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2026年6月の記事

2026年6月30日 (火曜日)

再び”Round About Midnight”

ブログを再開しました。5日ぶりの記事のアップです。

レコード・コレクターズ・2026年7月号は「マイルス・デイヴィス・アルバム/名演ランキング」。今年、生誕100年を迎えるマイルス・デイヴィス。今回はその偉大な功績を偲び、1950年代の繊細でアコースティックな演奏から、ファンクやロックに接近したエレクトリック期、そして晩年に至るまでの長い活動期間に残されたアルバムと、それに含まれる名高い名演の数々をランキング。本誌の執筆陣に選んでもらい、それぞれの1〜50位を決定したとのこと。

マイルスは僕の大好きなジャズマンの一人。この記事については、振り返りとして、興味深く拝読した。ジャズのアルバムというものは、ジャズ歴によって聴き方、聴き味が変わっていく。恐らく、年齢と共に耳が肥えていくのだろう。それでは、ということで、しばらく、当ブログで、マイルスのアルバムを振り返って聴き直してみようと思った。当ブログは、ジャズ者初心者の方々でも、楽しんで読んでもらえるように、がコンセプトなので、マイルスのアルバム選びの基本方針として参考してもらえれば、と思う。

Miles Davis『'Round About Midnight』(写真左)。1955年10月26日、1956年9月10日の2セッションからの選曲。ちなみにパーソネルは、Miles Davis (tp), John Coltrane (ts), Red Garland (p), Paul Chambers (b), Philly Joe Jones (ds)。マイルス・デイヴィスの「1950年代の黄金のクインテット」である。麻薬禍からカムバックしたマイルス。1955年夏、ニューポート・ジャズ・フェスティバルに出演。それがコロムビアのプロデューサー、ジョージ・アヴァキャンの目に留まり、コロムビアとの契約に至り、このアルバムの録音に繋がる。
 

Roundaboutmidnigh_

 
このアルバムこそが、僕がマイルスの数あるアルバムの中で、一番最初に手にしたアルバムである。冒頭のタイトル曲「'Round About Midnight」をFMで聴いて感じ入ったのが理由。とにかくアレンジが恰好良い。この曲はセロニアス・モンクの作曲で、アレンジは旧知の仲の編曲家ギル・エヴァンスによるもの。このギルのアレンジが素晴らしく良い。そして、この演奏でのマイルスのトラペットが、オープンもミュートも絶品。マイルスのトランペットの個性が、この曲の演奏に溢れんばかり。

ギルのアレンジが、マイルスのトランペットを引き立てる。ギルのアレンジが、このアルバムのどの曲まで及んでいるのかは判らないが、このアルバムの各収録曲のアレンジはどれもが良い。アレンジが良いと楽器演奏の響きも良い。マイルスも気持ち良くトランペットを吹き鳴らしている。併せて、好調なのが、ガーランドのピアノ。シンプルで平易な、右手のシングルトーンとブロックコード。このシンプルなテクニックだけで、これだけ多彩なバッキングが出来るピアニストはそうそういない。

コルトレーンは音は大きいが、テクニック的にも歌心的にも不安定なところは多い。この盤でのコルトレーンは発展途上。ごつごつ骨太で大音量のテナーを吹き上げる。逆に「繊細さ」は微塵も無い。ポール・チェンバースのベースも、ドラムのフィリー・ジョーは好調を維持していて立派。ポルチェンのベース・ソロ(アルコ弾き)は、テクニック不足で、ちと飽きるが。このアルバムの成功要因は、このアルバムのアレンジによるところが大きい。しかし、名盤はいつ聴いても名盤だ、ということが、この盤を聴いてそれが良く判った。
 
 

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『AirPlay』(ロマンチック) 1980

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2026年6月25日 (木曜日)

D・バードの考えるエレジャズ

ハードバップ時代のバップ・トランペットの名手、ドナルド・バードの「1970年代のドナルド・バードが考えるエレ・ジャズ」がこの盤に詰まっている。ジャズ・ファンクの傑作とする向きもあるが、アフロセントリックで漆黒のグルーヴがあまりに個性的で、アフリカン・ネイティヴな音志向がかなり強く出ているので、単に「ジャズ・ファンク」とするにはちょっと抵抗がある。

Donald Byrd『Ethiopian Knights』(写真左)。ブルーノートの4380番。録音日は、1971年8月25日が「The Emperor」と「Jamie」 (#1–2)、1971年8月26日が「The Little Rasti」 (#3)。

ちなみにパーソネルは、Donald Byrd (tp), Thurman Green (tb), Harold Land (ts), Bobby Hutcherson (vib), Joe Sample (org), Bill Henderson III (el-p), Don Peake (g), Greg Poree (g: tracks 1 & 2), David T. Walker (g: track 3), Wilton Felder (el-b), Ed Greene (ds), Bobbye Porter Hall (congas, tambourine)。

冒頭の「The Emperor」のリズム&ビートの扱いとキーボードの音色は、どこか「ヘッドハンターズ以前のハンコックのエレ・ファンク」を想記するし、トランペットのパフォーマンスは「端正なマイルスっぽい」。ただ、リズム&ビートの扱いが、ハンコックやマイルスよりも、アフリカン・ネイティヴ色が強く出ていて、このアフリカン・ネイティヴ色が強く出たことで、このアルバムは、ドナルド・バードのオリジナルな位置づけをキープしている。
 

Donald-byrdethiopian-knights

 
均一ビートなところは、なんとかく「初期のウエザー・リポート」っぽくもある。ここでテナーがブイブイ出てきたら、と思うんだが、そこがドナルド・バードの巧妙なところ、新主流派ヴァイブの第一人者、ボビー・ハッチャーソンをフィーチャーするのだから、ドナルド・バードの深慮遠謀は相当なものである。

ドナルド・バードが考えるエレ・ジャズ。平易で聴き易く判り易い。ハンコックのエレ・ジャズ初期やマイルスのエレジャズは、テナーやトラペット、ピアノなどが、どこか捻れたところがって、従来に無い音の変化や音色のユニーク度が高いのだが、このドナルド・バードの考えるエレ・ジャズは、楽器の活用の仕方、音の響きや展開が、とにかくシンプルで判り易い。

2曲目の「Jamie」に至っては、もうこの演奏内容は、後のフュージョン・ジャズを地で行っている様な演奏で、トランペットはまるで、チャック・マンジョーネ(笑)。ファンクネスを希薄にした、リフレインなビートは、まるでプログレッシヴ・ロックみたい(笑)。フュージョン・ジャズにおけるバラード演奏の代表的演奏としても、違和感のない演奏である。

面白い内容のアルバム。このアルバムの翌年に『Black Byrd』を録音することを鑑みると、この盤は、「1970年代のドナルド・バードが考えるエレ・ジャズ」の最初の第一歩を記したアルバムなんだろう。リズム&ビート、楽器の取り扱い方&音色など、当時のジャズ界で先進的だったバンド・サウンドを十分に研究しているなあ、と感じる、真面目実直なドナルド・バードの考えるエレ・ジャズである。コマーシャル性が皆無なところも、このアルバムに対する好感度は高い。
 
 

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2026年6月24日 (水曜日)

美しき女性ジャズ・ファンクです

1960年代終盤、大手レコード会社の傘下に入ったブルーノートは、いわゆる、売らんが為の「明らかに聴き手に迎合した、売れ筋を意識した、ライトで聴き易いジャズ」の制作に舵を切る。イージーリスニング志向の「ファンキー&ソウル・ジャズ」、そして「軽快で優しいジャズ・ファンク」なアルバムを制作する。そんな中の、イージーリスニング志向の「ファンキー&ソウル・ジャズ」ど真ん中なアルバム。

Bobbi Humphrey『Flute-In』(写真左)。1971年9月30日、10月1日の録音。ブルーノートの4379番。ちなみにパーソネルは、Bobbi Humphrey (fl), Lee Morgan (tp), Billy Harper (ts), George Devens (vib, marimba, perc), Hank Jones, Frank Owens (p, el-p), Gene Bertoncini (g), George Duvivier (b), Gordon Edwards (el-b), Jimmy Johnson, Idris Muhammad (ds), Ray Armando (conga)。

米国のジャズ・フルート奏者ボビー・ハンフリーのデビュー・アルバム。当時21歳だった彼女の瑞々しくファンキーなフルートプレイが堪能できる、ソウル・ジャズ/ジャズ・ファンクの好盤。音の作りが、「明らかに聴き手に迎合した、売れ筋を意識した、ライトで聴き易いジャズ」であり、イージーリスニング志向の「ファンキー&ソウル・ジャズ」である。
 

Bobbi-humphreyflutein

 
彼女の才能を見出したトランペット奏者のリー・モーガンをはじめ、テナーサックスのビリー・ハーパー、ピアノに、ハンク・ジョーンズ、ドラムは、イドリス・ムハマッドといった、ハードバップ時代からの名手ばかり、豪華なメンバーがバックを固めている。ジョージ・バトラーがプロデュース、ウェイド・マーカスが編曲を担当し、70年代ブルーノートの新しいサウンドがこのアルバムに溢れている。

アルバムの内容としては、それぞれの楽曲のスタイルに合わせて「アコースティック主体の正統派ジャズ・チーム」と「エレクトリックを取り入れたファンク・チーム」の2つのセッションに分かれている。ビル・ウィザースの「Ain't No Sunshine」やキャロル・キングの「It's Too Late」、スペイン・ハーレムなどのポップス/ソウルの名曲を軽快なジャズファンク・スタイルでカバーしているところも、ブルーノートの4300番台らしい内容。

