アーシーでゴスペルチックなジャズ・ピアノを全面的に押し出して、そのまんまのジャズ・ピアノをずっとイチ押しで弾き続けているピアニストがいる。Abdullah Ibrahim(アブドゥーラ・イブラヒム)、昔のデビュー当時の名前は、Dollar Brand(ダラー・ブランド)である。

僕はこの唯一無二の個性を持つピアニストの『African Piano』というソロ・ピアノ盤で、冒頭の「Bra Joe from Kilimanjaro」を聴くだけで、一瞬にして、心を撃ち抜かれた。緩やかな緊張感溢れるアーシーでゴスペルチックで骨太な左手のビートに乗って、右手が力強いタッチで、これまたアーシーでゴスペルチックなフレーズを紡いでいく。この「アーシーでゴスペルチックな」そして、力感溢れるタッチに完全に「やられた」。

Abdullah Ibrahim『Ancient Africa』(写真左)。Sackville(Delmark)盤。1973年2月18日、カナダ・トロントのスタジオ(Thunder Sound)にて録音。ちなみにパーソネルは、Abdullah Ibrahim (p)のみ。イブラヒム単独のソロ・ピアノ盤である。このタイトルを持つアルバムには、リリース時期や録音場所が異なる2つの重要な作品(JAPO盤”写真右”とSackville盤”写真左”)が存在する。これは、Sackville(Delmark)盤。
 

Abdullah-ibrahimancient-africa
 

もともと『Sangoma』と『African Portraits』という2枚のソロ・ピアノLPに分かれていた音源を、曲順を再構成して1枚のCDにまとめたもの。イスラム教への改宗とメッカ巡礼を終えた直後の録音であり、強烈なタッチとサステインペダルを駆使した、非常に濃密でスピリチュアルな祈りが込められている好盤、とされる。特に冒頭のメドレー「Ancient Africa」は凄まじいの一言。

キリスト教の賛美歌(ゴスペル)、南アフリカの伝統音楽、そして最先端のモダン・ジャズの語法とが、唯一無二な融合を果たしている。この融合は、他のピアニストには決して聴かれない、イブラヒムならでは、のもの。15分〜20分に及ぶ長大な即興演奏のスタイルは、キース・ジャレットが有名だが、そのキースの先駆け的存在であり、キースのソロを凌駕するオリジナリティを持っていると思料。

イブラヒムのソロ・ピアノは、欧州的クラシック臭が全く無く、あくまで「キリスト教の賛美歌(ゴスペル)、南アフリカの伝統音楽、そして最先端のモダン・ジャズの語法の融合」だけで勝負しているところが潔い。ジャズ以外の他のジャンル音楽のファンにも訴求したいという気持ちは微塵もないみたい。イブラヒムのソロ・ピアノの凄さは、この「我が道を行く」感である。
 
 

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『AirPlay』(ロマンチック) 1980

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2026年8月 7日 (金曜日)

ピアノ・トリオの代表的名盤 120

ピーターソンの「Exclusively for My Friends」とは、ドイツのMPSレーベルの主宰者ハンス・ゲオルク・ブルナー=シュヴェアの自宅スタジオで録音された、プライベートコンサート音源シリーズのこと。

この音源シリーズにこそ、ピーターソンの「本当の演奏志向とスタイル」が如実に現れていると思うのだ。極端ではあるが、アート・テイタム志向の超絶技巧な弾き回しと高速スイング感と硬派でダンティズム溢れる歌心、が、ピーターソンの本質だと思うのだ。

Oscar Peterson『The Way I Really Play』(写真左)。1967年11月12日、 西ドイツ、フィリンゲン=シュウェニンゲンのハンス・ゲオルク・ブルナー=シュヴェーのプライベート・スタジオでの録音。邦題『オスカー・ピーターソンの世界』。ちなみにパーソネルは、Oscar Peterson (p), Sam Jones (b), Bobby Durham (ds)。ピーターソンの「Exclusively for My Friends」シリーズの第3弾。「E.f.m.f. 3」と並記されることもある。

ピーターソンらしい豪快かつ圧倒的な超絶技巧と、凄まじいスピード感溢れるの高速スイングが存分に発揮されている。お酒を片手にリラックスしつつも、目の前のオーディエンスの熱気に触発されたピーターソンは、商業主義という制約から完全に解放され、本来の爆発的なスイングと凄まじい超絶技巧をそのままに、手数の多いプレイへと昇華させているのが良く判る。

