『Electro Keyboard Orchestra』
日本のクロスオーバー&フュージョンの好盤を漁っていると、これはいったいなんなんだ、と叫んでしまいそうな、ユニークだが内容の濃い実験的なセッションの成果に出くわすことがある。これは、8人のキーボード奏者が繰り広げる、エレなシンフォニー・ミュージック。集団名「エレクトロ・キーボード・オーケストラ」の唯一作である。シンセ20台を駆使した、一期一会の壮大な実験作品である。
『Electro Keyboard Orchestra』(写真左)。1975年4-5月の録音。ちなみにパーソネルは、佐藤允彦、八木正生、鈴木宏昌、大野雄二、羽田健太郎、市川秀男、大原繁仁、藤井貞泰 (syn), 矢島賢 (g), 岡沢章 (b), 村上秀一 (ds)。
ジャズ系ピアニスト8人がシンセサイザーを担当、バックに、ギター+ベース+ドラムのリズム隊が付く、という布陣。ちなみに不確かではあるが、使用機材は以下の通りと思われる。「コルグ700S :10台, コルグ800DV :10台, フェンダー・スーパー・シックス :10台, エレキ・ピアノ :1台, コルグ・オルガン :1台」。
これを初めて知った時は度肝を抜かれた。時は1975年、シンセサイザーが音楽の世界で、普通に採用され始めた頃。そんなにシンセのノウハウと実績が積み上がっていなかった時代の成果であるが、これが、ハイレベルな内容に仕上がっているから驚きである。曲の完成度やアレンジは良好、シンセを活用した実験作品でありながら、実験臭は全く感じ無い。
8人のキーボード奏者は、当時のシンセサイザーを熟知している。結構速いテンポのフレーズも難なくこなす。複数台のシンセサイザーのユニゾン&ハーモニーもタイミングはバッチリ。上質のクロスオーバー・インストとして鑑賞することが可能。
シンセ・ミュージックで不得手な、リズム&ビートは、シンセのフレーズの癖を心得た、純国産の職人的リズム隊がガッチリとサポートしているので、全く問題が無い。特に、村上 "ポンタ" 秀一のドラミングが、全曲に渡って「効いている」。
選曲された曲自体も良い曲ばかりで、2曲目のカルロス・ガーネット作「Mother Of The Future」は、アナログ・シンセサイザーが紡ぎ出す、太くて重厚な、シンセ独特のグルーヴが魅力。3曲目の大野雄二作「Mayflower」は、ソフト&メロウなフュージョン志向のバラード曲で、安らぎ&癒やしを感じさせてくれる秀曲。続く「The Iron Side」は、米刑事ドラマ『鬼警部アイアンサイド』のテーマ曲のカヴァー。他の曲の演奏も上々で捨て曲が一曲も無い。
シンセを大々的に活用しているからといって、プログレッシヴ・ロック臭は希薄。どちらかといえば、クロスオーバー・ジャズのインストとして聴くと座りが良い。アナログ・シンセサイザー独特の太くて重厚でダイナミックな音色を最大限に活かした、めくるめく「エレクトロ・キーボード・オーケストラ」のパフォーマンス。シンセ・ミュージックの名盤の1枚です。
《ヴァーチャル音楽喫茶『松和』別館 の更新状況》 更新しました!
★ AORの風に吹かれて
★ まだまだロックキッズ 【New】 2024.01.07 更新
・西海岸ロックの雄、イーグルス・メンバーのソロ盤の
記事をアップ。
★ 松和の「青春のかけら達」 【New】 2024.01.08 更新
・チューリップ『ぼくが作った愛のうた』『無限軌道』
の記事をアップ。
★ コメント&TBは、全て「松和のマスター」が読んでから公開される仕組みです。表示されるまで少し時間がかかります(本業との兼ね合いで半日〜1日かかる時もあります・・・ごめんなさい)。公開されたくないご意見、ご感想はその旨を添えて送信してください。
★Twitterで、松和のマスターが呟く。名称「松和のマスター」でつぶやいております。ユーザー名は「v_matsuwa」。「@v_matsuwa」で検索して下さい。
東日本大震災から13年6ヶ月。忘れてはならない。常に関与し続ける。がんばろう東北。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。
« Pat Metheny『MoonDial』です | トップページ | クロスオーバーなビッグバンド »




コメント