「Ain't No Sunshine」は、ビル・ウィザースが同1971年に放った大ヒットソウル曲のカバー。ハンク・ジョーンズの美しいピアノと、イドリス・ムハマッドの重厚なドラムをバックに、哀愁漂うフルートのメロディが際立つ名演。「It's Too Late」は、キャロル・キングの名盤『つづれおり』に収録されたポップス史に残る名曲のカバー。ゴードン・エドワーズのエレキベースが効いた、軽快でグルーヴィな16ビート・ジャズファンクに仕上がっている。
 
 

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2026年6月23日 (火曜日)

CTIレーベル”とびきりの珍盤”

「CTI-1000シリーズ」。CTIレコードがA&Mレコードの傘下から完全に独立した1970年、独自のカタログとして短期間だけ展開されたカタログ上、たった5枚しか無いが、ジャズの枠にとらわれない、CTIの総帥婦絵御デューサーのクリード・テイラーの実験精神が垣間見えるシリーズ。その異色のシリーズを語る上で、この盤は外せない。

Dave Frishberg『Oklahoma Toad』(写真左)。1970年の作品。ちなみにパーソネルは、Dave Frishberg (clavinet, p, org, el-p, vo, arr), Al Cohn (ts), Sol Schlinger (bs), Gernett Brown (tb), Bill Berry (tp, flh), Stuart Scharf (g), Russell George (b), Herbie Lovelle (ds)。米国のジャズ・ピアニストでありシンガーソングライター(SSW)のデイヴ・フリッシュバーグが1970年に発表したソロ・デビュー・アルバム。

もともと裏方として楽曲提供をしていたデイヴ・フリッシュバーグが、自分の歌を吹き込もうとしたことがきっかけ。当初は、ポップス、フォーク、サイケデリック、ソフトロックなどの要素をブレンドしたSSWのポップ・フォーク路線の音。その音源を持ち込まれたCTIの総帥プロデューサーのクリード・テイラーが「リミックスとオーバーダブ」を条件に発売を許可。ルディ・ヴァン・ゲルダーのスタジオでホーン・セクションなどが強調され、ほんのりとジャジーな雰囲気が付加された。
 

Dave-frishbergoklahoma-toad  

 
それでも、このアルバムはどう聴いてもジャズでは無い。4ビートでも演奏の雰囲気はフォーク、もしくはカントリー&ウェスタン(C&W)だったりするから、ジャズとして聴こうとすると相当に戸惑う。確かに、ホーン・セクションの存在がジャズっぽさを醸し出してはいるが、それはアレンジとしてのジャズの雰囲気。パフォーマンスとしてのジャズの雰囲気ではないので、このアルバムはジャズとして聴くと、倚子から転がり落ちる(笑)。

オーバーダブには、名うてのジャズ・ミュージシャンが付き合ってはいるが、もともと、フリッシュバーグの書く楽曲が、フォーク、C&W、ソフトロック向けのテイストなので、ジャジーなオーバーダブを施しても、なかなか、アルバム全体の音作りが、クロスオーバー・ジャズ風になっていないところがこのアルバムの面白いところでもあり、弱点でもある。つまり、フリッシュバーグの書く曲の個性によって、クリード・テイラーの思惑が外された恰好になっている。

ただ、このアルバムは、CTIレーベルからのリリースであり、「カエルの大写しのジャケット」と相まって、ジャズ者の、特に、クロスオーバー・ジャズ好きのジャズ者の方々は大いに興味を持つのではないだろうか。どんな内容のアルバムなんだろう、そんな興味を持つ向きに、事前に予備知識として入れておいた方が、このアルバムを正しく鑑賞出来るであろうという老婆心から、この記事をまとめさせてもらった。とにかく、CTIレーベル最大の珍盤である。
 
 

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2026年6月22日 (月曜日)

CTI 1000 seriesの珍盤の一枚

CTIレコードがA&Mレコードの傘下から完全に独立した1970年、独自のカタログとして短期間だけ展開された「1000シリーズ」。カタログ上、たった5枚しか無いが、ジャズの枠にとらわれない、CTIの総帥婦絵御デューサーのクリード・テイラーの実験精神が垣間見えるシリーズ。CTIレーベルの音作りの個性の源の一つがこのシリーズに潜んでいる。

『Flow』(写真左)。1969年12月17,18日と1970年1月20日の録音。ちなみにパーソネルは、Don Felder (g), John Winter (p, el-p, org, ss, ts, harmonica, fl), Chuck Newcomb (b,vo), Mike Barnett (ds), Angel Allende, Ed Shaughnessy, Johnny Pacheco (tabla, congas, cowbell)。米国のジャズ・ロック/サイケデリック・ロックバンドであるFlow(フロウ)が1970年に発表した唯一のセルフタイトル・アルバム。

このアルバムは、ジャズ界の伝説的なエンジニアであるルディ・ヴァン・ゲルダーのスタジオ「Van Gelder Studio」で録音されている。これも珍しいこと。ロックバンドの音を、ルディ・ヴァン・ゲルダーが録音している。しかも、ジャズの録音手法をそのまま持ち込んだため、メンバー全員がスタジオで同時に演奏する「一発録り」に近い形でレコーディングしている。特に、リズム・セクションの音が極めてスリリングでタイトに録音されている。
 

Flow

 
後のウエストコースト・ロックの雄「イーグルス」の名ギタリスト、ドン・フェルダーが、初期に組んでいたバンドとして有名。本作では彼のルーツである、ジャズやファンキーなロックギターのプレイを存分に聴くことができる。ロックギターというより、クロスオーバー・ジャズなギターである。

CTIレーベルの全カタログの中でも稀少な「歌入りのロック・サウンド」を展開した異色かつ貴重な作品。クロスオーバー・ジャズの即興演奏をベースに、ソウル、ファンク、サイケデリック・ロック、シンガーソングライター(SSW)的なフォークの要素等が融合している。どこか、プログレッシブ・ロックに通ずるところもあり、本当の意味での「融合(フュージョン)音楽」である。

淡く浮遊感のあるボーカルと、ファンキーなグルーヴが絡み合う独特のサウンドが特徴。CTIレコードの強力なバックアップにより、以下の豪華なジャズ/ラテン・ミュージシャンがパーカッション(タブラ、コンガ、カウベル)などがゲスト参加、ジャズ・ロック/サイケデリック・ロックなバンドでありながらも、極めて洗練されたアドリブやファンキーなラテングルーヴが同居する独特のサウンドが成立している。
 
 

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2026年6月21日 (日曜日)

ジャス喫茶で流したい・327

ブルーノート4300番台の後半のアルバムなので、過度な期待をせずに、恐らく、べったべたのソウル・じゃずか、新主流派のパフォーマンスを推し進めた、限りなく自由度の高い、ほぼフリー・ジャズか、と予想して聴いたのだが、いやはや、ビックリ。冒頭の「At the Source: Ashes & Rust/Eucalyptus/Obsidian」を聴いて、これは、と思わず身を乗り出した。

Bobby Hutcherson『Head On』(写真左)。1971年7月1ー3日、ロサンゼルスの「Poppi Recording Studios」での録音。ブルーノートの4376番。ちなみにパーソネルは、以下の通り。米国のジャズ・ヴィブラフォン奏者であるボビー・ハッチャーソンが、1971年に録音した、当時の独創的なニュー・ジャズの一枚。メインストリームな展開に、フリー、アヴァンギャルドな展開が見え隠れする、トータル・ジャズである。

Bobby Hutcherson (vib, marimba), Todd Cochran (p, arr), Oscar Brashear (tp, flh), George Bohanon, Louis Spears (tb), Willie Ruff (French horn), Fred Jackson, Jr. (piccolo), Harold Land (ts, fl), Delbert Hill, Charles Owens, Herman Riley, Ernie Watts (reeds), William Henderson (el-p), Reggie Johnson, James Leary III (b), Leon "Ndugu" Chancler, Nesbert "Stix" Hooper, Woody Theus (ds), Warren Bryant (congas, bongos), Donald Smith (vo)。
 

Bobby-hutchersonhead-on

 
1960年代の新主流派的なアプローチから一歩踏み出し、アフロ・スピリチュアル、フリー・ジャズ、クラシカルな現代音楽の要素を融合させた、非常に尖った内容の「異色かつ野心的な傑作」である。いわゆる1970年代、チック・コリアやキース・ジャレットらが推進した、コンテンポラリーなメインストリーム志向の硬派な純ジャズと同じ音の響きが、音の輝きが充満している。

アルバムには、1960年代に無い、新しいモダン・ジャズの響きが満ち満ちている。映画音楽のようでもあり、クラシカルで前衛的なインプロヴィゼーション、混沌としたフリー・ジャズの色合いが濃厚ディープな展開、ソリッドなリズムと特異なアフロ・キューバン調のビートが絡み合うスピリチュアル・ジャズ。洗練された耽美な響きの中に、鋭い緊張感が走る、1970年代のモード・ジャズ。

東海岸のジャズの、限りなく自由度の高い、マイルス&マイルス門下生を中心とする、エレクトリック前提のクロスオーバーな音世界と、西海岸ジャズから引き継がれた洗練されたキャッチーな展開が融合した、1970年代の先端を行く、コンテンポラリーなメインストリーム志向の硬派な純ジャズの萌芽がこのアルバムに溢れている。ブルーノートの4300番台の後半という位置づけで、ちょっとばかし「損をしている」隠れ名盤である。
 
 

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2026年6月20日 (土曜日)

鍵盤二人が煽る漆黒グルーヴ

リチャード・アーノルド・“グルーヴ”・ホームズ (1931年5月2日 - 1991年6月29日)は、ハードバップやソウル・ジャズのジャンルで演奏した、米国のジャズ・オルガン奏者。彼はパシフィック・ジャズ、プレスティッジ、グルーヴ・マーチャント、ミューズのために多くのアルバムを録音している。が、わが国ではかなりマイナーな存在。僕はこのブルーノート盤で出会うまでは、全く知らない存在だった。