また、シリーズのこの3作目で、始めて、新トリオとなる、ベースのサム・ジョーンズとドラムのボビー・ダーハムを迎えた、ピーターソン自身が「最高のトリオ」と自賛した新編成による強固なアンサンブルが実現している。
 

Oscar-petersonthe-way-i-really-play

 
このトリオの特徴は、従来の「ピアノを引き立てる伴奏」に留まらない、ピーターソンのピアノの特質に合わせた、ダイナミックで凄まじいスピード感溢れる高速スインギーなインタープレイで、唯一無二のグルーヴ感を実現している。

冒頭の「Waltzing Is Hip」から、ダイナミズム溢れるスケールの広い圧倒的迫力のピーターソンのピアノがカッ飛んでいく。決して耳触りではない、バップではない、アート・テイタム志向の超絶技巧な弾き回し。5曲目の「Alice in Wonderland」を聴けば、ビル・エヴァンス・トリオとは対極にある、ピーターソンのピアノの特質に合わせた、ダイナミックで凄まじいスピード感溢れる高速スインギーなインタープレイで、唯一無二のグルーヴ感を醸し出しているのが良く判る。

録音も良く、オーディオマニアとしても知られたハンス・ゲオルクの私邸で私的なオーディエンスを前に行われた録音のため、当時のスタジオ録音を凌駕する、生々しく極上の音質での録音を実現している。ピーターソンのペダルを踏む音や、時折聴こえるピーターソン本人の「唸り声(ハミング)」までリアルに再現されていて、極上の臨場感溢れる素晴らしい録音に耳は釘付けになる。

タイトル「The Way I Really Play」が意味深。和訳すると「僕の本当の演奏スタイル」。当時、ピーターソンは大手ヴァーヴ・レコードとの契約に縛られており、商業的なヒットを求められることが多く、自らのジャズ・ピアニストの本質と個性をオブラートに包んで、聴き心地優先の弾き回しをしていたことは否めない。

しかし、ヴァーヴとの契約を終了し、MPSレコードと契約して、手始めにこの「Exclusively for My Friendsシリーズで、ピーターソンが弾きたい様に弾く、という「ピーターソンの個性と特徴」を最優先にした録音を積み上げていった訳で、そういう意味で、MPSレコードのピーターソンの諸作は、ピーターソンの本質が前面に押し出された録音成果ばかりである。
 
 

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2026年8月 6日 (木曜日)

ジャズ喫茶で流したい・329

この1964年のモントレー・ジャズ・フェスティバルへの出演を捉えたライヴ盤は、ベーシスト・作曲家・バンドリーダーとしての彼の絶頂期を捉えた好ライヴ盤と高く評価されている。

Charles Mingus『Mingus at Monterey』(写真左)。September 20, 1964年9月20日、米国のモントレー・ジャズ・フェスティバルでのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Charles Mingus (b, p), Lonnie Hillyer (tp), Charles McPherson (as), Jaki Byard (p), Dannie Richmond (ds), と、ここまでがレギュラー・クインテットのメンバー。そこに、tracks 6 & 8「Take the "A" Train」にだけ、管楽器が追加されるが、そのメンバーについてはご紹介は割愛。

基本は、チャールズ・マクファーソンのアルト・サックス、ロニー・ヒリアーのトランペットがフロント2管、バックのリズム隊は、リーダーのチャールズ・ミンガスのベースに、ジャッキー・バイアードのピアノ、ダニー・リッチモンドのドラムの鉄壁のリズム隊。この鉄壁のリズム隊が、この盤の分厚く疾走感溢れるミンガス・ミュージックのダイナミズムとグルーヴを醸し出している。

クインテット演奏でありながら、ビッグバンド・サウンドの様な、分厚くダイナミックなアンサンブル、そして、ライヴ演奏だからだろう、それぞれの楽器のソロ・パートがふんだんに与えられていて、限りなく自由度溢れるモーダルなアドリブ・フレーズを叩き出している。とくに、リーダーのミンガスのベースと、バイアードのピアノ、マクファーソンのアルト・サックスのパフォーマンスが見事。
 

