ソウルフルなアンドリュー・ヒル
メロディーの断片、落ち着きなく変化する音階、濃密な多色和音、予測不能なリズム。自由度の限りなく高いモードからややフリー。突出した個性で、1960年代前半、遅れてきた鬼才ピアニストとして、記憶に残るピアニスト、アンドリュー・ヒル。そんな鬼才ピアニストが、1960年代終盤、ブルーノートの4300番台では、大変貌を遂げていく。
Andrew Hill『Lift Every Voice』(写真左)。1969年5月16日、Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ,での録音。ブルーノートの4330番。ちなみにパーソネルは、Andrew Hill (p), Woody Shaw (tp), Carlos Garnett (ts), Richard Davis (b), Freddie Waits (ds)。ここに、7人のボーカル&コーラスが入る。
ゴスペル風混声コーラスを導入した鬼才ピアニストのソウル・ジャズ&ジャズ・ファンク。それも、完璧に筋が通ったソウル・ジャズ&ジャズ・ファンクでは無い。ところどころ、我慢が出来なくなったのだろうか、ヒルのもともとのピアノの個性である、メロディーの断片、落ち着きなく変化する音階、濃密な多色和音、予測不能なリズム。自由度の限りなく高いモードからややフリーなピアノ、テナー、トランペットが出ては引っ込み、出ては引っ込む。
冒頭の「Hey Hey」で、ひっくり返る。アウト気味のテナーが出てきて、これは限りなくフリーなモーダルな展開かと思ったら、いきなり、ライトでゴスペルチックな混声コーラスが出てきてビックリ。これは、当時流行っていた「ライトなジャズ・ファンク」かと思ったら、またまたアウト気味のフリーキーなテナーが出てきて、モーダル&フリーなテナーを吹きまくり、そのうち、トランペットまで、同調したフレーズを吹きまくる。
そして、ライトでゴスペルチックな混声コーラスがこれに絡む。バックで我関せずと、ヒルが、メロディーの断片、落ち着きなく変化する音階、濃密な多色和音、予測不能なリズム。自由度の限りなく高いモードからややフリーなピアノを悠然と弾きまくっていく。なんなんだ、この演奏は。
2曲目の「Lift Every Voice」に至って、これは従来のヒル・サウンドを踏襲したカルテット演奏、これは以前と変わらない、ヒル独特の「フリー、スピリチュアル、アバンギャルドなジャズ」を展開している。そこに、ライトでゴスペルチックな混声コーラスが絡んで、ソウル・ジャズ&ジャズ・ファンクな雰囲気を醸し出す、そんなアレンジの仕掛けになっているのが判る。
しかし、これなら、ライトでゴスペルチックな混声コーラスは要らないんじゃ無いか、とも思うんだが、録音年は1969年。ソウルフルな要素、ジャズ・ファンクな要素は、当時の大手ジャズ・レーベルからすると、必須の「サウンド要素」だっただろう。そうじゃないとアルバムが売れないと思い込んでいたフシがある。この盤だって、ライトでゴスペルチックな混声コーラスを当てることで、ソウル・ジャズ&ジャズ・ファンクな雰囲気を醸し出そうとしている。
しかし、メインストリームなジャズ、純ジャズ路線は不滅なんだから、ヒルのアルバムは、ヒルの個性のままで、制作〜リリースし続けても良かったのではないか。このライトでゴスペルチックな混声コーラスのお陰で、カルロス・ガーネットとテナー、ウッディ・ショウのトランペットの、アウト気味で限りなくフリーでモーダルな展開が心ゆくまで堪能出来ない。
このアルバム、しっかり聴くと、ヒルのカルテット演奏、ヒル独特の「フリー、スピリチュアル、アバンギャルドなジャズ」が素晴らしいだけに、このソウル・ジャズ&ジャズ・ファンクな雰囲気を醸し出そうとするアレンジが残念である。
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