Richard Groove Holmes『Comin' On Home』(写真左)。1971年5月19日、 Van Gelder Studioでの録音。ブルーノートの4372番。ちなみにパーソネルは、Richard Groove Holmes (org), Weldon Irvine (el-p), Gerald Hubbard (g), Jerry Jemmott, Chuck Rainey (el-b), Darryl Washington (ds), Ray Armando (congas)。

本作は一言で言うと「重心の低いファンキーなベース・ラインと、彼のトレードマークである重量感のあるオルガンがエレピと絡み合う、ソウル・ジャズ/ジャズ・ファンクの好盤」。アルバムは大きく分けて冒頭「Groovin' For Mr. G」、 3曲目「Mr. Clean」、4曲目「Down Home Funk」の「強力なオリジナル・ジャズファンク」と、2曲目「Theme From Love Story(ある愛の詩)」、6曲目「Wave」、ラスト7曲目「This Here」の「センスが光る時代を反映したカバー曲」の2つの軸で構成されている。
 

Richard-groove-holmescomin-on-home

 
ホームズのオルガンは、足鍵盤による重低音ベースラインと、ハモンドオルガン特有のファンキーなフレージングで全体を牽引。アービンのエレピ(フェンダー・ローズ)は全面参加。ファンキーながらも、どこかクールで浮遊感のあるモダンな質感をアルバムに注入している。ジェモットとレイニーのエレベは骨太なベースで演奏の底を支え、ワシントンのドラムとアルマンドのコンガは躍動感溢れるビートを叩き出している。

冒頭の「Groovin' For Mr. G」では、冒頭の太いベースラインとパーカッションの絡みから鳥肌もの。ホームズのオルガンがこれでもかとドライブする様を聴いていると、思わず下半身が前後に動き出す。べっちゃべちゃラウンジ風のフランシス・レイ作曲の世界的ヒット映画テーマ「Theme From Love Story」を、チャック・レイニーの歌うようなベースとホームズのソウルフルなアプローチが原曲の哀愁をファンキーに塗り替える。

このホームズの唯一のブルーノート盤。マイナーな存在に甘んじているが、ブルーノートの洗練されたプロデュース・ワークと、当時台頭しつつあったニュー・ソウル/ファンクの泥臭さが、説妙なバランスで融合しているところが「聴きどころ」。オルガンとエレピが「ぶつかり合う編成」自体がユニークで、のちのアシッド・ジャズやレア・グルーヴのDJたちによって再評価されている。確かにこの盤の持つ「漆黒なグルーヴ感」は癖になる。
 
 

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2026年6月19日 (金曜日)

ジャズ喫茶で流したい・326

聴いてみて、意外とコンテンポラリーな、メインストリーム志向のエレ・ジャズしているのに気がつく。1970年当時のコンテンポラリーな純ジャズと評価しても良い、硬派でストレートアヘッドな内容。当時のジャズ〜クロスオーバー界のトッププレイヤー達のパフォーマンスなので、内容的にもテクニック的にもレベルは高い。今回、聴き直しである。

J & K『Stonebone』(写真左)。1969年9月の録音。A&M 3000 seriesのSP-3027番。日本限定のリリース。ちなみにパーソネルは、J. J. Johnson, Kai Winding (tb), Herbie Hancock, Bob James, Ross Tompkins (key), George Benson (g), Ron Carter (b), Grady Tate (ds)。当時のジャズ〜クロスオーバー界のトッププレイヤーが集結した超豪華なオールスター編成。

音作り的に見ると、「CTIサウンド(クロスオーバー/ジャズ・ファンク)」のまさにプロトタイプとなった、当時として先進的なサウンドが耳を引く。クロスオーバー・ジャズの良いところをベースに、キャッチーなフレーズ、印象的なアドリブと、ジャズ寄りのアレンジとパフォーマンスで、CTIらしいサウンドを確立している。
 

J-kstonebone

 
そんなCTIサウンドの中で、J & Kのトロンボーンが素晴らしいパフォーマンスを披露する。J.J.ジョンソンは左チャンネルで、完璧なピッチと驚異的なスピードの16分音符フレーズを繰り出す。:カイ・ウィンディングは右チャンネルで、エフェクター(マイクの加工など)を実験的に導入したような、ザラついた太いトーンを繰り出す。ユニゾン&ハーモニー、そして、アドリブソロ。いずれも両者、見事なアグレッシブ・トロンボーンである。

J.J.が都会的なら、カイはブルージーで泥臭く、野生的なトロンボーン・ソロで楽曲を煽りまくる。そのバックでの、ハンコックのサイケデリックなローズが尖って、ベンソンの切れの良いカッティングがファンキーなリズムを刻みまくる。ロンのアンプの低音を限界まで強調したような、地響きのような図太い低音フレーズと、テイトのジャストのタイミングで正確無比、かつ非常に重いファンク・ビートを叩き出すドラミングがバンド全体を牽引する。

提携解消などの事情が絡んだ結果、米国での発売が急遽キャンセル、結果的に日本だけでひっそりとリリースされる形になったそうで、これだけの名盤的な内容なのに、「激レア盤」となってしまったのは非常に惜しい。なぜ、状況が改善された折に、正式にリリースされなかったのか。これだけの濃い内容を誇っているだけ「大いなる謎」である。
 
 

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2026年6月18日 (木曜日)

J&KのCTIクロスオーバーな盤

米国のジャズ・トロンボーン奏者であるJ・J・ジョンソン(J. J. Johnson)とカイ・ウィンディング(Kai Winding)の黄金コンビ(通称 J & K)。1950年代からジャズ界屈指のトロンボーン・デュオとして名を馳せた彼らが、1960年代末期のポップスやボサノヴァの要素を取り入れた、CTI謹製のクロスオーバ−&フュージョン盤である。

J & K『Betwixt & Between』(写真左)。A&M 3000 seriesのSP-3016番。1968年10ー12月, 1969年1月の録音。ちなみにパーソネルは、以下のとおり。ここに、ストリングスがバックに入る。

J. J. Johnson, Kai Winding (tb, arr), Marvin Stamm (flh0, Tony Studd (b-tb), Paul Ingraham (French horn), Herbie Hancock (p), Charles Covington (org), Roger Kellaway (clavinet, arr), Joe Beck, Eric Gale, Stuart Scharf (g), Chuck Domanico, Russell George, Chuck Rainey (el-b), Ron Carter (b), Leo Morris, Denny Seiwell (ds), Airto Moreira (ds, finger cymbals), Warren Smith (tambourine)。

なかなか面白いチャレンジブルな内容。一言で言うと「バロック(クラシック)」と「ポップ・ジャズ」の融合。ポップスやボサノヴァのカバー曲の合間に、バッハのコラールやプロコフィエフなどのクラシック(バロック調)の短い間奏(インタールード)が挿入されている。

この間奏部分はブラス・クインテット(金管五重奏)とギターによって演奏され、曲同士をシームレスに繋ぐコラージュのような役割を果たしている。全10曲、「ブラジリアン」から「旬のポップス」から「ファンキーな実験作」の合間に「クラシック(バッハ)」の要素がコラージュのようにはめ込まれている、トータル・アルバムの様な作りが実にユニーク。
 

J-kbetwixt-between  

 
冒頭の「Casa Forte/Bach Chorale #237」を聴くと、この盤の面白さが判る。いきなり、ストリングス入りのイージーリスニング志向のクロスオーバー・ジャズといった面持ちで、まあこんなもんか、と思いながら聴いていると、J & Kのトロンボーンのユニゾン&ハーモニーをメインとするアレンジが小粋でハイレベルで、思わず、身を乗り出したりする。

この1曲目の「Casa Forte/Bach Chorale #237」は、ブラジルの偉大な音楽家エドゥ・ロボ(Edu Lobo)が作曲した、本作を代表するアフロ・ブラジリアン・ナンバー「Casa Forte」から、曲の終盤から流れるように「バッハのコラール第237番」へと繋がるという、ブラジル音楽とバロック音楽のコラボ・アレンジが施されていて、実にユニーク。

3曲目は「Little Drummer Boy」は、クリスマス・キャロルとして世界的に有名な名曲を、モダン・ジャズの解釈でカバーしている。ここでも、トロンボーンのウォームなトーンが活きた、どこかドリーミーで遊び心のあるアレンジが小粋。エレクトリックなクロスオーバーなバックの演奏もCTIっぽくて恰好良い。

そして、バックの演奏が、ファンキーなエレクトリック・クラヴィネットの導入や、トロンボーンの音をオクターブ変化させる「バリトーン(Varitone)」アンプリファイア(エフェクター)を使用するギターの音色など、1960年代末らしいサイケデリックな音と、それを包含するCTIレーベルらしい音の響きとグルーヴ感が見事に表現されていて、聴いていて、なかなかに楽しい。

そう意味で、この盤、いかにも、CTIレーベルらしいアルバムと言える。冒頭の一曲を聴くだけで、ああ、この盤は絶対に「A&M/CTI盤」だと確信する。それほど、A&M/CTIらしい音がアレンジがこの盤に詰まっている。この盤、意外や意外、なかなかのA&M/CTIの好盤の一枚でしょう。
 
 

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2026年6月17日 (水曜日)

豪快テナーと陰影ピアノの火花

プレスティッジ・レコード(Prestige Records)は、1949年にボブ・ウェインストックによって設立された、アメリカの歴史的なジャズ・レコード・レーベル。ブルーノートやリバーサイドと並び、1950年代のモダン・ジャズ(特にハード・バップ)黄金期を支えた三大名門レーベルの一つ。