Charles-mingusmingus-at-monterey

 
オリジナルLPのA面を丸ごと使った「Duke Ellington Medley」が素晴らしい。前半のバラード調から一転し、疾走感あふれる超ハイエネルギーなビバップ・スウィングへと突入、素晴らしく魅力的な「Take the 'A' Train」のパフォーマンスが展開される。バイアードの、ストライド・ピアノのスタイルを交えたスリリングで破天荒なソロが熱狂的。バックでミンガスのベースがブンブン、リッチモンドのドラムが炸裂。

LP2枚目のA面の後半「Orange Was the Color of Her Dress, Then Blue Silk」も聴きもの。メロディアスでありながら、テンポ、リズム、ムードが目まぐるしく変化。ミンガス独自の作曲術が冴えに冴える。中盤ではフリーでアブストラクトなカオスに突入したかと思えば、次の瞬間に一気にギアを切替え、リッチモンドの力強いドラムスと共に猛烈にスウィング。激しさと美しさが同居する、ミンガス・ミュージックの真骨頂と言える演奏である。

エリック・ドルフィーを失った直後のライヴでありながら、ドルフィーとの音楽成果を発展させた、エネルギーに満ちあふれたミンガスのキャリア絶頂期のパフォーマンスが記録されている。

僕は、このライヴ盤と『Cumbia & Jazz Fusion』(1978年)の2枚を、大学時代、秘密の喫茶店で聴かせて貰って、ミンガス・ミュージックに填まった。特にこのライヴ盤はアルバムの入手が難しかったので、秘密の喫茶店のママさんにお願いして、カセットにダビングさせてもらって、何度も何度も繰り返し聴いた思い出がある。最近になって、やっとサブスク・サイトに音源がアップされた。今回、やっと聴き直しが出来て、やっとの記事化でした。
 
 

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2026年8月 5日 (水曜日)

フロント2管がスイングする好盤

演奏全体の雰囲気、アンサンブルの出来などを総合すると、ちょっと熟れていない、荒さが残る演奏ではある。恐らく、急造のジャム・セッションだったのでは無いか。

ただし、演奏はエネルギッシュでチャレンジブルで熱気溢れるもの。荒削りではあるが、ストレート・アヘッドでスインギーなハードバップが展開されている。中間派のトロンボーン奏者、ベニー・グリーンがリーダー格なんで、ちょっと意外な内容ではあるが。

『Bennie Green With Art Farmer』(写真左)。1956年4月13日の録音。プレスティッジの7041番。ちなみにパーソネルは、Bennie Green (tb), Art Farmer (tp), Cliff Smalls (p), Addison Farmer (b), Philly Joe Jones (ds)。ベニー・グリーンのトロンボーンと、アート・ファーマーのトランペットがフロント2管のクインテット編成。

中間派は、ビ・バップの熱気とスイング時代のスインギーな演奏とが融合した、ゆったりとファンキーにスイングする演奏が旨なのだが、このアルバムは、ストレート・アヘッドなハードバップ。冒頭の「My Blue Heaven(私の青空)」でも、ベニー・グリーンのトロンボーンは、アグレッシヴでエネルギッシュな吹奏を展開する。ちょっと速いテンポの演奏なのだが、ハッピーで軽快なスウィング感はさすが「中間派」である。
 

Bennie-green-with-art-farmer

 
太く艶のある音色で、外向的かつファンキーにスウィングするスタイルのベニー・グリーンのトロンボーンと、知的で叙情的、内省的で美しいメロディラインを紡ぐスタイルのアート・ファーマーのトランペットの「対照的な」個性のフロント2管のユニゾン&ハーモニー、そしてアンサンブルこそが、このアルバムでの一番の聴きどころ。

収録曲も、ブルース、スタンダード、バラードなどバランスの良い5曲で構成されており、ハードバップ中期の充実した演奏をいろいろな角度から楽しめる。

ソリストとしては、グリーンのトロンボーンが、速いテンポの曲も難なく吹き回すハード・バッパーな吹奏は見事。ファーマーは、溌剌としたブラスが輝く様な知的なトランペットを吹き上げる。スモールズのピアノも陰影には乏しいが、明るく元気に弾きまくっているのが印象的。アート・ファーマーの双子の兄弟のアディソンは堅実。ドラムのフィリージョーは演奏全体を鼓舞するように叩きまくり(笑)。

ジャケットが悩ましくて「もみの木とグリーン」。クリスマスの企画盤か、と勘違いするが、これ、リーダーが「Benny Green(緑)」だから、「グリーンだから緑の木にしよう」という、当時のジャズ界特有の非常に大雑把でユーモラスなアイデアから生まれたとのこと。まあ、プレスティッジだからな。良しとしよう(笑)。
 
 

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2026年8月 4日 (火曜日)

プレスティッジの中間派の好盤

ビ・バップの「聴かせる部分」をピックアップし、スイング時代のメロディアス&スインギーな音作りを施しつつ、ハードバップのフォーマットに適応した、いわゆる「中間派」の音である。ハードバップ時代によくあった、先進的な奏法&スタイルを追求するのではなく、あくまで、聴いて楽しむジャズとしての、スインギーなスタイルを踏襲した、いわゆる「中間派」の音世界である。

James Moody and His Band『Wail Moody, Wail』(写真左)。1955年12月12日の録音。プレスティッジの7036番。ちなみにパーソネルは、James Moody (ts, as), Dave Burns (tp), William Shepherd (tb), Pee Wee Moore (bs), Jimmy Boyd (p), John Latham (b), Clarence Johnston (ds)。ビ・バップ時代から活躍していた、音楽志向的には「中間派」のジェームス・ムーディーのアルバムである。

ムーディーのサックス、バーンズのトランペット、シェパードのトロンボーン、ムーアのバリサクの4管フロントのセプテット(七人編成)。フロントに4本の管楽器を配した、ブラスの厚みのあるユニゾン&ハーモニーと、活気あふれるアンサンブルが特徴。ムーディがビ・バップの熱気をそのまま残しつつ、ハード・バップへと移り変わるタイミングでの、ムーディーの音作りの志向が確認出来る好盤である。
 

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「ビ・バップの熱気をそのまま残しつつ」と表現されてはいるが、ビ・バップの演奏テクニック優先のアクロバティックな部分はそぎ落として、ビ・バップの前のジャズの演奏トレンドだった「スイング」の音作りを踏襲して、ハードバップの演奏フォーマットに適応した、ビ・バップのジャム・セッションの熱量と、スイングを踏襲した、ハードバップ対応な息の長いソロ・リレーを融合した、そんな感じがする音作りが実に雰囲気である。

ムーディーのサックスは、オールド・スタイルの吹奏。サックスの吹奏のお尻の部分に「ビブラート」がほんのりかかっている。大々的ではないが、ムーディーのサックスはオールド・スタイル。しかし、このオールド・スタイルのサックスが、ビ・バップの「聴かせる部分」をピックアップし、スイング時代のメロディアス&スインギーな音作りにピッタリなのだ。太く温かみのあるハッピーなスイング感が前面にでた、ムーディーのサックスは聴きものである。

ほどよくアレンジされた、4本の管楽器(4管フロント)による分厚くスインギーで華やかなアンサンブルがこの盤の聴きどころ。中間派ジャズの特徴である「スイング感」が半端ない。先進的なハードバップでは無いが、聴いて楽しい、モダン・ジャズとして、聴き応えのあるアルバムであることは間違い無い。とりわけ、バラード演奏での「歌心」は聴く耳に染みる。そして、演奏全体の雰囲気が「適度にリラックスして楽しげ」。何よりである。
 
 

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2026年8月 3日 (月曜日)

アビー・グリーンのCTI好盤です

当時はアビー・グリーンとは何者かも知らなかった。ただただ、印象的なジャケと収録曲、そして、CTIレーベルのアルバムというだけで、購入したアルバムだったが、聴いてみて、意外と「当たり」だったのを今でも覚えている。

Urbie Green with Grover Washington, Jr. and the David Matthews Big Band『Señor Blues』(写真左)。1977年6月の録音。CTIの7079番。ちなみにパーソネルは、下記の通り。当時ベテランのジャズ・トロンボーン奏者アービー・グリーンのリーダー作。グローバー・ワシントン・ジュニアとデイヴィッド・マシューズ・ビッグバンドとの共演がフィーチャーされている。