Elmo Hope and Frank Foster『Hope Meets Foster』(写真左)。1955年10月4日の録音。PrestigeのPRLP 7021番。ちなみにパーソネルは、Frank Foster (ts), Charles Freeman Lee (tp, tracks 2, 3 & 5), Elmo Hope (p), John Ore (b), Art Taylor (ds)。バップ・ピアノの名手、エルモ・ホープと、カウント・ベイシーのビッグバンドのテナー奏者、フランク・フォスターの共同名義のジャム・セッション風の録音。

1950年代半ば、ハードバップ全盛時代を象徴する、力強く溌剌としたアドリブの応酬を堪能できるスタジオ録音盤である。曲によってトランペットを加えたクインテットと、カルテットの2つの編成でセッションの記録であるが、どちらの演奏も、本当にハードバップらしい演奏で、聴いていて、いつも感じ入るばかり。
 

Elmo-hopeandfrank-fosterhope-meets-foste

 
エルモ・ホープのバップ・ピアノが聴きもの。バド・パウエル直系の鋭くも独特なひねりのあるフレーズが個性で、バド・パウエル直系でありながら、よりダークで知的な、マイナー感溢れるフレージングが特徴。そこに、不協和音の美しい使い方が見え隠れし、独特の「陰影」を醸し出す。モンクほどではないが、予測できない音の跳躍が面白いというか、この「音の跳躍」が意外と癖になる。

フランク・フォスターのテナー・サックスは、カウント・ベイシー楽団でも披露していた「豪快に、ストレートにスウィングする」分かりやすい魅力を持ったテナー。エルモ・ホープのピアノのコンピングとの相性が抜群で、サックスの隙間を縫うような、ホープの鋭いアクセントが、フォスターのテナーを、よりモダンでタイトな印象に仕立て上げている。

このアルバムの一番の聴きどころは「エルモ・ホープ」。ホープの優れた作曲能力と構築美溢れる演奏がしっかりと捉えられていて、聴いていてとても興味深い。本作でのホープは、フロントの管楽器を引き立てる伴奏者だけではなく、自らのバップで緻密で「翳りある」サウンド・イメージを、バンド全体に浸透させる「実質のリーダー」としての存在感が大きい。
 
 

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2026年6月16日 (火曜日)

ジャズ香るCTIポップ・ソウル

マルチ・女性ボーカリストのタミコ・ジョーンズのA&M/CTI盤。タミコ・ジョーンズは、1960年代初頭から1980年代にかけて活躍、ソウル、ジャズ、R&B、そして後年にはディスコなど、時代の潮流に合わせて多彩なジャンルを歌いこなしている。ハスキーでスモーキーな歌声が特徴で、ジャズ・ボーカルの洗練されたセンスと、ソウル・ミュージックの熱いエモーションを絶妙に併せ持った実力派シンガーである。

Tamiko Jones『I'll Be Anything For You』(写真左)。1968年6月4日、Sam Philips Recording Studiosでの、1968年9月17日、Van Gelder Studiosでの録音。A&M 3000 seriesのSP-3011番。ちなみにパーソネルは、Tamiko Jones (vo), Romeo Penque (sax), Eric Gale, David Spinozza (el-g), Richard Tee (p), Chuck Rainey (el-b), Bernard Purdie (ds), Warren Smith (perc)。

タミコ・ジョーンズのハスキーなボーカル、洗練されたジャズのエッセンス、そして極上のストリングスが融合した、ポップ&ソウルフルでクロスオーバーな、ジャズ・ボーカル盤。タミコのボーカルの特徴である、少しハスキーで色気のあるボーカルが全編にわたってフィーチャーされている。ジャズの都会的な洗練さと、サザン・ソウルのような泥臭いエモーションのどちらにも偏らない音世界が魅力。
 

Tamiko-jonesill-be-anything-for-you  

 
この盤で特筆べきは、CTIならではの、CTI色豊かな「豪華なオーケストレーション」。ドン・セベスキーやアーティ・バトラーがアレンジを担当し、大規模なストリングス・オーケストラ、ブラス、リード楽器が導入されているのだが、音の響き、重なり、流れ、どれをとっても「CTI」なのだ。他のレーベルには無い、CTIならではの、一聴すればすぐに、これは「CTIのオーケストラ・サウンドだ」とすぐに判るほどの、特徴のあるサウンド。

これが、他のクロスオーバーなボーカル盤とは一線を画する、CTIならではのクロスオーバー&フュージョン志向の音作りで、この盤は、1968年の録音なんだが、この1968年の時点で、CTIならではのクロスオーバー&フュージョン・サウンドが確立している。そして、このCTIならではのクロスオーバー&フュージョン・サウンドが意外とジャジー。CTIサウンドが、単なるイージーリスニング、単なるラウンジ・ミュージックの陥らないのは、このCTIサウンドのお陰。

本作は、ポップス&ソウルとジャズの垣根を取り払った、1960年代末のクロスオーバー・ジャズを代表するスタイリッシュな作品と言える。モータウンのようなキャッチーさがありつつ、ジャズ特有のブルージーな雰囲気、健康的なアダルトでアーバンな夜の雰囲気を保持しているのが特徴で、現代のレアグルーヴ、サンプリング・ソース、あるいはフリーソウルの視点からも再評価され続けている好盤である。
 
 

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2026年6月15日 (月曜日)

BNの超異端なソウル音楽です

これはもはや「ジャズ」と呼ぶにはちょっと憚られるアルバムである。ドナルドソンがエレクトリック・アルトサックス(Varitone)を導入、ファンキーなグルーヴに幽玄な女性コーラスを融合させた、ブルーノート4300番台の異色盤である。ジミー・ブリッグスがアレンジを手掛け、3人組の女性ボーカル・グループ「エッセンス」のスピリチュアルでメロウなコーラスが全編にフィーチャーされている。

Lou Donaldson『Cosmos』(写真左)。1971年7月16日、「Van Gelder Studio」での録音。ブルーノートの4370番。ちなみにパーソネルは、Lou Donaldson (varitone as), Ed Williams (tp), Leon Spencer (org), Melvin Sparks (g), Jerry Jemmott (el-b), Idris Muhammad (ds), Ray Armando (congas), Mildred Brown, Rosalyn Brown, Naomi Thomas (vo)。

録音、リリースされた1971年という時代においては、このアルバムは、ブルーノートの「その時代時代の」正統派ジャズを追いかけてきたジャズ者(ジャズ・マニア)の方々からすると、相当に面食らったであろう、従来のメンストリーム系のジャズから大きくかけ離れた、ここまできたら、ジャズ・ファンク志向のソウル・ミュージックとしたほうが落ち着きが良い。
 

Lou-donaldsoncosmos

 
この演奏を「ソウル・ジャズ」とするには無理がある。確かにバックの伴奏はジャズ・ファンク志向の優れたものではあるが、3人組の女性ボーカル・グループ「エッセンス」のスピリチュアルでメロウなコーラスがあまりに前面に出ている、そして、このコーラスがどう聞いても、ジャズ・コーラスには聴こえない(笑)。R&B志向のソウル・コーラスである。ブルーノートの1500番台から4300番台の諸作の中で、ここまで、ジャズからかけ離れた音作りをした盤は無い。

当時の最先端ポップス・R&Bのカバーを中心としつつ、宇宙的(Cosmos)かつ、サイケデリックでスピリチュアルな浮遊感(女声コーラスとバリトーン・アルトサックスが担っている)をミックスした内容は後のフュージョン・ジャズ後期のブラコン・フュージョンに繋がる音作りではあるが、当時としては、ジャズという切り口から見れば、完全に「異端」な内容ではある。ジャズ・ファンク〜ソウル・ジャズとして聴いたら違和感満載(笑)。

ジャズ・ファンク志向のソウル・ミュージックとして聴くと、すんなりと腹落ちする。音楽的に「悪い」音楽ではない。ストレート・アヘッドなジャズを「ジャズ」とするなら、このアルバムは「ジャズじゃない」。でも、1990年代以降のレア・グルーヴやアシッド・ジャズ、さらにはヒップホップにおけるサンプリングの切り口から聴けば、1970年代前半ならではのジャズ・ファンクの好盤となるから面白い。
 
 

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2026年6月14日 (日曜日)

CTIのジャジー&メロウ・ソウル

ジャズやポップスのエッセンスを巧みに取り入れた、ソフト&メロウな異色のソウル・アルバムとして、洗練されたサウンドが良好。後のフュージョン・ジャズのソフト&メロウなサウンドの走りで、さしずめ、R&B志向のフュージョン・ボーカルなアルバムとして、聴き心地良好なボーカル好盤である。

Richard Barbary『Soul Machine』(写真左)。1968年の作品。A&M 3000 seriesの3010番。米国のソウルシンガーであるリチャード・バーバリー(Richard Barbary)の唯一のソロ・アルバム。総帥プロデューサーであるクリード・テイラーがプロデュースを手掛け、A&M 3000 seriesの一枚としてリリース。

ちなみにパーソネルは、主要メンバー(リズム・セクション&鍵盤・ギター)として、Richard Barbary (vo), Eric Gale, Hugh McCracken, Sal DiTroia (g), Paul Griffin, George Butcher (p,org), Ernie Hayes (org), Chuck Rainey (b), Bernard Purdie, Gary Chester (ds),Herbie Lovelle, George Devens (ds,perc)。ここにホーン・セクションがバックに入っている。
 

Richard-barbarysoul-machine  

 
リチャード・バーバリーのマイルドなボーカルが一番の「ウリ」。コクがありながらも耳当たりの良い、まったりとしたリチャード・バーバリーの歌声が心地良い。R&B志向のソウルフルな歌唱だが、ソフトでスッキリしている。ファンクネスべたべたのオフビートばりばりのソウル歌唱では無いところがこの盤の特徴。少し高めのまろやかなテナー・ボイスで、感情をじんわりと乗せて歌う「ソフトでエモーショナルな歌声」が映える。