Urbie Green (tb), Grover Washington, Jr. (ts, ss), David Matthews (el-p, arr), John Scofield (el-g), Harvie Swartz (b), Jim Madison (ds), Sue Evans (perc) 以下はブラス・セクションで、Burt Collins, Joe Shepley (tp, flh), Sam Burtis (tb), Tony Price (tuba), Fred Griffin (French horn), Frank Vicari (ts), David Tofani (ss, fl), Kenny Berger (bs, b-cl)。

マシューズによる、優れたダイナミックなアレンジのもと、アービー・グリーンの円熟したトロンボーン・サウンドに加え、ワシントン・ジュニアの熱いサックス・ソロや、当時新進気鋭だったギタリストのジョン・スコフィールドらのプレイが耳を引く、大編成の迫力とクロスオーバーならではの疾走感・ファンク感が絶妙にマッチした演奏内容。リーダーのアビー・グリーンのトロンボーンは、美しい音色と印象的なテクニックを披露していて、なかなか聴き応えがある。
 

Urbie-greensenor-blues

 
冒頭の「Captain Marvel」は、チック作の疾走感あふれるジャズ・フュージョンの名曲カヴァー。続く「You Are So Beautiful」は、ジョー・コッカーの歌唱が印象的だった、メロウで美しいバラード。グリーンのエモーショナルなトロンボーンが光る。3曲目「Ysabel's Table Dance」は、ミンガス作『Tijuana Moods』収録曲のカヴァー。エキゾチックなグルーヴが心地良い。

4曲目「Señor Blues」はシルヴァーのファンキー・ジャズの名曲。ワシントンJr,のサックスが炸裂する。5曲目「I'm In You」はピーター・フランプトンのロックのヒット曲のカヴァー。ファンキーなフュージョン・ジャズへ見事にアレンジ。そして、ラストの「I Wish」は、スティーヴィー・ワンダーの名曲。ファンキーで迫力あるカヴァー。

このミツバチの大写しのジャケットと、ジャズ・スタンダードだけでなく、ロック、ソウル、ポップスなどのヒット曲を積極的に取り上げてカヴァーした、ちょっと節操の無い収録曲に引かれて、手にしたCTI盤である。

しかし、今の耳で聴き直してみると、クロスオーバー&フュージョンの好盤というよりは、当時のメインストリーム志向のコンテンポラリー・ジャズとして、なかなか硬派でジャズな内容に、思わず聴き耳を立ててしまった。好盤です。
 
 

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2026年8月 2日 (日曜日)

フュージョン・ボーカルの好盤

フュージョン・ジャズは、不思議とボーカル盤が少ない。クロスオーバー&フュージョン・ジャズの老舗レーベルのCTIレコードですら、夫婦デュオのジャキー&ロイ、キャシー・マッコード、そして、このパティ・オースティンくらいである。フュージョン・ジャズのブームの裏では、ロックの世界ではAORブームがあって、こちらはアダルトな雰囲気のボーカル・ロックがメイン。フュージョン・ジャズはAORとの競合を避けたのかもしれない。

Patti Austin『Havana Candy』(写真左)。1977年8月の録音。CTIの5006番。パティ・オースティンとして、1976年のデビュー盤『End Of A Rainbow』に続くセカンド・リーダー盤。ちなみにパーソネルは下記の通り。フュージョン・ジャズ畑の名うての名手達が名を連ねている。加えて、プロデューサーは、ディブ・グルーシン、グルーシンはアレンジも担当して、八面六臂の活躍。

Patti Austin (vo), Dave Grusin (el-p, ac-p, syn, arr, cond)), Richard Tee (ac-piano :2, 6, 7), Eric Gale (el-g :1–7), Hugh McCracken (el-g :1, 4, 5), Steve Khan (el-g :1, 5), Will Lee (el-b :1, 4, 5), Francisco Centeno (el-b :2), Anthony Jackson (el-b :3), Frank Gravis (el-b :7), Steve Jordan (ds :1–7), Ralph MacDonald (perc :1, 5, 7, congas :4), Dave Valentin (fl, timbales :4)。ここにストリングスとバック・コーラス隊がつく。
 