アーティ・バトラーがアレンジを担当。バックの演奏は、バーナード・パーディのファンキーなドラム、チャック・レイニーの極上ベースライン、エリック・ゲイルの職人技ギターなど、1960年代後半のニューヨークで最も脂が乗っていたスタジオ・ミュージシャンによるもの。そのため、ソウルアルバムでありながら、非常に洗練された「ジャズ・グルーヴ」が根底に流れている。

収録曲は、カバー曲を中心に構成されており、名曲をバーバリー独特のスムースなソウル・スタイルで解釈している。本作は、クロスオーバー&フュージョン・ジャズの礎を築いた名門CTIレコードが初期に制作した、数少ないヴォーカル/ソウル作品という歴史的にも極めて珍しい位置づけの1枚。クロスオーバー&フュージョン・ジャズ初期の隠れ好盤です。
 
 

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2026年6月13日 (土曜日)

A&M志向のラウンジ・サウンド

邦題「ミス・ジョーンズに会ったかい?」。米国のピアニスト、アレンジャーであるアーティー・バトラー(Artie Butler)が1968年に発表したデビュー・アルバムであり、彼の代表作である。クロスオーバー&フュージョンの老舗レーベルである、A&MレコードとCTIレコード(クリード・テイラー・プロデュース)の共同企画としてリリースされている。

Artie Butler『Have You Met Miss Jones』(写真左)。1968年1,2月、Van Gelder Studiosでの録音。A&M 3000 series (12 inch LP)のSP-3007番。ちなみにパーソネルは、Artie Butler (p, key, arr, cond), Burt Collins (tp,flh), Romeo Penque (ss, fl), Jerome Richardson (fl), Corky Hale (harp), David Carey (vib), Herbie Hancock (p), Ron Carter (b), Gary Chester (ds), George Devens (perc)。ここに、弦とブラスのアンサンブルが入る。

極上のラウンジ・ポップ、ボサノヴァ、イージーリスニングが融合した、お洒落なクロスオーバー&フュージョン・ジャズ志向のサウンドが特徴。ながら聴きのコンテンポラリーなジャズとして、聴いて楽しい、聴いてポップなサウンドである。アーティー・バトラーを始めとして、ハービー・ハンコックやロン・カーターといったビッグネームが名を連ね、イージーリスニング志向なサウンドでありながら、演奏内容はしっかりしている。
 

Artie-butlerhave-you-met-miss-jones

 
アレンジが洗練されていて、ハーブ・アルパートのティファナ・ブラスを彷彿とさせるマリアッチ風のエッセンスや、軽快なブラジリアン・ボサノヴァのリズムが散りばめられていて、とにかく聴いていて楽しい。収録曲については、リチャード・ロジャースによるジャズ・スタンダードの表題曲をはじめ、当時のポップスや映画音楽のカバーが中心となっていて、これまたポップで楽しい。

A&M / CTIならではの「最高峰のイージーリスニング志向のクロスオーバー&フュージョン・ジャズ」の一枚。そのグルーヴは、「A&Mレーベルを象徴する、太陽の光を浴びた、心地よいグルーヴ」と評価されているくらい、明るくポップで、洗練されてお洒落なサウンドに仕上げられている。アルバム全体に「サイケデリックで気怠いエネルギー」を与えている、電子楽器オンドリオンの音色も個性的。

このアルバムが持つ「レトロフューチャーなお洒落さ」や「1968年という時代の空気感」は、今聴いても、どこか新鮮に響く。このアルバムには、普遍的な、A&M / CTIならではの「最高峰のイージーリスニング志向のクロスオーバー&フュージョン・ジャズ」の音がぎっしり詰まっている。イージーリスニング志向のクロスオーバー&フュージョン・ジャズのアルバムとして、とても良く出来た内容である。
 
 
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2026年6月12日 (金曜日)

ECMの音世界の完璧な具現化

これは傑作だろう。北欧の冷涼で幻想的なサウンドと、創造的で圧倒的な即興演奏が融合した、初期ECMを代表する傑作。モダン・ジャズの枠組みを飛び越え、裾野を広げ、アンビエント・ミュージック(環境音楽)や現代音楽、プログレッシブ・ロックの要素までをも内包した、緊張感溢れ、切れ味鋭い、底知れぬ深みを持つ独自の静謐な音世界を構築している。

『Terje Rypdal / Miroslav Vitous / Jack DeJohnette』(写真左)。1978年6月、オスロの「Talent Studio」での録音。ECMの1125番。ちなみにパーソネルは、Terje Rypdal (g, g-syn, org), Miroslav Vitouš (b, el-p), Jack DeJohnette (ds)。トリオ3人による、ECMの標榜する音世界「沈黙の次に美しい音」を具現化した、完全な即興演奏の記録。

ジャック・デジョネットの鋭く変幻自在なシンバルワークと、アグレッシブでポリリズミックなドラミング。ミロスラフ・ヴィトウスのソリッドでモーダルな自由度の高いベースライン、アルコを使った幻想的なベースプレイ。ノルウェー出身のギタリスト、テリエ・リピダルの独自のディレイやボリュームペダル、ギターシンセを駆使した、クリスタルで冷涼な空間的な美音を飛翔させるギタープレイ。この3人によるインタープレイが尋常では無い。
 

Terje-rypdal-miroslav-vitous-ja_20260612214101  

 
ヴィトウスの哀愁を帯びたベースライン、リピダルのドライブ感あるギター、デジョネットのポリリズミックな緩急自在・変幻自在・硬軟自在なドラミング。そして、単なる「ギター・ベース・ドラム」のトリオにとどまらず、メンバーが複数の楽器やエフェクターを駆使してオーケストラのような空間的な広がりを作っている。この3人の「三位一体」となったインプロビゼーションの圧倒的な空気感、即興演奏の緊張感、豊かな音の色彩感は、筆舌に尽くしがたい。

冒頭の「Sunrise」からして、既にただならぬ雰囲気の音世界。デジョネットの緊張感溢れる切れ味抜群のシンバルワークから始まり、エレキピアノでベースラインを表現する独創的なアプローチが重なり、そこにリピダルの魂を揺さぶるエレキギターが飛翔し浮遊し、切れ込む。この冒頭の1曲が、このアルバム全体の音世界を代表している。

米国のジャズとは一線を画す、1970年代以降の「欧州ジャズ」のアイデンティティを決定づけた、歴史的一枚である。非現実的で、痛烈な美しさを持つ音響空間、ジャズの枠を超越したスピリチュアルな音楽といった、ECMが追求する「沈黙の次に美しい音」を完璧に具現化した一枚である。
 
 

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ジャズ喫茶で流したい・325

コルトレーン時代のような4ビートのアヴァンギャルド・ジャズにとどまらず、ジーン・パーラが一部でエレクトリック・ベースを導入、ボサノヴァ調のリズムとファンキーなベースラインが融合し、後のスピリチュアルなジャズ・ファンクの先駆けとも言えるキャッチーなサウンドが興味深い。

Elvin Jones『Genesis』(写真左)。1971年2月12日、Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ での録音。ブルーノートの4369番。ちなみにパーソネルは、Elvin Jones (ds), Joe Farrell, Dave Liebman (ts, ss), Frank Foster (ts, fl, cl), Gene Perla (b)。エルヴィンの1970年代前半のマルチ・リード編成の幕開けを告げた、記念碑的なアルバム。

このところの十八番である「ピアノレス・クインテット」。ピアノ(コード楽器)を排除し、3人の強力なサックス奏者とベース、ドラムという編成を採用。これにより、独自の「空間的な広がり」と自由度の高いインプロが展開されている。ここにきて、マルチ・リードのフロント編成に落ち着いた模様。マルチ・リードのフロント管によって、コルトレーン色が一掃されるのだから、ジャズにおいて、演奏の編成も重要な要素なのが良く判る。
 

Elvin-jonesgenesis  

 
ハード・バップの力強さを残しつつ、70年代特有のスピリチュアル・ジャズやジャズ・ファンクの要素も内包した、当時として先駆的な「ポスト・バップ」な音世界。エルヴィンの複雑に絡み合うポリリズム(多重リズム)と激しいドラムロールが、バンド・パフォーマンスを極限までドライヴさせているのが印象的。ジーン・パーラのファンキーなベースワークも聴きどころ満載。

フランク・フォスター、デイヴ・リーブマン、ジョー・ファレルの3本テナーが基本の、重厚な3管フロントのブロウが強力だが、フォスターが持ち替えるアルト・フルート、アルト・クラリネット、ファレルとリーブマンのソプラノ・サックスが、色彩豊かなアンサンブルを生み出しているところも注目である。

この『Genesis』で「マルチ・リードによるピアノレス・クインテット」という独自のフォーマットを確立したエルヴィン。ここにきて、「コルトレーン・クァルテットの影」からの完全な自立を果たしたように感じる。エルヴィン印のポスト・バップの方向性の大本がこのアルバムにある。ここから、エルヴィンのポスト・バップの快進撃が始まる。
 
 

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2026年6月10日 (水曜日)

絶望を癒やす瞑想ジャズの聖典

夫君であった巨匠ジョン・コルトレーンの逝去(1967年)という深い喪失感のなか、アリスが東洋思想やヒンドゥー教の導師スワミ・サッチダーナンダ(Swami Satchidananda)との出会いを通じて、自らの精神的救済と覚醒を音楽へと昇華させた、「アリスの考えるスピリチュアル・ジャズ」の最初の成果である。

Alice Coltrane『Journey in Satchidananda』(写真左)。1970年7月4日(track :5)、NYの「Village Gate」でのライブ録音。1970年11月8日(track :1ー4)、ニューヨーク州ディックスヒルズにあるコルトレーンの自宅スタジオでの録音。ちなみにパーソネルは、以下の通り。