Patti-austinhavana-candy

 
ソフト&メロウで都会的でソウルフルなエレ・ジャズをベースに、トロピカルな要素やキャッチーなフュージョン・サウンドを交えた、クロスオーバー&フュージョンのボーカル・アルバム。ジャズ・フュージョンのプロデューサーコンビ、デイヴ・グルーシン&ラリー・ローゼンによる洗練されたNYサウンドと、パティの抜群の歌唱力・ソングライティング能力が融合した、クロスオーバー&フュージョン・ボーカルの好盤である。

聴けば判るのだが、このクロスオーバー&フュージョン志向のボーカル・アルバムであるが、根っこはしっかりとジャズにおいているのが判る。当時、裏ではやっていたAOR(アダルト・オリエンテッド・ロック=ソフト・ロック)とは、リズム&ビートの質が違う。あくまでもジャジー。そして、パティのボーカルも明らかに、根っこは「ジャズ・ボーカル」で、そういう意味で聴き応えがある内容になっている。

パティ・オースティン(Patti Austin)は、1950年生まれ、アメリカ・ニューヨーク出身のR&B、ジャズ、ポップス歌手・ソングライター。圧倒的な歌唱力と表現力を持ち、シンガーソングライターとしての才能も持ち合わせ(この盤の収録されている全8曲のうち7曲をパティ自身が手がけている)、ジャンルを網羅する実力派ディーヴァとして長年音楽界の第一線で活躍している。未だ現役である。
 
 

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2026年8月 1日 (土曜日)

熱演バード、バップなドリュー

とにかく、リーダーのドリューのピアノ、そして、フロントの相棒のモブレーのテナーを完全に食ってしまった、熱く元気溌剌でバリバリ吹きまくるドナルド・バードのバップ・トランペットが一番印象に残る。そして、その合間合間で、さりげなくガンガン飛ばすドリューのバップ・ピアノも極上。二人とも、バラード演奏も的確にこなす。このアルバムはこの二人を聴くアルバムだろう。

Kenny Drew『This Is New』(写真左)。1957年3月28日、4月3日の録音。リヴァーサイドのRLP 12-236番。ちなみにパーソネルは、Kenny Drew (p), Donald Byrd (tp), Hank Mobley (ts :tracks 1–3),, Wilbur Ware (b), G.T. Hogan (ds)。ドナルド・バードのトランペットとハンク・モブレーのテナーサックスがフロント2管のクインテット編成。リーダーのドリューのピアノ、ウエアのベース、ホーガンのドラムで、リズム隊を形成する。

編成について正確に言うと、1957年3月28日の録音がモブレーが入ったクインテット編成。収録曲は1曲目から3曲目まで、「This Is New」「Carol」「It's You or No One」。他は、1957年4月3日の録音で、モブレーが抜けて、ドナルド・バードのトランペット1管のカルテット編成。4曲目から7曲目まで、「You're My Thrill」「Little T」「Paul's Pal」「Why Do I Love You?」。
 

Kenny-drewthis-is-new

 
まず、クインテット編成の演奏については、モブレーのテナー、元気がない。音が籠もって小さい、なので、ユニゾン&ハーモニーのバランスが悪い。逆に、ドナルド・バード、トランペット、普段の倍、元気溌剌。バリバリ吹きまくる。バラードも朗々とブリリアントに吹き上げる。元気の無いモブレーをカヴァーするかの様に、溌剌と吹きまくる、ドナルド・バードのトランペットが良い。

更に、モブレーが抜けて、ドナルド・バードのトランペットがフロント1管のワンホーン・カルテットになると、ドナルド・バードのトランペットの独壇場。アップテンポの曲だろうが、ゆったりしたバラード曲だろうが、お構いなし。とにかくバリバリ吹きまくる。いつもは、理知的に流麗に吹きまくるのだが、このアルバムでは、とにかくダイナミックに切れ味良く吹きまくる。こんなに吹きまくるドナルド・バードも珍しい。

もちろん、リーダーのドリューのピアノも好演。ファンクネスを纏った、黒いアーバンなバップ・ピアノで、グイグイとドナルド・バードのトランペットを支え鼓舞する。ベースのウィルバー・ウェアとドラムのG.T.ホーガンによる粘り強くも推進力のあるビートと相まって、極上のリズム・セクションを披露する。ドリューのピアノはアップテンポにも、バラードにも、的確に対応する。かなりのポテンシャルを備えた、渋いバップ・ピアノである。
 
 

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