1970年11月8日(track :1ー4)は、Alice Coltrane (harp, p), Pharoah Sanders (ss, perc), Cecil McBee (b), Rashied Ali (ds), Tulsi Sen Gupta (tanpura), Majid Shabazz (bells, tambourine)。
1970年7月4日(track :5)は、Alice Coltrane (harp), Pharoah Sanders (ss, perc), Charlie Haden (b), Rashied Ali (ds), Vishnu Wood (oud)。

アリス・コルトレーンの4枚目のリーダー作。1970年代のスピリチュアル・ジャズの傑作である。1960年代後半、夫君であった、ジョン・コルトレーンが標榜したスピリチュアル・ジャズ。それは、未整理、未成熟、直感的な類の演奏成果で、どうにもこうにも評価しにくい代物であった。
 

Alice-coltranejourney-in-satchidananda

 
しかし、このアリスの『Journey in Satchidananda』は違う。モーダルなジャズとスピリチュアルなジャズを融合し、理路整然としたスピリチュアル・ジャズを成立させている。しかも、しっかりとアレンジされ、しっかりとリハーサルを積んでいるんであろう、非常に整理された聴き易いスピリチュアル・ジャズに昇華されている。

従来のモダン・ジャズの音世界に、瞑想的(メディテーティブ)なドローン・ミュージック、インド音楽、アフリカや中東の民族音楽要素を融合させた、独自の宇宙的音響空間を構築しているところがこの盤の「肝」である。そして、アリスの大々的な、きらびやかで流麗なハープの導入もこの盤の個性。

そして、インドの伝統弦楽器「タンブーラ」が放つ個性的な持続音が、聴き手を深い瞑想状態へと誘うミニマルな土台を作っている。そして、ファラオ・サンダースのむせび泣くような、かつ包容力のあるソプラノ・サックスがエモーショナルな息吹を吹き込んでいる。

本作は、アリスが絶望から立ち直るための精神的ドキュメンタリーであり、ジャズとインド古典音楽の理想的な融合を果たした記念碑的作品。全編通じて、どこか明日を感じさせる様な「明るさ」が印象深い。ジャズとインド音楽の「真の融合」がこのアルバムの中に息づいている。スピリチュアル・ジャズの傑作の一枚。
 
 

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2026年6月 9日 (火曜日)

ECM流のフュージョン・ジャズ

前々作、1975年2月の録音の『Clouds in My Head』では、北欧ジャズを基本としたクロスオーバー・ジャズ、若しくはジャズ・ロックをやった。1976年10月録音の前作『Shimri』では、典型的なECMサウンドの中での欧州的なモード・ジャズ、静的でリリカルでクールで透明度溢れるモード・ジャズをやってのけた、ノルウェー出身のベーシスト、アリルト・アンデルセン。このアルバムはECMでのリーダー作第3作目である。

The Arild Andersen Quartet『Green Shading into Blue』(写真左)。1978年4月の録音。ECMの1127番。ちなみにパーソネルは、Juhani Aaltonen (ts, ss, fl), Lars Jansson (p, moog-syn, string ensemble), Arild Andersen (b), Pål Thowsen (ds, perc)。純アコースティックな路線から一歩進み、「初期フュージョン〜アンビエント・ジャズ」への架け橋となった作品。

前作とガラッと変わって、ECMレーベルのサウンド色に見合った、北欧の「フュージョン・ジャズ」的な音作り。1970年代後半の米国フュージョンによくある「派手なシンセ・ソロ」では無い、ラルス・ヤンソンが奏でるミニ・モーグやストリング・アンサンブルによって、アコースティックな響きの中に、ほのかなエレクトロニクスの色彩が加わり、より浮遊感のあるモダンな仕上がりとなっている。
 

Thearild-andersenquartetgreen-shading-in

 
4曲目の「Radka's Samba」が象徴的。クールでありながら疾走感のあるリズムが特徴で、純ジャズ、メインストリーム・ジャズとは明らかに一線を画している。この曲は一言で言うと「ECM流のジャズ・サンバ」。この曲が持つ「思わず頭を振ってしまう(Head-bobbing)ようなダンサブルなビートが、どう聴いても、それまでのECMジャズとは雰囲気が異なる。ECM流の北欧フュージョン・ジャズと言っても良い演奏内容。

リーダーのアンデルセンの「地を這うベース」。ラルス・ヤンソンが操る「背景に溶け込む電子音」。ポール・トヴセンの「自然界のざわめきの様な」繊細なパーカッション。ユハニ・アールトネンの「スピリチュアルな咆哮と静寂」。この4人の個性が、ECM流のフュージョン・ジャズを奏でている。この聴き易く、エレクトリックなイージーリスニング志向の音作りは、当時流行した「フュージョン・ミュージック」と符号が一致する。

長らくオリジナルのLPは廃盤状態が続き、わが国では、CDリイシューもなされず、完全にマイナーな存在のアルバムである。今では、2010年に、本作を含む初期カルテットの3部作が『Green in Blue: Early Quartets』という3枚組CDボックスとしてECMから復刻され、サブスク・サイトからストリーミング聴取が可能となって、やっとその内容を確認することが出来るようになった。ECMの異色盤である。
 
 

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2026年6月 8日 (月曜日)

キューンの熱く激しいECM盤

ECM Recordsのカタログ番号1101〜1199(1100番台)。キース・ジャレット、パット・メセニー、チック・コリアといったスターたちの歴史的名盤を生み出し、レーベルの代名詞である「静寂の次に美しい音楽」という世界観を完璧に決定づけたシリーズであるが、わが国では、そんなスター達のアルバムだけがリリースされ、他のアルバムはなかなかリリースされなかった。よって意外と当時は知らなかった隠れ好盤がずらずら。

Steve Kuhn『Non-Fiction』(写真左)。1978年4月、旧西ドイツの「Tonstudio」での録音。ECMの1124番。ちなみにパーソネルは、Steve Kuhn (p, perc), Steve Slagle (ss, as, fl, percu), Harvie Swartz (b), Bob Moses (ds)。米国出身のピアニスト、スティーヴ・キューンのECMレーベルでの4枚目のリーダー作。スティーブ・スレイグルのサックスがフロント1管のカルテット編成。

美しいメロディ、変拍子を交えた緊迫感のあるポリリズム、そしてECMらしい透明感と空間の広がりが融合した音世界が特徴。ECMという欧州ジャズの老舗レーベルでの制作とはいいながら、米国ジャズの伝統とアヴァンギャルドな実験精神が飛び交う、しかしながら、音の響きは欧州ジャズという、ECMレーベルならではの、米国と欧州のジャズが融合した、独特の音世界が広がっている。
 

Steve-kuhnnonfiction

 
リーダーのキューンのピアノは「尖っている」。叙情的なメロディを紡ぎながらも、予測不能でエッジの効いたコード展開を行うスタイルは、ECMジャズの中でも、メンストリームな純ジャズ路線を踏襲する音。ニュー・ジャズ系の耽美的でリリカルな「広がる様な透明感」とは、また違った、硬質でクリスタルな「切れ味の良い透明感」がこのアルバムに広がっている。

この盤では「即興演奏の爆発力とドライブ感」を徹底追求している。スレイグルのフルートとスワルツのベースが美しく絡み合う「The Fruit Fly」や、ファンキーなロック調のビートから4ビートのジャズへとスリリングに展開する11分超の大作「Alias Dash Grapey」など、バラエティに富んだアンサンブルやインタープレイを聴くことが出来る。

本作の直後、キューンは歌手のシーラ・ジョーダンを迎えたバンド活動へとシフトしたため、この「インストゥルメンタル・カルテットによる純粋な熱量」を捉えた録音としては、この盤のパフォーマンスがピークだと思う。シンプルで判り易いが、かなり高度で複雑なメインストリーム系純ジャズを展開している。キューンのピアノを語る上で、この盤は外せないだろう。
 
 

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2026年6月 7日 (日曜日)

早すぎた精神的ジャズ・ファンク

ブルーノートの4300番台。ここまでくると、胸を張って「ジャズ」とは言いにくい。しかし、バックの演奏は上質のジャズ・ファンク。本作は、1970年代初頭、ホレス・シルヴァーが展開した三部作プロジェクト『The United States of Mind』の「Phase 2(第2章)」にあたる意欲作。ファンキー・ジャズの巨匠がソウルやファンク、ボーカル・ジャズへと大胆に接近した、レア・グルーヴ視点から、極めて評価の高い好盤として評価されている。

Horace Silver Quintet/Sextet With Vocals『Total Response』(写真左)。1970年11月15日 (#1, 2, 6, 9), 1971年1月29日 (#3–5, 7, 8) の録音。ブルーノートの4368番。ちなみにパーソネルは、Horace Silver (el-p), Cecil Bridgewater (tp, flh), Harold Vick (ts), Richie Resnicoff (g), Bob Cranshaw (el-b), Mickey Roker (ds), Salome Bey (vo, 1, 2, 5–7, 9), Andy Bey (vo, 3, 4, 8)。

それまでのハード・バップ〜ファンキー・ジャズ路線から一転、シルヴァーがエレクトリック・ピアノ(フェンダー・ローズ)を本格的に導入、アンディ・ベイとサロメ・ベイという実力派シンガーを起用、メッセージ性の強い歌詞を歌わせて、瞑想や精神の統一といった精神世界、そして当時の米国社会へのメッセージが融合した、コンセプチュアルで政治的な時期の作品である。

冒頭「Acid, Pot or Pills」は、ドラッグ依存への警告。2曲目「What Kind of Animal Am I?」は、人間の本質への問いかけ。3曲目「Won't You Open Up Your Senses」は、五感の解放。4曲目「I've Had a Little Talk」は、内省と自己との対話。5曲目「Soul Searchin'」は、自己探求。
 

Horace-silver-quintetsextet-with-vocalst  

 
6曲目「Big Business」は、巨大企業・資本主義への批判。7曲目「I'm Aware of the Animal Within Me」は、人間の野蛮性の自覚。8曲目「Old Mother Nature Counts Her Children」は、大自然への回帰。9曲目の「Total Response」は、精神と肉体の完全なる調和。

シルヴァーのフェンダー・ローズは、浮遊感とサイケデリックな響き。しかし、伝統のファンキー・リフは健在。コードのボイシングには独特のジャジーな緊張感があり、単なるポップスに流されないジャズマンとしての矜持が演奏に表れているところが、やはり、この盤は「コンテンポラリーなジャズ」である。楽器として機能するベイ兄妹の圧倒的な歌唱も、単に「メロディを歌う」だけでなく、「アンサンブルの一部」として完璧に機能している。

クランショウのエレベと、ローカーのドラムのファンク・グルーヴがこれまた良い。レスニコフのカッティングと彩りを与えるギターの系かな推進力。ブリッジウォーターのトランペットと、ヴィックのテナーの2管フロントは、1960年代の爆発するようなハード・バップのソロ回しとは異なる、「楽曲のメッセージ(歌詞)を支えるための知的なアンサンブル」に徹して、これもまた見事。

アルバムのサブタイトルにある『The United States of Mind(人心連合)』とは、「人間の精神(Mind)の中にある様々な要素が、アメリカ合衆国(United States)のように一つに団結・調和しなければならない」というシルバー独自の哲学。1970年代初頭の混沌とした米国社会(ベトナム戦争、ドラッグの蔓延、物質主義の台頭)に対し、シルバーは「精神性の回復」「心と身体の健康」「平和」を音楽で訴えようとした。その成果の一つがこのアルバムである。
  
 

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2026年6月 6日 (土曜日)

ジャズ喫茶で流したい・324

ハンク・モブレーの、ブルーノートに残した最後のリーダー・セッションとして知られるジャズ盤。フロント2管に、リーダーのハンク・モブレーのテナー、そして、新進気鋭の若手ウッディ・ショウのトランペット。リズム・セクションに、モード・プレイの雄シダー・ウォルトンがピアノを担当している。ギター、ベース、ドラムは当時の中堅〜若手のジャズマン。セクステット編成である。

Hank Mobley『Thinking Of Home』(写真)。1970年7月31日、Van Gelder Studioでの録音。リリースは1980年。ブルーノートの4367番。ちなみにパーソネルは、Hank Mobley (ts), Woody Shaw (tp), Cedar Walton (p), Eddie Diehl (g), Mickey Bass (b), Leroy Williams (ds)。1970年のブルーノートには珍しい、真摯実直、硬派ストレートアヘッドなポスト・バップなモード・ジャズ盤。

まず、モブレーのテナーは申し分ない。ストレートアヘッドな吹奏も、イージーリスニング志向のソフト&メロウな吹奏もどちらも水準以上。この盤でのモブレーは好調である。ウディ・ショウの瑞々しいトランペットやシダー・ウォルトンの堅実なピアノワークも優れたパフォーマンスで、モブレーのスモーキーで哀愁漂うサックスと見事に調和している。
 

Hank-mobleythinking-of-home

 
ギターの存在は、演奏全体がポスト・バップしすぎて大衆受けしないリスクを和らげる為に、イージーリスニング志向のギターを織り交ぜている様だ。演奏レベルとしては、ブルーノートの標準レベル以上をキープしている。1970年の録音ということを勘案すると、ブルーノートにおける「最後の価値あるハード・バップ・アルバムの一つ」と評価して良い内容の充実度である。

サイドマンとしては、やはり、ショウのトランペットが素晴らしい。ショウの放つエネルギッシュで瑞々しいソロは、モブレーの少しスモーキーで哀愁のあるサックスと最高のリリシズムを生み出している。ウォルトンのピアノも良い。モブレーの哀愁あるサックスや、ショウの鋭いトランペットの背後で、一切の無駄がない完璧なバッキングを聴かせる。知的なソロも素晴らしく、全体の音楽的な気品と統一感は、彼のピアノがコントロールしていると言っても過言ではない。

モブレーは15年間にわたりブルーノートの看板テナー・サックス奏者として活躍。本作はその最後を飾る隠れた名盤。録音後すぐに発売されず、1980年まで未発表だった為、当時のリアルタイムな評価こそ逃したものの、後年その完成度の高さから再評価が進んでいる逸品。とにかく、モブレーのテナーが好調で元気なのが良い。好盤である。
 
 

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2026年6月 5日 (金曜日)

ECMレーベルのエンリコ・ラヴァ

総帥プロデューサー、マンフレート・アイヒャーが率いるECMレーベル。ドイツのミュンヘンの本社を構え、欧州ジャズの老舗レーベルとはいえ、どちらかといえば、北欧ジャズ中心の耽美的でリリカルな即興演奏を主体としたコンテンポラリー・ジャズがメインと誤解されることがしばしば。

しかしながら、欧州各国の純ジャズもしっかり網羅していて、時に米国ジャズマンも招聘して、多国籍な編成でのECMジャズも制作しているから、目が離せない。欧州ジャズの現在位置を確認するには、ECMレーベルのその時その時のアルバムを聴くのが、一番、手っ取り早い。

『Enrico Rava Quartet』(写真左)。1978年3月、西ドイツの「Tonstudio」での録音。ECMの1122番。ちなみにパーソネルは、Enrico Rava (tp), Roswell Rudd (tb), Jean-François Jenny-Clark (b), Aldo Romano (ds)。イタリアン・ジャズの至宝トランペッター、エンリコ・ラヴァのECMレーベルでのリーダー作である。

リーダーのエンリコ・ラヴァは伊出身のトランペッター。ロズウェル・ラッドロズウェル・ラッドは米国出身のフリー・ジャズ界の重鎮ロンボニスト。ジャン=フランソワ・ジェニー=クラークは仏出身のベーシスト。アルド・ロマーノは伊出身のドラマー。伊米仏の大陸を跨いだ多国籍なピアノレスの変則カルテット。
 

Enrico-rava-quartet  

 
いかにもECMらしい取り合わせなんだが、総帥プロデューサーのアイヒャーの発想は理解し難い。しかし、出てくる音は、しっかりECMの響きを宿しているのだから感心する。出てくる音は、イタリアン・ジャズの哀愁と叙情的なメロディ、そしてフリー・ジャズの先鋭的なアプローチが絶妙に融合した音世界である。

ピアノレスのフロント2管(トランペット+トロンボーン)のカルテット演奏で、伝統的な純ジャズの硬派な雰囲気に、イタリアン・ジャズ独特の哀愁感漂う叙情的でリリカルなフレーズの展開、時々、アヴァンギャルドでスピリチュアルなフリー・ジャズへとブレイクダウンするスリリングな演奏が素晴らしい。

エンリコ・ラヴァの哀愁を帯びた抒情的なトランペットと、ロズウェル・ラッドの豪快でアーシー(泥臭い)なトロンボーンのフレーズが、互いに絡み合いながら見事なコントラストを描いていて、自由度の高いアンサンブルが繰り広げられている。これが、とても「欧州ジャズ」らしい響きと展開。イタリア・ジャズと米国ジャズの邂逅なんだが、しっかりと、欧州ジャズしていて、しっかりと、ECMジャズしている。

これぞ、アイヒャー・マジックなんだろう。このアルバムには、ECMレーベルの音と響きをしっかり反映した、1970年代後半のイタリアン・ジャズの最先端の音が展開されている。根底にはニューオーリンズ・ジャズのような伝統的なお祭り騒ぎ(祝祭感)や、イタリア独特の美しいメロディが漂っていて、実に興味深い内容に仕上がっている。意外とこの盤、イタリアン・ジャズの「隠れ名盤」である。
 
 

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2026年6月 4日 (木曜日)

インプロバイザーなタウナーです

1977年から1981年にかけてのリリース。キース・ジャレット、パット・メセニー、チック・コリアといったスターたちの歴史的名盤を生み出し、レーベルの代名詞である「静寂の次に美しい音楽」という世界観を完璧に決定づけた、ECM Recordsのカタログ番号1101〜1199(1100番台)。今日はそのECM1121番。

Ralph Towner『Batik』(写真左)。1978年1月、オスロの「Talent Studios」での録音。ちなみにパーソネルは、Ralph Towner (12-string guitar, classical-g, p), Eddie Gómez (b), Jack DeJohnette (ds)。アコースティック・ギターの透明感あふれる響きとパフォーマンス、卓越したリズム隊による即興演奏とが融合した、「ECMのサウンド」を代表する好盤の一枚。

ECM御用達、ECMのハウスギタリストの一人、ラルフ・タウナーの繊細かつ耽美的なアコギとピアノに対し、ジャズ界屈指の実力派リズム・セクションの担い手、ベースのエディ・ゴメスと、ドラムのジャック・デジョネットを迎えた、変則的なピアノレス・トリオ(一部の曲でタウナーがピアノを演奏)で録音されている。特に、米国東海岸ジャズがメインのエディ・ゴメスの参加が目を引く。
 

Ralph-townerbatik

 
このアルバムの「静謐感とダイナミズム」は半端ない。ECM特有の「透明感のある美しい響き」をベースにしつつも、ディジョネットの躍動的でポリリズミックなドラミングと、ゴメスのゴリッとした強靭な骨太ベースが絡み合うことで、単なるヒーリング・ミュージック志向なニュー・ジャズに留まらない、欧州的で正統派硬派で、スリリングなジャズの即興性を生み出している。

タウナーの唯一無二の「12弦ギター」によるパーカッシブなアプローチが見事。ギター自体を打楽器のように激しく鳴らすことで、強靱なリズム隊と呼応して、トリオのグルーヴを先導している。そして、タウナーな優秀なピアニストでもある。この盤では、「ピアニスト」としてのタウナーの深化を感じることができる。タウナーの弾く叙情的なピアノと伝説的ベーシストのゴメスとが対話する瞬間は、贅沢な聴きどころである。

「Batik(バティック)」とはインドネシアなどの伝統的な「ろうけつ染め(更紗)」の意。その名の通り、音が幾重にも織り重なり、美しい模様を描き出すような芸術的な世界観が表現されている。そして、この盤には「ECM的アグレッシブさ」=ストレートなジャズの即興のスリルに溢れている。インプロバイザーとしてのタウナーをとことん楽しめる。
 
 

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2026年6月 3日 (水曜日)

尖ったジャズ・ファンクの萌芽

ジャズ・オルガン奏者ジョン・パットンが録音したソウル・ジャズ志向のオルガン・ジャズである。1970年に録音されながら、録音当時は「お蔵入り」。26年後の1996年に、初めて陽の目を見た「幻のセッション」である。伝統的なこってこてのソウル・ジャズやファンク、ブルースのグルーヴをベースにしつつ、当時の流行でもあった、実験的でアヴァンギャルドな要素(やや尖った「アウト」な演奏)を取り入れているのが特徴。

John Patton『Memphis To New York Spirit』(写真左)。1970年6月9日(tracks 6~8), 10月2日(tracks1~5), Van Gelder Studioでの録音。リリースは1996年。ブルーノートの2366番。ちなみにパーソネルは、Big John Patton (org), Marvin Cabell (ts, ss, fl), George Coleman (ts :tracks 6–8), James Blood Ulmer (g :tracks 1–5), Leroy Williams (ds)。

1970年10月2日のセッション(tracks1~5)については、マーヴィン・キャベルのサックスと、ジェームズ・ブラッド・ウルマーが、ところどころで、やや尖った「アウト」な演奏をしていて、ソウル・ジャズというよりは、ソウル・ジャズな雰囲気を借りた、温和なアヴァンギャルド志向のコンテンポラリー・ジャズといった雰囲気。ただ、その突っ込みと徹底が曖昧で、悪くは無い、水準以上の演奏なのだが、中途半端感が漂うのが残念。
 

John-pattonmemphis-to-new-york-spirit

 
中途半端感が漂うが、内容的には、アヴァンギャアルドなジャズ・ファンクという新しい演奏トレンドが芽生えているのが判る。アヴァンギャルドといえば「フリー・ジャズ」だったところに、ソウル・ジャズのファンクネスを強めて、アヴァンギャルドな演奏要素を取り入れるという大胆な演奏方針の変更をしているところが興味深い。ソウル・ジャズが最後に陥った「商業主義的なアプローチ」を全面的に払拭している。

1969年6月9日のセッション(tracks 6~8)では、テナーにジョージ・コールマンが入っていて、このセッションの3曲は、コールマンの十八番である「モーダルな」演奏がセッション全体に影響して、ソウル・ジャズに、当時の「新主流派」のモーダルなパフォーマンスを持ち込んだ、オルガンがメインのポスト・バップな、個性的な演奏が展開されている。モーダルに展開するジョン・パットンのオルガンは興味深い。

本作は当初、ブルーノートの「BLP 4364」というカタログ番号が与えられ、発売が2度も計画されながらも見送られた、ブルーノートお得意の「何故だか判らないお蔵入り盤」。時代の変化やレーベルの体制変更によりマスターテープ倉庫に眠り続け、録音の26年後、1996年にマイケル・カスクーナらの監修による『Blue Note Groove Series』の一環として世界で初めてCD化。「尖ったファンクグルーヴ」漂うユニークな内容は発掘されて良かったと思う。好盤である。
 
 

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2026年6月 2日 (火曜日)

極上ソウル・ジャズ・パーティー

米国のジャズ・オルガン奏者ルーベン・ウィルソン(Reuben Wilson)の、ソウルフルでファンキーなジャズ・ファンク盤である。全体の音的には、ソウル・ジャズというよりも、軽くアーシーなリズム&ビートをメインにしたジャズ・ロック&ジャス・ファンクという雰囲気で、1960年代のソウル・ジャズとは、グルーヴが縦ノリなのが特徴。

Reuben Wilson『A Groovy Situation』(写真左)。1970年9月18 & 25日、Van Gelder Studioでの録音。ブルーノートの4365番。ちなみにパーソネルは、Reuben Wilson (org), Earl Turbinton (as), Eddie Diehl (g), Harold White (ds)。滑らかでファンキーなグルーヴを湛えた、楽しいクロスオーバー・ファンキーなアルバムである。

ルーベン・ウィルソン自身、前作『Blue Mode』(1969年)の硬派な路線から、本作では意図的にポップで親しみやすい「コマーシャル・ルート」へと舵を切った、ということだろう。ジャズ者(ジャズ・マニア)に対してだけでは無く、幅広いリスナー層にアプローチを試みた、キャッチーな作品として評価できる。
 

Reuben-wilsona-groovy-situation  

 
ポップス&ソウルのカバーが中心で、当時のヒット曲に対して、大胆にジャズ・ファンクなアレンジを充てている。乾いた明るい粘り気のあるソウルフルな、そしてR&Bな音色と、タイトなリズム・セクションが融合して、このアレンジに乗って、滑らかでファンキーなグルーヴを醸し出している。ジャズ者御用達の濃厚なグルーヴではない、軽快で明るい傾向のグルーヴである。

4曲目「A Groovy Situation」は、メル&ティムの有名なシカゴ・ソウル名曲をカバーしたタイトル曲。5曲目「Happy Together」は、ポップロックなバンド、ザ・タートルズの代表曲をソウルフルなジャズ・ファンクへ大胆カバー。6曲目「Signed, Sealed, Delivered I'm Yours」は、スティーヴィー・ワンダーの大ヒット曲をジャズ・ファンクにアレンジ。

レーベル全体がジャズ・ファンクやソウル・ジャズ、そして商業的でキャッチーな路線へシフトしていく過渡期を象徴する、ファンクやR&B、ロックの要素を取り入れたサウンドが全盛の中での、ブルーノートの「コマーシャル路線」への挑戦の音である。難しいことを考えずに、純粋に、滑らかでファンキーなグルーヴを楽しむ盤だろう。ながら聴きに最適な好盤である。
 
 

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2026年6月 1日 (月曜日)

ジャズ喫茶で流したい・324

1960年代終盤、大手レコード会社の傘下に入ったブルーノートは、いわゆる、売らんが為の「明らかに聴き手に迎合した、売れ筋を意識した、ライトで聴き易いジャズ」の制作に舵を切る。イージーリスニング志向の「ファンキー&ソウル・ジャズ」、そして「軽快で優しいジャズ・ファンク」なアルバムを制作する。そんな中で、時折、メインストリーム志向のポスト・バップなアルバムも作ったりしていたけど。

Bobby Hutcherson Featuring Harold Land『San Francisco』(写真左)。1970年7月15日、ロサンゼルスの「United Artists Studios」での録音。ブルーノートの4362番。ちなみにパーソネルは、Bobby Hutcherson (vib, marimba, perc), Harold Land (ts fl, oboe), Joe Sample (p, el-p), John Williams (b, el-b), Mickey Roker (ds)。

1970年代に入って、ブルーノートのアルバム制作の方向性が変わっていく。大衆向けの「売れ筋を意識したライトで聴き易いジャズ」は控えめに、当時の音楽のトレンドであった、サイケデリック、スペーシー、アーシーな、ジャズ・ロック&ジャズ・ファンクなアルバムの制作に方向転換する。このアルバムはその最初の一枚といっていいかもしれない。

サイケデリック、スペーシー、アーシーな音要素を取り入れたことにより、単なるジャズ・ファンクに留まらない、スピリチュアルな深みを獲得している。その深みの中で展開される、限りなく自由度の高いモーダルなインプロビゼーションが、純ジャズっぽく、メインストリーム志向に映えに映える。
 

Bobby-hutcherson-featuring-harold-landsa

 
冒頭「Goin' Down South」では、アーシーでファンキーな演奏が展開される。まるで、1970年代前半のキース・ジャレットの様な、ゲイリー・バートンの様な、アーシーでファンキーな音世界。この演奏に「売らんが為」のバイアスは感じ無い。ハッチャーソンのヴァイブ、ハロルド・ランドのテナーのアドリブ展開はモードそのもの。アーシーなリズム&ビートを敬遠してはならない。1970年代を台憑依する、純ジャズの音世界の一つである。

2曲目の「Prints Tie」では、がらっと変わって、サイケデリックで、妖艶で耽美的、そして、スペーシーな「ニュー・ジャズ」な演奏が展開される。まるで、1970年代のECMレーベルの様な音世界。現代音楽的要素も見え隠れし、リズム&ビートの取り方は、あきらかにニュー・ジャズ志向。とても米国ジャズの音世界とは思えない、絶妙な名演である。

この冒頭からの2曲が、このアルバムの全体の雰囲気を決定付けている。1970年代の新しいジャズの音世界がこの盤に展開されている。ジャズ・レーベルの老舗、ブルーノート・レーベルの面目躍如。クルセイダーズ(当時はジャズ・クルセイダーズ)のメンバーとして知られるジョー・サンプルのエレピと、フェンダー・エレベースの使い手、ジョン・ウィリアムスのエレベのグルーヴが明らかに「新しい」。

この「新しい」リズム&ビートのグルーヴに乗って、ハッチャーソンのヴァイブと、ランドのサックスが飛翔し疾走する。モーダルに、限りなく自由に、時にフリーに展開するインタープレイは見事という他は無い。1970年代ジャズの「隠れ名盤」である。
 
 

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